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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1828号 判決 1979年7月18日

参加人 エイアイユー インシユアランス カンパニー

日本における右代表者 マイケル・ジエー・フオークナー

右訴訟代理人弁護士 栗原良扶

同 飯村佳夫

同 水野武夫

同 田原睦夫

脱退控訴人 ハノーバー・インシユアランス・カンパニー

日本における右代表者 マイケル・ジエー・フオークナー

被控訴人(被参加人) 三菱倉庫株式会社

右代表者代表取締役 松村正直

右訴訟代理人弁護士 山田作之助

被控訴人(被参加人) 神戸港湾企業株式会社

右代表者代表取締役 大津正二

被控訴人(被参加人) 神戸上屋作業株式会社

右代表者代表取締役(共同) 小山正衛

同 浅野兼人

被控訴人三名訴訟代理人弁護士 松井幹男

主文

被控訴人三菱倉庫株式会社、同神戸上屋作業株式会社は参加人に対し各自金二三四万七八二二円及びこれに対する昭和四八年五月三〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

参加人の被控訴人神戸港湾企業株式会社に対する請求を棄却する。

当審における訴訟費用中、参加人と被控訴人三菱倉庫株式会社、同神戸上屋作業株式会社との間に生じた分は右被控訴人らの負担とし、参加人と被控訴人神戸港湾企業株式会社との間に生じた分は参加人の負担とする。

この判決主文一項は仮に執行することができる。

事実

参加代理人は「被控訴人らは参加人に対し各自金二三四万七八二二円及びこれに対する昭和四八年五月三〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。参加費用は被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、

被控訴代理人は「参加人の請求をいずれも棄却する。参加費用は参加人の負担とする。」との判決を求めた。

参加人の主張及び証拠の提出援用認否は、原判決事実第二の一、四及び第三の一、被控訴人らの主張及び証拠の提出援用認否は、同第二の二、三及び第三の二にそれぞれ摘示されたとおりである(但し、次のとおり付加・訂正する。)から、これを引用する。

(参加人の主張)

一、原判決三枚目表三行目「カートン(」の次に「一カートン当りの重量約三〇キログラム、」を挿入する。

二、1.請求原因3の補足

本件カートン転落事故が本件作業員の重大な過失に基くことは次の諸点からも明らかである。

(一)本件カートンの重量に鑑みればこれを僅か二本の柱で押し上げるフオークリフトトラック(以下、本件リフトという。)において、その操作中における振動はすくなくないし(被控訴人主張の本件リフトの能力は操作中の振動の有無とは全く関係がない。)リフトの爪とカートンの摩擦も大きい。

(二)荷受人から依頼された運送業者のトラック(以下、本件トラックという。)荷台上に、その規格が画一なカートンが、その上に載せられたパレットが傾斜するほど凸凹に積付されたことは考ええない。

(三)本件トラック上の積付の状況は、本件作業員がこれをみうる状態にあった。

(四)港湾作業における現認書は、自己の作業範囲内で事故が生じたことを明らかにするに止まらず、発行者の責任を事実上推定させる重要な証拠である(荷主がその作業実態に立入り過失を主張立証することは極めて困難であるから、現認書発行者がその作業範囲内で事故が発生したことを自認する以上、それが自己の責任事由によらないことを立証しない限り、その責任が推定されるものと解するのが相当である。)ところ、本件事故については、被控訴人倉庫が現認書(甲第七号証)を発行し、それには「トラック積込に際して」一一パレットを搬出しトラック上に積置する際に荷崩し」との記載がある。

2.(一)港湾作業者が荷受人側トラック(以下、トラックという。)への積込に関与するのは通常の作業実態であり、被控訴人らの請負った契約内容も右積込作業を含んでいる。

(二)被控訴人らの後記主張一2のとおり料率表が改訂されたことは認める。右改訂は前記作業実態に鑑み、トラックへの積込が港湾作業者の作業範囲に属することを明らかにしたものである。なお、右料金は、海上運送人との契約により被控訴人ら港湾作業者が支払を受けるもので、荷送人・荷受人はその定めに関係がない。

