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大阪高等裁判所 昭和57年(う)1118号 判決 1982年11月25日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人西澤豊作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴趣意中、原判示第一の恐喝未遂に関する事実誤認の主張について

論旨は、要するに、原判決が、(一)被告人は原田絹代と昭和五七年一月二〇日過ぎころまで同棲していた、(二)明石市内のドライブインにおいて越名幸男から慰謝料名下に現金五〇万円を同年二月一日に支払う旨約束させた、(三)右原田方四畳半の間において右越名に対し同人の喉仏付近に包丁を突きつけた、とそれぞれ認定した点は、いずれも事実を誤認したものであつて破棄を免れない、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも総合して検討するに、原判決挙示の関係各証拠により原判示第一の事実を優に肯認することができる。

(一)  まず、所論は、原田は被告人の内妻で、同棲したとか別れたということはなかつた旨主張する。

しかしながら、被告人と原田とが内縁の夫婦であるかどうかについて、原判決はなんら認定しておらず、かつ、関係証拠によれば、被告人は昭和四六年三月ころから原田と同棲生活に入り、何回か同棲、離別を繰り返して、最後に原判示昭和五七年一月二〇日過ぎころ、被告人が原田の住む原判示久保マンション三〇二号室を出て行つたことが認められるから、原判決の認定に誤りはない。所論は失当である。

(二)  つぎに、所論は、越名が右手を差し出し「これでどうや」と言つたのは、同人と原田との関係を被告人が知つていたと思いこみ申し出たものであつて、被告人も越名もいずれも一切金額を言つていない、といい、被告人も検察官に対し、また原審・当審各公判廷において所論に沿う供述をする。

しかしながら、被告人の右供述は、原審証人越名幸男、同原田絹代の各供述及び五〇万円の念書(大阪高裁昭和五七年押三五三号の二)が存在することと対比してとうてい信用できず、却つてこれらの証拠によれば、越名は被告人から原田との仲を疑われてつけまわされた挙句、慰謝料を要求されたので、原田とも相談のうえ、その場を収拾するためやむなく金五〇万円を翌二月一日に支払う旨申し出たところ、被告人もこれを承諾して別れたことが認められる。所論は採用できない。

(三)  また、所論は、被告人は越名ののど仏付近に包丁を突きつけたことはなく、越名が念書を書いているとき、被告人は離席して台所に行つており、包丁を持つて四畳半の部屋に入つておらず、念書を書いた越名が「これでええんかなあ」と言つたので、包丁を無意識のうちにホームゴタツの南側の角に置いて念書を見に行き、包丁は絹代が直ぐ台所へ持つて行つた、といい、被告人も検察官に対し、また原審・当審各公判廷において所論に沿う供述をする。

しかしながら、被告人が当夜越名や原田に対し相当腹を立て、同人らを問責し、あるいは原田に暴行を加えるなどしたことは、被告人自ら供述しているところであり、このことに徴しても、右所論に沿う被告人の供述はまことに不自然というほかなく、とうてい信用し難い。却つて、原審証人越名幸男の証言は詳細かつ自然であるから信用性に欠けるところがなく、これによれば、被告人は原田方四畳半の間において越名に対し、台所から持出してきた包丁を同人ののど仏付近に突きつけ「わしや会社をやめてでもして、今日は決着をつけるんや。嘘ばかりついて。履行せい。」等と怒号し、越名においてやむなく五〇万円の念書を作成したことが認められる。所論は採用できない。

してみると、原判決が被告人にかかる原判示第一の恐喝未遂の事実を認定したのは正当であつて、所論のような事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。

二、控訴趣意中、原判示第二の傷害に関する事実誤認の主張について

論旨は、要するに、原判示第二につき事実誤認を主張し、被告人は包丁で原田の頭部を殴打したことがないのに、原判決がこれを肯認したのは事実を誤認したものであつて、破棄を免れない、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも総合して検討するに、原判決挙示の関係証拠により原判示傷害の事実全部を優に肯認することができる。

所論は、被告人が包丁で原田の頭部を殴打したことはなく、このことは同女を診察した原審証人澄川医師もこれを聞いていないことからも明らかである、といい、被告人も検察官に対し、また原審・当審各公判廷において所論に沿う供述をする。

しかしながら、この点に関する原審証人越名幸男の証言は具体的であるから信用性に欠けるところがなく、これに反し被告人の右供述は不自然なところが多いから直ちに信用できない。そして右越名の証言によれば、被告人は原田に対し暴行を加えた際、所携の包丁の峰の部分で同女の頭部を一、二回殴打した事実をも認めるに十分である。この点に関し、原審証人原田絹代は「見えなかつた」「わからない」「あとで被告人が包丁を持つているのに気がついた」等と供述し、明確を欠くが、右供述は必ずしも右認定の事実を否定するものではなく、また、所論澄川証人も、右原田から受診時その事実を聴取しなかつたと供述するに過ぎないから、これをもつて前認定を妨げるものでない。所論は採用できない。

してみると、原判決が被告人にかかる原判示第二の傷害の事実を認定したのは正当であつて、所論のような事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。

三、控訴趣意中、原判示第三の銃砲刀剣類所持等取締法違反に関する事実誤認の主張について

論旨は、要するに、被告人はビールのつまみを作るため本件包丁を使用したに過ぎず、その携帯につき正当な理由が存在するにもかかわらず、原判決がこれにつき有罪を認定したのは、事実を誤認したものであつて破棄を免れない、というのである。そこで、所論にかんがみ記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも総合して検討するに、原判決挙示の関係証拠により原判示第三の事実を優に肯認することができる。この点に関する原判決の認定説示は適切である。

してみると、原判決が被告人にかかる原判示第三の犯罪事実を認定したのは正当であつて、所論のような事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。

四、控訴趣意中、量刑不当の主張について

論旨は、要するに、原判決の量刑不当を主張し、できる限り寛大な判決を言渡されたいというので、所論にかんがみ記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも総合して検討するに、本件は、被告人が自己の内妻と交際していた越名から慰謝料名下に金五〇万円を喝取しようとしてその目的を遂げなかつた恐喝未遂と、その際内妻に暴行を加えて傷害を負わせた傷害並びに包丁一本の不法携帯各一件の事案であるが、原判決も説示するとおり、犯行の態様は陰しつ、執ようかつ粗暴で頗る悪質というほかなく、動機においても、自己の非を棚に上げ、いたずらに被害者らを糾弾しようとしたものであつて、格別同情すべき余地がないのみならず、現在に至るまで反省の片鱗だだにうかがうことができず、さらに、被告人には昭和五五年一〇月一六日公務執行妨害罪により懲役一〇月、執行猶予二年に処せられた前科を含む同種粗暴犯の前科が三犯あり、本件は右執行猶予期間中の犯行であること等の犯情に照らすと、被告人の刑責は軽視し難いものがあるといわなければならないから、被告人と原田絹代との関係、恐喝が未遂に終つたこと等所論諸事情を十分考慮しても、被告人に対し懲役一〇月を言渡した原判決の量刑が不当に重過ぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条、刑法二一条、刑訴法一八一条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

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