大判例

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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1219号 判決 1988年2月24日

控訴人

大阪大和信用組合

右代表者代表理事

田中源治

右訴訟代理人弁護士

遠田義昭

田中博

被控訴人

大阪産業信用金庫

右代表者代表理事

粟井賢文

右訴訟代理人弁護士

宇佐美明夫

宇佐美貴史

辻芳廣

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。大阪地方裁判所が同庁昭和六〇年(ケ)第二六八号・同年(ケ)第七九〇号競売事件について作成した配当表を変更し、控訴人に総計六三四〇万七一四〇円、被控訴人にはその余を配当する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は左のとおり附加するほか原判決の事実摘示と同一であるからこれをここに引用する(ただし、原判決三枚目裏一〇行目の「六六九六万円」を「六六九六万八〇〇〇円」と訂正し、同五枚目表五行目の「という」を削除する。また、全文中の「異義」を「異議」と訂正する。そして、当裁判所は、以下、原判決のいう「第一土地」を「本件土地」と、滅失した「第二建物」を「旧建物」と、その跡に新築された「第三建物」を「新建物」という。)。

(控訴人の主張)

1  本件配当表の配分率が違法不当であることは次の点からも明らかであるからこれを追加主張する。

すなわち、控訴人は本件土地につき所有権移転請求権保全の仮登記権利者でもあつたところ、判例理論によれば「所有権移転請求権保全の仮登記のなされた土地の上に存する右土地所有者の所有する建物について、抵当権が設定された場合には、右建物の競落人は法定地上権を取得するが、右仮登記に基づいて所有権移転の本登記を経た者に対しては右法定地上権をもつて対抗することが出来ない」(最判昭和四一年一月二一日民集二〇巻一号四二頁)。したがつて、仮に被控訴人が新建物の抵当権者として本件土地につき(潜在的)法定地上権を有する関係にあつたとしても、これを控訴人に対抗しえないものである。

2  次に、以下において原判決の結論の不当性を指摘する。

(一)  まず、原判決の結論は、実質的にみて明らかに不公平であり、取引社会における一般市民の法感情にそわないものである。けだし、控訴人は本件において被控訴人に先んじて本件土地と旧建物に共同抵当権の設定をうけ、少なくとも一旦は本件土地と旧建物の交換価値の全部を把握していたにもかかわらず、旧建物の取壊し、新建物の再築という抵当権設定者の一方的不法行為により、控訴人の共同抵当権者としての利益が奪われ、反面本来ならば控訴人に劣後するはずの被控訴人に過大な利益を与える結果となつているからである。

(二)  次に、原判決は、新建物につき法定地上権が成立するという点(理由三1)については旧建物が存在することを仮定する一方、法定地上権相当分を控訴人に帰属させるべきでないという点(理由三2)については、旧建物の滅失不存在を理由にするという矛盾をおかしている。法定地上権の成否の点で旧建物の存在が仮定され、このことを立論の前提とするのであれば、法定地上権相当額の配当についても旧建物が存在するものとして控訴人に右価額の配当を認めるのが論理上一貫している。原判決は執行裁判所の判断を是認せんがために相矛盾する形式論理を使い分けただけで、論理の整合性については全く論及していないのである。

(三)  また、当初から土地についてのみ抵当権を有するにすぎない者と、控訴人のように土地建物につき共同抵当権を有していたが事後的事情で建物が滅失したため、たまたま土地についてのみ抵当権を有するに至つた者とでは利益状況が異なる。後者の場合、抵当権設定者の事後的一方的行為により抵当権者の当初の利益を奪うような法的構成を避けるべきである。

