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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)1802号 判決 1989年8月30日

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人らに対し、それぞれ金二二一九円及びこれに対する昭和五五年二月一五日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(原判決の補正)

一  原判決事実欄中「きょ出金」とあるのを、すべて「拠出金」と改める。

原判決九枚目表一一行目の「すること及び」を「すること、」と、同末行目の「納入し」を「納入すること及び」と、同四行目の「それが」から六行目の「無効であり、」までを「後記(二)の(1)(2)(3)の各理由により無効であるから、」とそれぞれ改め、同六行目の「被告大税会は、」の次に「後記(三)の(1)(a)(b)(c)の各請求権に基づき」を加える。

二  同一〇枚目裏一行目の「上呈」を「上程」と、同一一枚目表二行目の「税理士界」を「税理士業界」と、同裏五行目の「政府提案」を「政府提出案」と、同一二枚目裏四行目の「業界内」を「業界内の」と、同一三枚目表四行目の「あてるため」を「充てるため」とそれぞれ改め、同一四枚目表八行目の「(三)の(1)」の次に「、(7)」を、同九行目の「(イ)、(ロ)」の次に「、(ル)」を、一〇枚目の「支出した」の次に「(別表(四)の(ハ)、(二))」を加え、同裏二行目の「(ハ)ないし(チ)」を「(ヘ)、(ト)、(チ)」と、同一五枚目表一行目の「支出の」を「支出された」と、同裏四行目の「互に」を「互いに」と、同一六枚目表五行目の「よるにせよ」を「よっても」とそれぞれ改める。

三  同二〇枚目表六行目の「そこで、」から八行目の「考えるに、」までを「しかるところ、本件決議のうち本件係争金の徴収と交付を決めた本件係争部分は、被控訴人大税会が日税連に交付する会員一人当たり金二〇〇〇円相当部分が日税連から日税政に拠出されること及び被控訴人大税会が金一五〇万円を大税会に拠出することを目的としたものであり、」と、同二三枚目裏六行目の「交付無効」を「交付の無効」とそれぞれ改める。

四  同二四枚目表二、三行目を「1請求原因1(一)ないし(五)及び同2(一)ないし(四)の各事実はいずれも認める。同3(一)のうち、「日税連に対する特別会費分を含め」との部分は否認し、その余の事実は認める。同3(二)の事実は認める。同3(三)のうち、「原告ら会員から徴収した昭和五四年度分会費各五万四〇〇〇円の中から、そのうちの各二〇〇〇円を」との部分は否認し、その余の事実は認める。」と、同四行目の「(ス)の事実中、」を「(カ)の事実は、(ウ)のうち昭和五〇年度の被控訴人大税会役員選挙及び日税連会長選挙において山本義雄が各会長に選出された事実のみを認め、その余の事実はいずれも否認する。」とそれぞれ改め、六行目の「(ク)の事実」の次に「のうち会員一人当たり年間二〇〇〇円の特別会費を徴収することを含むとの点(この部分は否認)を除くその余の事実」を加える。

五  同二五枚目表八行目の「きたことと、」を「きたことによるものであり、」と、一一行目の「ものである。」を「ものではない。」と改め、同二六枚目表三行目の「その」及び同二七枚目表四行目の「また前記」から六行目の「なったため、」までを削除し、同裏三行目の「特別会費として」を「その名称を特別会費と変更して」と、四行目の「ものにすぎず、」を「ものにすぎない。すなわち、右増額の決議はなんら特別会費の徴収を目的としたものではなく、会員個々から徴収する会費に特別会費分二〇〇〇円がそれぞれ含まれているというものではないのであって、この点につき」とそれぞれ改める。

六  同二八枚目裏四行目の「六七五八入」を「六七五八人」と、同二九枚目表末行目の「単位税政」を「単位税政連」と、同裏三行目の「単位税政」を「単位税政連」と、同三〇枚目裏六行目の「単位税政」を「単位税政連」と、同一一行目の「差当たり」を「差し当たり」と、同三一枚目裏二行目の「あろうが、」を「あるが、」と、六行目の「日税連が」を「日税政が」と、同三三枚目裏七行目及び同三四枚目裏三行目の各「充る」を「充てる」と、それぞれ改める。

(控訴人らの当審における主張)

一  本件係争部分の決議は特定の政治家等に対して政治献金を行うことを目的としてなされたものであり無効である。

1 税理士法改正案は昭和五四年一一月二九日に第九〇臨時国会に上程され、第一条に「申告納税制度の理念にそって」を挿入する一部修正のうえ昭和五五年四月八日可決成立したが、日税連の山本執行部は大蔵省と協力して右税理士法の改正をしなければならない立場にあった。一方、税理士の多くは税理士法基本要綱の税理士の使命の明確化、即ち、「税理士は租税に関する国民の権利を擁護し、納税義務の適正な実現を図る」との税理士の使命を宣言的に規定すること、これの担保として自主権の確立、資格、試験制度の改革などを要求していた。そこで、山本執行部は政府案に税理士の多数の要求を少しでも盛り込むべく自民党から大蔵省への圧力を期待していた。そのために、政治家へ政治資金として多額の金員を拠出することこそその効果が期待できるものとして、特定の政治家を支持し支援するために税理士から強制的に特別会費として徴収したものである。

2 被控訴人大税会会長山本義雄は、当時日税連の会長を兼務しており、噂される衆議院解散選挙に際しては万全の支援(政治献金)をして法改正を一気に実現したいとして、被控訴人大税会(大阪合同税理士会法対推進本部)において昭和五三年一一月二七日付で全会員に「税理士法改正問題懇談会」を全管内五か所で同年一二月五日、七日、八日の三日間に五ブロックに分けて開催する旨の文書(甲第四五号証)を配布した。この懇談会は、法改正を一気に実現するため中央(日税政)で要する政治資金と、全国各地(大税政はじめ単位税政連)で要する政治資金に多額の資金を必要とし、日税連で決議した特別会費だけでは賄い切れないため、一口二万円の緊急募金の応募を全会員に訴えることを目的とするものであった(甲第四六号証)。

3 昭和五三年一〇月二六日、日税連は臨時総会で昭和五四、五五年の二か年間で会員一人当たり七〇〇〇円又は四〇〇〇円の特別会費の調達を決定し、これを受けて被控訴人大税会は昭和五四年六月一六日の第一五回定期総会で会費を五万四〇〇〇円に増額すると共に、日税連へ特別会費として会員一人当たり二〇〇〇円を納入する旨の議案が提案された。この特別会費は法改正を一気に実現するため中央(日税政)で要する政治資金に充てられる資金であることは前記昭和五三年一二月開催の税理士法改正問題懇談会を通じて全会員に周知徹底されていた。

