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大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)58号 判決 1984年5月30日

奈良市川久保町二七-四

控訴人

渋谷寛

右訴訟代理人弁護士

吉田恒俊

佐藤真理

相良博美

奈良市登大路町八一番地

被控訴人

奈良税務署長

森本圭治

右指定代理人

饒平名正也

伊森操

上田雄雄

後藤洋次郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和四六年分、同四七年分、同四八年分の所得税につき、昭和五〇年三月一日付でなした昭和四六年分の総所得金額を三九三万八二九六円(異議決定により二五六万〇四一五円)、昭和四七年分の総所得金額を四二七万七八五一円(同三四〇万一〇五七円)、昭和四八年分の総所得金額を七四六万三〇七四円(同三六四万六九八九円)とした更正処分のうち、昭和四六年分につき九五万円を超える部分、昭和四七年分につき一三〇万円を超える部分、昭和四八年分につき二〇〇万円を超える部分及び過少申告加算税の賦課処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠の関係は、次のとおり付加訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

原判決一九枚目裏一〇行目の「金額」の次に「と昭和四七年四月一一日にドムス株式会社に小切手で支払われた四万七〇〇〇円(甲第二五号証参照)を加えた金額二八一万四五二七円」を加え、同二〇枚目表一行目の「二、七六七、五二七円」を「二八一万四五二七円」と、同四行目の「同号証」を「甲第九号証」とそれぞれ改め、同二六枚目裏五行目の「差額によち」を「差額により」と改め、同二九枚目裏一〇、一一行目の「原告の同年分の売上は二二、五六七、四一一円となるが、原告は、このうち、」を「控訴人の昭和四七年分の売上は二二六一万四四一一円となるが、このうち昭和四七年四月一一日にドムス株式会社に小切手で支払われた四万七〇〇〇円は、甲第二号証の八枚目の「四月店売」の記載のうち一日、二日、六日のいずれかの売上げに含まれているものである。また控訴人は、そのほかに」とそれぞれ改め、同三〇枚目裏五行目の「原告の主張」の次に「(別表10)」を加え、同三一枚目裏一行目の末尾に「即ち、公租公課については被控訴人主張のもののほかに市県民税三万一〇〇〇円があり、旅費通信費については被控訴人主張のもののほかにその他の費目で三万四八八〇円がある。」を加え、同裏四行目の「別表8」を「別表10」に改める。

二、控訴代理人の主張

1  控訴人は、本件更正分にかかる昭和四六年分ないし昭和四八年分の所得の税務調査に当った税務職員に対し徴憑書類を提示したのにもかかわらず、右税務職員はこれを調査しなかった。被控訴人は右税務調査に有資格者でない第三者を立会せようとしたため、税務職員としてはその守秘義務を尽すことができず、調査できなかったものである旨主張するが、守秘の対象は控訴人の営業に関する秘密であり、その公開は保護されるべき主体である控訴人の自由に任されているものである。したがって控訴人が第三者を立会わせたとしても、税務職員が税務調査を行うことが不可能あるいは困難であるということはできない。

よって被控訴人の控訴人に対する反面調査は、控訴人の徴憑書類をなんら調査せずになされたもので、いたずらに控訴人の名誉を侵害するだけの違法な手続というべきである。

2  一般に白色申告にかかる更正については、実額調査が不可能な場合のみ推計課税をなしうるものというべきところ、本件更正処分については、被控訴人は前述のとおり正当な理由もないのに帳簿等の調査を怠り、安易に推計課税をなした。現に控訴人は、本件訴訟提起後に帳簿類を法廷に提出し、被控訴人はこれに基づき実額課税の算出を行っている。このように本件更正処分には、推計課税をなしうる要件が具備されていないのにこれによった違法がある。

3  原判決は、本件更正処分(異議決定額)は、いずれもその認定にかかる所得額の範囲内でなされたものとして判断しているところ、その判決経緯は、先ず昭和四七年分所得につきその売上金額を資産増減法により、即ち、(イ) 仕入金額、(ロ)預金増額、(ハ) 家計支出額、(ニ) 一般経費、(ホ) 特別経費の総合計額から、(ヘ) 減価償却費を控除した額に相当するとしてこれを算定し、右売上金額でもって右(イ)の仕入金額を除して原価率を、また右売上金額でもって右(ニ)の一般経費額を除して一般経費率を算出し、次いで昭和四六年分及び昭和四八年分の各所得につき各年分の仕入金額に昭和四七年分の原価率を適用して売上金額を算出し、経費等を控除して所得を算出している。

