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大阪高等裁判所 昭和60年(う)908号 判決 1988年2月09日

主文

原判決中各被告人に対し無罪を言い渡した部分及び被告人橋本時弘、同難波保雄、同小泉佳寛、同河原孝也、同天野彰に対する各懲役刑の言い渡しに関する部分をそれぞれ破棄する。

被告人本田忠を懲役三年に、被告人藤本政門を懲役二年六月に、被告人橋本時弘を懲役二年に、被告人難波保雄、同川村雅宣、同小泉佳寛を各懲役一年六月に、被告人伊藤勇三を懲役一年二月に、被告人河原孝也、同天野彰、同尾田進、同湯佐喜久雄を各懲役八月にそれぞれ処する。

この裁判確定の日から被告人本田忠、同藤本政門に対し各四年間、被告人橋本時弘、同難波保雄、同川村雅宣、同小泉佳寛、同伊藤勇三、同河原孝也、同天野彰、同尾田進、同湯佐喜久雄に対し各三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は別紙訴訟費用負担表の各証人欄記載の証人に給した分を対応する各被告人欄記載の各被告人の連帯負担とする。

原判決中被告人藤本政門、同小泉佳寛、同尾田進に対する罰金刑の言い渡しに関する部分については各控訴をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は右控訴棄却部分との関係で全部被告人小泉佳寛の負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人橋本時弘、同難波保雄、同河原孝也及び同天野彰につき弁護人宮崎乾朗、同笠松義資及び同肥沼太郎共同作成の、検察官につき神戸地方検察庁検察官検事榎本雅光作成の、被告人小泉佳寛につき弁護人今中五逸作成の各控訴趣意書に記載のとおり(但し検察官の控訴趣意書については大阪高等検察庁検察官検事高橋哲夫作成の控訴趣意書訂正申立書記載のとおり一部訂正)であり、検察官の控訴趣意に対する答弁(被告人小泉佳寛を除く)は、弁護人宮崎乾朗、同笠松義資及び同肥沼太郎共同作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

第一  検察官及び被告人橋本時弘、同難波保雄、同河原孝也、同天野彰の弁護人らの各控訴趣意について

一  検察官の論旨及びこれに対する被告人小泉佳寛を除く各被告人の答弁の要旨

論旨は、要するに、検察官が本件公訴事実中各被告人について詐欺罪が成立すると主張する部分は、大阪化学繊維取引所等所属の商品取引員である同和商品株式会社(以下「同和商品」ないし「会社」という)においては、商品取引に無知な一般人を顧客として勧誘するにあたり、向い玉を建てて顧客の損失が利益として会社に帰属する関係を設定すると共に委託証拠金や売買差益金の顧客への返却を極力抑えるべく預り方式を中心とした歩合給制度を採用したうえ、一任売買を取りつけあるいは無断売買をするなどして利乗せ満玉を繰り返し、手数料稼ぎのため頻繁に不必要な売買を行い、利幅を低く抑え、それでも利益の出た顧客については解約を引き延ばすなどするいわゆる客殺し商法(以下単に客殺し商法という)を営業方針として採用して顧客に損失を生じさせる意図であるのにこれを秘し、あたかも通常の商品取引員として顧客の利益を図って営業活動を行うものであるかの如く装って顧客を勧誘して欺罔し、その旨誤信して勧誘に応じた顧客から委託証拠金名下に現金等を受領して騙取したものであり、被告人本田は右同和商品の取締役の地位にあって事実上会社の業務を統括し、被告人藤本は同社取締役営業部長、その余の各被告人は同社の課長、次長、係長、主任等従業員として会社の右営業に携わっていたもので、被告人本田、同藤本の指示のもと他の従業員も含めて会社ぐるみの組織的詐欺商法を行ってきたものであるから、各顧客に対する勧誘ごとに、被告人本田、同藤本及び当該勧誘に関与した各被告人の間で右詐欺商法について意思を相通じたものと認められ、それぞれ共謀による詐欺罪が成立するという趣旨であるのに対し、原判決は、客殺し商法について総合的検討をすることなく、同和商品が客殺し商法を営業方針としていたとは認め難いとして、検察官主張のような詐欺罪の成立を全て否定したうえ、各個別の勧誘文言のうち取引上の駆け引きとしても許容されないような明らかな虚偽を含むと認められる分について、当該勧誘を自ら行った被告人についてのみ詐欺罪が成立するとしているのであって、原判決の右のような事実認定には判決に影響を及ぼすことの明らかな誤認があるというものである。これに対する被告人小泉を除くその余の各被告人の答弁の要旨は、向い玉等検察官が客殺し商法を構成する手段として主張するものはいずれも顧客の損失を必然的に招来するものでなく、客殺し商法なるものはそもそも幻影にすぎないのであるから当然のことながら同和商品においてこれを採用していたことも認められず、また、各被告人が会社の役員ないし従業員としてその営業活動に従事したことの故に各被告人の間に共謀が成立するという検察官の主張も共謀成立の範囲を不当に拡張するものであり、なお、顧客から委託証拠金を受領した時に詐欺罪が既遂に達するとする検察官の主張は、以後の取引によって利益を生じる可能性が存し現にその例もあることに徴し著しく不当であるというものである。

二  被告人橋本時弘、同難波保雄、同河原孝也及び天野彰の弁護人らの各論旨

各論旨は、原判決中右各被告人について詐欺罪が成立するとした部分について、いずれも各被告人の欺罔行為及び不法領得の意思、相手方の錯誤が認められないのにこれらがあるとして詐欺罪の成立を認めた事実認定には判決に影響を及ぼすことの明らかな誤認があるというものである。

