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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)47号 判決 1990年5月30日

控訴人 富田林税務署長

代理人 二名

被控訴人 溝田義則

主文

原判決中、控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり訂正・付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

(一)  原判決一一枚目裏三行目の「原告は、」から同四行目の「悪化して、」までを「昭和五四年分については、被控訴人が持病の胃潰瘍の悪化により」と、同一五枚目裏二行目から三行目にかけての「のちニッコー販売」を「後にニッコー販売株式会社」と、同一六枚目表末行から同裏初行にかけての「ガソリン代」から同初行から二行目にかけての「三万二〇〇〇円」までを「ガソリン代三万二〇〇〇円(一回八〇〇〇円で年四回分)」と、それぞれ改める。

(二)  同二二枚目表一〇行目の「、なお、」を「及び」と改める。

(三)  同二五枚目表三行目の「家を買うときに」を「家を増改築するときに」と、同裏一二行目の「なにかの自動振替払」を「自動振替払(具体的な振替種目は不明。)」と、それぞれ改める。

2  当審における控訴人の主張

(一)  推計課税と実額反証について

推計課税は、納税者が実額を算定するに足りる帳簿書類などの直接資料を提出せず税務調査に協力しない場合に、課税庁においてやむを得ず真実の所得額に近似した額を間接資料により推計し、これをもつて真実の所得額と認定する方法であり、実額課税と同様に真実の所得額を認定するための一つの方法であつて、課税庁において右推計課税の合理性につき立証した場合には、特段の反証のない限り、右推計課税の方法により算定された額をもつて真実の所得額であると認定するものである。そこで、納税者が推計課税取消訴訟において所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された額が右実額と異なるとして推計課税の違法性を立証するためには、その主張する実額が真実の所得額に合致することを合理的疑いを容れない程度に立証する必要があると解すべきである。

したがって、所得の実額を主張する納税者は、単にその主張する収入及び経費の各金額を証明するだけでは足りず、その主張する収入金額が全ての取引先からの全ての収入金額(総収入金額)であること及びその主張する経費の金額がその収入と対応する(必要経費である)ことまでを証明しなければならないのである。

なお、被控訴人は、その主張する収入金額が全ての取引先からの全ての収入金額であること、すなわち、主張する外に収入金額がないことの証明責任を被控訴人に負わせることは、いわゆる悪魔の証明を課することになり、不当であるというけれども、要は証拠価値の評価の問題に帰着するものであり、実際の訴訟上、事実の不存在を合理的疑いを容れない程度に証明することは必ずしも不可能ではないから、被控訴人が主張する外に収入金額がないことの証明責任を被控訴人に負わせても、なんら不都合はない。

(二)  被控訴人の売上金額に関する実額反証について

被控訴人の売上金額についての実額反証は、次のとおりその主張する収入金額が全ての取引先からの全ての収入金額(総収入金額)であることについて、全く証明されておらず、被控訴人の本件各係争各年分の事業所得は実額によつて把握することができない。

(1) 一般に事業所得の金額を実額によつて把握するためには、納税者が収入及び支出を明確に記載し、もつて取引の実態を正確に記帳した諸帳簿の整理保存を要するものであり、全ての取引先からの全ての収入金額(総収入金額)及びその総収入に対応した費用の金額(必要経費)のいずれもが右諸帳簿等の直接資料によつて明らかにされ、かつ、その帳簿の真実性、正確性が原始記録(売上に係る見積書控、請求書控、領収書控等、仕入経費に係る請求書、領収書等)によつて確認されることが必要である。

そこで、推計課税取消訴訟において所得の実額反証をする納税者は、右諸帳簿及び原始記録の両方を提出し、かつ、それらの真実性、正確性を証明しなければ、到底実額についての立証を尽くしたということはできない。

しかるに、被控訴人は、原処分前からこれまで自己の保管する帳簿等の資料を控訴人(原処分庁、異議審査庁)及び国税不服審判所(以下「控訴人側」という。)に開示、提出したことは全くなく、本件訴訟においても右のような証拠の提出及び立証活動を一切していないのであるから、本件において売上金額を実額で認定するのは不可能である。

(2) 被控訴人は、本件において、控訴人側の主張する売上先及び売上金額を認めた上でこれが被控訴人の売上の全てであると主張するが、前記のとおり被控訴人から会計諸帳簿及び原始記録等の資料の提出を受けていないから、控訴人側の把握できた売上金額は、右資料によつて総売上金額であることが検証されていない上、控訴人側の反面調査、証拠の収集には、取引先の協力の有無、証拠となるべき帳簿、記録等の散逸、課税庁職員の調査能力の限界等、種々の制約があるため、売上等の全部を把握することはほとんど不可能であるから、控訴人側の把握できた売上先及び売上金額には特段の事情のない限り把握洩れがあるのが通常である。したがつて、控訴人側が把握できた売上先及び売上金額をもつて全ての売上先及び売上金額であると主張する被控訴人は、控訴人側が全ての売上先及び売上金額を把握しえたという特段の事情、換言すれば、「外に把握洩れが存しないこと」を立証する必要があり、右立証をしない限り、実額反証をしたことにはならない。

(3) ところが、被控訴人は右特段の事情を立証していないのみならず、被控訴人がこれまで一度も自ら売上先や売上金額を主張、立証することなく、控訴人側が新たな売上先及び売上金額を把握してこれを指摘するたびにその主張を転々と変えていることに照らせば、外に売上先及び売上金額が存在することが強く推認されるのである。

また、被控訴人は、控訴人が売上除外分と指摘する岡田口座、原告口座及び原告当座に現金で入金されている金員について、売上ではないと主張するが、被控訴人の右主張は次のとおり極めて不自然であり、右各口座に現金で入金された金員は、被控訴人の売上を除外したものと考えられる。

すなわち、被控訴人は岡田口座を事業用と区別して借金返済用に設けたと主張するが、借金の相手方ではない「岡田和子」名義の借名口座を開設した理由が不明であること、入出金状況からも事業用に使用され、借金返済の目的だけに使用されていたのでないことは明白であること、及び被控訴人も控訴人の指摘する入金の内の一部が被控訴人の主張する売上金額に含まれない売上金であることを事実上認めていることなどに照らせば、右借名口座は意図的な売上除外のためにも利用されていた疑いが濃厚である。

また、被控訴人は、岡田口座と被控訴人口座の入出金は、融通手形の決済資金や妻の母岡田サク(以下「サク」という。)等への借金返済のための右両口座間の金員の移動であると主張するが、融通手形の決済資金であれば、資金の移動をするだけで融通手形の決済に使用されていないのは不自然であること、借入金の返済であれば右のような複雑な資金移動をする必要はないこと、同一店舗の口座間の資金移動は通常口座振替によるはずであり、一旦現金で出金し手元に現金で保管するとは考えられないことなどに照らせば、たまたま近接する時期に被控訴人口座と岡田口座に同額ないし近似の金額の入出金があることを捉えて、これを強引に右両口座間の金員の移動であると主張しているにすぎないと考えられる。さらに、被控訴人は岡田口座の入金の中には弟からの貸付金の返済分が含まれていると主張するが、弟に対する貸付金の存在自体が疑問である。

したがって、被控訴人の主張する売上先及び売上金額が被控訴人の全ての売上先及び売上金額であつて、外に把握洩れが存しないとは到底認められないのである。

(三)  経費の推計方法について

被控訴人のような業種、業態の事業者の事業所得を算出する場合に経費を推計するに当たつては、売上原価については実額で算出し、売上原価以外の経費(以下「その他経費」という。)についてはその売上金額に対する割合(以下「その他経費率」という。)の同業者の平均値(平均その他経費率)から推計するという被控訴人主張のB方式は、次のとおり論理上根本的な欠陥を有しており、本訴推計が合理的である。

(1) すなわち、本件の同業者七件について係争各年分ごとに原価率の高い同業者から並べると別表一の1ないし3のとおりである。

右表によれば原価率の高い者ほどその他経費率が低く、反対に原価率が低い者ほどその他経費率が高くなつているのであつて、これは、被控訴人のような製造業があつては売上原価とその他経費との間には、一方が増加すれば他方が減少するという逆相関的な関係が存することから必然的に右のような結果を招来するのである。

原価率とその他経費率の関係について、同業者ごとに経年的に検討しても、例えばEの経費の内訳は別表二記載のとおりであつて、原価率が低下するに伴つてその他経費率が上昇しており、原価率とその他経費率との間に逆相関的な関係があることは明らかである。

(2) 次に、売上原価とその他経費の合計額の売上金額に対する割合(以下「必要経費率」という。)について、B方式によつて推計した場合と実際とで比較してみるに、同業者のうち原価率が同業者の平均より高いF・Gと原価率が同業者の平均より低いB・EについてB方式で必要経費率を算出すれば、別表三の1ないし3のとおりとなる。

右表によれば、原価率が同業者の平均より高い者については、実際の必要経費率より高くなり、原価率が同業者の平均値より低い者については、実際の必要経費率より低くなることが明らかである。

(3) そこで、被控訴人の経費につきB方式による推計をした場合について検討するに、仮に被控訴人の売上金額(実額)が被控訴人の主張のとおりであるとすれば、被控訴人の売上原価率は昭和五六年分が五三・九四パーセント、昭和五五年分が五一・八七パーセント、昭和五四年分が四六・四三パーセントとなり、平均原価率を昭和五六年分で一三・四二ポイント、昭和五五年分で七・四六ポイント、昭和五四年分で二・六六ポイント上回つている。前記のとおり原価率とその他経費率には逆相関的な関係が存するから、被控訴人の真実のその他経費率は平均その他経費率を下回つていると推認される。

ところが、B方式で算出された被控訴人の必要経費率は、昭和五六年分が九三・五〇パーセント、昭和五五年分が八九・六六パーセント、昭和五四年分が八三・三三パーセントとなるが、これは別表四記載のとおり、係争各年分とも平均必要経費率を上回るのはもとより、昭和五六年分及び昭和五五年分については同業者の最高の必要経費率より更に高い必要経費率が算出される結果となる。右結果に照らせば、B方式によつて推計したその他経費の額が実際より過大であることが強く推認される。

したがつて、原価率が同業者の平均より高い被控訴人の事業所得を算出するに当たつて、B方式を採用することは、被控訴人の実際のその他経費率より高い率を用いてその他経費を算出し、もつて、被控訴人の事業所得金額を真実の金額より過少に推計するものといわねばならないから、本件において、B方式は被控訴人の事業所得金額を算出する方法として合理性を欠くものである。

(4) 以上によれば、仮に被控訴人の売上金額が被控訴人の主張の金額(実額)であるとしても、必要経費のすべてを実額で算定できない以上、売上原価とその他経費との間の逆相関的な関係を考慮して、その両者を合わせた同業者の平均経費率を適用した同業者所得率をもつて推計を行うのが最も合理的な推計方法である。

3  控訴人の当審における主張に対する被控訴人の反論

(一)  控訴人の当審における主張(一)は争う。被控訴人に対し被控訴人主張の売上の外に売上がないことの証明責任を負わせることは、いわゆる悪魔の証明を課することになるから、不当である。外に売上があるというのであれば、控訴人において主張・立証すべきである。

(二)  控訴人の当審における主張(二)は争う。売上額が実額で認定できるかどうかは、必ずしも売上帳簿、原資料が提出されなければできないというものではなく、課税庁及び納税者双方の主張、証拠等を評価して事実認定ができるかどうかによるのである。また、控訴人が売上除外が推認されると主張する岡田口座等への現金による入金については、全ての入金について書証等で完全に立証できたかどうかには一定の留保があり、被控訴人にも多少の記憶違いが存するかもしれないが、過去の金銭の細かな動きについて全て解明し尽くすのはもともと不可能であることを考慮すれば、被控訴人の反証によつてこれが売上でないことがほぼ完全に明らかとなつたというべきである。なお、借入金返済目的の口座を妻の母サク名義とせずに岡田和子名義としたのは、妻の母からの借金は妻の兄夫婦に内緒であつたことから、銀行からの通知等によつて兄夫婦に疑問を持たれるのを恐れたためであり、被控訴人口座から現金で引出して岡田口座に入金しているのは、サクへの返済のみならず買掛金の支払に充てるために現金で引出したが、買掛金の支払をしないまま岡田口座に入金したにすぎない。そして、被控訴人が控訴人主張のような巨額の売上を課税庁の執拗な調査にもかかわらず隠し通せるはずはないのであつて、被控訴人が主張する売上の外に売上は存在しない。

(三)  控訴人の当審における主張(三)は争う。控訴人の主張する売上原価とその他の経費との逆相関的関係なるものは、製造業において、業者が仕事を外注に出す場合で、かつ、材料費を外注先が負担する場合という条件の下で、外注に出す分が多ければ、自ら製造する場合よりも売上原価(材料費)が減るし、労務費、その他の製造経費も減るという極めて当然のことをいうのであれば、正当である。しかし、具体的には、当該業者が外注に出す割合及びその場合の材料費の負担の有無のみならず、外注先の労務費やその他の製造経費と注文主が自ら製造する場合の外注先の労務費やその他の製造経費との違い等種々の要因によつて変動するものであり、売上原価が増えれば同じ割合でその他経費が減るとか、その逆とかの単純な関係にはない。このことは、控訴人の主張する同業者においても、必ずしも売上原価が増えればその他経費が減るという関係にないことからも明らかである。

本件においては、売上金額と売上原価とが実額で把握できる以上、売上金額から売上原価を差し引いて売上差益金額を出し、そこから同業者の平均経費率に基づく推計による経費額を控除して事業所得を算出する方法が、売上金額に対しいきなり同業者の平均所得率を乗じて事業所得を算出する方法に較べて被控訴人の実態をより反映しており、合理的である。

三  証拠関係 <略>

理由

一  被控訴人の請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  当裁判所も、本件各処分には手続的違法はないと考えるが、その理由は、原判決理由二(原判決二八枚目表三行目から同三一枚目表一二行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決二九枚目裏四行目の「提示は」を「提示を」と、同一〇行目の「提出は」を「提出をし」と、それぞれ改める。)。

三  そこで、被控訴人の係争各年分の事業所得金額について検討する。

1  本訴推計の合理性について

当裁判所も、控訴人が採用した本訴推計は、被控訴人の事業形態等に照らすと、係争各年分の売上原価が実額で把握できるが売上金額と売上原価以外の必要経費が実額で把握できない場合の事業所得算出方法として、合理性を有すると考える。その理由は、原判決の説示する理由(同三一枚目裏三行目から同三八枚目裏九行目まで)と同一であるから、これを引用する(但し、同三一枚目裏一一行目の「として」の次に「判明しているもの」を、同三二枚目表六行目の「いずれも」の次に「主に」を、それぞれ加え、同三七枚目表九行目の「考えられるし、」を「考えられる。」と、同裏一〇行目の「沿う」を「副う」と、同一一行目の「証拠はないし、」を「証拠はない。」と、同三八枚目表一〇行目の「認めがたいこと」を「認めがたい。」と、それぞれ改める。)。

2  実額反証について

被控訴人は、本訴において、被控訴人の係争各年分の事業所得として、係争各年分の売上金額、売上原価及び昭和五六年分の経費が実額で把握できることを前提に、第一次的にはA方式で、第二次的にB方式で算出した金額を主張し、本訴推計による本件処分の事業所得金額は右各方法によつて得られた金額より過大であるから、本件推計課税は違法である旨主張する。

仮に、被控訴人の係争各年分の売上金額を実額で算出できるのであれば、そこから認定ないし推計にかかる経費を控除して所得金額を算出する方法をとるのが、本訴推計のように売上金額を推計し、そこから更に所得を推計するという二重の推計方法によるよりは、被控訴人の事業所得金額をより客観的数値に近い近似値として把握しうるものであり、一層合理性の高い方法であることは明らかである。そこで、被控訴人の係争各年分の売上金額が実額で算出できるかについて、検討する。

(一)  推計課税における実額反証の立証責任

ところで、推計課税は、実額課税と同様に真実の所得額を認定するために、納税者が実額を算定するに足りる帳簿書類などの直接資料を提出せず税務調査に協力しない場合に、やむを得ず真実の所得額に近似した額を間接資料により推計し、これをもつて真実の所得額と認定する方法であり、課税庁において右推計課税の合理性につき立証した場合には、特段の反証のない限り、右推計課税の方法により算定された額をもつて真実の所得額であると認定するものである。

そして、申告納税制度において自己の申告所得額が正しいことを説明すべき納税者が、税務調査に協力せずに課税庁に推計課税を余儀なくさせた上、実額反証において立証責任を負担しないとすれば、誠実な納税者よりも利益を得ることになつて不当であること及び納税者の経済行為については第三者たる課税庁よりも当事者たる納税者が自己に有利な証拠を提出することが容易であることに照らせば、納税者が推計課税取消訴訟において所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された額が右実額と異なるとして推計課税の違法性を立証するためには、納税者においてその主張する実額が真実の所得額に合致することを立証する必要があるというべきである。