(三)仮に、トラック積込作業が港湾作業者にとってサービス行為に過ぎないとしても、その点は、不法行為法上の過失の成否に影響しない。

3.被控訴人らの後記主張一(2(二)の料率表改訂を除く。)は争う。

三、抗弁に対する認否1の補足

1.荷主住友化学工業株式会社(以下、住友化学という。)は、被控訴人らとの間に港湾運送契約を締結したことがなく、その他被控訴人らとの間になんらの契約関係も存しない。被控訴人らは運送契約当事者の履行補助者であっても契約当事者とは同視されない。

2.海上運送の不法行為責任に関して、運送人の履行補助者にも運送人と同様の責任制限を認めるべきものではない。すなわち、運送人の免責のためには、一方では運送人に厳しい立証責任を課し、あるいは責任の推定規定をおき、全体として均衡のとれた規制を行っているのであるから、履行補助者に責任制限の利益享受のみを認めるのは権衡を失する。さらに、履行補助者の責任追及のためには、荷主側はその管理下を離れた過程で生ずる事故につき多数の履行補助者の中から行為者を特定し、そのうえその故意または過失を立証しなければならないのであって、かかる至難の関門を通過した荷主側に通常の不法行為責任を追及しうる地位が認められるのは決して不合理ではない。もっとも、履行補助者の責任が減免されない場合、その出捐を運送人が填補することになりうるとしても、この点は履行補助者の責任制限の法律上の根拠とならず、仮に、かような制限が必要であるとしても、せいぜい運送人の支配管理下に属する零細業者に認めれば足りる。以上のことからすると、運送人の負うべき責任を履行補助者にも問いえないとしても不都合でないとの説は根拠がない。

したがって、海上運送人の支配を離れた独立の巨大企業である被控訴人倉庫にまで運送人同様の責任制限を適用すべきではなく、同被控訴人が運送人の責任制限を援用しえない以上、その履行補助者である他の被控訴人らも実質的に運送人の企業組織外の者として右責任制限の利益を享受しえない。

3.仮に、かかる規定が履行補助者に適用される場合があるとしても、運送人の被用者たる履行補助者に止まり、運送人から業務の委託を受け、自己の裁量によりその業務を遂行し、その利益を直接享受している運送業者がその過失により貨物に損害を与えた場合には、その責任を制限する必要がない。

4.国際海上物品運送法(以下、国際海運法という。)に定める運送人の責任に関する規定は、契約当事者としての債務不履行責任に関するものであって、契約外の第三者に適用されるものではなく、商法五七八条等の責任制限規定も、運送業に従事する地位にあるというだけで契約関係の有無に拘らず適用されるいわれはない。

また、被控訴人倉庫の港湾運送約款についても右と全く同様である。右約款が契約外の者に適用されるとの説は、荷役業者が業務約款をもち、その責任制限条項が周知のものであれば、荷送人はその条項の対抗を受けることを承知のうえで海上運送契約を締結したと解すべきであるというのである。しかし、かかる約款の周知性は極めて疑わしく、また、荷送人が約款による責任制度を承認して海上運送人と契約したとしても、これにより荷送人が選択したわけでもない荷役業者と契約関係にあるのと同一の結果となるのは相当ではないし、さらに、港湾運送約款では、国際海運法で禁止される事項についても免責約款が設けられていることが多く、この場合荷役業者か海上運送人以上の免責を受けうることとなって不合理である。

四、抗弁1に対して

1.抗弁1の事実及び被控訴人らの後記主張三2ないし4は争う。

2.高価品とは容積・重量に比し著しく価額の高いものをいうが、商法五七八条、前記約款一三条、船荷証券(乙第三、第四号証)などの例示内容(貨幣、有価証券、貴金属等)からすれば、判断基準はかなり高価なものと考えられ、航空貨物にあっては高価品の基準は一キログラム当り一〇〇〇米ドルである。