4 被控訴人大税会の現会長浅田博は、この「税理士法改正問題懇談会」開催の際、被控訴人大税会の法対策推進本部企画室長という要職にあり、管内五ブロック会場で法改正を一気に実現するには多額の政治資金を必要とするため緊急募金に応募するよう積極的に訴えた張本人である。

二  日税政及び大税政が行った政治献金は、控訴人らが被控訴人大税会へ納入した会費から支出されている。

1 日税連は昭和五三年九月二二日の理事会で承認を受けて金融機関等から約二億円の借り入れを行い、これを日税政に対し直接又は間接(各単位税政連を通じ)に支出したほか、昭和五三年度に四五〇〇万円、昭和五四年度に二〇〇〇万円、昭和五五年度に四〇〇〇万円を支出し、日税政、大税政はこれによりそれぞれ政治献金を行った。

2 日税連は右借入金の返済のため全国の税理士会から昭和五四年度から三年間に会員一人当たり二〇〇〇円ずつ特別会費を徴収したが、被控訴人大税会は控訴人ら会員から五万四〇〇〇円の会費を強制徴収し、その中から目税連への特別会費を支出している。しかも、被控訴人大税会は、右特別会費二〇〇〇円相当部分の一部が日税連から日税政に対して政治献金されることを熟知しており、これを目的として本件係争部分の決議をなしたものである。

三  本件係争部分の決議は、被控訴人大税会の目的(権利能力の範囲)を逸脱するものであり無効である。

1 被控訴人大税会は特殊公益法人に該当し、税理士の税理士会への加入が間接的に強制されているいわゆる強制加入団体である。すなわち、税理士会は昭和二六年の税理士法制定当時は民法三四条に基づく社団法人として設立され、税理士の加入も任意とされていたが、昭和三一年六月に法改正により税理士法に基づく特殊公益法人に改編され、税理士の税理士会への加入は間接の強制加入となった。したがって、被控訴大税会は会員の利益のみならず公益保護の必要性という観点からも民法四三条が適用され、被控訴人大税会は法令の規定に従い会則で定めた目的の範囲内においてのみ権利を有し義務を負うものである。しかして、右目的の範囲内の行為とは、法令又は被控訴人大税会の会則に明示された目的自体に限定されるものではなく、その目的を遂行するうえで直接又は間接に必要な行為であればすべてこれが包含されると解されるところ、右必要性の判断に当たっては当該行為が目的遂行上現実に必要であったかどうかをもって決すべきではなく、行為の客観的な性質に即して抽象的に判断されなければならない。

2 そこで右「目的の範囲内」の解釈は、基本的には国家の法人政策と関連しその公法的規制と私法的規制との強弱がほぼ一致していることになる。すなわち、公法的規制とは別に民法四三条等により私法的効果の面においても法人の行為を規制し、公益法人における目的を遂行するに必要な行為の範囲を営利法人よりもはるかに厳格に解することになる。なぜなら、a公益法人は特定の公益目的のためにのみ設立を許可ないし認可されていること、b経営の堅実さを保障し、その財政を保護するために、目的逸脱行為を法人の責任から切り放していること、c税法上の特典を背景に一般取引の世界に登場することを防止すべきこと等の理由がある上に、類似した事情の存する協同組合の領域にも存しない公益性があることからすれば、税理士会における「目的の範囲内」の解釈の問題は、その公益性、公法的規制との関連、税理士会と個々の税理士である会員との関係に及ぼす影響等の種々の要素が考慮されるべきである。

ア 税理士会等の性格

昭和五四年当時の税理士法は、同法四九条二項において「税理士会は税理士の使命及び職責に鑑み、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」と定め、同法四九条の二においてその設立には会則について大蔵大臣の認可を必要としている。そして、同法五二条は「税理士会に入会している税理士でないものはこの法律に別段の定めがある場合を除く外税理士業務を行ってはならない。」として強制加入の原則を明記している。更に、大蔵大臣は、税理士会及び日税連について一般的監督権(同法四九条の一九)を有し、総会決議や役員の行為が法令又は会則に違反し、その他公益を害すれば、総会決議を取り消し、あるいは役員を解任することを命じることができる(同法四九条の八)とされている。

このように、税理士法による税理士会に対する公法的規制は非常に強いものがあり、特に注目すべきは他の公益法人にもみられないような会員である個々の税理士に対する公法的規制があること、税理士会が強制加入団体であるということ及び税理士に対する納税義務者でありかつ主権者である国民全体の期待が規定されているのである。

イ 税理士会における強制加入制度

右のように、税理士会が強制加入団体であり個々の税理士に脱退の自由がないということは、法人が目的の範囲外の行為をすることによってその利益を侵害される個々の税理士は税理士をやめない以上、その損害を回避することが出来ず、結社の自由、職業選択の自由が明らかに侵害されるのである。

ウ 政治資金規正法の趣旨

同法二二条の三によって、国又は地方公共団体からの補助金や出資等を受けている会社その他の法人の「政治活動に関する寄付」の授受はその弊害防止のため禁止されている。更に、同法二二条の六は、本人名義以外の名義または匿名でなされる政治活動に関する寄付を禁止し、同法二二条の七は政治活動に関する寄付につき、相手方に対し、業務、雇用その他の関係又は組織の影響力を利用して威迫するなど不当にその意思を拘束するような方法でのもの、また寄付者の意思に反して、その者の賃金、工賃、下請け代金その他性質上これに類するものからの控除の方法によるものを禁止している。

右の次第で、政治資金規正法二二条の三の趣旨は税理士会が公益法人として税法上の特典を有することからして、同法二二条の六の趣旨は税政連がトンネル機関となっている実態よりして、同法二二条の七の趣旨は税理士会が強制加入団体であり本件特別会費の徴収が強制的になされていることからして、十分考慮されるべきである。

3 税理士会が税理士業務の改善進歩のために税理士法改正運動等の政治活動をすること自体はその目的からして許されないことではない。したがって、税理士会自体の行う税理士法改正のための広報、宣伝活動及びそのために必要な費用の支出は許されることになろうが、税理士会が会員の政治的信条が各人各様であることを無視して税理士法改正を公約しあるいはそれに協力する特定の政党、政治家または候補者を支持、応援すること、あるいはこれらに政治献金をすることは、会員の思想、良心の自由を犯すものであり許されない。なぜなら、これらは一旦、政党や候補者に政治献金として交付されてしまえば一般の政治活動に使用されてしまうからである。