しかしながら、右(ロ)の預金増額の入金分すべてが売上金だけによるものと断定することはできない。また被控訴人が売上金額の確認のための控訴人の取引先に対してなした照会も、立替金の支払など本来控訴人の売上げに関連しない支払はあり得ないものとの前提でなされているから、これだけでは控訴人に対する決済金額の全額が売上金額であることを確定できない。被控訴人としては、すべからく具体的な売上品目をも照会すべきであり、それはいたって容易なことであるから、そこまでの立証がない限り、取引先との決済金額をすべて売上げと認定することはできない。特に株式会社ヤナセからの入金三〇万円、荒木利和からの入金一二万五〇〇〇円のように、全く取引関係がないとか明らかに代理取引であって売上金額ではないとの反証がある預金増額分についても売上金額と認定するのは理由不備である。

また右(ハ)の家計支出額については、原判決は一三七万六四七八円と認定しているけれども、総理府統計局の家庭調査年報(乙第一四号証の二)によると、昭和四七年当時、消費支出の総額(月額)は、世帯主の年令三〇ないし三四才(控訴人は当時三一才)の世帯で八万六六〇七円、四人世帯(控訴人も四人世帯)の場合は九万九八六四円であるが、控訴人は当時兄の所有家屋を使用借りしていたので家賃地代、設備修繕の費用の支出を要さず、喫煙もせず、仕送りもせず、損害保険にも加入していなかったことを右乙号証の記載と照合すると、控訴人の世帯の消費支出の総額(月額)は、年齢階級別の統計からみると八万六六〇七円から家賃地代四六〇七円、設備修繕一二五五円、たばこ六八九円、仕送金四三八円、損害保険料三二九円を控除した残額七万九二八九円となり、世帯別の統計からみると九万九八六四円から家賃地代三〇三四円、設備修繕一六二九円、たばこ七六一円、仕送り金一二七二円、損害保険料三六六円を控除した残額九万二八〇二円となり、両者の平均値は月額八万六〇四五円五〇銭、年額一〇三万二五四六円となる。右年額に昭和四七年度の控訴人の申告納税額、国民健康保険料、国民年金、生命保険料を加えても一二二万一〇五六円にしかならない。したがって、原判決の家計支出額の認定は、右金額を超える部分は誤りである。

4  もともと資産増減法は、あくまで実質課税の原則に基づく実額捕捉の不可能な場合において採用される二次的代替的な方法であって、これを適用するのは他の推計方法に比べ資産増減法がより合理的である場合に限られ、またその適用にあたってもその有効性と限界性を常に検討しなければならない。

このような見地からすると、控訴人の昭和四七年分の売上金額は、控訴人の金銭出納簿(甲二号証)の記帳及び被控訴人主張の売上脱漏額を基礎として算出することが十分可能であり、したがってこれに基づき確定すべきであるのに、右売上金額の算定にあたりそのような方法によることなく直ちに資産増減法を用いることからして違法である。

因みに被控訴人は、本訴においては当初は控訴人の昭和四七年分の売上金額を甲第二号証の記載金額と売上(収入)金額の脱漏分として確認できた二八一万四五二七円との合計二二六一万四四一一円と主張していた(原判決事実摘示五(四)1(2)ハ)。ところが売上金額を右のように確定した場合所得額は二三四万三一八三円となり、原価率は六八・〇八パーセント、一般経費率は七・一二パーセントとなり、右所得額は被控訴人のなした異議決定額を一〇五万円余も下回ることになる。ここに至って被控訴人は従来の主張では右異議決定を維持できないと判断するや、これが維持を計るべく、控訴人が調査担当者に帳簿を提示しなかった現金売上脱漏が想定されるなどとの虚偽の事実主張や根拠のない推理に基づき、資産増減法による推計を主張するに至ったものであって、被控訴人の右主張が理由のないことは明らかである。