3.本件貨物は、その価格(一キログラム当り約二万五〇〇〇円)からすれば、通常の抗生物質に過ぎず、高価品に当らない。

なお、商法五七八条の高価品と、前記約款のそれは、同一とはいいきれず、仮に本件貨物が右約款の高価品に該当しても、商法の高価品とはいえない。

4.運送業者らの実務上、本件貨物程度の貨物は高価品として扱われず、同種貨物の他の事故につき運送人側から高価品免責の主張がなされたことはない。

5.仮に、本件貨物が高価品であるとすれば、荷送人はその運送委託に当りその旨を明告した。その価額明告がなかったとしても、本件貨物の内容については、船荷証券及び荷渡指図書に明記されており、さらに、被控訴人倉庫は本件貨物と同一種類の貨物輸入につき陸揚代理人として継続的に関与していて、その余の被控訴人らは被控訴人倉庫の荷役作業の独占的下請人であって、いずれも本件貨物が高価品であることを知っていたから、被控訴人らは高価品を理由とする免責の主張をなしえない。

五、抗弁2に対して

1.抗弁2は争う。

2.前記約款一〇条は、冷凍品等の温度調節や可燃物に対する特殊な運送用具の使用など、その運送手段において特別な注意、取扱を要するものについての定めであって、本件貨物のように通常の輸送方法によるものには適用されない。

3.本件カートン三個の中味全部一万〇八〇〇瓶が廃棄処分となったのは、これらの瓶(破損六〇瓶を除く。)につき栓に白色の変色がみられ、その精密検査に要する費用が商品価格を超えたためであって、荷役作業上の扱いとは関係がない。

4.これと同種の他の事故の場合、右約款による免責の主張はなされていない。

5.本件損害は通常の貨物取扱上の通常の注意義務を怠った本件作業員の過失による事故に基くものであって、右約款一〇条の適用される余地は全くない。

六、抗弁3、4及び後記主張五は争う。

七、請求原因8

参加人は、脱退控訴人から昭和五三年三月一日脱退控訴人が被控訴人らに対して有する請求原因7の損害賠償金及び遅延損害金支払請求債権を譲受け、脱退控訴人は被控訴人らに対し同年一〇月一三日付内容証明郵便をもって右債権譲渡を通知し、右通知は同月一六日被控訴人倉庫に、同月一四日その余の被控訴人両名にそれぞれ到達した。

よって、以上の金員の支払を求める。

(被控訴人らの主張)

一、請求原因に対する認否3の補足

1.本件カートン転落事故が荷受人側の本件トラック運転手等の過失によることは、次の諸点からも明らかである。

(一)本件リフトの能力は二トンの物を地上から約三メートルの高さまで挙げうるもので、本件事故発生時の荷重約三七〇キログラムは、右能力の僅か一八・五%であって、この程度の荷重によってパレット上の貨物に振動を与えることはありえない。

(二)作業現場は舗装された平坦な地面で、本件リフトが走行時に、荷崩れするほどの振動を生ずるはずがない。また、トラック荷台上に爪を差出すときは、本件リフトはトラック車側に静止していて、本件リフトに振動を生ずる原因もない。

(三)トラック荷台上の既積貨物上にパレットを下したときは、パレットの下側は同貨物に接し、本件リフトの爪によってパレット上の貨物を支えているのではないから(既積貨物上面に凸凹や傾斜があれば、爪にパレットの傾斜を防止する力が作用するものの、パレット及び同上貨物の重量を受けるのは既積貨物である。)、爪を引抜くときの爪とパレットとの間の摩擦は問題とならない。

(四)本件貨物の梱包は〇・九立方フィートから三・七立方フィートまでの七種類もあって、これを無差別に積付ければ上面に凸凹や傾斜を生ずるのが当然である。

(五)参加人の前記主張二1(四)のうち、現認書が自己の作業範囲内で事故が発生したことを明らかにするものであることは認める。しかし、現認書は、保険者に対する保険金請求の疎明資料として右の点を明らかにするに過ぎず、発行者の有責を承認したものではない(責任の有無は容易に決しうるところではない。)。