三  当裁判所の判断

そこで右各所論にかんがみ、記録を精査し当審における事実取調の結果をも併せて検討のうえ、次のとおり判断する。

1  客殺し商法秘匿による詐欺罪の成否について

(一) 客殺し商法の可能性について

(1) 向い玉について

関係証拠によれば、向い玉とは顧客の委託玉に対当させて建てる商品取引員の自己玉をいい、商品取引における損益自体はあくまでも相場の動向によって決せられるものであるから、向い玉は顧客に損失ないし利益を生じさせるという機能を全く有しないし、また顧客の損失ないし利益はあくまでも不特定多数の顧客によって形成される市場において生ずるのであって損益につき特定の者との間に対応関係を有しないのであるけれども、向い玉を建てることによって顧客と商品取引員の損益は相反対立する関係となることは否定できず、顧客の損益は事実上取引員との間で決済されてしまうこととなるのであるから、向い玉は相場の動向の結果として顧客に生じた損失ないし利益を取引員の利益ないし損失として取引員に帰属させるという機能を有するとみることが可能であると認められる。従って、検察官の所論のように「向い玉こそ客殺し商法の最も基本的な手段である」というのは不正確であるとのそしりを免れず、客殺し商法が可能であると仮定した場合に、その結果顧客に生じた損失を利益として取引員に帰属させる手段であるとの意味において、客殺し商法秘匿による詐欺商法の基本的手段であるというのが正確である。

(2) 預り方式を中心とする歩合給制度について

関係証拠によれば、預り方式の歩合給制度とは顧客から入金される委託証拠金及びそれを超える損失を生じて取引を終了した場合に入金される不足額と顧客に返却した証拠金及び支払った利益金との差額を歩合給算定の基礎とする歩合給制度であり、歩合給の新規建玉制とは新規建玉数(新たに入金される委託証拠金はこれに比例する)を歩合給算定の基礎とする歩合給制度であり、これら自体はいずれも給与制度の一環をなすものにすぎず顧客に損失ないし利益を生じさせる機能を全く有するものでなく客殺し商法を構成する一手段というべきものではないが、後記判断のとおり、従業員をして客殺し商法に走ることを助勢する内部誘因たることを免れ得ないものと認められる。

(3) 客殺し商法を構成する各手段について

関係証拠によれば、利乗せ満玉とは、商品取引業界において未だ熟した用語といえない面もあるが、その意味するところは商品取引によって生じた差益を顧客に返還しないでこれを計算上委託証拠金に振り替えその増加した証拠金で建玉可能な限度一杯の取引を継続する方法をいい、その結果としての顧客の損益は相場の動向により決せられるのであるから、これ自体は顧客に損失ないし利益を生じさせる機能を有しないけれども、右のように差益金を全て証拠金に振り替えて取引を拡大してゆく利乗せ満玉という取引方法は、顧客に新たな資金提供を求めないで取引を拡大できることから勧誘にあたって多用されがちであるけれども、顧客の手元に余剰資金を留保しないものであるから、相場動向が逆転した場合に適切な対応に窮する結果となって顧客に損失をもたらす難点があり一般に賢明な取引方法とは考えられていないものと認められ、頻繁売買とは、売買手数料の取得を目的として頻繁に行う不必要な取引をいい、利幅制限とは、顧客の建玉に利益を生じている場合にそれが大きくならないよう予め定めた一定の利幅内で仕切ることをいい、前者についてその結果としての顧客の損益は相場の動向如何によるからこれが直接顧客に損益を生じさせるものでなく、後者が顧客に損失を生じさせるものでないことはもとより明らかであるが、頻繁に不必要な取引を行うことによって顧客は取引員に対して売買手数料の負担を強いられることになるからその分不利益を受けることは否定できず、一旦建玉を仕切った直後に再度同様の建玉をすること、あるいはいわゆる両建を同時に仕切ること、または手数料にも足りない利幅で仕切ること、更には相場の動向と無関係に頻繁な取引を繰り返すこと等は原則として不必要な頻繁売買といわねばならず、また、利幅を小さく抑えることはそれが売買手数料を超えるものである限りそれ自体顧客に損失を生じさせるものではないけれども、顧客の手仕舞要求をかわして利乗せ満玉を継続させるのに便宜であるし、その後にドテン売買(利益を生じている建玉を仕切り、それと逆の建玉をすること)を行う等して顧客に損失を生じさせるのに有効であることが明らかと認められ、解約引き延しとは、利益勘定となった顧客から手仕舞いして差益金の支払を求められた際容易にこれに応じず更に取引を継続させることをいい、これ自体は顧客に損失ないし利益を生じさせるものでないけれども、これによって顧客が利益を得て取引関係から離脱するのを防止し、その間に相場が逆に動いて顧客に損失を生じたりあるいは新たな売買を行って損失の結果を生じさせる可能性を否定できないものと認めることができる。また関係証拠によれば、無断ないし一任売買とは、商品取引において売り若くは買いの玉を建て又はこれらを仕切るにあたり顧客に無断ないし予め一任をとりつけて行うことをいうのであって、これもそれ自体顧客に損失ないし利益を生じさせる機能を有しないが、右にみた客殺し商法の各手段はいずれも結局のところ右売り若くは買い玉を建て又はこれらを仕切るという意味での売買を行いあるいはこれを延引して行わないことによって実現されるものであるところ、右の各手段が顧客の真に自由な意思に基づいて行われる限りその結果として生じる損益(損益いずれになるかはあくまでも相場の動向によって決まることは前述のとおり)は顧客の責任であって取引員に何ら問題とすべき点はないのであり、顧客に損失を生じさせることを志向している取引員がその意図を秘して顧客に無断ないしその一任をとりつける等して顧客の意思と無関係に自己の思いのままに右各手段に該当する売買を行ってその結果顧客に損失を生じさせた場合にはじめて客殺し商法を行ったということになり、これの秘匿による詐欺罪の成否が問題となるのであり、この意味において、客殺し商法において無断ないし一任売買はその他の各手段と同列に位置するものでなく、右各手段のいずれにとってもまず前提されるべき根幹的位置を占めるものと認めることができる。