5  それのみならず、資産増減法の適用がより真実に近い結果に到達するためには、少なくとも以下に述べる要件を必要とするものである。

(1)  営業取引の大部分が現金取引の形態をなしていること

(2)  営業取引の相当の部分が信用取引の形態をなしている場合には

イ 毎事業年度において、ほぼ一定額の売上げ、仕入れ取引がなされ、かつその支払回収期間が相当期間にわたって継続的かつ一定であること。

ロ 右イの要件を充たしたうえでなおかつ、事業年度前後にわたり現金預金額の出入りを大きく左右させる取引形態の変化ならびに原価率の変化がないこと。

ところが昭和四七年当時において、控訴人の店頭現金売りの金額は、全体の売上額に比べ少額であり、営業収入の大半は注文による掛取引形態をなしており、また控訴人の販売先は継続的取引のない一見の客がほとんどで、代金回収の所要期間は数日から二、三か月とまちまちであるうえ、その金額も商品に応じて大きく異なっていた。更に控訴人はその当時開業してまだ年月の経過も浅かったため、取引の形態も一定していなかった。これらの事情からして、控訴人の当時の利益を推計課税するに当たり資産増減法を適用することは、控訴人の営業実態に適合したものではなく、違法かつ不合理なものといわなければならない。

6  控訴人の昭和四七年度の仕入は、原判決添付の別表9に記載のとおり総額約一五〇〇万円余りのうち三興株式会社及び近藤忠株式会社の両社からの仕入額が七割を占め、その余のほとんどは家庭用荒物、ござ、額縁、壁紙等の小物類であるところ、右両社からの仕入商品の原価率はいずれも七、八割程度にすぎず、右小物類も大きな利益を望めない商品ばかりであるが、仮に右両社の原価率を七割、小物類の原価率を六割とし、一切の値引、諸経費を考慮しないとしても全体の原価率は六七パーセントとなるから、被控訴人主張の六五パーセントという数字はおよそ実現不可能な仮空のものであることが明らかである。

このように被控訴人が主張する原価率は信用性がないが、右欠点の原因は、前述のとおりの資産増減法そのものの限界と、同法適用にあり預金増額分を無理に売上げに加えたことにあるのである。

7  以上詳述したように、控訴人の昭和四七年分所得についての被控訴人の計算は、未解明の部分あるいは矛盾点が数多く存在し、一応の推定が成立つといえる程度の立証があったということはできず、したがってこれを基礎とする昭和四六年及び昭和四八年分の各所得の計算も信用性がないといわなければならない。被控訴人が立証できたといえる控訴人の昭和四七年分所得額は、被控訴人が当初実額課税によって算出した金額である二三四万三一八三円(売上金額二二六一万四四一一円、原価率六八・〇八パーセント)に止まるものであり、これによれば本件処分は違法であって取消を免れないものである。

二  被控訴代理人の主張

1  控訴代理人は、控訴人の昭和四七年分の売上金額は売上帳(甲第二号証)の記帳額に売上脱漏金額を加算する方法によって確定できる旨主張するけれども、右の方法では、売上脱漏金額をすべて確認し加算することが可能であってはじめて真実の売上金額を確認できるものであるところ、被控訴人はすべての売上脱漏金額を確認することができなかった。

この点を若干ふえんするのに、被控訴人が確認し得た脱漏金額は、小切手、手形及び振込入金により決済されたものだけであり、それすらも控訴人が売上帳(甲第二号証)を原審における昭和五五年三月一〇日の本件口頭弁論期日に書証として提出するまではこれを被控訴人に示さなかったため、被控訴人はその確認調査を取引から八年も経過した後に始めて実施せざるを得なかったことから、右の確認調査は困難を極め、前記の方法による決済のすべてを確認することはできなかった。そのほか、控訴人の売上げの大半を占める現金売りについてもやはり脱漏が認められるのに、控訴人から売上金額のすべての取引を確認しうる原始資料や現金出納帳が提出されていないため、右脱漏金額のすべてを確認することができなかった。