2.港湾作業者が貨物を荷受人側の車側におろして引渡した後の貨物の積込積付が荷受人側の作業に属することは、神戸港港湾料率表の別掲料金表に車側までの料金を定め、昭和五〇年七月二四日の右料率表改訂により同表にトラック積卸手伝料金(荷主から受けるべきもの)が設けられたことからも明らかである。

3.参加人の前記主張二(前記一1(五)前段で認めた点を除く。)は争う。

二、原判決八枚目表四行目の次に「被控訴人倉庫、同神港企業は、本件作業員に対し指揮監督権をもたないから、使用者責任を負わない。」を挿入する。

三、抗弁1の訂正・補足

1.原判決八枚目表七、八行目の「二・二五キログラム」を「三〇キログラム」と、同九行目の「商法」を「国際海運法二〇条二項により準用される商法」とそれぞれ改める。

2.高価品とは容積・重量に比し価額の高いものをいい、その基準は社会通念をもって判断されるべきものであるところ、本件において、国際海運法一三条一項は、右判断の一基準とはなるが、航空運送における基準は本件に適用すべきではなく、本件カートンは、船荷証券(乙第三、第四号証)の一七条の高価化学品に該当する高価品である。(薬品・化学品というだけで高価品であると主張するものではない。)。

3.海上運送においては、荷送人は高価品を明告し、割増運賃を支払うことにより高価品の取扱を受け、その旨の明告がなければ、運送人・履行補助者は貨物が高価品であることを判別できない。すなわち、海上運送における普通貨物については、梱包に印された記号(船荷証券のマークス・アンド・ナンバーズ欄記載)によって荷役作業が行われ、その際梱包の中味は作業者においてチエックしないし、チエックできるものではない。

4.免責の抗弁を主張するか否かは当事者の自由であり、事故態様のみならず、関係当事者間の取引関係によって大きく左右されるから、他の事故において免責の主張がなされなかったからといって、本件事故の免責事由に当らないといえない。

5.参加人の前記主張四2ないし5は争う。

四、抗弁2の訂正・補足

1.原判決八枚目裏三行目の「法規上」の前に「特別の注意、特別の取扱方または」を挿入し、同一一行目の「該当するというべきであるのに」を「該当し、またはその取扱については特別の注意、特別の取扱方を必要とするものであったが」と改める。

2.参加人の前記主張五2ないし5は争う。

五、仮に被控訴人らに不法行為責任があるとしても、その賠償すべき損害額は相当因果関係の範囲に限定されるべきところ(民法四一六条準用)、本件貨物が高価品であり、医薬品として特別の注意、特別の取扱方または法規上特別の取扱を要するものであったことは、委託者から明告がなく受託者がこれを知らなかったから、国際海運法一三条一項に規定する責任限度額を超える部分は特別損害であって、被控訴人らに責任はない。

六、請求原因8の事実中、債権譲渡の点は不知、その通知及び到達の事実は認める。

(証拠)<省略>

理由

(請求原因に対する判断)

一、被控訴人らが参加人主張の営業を目的とする会社であること、参加人主張の外国会社が汽船ゴールデンペア号により北米から神戸港に運送した住友化学所有の本件カートンを含む輸入薬品について、被控訴人倉庫は右外国会社からランデイング・エイジエント(陸揚代理人)として港湾輸送及び保管を委託されたので、本件倉庫にこれを保管し、かつ、荷受人に引渡す業務を被控訴人神港企業に請負わせ、同被控訴人はこれを被控訴人神戸上屋に下請わせたこと、同被控訴人の従業員(本件作業員)が参加人主張のとおり本件カートン(一個当り重量約三〇キログラム)をその所有者から依頼された運送業者のトラックに積込むため、これを載せたパレットを本件リフトで持ち揚げ、右パレットが本件トラック荷台の真上になるように本件リフトを前進させ、次にパレットを降下させたところ、本件カートン中六個が転落し、そのうち三個が突堤から海中に転落したことは当事者間に争いがない。