(4) 結論

そこで、以上の各手段を用いることによって顧客に確実に損失を生じさせることが可能か否かについて検討してみるに、以上の各手段はいずれもそれ自体としては売買の結果としての損益に中立的であることは先にみたとおりであるが、商品取引において顧客は売買の結果が損益いずれであるにせよ売買手数料を負担しなければならないのであって、顧客の立場からするとこれは損失と同視される関係にあるから、多数回の売買の結果仮に損益を生ずる回数とその幅が同じであるとしても、顧客は売買手数料相当分の損失を生じる結果となること、関係証拠によると相場の動向を細部に亘って例外なく正確に予測することは不可能にしてもある程度の正確性をもって大まかな動向を予測することは可能であると認められることにてらすと、商品取引員が顧客に損失を生じさせようとの意図のもとに顧客の意思を無視して予測される相場動向に反しあるいはこれと無関係に売買を頻繁に繰り返した場合、客殺し商法を構成するその他の各手段を講じなくともそれだけで大多数の顧客に対して確実に損失を生じさせることができ、なお例外的に利益を生じた顧客に対しては、手仕舞要求を延引しながらその間利幅を極力抑えて頻繁売買を繰り返し手数料稼ぎに徹しつつ利乗せ満玉を繰り返してゆくと、ひとたび損失を生じた場合売買の規模が次第に拡大されているためそれまでの利益は簡単に消失して損失に転じてしまうのであり、全ての売買において例外なく利益を得続けることが不可能である以上確実に損失を生じさせ得るのである。結局客殺し商法を構成する前記各手段はいずれもそれ自体としては確実に顧客に損失を生じさせるものでないけれども、商品取引員が顧客に損失を生じさせようとの意図のもとにこれらを自在に組み合わせて売買を繰り返すことによって確実に顧客に損失を生じさせ得ることとなるのであって、客殺し商法は成立するというべきである。

(二) 詐欺罪の成否について

以上のとおり客殺し商法によって顧客に確実に損失を生じさせることが可能であるから、商品取引員において客殺し商法を採用して顧客に損失を生じさせ向い玉を建てることによって右損失を利益として取引員に帰属させる意図であるのにこれを秘してあたかも通常の取引員として顧客の利益を図って営業活動を行うかに装って顧客を商品取引に勧誘することは欺罔行為にあたり、その結果顧客から委託証拠金名下に金員等を受領した場合、商品取引員は右受領した金員等を事実上自由に処分し得るに至るのであるから右金員等自体が取引員の利得であり、それがまた顧客に生じた財産的損失というべきで、その時点で詐欺罪は既遂に達するというべきである。商品取引員において客殺し商法が奏功した時点で顧客の損失が確定し自己に利益が帰属するものと認識していたとしてもこの点の齟齬は右態様の詐欺罪の成立を妨げるものでない。そして商品取引員において顧客から委託を受けたとしてその後に行う現実の売買とその結果生じた損失を向い玉を介して自己に帰属させるのは右態様の詐欺罪の実行行為ではなく、既に完了した詐欺罪の発覚を防止するために行う隠蔽工作と解すべきものである。この売買において前述の客殺し商法を貫徹する限り顧客に損失を生じることは必定であって隠蔽工作は成功裡に完結することとなるが、顧客との紛議を回避して客殺し商法の露呈を免れるためには、売買の決定についての顧客の意思が予期に反して強固でこれを無視して取引員の思いのままに売買を行い得ない場合や一時的に利益を生じた段階での手仕舞要求が強硬でこれに応じざるを得ない場合のあることを否定できず、その結果顧客は利益を得て商品取引から離脱してゆくことがあるけれども、これは取引員が営業方針としての客殺し商法を持続するため隠蔽工作の貫徹を断念して損失を蒙る結果を甘受したというだけのことで詐欺罪の成否には無関係である。

