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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)3号 判決 1990年10月26日

大阪市東住吉区今川四丁目一一番二〇号

控訴人

田中幸雄

右訴訟代理人弁護士

香川公一

吉岡良治

同市平野区平野西二丁目二番二号

被控訴人

東住吉税務署長 中山準一

右指定代理人

白石研二

国府寺弘祥

武田正徳

西口伸彦

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、平成二年六月二二日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和五七年三月一二日付で控訴人の昭和五三年分の所得税についてした更正処分及び同年五月一四日付で控訴人の昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税についてした各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  当審における控訴人の主張

(一)  実額反証について

推計課税は帳簿書類が全く欠落している等のため、実額課税が不可能な場合に認められるのであるから、たとえ、正規の帳簿は存在しておらず、また帳簿の記載が不備であつても、実額で事業所得を算出することが可能な場合には推計課税は認められないというべきである。課税庁としては、これらの資料を最大限生かして収支の実態に迫つて、実額で事業所得を算出すべきである。

(二)  本件における収入の実額について

(1) 本件においては係争年分の収入金額を実額で認定する証拠として売上帳、領収書控及び請求書控が存在するから、本件において実額認定は可能である。

もつとも、控訴人方の店舗の立地条件が悪かつたため客が少なく、来ても小物買いが殆どで日々記帳するのは煩雑であるので、妻が領収書控に基づいて纒めて売上帳を記載しており(なお、現金出納帳は記帳していなかつた。)、領収書を発行した場合でも、ローンの頭金の領収や割賦した金額及び仕入会社に対する相殺金額を売上帳に記載していなかつた外、年度が跨がつているとき、後で纒めて記載したとき、領収書は二枚になつているが、売上を一括して記載したりして月日や金額が相違しているとき及び小口の店頭売上のとき等にも売上帳に記載していない場合があり、逆に、ローン付で販売したときの中には売上帳に記載しているが領収書を発行していない場合があつて、売上帳の記載と領収書控とは必ずしも一致していない。また、領収書控や請求書控の中には書損じて破棄されたため、欠落している部分がある。しかしながら、控訴人は白色申告をしていたものであるところ、本件係争年分当時の所得税法においては、白色申告者の記帳については何ら規定されておらず、帳簿間の整合性は要請されていなかつたから、売上帳と原始記録との間に一致していない部分があるとしても、右のようなわずかな記載洩れや破棄された部分があることをもつて、右売上帳等の信用性を否定すべきではない。

(2) 係争各年分の収入金額

昭和五五年分の収入実額は、次のとおり売上帳の記載に基づいて算定すべきである。すなわち、店頭売上に係る昭和五五年分の仕入商品の合計は別紙一の別表1ないし6記載のとおり金六一万四七〇九円であり、その利益率は平均二〇パーセントであるから、右仕入金額を〇・八で除せば、金七六万八三八六円となる。したがつて、領収書を発行していない店頭販売は年間約八〇万円とみることができる。そして、昭和五五年分の売上帳記載の売上の合計金額は金二〇二〇万八六五三円であるが、この中には前年中に販売したが昭和五五年一月になつて入金された分(金五九万九四二九円)が含まれているから、これを控除し、逆に同年中に販売したが昭和五六年になつて入金されている分(金六四万二七六〇円)が除かれているから、これを加算して計算すれば、昭和五五年分の収入金額の実額は金二一〇五万一九八四円となる。

また、同様に計算した控訴人の収入実額は、昭和五三年分が金一七二九万一五三九円、昭和五四年分が金一八二九万四六二五円となる。

(三)  特別経費について

控訴人は、必要経費として別紙二記載のとおりの減価償却費(昭和五三年分、昭和五四年分が各三四万六三七一円、昭和五五年分が三八万二三二一円)及び昭和五三年分売上中不良債権二三万円についての貸倒損失(昭和五三年分、昭和五四年分が各金一一万五〇〇〇円)があるので、これを収入金額から控除すべきである。