二、<証拠>によれば、港湾運送業者が荷受人に対し港湾の上屋に保管されている陸揚貨物を引渡す場合荷受人側が用意したトラックの車側においてこれを引渡すのを建前とするが、荷渡の実際としてはトラック側の依頼がなくても、港湾運送業者がトラックの車側においてリフトでそのまま貨物を持ち上げてトラック荷台上にパレットごと取卸し、一方、トラック運転手等は荷台上において貨物をパレットから下ろして荷台に積付けるのを例としていたことが認められ、右の事実と<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

1.本件作業員は、右の取扱例にしたがい、本件リフトで本件カートンを載せたパレットを地上約二〇センチメートルの高さに持ち上げながら、本件倉庫内(本件カートンが保管されていた場所)から本件倉庫出入口の約七メートル外側(作業場外の突堤道路上)に停車中の本件トラック荷台脇と直角に接する直前に至ったが、右荷台上には既に地上約三メートルの高さまで貨物が積まれていたので、右パレットを地上約三メートルの高さまで上げてからそれが前記荷台の真上に位置するまで本件リフトを右荷台に向けて前進させたのち、爪を下げてパレットを前記既積貨物上に置こうとした(その間パレット上の本件カートンの状況を確認していなかった。)ところ、右爪の下降中あるいは遅くともパレットが右既積貨物に接した瞬間、爪に挾まれていた右パレットが動揺し、パレット上の本件カートンが荷崩れを起して六個が荷台下の海側(本件リフトの反対側)突堤上に転落し、うち三個が本件トラックから約三メートル離れた岸壁下の海中に転落した。

2.本件リフトには車台にスプリングが装着されていないため、車輪の受けた衝撃が爪に、さらに爪を挾んでいるパレットにそのまま伝わり、ひいてはパレット上のカートンを移動させることも十分ありうるものであり、本件トラックが停まっていた付近一帯の地面は舗装されてはいるが、同所倉庫側はかなりの急斜面となっているほか、本件倉庫内から右車側までの間には倉庫扉のガイドレール、防潮扉溝用踏板などがあり、本件リフトがその間を走行する際には、車輪に衝撃を受ける原因はすくなからず存在する。

3.岸壁近くでの荷役作業では、予め網を張り、フエンスを置くなど貨物の海中転落を防止する措置をとったうえ作業をする例もすくなくないが、本件の場合、かかる措置がなされていなかった。

証人平野英夫は原審及び当審において、本件作業員が右パレットを前記既積貨物上に置き本件リフトを後退させて右パレットから爪を切抜いた直後にパレットが傾斜してカートンが転落するのを目撃した旨証言するけれども、右証言自体曖昧であって同証人の認識の正確性を疑う余地が十分に存すること、本件カートン中三個(一カートン当りの重さ約三〇キログラム)もが岸壁下まで転落したのであるから、単に荷台下に落下したというよりは、同地面に激しく転落してバウンドしたとみるほかはないが、右証言にいう時点でパレットに衝撃が加わった事実が窺われないので、かかる時点での荷崩れは想定し難いこと、また、右平野が作成した現認書(甲第七号証)には「トラック積込に際して」「トラック上に積装する際に荷崩し」との記載があることを考慮すれば、右平野の証言は前掲各証拠と対比して容易に措信することができない。なお、弁論の全趣旨によれば、本件リフトの爪の昇降はその構造上急激になしえないことが認められるが、このことは、爪の昇降時にそれに挾まれたパレットに動揺を与えないことにはならないし、また、前記爪の昇降時にパレット上に本件カートンがどのような状況で存したかが明らかでなく、パレットの動揺による荷崩れの可能性を否定することはできないし、荷積みリフトがトラック荷台脇で爪を上げてから荷台に接近し爪を下げるまでの操作(以下、荷台脇操作という。)の間にはリフト自体最も安定を欠き易い状態にあることは、成立に争いのない乙第六号証の港湾貨物運送事業労働災害防止規程四〇条二号がリフトの重心を低くして走行することを定めていることからしても明らかである。