2  同和商品の営業の実態について

(一) 同和商品において客殺し商法を採用していたか否かについて

(1) 同和商品の経歴等について

原判決中詐欺の訴因についての有罪及び無罪の理由第二、一冒頭挙示の各証拠(原判決一二枚目裏から一三枚目表にかけて記載)及び被告人小泉佳寛の当審公判廷における供述によれば、同和商品は、昭和四三年九月吉原商品株式会社(以下「吉原商品」という)の副社長で事実上同社を統轄していた被告人本田が中心となり神戸市所在の商品仲買人で当時経営不振に陥っていた晃商事株式会社を買収して商号を改め、昭和四六年一二月までに大阪化学繊維取引所など四取引所に所属する商品取引員(昭和四六年一月の商品取引所法改正を経て商品仲買人は商品取引員と称するに至った)となっていたこと、被告人本田は同和商品の筆頭株主として経営の実権を掌握し、被告人藤本を営業部長として吉原商品から入社させ、またかつて商品仲買人中井繊維株式会社時代の同僚であった木村清信を管理部長として入社させたほか、被告人橋本、同難波、同伊藤、同川村、同小泉その他多数の従業員を吉原商品から同和商品に移籍させてその営業にあたらせていたこと、ところで右吉原商品は昭和三六年七月被告人本田が友人と共に設立した商品仲買人であるが、同四五年一月同被告人が代表取締役に就任するに及び業界最大の取引高を誇るに至ったものの、同時に顧客との紛議も多発して主務官庁からはその営業姿勢が最悪であるとの評価を受けていたため、同四六年の商品取引員制度の改正に際しては商品取引員の許可を得難い見通しとなってその営業権を地域別に三分割して別会社に移して自らは商品取引員としての業務を行わないこととなったが、傘下に業界において吉原グループと称される多数の商品取引員を擁して実質的な支配力を確保していたこと、同和商品も右吉原グループの一員で前述のようなグループ形成の経緯及び人的構成からも明らかなように、その営業姿勢には吉原商品以来のものを踏襲するものがあったこと、以上の事実を認めることができる。

(2) 同和商品の勧誘方法について

被告人河原孝也の昭和四七年八月一七日付、同難波保雄の同年七月二〇日付、同橋本時弘の同年七月一日付(検甲一五三号、被告人藤本、同橋本、同小泉、同尾田についてのみ)、同藤本政門の同年一〇月一九日付(同被告人についてのみ)、同小泉佳寛の同四八年一二月二二日付(同被告人についてのみ)各検察官に対する供述調書及び被告人小泉佳寛の当審公判廷における供述によれば、同和商品においては新たに採用した社員に対して商品取引についての研修を一週間程度行うのみで外務員としての登録を得ないうちから顧客の勧誘に従事させ、そのやり方も数人がかりで手分けして一定地域の家庭を無差別に片端から訪問勧誘するいわゆるとび込みと称する方法を基本とし、その結果として商品取引に無知な一般家庭の主婦や老人を勧誘する例が多くなり、これら主婦や老人に対しては利益の得られることばかりを繰り返し強調するのを常としていたことが認められる。

(3) 向い玉について

原判決中詐欺の訴因についての有罪及び無罪の理由第二、二(一)冒頭挙示の各証拠(原判決一五枚目裏から一六枚目裏にかけて記載)及び被告人河原孝也の昭和四七年八月二日付、同橋本時弘の同年七月一日付(検甲一五四号)、同小泉佳寛の同年一一月一六日付、同伊藤勇三の同年五月三一日付、同尾田進の同四八年一二月五日付各検察官に対する供述調書並びに被告人小泉佳寛の当審公判廷における供述によれば、同和商品においては顧客の委託玉に対して向い玉を建てていたが、その方法は顧客の委託玉のことごとくに対し向い玉を建てるというものでなく、各場、節毎に顧客の売り買いの委託玉の差(差玉)の一定割合(約九割)に対して向い玉を建てるというものであり、そのうち主務官庁や商品取引所連合会による自己玉規制枠の範囲内の部分は自社名義で、これを超える部分については前述吉原商品及び同グループ内の商品取引員である全商をダミーとしてそれらの名義で向い玉を建てていたこと、右のように差玉に対して向い玉を建てた場合、委託玉に対し逐一向い玉を建てる場合のように個々の顧客との間で各別に損益の対立を生じる訳ではないけれども、各顧客を一体としてみた顧客集団と会社の損益が対立することとなる点において通常の向い玉と異なるところがないこと、同和商品における右向い玉の事務を担当していたのは管理部長の木村清信で、同人は営業部長である被告人藤本と相図って被告人本田の了解のもとに右事務を処理していたものであって、その余の各被告人は右の事務には関与こそしていなかったものの、会社においては向い玉を建てて顧客の損失を会社に利益として帰属させる手段を講じていることを知っていたことをそれぞれ認めることができ、被告人川村雅宣の昭和四八年一二月一三日付、同天野彰の同年一一月一九日付各検察官に対する供述調書及び被告人河原孝也、同尾田進、同川村雅宣、同天野彰のいずれも原審公判廷における供述中会社が向い玉を建てていることを知らなかったとの部分は信用できない。

(4) 預り方式を中心とする歩合給制度について

原判決中詐欺の訴因についての有罪及び無罪の理由第二、二、(二)冒頭挙示の各証拠(原判決二〇枚目表から二一枚目表にかけて記載)及び被告人小泉の当審公判廷における供述によれば、同和商品の従業員の給与は固定給部分と歩合給部分とからなり、昭和四七年三月以前においては前述預りないし新規建玉数が歩合給算定の基礎として採用されていた期間が大部分であったこと、また右預りは従業員の勤務成績評価の基礎としても採用されていたことが認められる。