(四)  推計の合理性がないことについて

控訴人は電気工事業を営んでいるが、一般の同業者に比べて、立地条件が悪く、下請業務が五〇パーセントを超えており、しかも、電気工事の中でも利益率が最も低い電気製品取付けを中心に行い、雑工事については無料サービスしていたため、差益率が極めて低かつた。したがつて、本件において被控訴人の採用した推計方法は合理性を欠くというべきである。

2  当審における控訴人の主張に対する被控訴人の答弁

当審における控訴人の主張はいずれも争う。

3  当審における被控訴人の主張

(一)  実額反証について

課税庁が推計課税について一応の立証をしている場合において、納税者が所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された額が右実額と異なるとして推計課税の違法性を立証するためには、その主張する実額が真実の所得額に合致することを合理的疑いを容れない程度に立証(証明)しなければならず、いわゆる反証を行えば足りるというものではない。

したがつて、所得の実額を主張する納税者は、単にその主張する収入及び経費の各金額を証明するだけでは足りず、その主張する収入金額が全ての取引先からの全ての収入金額(総収入金額)であること及びその主張する経費の金額がその収入と対応する必要経費であることまでを証明しなければならないのである。

(二)  控訴人の実額の主張・立証について

控訴人は、売上帳、仕入帳、経費帳、領収書控及び請求書控により控訴人の所得金額を実額により認定できると主張するが、控訴人は全ての帳簿の基礎となる現金出納帳すら作成していない上、右各帳簿書類はそれぞれ独立して、単に売上代金の入金、仕入代金の支払及び経費の支払を羅列したものにすぎない。しかも、領収書控及び請求書控は次のとおりその全てが提出されているのではなく、売上帳の記載内容と一致していないから、売上帳の記載の真実性、正確性を検証するに十分な原始記録とはいえない。また、売上金額以外については原始記録は何ら提出していない。したがつて、控訴人の主張する収入金額が全ての取引先からの全ての収入金額(総収入金額)であることについて全く証明されておらず、経費の実額も証明されていないから、控訴人の本件係争各年分の事業所得は実額によつて把握することはできない。

(1) 収入金額

控訴人が収入金額の実額主張の根拠としている売上帳は、後で纒めて記載するなど粗雑な記載方法で作成されていた上、次のとおりその原始記録である領収書控又は請求書控の全てが提出されているのではなく、しかも、売上帳の記載とその記載内容が一致していないから、到底信用できず、右売上帳で控訴人の主張する売上の実額を証明することはできない。

<1> 領収書控について

領収書控はその一部が別紙三記載のとおり破棄されており、その全てが提出されていない。

また、控訴人が収入金額の実額主張の根拠としている売上帳と領収書控とを比較すれば、領収書控があつて売上帳に記載のないものは別紙四の別表1ないし6記載のとおりであり、逆に売上帳に記載があつて領収書控がないものは別紙五の別表1ないし6記載のとおりである。

<2> 請求書控について

控訴人が使用していた請求書は本票と控の二枚一組となつており、書損じ等で使用しない場合は破棄せずにそのまま保存するものである。ところが、控訴人の提出した請求書控は別紙六の別表1ないし4記載のとおり相当部分が破棄されているので、控訴人の売上金額の全てを基礎づけるものではない。

また、売上帳と請求書控とを比較すれば、請求書控があるにもかかわらず売上帳に記載のないものは別紙七の別表1ないし5記載のとおりであつて、本件係争年分のうち、中間の年分である昭和五四年分についてみると合計金二七一万八〇七五円が売上帳に記載洩れとなつている。

(2) 仕入金額について

控訴人が提出した仕入帳は、取引の都度記載されたものではなく、これを裏付ける請求書、領収書、納品書等の原始記録は提出されていないので、右仕入帳記載の金額が控訴人の仕入金額の全てであるか否か一切不明である。したがつて、控訴人の仕入金額についての主張は理由がない。

(3) 経費について

控訴人は経費については経費帳を提出するだけで、その支払金額を証する領収書等の原始記録を提出していないので、支払の事実及び金額並びに右支払が控訴人の事業に直接要し、又は業務に関連した支出であるか否か一切不明である。したがつて、控訴人の経費についての主張は理由がない。

