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大阪高等裁判所 昭和53年(ラ)272号 決定 1979年3月29日

抗告人(原審相手方)

武井功

抗告人(原審相手方)

武井清子

右両名代理人

野村光治

赤井定雄

相手方(原審申立人)

岡本雅子

右代理人

板持吉雄

小山田貫爾

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断は以下のとおりである。

1  認知は出生の時にさかのぼつてその効力を生ずるものであるから(民法七八四条本文)、相続の開始後認知によつて相続人となつた者も、法律上、相続開始の時点においてすでに相続人であつたものとして取扱われ、相続財産につき分割の請求をなしうるものであつて、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしてしまつていた場合においても、その分割をやり直し、あらためて相続財産を現物分割するよう請求することができるのが本来であるはずである。しかし、分割その他の処分によつて一旦新たな法律関係が形成されたのちに、その法律関係を全部覆滅していま一度あらためて現物分割を行うことは実際上きわめて困難であるばかりでなく、関係人の法律関係を複雑にし、ひいては取引の安全が害されることにもなるところから、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしてしまつていた場合には、認知によつて相続人となつた者は、価額のみによる支払を請求することができるだけで、相続財産の現物分割を請求することはできないものとし、そうすることによつて、一方相続の開始後認知によつて相続人となつた者の相続権を実質的に保障するとともに、他方すでに目的物の上に利害関係を生じた他の共同相続人等と右相続人との利害の調整をはかることとしたのが民法九一〇条の規定の趣旨であると解することができる。そうだとすると、同条の価額の支払請求は、新たな現物分割に代わるものとしてこれと等価であることが当然に前提とされているものと解されるのであつて、その点からすれば、価額の支払請求の場合における価額算定の基準時は、現実に支払がなされる時であり、価額の支払を求める分割審判にあつては現実に支払がなされる時に最も接着した時点としての審判の時であると解するのが相当であるから、これと同趣旨に出た原審判は正当というべきであり、これに反する抗告人らの主張は独自の見解であつて採用することができない。

2  本件記録によれば、原審判が同審判末尾添付の財産目録(二)記載の山林の評価額を一平方メートル当り金五〇〇〇円(総額三億〇六六四万円)としたのは、相手方(原審申立人)提出の不動産鑑定士竹内昇太郎作成の鑑定評価中に右山林の評価額として付記された参考意見に基づくものであり、かつ、その参考意見は、周辺地域における山林の取引事例四例及び周辺地域における造成地の公的機関による買収価格を参考に、昭和四五年一二月二八日以降右山林を含む区域の開発行為が許可制となり、宅地開発が相当に制約を受けることとなつたため、価格もかなり低額となつたことを考慮して妥当と認められる評価額を算出して付記されたものであるから、これをもつてなんら根拠のない評価とするのはあたらない。被告人らは、相続税申告価格によるのが正当であるというけれども、遺産分割の対象となる相続財産の評価は本来時価によるべきものであつて、相続税の課税価格計算の基礎となる不動産の価額の評価方法である路線価方式、倍率方式等によるのが正当とすべき合理的理由はなんら存在しない。

3  その他、記録を仔細に検討してみても、原審判を違法とすべき点は見当らない。

二そうすると、原審判は相当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして主文のとおり決定する。

(仲西二郎 藤原弘道 豊永格)

一 抗告の趣旨

原審判を取消し、本件を神戸家庭裁判所に差戻す。

二 抗告理由

1 相続の開始後認知によつて相続人となつた者が、既に分割を了してしまつた他の共同相続人に対し、民法九一〇条により、価額の支払による遺産分割を請求する場合、支払われるべき価額は、現実になされた分割の時点における相続財産の時価を基準として定めらるべきものである。けだし、民法九一〇条は、既に分割を了した他の共同相続人に対してその分割を有効なものと認めて分割財産の完全な所有権を取得せしめるとともに、他方、相続開始後に認知された相続人に対しては、右分割に参加しておれば取得し得たであろう相続財産に代わるものとしてその価額の支払請求権を認める趣旨の規定であるから、右価額が分割時の相続財産の時価を基準に算定さるべきは当然だからである。しかるに原審判は、この場合の相続財産の価格の算定は、価額支払時(現実にはこの時点に最も接着した時点としての審判時)を基準とするのが相当であるとして、そのような観点から、相手方に支払わるべき価額を算出しているので、これが法律の解釈を誤つたものであることは明らかというべきである。原審判のごとき立場をとるならば、相続開始後認知された相手方は、一切の労力・費用を支出することなく物件が値上りした審判時の相続財産の時価を基準に算定した価額の支払を受けられることになる一方、相続税の納付、換価の手数・費用等はすべて他の共同相続人である抗告人らの負担となり、きわめて不公平な結果が招来されるにいたることは明らかである。

2 原審判は、同審判末尾添付の財産目録(二)記載の山林等の価格をなんらの根拠もなしに一率に一平方メートル当り金五〇〇〇円と評価しているが、これらの財産はほとんど利用価値のないもので換価性にも乏しいから、相続税申告価格によるのが正当である。

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