以上の認定事実に基いて判断するに、本件カートン荷崩れの原因となったパレット動揺の時点は必ずしも明らかではないが、本件カートン中海中に転落した三個の荷台下への転落は、本件リフトが本件トラック荷台脇に至るまでの間に既に走行中の振動に基くパレットの動揺によって本件カートン荷積みの緩みが生じていたところ、右緩みが荷台脇操作の間に拡大してパレットが動揺し荷崩れを生じたものであるか、又は右緩みに荷台脇操作の振動によるパレットの動揺が加わって荷崩れを生じたものであるか、もしくは、本件リフトが右荷台脇に至るまでの間には本件カートン荷積みの緩みが全くなかったところ、荷台脇操作の振動に基くパレットの動揺によって一挙に荷崩れを生じたものであるかのうち、いずれかの場合によるパレットの動揺に起因するものと推認するのが相当である。

港湾運送業者は取扱貨物につき善良な管理者の注意をもってその毀滅を防止すべき業務上の注意義務があるところ、岸壁近くでトラック積込作業に従事する場合には、予め網を張るなどの海中転落の防止措置をとるか、海中転落の原因となる事態が発生しないよう細心の注意を払うべきものであり、また、リフトの走行や爪の昇降は、パレット上の貨物に転落原因となりうる動揺を与える危険があるから、荷崩れを生じないよう適切に操作すべきであり、ことに、リフトの荷台脇操作の際には衝撃による荷崩れの危険が極めて大きいから、パレット上の貨物の状況を確認し、荷崩れの危険を除いてからでなければ爪を下降させる操作をしてはならないものというべきである。もっとも、港湾運送業者のリフトの荷台脇操作は、荷受人側のためのサービスというべき面があることは否定できないが、港湾運送業者は、本来の業務に関連して右のように貨物を取扱っているのであるから、なお善良な管理者としての注意義務を免れない。

したがって、本件作業員は、被控訴人神戸上屋の被用者としてその事業の執行(本来の作業範囲内であるか否かはもとより問題ではない。)につき前記注意義務を怠り漫然本件リフトの爪の下降操作をなした過失により前記転落事故を発生せしめたものであるから、同被控訴人は、民法七一五条一項によりこれに起因する損害を賠償すべき責任がある。

三、前記一の争いない事実と<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、右各証言及び代表者尋問の結果中この認定に副わない部分は措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1.被控訴人倉庫は、本件倉庫についてその取扱貨物の保管荷捌及びこれに附随する作業を被控訴人神港企業に請負わせる形式をとっているが、被控訴人神港企業は右作業につきその作業をなすべき人・機械等を全く有せず、その全部を被控訴人神戸上屋に下請させているものであって、形式上の請負人であるに止まり、右作業の実施についてなんらの関与もしていない。

2.被控訴人倉庫は、右実態を熟知しながら前記請負の契約を結んでいるものであり、本件倉庫の存する第八突堤に事務所を設けて駐在員平野英夫を常駐させ、同駐在員が被控訴人神戸上屋に対し陸揚げの日時、積み替貨物の積み方、輸入貨物事故のクレーム処理等について指示していたほか、荷受人からの荷渡指図書を受付けて、そのつど同被控訴人に対し貨物の引渡作業の日時を指示し、右引渡作業の遂行についても、同駐在員が検品に立会い、同被控訴人からの報告を待たず、自ら確認していた。

3.本件貨物の引渡作業も、右駐在員の指示により遂行され、同駐在員の立会中に本件転落事故が発生したものであって、右事故について右駐在員が荷受人側の運送業者に対し直接現認書(前記甲第七号証、港湾作業における現認書は自己の作業範囲内で事故が発生したことを明らかにするものであることは当事者間に争いがない。)を作成した。