(三)  時機に後れた攻撃防禦方法の主張

控訴人は、昭和五九年二月一七日に本件訴訟を提起して以来、原審においては昭和六〇年七月三〇日に収入金額の実額に関する証拠として昭和五五年分の売上帳を提出しただけであつたが、控訴審に至つて初めて昭和五三年分及び昭和五四年分の売上帳、経費帳及び領収書控を提出した。

しかし、右各書証がそのころに作成されていたものであれば、原審において提出できたはずである。また、本件係争年分の取引の発生からすでに約一〇年を経過して取引の相手方の資料保存義務年限の経過による資料の散逸、滅失及び廃棄等のため、被控訴人において右各書証の正確性を確認することが著しく困難であつて、控訴人の主張する実額が真実の所得金額であるか否かの検討は事実上不可能に近いことに照らせば、控訴審に至つて初めて提出された右各書証は時機に後れた攻撃防禦方法であり、かつ、訴訟を遅延させるものであるから、民事訴訟法第一三九条第一項により右各書証の提出は却下されるべきである。

三  証拠関係は、原審訴訟記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審訴訟記録中の書証目録に各記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、本件各処分は手続的にも実体的にも適法であつて、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと考える。その理由は次のとおり付加・訂正する外は、原判決が説示する理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一七枚目表一〇行目の「主張するのに対し」から同一九枚目表七行目から八行目にかけての「検討する。」までを「主張する(以下「本件推計」という。)ので、本件推計が合理性を有するか否かについて検討する。」と、同九行目の「(1)」を「(一)」と、それぞれ改め、同裏一二行目の「年間を」から同行の「営んでいること、」までを削除し、同二一枚目表二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(二) これに対し、控訴人は、控訴人の営業は他の電気工事業者に比べて立地条件が悪いこと、下請が多いこと、差益率(粗利益)が低い電気製品取付工事が中心であること及び雑工事等を別項目とせずに経費に含めて請求していること等差益率(粗利益)が低くなる特殊事情があつたから、本件において被控訴人が採用した本件推計は合理性がない旨主張する。

しかし、同業者の平均値で推計する場合は、業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は、平均化によつて捨象されており、しかも、本件においては前記のとおり選定された同業者の数が各係争年分とも一一件と多数であつて、平均化するには十分な数であるというべきである。また、控訴人の主張する特殊事情が前記平均値による推計自体を著しく不合理ならしめるほどに顕著なことを認めるに足りる証拠はない(ちなみに、控訴人は電気工事の差益率(粗利益)は屋外配線工事が最も高く、次いで屋内配線工事であり、最も低いのが電気製品取付工事であると主張するところ、控訴人の営んでいた電気工事の主たる業務内容が屋内配線工事であつたことは前認定のとおりである。)。

(三) したがつて、被控訴人が控訴人の係争各年分の事業所得金額を算出するにあたつて採用した本件推計方法は、係争各年分の仕入金額が実額で把握できるが、収入金額と仕入金額以外の必要経費が実額で把握できない場合の事業所得算出方法として、合理性を有するというべきである。

3  控訴人は、控訴人の係争各年分の所得金額は実額で認定でき、この金額に照らしてみると、本件推計による本件各処分はいずれも控訴人の所得を過大に認定しており、違法である旨主張する。

(一)  推計課税における実額反証の証明責任

推計課税は、実額課税と同様に真実の所得額を認定するために、納税者が実額を算定するに足りる帳簿書類などの直接資料を提出せず税務調査に協力しない場合に、やむを得ず真実の所得額に近似した額を間接資料により推計し、これをもつて真実の所得額と認定する方法であり、課税庁において右推計課税の合理性につき立証した場合には、特段の反証のない限り、右推計課税の方法により算定された額をもつて真実の所得額であると認定するものである。