この理は、税政連等の政治団体に対する政治献金についても同様である。税政連は昭和三八年、税理士業界では税理士会が公益法人であるため政治活動ができないということで業界の政治的要求の実現のために政治運動を進める目的で創設されたものであるが、その活動の中心は特定政党及び政治家の支援にあったものであり、日税政、大税政などの税政連も、特定の政党及び政治家を支持していた。例えば、昭和五八年の衆議院議員選挙の際の候補者推薦の比率は、自民党が八〇パーセントを越え、社会、公明、民社の各党及び無所属は各数パーセントであり、共産、社民連等は皆無であり、税理士による国会議員等後援会に至っては社会、公明すら皆無である。仮に、税政連が特定の政党に偏するものではないとしても、被控訴人大税会の会員の中にどの政党をも支援しない会員がいるのであるから、会員から強制的に徴収した会費から政治団体である税政連に政治献金をすることは被控訴人大税会の権利能力の範囲を越えるものであり、民法四三条に違反し無効である。

したがって、本件係争部分の決議が特定の政党又は政治家に対する政治献金を行うことを目的としたものでないとしても、中立的でない政治団体である日税政及び大税政に対し寄付することを目的とするものである(この主張自体については被控訴人大税会においても自認するところである)から、本件決議は民法四三条に違反し無効である。もし、税政連に対する寄付が許されるとすれば、これがトンネル機関となって、本来あってはならない公益法人から政党や政治家への寄付がすべて合法化されてしまうことが明らかであり、したがって、本件の場合、税政連に対する寄付自体が許されない。

四  本件係争部分の決議は、会員の思想、信条の自由を犯すものであるから、憲法一九条に違反し無効である。

昭和五三年六月当時、日税連執行部が採っていた税理士法一部改正への動きは、すなわち大型間接税導入への地ならしをし、かつ税理士を納税者国民の代理人ではなく国税当局の下請機関とせんとする法改正への組織的な協力に外ならなかった。このような税理士法一部改正への動きに賛成するか否かは、各税理士が国民の一人として個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決すべきことであり、憲法一九条の思想、信条の保障が当然及ぶべき事柄である。このような思想、信条の自由で保障された事柄については、それについて多数決でもって会員を拘束し、反対の意思表示をした会員に対してその協力を強制することは許されないのである。

(被控訴人の当審における主張)

一  控訴人らの当審主張一は争う。

1 日税連は、昭和四二年一二月、税理士法等関連法規全般について一貫した諸施策を講ずる機関として法対策本部を設置し、税理士法改正、商法改正の特別委員会を設けることとした。そして、日税連の単位税理士会からの法対策特別分担金の徴収と法対策特別会計はこの法対策本部の設置、運営のため決められたものであり、税理士法等関連の法対策費等に充てられた。

すなわち、日税連の第一次法対策特別分担金の徴収は、昭和四三年二月九日の臨時総会で決められ、各税理士会からその所属会員一人当たり一万円相当額を限度として第一回は所属会員一人当たり五〇〇円相当額を徴収し、第二回以降は必要に応じ常務理事会で決定することとされた。そして、右決定に基づき昭和四二年度から昭和四八年度まで七か年にわたり徴収された。次に、第二次法対策特別分担金の徴収は、昭和四九年七月二四日の総会で決められ、各単位税理士会がその所属会員一人当たり二〇〇〇円相当額を五か年にわたり納入するものとされた。しかして、本件特別会費は、昭和五四年度以降の第三次法対策特別分担金に相当するものであり、従前の負担金と同じく各単位税理士会がその所属会員一人当たり二〇〇〇円相当額を三か年にわたり納入することとされたもので、これらはいずれも日税連の法対策特別会計に組み入れられ、法改正等のための諸費用に充てられるべきものであり、被控訴人大税会の理事、会員は当然そのように理解し、認識していた。

2 本件増額決議当時、税理士法改正法案はすでに国会に上程されていたが、利害関係団体の反対もあり、日税連では国会陳情に力を入れ、法改正対策委員会等の諸会議の開催回数も激増すること、その他法対策関係に相当の資金を要するであろうことが一般会員にも容易に理解される状態であった。また、当初増額を予定されていた法対策特別会計への各単位税理士会の納付額も従前額を継続するのみとされ、一般会員としては、重要な時期を迎え従前どおり税理士法改正等の法対策費を支出するという認識以外の特別な認識は持っていなかった。また、本件決議は、控訴人らの主張するような衆議院解散を予期してなされたものではなく、もっぱら被控訴人大税会の収支をにらんでなされたものにすぎない。

3 被控訴人法対策推進本部が「税理士法改正問題懇談会」開催案内を会員に配布したことは控訴人らの主張のとおりであるが、右懇談会は「経過及び現況報告」と「今後の諸対策について」の情況報告がなされたものであり、ここで政治資金の話がなされた事実はない。甲第四六号証の文書は右懇談会に出席した大税政の役員が右機会を利用して会員に配布したものであって、被控訴人大税会の懇談会の目的、内容を示すものではない。

4 日税連が昭和五三年一〇月二六日の臨時総会で決議した特別会費に関する会則改正は、昭和五四年度及び昭和五五年度は単位会の年度開始の日現在の会員数により一人当たり三五〇〇円の割合をもって計算した金額を納入するというものであり、減額する場合は改めて会則を変更する含みであるとの説明はなされたが、二か年間で一人当たり七〇〇〇円又は四〇〇〇円の特別会費の徴収を決定した事実はない(甲第三二号証)。右会則は、昭和五四年七月二七日の定期総会で、昭和五四年度から昭和五六年度まで一人当たり二〇〇〇円の割合をもって計算した金額とする旨変更されている(乙第七号証の一、二乙第八号証)。被控訴人大税会での会費増額の会則改正は、日税連の特別会費が前年度までの特別分担金と同様、会員一人当たり二〇〇〇円の金額に抑えられる見通しのもとになされたものであり、日税連の特別会費に関する会則改正を受けてなされたものではない。

5 浅田博は、前記懇談会開催当時、被控訴人大税会法対策推進本部企画室長の職務を担当していたが、右懇談会で多額の政治資金を必要としていることなどを述べて緊急募金の応募を訴えた事実はない。なお、右懇談会はブロック別に行われており、同日時に行われたところもあって同人が全会場に出席することは事実上不可能である。

6 控訴人らが、本件会費増額決議の無効理由として主張するのは、右総会決議そのものに特定政治家に対する政治献金ないし寄付の目的があったというものではなく、議案提出者である理事者の一部にそのような目的があったであろうというものにすぎない(控訴人らは、本件会費増額決議に参加した会員は、控訴人らが主張するような目的等を全く認識していなかったということを自認している。)そうであれば、右は決議をなす縁由にすぎず、しかもこれが本件会費増額決議の内容に表示されていないから、決議自体の無効をもたらすものではない。