なお、被控訴人は、右見解は、収入金額について実額反証をする場合に主張する収入金額が全ての取引先からの全ての収入金額であること、すなわち、主張する外に収入金額がないことの証明責任を納税者に負わせることになるが、これは、いわゆる悪魔の証明であつて、不当であるというけれども、もともと事業所得額の実額による把握は、全ての取引先からの全ての収入金額(総収入金額)及びその総収入に対応した費用の金額(必要経費)を正確に記帳した会計諸帳簿によつて算出し、かつ、その帳簿の真実性、正確性を売上や経費に係る請求書や領収書等の原始記録によつて確認することによつてなされるのであるから、推計課税取消訴訟において所得の実額反証をする納税者は、右諸帳簿及び原始記録を提出し、かつ、それらの真実性、正確性を証明することによつて、納税者が主張する外に収入金額がないことを証明することが可能である。また、仮に右方法によることができないとしても、実際の訴訟上、正規の帳簿書類でなくとも収支関係を証する適切な資料や原始資料等を提出し、その真実性、正確性を証明することによつて(右証明が可能か否かは証拠価値の評価の問題である。)、主張する外に収入金額がないことを立証することは不可能ではないから、外に収入金額がないことの証明責任を納税者に負わせても不都合とはいえず、被控訴人の右主張は採用できない。

(二)  本件における実額反証について

被控訴人は、係争各年分の売上金額は昭和五四年分が三四〇一万四三三〇円、昭和五五年分が三七七四万五六五〇円、昭和五六年分が三四五八万八〇〇〇円であつて、その詳細は原判決添付別表八記載のとおりであると主張するが、<証拠略>によれば、右売上先及び売上金額は、本件各処分に対する審査庁が審査段階で調査して把握した売上(日硬陶器、富士パツキング、高砂工芸社、かのぎやまんに対する売上)にその後控訴人が調査して本訴において主張した売上(見永商会、谷口木工所、水谷巌、大和硝子に対する売上)を加えたものであることが認められる(但し、被控訴人は、控訴人の主張のうち谷口木工所の昭和五六年分の売上二三万二二〇〇円について否定している。)。すなわち、被控訴人は控訴人側の右調査結果に大略依拠して、控訴人に判明している売上先及び売上金額が被控訴人の総売上であると主張をしているのである。

そこで、被控訴人の主張する売上先及び売上金額が被控訴人の総売上と認めることができるか否かについて検討する。

(三)  実額の立証について

前記(一)記載の事業所得金額の実額認定方法に照らせば、納税者が推計課税取消訴訟において所得の実額を立証する方法としては、前記会計諸帳簿及び原始記録を提出し、かつ、それらの真実性、正確性を証明することができるのであれば、これが最も端的な立証方法であるが、右方法が採れないとしても、収支関係を証する適切な資料や原始資料等を提出し、その真実性、正確性を証明することによつて立証することができるというべきである。

ところで、被控訴人は、被控訴人方では売上帳簿は作成していないが、被控訴人からの請求書類や売上先からの領収書類が大体残つており、これによつて控訴人側が把握した売上先及び売上金額が総売上であり、これ以外には収入がないことを確認した旨供述している(<証拠略>)のであるから、被控訴人主張に係る売上金額を認めるに足りる請求書類や領収書類等の原始資料を所持していることになる。

しかるに、被控訴人は、右請求書類や領収書類等の原始資料を全く提出せず、被控訴人主張の売上金額が総売上であること、すなわち、右売上以外には売上がないことについて、右資料に基づく立証を一切していないのである(なお、右資料を提出することに支障がある旨の主張・立証はない。)。

(四)  売上実額に関する主張の変遷について

次に、被控訴人の売上実額に関する主張について検討するに、<証拠略>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 被控訴人は、本件各処分前に控訴人の部下職員から売上先や売上金額について質問された際、当初は一切これを明かさず、控訴人が反面調査をした段階で若干質問に応じて売上先として日硬陶器等の名前を挙げたに過ぎなかつた。昭和五八年六月二二日付異議決定書において異議審査庁が把握できた売上先は、各係争年分について日硬陶器、富士パツキング、高砂工芸社及びかのぎやまんの四社であり、売上金額は、昭和五四年分が合計三〇五九万七一六〇円、昭和五五年分が合計三四九三万九六三〇円、昭和五六年分が合計三二八六万九一五〇円であつた。

(2) 被控訴人は審査請求において昭和五六年分の売上先及び売上金額について異議決定書と同じ売上先及び売上金額を主張し、昭和五五年分及び昭和五四年分については具体的に何ら主張しなかつたところ、昭和五九年七月九日付裁決書において、売上先は右四社であり、売上金額は昭和五四年分が合計三一二〇万七八一〇円、昭和五五年分が合計三五〇三万一二八〇円、昭和五六年分が合計三二八八万〇〇五〇円と認定された。

(3) 被控訴人は、本訴を提起し、原審における昭和六〇年四月九日付準備書面において、異議決定書と同一の売上先及び売上金額が被控訴人の売上であると主張した。ところが、控訴人が同月二二日付で谷口木工所に対し、同月二三日付で見永商会に対してそれぞれ売上の照会を行つたため、被控訴人は原審における同年五月二八日付準備書面において、谷口木工所については回答に記載のある昭和五五年分についてのみ、見永商会については係争各年分について、売上金額が計上洩れであることを認めるに至つた。

(4) 次に、被控訴人は、昭和六一年四月二日及び同年七月一六日に実施された原審における被控訴人本人尋問において日硬陶器外五社の外に売上先はない旨供述したが、控訴人が右口頭弁論期日(同年七月一六日)に日硬陶器からの売上金額についての回答書(<証拠略>)を証拠に提出したため、原審における同年一〇月二二日付準備書面において日硬陶器の売上金額が一部洩れていることを認めるとともに、改めて「売上先が日硬陶器外五社で、これ以外には全くない。」と主張した。しかし、控訴人が同日付準備書面において、水谷巌及び大和硝子の売上が洩れていることを主張すると、被控訴人は原審における昭和六三年一月一三日付準備書面において水谷巌及び大和硝子の売上が計上洩れであることを認めるに至つた。

以上認定の事実によれば、被控訴人は、これまで一度たりとも自ら売上金額を主張・立証したことはなく、控訴人側が把握した売上先及び売上金額を自己の総売上と主張しているに過ぎない上、その段階で主張している売上先及び売上金額以外に売上がないと主張・供述しながら、控訴人側が新たな売上先及び売上金額を把握して、そのことを主張すると、そのたびにこれを認めて(但し、谷口木工所に対する昭和五六年度分は除く。)売上先及び売上金額に関する主張を転々と変えているのであつて、これはかえつて他に売上先及び売上金額が存在することを推認させるものといわねばならない。

なお、被控訴人は、見永商会や谷口木工所に関する売上を異議申立以降原審における同年五月二八日付準備書面まで主張しなかつたことについて、見永商会はここ数年取引がなく、谷口木工所はそのとき一回だけで先念していた旨供述する(<証拠略>)。しかし、<証拠略>によれば、被控訴人は見永商会と係争各年分以降も継続的に取引を行い、本件訴訟提起時点においても取引を継続中であつたこと、見永商会の売上が被控訴人主張の売上金額に占める割合は、昭和五六年分及び昭和五五年分がそれぞれ約四・六パーセント、昭和五四年分が約七パーセントであつて必ずしも少ないとはいえない上、係争各年分を通じて間断なく取引が継続されていること及び被控訴人には比較的回数の少ない取引先として谷口木工所の外に水谷巌や大和硝子があつたが、水谷巌は谷口木工所よりも回数、金額ともに多かつたにもかかわらず、控訴人が水谷巌に関して売上計上洩れを主張していない時点では、これを売上と認めていなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被控訴人が現に取引を継続中で売上高も少なくない見永商会を失念するとは考えがたい上、被控訴人は当初控訴人側から照会があつた谷口木工所のみを主張し、ほぼ同様の取引形態であつたにもかかわらず水谷巌や大和硝子については主張しなかつたことは極めて不自然であつて、当初、意図的に被控訴人が見永商会等の売上先を売上の主張から除外していたものと推認する余地があるといわざるをえない。

(五)  売上の把握洩れについて

被控訴人は、前記のとおり控訴人側の把握した日硬陶器外七社に対する売上金額が総売上であると主張しているのであるが、控訴人側の反面調査、証拠の収集には、取引先の協力の有無、証拠となるべき帳簿・記録等の散逸、課税庁職員の調査能力の限界等、種々の制約があるため、売上等の全部を把握することは極めて困難といわざるをえない。とりわけ、本件においては、控訴人は岡田口座、被控訴人口座及び被控訴人当座に入金先が不明な現金による入金があることを指摘して、被控訴人の主張する右売上の外に係争各年分について相当額の現金売上(売上除外)が存する旨主張し、<証拠略>によれば、控訴人が主張するとおり岡田口座及び被控訴人口座に原判決添付別表一三記載のとおり、被控訴人当座に同別表一四記載のとおり、それぞれ現金による入金がなされていることが認められるのであるから、被控訴人の上記の如き対応の下においては、控訴人の指摘する右疑問点を解消させない限り、控訴人側の把握できた売上先及び売上金額には把握洩れがあると判断されてもやむを得ないというべきである。

そこで、右各口座への入金が前記被控訴人主張の売上以外の売上代金(把握洩れの売上代金)を入金したものでないと認められるか否かについて、検討する。

(1) まず、被控訴人は、控訴人の岡田口座等への入金に基づく売上の存在の主張は時機に遅れた攻撃防禦方法であるというけれども、当裁判所は右主張は理由がないと考える。その理由は原判決理由三、3、(二)、(1)(同四二枚目裏初行から同四四枚目表末行まで)の説示と同一であるから、これを引用する。

(2) 岡田口座開設の目的について

被控訴人は、岡田口座を開設した目的は、事業用の出・入金のための口座と区別して、サク又は岡田和子に対する返済に充てるためであると主張し、<証拠略>中には右主張に副う記載・供述部分がある。

そこで、右記載及び供述の信用性について検討する。

ア まず、被控訴人は、サクないし岡田和子からの借入の時期及び金額について、昭和五四年五月から八月まで被控訴人が胃潰瘍で入院した際、手形決済代金一二五万円を含め入院費用、生活費等として合計一五〇万円ないし一六〇万円をサクから初めて借入れ、その後、昭和五五年に約二〇ないし三〇万円を借入れ、昭和五六年九月に手形を落とすのに一〇〇万円を借りたほか、妻が所帯用に一〇万円ないし二〇万円借りたかもしれないと供述している(<証拠略>)。

しかし、被控訴人がサク又は岡田和子から借入れた際には借用書を作成しなかつたが、後に借用書を一括して作成したと供述し(<証拠略>)、右借用書を提出することが可能と思われるのに、右金銭貸借を裏付ける客観的書証たる右借用書が提出されていないことに照らせば、右金銭貸借の存在自体疑問があるといわざるをえない。

仮に被控訴人がサクから借金をしていたとしても、<証拠略>によれば、岡田口座は、昭和五三年二月二二日に三万五五〇〇円が繰越されて継続されており、同日より前に右口座が開設されたことが明らかである。そうすると、岡田口座はサクから金員を借入れた時点より少なくとも一年以上前に開設されているのであるから、右借入金の返済と関係があるとは到底認められない。

イ 次に、<証拠略>によれば、昭和五五年四月三〇日一〇一万〇二五〇円が河内信用組合富田林支店にサク名義の定期預金とされたことが認められるところ、被控訴人は、被控訴人がサクから事業用に借入れた分を返済するためにサク名義の右定期預金を開設し、妻が所帯の関係で借入れた借金を返済するために岡田口座を開設して管理していたと供述している(<証拠略>)。右供述によれば、被控訴人はサクに対する借金返済のうち、事業用の借金(<証拠略>によれば、借入金額は多くとも合計約二五五万円となる。)についてはサク名義の定期預金で、所帯用の借金(<証拠略>によれば、借入金額は多くとも合計約八五万円となる。)については岡田和子名義の普通預金口座(岡田口座)で返済していたことになる。

しかし、被控訴人は岡田口座から出金してサクに返済した金額や時期を特定することができず、被控訴人がサクに対し返済したことを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。

他方、<証拠略>によれば、岡田口座からは、昭和五三年三月に六三万円が引出されたのを始め、前記最初の借入とされる昭和五四年五月までの約一年一か月間に合計七九四万五〇〇〇円という多額の現金が引出されていることが認められる。そうすると、被控訴人の供述する所帯用の借金返済に使用されるより前に多額の現金による出金があるのであるから、右口座引出しは事業用に使われたものと認めるのが相当である。また、<証拠略>によれば、岡田口座からは、最初の借入とされる昭和五四年五月以降も昭和五四年が合計三一一万円、昭和五五年が合計五一四万六〇〇〇円という多額の現金が引出されていることが認められる。なるほど、被控訴人も岡田口座から出金して手形の決済等事業のために使用したと供述しているが、前記所帯用の借金の金額が多くとも合計約八五万円であることと対比すれば、昭和五四年五月以降の約一年半の間にその約一〇倍に相当する極めて多額の金員が引出されているのであつて、所帯用の借金の返済に充てられたものがあるとしても、大部分が事業用に使われたものと認めるのが相当である。

ウ さらに、被控訴人は、売上の一部が岡田口座に入金されていることについて「そのとき言われて、金出しにいくのないんであれば、小切手集金の場合あつたそれ渡しますから」と供述し、あたかも返済する必要がある場合に集金した手持ちの小切手を渡したかの如く供述している(<証拠略>)。

ところが、<証拠略>によれば、岡田口座の昭和五四年分の入金合計五三〇万〇三六六円のうち二一六万六七四〇円(四〇・八八パーセント。小数第三位以下四捨五入。以下同じ。)が見永商会と水谷巌からの入金であり、昭和五五年分の入金合計五一四万七五七〇円のうち、三〇七万七九七〇円(五九・七九パーセント)が見永商会、高砂工芸社、水谷巌及び大和硝子からの入金であり、昭和五六年分の入金合計一二六万八五四八円のうち一二二万五一二五円(九六・五八パーセント)が見永商会、高砂工芸社及び水谷巌からの入金であること、見永商会について見れば、昭和五四年分の小切手による入金合計二三三万四七四〇円のうち一七三万三四四〇円(七四・二五パーセント)が、昭和五五年分の小切手による入金合計一六五万七一七〇円のうち一四七万〇五七〇円(八八・七四パーセント)が、昭和五六年分の小切手による入金合計一四六万九〇〇〇円のうち八四万九三二五円(五七・八二パーセント)が、岡田口座に入金されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の売上の入金状況に照らせば、被控訴人がたまたま返済のために小切手を入金したというのではなく、見永商会等売上先からの小切手を継続的に岡田口座に振り込んでいたものと推認することができ、被控訴人の右供述は、たやすく信用できない。なお、<証拠略>には、被控訴人はサクに対する返済に充てるために岡田口座に売上の一部を入金した旨の記載があるが、<証拠略>と相違する上、前記サクからの借入金額に比べて極めて多額の金員を入金していることに照らせば、右記載部分はたやすく信用できない。

以上によれば、そもそも事業用の出・入金のための口座と区別して、サクに対する借金返済に充てるために岡田口座を開設したとの被控訴人の供述は、岡田口座の開設時期、出金状況、入金状況に照らして到底信用できないといわねばならない。

(3) 岡田口座中、融通手形関係の入金と主張する分について

被控訴人は、昭和五四年二月二一日の岡田口座への五〇万円の入金については、融通手形の見返りとして西浦から受取つた五〇万円の小切手を同月一四日被控訴人口座に入金したが、翌一五日に五〇万円を引出してこれを岡田口座に入金したものであり、同年三月五日の被控訴人口座への五〇万円の入金については、同年二月二八日に岡田口座から六〇万円を引出して、同年三月五日にそのうち五〇万円を被控訴人口座に入金したものであり、同月七日の岡田口座への四〇万円の入金については、同日被控訴人口座から五〇万円を引出して、そのうち四〇万円を入金したものであつて、いずれも西浦の関係で振出した融通手形の決済の関係で岡田口座と被控訴人口座との間で資金を移動させたにすぎない旨主張し、<証拠略>中には、判然としないものの、大略右主張に副うかのような供述部分がある。

そこで、被控訴人の右供述部分の信用性について検討する。

ア まず、被控訴人は、昭和五四年二月二一日岡田口座に五〇万円を入金した理由につき、一旦は「被控訴人振出の融通手形が期日に落ちない可能性があるので前もつて段取りしたもの」と供述しながら、後に「五〇万円を落とすとき妻に段取りしてもらつたので、その金を小切手が入つた時点で一旦返したもの」と供述して供述を変遷させている。

しかし、被控訴人の主張に副う後の供述について検討しても、仮に被控訴人が西浦振出の五〇万円の小切手を決済するために妻に段取りしてもらつた金を被控訴人口座に入金していたとすれば、被控訴人が主張する妻の段取り先(借入先)はサク又は岡田和子であるから現金で借入れたと考えられるところ、<証拠略>によれば、同月一四日に近接する時点における被控訴人口座への入金としては、同月六日の四七万七八五〇円、同月一三日の九〇万円があるものの、いずれも振替勘定又は他店券による入金である上、同月一三日には現金で四七万円が引出されていることが認められ、被控訴人口座に五〇万円の現金が入金された形跡は認められない。また、<証拠略>によれば、同月一五日に五〇万円が引出されても(すなわち、妻が五〇万円を決済するために段取りしなかつたとしても)、被控訴人の主張する西浦振出の小切手が決済される時点で被控訴人口座の残額は九二万二七一一円であり、右小切手は「不渡引替」として支障なく決済されていることが認められ、五〇万円を決済するために妻が金員を準備する必要性がなかつたことは明らかであつて、妻が五〇万円を段取りしたものとは到底認められない。