そして、申告納税制度において自己の申告所得額が正しいことを説明すべき納税者が、税務調査に協力せずに課税庁に推計課税を余儀なくさせた上、実額反証において立証責任を負担しないとすれば、誠実な納税者よりも利益を得ることになつて不当であること及び納税者の経済行為については第三者たる課税庁よりも当事者たる納税者が自己に有利な証拠を提出することが容易であることに照らせば、納税者が推計課税取消訴訟において所得の実額を主張し、推計課税の方法により認定された額が右実額と異なるとして推計課税の違法性を立証するためには、納税者においてその主張する実額が真実の所得額に合致すること、すなわち、その主張する収入金額が全ての取引先からの全ての取引についての収入金額(総収入金額)であること及び必要経費が実際に支出され、当該事業と関連性を有することを立証しなければならないものというべきである。

なお、控訴人は、白色申告者には帳簿の備付けが義務付けられていないのであるから、帳簿間の整合性まで立証させるのは不当であるというけれども、もともと事業所得額の実額による把握は、総収入金額と必要経費を正確に記帳した会計諸帳簿によつて算出し、かつ、その帳簿の真実性、正確性を売上や経費に係る請求書や領収書等の原始記録によつて確認することによつてなされるのであるから、推計課税取消訴訟において所得の実額反証をする納税者は、白色申告者であつても実額を主張する以上、収支関係を明らかにする何らかの帳簿、原始資料等に基づいて主張するはずである。したがつて、右納税者は、これらを提出してその真実性、正確性を証明することによつて、実額を立証することとなるのであるから、立証責任を負う納税者において帳簿間の整合性等を立証することは当然であり、不当とはいえない。

(二)  本件における収入金額に関する実額反証

控訴人は、係争各年分の収入金額は売上帳に基づいて実額で把握することができ、昭和五三年分が一七二九万一五三九円、昭和五四年分が一八二九万四六二五円、昭和五五年分が二一〇五万一九八四円であると主張し、係争各年分の売上帳(昭和五三年分については甲第七号証の一ないし一三、昭和五四年分については第八号証の一、二八ないし四三、昭和五五年分については第五号証の一、三二ないし五八)にはそれぞれ右主張に副う記載があり、これを裏付けるかのような記載のある原始記録として領収書控(昭和五三年分については甲第一〇ないし第二五号証、昭和五四年分については第二六ないし第三六号証、第三七号証の一ないし二一、昭和五五年分については第三七号証の二二ないし五一、第三八ないし第四六号証、いずれも枝番があるものは枝番を含む。)及び請求書控(甲第七五ないし第九四号証、枝番があるものは枝番を含む。)が存在する。

(1) ところで、被控訴人は、控訴人が控訴番に至つて初めて提出した昭和五三年分及び昭和五四年分の売上帳、経費帳、領収書控等は時機に後れた攻撃防禦方法であり、かつ、訴訟を遅延させるものであるから、民事訴訟法第一三九条第一項により右各書証の提出は却下されるべきであると主張するので、検討する。

控訴人の原審における本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は昭和五九年二月一七日に本件訴訟を提起して以来、昭和六〇年七月三〇日の原審第一二回口頭弁論において経費の実額に関する証拠として甲第五号証の一ないし三一を提出し、昭和六一年七月二日の原審第一八回口頭弁論において収入金額の実額に関する証拠としては昭和五五年分に関する売上帳(甲第五号証の三二ないし五八)を提出したこと、控訴人は原審において昭和五三年分や昭和五四年分についても売上帳を作成している旨供述しているが、これを原審において提出しない理由については明確に述べずに、領収書等の原始記録については押入れの中等を探してみなければ分からない旨供述していたこと及び控訴審に至つて初めて前記昭和五三年分の売上帳、経費帳及び領収書控等を提出したことが明らかであり、控訴人の右各書証については、各書証間の整合性等を検討するために更に証拠調べを要することが認められる。