したがって、本件についてみるならば、売上帳記帳額に売上脱漏金額を加算する方法は真実あるいはそれに近い売上金額を表わす方法であったとはいい難いものである。

2  次に控訴人の昭和四七年分の売上金額の確定に被控訴代理人主張のような資産増減法の採用が合理的であることは、原審において主張したとおりであるが、更に若干ふえんするのに、控訴人は昭和四七年中に借入れをしておらず(原判決の事実認定中、控訴人が昭和四七年三月幸福相互銀行奈良支店から二五〇万円を借入れた旨の部分は誤りである。)、昭和四六年以前の借入れはすべて店舗の開設資金に充てられ昭和四七年中の事業の運転資金等には充てられていないこと、控訴人は他の事業を兼業しておらず事業所以外の所得がないことからすると、控訴人が昭和四七年分において総支出金額の支払に充てた金額は、そのインテリヤ業に係る売上金額しかない筈であり、右売上金額の入金額は、総支出額にほぼ一致する筈である。したがって、資産増減法は、控訴代理人主張のような方法よりも、より真実に近い売上金額を算定できるのである。

3  控訴代理人は、資産増減法により売上金額を算定した過程において預金入金額を売上げと認めるべき根拠はないと主張するところ、なるほど個々の預金入金額をただちに売上金の入金と認定することはできないけれども、期末と期首の預金残高の差額である増加額が、売上金額から事実に係る必要経費や生活費を支払い、借入金の返済をした残額にあたると判断することには、なんら不合理はない。

4  また控訴人は生計費の原始資料を提出しないから、その生計費を推計する必要があるところ、控訴代理人は、控訴人が喫煙せず損害保険に加入していないなどのため、その家計支出は総理府統計局の家庭調査年報記載の平均支出額より下回る旨主張するが、右主張のとおりの特殊な事実の存否は全く不明である。そればかりか、右年報に記載の数値は、家計調査規則(昭和二七年一〇月三〇日総理府令第八一号)に従って国が実施した家計調査の結果であって、国民の一般的、平均的な家計支出額をそれぞれ態様別に統計として表わしているものであるため、この数値によって家計支出額を推計することは、控訴人の生活状況に特段の特殊事情がないかぎり合理性があるといわねばならない。

5  控訴人の昭和四七年分の仕入については、いわゆる現金主義による仕入支出額は原判決認定の一五三九万一四四五円となるにしても、事業所得金額の算定に当たり売上金額から控除すべき仕入金額は発生主義により計上しなければならず、そうすると同年分の仕入金額は当事者間に争いのない一五七一万四九五二円となるものである。

また事業所得金額を算定するに当たっての控除費目である特別経費には減価償却費を加えなければならないから、控訴人の昭和四七年分の特別経費は、減価償却費三四万四六五五円を加えた三二六万九〇八六円となる。

三  当審における新たな証拠関係

控訴代理人は、甲第八八号証の一ないし九二、第八九号証の一ないし八、第九〇号証の一ないし三、第九一ないし第九三号証の各一、二を提出し、控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第七一号証の成立を認めた。

被控訴代理人は、乙第七一号証を提出し、当審で新たに提出された甲号各証の成立は知らないと述べた。

理由

当裁判所も、控訴人の本件請求は全部失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三三枚目裏二行目の「証人中前照弘」の前に「原審」を加え、同四行目の「調査を行った」を「調査を行なおうとした」と改め、同五行目の「立会わせたり」を「立会わせようとし、右税務職員が右第三者の立会のもとでは調査ができない旨述べたのに対し、控訴人は右立会がないときには右税務職員の調査に応じない旨を強く述べ」と改め、同六行目の「十分な調査」の前に「右税務職員は」を加え、同七、八行目の「(第一回)」を「(原審第一回及び当審)」と改め、同一一行目の末尾に「控訴代理人は、控訴人が右調査に第三者を立会せたとしても、税務職員が調査を行うことが不可能あるいは困難であるということはできない旨主張するけれども、右のような場合、第三者が税務調査に立会する権利を有するとか、控訴人がその立会を求める権利を有するなどとはとうてい解せられないばかりでなく、かかる立会を容認するときは、たとえそれが控訴人からの要求によるものであったとしても、当該調査の内容が取引の相手方である第三者の秘密にわたることもあり、ひいては税務職員の守秘義務に反することにもなりかねないことも十分予想されるのであるから、控訴代理人主張のように、税務職員が控訴人の要求する第三者の立会の下で調査を行うことが不可能あるいは困難でなかったということはできない。」を加え、同三四枚目表二行目の「(第一、二回)」を「(原審第一、二回及び当審)」と改め、同四八枚目の次に本判決添付の別表11を加える。