イ 次に、被控訴人は、同年三月五日被控訴人口座に五〇万円を入金した理由について、被控訴人振出の融通手形を決済する目的であつた旨供述している。

しかしながら、被控訴人は前記のとおり同年二月二八日岡田口座から六〇万円を引出し、同年三月五日被控訴人口座に五〇万円を入金したが、同月七日に被控訴人口座から五〇万円を引出して、うち四〇万円を同日岡田口座に入金したものであつて、岡田口座と被控訴人口座間で現金を移動したに過ぎない旨供述しているのであるから、右供述によれば、被控訴人振出の融通手形を決済する目的であつたにもかかわらず、現金が両口座間を移動したのみで右決済に右金員が使われなかつたことになるのであつて、不自然といわざるをえない。

そこで、被控訴人振出の融通手形の決済について被控訴人の供述するところを検討すると、被控訴人は、その後、一旦当座預金口座で決済したように供述したが、<証拠略>によれば、被控訴人当座にはこれに相当する口座からの出金の記載はないことが認められるから、右供述は信用できない。

次いで、被控訴人は、同年二月二八日岡田口座から出金した右六〇万円を被控訴人口座に入れたかどうか記憶にないが、銀行員に渡して融通手形を金融屋に迎えに行つてもらつたと供述を変遷させた。しかしながら、供述の変遷自体が不自然である上、融通手形の決済に使用するための金員を同年二月二八日に引出して同年三月五日まで五日間も現金で手元に置いていたり、被控訴人振出の融通手形が金融屋に回つたとしても、通常の手形交換によつて決済をすれば足りるのに、銀行員が金融屋まで融通手形を回収に行かねばならなかつたとは考えがたく、右供述も信用できない。

ウ さらに、被控訴人は、同年三月七日に岡田口座に入金された四〇万円について、当初は、前記のとおり同日被控訴人口座から五〇万円を引出して、そのうち四〇万円を入金したものであると供述し、融通手形の相手方である西浦の紹介者である山岸からは一、二か月後に五〇万円を返済してもらつた旨供述していたが、その後、岡田口座の右四〇万円は山岸が返済した五〇万円の中から入金したものと供述し、供述を変遷させた。

しかしながら、入金先という重要な事実について供述が変遷したこと自体が不自然であるばかりでなく、被控訴人の供述によれば被控訴人口座から引出された五〇万円を持参して銀行員が金融屋まで融通手形を回収に行つた日は同月七日なのであるから、山岸からの返済が同日になされたというのであれば、わざわざ被控訴人口座から出金する必要性はなかつたものといわねばならず、被控訴人の右供述は信用できない。

以上のとおり、前記岡田口座及び被控訴人口座への現金入金が西浦の関係で振出した融通手形を決済する関係の資金移動ないし入金であつて売上ではない旨の被控訴人の供述は到底信用できないというべきである。

(4) 岡田口座中、借入金返済のための入金と主張する分について

被控訴人は、母及び妹への借金返済のため、被控訴人口座から昭和五四年七月一六日一〇〇万円、同月一八日二〇万円を引出し、同月一九日うち八三万六八〇〇円を岡田口座に入金し、同月二五日四〇万と二〇万、同月三〇日四〇万円を現金で引出し、借入金一〇〇万円の返済に充てた旨主張し、<証拠略>中にはこれに副う記載・供述部分がある。

しかし、前記(2)記載のとおり被控訴人は昭和五四年五月から八月まで被控訴人が胃潰瘍で入院した際、生活費や手形決済のために初めてサクから一五〇万円ないし一六〇万円を借入れた旨供述しているのであるから、被控訴人が入院していた最中の同年七月の時点で借入金を一〇〇万円も返済するとは考えがたい。また、<証拠略>によれば、被控訴人口座も岡田口座も同一の金融機関の同一支店(河内信用金庫富田林支店)であることが認められるから、仮に被控訴人が借入金返済のために口座間で資金移動をするのであれば、口座間の振替を利用するのが通常であり、わざわざ現金で出金し、これを暫く現金で手元において改めて他方の口座に現金で入金するという手間をかけるとは考えられないところ、被控訴人は口座振替を使用しなかつた理由について納得できる合理的な理由を説明しておらず、被控訴人の右供述は到底信用できない。なお、<証拠略>には、返済用と買掛先に支払うために一二〇万円を引出したが、一〇〇万円を割つた半端な金額しか残らなかつたため、岡田口座に入金した旨の記載があるが、原審における前記供述に照らしてたやすく信用できない。

(5) 岡田口座中、口座間の資金移動による入金と主張する分について

被控訴人は、岡田口座へ返済する趣旨で、昭和五五年一月四日被控訴人口座から現金で一〇〇万円を出金し、そのうちから九五万円を岡田口座に入金し、昭和五六年四月二八日被控訴人口座から現金で一五万円を出金し、そのうちから一二万〇四〇〇円を同年五月一日岡田口座に入金し、同月三〇日岡田口座から一〇万円、同年七月三〇日一〇万円をそれぞれ引出し、直ちに被控訴人口座に入金した旨主張し、<証拠略>中には右主張に副う供述部分がある。

しかし、前記のとおり同一の金融機関の同一支店である被控訴人口座と岡田口座との間の資金移動に口座振替を使用しなかつた点において不自然といわざるをえない。また、被控訴人は、銀行へ行く都合から昭和五五年五月一日岡田口座に入金するにあたり現金を三日間手元に置いていた旨供述するが、借入金の返済であれば、被控訴人口座から現金で出金したのであるから同一機会に返済ができるはずであり、わざわざ現金で引出してこれを手元に置いていたとは考えがたく、右供述は信用できない。

(6) 岡田口座中、被控訴人の弟からの貸付金返済による入金と主張する分について

被控訴人は、昭和五二年に被控訴人の弟が家を増改築する際に被控訴人名義の定期預金を担保にして河内信用組合から三〇〇万円を借入れ、これを弟に貸したが、岡田口座の昭和五四年一一月一九日の五〇万円、昭和五五年七月一一日の一〇〇万円の現金による入金は、その返済として弟から入金されたものであると主張し、<証拠略>中には、右主張に副う記載・供述部分がある。

そこで、被控訴人の右記載・供述部分の信用性について検討する。

ア まず、弟の増改築費用として三〇〇万円を河内信用組合から借入れた方法について、被控訴人はこれを裏付ける担保に供したという定期預金関係書類を証拠に提出せずに、その後「証書貸付ではないが、どのような方法かは明確ではなく、河内信用組合との間で借入について四〇〇万円の公正証書を作成した際、それに含まれていると思う。」旨供述を変遷させ、しかもこれを裏付ける客観的な証拠を提出していない(なお、<証拠略>は河内信用組合との間の金銭貸借に関する書類ではなく、工事請負人からの見積書や領収書である上、領収書の宛名は被控訴人だけではなく弟のものもあり、これをもつて被控訴人の銀行からの借入の証拠とすることはできない。)。

また、被控訴人は、その後、借入の名義人について「返済は弟がしている分と僕名義でしている分とがあり、三〇〇万円は弟名義になつていると思う。」と供述し、自己名義で借入したことを否定しているのである(なお、<証拠略>には、被控訴人が自己の名義で借入れた旨の記載があるが、これを裏付ける証拠もなく、右供述の変遷に照らしてたやすく信用できない。)。

イ 次に、被控訴人は、返済の方法について、返済の条件は「僕じやなしに、弟が支払うことになつていたと思います。僕が弟の金を返済したことはないと思います。増改築の三〇〇万円は、弟がじかに返済していたのじやないかと思う。」旨供述していた。ところが、その後、被控訴人は「ひよつとしたら僕を通してかもわかりません。」と供述したり、「僕名義の小口のやつが四〇万ないし五〇万円があつたと思う。僕名義で弟が持つてきたやつを僕が返すことがあつた。」と供述し、弟が借入金の一部を一旦被控訴人に交付し、それを被控訴人が返済した旨供述を変遷させている。右供述の変遷自体が極めて不自然であつて、到底信用できないが、その場合においても、弟が被控訴人に持参した金額について、被控訴人は、「弟が僕の手元に持つてきたのは一万か二万だつたと思います。」と供述し、まとめて多額の金額を持参したとは供述しておらず、結局被控訴人の主張に副うものではないのである(なお、<証拠略>には、弟がまとまつた金を入れてくれた旨の記載があるが、被控訴人の右供述と相違しており、信用できない。)。

以上のとおり、被控訴人の右供述は、弟から貸付金の返済として入金された旨の主張に副うものではない上、右貸付の存在、内容について供述が変遷し、客観的な裏付けがないのであつて、到底信用できないといわねばならない。

(7) 岡田口座中、高砂工芸社からの売上による入金と主張する分について

被控訴人は、岡田口座への昭和五四年三月一七日の三六万六八二六円、昭和五四年九月三日の二八万円の各入金について、高砂工芸社から集金した小切手を現金に換金して入金した旨主張し、<証拠略>中には、判然としないが、右主張に副うかの如き供述部分がある。

しかし、<証拠略>によれば、被控訴人と高砂工芸社が取引を開始したのは、昭和五四年一〇月からであることが認められるから、右入金が高砂工芸社からの売上であるとする被控訴人の右供述は到底信用できない。

仮に、被控訴人の右供述に従つて右入金が高砂工芸社からの売上とすれば、被控訴人は、高砂工芸社の回答結果(<証拠略>)に従つて、同社に対する売上金額を主張しているところ、<証拠略>には昭和五四年三月一七日の三六万六八二六円及び同年九月三日の二八万円の現金支払の記載はないから、右金額は、被控訴人の主張する売上に含まれていないことは明らかである。この点、被控訴人自身も、二八万円について「それまでに一遍か二遍現金でなにした、次から小切手やぞいうことであつたのが帳簿に載つてるのかもわかりません。」と供述し、<証拠略>に記載されていない現金売上であることを認めているのである。

そうすると、右入金は被控訴人の主張する高砂工芸社以外の売上先からの入金であるか、仮に高砂工芸社からの売上であるとしても、被控訴人が全ての売上金額であると主張していた被控訴人主張の売上金額に含まれない入金と認められ、いずれにしても被控訴人主張の売上以外の売上といわねばならない。

(8) その余の入金について

被控訴人は、岡田口座及び被控訴人口座の現金入金は融通手形の交換先からの入金、河内信用組合、妻の母からの借入金、高砂工芸社から小切手でもらつた売上金を換金して支払つた残金又は弟からの返済分等のいずれかであり、売上ではない旨主張し、<証拠略>には、右主張に副う供述部分がある。

しかし、前記のとおり被控訴人の供述は客観的証拠と相違していたり、重要部分について変遷し、不自然なものであつて全体として信用できない上、被控訴人の右供述は曖昧で、裏付ける証拠が何ら存在しないから、到底信用することはできない。そして、他に被控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はないから、被控訴人の右主張は採用できない。

(9) 被控訴人当座について

被控訴人は、被控訴人当座への入金は山岸正男又は吉田重雄との間の融通手形の決済代金として山岸らから交付されたものであつて売上ではないと主張するところ、当裁判所は被控訴人の右主張は相当と考える。その理由は原判決理由三、3、(二)、(3)(原判決五〇枚目裏二行目から同五三枚目裏初行まで)の説示と同一であるから、これを引用する。

(10) そうすると、被控訴人の前記主張に副う、岡田口座が借金返済を目的として開設されたものであり、岡田口座及び被控訴人口座への現金入金のうち控訴人が指摘する入金が融通手形の決済、借入金の返済、両口座間の資金移動、弟からの返済等であつて被控訴人の主張する売上以外の売上を入金したものではない旨の<証拠略>はいずれも信用できないというほかはなく、他に被控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、被控訴人当座への現金入金が融通手形の決済代金として融通手形の相手方から交付されるなどしたものであつて売上ではないとは認められるものの、被控訴人の依拠する控訴人側の調査に把握洩れがなく、岡田口座及び被控訴人口座への現金入金のうち控訴人が指摘する入金が被控訴人の主張している売上以外の売上でないことは、立証されておらず、かえつて、右各入金が被控訴人主張の売上以外の売上である可能性が強いというべきである。

(六)  以上によれば、被控訴人が売上金額の実額であると主張する金額が、会計諸帳簿や原始資料ないし収支関係を証する適切な資料によつて真実の所得額と合致することは立証されていない上、売上金額に関する主張が控訴人の売上の把握に伴つて不自然に変遷し、更に控訴人が指摘する岡田口座及び被控訴人口座への現金入金が被控訴人主張以外の売上でないことが立証されていないのであるから、本件において被控訴人の売上金額を実額で把握することはできないといわねばならない。したがつて、前記三、1で引用説示したとおり合理性が認められる本訴推計によつて推計した金額をもつて売上金額と見るべきである。

ところで、被控訴人の売上原価が、昭和五四年分は一五七九万三六九四円、昭和五五年分は一九五七万七三四七円、昭和五六年分は一八七八万一七五六円であることは当事者間に争いがないから、前記三、1で引用説示した係争各年分の同業者の平均原価率(昭和五四年分が四三・七七パーセント、昭和五五年分が四四・二三パーセント、昭和五六年分が四〇・五二パーセント)で除して算出すれば、被控訴人の係争各年分の売上金額は、昭和五四年分が三六〇八万三三七六円、昭和五五年分が四四二六万二五九七円、昭和五六年分が四六三五万一八一六円となる。

3  必要経費の算定方法について

(一)  控訴人が本件において採用した売上金額に平均所得率を乗じて所得を算出する本訴推計(すなわち、売上金額〔収入〕から売上原価及びその他経費を通じて同業者の平均経費率に基づく推計による経費額〔必要経費〕を控除する方法)が、係争各年分の売上原価が実額で把握できるが、売上金額と売上原価以外の必要経費が実額で把握できない場合の事業所得算出方法として、合理性を有することは前記三、1で引用説示したとおりである。

(二)  被控訴人は、被控訴人の係争各年分の売上金額が実額で把握できることを前提として、売上原価が実額で把握できるから、売上金額の実額から売上原価の実額を控除して売上差益金額を算出し、そこから、経費実額(昭和五六年分)又は自己経費率に基づく推計による経費額(A方式)を控除するか、あるいは同業者の平均経費率に基づく推計による経費額(B方式)を控除して、被控訴人の事業所得を算出する方法をとるのが、売上金額を売上原価から推計し、そこからさらに所得を推計するという二重の推計を行う本訴推計よりも、誤差が少ないことは明らかであり、仮に同業者を基準に推計するとしても、本訴推計をとるよりはB方式をとる方がより合理的であるというけれども、前記三、2で詳細に説示したとおり本件では被控訴人の売上金額を実額で把握することはできず、前記本訴推計によつて推計した金額をもつて売上金額と見るべきであるから、被控訴人の右主張は前提を欠き失当というほかはない。

(三)  そこで、次に、本訴推計によつて売上金額が算出される場合の必要経費の算出方法について検討する。

(1) A方式について

一般的に必要経費と収入金額との間には相関関係があり、必要経費が多額になれば、収入金額も多額になると推認されることに照らせば、推計により限定的に把握された売上金額から経費についてのみ実額あるいは自己比率によつて推計された経費額を差し引くことによつて算出された金額が所得の客観的実額に近似しているとの担保は全くない。したがつて、収入及び経費ともに推計により算出されている場合に経費についてのみ推計額以上の実額を主張することは、その実額経費が推計された収入額と対応するものであることを明らかにしない限り、無意味というべきであり、被控訴人のA方式によるべきであるとの主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

(2) B方式について

本訴推計においては、実額である売上原価を同業者の平均原価率で除して売上金額を算出しているのであるから、売上原価(実額)は同業者の原価率の平均値であり、この場合のその他経費率も同業者の平均値である(すなわち、売上金額から控除すべき必要経費額は、売上原価及びその他経費を通じての平均値である。)。そうすると、B方式に基づいて売上原価については実額を、その他経費については同業者の平均経費率に基づく推計による経費額を控除して得た数値と本訴推計に基づいて売上金額から売上原価及びその他経費を通じての平均経費率を控除して(すなわち、売上金額に平均所得率を乗じて)得た数値は一致するのである。

(3) したがつて、売上金額が実額で把握できないために本訴推計で算出する以上、経費を算定するにあたつても本訴推計(すなわち、B方式)によつて推計するのが相当である。

4  事業専従者控除前の所得

そこで、被控訴人の事業専従者控除前の所得は、前記三、3記載の被控訴人の係争各年分の売上金額に、前記三、1で引用説示した同業者の当該係争各年分の所得率である、昭和五四年分については一九・三一パーセント、昭和五五年分については一七・九六パーセント、昭和五六年分については一九・八九パーセントを乗じて算出すれば、昭和五四年分が六九六万七六九九円、昭和五五年分が七九四万九五六二円、昭和五六年分が九二一万九三七六円となる。

5  事業専従者控除

被控訴人の係争各年分の事業専従者控除額がいずれも四〇万円であることは当事者間に争いがない。

6  係争各年分の事業所得

したがつて、被控訴人の係争各年分の事業所得は、前記三の4記載の係争各年分の事業専従者控除前の所得からいずれも四〇万円を控除して、昭和五四年分が六五六万七六九九円、昭和五五年分が七五四万九五六二円、昭和五六年分が八八一万九三七六円となる。