(5) 客殺し商法を構成する各手段について

被告人河原孝也の昭和四七年八月二日付、同年八月七日付、同年八月一七日付、同橋本時弘の同年七月三日付、同年七月一八日付(第一回)、同難波保雄の同年七月一〇日付、同年七月一一日付、同年八月一〇日付、同伊藤勇三の同年五月三一日付、同小泉佳寛の同四八年一一月一六日付、同年一二月二三日付、同尾田進の同年一二月五日付、同川村雅宣の同年一二月一三日付、木村清信の同四七年五月一七日付、同年五月二九日付各検察官に対する供述調書、委託者別先物取引勘定元帳二冊及び被告人小泉佳寛の当審公判廷における供述によれば、同和商品においては、被告人本田が経営の実権を掌握して以降、顧客の商品取引を仲介するにあたり、前述吉原商品以来の営業方針を踏襲し、相場の動向を殆ど意に介することなく頻繁に取引を繰り返すことを基本とし、顧客の建玉に利益を生じた場合には毛糸の取引については五〇円、生糸の取引については一〇〇円を目途に仕切るものとし、その生じた利益も取引の開始直後にあっては商品取引がもうかることを顧客に実感させて取引を拡大継続させる目的で一旦顧客に返還する例が少なからずあったものの、その他の場合には担当外務員において利益金を証拠金に振り替えて取引を継続するよう説得して利益金を返還せず、これに応じない顧客に対しては委託証拠金を含めた返還額が二〇万円以上の場合には次長や課長が説得にあたり、二〇〇万円以上の返還については営業部長である被告人藤本の了解を要するものとして、顧客からの利益返還ないし手仕舞要求を可能な限り延引し、この間に利乗せ満玉による前述のドテン売買を頻繁に行って顧客の利益を消失させ更には損失を生じさせて結局利益金及び委託証拠金の返還を免れていたものと認められ、次に前掲各証拠のほか本件公訴提起にかかる被害者一八名中吉田きよ子及び中田正信を除く一六名の原審証人としての各供述、吉田きよ子、〓口猪四郎及び中田正信の検察官に対する各供述調書、「お取引について」と題する書面写、「商品取引をされる皆様に」と題する書面写、売(買)付報告書写、振替同意書写によれば、同和商品においては、顧客の売買の決定に関して、顧客が勧誘に応じて取引を開始するに際し、売買は自分の意思で決定すべきで社員に売買を一任してはならない旨記載された「お取引について」と題する書面及び同旨の記載のある「商品取引をされる皆様に」と題するパンフレットを交付し(前者については受領を証すべく顧客の署名押印を求めていた)、個々の売買を行うにあたっては極く一部の例外を除いては事前に担当外務員から電話で売買を行う旨連絡してその了解を得たうえで行い、事後に売(買)付報告書を送付していたものと認められ、利益が生じた場合にこれを委託証拠金に振り替えて取引を拡大継続(利乗せ満玉)するについても顧客の署名押印ある振替同意書を徴していたと認められるけれども、また右各証拠によれば、商品取引に無知とおもわれる家庭の主婦や老人を勧誘する際には、外務員の指示通りに売買すれば商品取引はもうかるものであることを専ら強調し、右書面やパンフレットの内容を詳しく説明することがなかったばかりか右書面等は殊更に他の契約関係書類と共に一括交付して顧客がこれに目を通す余裕を与えないようにし、個々の具体的売買を決するにあたっては、前述のように事前に外務員から顧客に対して電話で売買する旨連絡して了解をとりつけていたとはいうものの、その実質は了解というに値しないもので、商品取引の知識に乏しい顧客としては殆んどの場合自己の意見を述べることはなく外務員の意見をそのままうのみにするより他なかったのであり、稀に外務員の意見に異を唱えたとしてもそれを押し通すことはできず結局は外務員の意見に同調する結果となっていたのであって、外務員の意見を排して顧客自身の意思に基づいて売買を行ったという例は存しないこと、同和商品の経営者ないし従業員である被告人らにおいては、商品取引の知識の乏しい顧客については前記「お取引について」と題する書面等の存在にもかかわらず顧客との紛議を惹起しないで自己の意のままに売買させることが可能であるとの認識が一般であり、現実にも顧客に損失を生じさせる意図をもって顧客の意思とは無関係に自己の思いのままに売買を行わせていたことを認めることができる。

(6) 結論

そこで以上(1)ないし(5)認定の各事実に基づき同和商品が客殺し商法を営業方針としていたか否か検討してみるに、右(5)認定の同和商品の営業実態は、その露呈を回避すべく極めて周到な配慮がされてはいるものの、これを客殺し商法の典型といわざるを得ないものである。この点に関し、同和商品が利乗せ満玉を営業方針としていたのは商品取引所受託契約準則九条の趣旨に則ったまでとの見解が存するが、右準則九条は建玉数に見合う証拠金の預託を受け過剰な証拠金は速やかに顧客に返還すべきことを求めていると解せられるのであって、証拠金に見合う限度一杯の建玉を求めているものとは解せられず、まして差益を証拠金に振り替えてその限度一杯に建玉することを求めているものではないから、利乗せ満玉が右準則九条の趣旨にそう取引方法であるとするのは右準則を正解しないものといわねばならず、また、顧客の実際の売買例をみると利益金の返還されている例や先に認定の制限を超える利幅で仕切られている例も少なからず存するのであって同和商品が利幅を制限したり利益金の返還を延引するのを営業方針としていたと断じ難いとの見解も存するけれども、関係証拠を仔細に検討すれば、利益金の返還は前述のとおり取引開始直後において顧客に商品取引がもうかることを認識させようとの意図で為されるほかは、顧客の返還要求が極めて強硬でこれを拒否し続けると紛議が表沙汰になって顧客の獲得に支障を生じ更には会社の不法な営業方針が露呈するのを避けるための止むを得ざるの措置と認められるのであり、大きな利幅で仕切られた例の散見されるのは相場の急な変動に迅速に対処し得なかった例外的な事例とみられ、いずれも右判断を左右するものでなく、更に、利幅の小さいうちに仕切るのは利食いのうえ建玉数を増加させる為であるとか顧客の手仕舞要求を容易に容れずに取引の継続を勧めるのは商品取引員として通常の営業活動であるとかの見解も、一般論としては妥当する面もあるけれども、同和商品にあっては前述のとおり顧客に損失を生じさせる目的で利益を証拠金に振り替えたうえドテン売買を行っていたと認められることに徴し採れない。