いまここで控訴人の利益状況を時系列的にみると次のとおりである。すなわち、(イ)控訴人が当初旧建物と本件土地につき共同抵当権を取得した時点では、控訴人は右両物件の交換価値を全面的に把握していた。したがつて、本件土地については更地価額で優先権を有していた。(ロ)次に旧建物が取り壊された時点では旧建物にかかる抵当権は形式的に消滅したことになるが、他方、本件土地については前記(イ)の場合と同様名実ともに更地としての価額を把握していたものである。原判決はこのことを「反射的結果である」というがそのような説明は誤りである。次のようなケース、すなわち、建付地の土地のみに設定した抵当権を建物滅失後に実行した場合に、該抵当権者が更地価額相当額につき優先配当を受けうるのであれば、これを反射的結果ないし利益といえるであろう。しかし、このような場合には、むしろ、該抵当権者は更地価額から法定地上権相当額を控除した額についてのみ優先配当を受けうると解するのが学説である(高木多喜男「担保物権法」一九三頁)。これに対し、本件のように土地建物の双方が共同抵当とされていて抵当権設定後に何らかの事情で建物が滅失した場合には、少なくとも土地については更地としての価値を有することが期待されているというべきである(東京地判昭和四六年七月二〇日、金融法務事情六二七号三七頁)。そして、以上はいずれにしても法定地上権を念頭において、しかも両ケースの利益状況が異なることを考慮した結果にほかならない。(ハ)そうだとすれば、その後新建物が再築された時点においても、引き続き、控訴人の本件土地についての更地としての価値権把握を保護するのが当然である。一方、新建物の抵当権を取得した被控訴人は、控訴人が土地建物に共同抵当権を取得後同地上に新たに建てられた別の建物の抵当権者と同視しうる。そして、このケースでは、判例は「土地抵当権設定後に建てられた建物についても法定地上権が成立するが、建物競落人はそれをもつて土地抵当権者(又は土地競落人)に対抗することが出来ない」と判示しているところである(大判大正一五年二月五日民集五巻八二頁)。以上のように考えるのが、最も関係人の利益状況に合致していることはいうまでもない。また、理論的にも、(ハ)の時点では、新建物は旧建物と実質上同一と解すれば、旧建物に附着していた控訴人の(潜在的)法定地上権はそれが新建物になつても当然控訴人に帰属されると考えれば整合性を保ちうる(すなわち、法定地上権の存在を終始念頭において考えうる。)。

(被控訴人の主張)

1 右1の主張は争う。右主張は仮登記担保契約に関する法律(ことに同法一六条、一七条並びに同法一三、一五条等)を無視したものでそれ自体無意味な主張である。本件は控訴人自らの抵当権と被控訴人の根抵当権の実行による競売手続における配当に関する。

2 右2の原判決批判も争う。建物とその敷地の共同抵当権者は、その敷地について更地価額相当の優先弁済権を有するとの主張は誤つている。また、この場合、旧建物が取り壊わされたからといつて直ちに土地の更地価額としての担保価値を把握したことにはならない。再築された場合には右新建物につき法定地上権を認めるのが通説判例である。この点、建物滅失中に競売がされた場合ですら法定地上権の成立を認め、建物滅失後に再築して利用することを断念したと認める事情があるときに限つてこれを否定する見解が有力であることも参考にすべきである(我妻・判例民事法昭和一〇年度九八事件三九四頁参照)。

証拠関係<省略>

理由

第一被控訴人の本案前の抗弁について

当裁判所も被控訴人の妨訴抗弁は失当であると思料するものであつて、その理由とするところは原判決の理由説示(その八枚目裏末行から同一〇枚目表一四行目まで)と同一であるからこれをここに引用する(ただし、原判決九枚目表末行の「できるであり、」を「できるのであり、たとえその事由が」と訂正し、同一〇枚目表一一行目の「原告は、」の次に「代金割付配分率決定の基礎となる」を附加し、また全文中の「異義」を「異議」と訂正する。)。

要するに、配当異議訴訟における原告(控訴人)は、被告(被控訴人)が配当表記載のとおりの配当を受けえず、かえつて原告(控訴人)に同表記載の配当額より多い配当が与えられるべきであることを理由あらしめる実体上、手続上の一切の事由を主張しうると解すべきである。