四  そうすると、控訴人の本件各処分は全て正当であつて、被控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。

よつて、原判決中これと結論を異にする部分を取消し、被控訴人の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川臣朗 緒賀恒雄 永松健幹)

表一 同業者の原価率とその他経費率

1 昭和五四年分

同業者

<1>原価率

順位

<2>その他経費率

順位

参考<1>+<2>必要経費率

順位

F

五八・四五

二四・九一

八三・三六

G

五七・〇六

二七・八九

八四・九五

平均

四三・七七

三六・九一

八〇・六八

A

四一・四六

三二・七二

七四・一八

E

四〇・二五

四六・三一

八六・五六

D

三九・二三

三八・二五

七七・四八

C

三六・〇七

三九・〇八

七五・一五

B

三三・九〇

四九・一九

八三・〇九

2 昭和五五年分

同業者

<1>原価率

順位

<2>その他経費率

順位

参考<1>+<2>必要経費率

順位

F

五八・四七

二二・三七

八〇・八四

G

五八・〇六

二六・二四

八四・三〇

平均

四四・二三

三七・八〇

八二・〇三

A

四一・七六

三三・四六

七五・二二

D

四一・七三

四二・五八

八四・三一

C

三七・六四

四二・三四

七九・九八

B

三六・九六

四六・四九

八三・四五

E

三五・〇〇

五一・一〇

八六・一〇

3 昭和五六年分

同業者

<1>原価率

順位

<2>その他経費率

順位

参考<1>+<2>必要経費率

順位

G

五一・七五

三六・八〇

八八・五五

F

五一・五七

二三・八五

七五・四二

平均

四〇・五二

三九・五七

八〇・〇九

D

三九・八七

三七・〇五

七六・九二

A

三八・一九

三七・二七

七五・四六

C

三五・七九

四〇・六九

七六・四八

B

三五・三三

四八・四七

八三・八〇

E

三一・一六

五二・八八

八四・〇四

表二 同業者Eの対前年比

年分

原価率

同対前年比

その他経費率

同対前年比

五四

四〇・二五

四六・三一

五五

三五・〇〇

△五・二五

五一・一〇

四・七九

五六

三一・一六

△三・八四

五二・八八

一・七八

表三 B方式で算定した必要経費率と各自の必要経費率の対比

1 昭和五四年分

同業者

<1>B方式の必要経費率

<2>各自の必要経費率

<3>(<1>-<2>)

F

九五・三六

八三・三六

一二・〇〇

G

九三・九七

八四・九五

九・〇二

B

七〇・八一

八三・〇九

△一二・二八

E

七七・一六

八六・五六

△九・四〇

2 昭和五五年分

同業者

<1>B方式の必要経費率

<2>各自の必要経費率

<3>(<1>-<2>)

F

九六・二七

八〇・八四

一五・四三

G

九五・八六

八四・三〇

一一・五六

B

七四・七六

八三・四五

△八・六九

E

七二・八〇

八六・一〇

△一三・三〇

3 昭和五六年分

同業者

<1>B方式の必要経費率

<2>各自の必要経費率

<3>(<1>-<2>)

F

九一・一四

七五・四二

一五・七二

G

九一・三二

八八・五五

二・七七

B

七四・九〇

八三・八〇

△八・九〇

E

七〇・七三

八四・〇四

△一三・三一

表四 必要経費率の対比

項目

昭和五四年分

昭和五五年分

昭和五六年分

平均必要経費率

八〇・六八

八二・〇三

八〇・〇九

同業者の最高必要経費率

八六・五六

八六・一〇

八八・五五

被控訴人の必要経費率

八三・三三

八九・六六

九三・五〇

【参考】第一審(大阪地裁 昭和五九年(行ウ)第九九、第一〇〇、第一〇一号 昭和六三年九月二八日判決)

主文

一 被告が、原告に対し、昭和五八年三月一〇日付でした昭和五四年分、昭和五五年分及び昭和五六年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、総所得金額が、昭和五四年分については金五二六万九三四九円を、昭和五五年分については金三五〇万四二二二円を、昭和五六年分については金一九〇万円をそれぞれ超える部分をいずれも取消す。

二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が、原告に対し、昭和五八年三月一〇日付で原告の昭和五四年分ないし昭和五六年分の所得税についてした各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、所得金額が昭和五四年分については金一五〇万円、昭和五五年分については金二一三万円、昭和五六年分については金一九〇万円をそれぞれ超える部分をいずれも取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告は、木箱製造業を営むものであるが、昭和五四年ないし昭和五六年の各年分(以下「係争各年分」という。)の所得税について、別表一の確定申告欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、別表一の更正欄記載のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、右各更正処分と過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各処分」という。)をした。

2 そこで、原告は、昭和五八年五月六日、被告に対し、異議申立をしたところ、被告は、同年六月二二日、いずれも異議棄却の決定をしたので、原告は、同年七月一三日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和五九年七月九日、審査請求棄却の裁決をし、右裁決は、同月三〇日、原告に送達された。

3 しかし、本件各処分は、次のとおり手続的にも内容的にも違法である。

(一) 手続的違法

(1) 所得税法二三四条の質問検査権は、適正な課税処分を行うための資料収集の手段として認められているものであつて、国税徴収法上の調査権や、国税犯則取締法上の調査権と異なり、犯罪の嫌疑があることを要件とするものではなく、したがつて、被調査者の同意を得てなされる任意調査である。このような質問検査権の性格や、現行法のとる申告納税方式が、憲法の国民主権原理に基づくものであり、行政庁は、補完的、第二次的な役割のみを果たすことが期待されていること、さらに憲法三一条の適正手続の保障の趣旨にも照らせば、質問検査権の行使にあたつては、最低限度、以下のような三要件の遵守が必要とされる。

<1> 事前通知

質問検査権の行使に先立つて、事前に被調査者に対して、調査を行う旨の通知をし、被調査者の都合を聞くべきである。

<2> 調査の理由と範囲の開示

質問検査権の行使に当たつて、なぜ調査を行うのか、その調査の範囲はどこまでであるか等について、被調査者に具体的に説明するべきである。

<3> 反面調査の補充性

反面調査は、第三者に対する調査であるので、まず当該納税者本人に対する調査を十分に行つてから、そこでの疑問をどうしても確認する必要がある場合にのみ質問検査権を行使すべきである。

(2) ところが、本件の税務調査手続は、以下のように違法なものであつた。

<1> 本件調査に当たつては、あらかじめ被告方の統括官から、調査担当者に対し、事前通知をしないようにとの指示がなされ、担当者はその指示に従い、なんらの事前通知をすることなく、昭和五七年九月二一日、原告方に来訪した。なお、被告は、被調査者が民主商工会の会員である等、特定の場合には、むしろ事前通知をしないことを調査の方針にしているものであり、これは、憲法三一条のみならず、同法一四条にも反する違法な手続である。

<2> 本件の調査担当者である被告の部下職員は、調査の際、原告に対し、単に昭和五四年から昭和五六年までの所得金額の確認のために来た旨を告げただけで、なぜ所得金額の確認が必要なのか、またどういう点について、どの範囲までの調査が必要なのか等を全く説明していない。税務調査は、納税者にとつて不利益処分につながるものであるから、その理由を具体的に告知すべきことは、憲法上当然の要請というべきであり、この点に違反してなされた本件の税務調査は違法である。

<3> さらに本件では、昭和五七年一〇月四日及び同月一九日の調査期日において、被告の部下職員は、民主商工会の事務局員など数名が同席していたというだけで、なんら具体的な調査もせず、直ちに反面調査を実施したが、右第三者の立会は、その場の具体的状況からして、公務員に課せられている守秘義務の違反となるものでも、税理士法に違反するものでもないのであるから、そのような理由で、納税者本人に対する調査を十分に行わないまま反面調査を実施したことは、前記(1)の<3>の反面調査の要件を欠く、違法な手続である。

(二) 本件各処分のうち、前記確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法である。

4 よつて、原告は、被告に対し、本件各処分のうち所得金額が申告額を超える部分の取消を求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 同3の(一)、(二)の事実は否認し、その主張は争う。

三 被告の主張

1 本件各処分に至る経緯及び手続の適法性

被告は、原告の係争各年分の所得税調査のため、昭和五七年九月二七日以降数回にわたり、部下職員を原告の事業所に臨場させ、原告に対し、事業内容の説明と係争各年分の所得金額算定の基礎となる帳簿書類等の提示を求めたが、原告は、これを拒否し、調査に全く協力しようとしなかつたうえ、原告が提出した係争各年分の所得税確定申告書には、事業所得の所得金額は記載されているものの、売上金額、必要経費は一切記載されておらず、これによつては、原告の事業所得金額の計算過程をたどることのできない不十分なものであつたため、被告は、右状態では、原告の係争各年分の事業所得金額を実額計算により算定することは不可能であると判断し、やむを得ず、原告の取引先等の調査により得た資料等に基づいて、推計により、本件各処分をしたものである。なお、原告は、本件調査において、原告が要求した税理士資格のない第三者の立会を認めなかつたことは不当である旨主張するが、第三者の立会を認めるか否かは、調査担当者の裁量に委ねられるものであり、また、税務調査においては、調査の内容が取引の相手方である第三者の秘密にわたることもあり、守秘義務の問題が生ずる余地は十分にあるから、調査に関係がなく、守秘義務も課されていない第三者の立会を拒否したことは正当である。

したがつて、本件の税務調査手続になんら違法な点はないし、また本件各処分に当たり、推計の必要性があつたことは明らかである。

2 事業所得金額

原告の係争各年分の事業所得金額は、次のとおりであり、その明細は、別表二記載のとおりであつて、右事業所得金額の範囲内でなされた本件各処分には、何ら違法はない。

(一) 昭和五四年分 六五六万七六九九円

(二) 昭和五五年分 七五四万九五六二円

(三) 昭和五六年分 八八一万九三七六円

3 事業所得金額の内訳

(一) 売上金額

原告の係争各年分の売上金額は、後記(二)の原告の係争各年分の売上原価を、原告と同種の事業を営む同業者(以下「同業者」という。)の当該各年分の原価率(売上原価の売上金額に対する割合)の平均値(以下「平均原価率」という。)である、昭和五四年分については四三・七七パーセント、昭和五五年分については四四・二三パーセント、昭和五六年分については四〇・五二パーセントで除して算出したもので、その金額は、次のとおりであり、同業者の平均原価率の算出根拠は、別表三ないし五記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 三六〇八万三三七六円

(2) 昭和五五年分 四四二六万二五九七円

(3) 昭和五六年分 四六三五万一八一六円

(二) 売上原価

原告の係争各年分の売上原価は、原告の係争各年分毎の期首及び期末における棚卸高に変動がないものとして、材料仕入金額をもつて売上原価の額としたものであり、その金額は次のとおりであつて、その明細は別表六記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 一五七九万三六九四円

(2) 昭和五五年分 一九五七万七三四七円

(3) 昭和五六年分 一八七八万一七五六円

(三) 事業専従者控除前の所得金額

原告の事業専従者控除前の所得金額は、前記(一)の原告の係争各年分の売上金額に、同業者の当該各年分の所得率(青色申告に係る特典控除前の所得金額の売上金額に対する割合)の平均値(以下「平均所得率」という。)である、昭和五四年分については一九・三一パーセント、昭和五五年分については一七・九六パーセント、昭和五六年分については一九・八九パーセントを乗じて算出したもので、その金額は、次のとおりであり、同業者の平均所得率の算出根拠は、別表三ないし五記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 六九六万七六九九円

(2) 昭和五五年分 七九四万九五六二円

(3) 昭和五六年分 九二一万九三七六円

四 事業専従者控除額

事業専従者控除額は、原告の係争各年分の所得税の確定申告書にそれぞれ記載された金額であり、係争各年分とも四〇万円である。

4 推計の合理性について

被告は、原告の係争各年分の所得金額を推計するに当たり、同業者の平均原価率及び平均所得率を適用したが、同業者の選定の経緯及び推計の合理性の存在については次のとおりである。

(一) 被告は、原告と同一業種で、営業形態、営業規模等の点において、類似性のある同業者を次の基準により抽出したところ、係争各年分につき、別表三ないし五に掲げる七名の該当者があつた。

(1) 富田林、東大阪、八尾、堺、泉大津、葛城、粉河、港、住吉、西成、東住吉、阿倍野、生野、天王寺、浪速、南、西、東、北、東成、城東、旭、大淀、大阪福島の各税務署管内に事務所を有している者であること。

(2) 係争各年分を通じて継続して青色申告書により所得税の確定申告書を提出している者のうち、次のすべての条件に該当する者であること。

<1> 木箱製造業を営んでいること。

<2> 他の業種目を兼業していないこと。

<3> 年間を通じて継続して事業を営んでいること。

<4> 原材料を仕入れていること。

<5> 係争各年分を通じて、年間の売上原価が八〇〇万円から三〇〇〇万円までであること。

なお、右売上原価の範囲は、被告主張の原告の売上原価を基準として、上限を原告の昭和五五年分の売上原価の約一五〇パーセント、下限を原告の昭和五四年分の売上原価の約五〇パーセントとしたものである。

<6> 不服申立または訴訟係属中でないこと。

(二) 以上の抽出基準により抽出された同業者は、業種、業態、事業場所、事業規模(売上原価)の各点において、原告と類似性を有し、しかも、その申告の正確性について裏付けを有する青色申告者であることから、被告の推計方法が合理的であることは明らかである。

四 被告の主張に対する原告の認否

1 被告の主張1の事実は否認し、その主張は争う。

2 同2の事実及び主張中、後記原告の反論2、3に反する部分は争う。

3(一) 同3の(一)の事実は否認する。

(二) 同3の(二)の事実は認める。

(三) 同3の(三)の事実及び主張は争う。

(四) 同3の(四)の事実は認める。

4 同4の事実及び主張は争う。

五 原告の反論

1 本訴推計の非合理性

原告の営業内容は、木箱製造業とはいつても、実際は、昭和五三年ころから、木箱以外の木製品、すなわちアイロン台、カラオケケース、額縁等の製造が大きな部分を占めるようになつていたものであるところ、右木箱以外の木製品は、木箱に比べて利益率が低いうえ、多種多様の材料を多量に仕入れておかなければならないため、在庫が増えること、新しい仕事のため作業効率が悪いこと、さらに返品も多いことなどの特殊事情がある。なお、被告が本訴で原価率及び所得率による推計(以下「本訴推計」という。)に当たり抽出した同業者が、いかなる営業形態か明らかでないが、もし木箱製造のみを行つていて他の仕事をしていないとすれば、そもそも原告と同業者といえるか否かも疑問である。さらに、原告は、昭和五四年は、持病の胃潰ようが悪化して、長期間入院し、そのため従業員江上寿夫を特別に雇入れ、また、加工の一部を外注に回すなどして、経費が特別にかかつたという事情がある。

このような諸事情に鑑みれば、本訴推計は、原告の事業所得を算出する方法として合理性を欠き、あるいは原告の事業内容には妥当しないといわなければならない。

2 原告の事業所得(昭和五六年分につき経費実額、昭和五四年分及び昭和五五年分につき自己経費率による経費推計による事業所得=A方式)

原告が、第一次的に主張する原告の係争各年分の事業所得金額は、昭和五六年分については売上金額(実額)から売上原価及び必要経費(いずれも実額)を控除し、昭和五四年分及び昭和五五年分については右両年分の売上金額(実額)から売上原価(実額)と、右両年分の売上金額に原告の昭和五六年分の必要経費の売上金額に対する割合(自己経費率)を乗じて算出した必要経費額を控除し、係争各年分ともそこから事業専従者控除を差引いた金額であり(以下このような事業所得の算出方法を「A方式」という。)、これによれば、原告の事業所得金額は、別表七の1記載のとおり、昭和五四年分が五〇三万一二四八円、昭和五五年分が三五七万五九三九円、昭和五六年分が二四一万六六〇一円となり、その内訳は、以下のとおりである。

(一) 売上金額

原告の係争各年分の売上金額は、次のとおりであり、その明細は、別表八記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 三四〇一万四三三〇円

(2) 昭和五五年分 三七七四万五六五〇円

(3) 昭和五六年分 三四五八万八〇〇〇円

(二) 売上原価

原告の係争各年分の売上原価は、被告主張のとおりである。

(三) 必要経費

(1) A方式による原告の係争各年分の必要経費は、昭和五六年分については実額であり、昭和五四年分及び昭和五五年分については、右両年分の売上金額に、原告の昭和五六年分の必要経費一二九八万九六四三円の売上金額三四五八万八〇〇〇円に対する割合である三七・六パーセントを乗じて算出したものであり、その金額は次のとおりであつて、原告の昭和五六年分の必要経費の内訳は、後記(2)のとおりである。