控訴人らの主張する政治献金は、日税政の一部幹部が昭和五四年八月下旬に決め、同年九月一〇日すぎころ実行されたもののようであるが、こうしたことは被控訴人大税会を含め単位税理士会の理事者、会員らの予期したことではなかった。控訴人らは、当時、たまたま日税連の会長と被控訴人大税会の会長とが同一人であり、本件会則改正決議も右会長が税政連の政治献金捻出のために行わしめた旨主張するが、右会長は被控訴人大税会の会務にほとんど関与していなかったし、被控訴人大税会の会務は正副会長会、常務理事会、理事会の審議、機関決定を経て、会則改正のような重要事項については総会の議決によりその方針が決定され、理事者はこの方針に沿って適正に会務を執行するのであって、会長の個人的な動機によって決定、執行がなされるものではない。

二  控訴人らの当審主張二は争う。

1 本件会費改訂が日税連の特別会費すなわち法対策特別分会計への支出に関係しないものであることは、前年までの日税連法対策特別会計への支出と当年度以降へのそれとが基本的に変わっていないことからも明らかである。

2 被控訴人大税会から日税連に対し納入する特別会費分は、日税連の特別会計に入れられるのであるが、この特別会計から税政連に対し支出されるものは極く一部であって、控訴人らが被控訴人大税会が日税連に交付する会員一人当たり二〇〇〇円に相当する部分が日税連から日税政に拠出されるとして、特別会費全部がそのまま税政連への寄付金であるかのように主張するのは誤りである。

3 日税連に対する特別会費の負担は昭和五六年度をもって終了しているが(乙第二六号証)、右負担減によって会費(昭和五六年から一人当たり五万九〇〇〇円に更に増額されている)の減額はなされておらず、被控訴人大税会の会費収入は、その余の収入と併せ、諸種の活動、事業の費用等に充てられている。また、大税政への拠出金は昭和六三年度以降計上されていないが、これによって会費の減額はなされていない。このことは、本件会費増額決議が被控訴人大税会の予算全体との拘わりでなされたものであって、その目的が日税連に対する特別会費や大税政への交付金の支出と直接関係のないことを示すものである。

三  控訴人らの当審主張三は争う。

1 被控訴人大税会の活動は、単に会運営にとどまらず、税理士法の改正問題等広く政治に関連する活動に及ぶことも当然是認されるところであり、右活動のために費用を支出することが被控訴人大税会の権利能力の範囲内にあることはいうまでもなく、また客観的、抽象的に考えて会活動に必要と判断しうるものである限り、政党などへ政治献金をすることは一般的に権利能力の範囲に含まれないものではない。

本件で問題とされている被控訴人大税会の支出行為は、税理士法、商法等の改正に関する日税連の活動に伴う費用の一部としての日税連への特別会費の納入、大税政への寄付の二点であるが、特別会費の支出は全く問題がないし、大税政は政治団体であるが、その目的は被控訴人大税会の事業を援助することにあるのであるから、被控訴人大税会が大税政へ政治資金規正法の枠内で寄付を行うことは当然被控訴人大税会の権利能力の範囲内である。

2 税政連の目的、事業は、あくまで税理士会の税理士法改正等の運動その他広く政治に関連する諸活動についてこれを援助することを目的とし、そのために決起大会を開催し、陳情を行い、広報活動を行っているのであって、税政連がする候補者の推薦行為は、税政連の目的、事業そのものではない。日税連や被控訴人大税会が従前から継続して行ってきた税政連への交付金の支出は右税理士会の活動を支援するために税政連が行う諸事業に要する経常費、運営費、決起大会、国会陳情に参加する会員の旅費、広報、刊行物の発行費用等の一部を援助するためになされるものであり、税政連がする国会議員候補者の推薦と直接的にかかわるものではない。したがって、税理士会の会員のうちにどの政党も支持しない会員があったとしても、会が会自身が行う国会陳情のための旅費等を参加会員に支給することが当然許されるのと同様、右のような諸費用を援助する趣旨でする税政連への支出が会員に一定の思想の表白を強制するに等しいと言えないことは勿論、税理士会の権利能力の範囲を越えるものではない。

3 税政連の目的は、政党、政治家を支持するところにあるのではない。税政連が税理士制度などに理解のある政治家を推薦しあるいは後援会を作るのは、選挙に当たって税理士の顧問先関係などを通じ集票に協力するという態度を作ることによって、税理士会の法改正等の諸施策に対する当該政治家の協力を期するという考えのもとになされるのであって、こうした政治家に対する影響力を税理士会の目的達成を支援するという本来の目的の一つの手段としているに過ぎないのである。すなわち、税政連が支援し推薦する候補者等は特定の政党に限っていないし、選挙に当たってする推薦は一定の推薦基準に基づき所定の手続きを経てその都度決定されており、その被推薦者の所属政党は、自民、社会、公明、民社、無所属と広く分布しており、特定の政党、候補者に偏しているものではない。したがって、結果として何党所属の候補者が税政連の推薦候補者のうちの何パーセントを占めるかは重要ではない。

控訴人らは、税政連がトンネル機関である旨主張するが、税政連は前記のとおり税理士会の事業を援助するための諸活動を現実に行っている団体であり、その収支をみても収入は会員からの会費、寄付がほとんどであり、被控訴人大税会からの寄付は極く一部にすぎないこと、経常支出のほとんどは同会の実質的な活動に充てられているから、右主張は当たらない。なお、政治資金規正法は公益法人の政治団体への寄付を禁ずるものではないから、本件税政連への寄付は適法である。

四  控訴人らの当審主張四は争う。

1 多数の会員で構成される法人たる税理士会の意思決定や法改正運動は、個々の会員の賛否の意見とは別に全体として決められ行われなければならないことも当然である。反対の意思表示をした会員に対し、一定の思想、信条の表白を強制するに等しい協力を強いることが許されないことは当然であるが、そうでない限りは、会が会務一般について会員に協力を求めることは許されるし、会員もまた会に協力すべきものである。

税理士会に対してする会員の会費の納入は、会の財政の基盤であり、会則でもって定められた会員の基本的な義務である。したがって、仮にある問題についての会執行部の方針や総会の決議に反対の意見を有しまたその旨意思表示をした会員であっても、会費の一部が自分が反対する運動や事業に使われるかもしれない、あるいは使われたという理由で会費の一部を支払わないことは許されない。