加えて、右(1)ないし(4)認定の各事実は、同和商品の営業実態が客殺し商法に該当するとの右認定判断の正当性を裏付ける間接事実である。この点をまず向い玉について少しく詳細にみると、向い玉は前述のとおり客殺し商法を構成する一手段といえないけれども、客殺し商法の結果顧客に生じた損失を利益として取引員に帰属させる機能を有することにてらすと、同和商品が向い玉を建てている事実は同和商品が客殺し商法を採用していることを推認させる有力な手がかりとなることを否定できないのであって、関係証拠によれば、向い玉には相場の極端な値動きを沈静化するとかあるいは多額の損失を生じた顧客の債務を回収できない場合の取引員の財務状態の悪化を防止するとかの効用があって、商品取引業界にはその必要性を肯定する根強い主張があると認められるけれども、また関係証拠によれば、顧客の利益のために行動すべき取引員が向い玉によってこれと利害相対立する関係を設定することは、取引員に客殺し商法を採用させる動機たり得ることを否定できず顧客との紛議の主要な原因となり、また顧客に利益を生じた場合取引員の財務状態が悪化して委託者保護に欠ける結果となる場合のあることをも否定できず、主務官庁及び商品取引所連合会による向い玉に対する規制も次第に厳しくなりつつあると認められるのであるから、向い玉の右効用を過大視するのは相当でなく、これらは未だ向い玉が客殺し商法を推認させる有力な手がかりとなるとの前記判断を左右しないのであり、また、商品取引においては顧客は取引を継続するうち早晩損失を生じる即ちいわゆる自然死するのが通常であって積極的に客殺し商法をとらなくとも向い玉を建てている以上いずれ取引員に利益を生じるのであるから殊更に客殺し商法をとる必要はなく、従って向い玉を建てている事実は客殺し商法を採用していることを推認させるものでないとの見方も可能であるかにみえるけれども、商品取引において顧客は自然死するのが通常であるというのは顧客が相当期間に亘って売買を繰り返した場合に妥当することであって、その間一時的に顧客に利益を生じる可能性は避け難く、その際顧客の手仕舞要求のままに応じるとすると顧客は利益を得て取引を終える一方、取引員は売買手数料こそ得るものの向い玉を建てている関係上顧客の利益に対応する損失を生ずることになるのであって、向い玉を建てている取引員としては、かような事態を避けるには顧客の自然死を坐して待つのでは足りず、いきおい顧客に利益を生じさせないようにし、それでも利益を生じた場合には顧客の手仕舞要求を延引する等の方法を積極的に採用しなければならないのであって、顧客は通常自然死するということを考慮に入れても、取引員が向い玉を建てている事実は客殺し商法を推認させる有力な手がかりたるを失わない。次に右の点を預り方式を中心とする歩合給制度についてみると、一般に商品取引員における従業員の歩合給算定の基礎としては手数料収入を以ってこれにあてるのが最も穏当と考えられるものの、右のような歩合給制度にもそれなりの合理性が認められ、取引員が通常の営業活動を行った結果としての右預りないし新規建玉を基礎にして歩合給を支給する限りにおいては格別問題とするところは存しないのであるが、預り方式のような歩合給制度の下においては商品相場の動向にかかわらず取引を頻繁に継続させる等して顧客に損失を生じさせあるいは無差別に新たな顧客を勧誘することによって従業員が歩合給の算定において有利となるのであるから、従業員自らすすんで顧客の損失を意図して行動する可能性のあるほか、商品取引員において客殺し商法を営業方針として採用した場合従業員をしてこれに従うことを余儀なくさせる結果となることを否定できず、会社の営業方針としての客殺し商法を貫徹するうえで極めて有効であって、預り方式を中心とする歩合給制度を採用している事実は客殺し商法を採用していると推認させる一面を有するものである。