<1> 昭和五四年分 一二七八万九三八八円

<2> 昭和五五年分 一四一九万二三六四円

<3> 昭和五六年分 一二九八万九六四三円

(2) 原告の昭和五六年分の必要経費

<1> 自動車税等        九万七九一〇円

イ マツダ・ボンゴ分      五万九七六〇円

ロ ダイハツ・デルタ・ワゴン分 三万四五〇〇円

ハ スズキ・キヤリー分       三六五〇円

<2> 水道光熱費       三三万五七七七円

イ 電気料金         三二万九五六二円

原告の昭和五六年分の電気料金は、その支払を証する資料がないので、昭和五七年分及び昭和五八年分の平均値によつた。但し、右電気料金には、契約種別五一のものと、契約種別三一のものとが含まれているところ、契約種別三一のものは、家事用と共通なので、工場の電灯数等をもとに、家事使用分六割、工場使用分四割として計算した。これによれば、原告の昭和五六年分の電気料金は、契約種別五一の分が、同種別の昭和五七年分の電気料金二七万五八六九円と昭和五八年分の電気料金二六万四一九一円の平均値である二七万三〇円であり、契約種別三一の分が、同種別の昭和五七年分の電気料金一五万三五八八円と昭和五八年分の電気料金一四万四〇七二円の平均値に一〇分の四を乗じた五万九五三二円であり、その合計額は、三二万九五六二円となる。

ロ 水道料金            六二一五円

水道料金は、メーターが家事用と共通なため、工場使用分を全体の四分の一として計算した。

<3> 旅費通信費       二二万五七五〇円

イ 電話料金          九万五一五〇円

家庭用にはほとんど使用していないので、全額を計上した。その月別の明細は、別表九<略>の<1>記載のとおりである。

ロ 高速道路通行料金      三万七二〇〇円

石川県にある株式会社かのぎやまん(以下「かのぎやまん」という。)に納品するとき、近畿自動車道東大阪・吹田間三五〇円、吹田・加賀間四三〇〇円のそれぞれ高速道路通行料金(片道)がかかるところ、原告方では、右かのぎやまんに年に四回往復するから、その高速道路通行料金は、計三万七二〇〇円となる。

ハ 通勤費           九万三四〇〇円

従業員南尾定夫に対し支払つたその自宅(国鉄関西本線加美駅)から、原告方(近鉄南大阪線喜志駅)までの通勤定期代であり、その月別の明細及び算出根拠は、別表九<略>の<2>及び欄外記載のとおりである。

<4> 接待交際費           三四万円

イ 交際費              一二万円

得意先との打合わせ等で喫茶店へ行つたり、食事を共にしたりするときの費用が少なくとも月額一万円以上である。

ロ 祝儀代              一〇万円

得意先である日硬陶器販売株式会社(のちニツコー販売と商号変更、以下「日硬陶器」という。)が、春に新入社員研修会、秋に慰安旅行をするとき、それぞれ五万円の祝儀を出す。

ハ 中元・歳暮代           一二万円

得意先である日硬陶器と富士パツキング工業株式会社(以下「富士パツキング」という。)の支店長、常務(計四名)にそれぞれ一万五〇〇〇円のウイスキー詰合わせを中元・歳暮として贈つていた。

<5> 損害保険料       一二万三一六〇円

イ マツダ・ポンゴの自賠責保険料二万二五〇円と任意保険料三万三〇四〇円

ロ ダイハツ・デルタ・ワゴンの任意保険料四万九六四〇円

ハ スズキ・キヤリーの任意保険料二万二三〇円

<6> 修繕費             四〇万円

三方プレーナー(自動かんな)の主軸の修理にかかつた費用である。

<7> 消耗品費        六三万四九〇九円

三浦石油に支払つた自動車のガソリン代(冬期の灯油代を含む。)六〇万二九〇九円と、前記かのぎやまんから帰つてくるときのガソリン代が一回につき八〇〇〇円で、年に四回の三万二〇〇〇円の合計額であり、右三浦石油への支払の月別の内訳は、別表九<略>の<3>記載のとおりである。

<8> 消耗工具費           二四万円

イ 丸ノコ歯目立て代      九万六〇〇〇円

月平均八枚丸ノコ歯を目立てに出すが、一枚につき目立て料金一〇〇〇円である。

ロ かんな歯目立て代      四万八〇〇〇円

長さ一六インチのもの二枚一組(自動かんな用)と長さ一〇インチのもの(手押かんな用)三枚一組の目立て料が、それぞれ一組につき二〇〇〇円で、少なめにみても、月平均二組は目立てに出す。

ハ 丸ノコ歯代         二万四〇〇〇円

一枚一万二〇〇〇円として、年平均二枚を購入する。

ニ タツカー釘代        七万二〇〇〇円

月平均六〇〇〇円を購入する。

<9> 減価償却費      一三一万一七四七円

減価償却費の内訳は、別表一〇<略>記載のとおりである。

<10> 福利厚生費       二〇万九四三〇円

イ 従業員のおやつ代     一〇万五〇〇〇円

従業員の三時のおやつ代として月平均一万円かかるが、昭和五六年四月から六月までは、従業員が半分位であつたため、月平均五〇〇〇円位であつた。

ロ 労災保険料         八万二四三〇円

ハ 新年会費用         二万二〇〇〇円

<11> 会費            五万七〇〇円

富田林民主商工会の会費であり、一月から一一月までが月三九〇〇円、一二月が七八〇〇円である。

<12> 給料賃金       八三九万二五六〇円

給料賃金の明細は、別表一一<略>記載のとおりである。

<13> 利子・割引料      二二万七七〇〇円

原告が、河内信用組合富田林支店に支払つた利息である。

<14> 地代等             四〇万円

イ ガレージ代            三〇万円

ガレージ五区画を借り、トラツク、乗用車のガレージと倉庫に使用しているところ、一区画の使用料が月五〇〇〇円である。

ロ 工場地代             一〇万円

年額一〇万円であり、支払先は、山村友良である。

<15> 以上合計      一二九八万九六四三円

(四) 事業専従者控除

原告の係争各年分の事業専従者控除額は、各年分とも四〇万円である。

3 原告の事業所得(同業者の平均経費率による経費推計による事業所得=B方式)

原告が、第二次的に主張する原告の係争各年分の事業所得金額は、原告の係争各年分の売上金額(実額)から売上原価(実額)と、右各売上金額に係争各年分の同業者の平均経費率(経費の売上金額に対する割合の平均値)を乗じて算出した必要経費額を控除し、そこから事業専従者控除を差引いた金額である(以下このような事業所得の算出方法を「B方式」という。)。

なお、本件の同業者が、原告と業種、業態において類似するとしても、推計には必ず誤差が伴うものであり、その誤差の範囲は、本件推計のような二重の推計よりも、このような一重の推計の方が小さいことは明らかであるから、本件の同業者をもとに推計を行う場合には、本訴推計よりも、右B方式をとる方が、より合理的であることは明らかである。

これによれば、原告の事業所得金額は、別表七の2記載のとおり、昭和五四年分が五二六万五九四七円、昭和五五年分が三五〇万四四八円、昭和五六年分が一七一万九七七三円となり、その内訳は、以下のとおりである。

(一) 売上金額及び売上原価

前記1の(一)、(二)のとおりである。

(二) 必要経費

B方式による原告の係争各年分の必要経費は、前記1の(一)の原告の係争各年分の売上金額に、同業者の平均経費率である昭和五四年分については、三六・九一パーセント、昭和五五年分については三七・八〇パーセント、昭和五六年分については三九・五七パーセントを乗じた金額であり、その金額は次のとおりであつて、同業者の平均経費率の算出根拠は、別表一二記載のとおりである。

(1) 昭和五四年分 一二五五万四六八九円

(2) 昭和五五年分 一四二六万七八五五円

(3) 昭和五六年分 一三六八万六四七一円

(三) 事業専従者控除

前記1の(四)のとおりである。

六 原告の反論に対する被告の認否及び主張

1 原告の反論1の事実及び主張は争う。原告は、本訴前の審査請求や、本件訴状において、原告の業種が木箱製造業であることを自認していた。原告は、木箱以外の木製品も一部製造していたが、これは流行等により時期的に変動する需要に基づき、その都度注文に応じて製造していたにすぎず、木箱製造が主体であつた。また、いわゆる専属下請で、特定の取引先のみに木箱を製造している業者はともかく、通常は、木箱製造業者といつても、木箱以外の木製品も製造することがあると考えられ、原告の同業者として、木箱製造業者を選定したことには十分な合理性がある。

2 同2の冒頭の事実は否認し、その主張は争う。

(一) 同2の(一)の事実は、谷口木工所こと谷口登美夫(以下「谷口木工所」という。)に対する昭和五六年分の売上が零であることを除き認める。原告の売上は、谷口木工所に対し、昭和五六年分が二三万二二〇〇円あり、ほかにも後記4の(一)のとおり、係争各年分とも相当額の現金売上があると思われる。

(二) 同2の(二)の事実は認める。

(三) 同2の(三)の事実は否認し、その主張は争う。なお、原告の昭和五六年分の必要経費の主張は、その大部分が信用しがたいものであるか、あるいは所得金額計算上の必要経費とはならないものである。

3 同3の事実及び主張は争う。

4 原告の反論2、3に対する被告の主張

原告の反論2、3の各事業所得の主張は、いずれも原告の係争各年分の売上金額を実額で把握しうることを前提とするものであるところ、本件では、次のとおり、原告主張の売上金額が総売上であるとは認めがたい事情がある。

(一) 河内信用組合富田林支店の岡田和子名義の原告の預金口座(以下「岡田口座」という。)及び同信用組合の原告名義の普通預金口座(以下「原告口座」という。)には、別表一三記載のとおり、昭和五四年中に計三五三万三六二六円、昭和五五年中に計二三〇万一五六二円、昭和五六年中に計一九二万五五〇〇円の、また、同信用組合の原告の当座預金口座(以下「原告当座」という。)には別表一四の1ないし3記載のとおり、昭和五四年中に計四六七万五〇〇〇円、昭和五五年中に計五三〇万五〇〇〇円、昭和五六年中に計八六一万七七〇〇円の、いずれも現金の入金が存在するが、これらは、いずれも数十万円から百数十万円のまとまつた入金であり、事業収入金額以外には考えられないのであるから、原告の計上していない現金による売上金額であるとみるべきである。

(二) なお、原告は、当初は、被告が原処分時に把握し得た売上先及び売上金額のみを主張し、株式会社見永商会(以下「見永商会」という。)、谷口木工所に対する売上の存在を主張していなかつたが、被告がその売上を把握するや、主張を訂正し、その売上を追加主張するに至つたものであること、また、岡田口座の小切手等入金欄からすれば、原告が当初売上先として主張していなかつた水谷厳に対する昭和五四年分及び昭和五五年分の、また同じく大和硝子株式会社(以下「大和硝子」という)に対する昭和五五年分の各売上が存在するほか、原告の主張していない谷口木工所に対する、昭和五六年中の二三万二二〇〇円の売上が存在することが明らかである。

(三) このような被告が一応把握しえた原告の事業所得金額を集計すると、別表一五記載のとおりとなるが、右は原告主張の売上金額を大幅に超えるものであること、なお、原告は、本訴において、被告に売上漏れを指摘されるや、その都度、売上先及び売上金額に関する主張を訂正していること等からすれば、本件で、原告主張の売上金額が総売上であり、真実に合致するとの立証がなされたとはいえないことは明らかである。

七 前記六の4の被告の主張に対する原告の反論

1 被告は、岡田口座及び原告口座並びに原告当座への入金は、原告の売上金額である旨主張するが、右は、時期に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

すなわち、原告は、本訴において、被告に対し、原告主張の売上の他に、売上があるとするのであればそれを主張されたい旨を再三促してきたのに、被告は、証拠調べを終え、最終準備書面を提出する段階まで、原告主張以外の売上金額を主張せず、この段階に至つて初めて、原告の売上先について、全く新たな事実を主張してきたものであること、なお、被告は、本訴の早い段階から、前記各口座につき、信用組合に照会し、把握していたものであること等からすれば、右被告の主張は、いたずらに訴訟の完結を遅延させるものであり、時機に遅れた攻撃防禦方法として、民事訴訟法一三九条一項により却下されるべきである。

2 被告主張の岡田口座及び原告口座並びに原告当座への各入金は、以下のとおり、いずれも、イ融通手形の交換先からの入金、ロ河内信用組合、妻の母などからの借入金、ハ高砂工芸社から小切手でもらつた売上金を換金して支払に使つた残金、ニ弟に対する貸金の返済分のいずれかであり、売上金額ではない。なお、原告が、原告口座のほかに、妻の妹である岡田和子名義の口座(岡田口座)を設けたのは、仕事上の入・出金のための口座とは一応区別するためであり、また妻の母や妹から借入した場合に、その返済金に充てる心づもりであつたからである。また、そもそも、事業者の有する預金口座への入金のすべてがその者の事業収入金額であるといえないことは明らかであり、被告の前記主張は、独断に過ぎないというべきである。

(一) 別表一三の岡田口座及び原告口座への入金について

(1) 岡田口座への入金について

<1> 昭和五四年二月二一日の五〇万円

融通手形の見返りとして西浦から受取つた五〇万円の小切手を同月一四日、原告口座に入金した後、翌一五日に引き出し、それを同月二一日、岡田口座に入金したものである。なお、右小切手は、同月一六日不渡りとなつたので、同日原告口座から五〇万円が不渡引替として払い出された。

<2> 同月二三日の一五万円

前記イないしハのいずれかである。

<3> 同年三月七日の四〇万円

前記<1>のとおり、昭和五四年二月二一日、岡田口座に五〇万円を入金した後、同月二八日同口座から六〇万円を引き出し、そのうち、五〇万円を同年三月五日原告口座に入金し、同月七日、同口座から五〇万円を引き出し、そのうち四〇万円を同日岡田口座に入金したものである。

<4> 同年三月一七日の三六万六八二六円

高砂工芸社から小切手で集金した売上金を換金して入金したものと思われる。

<5> 同年七月一九日の八三万六八〇〇円

同月一六日、一〇〇万円、同月一八日、二〇万円をそれぞれ原告口座から引き出し、翌一九日、そのうち八三万六八〇〇円を岡田口座に入金し、同口座から同月二五日四〇万円及び二〇万円、同月三〇日四〇万円をそれぞれ引き出して、妻の母に合計一〇〇万円の借金返済をした。

<6> 同年九月三日の二八万円

高砂工芸社から集金した小切手を現金に換金して入金したものと思われる。

<7> 同年一一月一九日の五〇万円

昭和五二年に原告の弟が家を買うときに原告名義の定期預金を担保にして、河内信用組合から三〇〇万円を借入し、それを弟に貸したが、その返済として弟からもらつたものである。

<8> 昭和五五年一月四日の九五万円

同日、原告口座から一〇〇万円を引き出し、そのうち九五万円を同日岡田口座に入金した。

<9> 同年五月三一日の一二万円

前記イないしハのいずれかである。

<10> 同年七月一一日の一〇〇万円

<7>と同様、弟に対する貸金の返済分である。

<11> 昭和五六年五月一日の一二万四〇〇円

同年四月二八日、原告口座から一五万円を引き出し、そのうち、一二万四〇〇円を同年五月一日、岡田口座に入金した。

(2) 原告口座への入金について

<1> 昭和五四年三月五日の五〇万円

前記(1)の<3>のとおりである。

<2> 昭和五五年三月五日の三〇〇〇円

自動振替払の電話料金が不足していたため、家計費から入金したものである。

<3> 同年五月二七日の五〇〇〇円

なにかの自動振替払の不足分を家計費から入金したものと思われる。

<4> 同月三一日の一〇万円

同日、岡田口座から引き出し、入金したものである。

<5> 同年七月三一日の一〇万円

<4>と同じである。

<6> 同年九月二五日の二万三五六二円

高砂工芸社から集金した小切手を換金して支払に充てた後の残金を入金したものと思われる。

<7> 昭和五六年二月一九日の一五〇万円

富士パツキングから集金した約束手形(額面一四三万一〇〇〇円)を割引してもらつて、現金化したものに手持ちの現金を足して入金した。

<8> 同年四月三〇日の三〇万五一〇〇円

融通手形として振出した額面三一万円の約束手形を落すために、同日融手先から三〇万五一〇〇円をあらかじめ返してもらつて入金した。

(二) 別表一四の1ないし3の入金について

(1) 被告は、原告当座への現金入金をすべて原告の事業所得金額である旨主張するが、別表一六記載のとおり、これら当座に入金した金額は、そのほとんどが、その入金日又は入金日から数日後に、当座に入金した金額と同額又は同等額が手形金支払によつて出金されていることからも明らかなように、別表一六<略>の番号5、20、33、38を除いては、いずれも山岸正男及び吉田重雄に対して融通手形を貸していたものであり、そのため、その決済日当日又は数日前に右山岸らが、原告方に右融通手形の決済金相当額を持参し、これを原告当座に入金したものである。

(2) また、別表一六<略>の番号5、20、33、38は、いずれも原材料の仕入先への代金支払のため振出した手形決済のため、必要資金を原告口座から入金したり、あるいは借金をしたりして入金したものであり、そのため、入金当日又は数日後に、手形決済のため出金している。

第三証拠 <略>

理由

一 請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二 本件各処分の手続的違法性について

原告は、本件各処分には、手続的違法がある旨主張するので、まずこの点につき判断する。

1 <証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告の部下職員である河津事務官は、原告の係争各年分の所得税に関する調査のため、昭和五七年九月二七日、事前連絡をすることなく、肩書住所地の原告方に赴いたが、原告が不在であつたため、翌二八日、再び原告方に赴き、原告に係争各年分の所得金額の確認のため来訪した旨告げたところ、原告は、前回の調査で分かつているはずだとして、調査に協力しようとしなかつたため、右河津は、次回は同年一〇月四日に来訪するのでその日までに右所得金額算定の基礎となる帳簿書類等を用意してもらいたい旨を伝えて帰つた。河津は、約束した同月四日、原告方に赴いたところ、原告のほか、民主商工会の関係者ら三、四名がその場に同席していたため、右河津は、その場で、調査を進めることは不適当と考え、右第三者に退席してもらうよう原告に要請したが、原告がこれに応じなかつたことから、その日は調査に入ることなく帰署した。