2  同三四枚目裏三行目冒頭から三六枚目表七行目末尾までを次のとおりに改める。

「控訴代理人は、控訴人の昭和四七年分の売上金額は売上帳(甲第二号証)の記帳額(被控訴人の主張では一九七九万九八八四円)に被控訴人が独自に確認した脱漏金額二八一万四五二七円を加算して算出すべき旨主張するけれども、被控訴人が始めて甲第二号証を提示された時期(これが昭和五五年三月一〇日午前一〇時三〇分の本件原審口頭弁論期日であることは、原審証人深堀邦博、中前照弘の各証言と本件記録上明らかな本件訴訟の経過とにてらしてこれを推認することができる。)からすると、控訴人の売上脱漏金額についての被控訴人の確認調査は十分実効を挙げることができなかったことが窺えるし、成立に争いのない乙第一〇号証によると、控訴人は昭和四七年中は「るしむインテリア」と称してカーペット等室内装飾品の販売等の営業(以下本件営業という。)をしていたほかには、他の事業等を兼営していなかったことが認められ、他に格別の現金収入および借入があったことを認めるに足りる証拠もなく、また前掲の控訴人本人尋問の結果によると、控訴人の本件営業の業態は本件係争年度中は格別変化がなかったことが認められ、この事実からすると昭和四七年の期首及び期末における手許現金在高と在庫店卸額には変化がなかったものと推認できるから、控訴人の同年中の仕入代金、必要経費、生活費の各支払額や、借入金の返済のための支出額、預金の純増額の総合計は、控訴人の本件営業による同年中の売上入金額に見合いこれとほぼ一致する筈であるのに、後記認定のとおり右仕入代金、必要経費、生活費の各支払額、借入金返済額、預金の純増加額の総合計は、前記の売上帳の記帳額と脱漏金額との合計額を大きく上回っているから、控訴代理人の前記主張はたやすく採用することができない。

そしてこれらの諸事情からすると、控訴人の昭和四七年分の売上金は、同年中における仕入代金、必要経費、生活費の各支払額、借入金返済額、預金の純増加額を算定しこれらを合計する方法によるいわゆる資産増減法によって推計するのが、本件事案に則したより合理性のある方法であるといわなければならない。控訴代理人は、当審で改めて資産増減法による売上金額の推計が妥当でない旨を主張するが、原審で提出援用された証拠に当審で新たに提出援用された全証拠を併せ検討しても、以上の認定判断を動かすことはできない。

そこで右に述べた各項目の支払額から昭和四七年分の売上金額を判断することとする。

(1)  仕入代金額

原審における控訴人本人尋問の結果(第一、二回)及びこれにより成立の認められる甲第一二ないし第一五号証の各一、二、第一六号証の一ないし三、第一七、第一八号証の各一、二、第一九ないし第二二号証の各一ないし三、第二三号証の一、二、第二四ないし第三五号証、第三六号証の一、二、第三七号証、第三八号証の一、二、第三九号証、第四〇ないし第四二号証の各一、二、第四三ないし第八六号証によると、昭和四七年中に支払われた仕入代金額は、合計一五三九万一四四五円であることが認められる。

(2)  必要経費

成立に争いのない乙第一号証によると、昭和四七年中に支払われた必要経費額は、別表7記載のとおり合計四五三万五一二八円であることが認められる。

(3)  生活費

成立に争いのない乙第八ないし第一一号証、第一四号証の一、二によると、昭和四七年中に支払われた控訴人の世帯(四人家族)の生活費は、別表11記載のとおり合計一三七万六四七八円であることが認められる。控訴代理人は右乙第一四号証の二の記載を根拠として控訴人の世帯の生活費は年額一二二万一〇五六円であると主張するけれども、その立論の前提とする諸事実の立証は必らずしも十分とはいえないばかりか、当審における控訴人本人尋問の結果中には控訴人の世帯の当時の生活費は一か月一〇万円強であった旨の部分があり、右金額に税金と保険料(別表11参照)を加えると右認定の生活費の支払額にほぼ一致するから、控訴代理人の右主張はたやすく採用することができない。