(二) 同和商品の営業活動における指揮命令系統について

被告人本田忠の昭和四八年一二月二五日付(同被告人についてのみ)、同藤本政門の同四七年一〇月三日付及び同四八年一二月二四日付(いずれも同被告人についてのみ)、同橋本時弘の同四七年七月一日付(検甲一五三号、被告人藤本、同橋本、同小泉、同尾田についてのみ)、同年七月三日付及び同年七月一八日付(第一回)、同河原孝也の同四八年八月一七日付、同難波保雄の同四七年七月一一日付、田中芳一の同四八年一一月七日付、木村清信の同四七年五月二九日付及び同年五月三〇日付各検察官に対する供述調書並びに被告人小泉佳寛の当審公判廷における供述によれば、同和商品の筆頭株主となってその経営を引き受けることとなった被告人本田は、会社の管理及び営業について具体的ないし個別的な指示を為すことはなかったけれども、前述のように元同僚ないし部下として気心が通じかつ自己の指示を受け容れ実行し得る木村清信と被告人藤本をそれぞれ管理部長と営業部長に配し、右両名を通じて同和商品の管理及び営業の両部門に亘る実権を掌握して同和商品の経営方針を自己の意にそわしめる態勢を整え、同和商品の行う向い玉については毎日のように右木村から報告を受け、営業については被告人藤本を営業部長に配するにあたり会社の実権を委ねるから責任をもって運営するよう同人に申し向けたこと、被告人藤本はこれを受けて吉原商品以来の客殺し商法を同和商品の営業方針として採用し、毎月開催される管理者会議等機会ある毎に右営業方針を履践するよう指示し、この指示は更に右管理者会議出席者を通じて実際に顧客の勧誘にあたる外務員にまで伝達されていたほか、同被告人は新入社員の研修その他日常業務の場において具体的な勧誘方法を指導したりドテン売買を命じる等個別的な売買についてまで指示することもあったこと、被告人本田、同藤本を除くその余の各被告人は前述のように預り方式等の歩合給制度のためもあって被告人藤本によって示される右営業方針その他の指示を受け容れ、同和商品においては顧客に損失を生じさせるような売買を行わせるものであること及びその損失を利益として会社に帰属させるための措置を講じていることを知りつつ顧客の勧誘及び売買の仲介に従事していたことが認められ、各被告人の原審公判廷における供述中右認定に反する部分は信用できない。

3  被告人らの所為が詐欺罪に該当するか否かについて

以上の認定及び判断によれば、同和商品においては向い玉を建てていたこと及び遅くとも昭和四六年以降顧客に対して原則として客殺し商法を行っていたことが明らかであるから、本件公訴提起にかかる被害者一八名を勧誘するにあたっても客殺し商法によって損失を生じさせたうえ向い玉を介してこれを会社の利益として帰属させる意図を有したものと推認でき、また右一八名の勧誘にあたり通常の商取引にみられる駆引の度を超え、専らもうかることのみを強調したことも明らかであるから、結局右推認される意図を秘して通常の商品取引員の如く装って勧誘したものというべきで、これと同旨の被告人河原孝也の昭和四七年八月一七日付、同橋本時弘の同年七月一日付(検甲一五三号、被告人藤本、同橋本、同小泉、同尾田についてのみ)、同小泉佳寛の同年一一月一六日付、同難波保雄の同年七月一〇日付、同二〇日付、同伊藤勇三の同年五月三一日付各検察官に対する供述調書の記載が信用でき、各被告人の原審公判廷における供述中これに反する部分は信用できず、右のような勧誘が欺罔行為に該当することは前述のとおりであり、右被害者一八名がいずれも右意図を知らずに同和商品を顧客の利益のために行動する通常の商品取引員であると信じて右勧誘に応じ委託証拠金として金員等を交付したことも、右被害者一八名中吉田きよ子及び中田正信を除く一六名の原審証人としての供述及び吉田きよ子、〓口猪四郎及び中田正信の検察官に対する各供述調書によって明らかであるから、ここに客殺し商法秘匿による詐欺罪が成立するのである。そして右詐欺罪に該当する同和商品の営業活動は、同和商品の経営に関し実権を掌握する被告人本田から営業に関する一切を委ねられて営業部長の地位にあった被告人藤本によってその余の各被告人に直接又は間接に指示伝達され、これを受け容れた右その余の各被告人によって実行されたこともまた明らかであるから、右詐欺罪に該当する営業活動については、被告人本田と同藤本の間及び被告人藤本とその余の各被告人の間にそれぞれ意思の連絡が存し、結局全被告人の間に意思の連絡が存することに帰するのであり、各顧客に対する勧誘毎に、被告人本田、同藤本及び藤本の指示を伝達しあるいは実際に自ら顧客の勧誘にあたったその余の各被告人との間で右営業活動を行うについて共謀が成立するというべきである。

以上のとおりであるから、検察官の論旨は理由があり、被告人橋本、同難波、同河原及び同天野の弁護人らの論旨は理由がない。

第二  被告人小泉佳寛の弁護人の控訴趣意について

論旨は原判示第一の(二)商品取引所法違反の点につき、許可を受けた営業所における無登録外務員の勧誘行為は禁止されていないのであって被告人の所為は罪とならないのに、これを有罪とした原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りが存しこれが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというものと解せられる。

そこで所論にかんがみ記録を精査して検討するに、原判示第一の(二)における勧誘場所がいずれも許可を受けた営業所以外の場所に該当することは関係証拠上明らかであり、被告人小泉の所為が商品取引所法違反の罪に該当するとした原判決には事実誤認も法令適用の誤りも存しない。論旨は理由がない。

そうすると、検察官の本件各控訴のうち各被告人に対し詐欺罪が成立すると主張する部分については理由があり、その余の部分については控訴理由として何ら主張するところがないから理由なきに帰し、被告人橋本時弘、同難波保雄、同河原孝也及び同天野彰の各控訴はいずれも理由がなく、被告人小泉佳寛の控訴のうち商品取引所法違反の罪が成立しないと主張する部分については理由がなく、その余の部分については控訴理由の主張がないから理由なきに帰するものである。そこで、原判決中各被告人に対し無罪を言い渡した部分及び被告人橋本時弘、同難波保雄、同小泉佳寛、同河原孝也、同天野彰に対する懲役刑の言い渡しに関する部分をいずれも刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により破棄し(被告人小泉に対する懲役刑の言い渡しは原判示第六業務上横領罪につき為されたもので、これに対する控訴が理由なきに帰することは前述のとおりであるが、右業務上横領罪は、原審において無罪とされたものの当審において有罪とされる詐欺罪と併合罪の関係にあるものとして一個の懲役刑をもって処断されるべきものであるから、右懲役刑の言い渡しをも破棄すべきである)、同法四〇〇条但書により更に判決することとし、原判決中被告人小泉佳寛、同藤本政門、同尾田進に対する罰金刑の言い渡しに関する部分については同法三九六条によりそれぞれ控訴を棄却することとする。