(二) 前記河津は、その後、同月一九日、原告方に赴いたが、その日も民主商工会の関係者一名が同席していたため、前回同様原告に右第三者の退席を要請したが、原告がこれに応じなかつたので、調査に入ることなく帰署し、原告の取引先等への調査を開始するとともに、同年一一月九日と同年一二月一七日にも、原告方に赴き、原告に対し、売上先等を尋ね、また所得金額算定の基礎となる帳簿書類の提出等を要請したが、原告は、右河津が取引先等に対する調査を行つたことに、不満を募らせ、調査に協力しようとしなかつた。

(三) その後、前記河津は、昭和五八年一月二一日及び同年二月二二日ころ、原告方に赴き、取引先等の調査結果に基づき、仮に試算した原告の事業所得金額及びそれに基づく税額を示して説明するとともに、原告と原告の事業所得金額について話し合つたが、その際も、原告は、二社位の売上先の名前を挙げ、経費の概要を説明する程度で、具体的な原告方の収支状況の説明や、帳簿書類等の提示はしなかつた。また、同月二四日ころ、今度は原告が、被告方税務署に来署して、前記河津の示した所得金額等についての説明を求め、それに対し、同人がその根拠等を一応説明の上、修正申告を慫慂したが、原告は、これに応じようとせず、また、その際も、原告の所得を算出しうる帳簿書類等の提出はなかつたため、被告は、結局、推計により、本件各処分をした。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

2 ところで、所得税法二三四条に基づく質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、客観的に判断して具体的な必要性がある場合には、その相手方との私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられているものと解すべきである。

これを本件についてみると、<証拠略>によれば、原告が被告に提出した係争各年分の確定申告書には、所得金額及び各種控除の記載があるだけで、売上金額、必要経費等所得金額算定の基礎となる明細の記載が全くなかつたことが認められるから、本件においては、客観的に判断して質問検査の必要性を認めることができる。また、被告の部下職員が、最初は事前連絡をすることなく、原告を訪ねたことや、調査の具体的な範囲や理由を告げなかつたこと、さらに原告の求めた民主商工会の関係者らの立会のもとでの調査を拒否し、その間、原告に対する調査と並行して、原告の取引先に対する調査を進めたことは、いずれも税務職員の裁量に委ねられた権限の範囲内の行為であつて、これをもつて、右にいう社会通念上相当な限度を逸脱した行為とすることはできない。

原告は、所得税法二三四条に基づく質問検査は、あくまで任意調査であり、憲法三一条の適正手続の保障の趣旨にも照らせば、右質問検査権の行使にあたつては、イ調査の事前通知、ロ調査の理由と範囲の開示、ハ反面調査の補充性の三つの要件の遵守が必要とされる旨主張するが、実定法上、右事前通知及び調査の理由と範囲の開示が、調査もしくは質問検査権行使の法律上の要件にあたるとは解しがたいし、反面調査が、納税者自身に対する調査だけでは課税標準及び税額を把握できない場合に限つて許容されると解すべき根拠もなく、結局、これらは、前記のように、社会通念上相当な範囲を逸脱しない限り、税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられているというべきところ、本件で、右のような逸脱がないことは前述のとおりであり、原告のこの点に関する主張は理由がない。

三 本件各処分の実体的違法性について

そこで、原告の係争各年分の事業所得金額について検討する。

1 原告方の事業形態等

原告が、木箱製造業を営むものであることは当事者間に争いがなく、また、<証拠略>を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告の係争各年分の主要な売上先としては、日硬陶器、富士パツキング、有限会社高砂工芸社(以下「高砂工芸社」という。)、かのぎやまん、見永商会等があり、原告は、日硬陶器に対してはコーヒーセツト等を入れる箱を、富士パツキングに対しては工業用のアイロン台を、高砂工芸社に対してはカラオケのテープ入れ等を、かのぎやまんに対しては絵の額縁を、見永商会に対しては三味線を入れるかばんの中の芯等を納入し、いずれも手形あるいは小切手で、その代金の支払を受けていた。なお、原告は、右日硬陶器やかのぎやまん等の場合は、継続的な取引で、定期的な受注が見込まれることから、一か月あたりの大体の出荷数量を見込んで生産し、右高砂工芸社等の場合は、発注が不定期であることから、受注を受けてのち、生産にかかることにしていたものである。右原告の売上のうち、昭和五四年中は、日硬陶器に対するものがそのかなりの部分を占めていたが、その後ダンボール製の化粧箱ができたため、木箱の需要が落ち、原告に対する発注も減り、昭和五五年及び昭和五六年ころは、それに代わつて富士パツキングが最も大きな売上先になり、また、高砂工芸社に対する売上も増えていつた。なお、見永商会に対する売上も、昭和五四年以降逓減している。

(二) 原告の係争各年分の材料仕入先は、別表六記載の大福木材株式会社ほか一三社であり、右材料仕入金額が売上原価となる。なお、原告方の前記各製品は、いずれもベニヤや、ラワンの板を加工し、それに布地、メラミン樹脂等を張り、さらに製品によつては金具等を取り付けて完成させるというものであり、右ベニヤ板等や、布地、金具等が原材料である。また、原告方の作業形態は、原告方住居の敷地(借地)内に建てられた工場で、正規あるいは臨時(パート)の従業員を使い、各種木工機械等で、木箱等の製品を加工、製作し、それを車で出荷、納品するというものであり、その必要経費としては、従業員に対する給料賃金、車(係争各年分当時三台位)の維持費(自動車税、保険料、ガレージ代等)や、走行に伴う費用(ガソリン代、高速道路通行料等)、工場の水道光熱費、右木工機械等の修繕費、丸ノコ等の歯の目立て費用や、釘の購入費用等の工具代、前記売上先に対する中元、歳暮等の交際費、従業員に対するおやつ代等の福利厚生費、工場地代、さらに右木工機械、車、工場等の減価償却費があつたが、その中では従業員への給料賃金が最も大きな比重を占めていた。なお、原告方の係争各年分当時の正規の従業員は、二名位で、ほかにパートの従業員を四名位雇用していたものであるが、原告方では、源泉徴収を行わず、各従業員の自主申告に任せていた。

(三) 前記(一)認定のように、原告方の製作する製品の種類、内容及びその売上先には、係争各年分において、若干の変動があるものの、その基本的な事業形態及びその経費の内容等は、特に変わりはなかつた。

2 原告の事業所得の算出方法

(一) 被告は、原告の係争各年分の事業所得金額として、被告の把握し得た原告の係争各年分の売上原価の実額を、同業者の平均原価率で除して売上金額を算出し、その売上金額に同業者の平均所得率を乗じて算出した所得金額から、事業専従者控除額を差引いた金額を原告の事業所得金額として主張する(本訴推計)ので、まず、右推計の合理性について判断する。

(1) <証拠略>によれば、大阪国税局直税部国税訟務官室勤務の岸川信義は、推計によつて原告の所得金額を算出するのに必要な同業者の選定につき、原告と営業種目、営業地域、営業規模等の類似性を担保するために、原告の係争各年分当時の事業所の所在地を管轄する被告及び淀川以南の大阪府下の各税務署である東大阪、八尾、堺、泉大津、葛城、粉河、港、住吉、西成、東住吉、阿倍野、生野、天王寺、浪速、南、西、東、北、東成、城東、旭、大淀、大阪福島の各税務署長に対し、大阪国税局長の一般通達に基づき、青色申告によつて所得税の確定申告をしている者で、係争各年分において、木箱製造業を営んでいること、原材料を仕入れていること、他の業種目を兼業していないこと、事業所が各税務署管内にあること、年間の売上原価が、上限は、被告の把握しえた原告の売上原価のうち最も多い昭和五五年分一九五七万七三四七円の約一五〇パーセントである三〇〇〇万円、下限は、右売上原価のうち最も少ない昭和五四年分一五七九万三六九四円の約五〇パーセントである八〇〇万円の範囲内であること、年間を通じて継続して事業を営んでいること、不服申立又は訴訟継続中でないことという基準のすべてに該当する同業者の全部につき、その青色申告決算書に基づき、売上金額と売上原価及び経費合計(売上原価以外の必要経費)並びに差引所得金額を記入した同業者調査表の提出を求めたところ、大阪国税局長に対し、南、西、東大阪、城東、港、生野、旭各税務署長から各一件ずつ、合計七名の同業者の調査表が送付されたこと、右七名の同業者の調査表に基づいて係争各年分の同業者の平均原価率と平均所得率を算定すると、別表三ないし五記載のとおり、昭和五四年分が四三・七七パーセントと一九・三一パーセント、昭和五五年分が四四・二三パーセントと一七・九六パーセント、昭和五六年分が四〇・五二パーセントと一九・八九パーセント(いずれも小数点三位以下切捨)になることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 右認定の事実によれば、原告の所得を推計するための同業者の原価率等を算出する目的で、被告が選定した同業者の選定基準は、業種の同一性、事業場所の近接性、業態、事業規模の近似性等の点で、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであり、右同業者の選定にあたつて被告の恣意の介在する余地は認められない。また、右各同業者は、いずれも一年間を通じて事業を継続する青色申告者であつて、その申告が確定していることから、右各同業者の原価率の算出根拠となる資料は正確性の高いものであり、かつ、選定された同業者数は、係争各年分とも七件であつて、同業者の個別性を平均化するに足りる件数であると考えられる。

(3) 原告は、原告の営業内容は、木箱製造業とはいつても、実際は、係争各年分において、木箱以外のアイロン台、カラオケケース、額縁等の製造が大きな比重を占めるようになつていたものであり、本件の同業者が、原告と業種、業態が類似する同業者といえるか否か疑問であること、またこれら原告の製造にかかる木製品は、木箱に比べて利益率が低いうえ、在庫が増え、さらに返品も多いなどの特殊事情があること、さらに、原告は、昭和五四年は、持病の胃潰ようが悪化して長期間入院し、加工の一部を外注に回すなどした事情もあるから、木件の同業者による推計は合理性を欠く旨主張する。

そこで、この点につき検討するに、<証拠略>を総合すれば、原告方ではたしかに係争各年分において、木箱以外の木製品も製作していたことが窺われるものの、やはり主体となつた製品は、木箱であつたこと、また、一般的に木箱製造業者といつても、純粋に木箱のみを製作している業者は、ごく少数であり、多数の業者は、原告同様、木箱の製作を主体としながらも、注文に応じて、木箱以外の木製品も製作していることが認められるから、本件の選定にかかる同業者の中にも、右のような木箱以外の製品を製作している業者が相当数含まれている可能性があり、結局、その業種、業態が、原告と必ずしも異なるとはいえないと考えられるし、また、たとえ、右同業者の製作する製品の種類、内容等が、原告方のそれとある程度差異があり、製造工程の複雑さの程度及びその使用する材料の多様さの程度等が違い、それによつて、製品の付加価値の高低に相違が生ずるとしても、製品の付加価値の増大による売上の増加には製造工程の複雑さ、仕入材料の多様さ等による仕入価額や経費の増加をも伴うのであるから、そのような相違が直ちに原価率、所得率の大きな相違をもたらすとも言い切れないのであつて、結局、右事情だけから、同業者の原価率、所得率等の類似性を否定することはできないと考えられる。なお、原告主張の在庫の増加や返品の多いこと等については、<証拠略>中にはそれに沿う供述があるものの、それを客観的に認めるに足る証拠はないし、さらに、原告主張の昭和五四年の原告の病気等の事情にしても、右本人尋問の結果中には、原告は、右病気のために従業員江上寿夫を特別に雇い、また、加工の一部を外注に出したりして、その分の経費が余分にかかつた旨の供述部分があるが、<証拠略>によれば、右江上は、同年中のみならず、係争各年分を通じて稼働していたことが認められるうえ、右外注費についても、その支出を認めるに足る証拠はなく、昭和五四年分についてのみ、経費が特に多額であつたことは直ちに認めがたいこと、さらに、これら個別の特殊事情に基づく原価率等の差異は、著しい差異でない限り、本来、平均値による推計によつて捨象されうる性質のものであるところ、本件で、原告主張のような事情が右平均値によつて捨象される域を超え、同業者率による本訴推計を不合理ならしめる程の特殊事情に当たるとまで認めることはできない。

(二) 以上によれば、被告の本訴推計は、原告の係争各年分の売上原価が実額で把握し得るが、売上金額と売上原価以外の必要経費が実額で把握できない場合の事業所得算出方法として、合理性を有するものと認められる。

原告は、原告の係争各年分の事業所得として、係争各年分の売上金額、売上原価、昭和五六年分の経費を実額で主張し、第一次的には、昭和五六年分については売上金額から売上金額から売上原価及び必要経費を控除し、昭和五四年分及び昭和五五年分については右両年分の売上金額から売上原価と、右両年分の売上金額に原告の昭和五六年分の必要経費の売上金額に対する割合(自己経費率)を乗じて算出した必要経費額を控除し、係争各年分ともそこから事業専従者控除を差引いた金額を主張し(A方式)、第二次的には、係争各年分とも、売上金額から売上原価と、右各売上金額に係争各年分の売上金額に同業者の平均経費率を乗じて算出した必要経費額を控除し、そこから事業専従者控除を差引いた金額を主張している(B方式)ところ、原告の係争各年分の売上金額を実額で算出し得るならば、そこから認定あるいは推計にかかる経費を控除して所得金額を算出する方法をとるのが、本訴推計のように売上金額を推計し、そこからさらに所得を推計するという二重の推計方法によるよりは、原告の事業所得金額をより客観的数値に近い近似値として把握しうるものとして、一層合理性の高い方法であるといえる。けだし、推計は、同業者によるものにせよ、自己比率によるものにせよ、必然的に一定の誤差を伴うものであるところ、その誤差の範囲は、推計を重ねることによつて、相乗されていく性質のものであるから、二重の推計よりは、一重の推計の方が、誤差の範囲が狭く、より客観的事業所得に近似した数値が得られるからである。

(三) もつとも、右にいう売上金額を実額で算出しうるというためには、その売上金額が、当該年分の総売上であると認められることが必要であることはいうまでもない。けだし、限定的に把握された売上金額から、経費についてのみ実額あるいは自己比率による経費額で経費の総額あるいはそれに近い金額を差引くことによつて算出された金額が所得の客観的実額に合致しないことはもとより、その場合には、その算出にかかる所得が、客観的実額の近似値であることの担保は全くないのであつて、本訴推計のような二重の推計方法に比較しても、その算出にかかる所得が、より客観的実額と近似性を持つとの保障はないからである。

(四) そこで、原告の主張する売上金額が総売上といえるか否か、また、右売上金額が総売上といえる場合にはその額並びに右売上金額を基礎にした原告の事業所得金額について検討する。

3 原告の係争各年分の売上金額の実額認定の可否及び売上金額

(一) 原告の係争各年分の売上金額が、谷口木工所に対する昭和五六年分の売上が零であることを除き別表八記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、昭和五六年七月六日、岡田和子名義の原告の普通預金口座に、谷口木工所振出にかかる額面二三万二二〇〇円の小切手が入金されていることが明らかであり、<証拠略>によれば、原告は、谷口木工所に掛け軸の外箱を納品していたことが認められるから、右小切手の入金は、製品の売上代金であるとみるほかなく、<証拠略>中右認定に反する部分は、採用しがたい。

これら原告の係争各年分の売上金額を合計すると、昭和五四年分が三四〇一万四三三〇円、昭和五五年分が三七七四万五六五〇円、昭和五六年分が三四八二万二〇〇円となる。

(二) ところで、<証拠略>を総合すると、右売上先及び売上金額は、原処分に対する審査庁が審査段階で調査して把握したもの(日硬陶器、富士パツキング、高砂工芸社、かのぎやまんに対する売上)に、その後被告が調査して本訴において主張したもの(見永商会、谷口木工所、水谷巌、大和硝子に対する売上)を加えたものであり、原告は、売上に関する帳簿を作成していないところから、被告側の右調査結果にそのまま依拠して売上の主張をしていることが認められる。

原告は、右売上先に対する売上が係争各年分の総売上で、他に売上先、売上金額はない旨主張し、<証拠略>においてその旨供述するが、被告は、右売上のほかにも係争各年分とも相当額の現金売上が存する旨主張するので、以下、原告に、右(一)のほかに売上先及び売上金額が存在する蓋然性があるといえるか否かについて判断する。

(1) 時機に遅れた攻撃防禦方法の主張について

原告は、被告の、岡田口座、原告口座及び原告当座への入金に基づく売上の存在の主張は、時機に遅れた攻撃防禦方法である旨主張する。

たしかに、<証拠略>に照らせば、原告は、昭和六一年四月二日の本件第一一回口頭弁論期日以降、被告に対し、被告が、原告主張の日硬陶器、富士パツキング等六社以外の売上先があると主張するのであれば、それを明らかにされたい旨主張していたのに対し、被告が前記各預金口座への入金状況に基づく売上の存在の主張をするに至つたのは、原告本人尋問の結果(第一回)も終了し、証拠調べのほぼ終わつた同年一〇月二二日の第一四回口頭弁論期日であり、被告の右主張については、右各入金が売上代金に対応するものか否かを検討するため、さらに証拠調べを要するものであることが認められる。