しかしながら、控訴人の原審における本人尋問の結果に照らせば、控訴人の会計諸帳簿の保管状態が悪いことが窺われる上、昭和五三年分や昭和五四年分の売上帳、領収書等の原始記録は極めて大量であるから、その整理や提出の要否の検討に相当長期間を要するものと認められないわけではない。そして、控訴人は控訴審における審理の初期の段階で前記各書証を提出したのであるから、必ずしも訴訟の完結を遅延させるものとは認め難く、原審及び当審を通じて全体として本件訴訟の進行を検討すれば、前記各書証の提出が時機に後れた攻撃防禦方法であるとまではいうことはできない。

したがつて、被控訴人の右主張は採用できない。

(2) そこで、次に、控訴人が実額主張の根拠とする売上帳の信用性、正確性について、検討する。

<1> 前掲甲第七号証の一ないし一三、第八号証の一、二八ないし四三及び第五号証の三二ないし五八(各売上帳)及び控訴人の原審における本人尋問の結果によれば、控訴人は売上帳に電気工事関係を含めて掛売りに関する売上を妻に記載させていたが、同女は日常の取引の都度右の記載をしたのではなく、一週間ないし一〇日間分を纒めて記載していたこと、そのため売上帳の日付が逆になつている箇所が散見されること、控訴人方では店頭での商品の現金販売があつたが、右現金売上は売上帳に記載していなかつたこと及び控訴人方では売上金額を管理するための現金出納帳を作成していなかつたことが認められる。

右認定事実によれば、控訴人が実額主張の根拠とする売上帳には、店頭で電気製品を現金で販売した分が含まれていないことは明らかである。

これについて、控訴人は、例えば昭和五五年分について店頭売上に係る仕入商品は別紙一の別表1ないし6記載のとおりであり、その合計金額が金六一万四七〇九円で、利益率が平均二〇パーセントであるから、領収書を発行していない店頭販売は年間約八〇万円とみることができるというけれども、控訴人が摘示する別紙一の別表1ないし6記載の商品が『店頭売上に係る商品』であること及び利益率が二〇パーセントであることについてはこれを認めるに足りる証拠がない。しかも、控訴人は原審において店頭現金売上金額はレジの伝票で判明するところ、自宅に右伝票がかなり存在していることを確認した旨供述しながら、右伝票を証拠として提出しないのであつて、控訴人の右主張は到底採用できない。

<2> また、控訴人は、売上帳の基礎となつた資料は領収書控と主張するので(なお、控訴人は当初『売上帳の控え(領収書)』と表示して売上帳の基礎となつた資料が領収書控であるかの如く主張し〔控訴人の当審第三回準備書面及び第五回準備書面〕、その後、請求書控であると主張し〔同第六回準備書面〕、更に再度領収書控であると主張して〔同第七回準備書面〕、その主張が変遷していることが記録上明らかであるところ、実額反証の根拠となる売上帳の基礎となる資料がいずれであるかについて右のとおり主張が変遷していること自体不自然といわざるをえない。)、領収書控によつて売上帳の記載の信用性が裏付けられるか否かについて、検討する。

前掲甲第一〇ないし第七四号証(枝番があるものは枝番を含む。いずれも領収書控)によれば、控訴人が使用していた領収書綴りは本来一綴り五〇枚のものであるところ、控訴人の提出にかかる本件領収書控には別紙八記載のとおり破棄されている部分があり、控訴人の本件係争各年分の領収書綴りの全ての控ではないことが認められる。

この点について、控訴人は右破棄された部分は単なる書損じであるというけれども、一般に領収書を書損じた場合は副片ないし本片を残すのが通常であり、本件領収書控においてもかなりの枚数がそのように処理されて文字の抹消等何らかの記載があることが認められる(例えば甲第三八号証の四〇)。ところが、前記破棄された部分はこれと異なる取扱がされている上、その数も少なくないから、単なる書損じであるとするには疑問の余地がある。