2 そして、税政連が税理士会の活動方針に沿いこれを援助すべく運動しているものである限り、本件被控訴人大税会から大税政への寄付のように税理士会がその収入の極く一部を税政連に寄付する行為が会員に一定の思想、信条の表白を強制するものではない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一  請求原因1(一)ないし(五)の事実、同2(一)ないし(四)の事実、同3(一)のうち、「日税連に対する特別会費分を含め」との部分を除くその余の事実、同3(二)の事実、同3(三)のうち、「原告ら会員から徴収した昭和五四年度分会費各五万四〇〇〇円の中から、そのうち各二〇〇〇円を」との部分を除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  会費増額決議の一部無効の主張について

1  控訴人らは、昭和五四年度から被控訴人大税会の会費を五万一〇〇〇円から五万四〇〇〇円に増額した右増額分のうち日税連に対する特別会費分二〇〇〇円が含まれているから、右二〇〇〇円に相当する決議部分は一部無効である旨主張し、被控訴人大税会はこれを争うので、まずこの点について判断する。

2(一)  被控訴人大税会の会員である控訴人らは、会則に基づき、昭和五三年当時、毎事業年度につき五万一〇〇〇円の会費を納入していたこと、他方、被控訴人大税会は、日税連の会員として当時毎事業年度所属会員一人当たり七二〇〇円会費を納入するほか、昭和四九年度以降、法対策特別分担金として毎事業年度所属会員一人当たり二〇〇〇円相当額を納入し、日税連は、法対策特別会計としてこれを会費とは別個に受け入れていたこと、日税連は、昭和五三年九月二二日の理事会において、イ法対策特別会計として金融機関から二億円を借り入れること、ロ右借入金の返済に充てるため会則に特別会費制度を新設し、昭和五四年度及び同五五年度の二か年度に亙って各単位税理士会から毎年所属会員一人当たり三五〇〇円(二か年度合計七〇〇〇円)の割合で計算した額の特別会費を徴収すること、ハ右金融機関からの借入れに伴って昭和五三年度の法対策特別会計予算を組み替えること、の三点を議決し、更に、同年一〇月二六日の臨時総会において総会の議決を要する右ロ、ハの二点を議決決定したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  そこで、まず右特別会費の性質について検討するに、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

ア 税理士法は、昭和二六年六月に制定され、その後数度の改正を経て昭和三九年に政府提案による税理士法改正案が国会に上程されたが、日税連執行部や全国の税理士会が一体となって反対運動を行った結果、昭和四〇年六月に廃案となった。

イ その後、日税連は、昭和四四年、税理士法改正対策委員会を発足させると共に、税理士法改正に関する基本要綱作成作業の本格化に伴う右法対策関係費の財源として各連合会費とは別に一定の賦課金を徴収することとし、昭和四四年度以降、法対策負担金ないし分担金として被控訴人大税会等の単位税理士会からこれを徴収しており、その額は昭和四九年度以降所属会員一人当たり二〇〇〇円であった。

ウ 日税連は、昭和四七年七月、基本要綱を作成し、前記政府提出案が廃案になった経緯に鑑み、議員立法による基本要綱の法案化を目指し、政治運動を開始した。ところが、昭和五〇年七月、山本義雄が被控訴人大税会及び日税連の会長に就任して以来、日税連執行部は従来の議員立法による法改正作業の方向を一変し、政府との折衝による政府提出案の改正へと方向転換を行った。政府は昭和五四年三月ころ、税理士法改正案を作成したが、税理士会員の中にはこれに反対するものもあり、業界内の任意団体もこれに反対の態度を採ったが、日税連執行部はこれに賛成の態度を打ち出し、右改正案の国会通過を目指していた。

エ このような状況下において、日税連は昭和五三年九月二二日の理事会及び同年一〇月二六日の総会において、単位税理士会からの特別会費の強制徴収を決定したものであるが、右決定により従前徴収していた前記特別分担金を廃止した。右総会において、法改正にやや批判的立場をとる東京税理士会から特別会費と日税政の資金調達との関係につき、これが政治献金等に使用されることにつき疑問が呈されたのに対し、理事者側から、前記二か年七〇〇〇円の特別会費については日税政の資金調達との関係で将来減額される余地があり、その使途については慎重に配慮するとの説明がなされ、これが了承された。そして、日税連は、右趣旨に沿って昭和五四年七月二七日の定期総会で、右特別会費を昭和五四年度から昭和五六年度まで毎年度一人当り二〇〇〇円の割合をもってした金額とする旨その会則を変更した。

右認定の各事実によれば、本件特別会費は昭和五四年度から新設されたものではあるが、その使用目的は法改正のための運動費用等に限定され、これが政治献金等に使用されることのないようにとの配慮の下に了承されたものであり、且つ従来の特別分担金と同一の法対策特別会計に組み入れられており、その金額も最終的には年度会計一人当たり二〇〇〇円と変更されたものであるから、その実態は従来の特別分担金と変わらないものであり、ただ、これを会費とすることによって強制徴収の根拠を明確にしたものに過ぎないものというべきである。

(三)  しかるところ、<証拠>によれば、昭和五四年六月一六日、被控訴人大税会の第一五回定期総会が開かれ、第二号議案として、会費を昭和五四年度から従前の五万一〇〇〇円から五万四〇〇〇円に増額する旨の会則一部改正案が提案されたこと、その際、執行部は右提案理由として、日税連の会費が年度所属会員一人当たり七二〇〇円が一二〇〇円増額され、八四〇〇円となること、公共料金等諸物価の上昇その他会員数の増加をあげたこと、これに対し、出席会員が「会則五一条改正の件ついて、今回年会費を五万四〇〇〇円に増額しようとしているが、日税連に対する特別会費二〇〇〇円を含んで計上されているか。」と質問したのに対し、堀川経理部長は、「そのとおりである。」旨答弁したこと、更に、会員が右特別会費の使用目的を尋ねたのに対し、春好副会長は、「従来から日税連では法対策特別会計をもっており各単位税理士会に分担金を負担させていたが、それが継続、平準化したので特別分担金では具合が悪い、特別会費に直そうということで特別会費になったが、それは従来と変わり無く法対策特別会計の支出に当てられておりその内容としては税理士法改正、商法改正等の費用である。」旨答弁していることが認められる。

