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大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)200号 決定 1981年7月27日

抗告人

日本商運株式会社

右代表者

平木正広

右代理人

杉原英樹

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件執行抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

本件記録によれば、抗告人は小渡正之に対する福井地方裁判所昭和五五年(ワ)第二五八号貸金等請求事件の判決の執行力ある正本に基づき、右判決によつて認容された三四四二万七五九〇円の金銭債権の取立のため、右小渡が牛田要に対して有する原決定添付差押債権目録中に表示の土地一九筆についてなされている神戸地方法務局社支局昭和五一年一〇月一日受付第七一九四号所有権移転登記の抹消登記手続請求権につき差押命令の申立を原裁判所にしたところ、原裁判所は、右所有権移転登記抹消登記手続請求権は独立の換価性を有しないから民事執行法一六七条一項の「その他の財産権」に該当しないことを理由として、申立却下の決定をしたことを認めうる。

金銭債権者甲は、債務者乙所有の不動産に対する金銭執行の準備行為として、乙が丙に対し有する登記請求権(本件の場合、乙から丙への所有権移転登記の抹消登記請求権)の差押をなしえない。その理由。(イ)民事執行法は、乙所有の船舶、動産に対する金銭執行の準備行為としての、乙が丙に対し有する船舶、動産の引渡請求権の差押について規定している(一六二条、一六三条)のに対し、乙所有の不動産に対する金銭執行の準備行為としての、乙が丙に対し有する登記請求権の差押について規定していない。(強制執行法案要綱案第二次試案一一六「不動産の登記名義が第三者にある場合の登記請求権の差押え」は民事執行法に規定されるに至らなかつた。)(ロ)不動産に対する金銭執行の準備行為としての上記の登記請求権の行使は、民法四二三条所定の債権者代位権に基づきなしうる。(ハ)それゆえ、民事執行法一六七条所定の「その他の財産権」は、金銭執行の直接の対象となりうる財産権にかぎる、と解し、上記の登記請求権の差押を否定するのが相当である。

よつて、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とし、主文のとおり決定する。

(小西勝 坂上弘 大須賀欣一)

〔抗告の趣旨〕

原決定を取り消し、申立にかかる請求権の差押命令を求める。

〔抗告の理由〕

一 民事訴訟法旧規定(昭和五四年法律第四号附則第三条による改正前の規定)第六一六条による不動産の給付請求権には、狭義における不動産の引渡請求権のほか、不動産の登記請求権も含まれると解され、判例も、所有権移転登記請求権又は所有権移転登記の抹消登記請求権に関して第六一六条の適用を認めている。(昭和七年三月五日大審判・昭和一七年九月七日大審判・昭和四四年七月二一日仙台高決下級民集二〇巻五一七頁など参照)

二 この旧法第六一六条による不動産の給付請求権に対する強制執行は、債務者の第三債務者に対して有する登記請求権又は引渡請求権(それとも、その両方)を差押え、前者においては債務者名義の登記を、後者においては保管人への引渡を実現せしめ、しかる後その不動産の強制競売又は強制管理の手続によつて債権者に満足を得させる方法である(旧法第六一六条二項参照)から、請求権自体を換価して債権者に満足を得させるものではなく、請求権の内容を実現することによつて、不動産自体に対する強制執行を可能にし、あるいは円滑にする点に意義があるというべきである。

なお、登記請求権に対する強制執行においては、債務者名義の本登記を実現させて、初めて強制競売なり強制管理の開始を可能とする点で、特にその意義があると思料する。

三 ところで、前記改正法においては、この旧法第六一六条に相当する規定を設けていないが、これは、従来認められて来た不動産の給付請求権に対する強制執行を認めないという趣旨ではなく、それが実務上あまり利用されなかつたなどの理由から、特段の規定を設けることをせず、一般規定としての「その他の財産権」執行によらせることにしただけのことである。

したがつて、差押えた登記請求権の内容を実現するための具体的手続等については、もとより旧法六一六条によるそれと若干異なる点はあるとしても、不動産自体に対する強制執行の前段階の手続として、登記請求権に対する強制執行が認められることに関しては、改正前と何ら変りないはずである。

四 原審は、「改正法第一六七条のその他の財産権というにはそれ自体独立に換価しうるものでなければならないと解すべきところ、登記請求権は登記により対抗力を与えられる所有権と離れて独立の換価性を有しない」として抗告人の申立を却下しているのであるが、すでに述べたように、登記請求権に対する強制執行は、そもそもそれ自体を独立に換価しようとするものではなく、請求権の内容の実現によつて不動産自体に対する強制執行を可能にする点に意義があるのであるから、原審の上記解釈は失当である。

五 物権自体に対する強制執行を可能にするための前段階的手続として、物権の給付請求権に対する強制執行が、改正法においても当然認められていることは、改正法第一六二条からも明らかである。

同条は、船舶の引渡請求権に対する差押が認められることを当然の前提としてその内容実現のための特則を定めているのである。

なお、原審のような解釈をすれば、この船舶の引渡請求権なども、船舶の所有権と離れて独立の換価性を有しないから、これに対する強制執行が許されないことになつてしまうであろう。

六 よつて、原審は法令の解釈を誤つており、誤つた解釈に基づく原決定は違法である。

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