しかし、他方、被告の右主張は、右各預金口座への係争三か年分のかなりの回数にのぼる入金状況を詳細に分析し、その入金が手形・小切手等によりなされているか、あるいは現金によりなされているか、また、その中で、既に判明している売上先からの入金に対応するものや各口座相互間の入出金状況からみて明らかに売上ではないと考えられる入金の区分可能性等を逐一検討しなければ主張の可否を決せられないものであり、その検討、調査のためには相当の期間を要すると考えられること、また、被告の右主張は、原告の売上先、売上金額に関する具体的な主張、立証の内容によつて、その要否が左右されると考えられるところ、本件の原告の売上先、売上金額に関する主張は、当初から一貫していたわけではなく、原告は、本訴の当初においては、原告の売上先として、日硬陶器、富士パツキング、高砂工芸社、かのぎやまんの四社のみを主張し、途中から、見永商会及び谷口木工所を売上先に追加してきたものであり、さらに前記預金口座に関する主張と同一機会に、被告が、他の売上先として水谷巌及び大和硝子を追加するや、それをも原告の売上先に含まれることを認めるなど、その売上先、売上金額に関する主張には変転がみられること、なお、本件で、原告の係争各年分の売上金額の全体を明確に把握するに足る売上帳等は提出されていないこと等からすれば、被告において、これら原告の本訴における売上についての主張、立証の推移、経過とその具体的内容をみたうえで、前記のような預金口座に関する主張をすることとしたとしても、客観的にみて、それが訴訟の遂行上、必ずしも時機に遅れた攻撃防禦方法であるとはいえないと考えられる。

したがつて、原告のこの点に関する主張は理由がない。

(2) 岡田口座及び原告口座への入金について

<証拠略>によれば、被告主張のとおり、岡田口座及び原告口座に、別表一三記載のとおりの現金入金があることが認められるので、以下、右金額が売上代金に見合う入金である可能性があるか否かについて検討する。

<1> <証拠略>によれば、原告は、かねてから原告が、病気により入院する等で、事業資金に困つたときなど、原告の妻溝田悦子の妹である岡田和子あるいは右溝田悦子の母である岡田サク等から借金をすることがあつたところ、その返済に充てる金員を預金しておく等の目的で、右岡田和子名義の口座(岡田口座)を設け、以後、右口座は、もつぱら、右溝田悦子が管理し、仕事上の入出金とは別の家計上、あるいは右借金の返済分の資金を入金するなどしていたこと、もつとも、右区分が厳密になされていたわけではなく、原告は、仕事上資金繰りに困つたときなど、右岡田口座から現金を引き出して原告口座に入金するなどし、また、逆にその埋め合わせのため、原告が仕事上、受領した小切手等を、直接、岡田口座に入金することもあり、係争各年分当時は、右口座相互間で、相当頻繁にこのような金員の出し入れが行われていたことが認められる。

<2> 岡田口座への昭和五四年二月二一日の五〇万円及び同年三月七日の四〇万円並びに原告口座への同年三月五日の五〇万円の各入金について

<証拠略>を総合すれば、右各入出金の経緯は、ほぼ以下のようなものであることが認められる。

イ 原告は、昭和五四年二月一四日、原告口座に西浦振出の小切手による五〇万円の入金があつた際、それ以前の岡田口座からの借受分に対する返済のため、同月一五日、原告口座から現金で五〇万円を出金し、同月二一日、岡田口座に五〇万円を現金で入金したが、右小切手は、同月一六日、不渡りとなつた。

ロ 右イの小切手は、右西浦が、原告からその見返りに原告振出の同額面の約束手形の交付を受け、それによつて一時的に資金を調達することを目的としていたものであつたが、西浦は、結局、右小切手を不渡りにしたうえ、それに見合う原告振出の約束手形を金融業者に割引に出していたため、原告は、右手形の決済資金をみずから調達する必要が生じ、同月二八日、岡田口座から、現金により六〇万円を出金し、うち五〇万円を同年三月五日、原告口座に現金により入金し、右六〇万円の借受分の返済として、同月七日原告口座から現金により五〇万円を出金し、うち四〇万円を同日岡田口座に現金により入金した。

もつとも、この点に関する原告本人尋問の結果(第二回)は、あいまいな部分が多く、必ずしも事態の経過が厳密に右のとおりであつたとは確定しがたいが、いずれにせよ、右各入出金は、基本的には、岡田口座と原告口座相互間のものであり、右小切手にしても結局は不渡りになつているのであつて、右入出金が、売上代金の集金に伴う入金であることを窺わせるような事情は認められない。

<3> 岡田口座への同年七月一九日の八三万六八〇〇円の入金について

<証拠略>を総合すれば、右岡田口座への入金は、原告が、原告の妻の母あるいは妹に対する借入金の返済のため、原告口座から同月一六日一〇〇万円、同月一八日二〇万円をそれぞれ現金で出金し、うち八三万六八〇〇円を同月一九日、一旦、岡田口座に現金で入金した後、同口座から、同月二五日四〇万円と二〇万円を、また同月三〇日四〇万円を、いずれも現金で出金し、原告の妻の母あるいは妹に対する借入金一〇〇万円の返済に充てたものと認められ、右が売上代金の集金に伴う入金であるとは認めがたい。

<4> 岡田口座への昭和五五年一月四日の九五万円及び昭和五六年五月一日の一二万四〇〇円の入金について

<証拠略>によれば、右九五万円の入金は、昭和五五年一月四日、原告が岡田口座への趣旨で、原告口座から現金で一〇〇万円を出金し、その中から岡田口座に入金したものであること、また、右一二万四〇〇円の入金も、昭和五六年四月二八日、原告が岡田口座への返済の趣旨で、原告口座から現金で一五万円を出金し、その中から岡田口座に入金したものであることが認められ、右各入金をもつて、売上代金の集金に伴う現金入金とみることはできない。

<5> 原告口座への昭和五五年五月三一日及び同年七月三一日の各一〇万円の入金について

<証拠略>を総合すれば、右各入金は、いずれも右各入金日に、岡田口座から借入のような形で、各一〇万円を出金し、それを直ちに原告口座に入金したものであることが認められ、右入金をもつて売上代金の集金に伴うものとみることはできない。

<6> 岡田口座への昭和五四年一一月一九日の五〇万円及び昭和五五年七月一一日の一〇〇万円の入金について

<証拠略>を総合すれば、右各入金は、必ずしも明確な証拠はないものの、原告の弟が家を購入するときに、原告が弟に貸付けた金員の返済分である可能性が強いことが認められ、右各入金が売上代金の集金であることを窺わせるに足る証拠はない。

<7> 原告口座への昭和五五年三月五日の三〇〇〇円及び同年五月二七日の五〇〇〇円の入金について

<証拠略>によれば、右は、原告口座の預金残高が少なくなり、電話料金等の自動振替に充てる代金が不足しそうになつたため、原告が現金を入金したものであることが明らかであり、右入金をもつて、売上の存在を推認することができないことは金額からみても明らかである。

<8> 岡田口座の昭和五四年二月二三日の一五万円、同年三月一七日の三六万六八二六円、同年九月三日の二八万円、昭和五五年五月三一日の一二万円の各入金及び原告口座の昭和五五年九月二五日の二万三五六二円、昭和五六年二月一九日の一五〇万円、同年四月三〇日の三〇万五一〇〇円の各入金について

右各現金入金がいかなる事由によるものかを明確に特定するに足る証拠はないが、<証拠略>によれば、原告は、取引先から受領した小切手を支払に回し、その残金を岡田口座に入金することもあつたようであり、右入金のうち、端数の付く分(岡田口座の三六万六八二六円と原告口座の二万三五六二円)は、そのような小切手の換金代金の残金ではないかと考えられるし、また、その他の入金についても、原告が、前記<2>ないし<5>のように原告口座と岡田口座との間で、頻繁に入出金を繰り返していたこと、また、前記のように原告は、妻の母あるいは妹等からは事業資金等の借入れを、自己の弟には、家の購入資金の貸付を、さらに後記のように、山岸正男、吉田重雄とは融通手形の交換をしていたこと等からすれば、右各入金が、それら原告の借入金の返済等に伴う口座相互間の移動として、あるいは弟への貸付金の返済に伴う入金として、さらに融通手形の交換先からの入金としてなされたものとみる余地も大きいこと、これに対し、これらの入金が、原告の売上代金であることを窺わせるような事情、たとえばそれらの現金入金が、定期的かつほぼ一定の金額である等の事情は全く見当たらないこと等からすれば、右各現金入金をもつて、原告にそれに対応する現金の売上があるものと推認することはできないというべきである。

(3) 原告当座への入金について

<1> <証拠略>によれば、係争各年分において、原告当座に、別表一四の1ないし3記載のとおり、原告口座あるいは岡田口座からの入金分以外に、昭和五四年分につき四六七万五〇〇〇円、昭和五五年分につき五三〇万五〇〇〇円、昭和五六年分につき八六一万七七〇〇円のいずれも現金による入金があることが明らかであり、これらは一見すると、原告の売上先からの現金入金のように思われないでもない。

<2> しかし、他方、右被告主張の原告当座への現金入金分と、<証拠略>から認められる、同口座からの出金分とを対比すると、別表一六<略>記載のとおり、そのすべてが、右入金と同一日あるいはその遅くとも三、四日後には、右入金額と同一金額あるいはほぼそれに見合う金額が出金されていること、また、<証拠略>によれば、同表の番号5、20、33、36、38、42を除く右各出金は、いずれも、山岸正男あるいは吉田重雄宛に振出した約束手形の決済代金であることが明らかであり、番号36、42についでは、それに対応する約束手形の写しは提出されていないものの、その金額や、出金日等に照らせば、右36は、山岸に、右42は吉田に、それぞれ振出された約束手形の決済代金であると推認されるのであつて、右のような入出金の対応関係や、手形の交付先が特定のものであり、しかも定期的になされていること等からすれば、右各入金は、<証拠略>において、原告が供述するとおり、原告と融通手形を交換し合つていた右山岸あるいは吉田が、その決済資金を原告方に持参し、それを原告が右当座預金口座に入金したか、あるいは直接原告名義で、前記河内信用組合富田林支店に入金した分であると認めるのが相当であり、とすれば右各入金をもつて、原告が、売上先から集金した現金を入金したものと推認することはできない。

<3> また、別表一六<略>の番号5、20、33、38の入金についても、<証拠略>によれば、右各入金に対応する手形、小切手(番号5については、額面四〇万円と八四万八五〇〇円の、番号20については額面一三〇万三五九〇円と二〇万円の、番号33については、二〇万八六二〇円と二九万三二八二円と二〇万円、番号38については、三一万円と二〇万円と三〇万六八三四円と一九六万三七七〇円)が、右現金入金日と同一日あるいは遅くとも四日以内に出金されているのであつて、右事実及びこの点に関する<証拠略>によれば、右各現金入金は、原告が、各仕入先に振出し、交付した手形、小切手の決済資金を原告が調達し、入金したものであることが明らかであるところ、<証拠略>によれば、右番号20の現金入金は、原告が、原告の妻の母名義の預金を解約して調達したものであることが明らかであり、他の三つの現金入金に対応する現金の調達についても、右各入金が、いずれも出金日ぎりぎりになされていること等からすれば、<証拠略>において原告の供述するとおり、原告が、決済日を控え、その妻の親族あるいは銀行等から資金を捻出して入金したものと推認するのが相当であり(これが売上先からの集金であるとすれば、たまたまその集金時期が、出金時期と合致していたか、あるいは原告が、現金で集金していたのを出金時期ぎりぎりまで手元に保管していたということになるが、そのような事態は通常考えにくい。)、結局、右各現金入金の存在も、原告に現金による売上が存在することを推認させるに足るものではない。

<4> したがつて、前記原告当座への各現金入金をもつて、原告に現金による売上が存在する蓋然性があるとみることはできない。

(4) 以上のとおり、岡田口座及び原告口座並びに原告当座への現金の入金が、原告の売上代金と結び付くものであると認めるに足る証拠はなく、右各入金をもつて、原告に現金による他の売上先及び原告主張の売上金額を上回る売上金額が存在する蓋然性があるということはできない。

なお、被告は、原告が、本訴において、当初からその売上先のすべてを明らかにして主張していたわけではなく、被告が、売上先を把握するや、その都度、売上先に関する主張を訂正していたことなどをも、原告に他の売上先が存在する事情の一つとして、主張しているところ、たしかに、原告の本訴における売上先、売上金額の主張は、被告側の調査結果に依拠するもので、その主張に変転がみられることは前記(二)の冒頭及び(二)の(1)で認定したとおりであるが、しかし、原告の追加主張にかかる売上先は、見永商会を除いては、必ずしも取引金額及び取引回数が多いとはいえないこと等からすれば、<証拠略>において原告が供述するように、原告において、それを失念していたという可能性も考えられないではないうえ、ほかに原告に他の売上先及び売上金額が存在することを窺わせるような事情を認めるに足る証拠の全くない本件において、右事実のみから直ちに原告に他の売上先が存在する蓋然性があるとまでいえないことは明らかであり、結局、この点も、前記の認定、判断を覆すに足るものではない。

(三) したがつて、本件では、原告の売上金額を実額で把握することが可能であるというべきであり、その売上先及び売上金額は、前記(一)で述べたとおりであり、その金額は次のとおりであつて、その明細は、別表八記載のとおり(但し、谷口木工所に対する昭和五六年分の売上金額「〇」とあるを「二三二、二〇〇」と、また、同年分の売上金額合計「三四、五八八、〇〇〇」とあるを「三四、八二〇、二〇〇」と各訂正する。)である。

(1) 昭和五四年分 三四〇一万四三三〇円

(2) 昭和五五年分 三七七四万五六五〇円

(3) 昭和五六年分 三四八二万 二〇〇円

4 売上原価

原告の係争各年分の売上原価(材料仕入金額)が、次のとおりであり、その仕入先別の明細が別表六記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

(一) 昭和五四年分 一五七九万三六九四円

(二) 昭和五五年分 一九五七万七三四七円

(三) 昭和五六年分 一八七八万一七五六円

5 必要経費の算定方法及び必要経費額

(一) 前記2の(二)で述べたとおり、原告の係争各年分の売上金額を実額で把握できる以上、売上原価の実額に争いのない本件では、売上金額の実額から売上原価の実額を差引いて売上差益金額を出し、そこから、経費実額(昭和五六年分)及び自己経費率に基づく推計による経費額(A方式)を控除するか、あるいは同業者の平均経費率に基づく推計による経費額(B方式)を控除して、原告の事業所得を算出する方法をとるのが、売上金額を売上原価から推計し、そこからさらに所得を推計するという本訴推計よりも、より、原告の事業所得の客観的実額の近似値を把握しうるものとして、一層合理性の高い方法であることは明らかである。

また、右A方式とB方式のいずれがより合理的かについて考えるに、原告の昭和五六年分の経費を実額で算出することができるならば、原告の係争各年分の事業形態及びその経費の内容が特に変動がなかつたことは前記1の(三)のとおりであるから、平均値をとるとはいえ、なお、業態、事業規模等が全く同一ではない同業者の経費率による推計の方法(B方式)よりも、右実額あるいは右実額に基づく自己経費率による推計の方法(A方式)をとる方が、原告の客観的経費実額あるいはそれに近い金額を算出しうるものとして、より合理性が高いことが明らかである。

そこで、以下、まず、原告の昭和五六年分の経費を実額で算出しうるか否かについて検討する。

(二) 原告主張の昭和五六年分の経費額及びその内訳は、五(原告の反論)の2の(三)の(2)のとおりであるが、その主張にかかる経費総額一二九八万九六四三円のうち従業員に対する給料賃金の額が八三九万二五六〇円とその約六五パーセントを占めているので、まず、右給料賃金の額を実額で的確に把握しうるか否かについて検討する。

(1) 原告が、右給料賃金に関する証拠として提出しているのは、その点に関する原告本人尋問の結果(第一回)を除けば、甲第一二号証の一ないし六の各領収書及び甲第一二号証の七の上申書のみであるところ、右原告本人尋問の結果によれば、右各領収書は、原告において、本件訴訟提起後に、あらかじめ昭和五六年一月から同年一二月までに支給した給与の総額を記載し、これを受領した旨の書面を作成し、この書面を各従業員に示して、署名捺印を得たものであり、右上申書は、江上寿夫が昭和六〇年六月二一日に原告の求めに応じて、原告方への勤務期間(昭和五三年一〇月から昭和五七年一月まで)と当時の給与額の概数(毎月一五万円位)とを記載して作成したものであつて、いずれも従業員が自ら確実な資料に基づいて作成したものではないことが認められ、また、右給与支給について当時の賃金台帳等の原資料は一切存しないし、前記1の(二)認定のように、原告方では、源泉徴収も行つていなかつた関係で、右支給したとされる給与の額を客観的に裏付けるに足る資料もないことなど、右各領収書、上申書は、その作成の経過に照らし、その信用性、正確性に疑問が残ることは否定できない。