(四)  以上の認定事実下において、控訴人らは、本件会費増額分三〇〇〇円のうち、二〇〇〇円が前記特別会費又は特別会費相当分である旨主張し、<証拠>中に右主張に沿う供述部分があるが、<証拠>によれば、前記堀川答弁は、被控訴人大税会の日税連に支払うべき特別会費は控訴人ら会員が被控訴人大税会に支払う一般会費を含む収入から支出されるべきものであるとの趣旨であったことが認められるから、右答弁をもって控訴人ら主張のように解することはできない。更に、<証拠>によれば、被控訴人大税会の会員の会費は日税連の会費の増額に伴い又はこれに伴わないで昭和四六年度、四七年度、四九年度、五〇年度、五三年度とそれぞれ増額されて来たが、被控訴人大税会が日税連に納入する法対策特別分担金は昭和四九年度以降毎年会員一人当たり二〇〇〇円と変わっておらず、昭和五四年に新設された特別会費の額も右と同じ額であること、そして、右特別会費の負担は昭和五六年度をもって終了しているが、一般会費は同年度から更に増額されていることが認められ、これらの事実を総合すれば、前記証人福西及び被控訴人代表者浅田の各供述部分はにわかに採用し難く、右会費の増額と特別会費の新設とは直接の関係はないものというべきである。

3  以上の次第で、本件会費増額決議のうち、二〇〇〇円相当部分が特別会費であるものとは到底認め難く、したがって、被控訴人大税会が右増額決議によって会員である控訴人らから臨時に特別会費を徴収したことにはならない。又、控訴人らは、右増額決議の動機、目的が特別会費の徴収にあったと主張するが、確かに、前記の年度三五〇〇円の徴収を決定した時点では特別会費の臨時徴収の疑いがないではないが、その後これが年度二〇〇〇円と変更されたことによって日税連の方針が変更されたものと推定され、したがって、被控訴人大税会の本件増額決議時には特別会費徴収の臨時性はなくなっているものというべきであり、右主張も理由がない。したがって、右増額決議は日税連に対する特別会費を納付するためになされたから無効であるとの控訴人らの主張は、その前提とする事実を認めることができないから、理由がない。

三  特別会費納入決議の無効の主張について

1  控訴人らは、被控訴人大税会が日税連に対し、特別会費として所属会員一人当たり二〇〇〇円を納入することを決議したことが無効である旨主張するところ、前記二の判示のとおり、会費増額決議によって被控訴人大税会が右特別会費を控訴人ら会員から臨時に徴収したものとは認められないが、前記認定のとおり右特別会費は控訴人ら会員が被控訴人大税会に支払う会費等の収入から納入されているものであるから、控訴人らの主張は、右決議の無効により右特別会費二〇〇〇円に相当する一般会費の支払い義務がない旨主張すると解されるので、以下、右決議の効力について検討する。

2  控訴人らは、被控訴人大税会において特別会費が政治献金の資金に供されることを認識しながら、これを日税連に納入する旨の決議をすることは、被控訴人大税会の目的を逸脱するものであり、民法四三条に違反し無効である旨主張するので、まず、この点について検討する。

(一)  被控訴人大税会が特殊公益法人に該当し、税理士は税理士会への加入が間接的に強制されているいわゆる強制加入団体であり、民法三四条に基づく社団法人であることは当事者間に争いがない。したがって、被控訴人大税会は会員の利益のみならず、公益保護の必要性という観点からも民法四三条の適用を受け、被控訴人大税会は法令の規定に従い会則で定めた目的の範囲内においてのみ権利を有し義務を負うものというべきである。しかして、右目的の範囲内の行為とは法令又は被控訴人大税会の会則に明示された目的自体に限定されるものではなく、その目的を遂行するうえで直接又は間接に必要な行為であればすべてこれが包含されると解されるところ、右必要性の判断に当って当該行為が目的遂行上現実に必要であったかどうかをもって決すべきではなく、行為の客観的な性質に即して抽象的に判断されなければならない(参照 最高裁昭和四五年六月二四日大法廷判決民集二四巻六号六二五頁)。

しかるところ、控訴人らは、右目的の範囲内の具体的な判断に当たってはその範囲をより厳格に解釈すべきであると主張し、その理由を縷々述べるが、右主張の趣旨は否定できないものとしても、結局は、具体的事案に即して判断すべきことである。しかして、被控訴人大税会会則によれば、第二条で「本会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士法四九条二項に定めるもののほか、会員の品位保持と相互扶助に関する事務を行うことを目的とする。」と、第三条で「本会は、前条に規定する目的を達成するため、次に掲げる事業を行う(一項)。税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に関して税務官公署と連絡協議する(4号)。前各号のほか、本会の目的を達成するために必要な事業を行う(7号)。本会は、前項に規定する事業のほか、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度の改善進歩について調査研究を行い、必要に応じ、権限のある官公署に建議し、又は諮問に答申する(二項)。」旨規定されているほか、控訴人ら主張のとおり規定されていることは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、被控訴人大税会が日税連に対して特別会費を納入する旨決議したことが右目的の範囲内に当たるか否かについて判断するに、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

ア 前記政府提出にかかる税理士法改正案は、昭和五四年第八七、八八国会で二度廃案となり、同年九月衆議院が解散されたので、日税連は次の国会での成立を期していた。そして、右改正案は昭和五四年一一月二九日第九〇臨時国会に上程され、昭和五五年四月八日に一部修正の上可決成立した。

イ 右可決成立に至る過程において、昭和五三年九月二二日の日税連の理事会では、当時政府及び自民党関係者による法改正案が策定される運びとなっているので、法改正実現のための運動を強化しなければならないとの認識から、日税連としては政治資金規正法上許される最高限度の金員を日税政等の税政連へ交付することを決定したほか、一億一〇〇〇万円にのぼる事業費の追加補正を行った。そして、右理事会の席上、四元専務理事から「法対策に要する費用については従来総会決議に基づく法対策特別分担金を充てていたが、右分担金は実質的には会費に相当するので、その根拠規定を会則上明示すべきであるとの意見もあり、種々検討した結果、特別会費の形が妥当であるとの結論に達した。しかし、単位税理士会の負担分については募金、寄付等の適宜の調達方法によってもよい。」旨の説明がなされ、更に、右特別会費の徴収が憲法、政治資金規正法、税理士法上疑義があるとの質疑に対し、同理事は「右特別会費の納付義務者は各税理士会でありその会員ではなく、しかも各会は会費によらず募金等任意の方法をもって調達することも可能であって、各会員にその納付方を強制するものではないから、当該会員の政治的思想の自由を害するものではない。又、この法対策特別資金はあくまでも税理士法改正のために充てられるものであり、特定の立候補者支援のためその所属政党に寄付するものではない。」旨説明しており、理事者側としてもこれが後記の如き政治献金の資金に供されるとまでの認識はなかった。