(4)  借入金返済額及び預金増加額

原審証人後藤洋次郎の証言とこれにより成立の認められる乙第四、第五号証、第一六、第一七号証、第一九ないし第二三号証、第二六、第二七号証、第三二号証、第三四号証、第三七号証、第四二、第四三号証、第四五、第四六号証、第四八号証、第五〇号証、第五二ないし第五五号証、第五七号証、第五九ないし第七〇号証、成立に争いのない乙第七一号証、控訴人本人尋問の結果(原審第一、二回及び当審)の一部を総合すると、控訴人は、第一勧業銀行西大寺支店、幸福相互銀行奈良支店、奈良信用金庫富雄支店に自己名義で預金していただけでなく、奈良信用金庫富雄支店に植田正一、植田富の仮名で、また幸福相互銀行奈良支店に植田正則、植田一三の仮名で預金口座を開き、これらの預金口座に本件営業の売上金を入金していたものであって、これらの口座において昭和四七年中の預金の純増加額は別表7記載のとおり二四四万四四一四円となり、他方、控訴人が同年中にこれらの金融機関に対して支払った借入返済額は、同表記載のとおり合計二三四万円となることが認められる。当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前記各証拠に照らしたやすく借信できない。

そうすると、控訴人の昭和四七年分の売上金額は、以上(1)ないし(4)記載の金額の合計額である二六〇八万七四六五円であると推認することができる(別表7参照)。

次に前記(1)に掲げた各証拠によると、控訴人の昭和四七年分の仕入金額(ただし発生主義による)は一五七一万四九五二円であることが認められるところ、前掲乙第一〇号証によると、控訴人の同昭和四七年分の確定申告においては、控訴人の妻は控除対象配偶者と記載されている事実が認められるから、所得税法五七条三項五項により控訴人は妻に係る事業専従者控除を行うことはできない。

したがって、同昭和四七年分については、控訴人の所得は別表8記載のとおり右売上金額から右仕入金額(ただし発生主義による)及び必要経費を控除した残額五四九万二七三〇円となり、仕入金額を売上金額で除した原価率は六〇・二四パーセント、一般経費額を売上金額で除した一般経費率は六・一八パーセントとなるといわなければならない。

(原価率)

15,714,952円÷26,087,465円=0.6024

(一般経費率)

1,610,697円÷26,087,465円=0.0618

この点に関し控訴代理人は、控訴人の総仕入金額のほぼ七割を占める主要仕入先二社からの仕入商品の原価率はいずれも七、八割であるから右認定のような高い原価率となる筈はない旨主張し、当審における控訴人本人尋問の結果中には右主張に沿うものがあり、また右本人尋問の結果により成立の認められる甲第八八号証の六八ないし八〇、第八九号証の一ないし八には掛率が上代の六五パーセント或いは六八パーセントである旨の記載があるけれども、右本人尋問の結果の裏付けとなる証拠資料は右甲号証のほかには見当らず、そして右甲号証は控訴人の昭和四七年分の仕入に関するものではないばかりか、本件係争年分の全仕入量のうち極めて僅少の部分についてのものにすぎないのであって、これらをもって全体を推しはかるには十分でなく、また右控訴人尋問の結果によると控訴人にはカーペット、カーテン類の販売のほかにも内装等工事を伴う商品販売及びカーペットのクリーニング収入があることが窺えるから、控訴代理人の前記主張もたやすく採用することができない。」

3  原判決三六枚目表一一行目の「一八、九八〇、二九四円」を「二〇五五万八八三四円」に、同行目から同枚目裏一行目にかけての「八四四、六三二円」を「一二七万〇五三六円」に、同裏二行目から三行目にかけての「三、三七〇、一八四円」を「四五二万二八二〇円」に、それぞれ改め、同三行目の「昭和四六年所得と認める」の次に「(別表8参照)」を加え、同一〇行目の「原告主張額」の次に「(当事者間に争いのない電話料八万五七二一円、切手一四〇〇円の他にその他の費目による三万四八八〇円の合計一二万二〇〇一円)」を加え、同三七枚目表五行目の「三、九六三、八八〇円」を「七〇三万七四八五円」と改め、同六行目の「相当である」の次に「(別表8参照)」を加える。

してみると、以上と同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判所裁判官 唐松寛 裁判官 野田殷稔 裁判官鳥越健治は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 唐松寛)

別表11

<省略>

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