(2) また、右各領収書の信用性をその内容の面から検討しても、右各領収書によれば、従業員南尾定夫は、昭和五六年中に、原告から二八四万円を支給されたとしながら、<証拠略>によれば、同人は、同年中の収入にかかる府市民税の申告にあたり、その給与所得を一四五万二〇〇〇円であるとしていること、もつとも、この点は課税負担を免れるための真実に反する申告とみる余地があるにしても、原告方のパート従業員の毎月の給与の額及びその出勤・勤務状況を各給与領収書に基づいて表にすると、別表一七<略>記載のようになるところ、同表によれば、原告方のパート従業員である山本ヨシコ、笠原文子、巽日出子、巽シズ子の四名は、いずれも東京五六年の一月から三月まで及び七月から一二月までの九か月間は、<証拠略>により認められる原告方の休業日(祝祭日)を除いてはほとんど毎日といつていい程原告方に出勤し、しかも出勤日は、必ず八時間稼働したことになつており、これは、一般的にみてもパート従業員の通常の勤務状況とは異なるうえ、原告方では、パート従業員は、一〇時ころ来ることがあつたり、三時ころ帰つたりすることがある旨の右原告本人尋問の結果とも矛盾すること、さらに、同年一一月のパート従業員の出勤状況をみると、同月は、暦上、祝祭日が七日間あるため、出勤日は、二三日となる筈であるが、給与領収書に基づいて出勤日数を計算すると二四日間働いた計算になることなど、給与領収書は、その記載内容に照らしても、その信用性にかなりの疑問があることは否定できない。

(3) このようにみてくると、結局、原告が、本件で、給料賃金を立証する証拠として提出している領収書等の書面は、その信用性に多大な疑問が残り、この点に関する原告本人尋問の結果(第一回)と合わせても、原告が昭和五六年中に支給した給料賃金の額を客観的裏付けをもつて、立証するに足るものとはいえない。なお、原告が従業員であり、給与を支給していたとする長井寅二については、右給与領収書の提出もないのみならず、<証拠略>によれば、同人は、原告の実妹溝田美和子の同居者であるところ、昭和五六年当時、七八歳ないし七九歳という高齢であり、果たして現実に稼働していたか否かも極めて疑問である。

そして、右各領収書等のほかには、本件で、原告の支給した給与賃金の額を的確に把握するに足る証拠がないことは前記のとおりであり、とすれば、係争各年分において、前記1の(二)認定のように、原告が正規及び臨時の従業員数名を雇用していた事実は認められるものの、右給与賃金の額を実確で的確に把握するに足る証拠はないというべきである。

(三) 次に、原告主張の昭和五六年分のその他の経費について、その額を的確に把握しうるに足る客観的証拠があるか否かについて検討するに、右経費のうちで、給料賃金に次いで大きな比重を占めるのは減価償却費であるところ、右減価償却費についても、工場及び自動車(マツダボンゴを除く。)については、その取得年月日、取得価格を客観的に裏付ける証拠はなく、その点に関する原告の記憶を述べた原告本人尋問の結果(第一回)が存在するのみであること、また、従業員の通勤費、得意先の接待交際費、消耗品費中かのぎやまんからの帰途のガソリン代、消耗工具費中の丸ノコ歯代及びタツカー釘代、福利厚生費中の従業員のおやつ代、新年会費用等については、その支出を裏付ける領収書等は、なんら提出されていないこと、なお、電気料金についても、昭和五六年分の支払証明書等はなく、昭和五七年分及び昭和五八年分からの推計によつていること、さらに、電気料金、水道料金に家事使用分が含まれていることは原告自身も認めているところであるが、そのほか、原告が事業用としている各自動車も、時折は家事用に使用することがあつたのではないかと考えられ、とすれば、自動車税、ガソリン代、損害保険料等の一部も経費とはならないと考えられるが、その比率を的確に明らかにするに足る証拠はないこと等が明らかであり、これらの事実に照らせば、給料賃金以外のその他の経費についても、その大部分は、必ずしも証拠による客観的裏付けを伴わないか、あるいは、その額の算定につき、なんらかの推計を必要とするものであつて、結局、原告の昭和五六年分の必要経費を客観的な裏付けをもつた金額として、実額で算定することは、不可能であるといわなければならない。

(四) 以上のとおり、本件では、原告方の昭和五六年分の経費を的確に実額で算出することは不可能であるというべきであり、原告の係争各年分の必要経費の算定にあたつては、同業者の平均経費率をもとに推計する前記B方式をとるほかないと考えられる。

(五) 必要経費額

(1) そこで、同業者の平均経費率(別表三ないし五記載の経費合計の売上金額に対する割合の平均値)を算定すると、昭和五四年分が三六・九〇パーセント、昭和五五年分が三七・七九パーセント、昭和五六年分が三九・五六パーセント(いずれも小数点三位以下切捨)となる。

(2) 前記3の(一)認定の原告の係争各年分の売上金額である昭和五四年分については三四〇一万四三三〇円、昭和五五年分については三七七四万五六五〇円、昭和五六年分については三四八二万二〇〇円に、前記(1)認定の同業者の平均経費率である、昭和五四年分については三六・九〇パーセント、昭和五五年分については三七・七九パーセント、昭和五六年分については三九・五六パーセントを乗じて原告の係争各年分の経費額を算出すると、昭和五四年分が一二五五万一二八七円(円未満切捨、以下同じ。)、昭和五五年分が一四二六万四〇八一円、昭和五六年分が一三七七万四八七一円となる。

6 事業専従者控除

原告の係争各年分の事業専従者控除額がいずれも四〇万円であることは当事者間に争いがない。

7 したがつて、原告の係争各年分の事業所得金額は、別表一八記載のとおり、昭和五四年分が、売上金額三四〇一万四三三〇円から売上原価一五七九万三六九四円及び必要経費一二五五万一二八七円を控除し、昭和五五年分が、売上金額三七七四万五六五〇円から売上原価一九五七万七三四七円及び必要経費一四二六万四〇八一円を控除し、昭和五六年分が売上金額三四八二万二〇〇円から売上原価一八七八万一七五六円及び必要経費一三七七万四八七一円を控除し、さらにいずれもそれぞれ事業専従者控除四〇万円を差し引いた、昭和五四年分が五二六万九三四九円、昭和五五年分が三五〇万四二二二円、昭和五六年分が一八六万三五七三円であるというべきである。

四 よつて、原告の本訴請求のうち、昭和五六年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分につき所得金額が一九〇万円を超える部分の取消を求める請求は、すべて理由があり、また、昭和五四年分の右各処分につき所得金額が一五〇万円を超える部分の取消を求める請求は、所得金額が五二六万九三四九円を超える部分の取消を求める限度で理由があり、昭和五五年分の右各処分につき所得金額が二一三万円を超える部分の取消を求める請求は、所得金額が三五〇万四二二二円を超える部分の取消を求める限度で理由があるから、本件各処分を右の限度で取消し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫 及川憲夫 徳岡由美子)

別表一

課税の経緯

(単位 円)

年分

区分

受理又は送付年月日

事業所得金額

税額

過少申告加算税

昭和54年分

確定申告

55.3.13

1,500,000

0

更正

58.3.10

6,132,493

723,300

36,100

異議申立

58.5.6

1,500,000

0

0

異議決定

58.6.22

棄却

審査請求

58.7.13

1,500,000

0

0

裁決

59.7.9

棄却

昭和55年分

確定申告

56.3.13

2,130,000

29,700

更正

58.3.10

6,815,033

865,600

41,700

異議申立

58.5.6

2,130,000

29,700

0

異議決定

58.6.22

棄却

審査請求

58.7.13

2,130,000

29,700

0

裁決

59.7.9

棄却

昭和56年分

確定申告

57.3.12

1,900,000

2,000

更正

58.3.10

6,292,158

732,300

36,500

異議申立

58.5.6

1,900,000

2,000

0

異議決定

58.6.22

棄却

審査請求

58.7.13

1,900,000

2,000

0

裁決

59.7.9

棄却

別表二

原告の係争各年分の事業所得金額

科目

昭和五四年分

昭和五五年分

昭和五六年分

<1>売上金額

(<2>÷<3>)(円)

36,083,376

44,262,597

46,351,816

<2>売上原価(円)

15,793,694

19,577,347

18,781,756

<3>原価率(%)

43.77

44.23

40.52

<4>所得率(%)

19.31

17.96

19.89

<5>事業専従者控除前の所得金額

(<1>×<4>)(円)

6,967,699

7,949,562

9,219,376

<6>事業専従者控除額(円)

400,000

400,000

400,000

<7>事業所得金額

(<5>-<6>)(円)

6,567,699

7,549,562

8,819,376

別表三

同業者の原価率・所得率の算出表

(54年分)

同業者

<1>売上金額

<2>売上原価

<3>原価率

(<2>/<1>)

<4>経費合計

<5>青色申告に係る特典控除前の所得金額

<6>所得率

(<5>/<1>)

税務署名

記号

A

30,316,065

12,571,093

41.46

9,919,747

7,825,225

25.81

西

B

28,286,700

9,590,203

33.90

13,913,615

4,782,882

16.90

東大阪

C

62,140,740

22,413,841

36.07

24,283,759

15,443,140

24.85

城東

D

14,220,940

5,580,013

39.23

5,439,598

3,201,329

22.51

E

31,985,470

12,874,361

40.25

14,812,216

4,298,893

13.44

生野

F

30,693,937

17,943,650

58.45

7,645,598

5,104,689

16.63

G

22,409,540

12,788,714

57.06

6,249,915

3,370,911

15.04

306.42

135.18

平均

43.77

19.31

別表四

同業者の原価率・所得率の算出表

(55年分)

同業者

<1>売上金額

<2>売上原価

<3>原価率

(<2>/<1>)

<4>経費合計

<5>青色申告に係る特典控除前の所得金額

<6>所得率

(<5>/<1>)

税務署名

記号

A

37,981,370

15,861,410

41.76

12,709,261

9,410,699

24.77

西

B

30,376,820

11,230,209

36.96

14,121,478

5,025,133

16.54

東大阪

C

53,834,946

20,264,683

37.64

22,792,360

10,777,903

20.02

城東

D

23,466,690

9,794,715

41.73

9,991,878

3,680,097

15.68

E

39,801,691

13,933,384

35.00

20,337,337

5,530,970

13.89

生野

F

42,565,652

24,888,466

58.47

9,521,826

8,155,360

19.15

G

26,176,746

15,199,024

58.06

6,870,005

4,107,717

15.69

309.62

125.74

平均

44.23

17.96

別表五

同業者の原価率・所得率の算出表

(56年分)

同業者

<1>売上金額

<2>売上原価

<3>原率価

(<2>/<1>)

<4>経費合計

<5>青色申告に係る特典控除前の所得金額

<6>所得率

(<5>/<1>)

税務署名

記号

A

34,092,390

13,021,510

38.19

12,707,407

8,363,473

24.53

西

B

32,442,330

11,453,517

35.32

15,715,503

5,253,310

16.20

東大阪

C

50,405,735

18,041,535

35.79

20,512,478

11,851,722

23.51

城東

D

24,683,680

9,841,711

39.87

9,144,569

5,697,400

23.08

E

35,104,418

10,939,523

31.16

18,562,122

5,602,773

15.96

生野

F

38,703,107

19,961,957

51.57

9,232,353

9,508,787

24.56

G

20,588,816

10,655,920

51.75

7,576,381

2,356,515

11.44

283.65

139.28

平均

40.52

19.89

別表六

原告の係争各年分の仕入先及び仕入金額の明細

(単位 円)

仕入先等

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

大福木材(株)

9,128,959

13,817,619

9,051,752

池上製材所

0

0

1,361,833

永井商店

0

0

1,307,385

(株)竹内製作所

498,040

396,620

916,697

吉金物店

2,063,790

2,618,062

2,769,955

糸治工芸社

4,102,905

851,972

977,300

平野紙器工業(株)

0

324,120

218,750

(株)オカノ

0

276,440

382,680

巽紙器工業所

0

0

60,200

上中商店

0

0

276,000

和田商事

0

206,564

539,204

高砂工芸社

0

500,000

500,000

山岸商店

0

450,000

420,000

西岡由商会

0

135,950

0

15,793,694

19,577,347

18,781,756

別表七

原告の係争各年分の事業所得金額

1 A方式による場合

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

<1>売上金額

34,014,330

37,745,650

34,588,000

<2>売上原価

15,793,694

19,577,347

18,781,756

<3>必要経費

12,687,345

14,079,127

12,989,643

<4>事業専従者控除

400,000

400,000

400,000

<5>事業所得

5,031,248

3,575,939

2,416,601

<5>=<1>-(<2>+<3>+<4>)

なお、<4>の必要経費の額は、昭和56年分は実額であり、昭和54年分及び昭和55年分は、右両年分の売上金額に、昭和56年分の売上金額に対する必要経費の割合である37.30パーセントを乗じたものである。

2 B方式による場合

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

<1>売上金額

34,014,330

37,745,650

34,588,000

<2>売上原価

15,793,694

19,577,347

18,781,756

<3>必要経費

12,554,689

14,267,855

13,686,471

<4>事業専従者控除

400,000

400,000

400,000

<5>事業所得

5,265,947

3,500,448

1,719,773

<5>=<1>-(<2>+<3>+<4>)

なお、<4>の必要経費の額は、係争各年分の売上金額に、同業者の平均経費率である、昭和54年分は36.91パーセント、昭和55年分は、37.80パーセント、昭和56年分は39.57パーセントを乗じたものである。

別表八

原告の係争各年分の売上

売上先

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

日硬陶器販売(株)

16,679,300

13,087,780

7,451,160

富士パッキング工業(株)

12,900,910

16,545,500

19,972,230

高砂工芸社

1,627,600

3,792,500

3,610,650

(株)かのぎやまん

0

1,605,500

1,936,010

見永商会

2,373,220

1,718,970

1,617,950

谷口木工所こと谷口登美夫

0

263,000

0

水谷巌

433,300

607,600

0

大和硝子(株)

0

124,800

0

34,014,330

37,745,650

34,588,000

別表九 <略>

別表一〇 <略>

別表一一 <略>

別表一二

同業者の経費率表(係争各年分)

(単位 %)

同業者

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

税務署名

記号

A

32.72

33.46

37.27

西

B

49.19

46.49

48.44

東大阪

C

39.08

42.33

40.69

城東

D

38.25

42.58

37.05

E

46.31

51.10

52.88

生野

F

24.91

22.37

23.85

G

27.89

26.24

36.80

258.35

264.57

276.98

平均経費率

36.91

37.80

39.57

別表一三

河内信用組合富田林支店における岡田和子名義の普通預金口座(乙第30号証)及び溝田義則名義の普通預金口座(乙第34、同42、及び、同43号証)への現金入金

(単位 円)

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

(1)岡田和子名義の普通預金口座への現金入金

<1>

3,033,626

<2>

2,070,000

<3>

120,400

(2)溝田義則名義の普通預金口座への現金入金

<4>

500,000

<5>

231,562

<6>

1,805,100

合計

3,533,626

2,301,562

1,925,500

<1> 岡田和子名義の普通預金口座への現金入金状況

年月日

金額

年月日

金額

年月日

金額

54.2.21

500,000

55.1.4

950,000

56.5.1

120,400

54.2.23

150,000

55.5.31

120,000

合計<3>

120,400

54.3.7

400,000

55.7.11

1,000,000

54.3.17

366,826

合計<2>

2,070,000

54.7.19

836,800

54.9.3

280,000

54.11.19

500,000

合計<1>

3,033,626

<2> 溝田義則名義の普通預金口座への現金入金状況

年月日

金額

年月日

金額

年月日

金額

54.3.5

500,000

55.3.5

3,000

56.2.19

1,500,000

合計<4>

500.000

55.5.27

5,000

56.4.30

305,100

55.5.31

100,000

合計<6>

1,805,100

55.7.31

100,000

55.9.25

23,562

合計<5>

231,562

別表一四の1 <略>

別表一四の2 <略>

別表一四の3 <略>

別表一五

売上先

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

日硬陶器(株)

16,679,300

13,087,780

7,451,160

富士パッキング工業(株)

12,900,910

16,545,500

16,972,230

高砂工芸社

1,627,600

3,792,500

3,610,650

(株)かのぎやまん

0

1,605,500

1,936,010

見永商会

2,373,220

1,718,970

1,617,950

谷口木工所こと谷口登美夫

0

263,000

232,200

水谷巌

433,300

607,600

0

大和硝子(株)

0

124,800

0

上記以外の取引による現金売上

8,208,626

7,606,562

10,543,200

42,222,956

45,352,212

45,363,400

原告の係争各年分の売上

別表一六 <略>

別表一七 <略>

別表一八

原告の係争各年分の事業所得金額

昭和54年分

昭和55年分

昭和56年分

<1>売上金額

34,014,330

37,745,650

34,820,200

<2>売上原価

15,793,694

19,577,347

18,781,756

<3>必要経費

12,551,287

14,264,081

13,774,871

<4>事業専従者控除

400,000

400,000

400,000

<5>事業所得

5,269,349

3,504,222

1,863,573

<5>=<1>-(<2>+<3>+<4>)

なお、<4>の必要経費の額は、係争各年分の売上金額に、同業者の平均経費率である、昭和54年分は36.90パーセント、昭和55年分は37.79パーセント、昭和56年分は39.56パーセントを乗じたものである。

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