ウ その後、被控訴人大税会は、日税連理事会の右決定を受けて昭和五三年一二月ころ、税理士法改正問題懇談会を開催する旨の文書を配布し、中央(日税政)で要する政治資金と全国各地(大税政はじめ単位税政連)で要する政治資金に多額の資金を必要とするため、一口二万円の緊急募金を訴えると共に、更に被控訴人大税会の会員に配布された昭和五三年一二月五日付「大税界」第一七四号(甲第二六号証)において「全国税理士宿願の税理士法改正運動が大詰めに差し掛かった今、最後のツメとして国会議員対策が重要なポイントとなってきた。税政連ではこの厳しい状況の中で改正案の国会上程、更には可決成立を勝ち取るために、国会議員関係者に対し最後の運動を展開しなければならない。」旨の報道がなされた。

エ 右の状況下において、被控訴人大税会は、任意募金の方法をとらず、その収入の約八五パーセントを占める一般会費からの特別会費の納入決議をしたものである。そして、昭和五四年度に被控訴人大税会ら各単位税理士会から日税連に納入された特別会費は、法対策特別会計に他の雑収入及び借入金と共に収入として入れられ、日税連は右会計から特別対策費として二〇〇〇万円を支出しこれを日税政はじめ大税政等の税政連に対し、政治資金規正法の枠内の一団体一五〇万円の限度でそれぞれ寄付したが、これは同年度の全支出額の約一〇パーセント程度に過ぎない。

オ 他方、日税政は、昭和五四年九月以降、日税連からの右寄付金のほか、日税政の会員からの会費、緊急募金、大税政等の税政連からの各特別分担金一五〇万円の各収入の中から、衆議院議員立候補者のうち一〇一名に対し、一人当たり五〇万円ないし五〇〇万円の間で合計約一億三〇〇〇万円にのぼる政治献金をしたが、その献金先の内訳は、自民党七五人、社会党一二人、公明党四人(但し、不受領)、民社党七人、新自由クラブ一人、無所属二人であること、又、右個人とは別に、政党別に、自民党に二五〇〇万円、社会党に一〇〇〇万円、民社党に五〇〇万円を献金したことがそれぞれ新聞報道され、日税政理事者も右献金の事実を認めている。しかして、右献金はそのほとんどが日税政会員の会費及び緊急募金で賄われており、日税連からの前記寄付金はそのごく一部に過ぎない。

(三)  ところで、税理士会が税理士業務の改善進歩のために税理士法改正運動をすること自体はその目的からして許されないことではなく、被控訴人大税会についても前記(二)の認定のとおりその会則上一定の事業をすることが認められているから、税理士法改正のための広報、宣伝活動及びそのために必要な支出は当然許されるし、政治資金の寄付についてもこれが客観的、抽象的に観察して税理士会の社会的役割を果たすためになされたものと認められる限り、目的範囲内の行為ということができる(前掲最高裁判決参照)。しかしながら、そのことから税理士会がその目的の範囲内においてするすべての活動につき当然かつ一様に会員に対して統制力を及ぼし、会員の協力を強制することができるものとは即断できないのであって、当該活動の内容、性質、これについて会員に求められる協力の内容、程度、態様等を比較考量し、多数決原理に基づく税理士会活動の実効性と会員の基本的利益の調和という観点から、会員の協力義務の範囲に合理的な限定を加える必要があるが、右政治資金の寄付が税理士会によって特定の政党、政治家又は候補者を支持、応援してこれらの者に対してなされる際、会員に対してこれへの協力を強制することは、会員の思想、信条の自由を犯すものとして許されないものというべきである(参照 最高裁昭和五〇年一一月二八日第三小法廷判決、民集二九巻一〇号一六九八頁)。

そこで、このような見地からまず日税政がなした前記政治献金について検討するに、確かに、右献金の動機、目的は税理士法の改正を達成することにあったものと推認されるところ、右改正については全国税理士会員の中には一部反対の者があったとしてもその多数の会員の賛意のもとにその成立を期して政治運動をなしその一環として政治献金をなしたものであるから、一応その目的の範囲内とみられないではないが、その方法、態様においてやや妥当性を欠きその献金先についても特定の政党、政治家又は候補者に偏する疑いがあるから、日税政の政治活動としてもこれが批判の対象とされる余地は充分にあり、税理士会の公益法人としての立場からすれば、少なくとも右政治献金のために会員に対して特別にその協力を求めることはこれが強制加入団体であること等に鑑みその目的の範囲内にあるものとは未だ認め難いといわざるを得ない。

しかし、本件で問題とされているのは被控訴人大税会の日税連に対する特別会費の納入決議であって、日税政がした右政治献金そのものではないから、右政治献金が税理士会の目的の範囲外であることから直ちに右納入決議が目的の範囲外となるものではない。

(四)  控訴人らは、日税連と被控訴人大税会とは組織的に上下の関係にあり、日税連と日税政とは組織的に表裏一体の関係にあり、仮にそうでないとしても、右三者は大税政を含め有機的結合による組織的一体の関係にあるから、実質的には被控訴人大税会が政治献金を行ったのと何ら変わるところはない旨主張する。

しかしながら、日税連は税理士法に基づいて設立された法人であり、被控訴人大税会など全国一四の単位税理士会を構成会員とする別個の法人であって、これが被控訴人大税会と同一の法人でないことは勿論、<証拠>によれば、被控訴人大税会は昭和四八年の商法改正の際、日税連の言動が妥当でないとして日税連に対して意見書を提出したこともあることが認められ、両者は必ずしも組織上又は活動上、単なる上意下達の関係にあるものとは認められない。控訴人らは、昭和五四年当時、被控訴人大税会会長山本義雄が日税連の会長を兼務していたことを指摘するが、会の方針が会長の一存に左右されるとの根拠は何ら見出し難いから、右事実は前記判示を覆すものではない。次に、日税連と日税政との関係であるが、<証拠>によれば、日税政は大税政などの単位税政連のほか賛助会員をもって構成されている任意団体であって、公益法人である日税連とは別個の団体であり、右両者の役員人事面において相当共通していることが認められるが、他方、その財政面においては、日税連は日税政に対し一年度にわずかに政治資金規正法の枠内で一五〇万円を寄付しているのみで、右額は日税政の年度全収入の一パーセントに充たないものであり、その主たる収入は、単位税政連からの特別分担金及び単位税政連からの所属会員一人当たり一〇〇〇円の割合による会費であることが認められ、右認定事実に、日税連が税理士会が公益法人であるためこれに代わって業界の政治的要求実現のために政治運動を進める目的で創設された経緯に鑑れば、日税政が政治的に日税連の方針を実行する立場にあることは否定できないところであるが、これが単なるトンネル機関であるとは到底認め難いし、他に日税連が前記政治献金をしたものと同視すべき事由は認められない。よって、控訴人らの前記主張は採用することができない。