第二本案について

1  控訴人主張の請求原因1ないし7の事実は当事者間に争いがない。そして、これを要約すると、(イ)まず、控訴人はいずれも竹内所有の旧建物及びその敷地である本件土地に共同抵当権(被担保額四二〇〇万円、債務者竹内)を有していた。(ロ)しかるに、その後旧建物が取り壊され、その約二カ月後その跡に株式会社カチコ所有の新建物が新築され、被控訴人は間もなく右新建物及び本件土地につき共同根抵当権(極度額八〇〇〇万円、債務者竹内)を取得するにいたつた。(ハ)その後新建物と本件土地の所有権はいずれもその所有者から織田に移転したが、やがて控訴人がまず本件土地につき担保競売の申立てをし、次いで被控訴人が本件土地及び新建物につき同じく担保競売の申立てをし、これを受けた原審執行裁判所は両事件を併合のうえ本件土地と新建物を一括売却に付し、得た売却代金一億一三一二万円につき原判決末尾添付目録のとおりの配当表を作成した。(ニ)ところで、以上のような権利関係に照らすと、本件担保競売手続にさいしては、民執法一八八条、八六条二項に基づき本件土地と新建物ごとに代金割付最低価額(ただし、本件ではこれを両物件の最低価額の案分率の形で表示)を定める必要があつた。(ホ)しかるところ、右案分率―本件土地0.3173、新建物0.6827―は、一方では新建物の価額を、新建物自体の価額のほか、その敷地である本件土地につき旧建物が現存していると仮定した限度での法定地上権が附着していると解しその価額をも加算したものとし、他方その反面として、本件土地の価額は更地価額から右法定地上権価額を控除した底地価額であるとしたうえ算出されたものであり、本件配当表も右案分率に拠つて作成されている。本件においては、以上の事実は当事者間に争いがない。

2  控訴人は、本訴において、本件配当表作成過程における右(ホ)の案分率(本件案分率)算出方法が違法不当であり、むしろ右案分率は本件土地を更地価額(何らかの減額理由があるとしても少くともその一〇パーセント減の価額)を基礎として算出すべきであると主張するので以下項を改めてその当否について検討する。

3  控訴人の右主張の争点は、基本的には、前記事実関係において、担保競売により競落された新建物に民法三八八条所定の法定地上権が附着するか否か、またその内容如何にある(請求原因8(一)関係)。

(一)  そこで按ずるに、まず、控訴人が旧建物及びその敷地である本件土地に共同抵当権を取得した当時(前示1の(イ)の段階)これらはともに竹内の所有に属していたから旧建物については有利に、本件土地については不利に、それぞれ(潜在的に、すなわち、将来競売の場合に―なお、以下、この限定的修辞は省略する―)法定地上権が設定されたとみなすべきである。民法三八八条は「其土地又ハ建物ノミヲ抵当ト為シタルトキ」と定めているが、右は土地建物を共同抵当としたときを除外した趣旨のものと解すべき合理的理由はない(最高裁昭和三七年九月四日判決民集一六巻九号一八五四頁)。

以上の点について、控訴人は、前記共同抵当権取得は土地につき前示のような法定地上権が付着することを避けるためにしたものである旨るる主張し、現に控訴人がこのようにして旧建物と本件土地の全価値権を同時に把握したことは事実である。しかし、前記の法理によれば、控訴人の右全価値権の把握は、観念的には、法定地上権付着の旧建物の価値と法定地上権価額を控除した本件土地の底値価格とを合算した価値を同時把握した結果であつて、旧建物の建付価額と本件土地の更地価額の合算額相当の価値を把握したためではないと解すべきである。したがつて、控訴人があたかも本件土地につき抵当権を取得したことのみによつてその更地価額相当の全価値を把握したかのように主張する部分はいずれも採用することができない。

(二)  次に、旧建物が取り壊されその跡に新建物が再築された時点(前示1(ロ)の段階)についてみるに、この場合においても、新建物について、旧建物が存続していると仮定した限度での法定地上権がそのまま存続附着し、反面、本件土地は従前旧建物が存在したときと同様の法定地上権を引き続き負担していると解するのが、右取壊しと再築の期間が僅か二ヵ月であることや当初の抵当権設定当時の当事者の意思の合理的解釈上も、相当である。