(罪となるべき事実)

第一  被告人本田忠は大阪化学繊維取引所等に所属する商品取引員である同和商品株式会社(以下「同和商品」という)の筆頭株主で取締役の地位にあって事実上同社の業務を統轄していたもの、同藤本政門は同社の取締役営業部長等、同橋本時弘は同社大阪支店勤務の営業課長、同難波保雄及び同川村雅宣はそれぞれ同支店勤務の副課長等、同伊藤勇三は同支店勤務の次長等、同河原孝也及び同天野彰は同支店勤務の係長等、同小泉佳寛は同社徳島支店勤務の課長等、同尾田進は同支店勤務の次長等、同湯佐喜久雄は同支店勤務の主任として、いずれも部下を指揮し、顧客に商品先物取引を勧誘するとともに委託証拠金を徴するなどの事務を担当していたものであるが、商品先物取引に関する知識の乏しい一般人を顧客として勧誘するにあたり、いわゆる客殺し商法を行うことによって顧客の委託する商品先物取引で殊更に損失を与え、右取引に関し向い玉を建てることによって顧客の右損失を同和商品に利得させる意図であるのにその情を秘し、同和商品の従業員の勧めるとおりに取引すれば必ずもうかるものであるなどと強調して、同和商品が顧客の利益のために行動する通常の商品取引員であるかに装い、その旨誤信させ、勧誘に応じた顧客から委託証拠金名下に金員等を騙取しようと企て、別紙犯罪事実一覧表の各被告人欄記載の被告人らは同表各共犯者欄記載の者らと共謀のうえ、同表各記載のとおり、いずれも商品先物取引に関する知識の乏しい根本光子ら一八名に対し、常に誠実に顧客の利益のために売買を助言指導するような態度で繰り返し勧誘して委託証拠金の提供を求め、同人らをしてその旨誤信させ、よって同人らからそれぞれ委託証拠金名下に現金等の交付を受けてこれらを騙取したものである。

第二  原判示第六の事実と同じであるからここに引用する。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人本田及び同藤本の判示第一の犯罪事実一覧表第1ないし第18の各所為、被告人橋本の前同第4ないし6、9ないし12、15、17、18の各所為、被告人難波の前同第7、14、17、18の各所為、被告人川村の前同第2、3の各所為、被告人伊藤の前同第3、5、8の各所為、被告人河原の前同第1、12、15、17、18の各所為、被告人天野の前同9ないし11の各所為、被告人小泉及び同尾田の前同第13、16の各所為、被告人湯佐の前同第16の所為はそれぞれ包括して刑法六〇条、二四六条一項に、被告人小泉の判示第二の所為は同法二五三条にそれぞれ該当するところ、被告人湯佐を除くその余の各被告人の以上各罪は右各被告人ごとにいずれも同法四五条前段の併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条によりそれぞれ犯情の最も重い罪(被告人本田、同藤本、同伊藤につき各前同第8の罪、被告人橋本、同難波、同河原につき各前同第18の罪、被告人川村につき前同第2の罪、被告人天野につき前同第11の罪、被告人小泉、同尾田につき各前同16の罪)の刑に法定の加重をした各刑期、被告人湯佐については所定の刑期の各範囲内で、被告人本田を懲役三年に、被告人藤本を懲役二年六月に、被告人橋本を懲役二年に、被告人難波、同川村、同小泉を各懲役一年六月に、被告人伊藤を懲役を一年二月に、被告人河原、同天野、同尾田、同湯佐を各懲役八月にそれぞれ処することとし、いずれも情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から被告人本田、同藤本に対し各四年間、その余の各被告人に対し各三年間それぞれその刑の執行を猶予し、原審訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条、当審訴訟費用については同法一八一条一項本文により主文のとおり各被告人の負担とする。

よって、主文のとおり判決する。

訴訟費用負担表

証人 被告人

1 蠣崎四郎吉 高橋〓  宮入治男 長谷和雄 田中芳一 井上政夫 斉藤広行 山口六弥 山田茂治 清水正紀 〓川昭六 全被告人

2 福田吉行 本田忠 藤本政門 川村雅宣 伊藤勇三

3 浦川フジノ 本田忠 藤本政門 橋本時弘 伊藤勇三

4 〓口猪四郎 植村操 本田忠 藤本政門 川村雅宣

5 野崎久美子 本田忠 藤本政門 橋本時弘

6 増田トシエ 北秋満里子 本田忠 藤本政門 難波保雄

7 小西清三郎 本田忠 藤本政門 伊藤勇三

8 高橋定男 佐々木信子 安藤典子 本田忠 藤本政門 橋本時弘 天野彰

9 西口和子 中山章子 本田忠 藤本政門 橋本時弘 河原孝也

10 中田芳昭 作田多美子 青山幹郎(第九〇ないし九三回公判期日) 本田忠 藤本政門 橋本時弘 難波保雄 河原孝也

11 根本光子 本田忠 藤本政門 河原孝也

12 高橋知子 本田忠 藤本政門 小泉佳寛 尾田進

犯罪事実一覧表

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