(五)  次に、控訴人らは、被控訴人大税会の理事者は、本件決議当時、日税連に納入する特別会費が法改正を一気に実現するため中央(日税政)で要する政治献金に当てられる資金になることを知っており、このことは全会員に周知徹底されていたから、右決議の目的、動機において違法であり、しかもこれが明示されていた旨主張し、<証拠>によれば、昭和五三年一一、一二月ころ、税政連によって国会議員対策が懸命になされようとしていたことが認められる。しかし<証拠>によれば、大税政は会員に右の状況を説明するに際し、税理士会は政治運動ができないことを特に指摘していることが認められるし、又、<証拠>の前記報道内容についても、その主たる趣旨は一口二万円の緊急募金のお願いにあり、本件特別会費を政治献金の資金に充てることを呼び掛けているものではないことが認められ、これらの事実に前記認定事実によれば、被控訴人大税会の理事者及び会員が右特別会費の一部が政治献金の資金に回されるであろうとの認識を持っていたものとは認め難いし、少なくとも同人らが日税政が後日実行した前記政治献金を予想し、かつ、これを容認していたものとは到底認め難い。右のとおり、本件特別会費納入決議の際、これが政治献金の資金に充てることを目的又は動機とし、且つこれが明示された上、右決議がなされたものとは認められないから、控訴人らの前記主張も又理由がない。

(六)  以上の次第で、被控訴人大税会がなした日税連に対する特別会費の納入決議は、従前の特別分担金の納入決議と実質上変わることころはなく、前記のような政治献金の資金捻出のため会員から特別にこれを徴収してその協力を強制したとの事実関係にはないから、その目的の範囲を逸脱するものではないというべきである。よって、控訴人らの前記主張は理由がなく採用することができない。

3  次に、控訴人らは、右決議が会員の思想、信条の自由を犯すものであるから、憲法一九条に違反し無効である旨主張するので検討する。

(一)  控訴人らは、まず、税理士法改正に賛成するか否かは、各税理士の個人的な思想、信条に基づいて判断されるベき事柄であるから、これを多数決で決することは許されない旨主張するが、<証拠>によれば、被控訴人大税会の会則上、総会が最高の議決機関であるところ、総会の議決については、会員の二分の一が出席し、その出席者の過半数(会則の変更は三分の二以上)の多数によらなければならないと定められていること、しかして、本件特別会費の納入については、賛成三八二四、反対一二六で可決されていることが認められ、控訴人ら主張のように直接には税理士法改正の賛否を議決したものではないことが明らかであるが、仮にそうでないとしても、法改正につき会員の多数決により税理士会の意思を決定することは他に特段の事情のない限り団体の性質上やむを得ないことであり、控訴人ら主張のように右法改正に反対であれば常にその思想、信条の自由を犯すものとしてその無効を主張できるとする根拠はない。

(二)  右のとおり、右決議方法には何らの違法な点はないし、その内容についても、特定の政党、政治家又は候補者を支持し応援するため、その政治献金のため特別に臨時に会費の名目でこれを徴収したというものではないから、右決議が控訴人ら会員の思想、信条の自由を犯したものとは到底認め難い。控訴人らは、前記献金が特定の政党、政治家又は候補者に偏するものでないとしても、会員の中にはどの政党、政治家をも支持しない会員がいるのであるから、右会員の思想、信条を犯すことは明らかであるとも主張するが、仮にそうであるとしても、前記事実関係の下ではその程度は軽微であり社団の性質上やむを得ないものというべきである。

(三)  右の次第で、右決議を無効とするまでの理由はないから、控訴人らの右主張も採用することができない。

四  拠出金の交付決議の無効の主張について

1  控訴人らは、右決議が被控訴人大税会の目的を逸脱している旨主張するので、以下判断する。

(一)  <証拠>によれば、被控訴人大税会は昭和五一年以降、毎年一五〇万円を大税政に拠出してきたこと、したがって、本件交付決議も従前どおりのものであり、新規のものではないことが認められる。

(二)  控訴人らは、右大税政は被控訴人大税会と組織上、表裏一体の関係にあり、被控訴人大税会の政治部門に過ぎないものというべきところ、このようなトンネル機関の政治団体に寄付すること自体、目的を逸脱するもので許されない旨主張する。確かに、<証拠>によれば、大税政を含む税政連は昭和三八年一〇月、税理士会が公益法人であるため業界の政治的要求実現のために政治運動を進める目的で創設されたものであるが、右両者の役員で共通の者もあり、大税政規約によれば、被控訴人大税会に入会している税理士は、その資格において会員となる旨定められていること(但し、現実には入会は任意であり、会費を納入した者が会員として扱われている。)が認められ、右事実によれば、実際上、大税政は被控訴人大税会と表裏一体の関係にあり、一面その政治部門の様相を呈していることは否定できない。しかしながら、被控訴人大税会は公益法人であるのに対し、大税政は任意団体であり、両者は別個の団体であることは勿論、<証拠>によれば、大税政はその固有の会員の会費によって独立別個の会計を有しており、被控訴人大税会からの前記交付金は全収入のわずか四パーセント弱に過ぎないこと、大税政は日税政に対し前記の会費のほか、特別分担金一五〇万円を納付しているが、独自の政治活動をしていることが認められ、右認定事実によれば、これがトンネル機関であるとは到底認め難い。

(三)  次に、控訴人らは、大税政が政治的に中立ではなく、具体的には自民党に偏している旨主張するが、前記認定のとおり、右目的は抽象的、客観的に観察すべきところ、大税政が税理士法改正のために政治活動すること自体はその目的の範囲内にあるものというべきであり、その政治献金の具体的方法、態様においてその中立性を疑うべき事由があったとしても、このことから直ちに大税政が中立的でないということはできない。

(四)  しかして、被控訴人大税会の右交付決議は政治資金規正法の枠内でなされた適法なものであり、しかも右交付は従前からなされてきたものであり、又その額も大税政の収入上は極めて少額であるから、その目的の範囲を逸脱するものではないというべきである。

2  次に、控訴人らは、右決議が憲法一七条に違反する旨主張するが、右主張の理由のないことは前記三3の判示のとおりである。

五  してみれば、本件係争の決議部分はいずれもこれを無効とすべき理由がないから、これを前提とする控訴人らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がなく失当として棄却を免れない。したがって、これと同旨の原判決は結論において相当であり本件控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大和勇美 裁判官 久末洋三 裁判官 稲田龍樹)

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