もつとも、前記当事者間に争いのない1(ロ)の事実関係によれば、新建物の所有者は旧建物所有者竹内ではなく、カチコとなり、その限りにおいて、土地と建物の所有者の同一性は一応失われたのであるが、カチコは旧建物取壊し直後、新建物再築直前に設立され、かつその代表者を旧建物所有者であつた竹内とするほかその他の役員にも身内の者が就任していると思われる同族会社であること(成立に争いない甲第四、第八号証)、カチコはその後新建物を竹内個人のため被控訴人に物上保証していること、カチコと竹内との間で本件土地の使用につき特段の契約がなされた形跡はないこと(通常、他人土地に建物を新築する場合には何らかの土地使用契約を締結することが法律上も経済上も必要となることはいうまでもない。)等の点を考えると、新建物の所有者は実質上竹内個人と解しても妨げないと解しうるところであつて、前記のような形式的な地上建物所有者変更の事実だけで前示法定地上権の成立を否定することは相当でない(大審院昭和一三年五月二五日判決民集一七巻一一〇〇頁参照)。

また、前記旧建物の取壊し、新建物の再築が、控訴人主張のとおり、竹内の所業であり、これが控訴人に対する旧建物抵当権の侵害となり、ひいては不法行為ともなるものであるとしても、そのことゆえに直ちに前示の法理を左右することも相当でない。そして、その理由については同旨を説示する原判決の理由(一一枚目表六行目から同裏四行目まで)をここに引用する。なお、また、右の経過につき、被控訴人が関与し作為を施し、または悪意であつたと認めるに足りる確証もない。

(三) そうすると、新建物と本件土地を一括売却したさいの各代金割付額(本件案分率)決定にさいしても、以上のような法理に従い、新建物は旧建物存続を仮定した限度での法定地上権を附着したものとして評価し、反面、本件土地については更地価額から右の限度での法定地上権価額を控除した底地価額に基づいて評価するのが最も合理的であつて、これと同旨の見解によつて作成された本件配当表には特段違法不当とすべき点はないといわなければならない。

以上の説示に反する控訴人の当審における主張2(原判決の批判)はいずれも叙上の理由により採用することができない。

4  次に、控訴人は、仮に新建物につき前記のような法定地上権が附着すると解さなければならないとしても、本件においては、特に、該法定地上権価格は本件土地の優先抵当権者である控訴人に帰属するものとして配分すべきであり(請求原因8(二)関係)、またそうでないと被控訴人は控訴人の損失において不当に利得する結果になる(同8(三)関係)旨るる主張するのであるが、その主張するところは、ひつきよう、前記3で摘示した法定地上権の存否に関する主張の繰返しであるか、または右法定地上権を肯認することが違法不当であることを前提としたものと解されるから採用の限りでない。

なお、控訴人は、右前段の主張に関連して、控訴人としては右法定地上権価額に関し物上代位の法理を援用しうる立場にある旨主張するが、本件のような場合に物上代位の法理を定めた法条はないのみならず、これを類推適用しなければならないほどの合理的理由も見出し難い。また、新建物につき前記3で認められる法定地上権は新建物が法律上旧建物と同視される結果新建物に附着するものとして成立するものであり、それゆえ右法定地上権自体も前後同一のものと解すべきものであつて、現にその内容も旧建物に附着するものとしての限度で定められるべきものであること前示のとおりであるから、いま新建物に附着する法定地上権を旧建物に附着していた法定地上権消滅後の変形物と解することは困難であるというほかない。

5  最後に、控訴人は、当審において、本件土地につき所有権移転請求権保全の仮登記権利者でもあつたことを理由として上来の主張と同旨の主張をし、当裁判所も控訴人がそのさい引用にかかる最高裁昭和四一年判決には従うべきものと解するが(当審における主張1関係)、ただ、成立に争いない甲第一、第二号証によると控訴人主張の右仮登記は本件共同抵当権取得及びその登記と同時に代物弁済予約を原因としてなされていることが認められるから、右は仮登記担保契約に関する法律一条所定の担保を目的としたものと解するのが相当である。したがつて、右仮登記の効力は専ら同法によつて決すべきであり、現に前掲各甲号証によれば右仮登記は本件競売による売却に伴い職権で抹消されていることが認められる。控訴人引用の最高裁判決は通常の仮登記に基づく本登記がなされた場合のものであつて本件と事案を異にするものである。

したがつて、控訴人の右主張も採用することができない。

第三結論

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却を免れない。

よつて、これと同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今富滋 裁判官畑郁夫 裁判官遠藤賢治)

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