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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)23号 判決 1981年11月24日

大阪市北区宗是町一番地

大阪ビル六一九号室

控訴人

更生会社日本カロライズ工業株式会社更生管財人

中筋一朗

右訴訟代理人弁護士

荒尾幸三

大阪市西淀川区野里三丁目三番三号

被控訴人

西淀川税務署長

河村昭三

右訴訟代理人弁護士

井野口有市

右指定代理人

小林茂雄

西峰邦男

吉田真明

木下昭夫

城尾宏

杉山幸雄

右当事者間の法人税等課税処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が、昭和五一年六月三〇日付で控訴人に対してなした更生会社日本カロライズ工業株式会社の

(一)  昭和四九年四月一日から同年五月二二日までの事業年度分の法人税について、課税留保金額を金一六六一万一〇〇〇円とする更正処分および過少申告加算税額を金一一万二〇〇〇円とする賦課決定処分

(二)  昭和四九年五月二三日から同年一〇月三一日までの事業年度分の法人税について、課税留保金額を金四七九一万四〇〇〇円、所得金額を金四五六九万二二八二円とする更正処分中、課税留保金全額および所得金額のうち金四四六六万二二八二円を超える部分ならびに過少申告加算税額を金三一万六八〇〇円とする賦課決定処分

(三)  昭和四九年一一月一日から昭和五〇年一〇月三一日までの事業年度分の法人税について、所得金額を金八三六三万三六四九円とする更正処分中、金七九六四万二六四九円を超える部分および過少申告加算税額を金一二万五四〇〇円とする賦課決定処分中、金四万五六〇〇円を超える部分

を、いずれも取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求めた。

被控訴人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(原判決の付加訂正)

原判決四枚目裏一行目の「しかしながら、」の次に「更生手続開始前の」を加える。

(控訴人の補充主張)

一 留保金課税について

更生会社にあっては、ほとんどの場合、更生計画において弁済終了まで株主に対する利益配当を行わない旨定めており(本件更生会社の二期分はこれに該る)、まれに配当を予定するとしても、更生計画にその旨の定めがある場合に限られるのであって、留保金課税の前提となるべき株主への利益配当という観念は、更生会社にあっては、ないに等しい。したがって、留保金課税に関する法人税法六七条の規定は、更生会社に対しては適用されるべきでない。

二 役員賞与について

本件更生会社は昭和四七年三月三一日に更生手続開始決定がなされたが、当時取締役であった三名のうち二名は辞意を表明し、大前寛のみが引続き更生会社にとどまって労務を提供していた。昭和四九年五月二二日更生計画の認可決定がなされたが、この更生計画において、当時いずれも更生会社の部長であった大前、吉田司、片山博、辰己征次郎の四名が取締役に就任し、うち大前、吉田の両名が共同代表取締役に選任されたのであるか、それはもっぽら株式会社としての体裁を整える意味と両名が年長者であるがゆえであった。右両名は会社更生法二一一条三項に定める権利の付与をうけておらず、社内では従前同様、大前のことを技術部長、吉田のことを総務部長と呼称しており、実際上も右両名は更生会社の一使用人としての労務に従事していたにすぎない。このような実態を伴わない形式上の代表取締役に対して支給した賞与に、法人税法三五条一項を適用することは違法というべきである。

(被控訴人の反論)

本件更生会社の二人の管財人のうち、一人は法律事務所を、一人は公認会計士・税理士事務所を開設しており、両名は本件更生会社の管財人の職務に専従しているわけではないから、事実上、大前、吉田の両代表取締役が更生会社の事業執行の相当部分を担当していたものである。このことは大前、吉田両名の保有株式数からみて、また報酬面からみて、さらに対外的活動からみても肯認されるところである。

(新たな証拠関係)

控訴人は甲第五号証の一、二、第六ないし第一一号証、第一二号証の一、二を提出し、証人大前寛の証言を援用し、当審提出の乙号各証の成立を認めた。

被控訴人は乙第一ないし第七号証を提出し、当審提出の甲号各証の成立を認めた。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求のうち、被控訴人が昭和五一年六月三〇日付でなした本件更生会社の昭和四九年五月二三日から同年一〇月三一日までの事業年度分の法人税についての更正処分中、所得金額のうち金四四六六万二二八二円を超える部分の取消を求める訴えを却下し、その余の請求を棄却すべきものと判断するのであって、その理由は次に付加するほか原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。当審提出の甲第一二号証の二(鑑定書)の見解は、当裁判所は採ることができない。

(原判決の付加、訂正)

1  原判決一二枚目表五行目の「したこと、」の次に「更生手続開始前の」を加える。

2  原判決一四枚目裏一一行目の「変りがないのであって」を「変りがない。」とあらため、「まして」から末行目の「明らかである。」までを削る。

(当審における控訴人の補充主張について)

1  控訴人は、更生会社にあっては、留保金課税の前提となるべき株主への利益配当は実際上ありえないから、同族会社の留保金課税に関する法人税法六七条は更生会社に適用されるべきでないと主張するのであるが、同族会社であるものが会社更生法の適用をうけることによって同族会社でなくなる旨を定めた規定はなく、また、法人税法六七条の適用について会社更生法の適用をうける会社を除外する旨の別段の定めもおかれていないから、控訴人主張の事由によっては同条の適用を排除する理由となしがたい。よって、右主張は採用できない。

2  控訴人は、大前、吉田の両名が本件更生会社の代表取締役に選任された経緯及び代表取締役としての権限もその実態もなかったことをるる主張するが、右両名が本件更生会社の代表取締役の地位にある以上、両名に対する賞与金について法人税法三五条一項の適用は免れないと考えるのであって、これと同旨の原判決理由(原判決一五枚目表一行目から七行目まで)をここに引用する。

二  そうすると原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 藤野岩雄 裁判官 坂詰幸次郎)

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