また、前記各年分の売上帳と領収書控とを対比すれば、売上の領収書控があるにもかかわらず、売上帳にその記載のないものが、別紙四の別表1ないし6記載のとおり(但し、同3のうち甲号証番号三五の二、三五の一六、三五の一八、三五の三〇の分を削除し、同4のうち領収金額欄の合計金額を「二一四万五三〇五」と、請求金額のそれを「一八六万六〇九五」と、同5のうち甲号証番号四六の二〇の氏名を「三菱重工エアコン」と、それぞれ訂正する。)昭和五三年分が合計金七万一〇〇〇円、昭和五四年分が合計金二一四万五三〇五円、昭和五五年分が合計金七七万二一一一円と多額に上ることが認められる。

さらに、控訴人も、年度が跨がつているとき、後で纒めて記載しているとき、領収書控は二枚になつているが、売上を一括して記載したりして月日や金額がずれているとき等に領収書を発行しながら売上帳に記載していない場合があつて、売上帳の記載と領収書控とが一致していないことを自認しているから、売上帳の記載が控訴人の売上の全てでないことは明らかである。

このように、領収書控に欠落部分があり、しかも売上帳の記載と一致していない以上、領収書控は売上帳の記載の信用性、正確性を裏付けるものではないという外はない。

なお、前記各年分の売上帳と領収書控とを対比すれば、控訴人の売上について、売上帳に記載があるにもかかわらず、領収書控がないものが別紙五の別表1ないし6記載のとおり昭和五三年分が合計金一二五万二一七六円、昭和五四年分が合計金四三三万一〇六五円、昭和五五年分が合計金二一一万八〇八〇円と多額に上つていることが認められる。このことは控訴人が売上の際領収書を発行していない場合が多いことを示すものといわざるをえず、領収書控を基に控訴人の真実の全ての収入金額を算定することも不可能である。

<3> なお、控訴人の原審における本人尋問の結果中には、売上帳は請求書控に基づいて記載されていた旨の供述部分があるけれども、前掲甲第七五ないし第九四号証(枝番があるものは枝番を含む。いずれも請求書控)及び前記売上帳によれば、控訴人が使用していた請求書には売上年月日、請求年月日(多くは毎月二〇日付)の記載があるが、売上帳に記載された年月日と一致しておらず、請求書控を基に売上帳を記載することはできないことが認められるから、控訴人の右供述は信用できない。

また、前掲請求書控及び売上帳によれば、控訴人が使用していた請求書綴りは本来甲第七九ないし第八七号証の分は一綴り一〇〇枚のものであり、甲第八八ないし第九四号証の分は一綴り五〇枚のものであるところ、本件請求書控には別紙六の別表1ないし4記載のとおり(但し、同4の番号一一六の「一枚」を「二枚」と訂正する。)破棄されている部分があり、控訴人の本件係争各年分の請求書綴りの全ての控ではないこと及び売上の請求書控があるにもかかわらず売上帳にその記載のないものが、別紙七の別表1ないし5記載のとおり昭和五三年分が合計金五三万六一二〇円、昭和五四年分が合計金一九四万二九四五円、昭和五五年分が合計金二三万九〇〇〇円と多額に上ることが認められるから、右請求書控を売上帳の記載の信用性、正確性を裏付ける資料ということはできない。

<4> さらに、前掲乙第一四号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一五号証と前掲甲第五号証の三二ないし五八(昭和五五年分売上帳)を対比すれば、控訴人が昭和五五年中に三菱電気クレジツト株式会社の扱いで、ローンで販売した二件の取引について控訴人が頭金として合計四万七八〇〇円を受領しており、また、控訴人が同年一二月上西建装株式会社から工事代金として四万九一五〇円の支払を受けたのに、いずれも右売上帳に記載されていないことが認められる。

(3) 以上によれば、控訴人が収入金額について実額主張の根拠とする売上帳の記載の信用性、正確性については控訴人がその原始資料であると主張する請求書控ないし領収書控によつても裏付けられておらず、前記売上帳の記載が掛売り分に関する全ての売上を正確に記載していたとは認められないから、売上帳の記載から控訴人の係争各年分の総収入金額を実額で把握することはできず、他に本件において控訴人の収入金額を実額で認めるに足りる資料はない。したがつて、前記のとおり合理性が認められる本件推計によつて推計した金額をもつて収入金額と見るべきである。」

2  同二一枚目表三行目の「(2) そこで、まず、被告主張の」を次のとおり改める。

「4 収入金額

そこで、本件推計に基づいて控訴人の係争各年分の収入金額を算定する。

(一)  まず、控訴人の」

3  同二二枚目裏末行の「(3)」を「(二)」と、同行の「前記(2)」を「前記(一)」と、同二三枚目表初行の「前記(1)」を「前記2の(一)」と、それぞれ改める。

4  同二三枚目表六行目の「(二)」を「5」と、同八行目の「(1) 原告は」から同九行目の「対し、」までを「(一) 係争各年分の経費について、」と、同末行の「主張するので、」から同裏二行目末尾までを「主張するところ、本件推計が合理性を有することは前記のとおりである。」と、同三行目の「(2) 原告の」から同五行目の「昭和五五年分の」までを「(二) これに対し、控訴人は係争各年分の経費が実額で把握できることを前提として経費は原判決添付別表八記載のとおりの金額(実額)であると主張し、昭和五三年分の」と改め、同六行目の「証拠として、」の次に「甲第九号証の一ないし三〇、昭和五四年分につき第八号証の二ないし二七、昭和五五年分につき」を加え、同九行目の「しかしながら、」の次に「右各経費帳はこれを裏付ける領収書等の原始記録が提出されていないので、右経費帳に記載された金額の支払が現実になされたのか、また、それが控訴人の業務に関連して支出された経費といえるか否かは不明というほかはない。また、例えば、昭和五五年分の経費帳についてみると、」を、同二四枚目裏四行目の末尾に「そして、他に控訴人主張の経費を実額で認定することができる証拠はない。」を、それぞれ加え、同五行目の「(3)」を「(三)」と、同一二行目の「前記(一)」を「前記4」と、それぞれ改める。

5  同二五枚目表五行目の「(三) 給料賃金」を次のとおり改める。

「6 特別経費

(一)  給料賃金」

6  同二五枚目裏七行目の「(四)」を「(二)」と、同二六枚目表初行の「(五)」を「(三)」と、それぞれ改め、同一二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(四) 減価償却費

控訴人は別紙二記載の減価償却費が必要経費として認められるべきであるというけれども、減価償却資産を取得している事実、取得金額、取得年月日、構造等を認めるに足りる証拠はないから、控訴人の右主張は採用できない。

(五) 貸倒損失

控訴人は、貸金の貸倒損失が必要経費として認められるべきであるというけれども、控訴人に税法上必要経費に算入すべき債権の貸倒が発生したことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人の右主張は採用できない。」

7  同二六枚目表末行の「六」を「7」と改める。

二  したがつて、控訴人の本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものであり、これと趣旨を同じくする原判決は正当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川臣朗 裁判官 永松健幹 裁判官緒賀恒雄は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 中川臣朗)

別紙一

別表1

仕入先 大栄電気資材株式会社(昭和55年分)

<省略>

別表2

仕入先 不二電機株式会社(昭和55年分)

<省略>

別表3

仕入先 関西三菱電機商品販売株式会社(昭和55年分)

<省略>

別表4

仕入先 関西三菱電機商品販売株式会社(昭和55年分)

<省略>

別表5

仕入先 南大阪三洋販売株式会社(昭和55年分)

<省略>

別表6

仕入先 南大阪三洋販売株式会社(昭和55年分)

<省略>

別紙2

減価償却計算表

<省略>

別紙三

<省略>

別紙四

別表1

<省略>

別表2

<省略>

別表3

<省略>

別表4

<省略>

別表5

<省略>

別表6

<省略>

別紙五

別表1

<省略>

別表2

<省略>

別表3

<省略>

別表4

<省略>

別表5

<省略>

別表6

<省略>

別紙六 別表1

<省略>

別表2

<省略>

別表3

<省略>

別表4

<省略>

別紙七

別表1

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別表2

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別表3

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別表4

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別表5

<省略>

別紙八

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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