以上の事実によれば、被控訴人倉庫は、本件貨物の引渡作業について少くとも間接的に本件作業員を指揮監督していたものと認めるのが相当であるから、本件作業員の実質上の使用者として民法七一五条一項の責任を負うが、同神港企業は、本件貨物の引渡作業について実質的に無関係であるから、右法条の責任を負うべき地位にはないもの(被控訴人神港企業は、同倉庫に対し、前記契約書(乙第五号証)により前記作業につき一切の損害賠償責任を負う旨約しているから、契約上の責任を免れず、あるいは本件損害賠償につき被控訴人倉庫から求償を受けることとなろうが、その故をもって不法行為法上の責任があるとはいえない。また、参加人らは責任原因として民法七一六条をも挙げるか、その根拠は見出されない。)といわなければならない。

前記代表者尋問の結果により認められる被控訴人神戸上屋が前記作業につき十数名の常傭従業員や十数台のリフトを擁する港湾運送事業法所定の免許を受けた沿岸荷役業者であることも右判断の妨げとはならない。

四、<証拠>によれば、前記のとおり海中に転落した三カートンの内容は、医薬品(抗生物質)リンコシン三〇〇ミリグラム(二ミリリットル)一万〇八〇〇瓶であって、その保険価格が二三一万七二二二円(本件輸入貨物全体三七万五八四〇瓶、八〇六三万九三四一円を按分する。)であること、右貨物は六〇瓶が破損したほかは海水によって栓が多少白く変色したものもある程度ではあったが、医薬品である以上その使用の可否につき全品精密検査を要し、その費用は商品価格を著しく上回ることが明らかであったから、厚生省の命令により全部廃棄処分したこと、右薬品につき使用の可否を検査するため六〇瓶を通関させるのに要した関税が六〇〇円であること、損害検査費用として三万円を要したことが認められ、特段の事情の認められない本件では、前記保険価格は本邦(到着地)における市場価格を超えないものと推認すべきである。

よって、以上合計二三四万七八二二円が本件転落事故に基き荷主に生じた損害であって、被控訴人倉庫、同神戸上屋がこれを賠償すべき責任を負うものである。

五、そして、<証拠>によると、脱退控訴人は損害保険業者であって、荷主住友化学との間で右医薬品について包括保険契約の下に海上貨物保険契約を締結していたので、昭和四八年五月三〇日右会社に対し前記損害の保険金二三四万七八二二円を支払ったことが明らかである。

してみると、荷主住友化学の有する損害賠償請求権は保険代位に基き脱退控訴人に移転したものということができる。

六、<証拠>によると、参加人は脱退控訴人から昭和五三年三月一日右損害賠償金及びこれに対する損害発生後の前記保険金支払日である昭和四八年五月三〇日以降完済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金支払請求権を譲受けたことが認められ、右債権譲渡につき参加人主張のとおり通知がなされ、右通知が被控訴人倉庫、同神戸上屋に到達したことは当事者間に争いがない。

(抗弁等に対する判断)

七、抗弁1ないし4については、被控訴人ら主張の商法、約款、国際海運法の規定が不法行為責任に関係がないとの参加人の主張に対する判断はしばらくおき、これら規定により本件損害賠償責任が制限されるか否かを順次判断する。

八、抗弁1について

本件貨物は、国際海運法二〇条二項により準用される商法五七八条にいう高価品であるとはいえない。すなわち、本件貨物は前記認定のとおり医薬品(抗生物質)であるが、その品種上当然高価品とみるべき理由はなく、<証拠>によると、右貨物は一カートン約三〇キログラム、約三立方フイートでその価額は約七七万円であるから、その容積もしくは重量に比し社会通念上著しく価額の高いものとはいえない。

また、被控訴人ら主張の約款一三条の高価品も商法五七八条にいう高価品と同意義であって、これより低廉なものを含むと解すべき事由は見出されない。

証人橘泰は、原審及び当審において、本件貨物は高額化学薬品として高価品に属し、また、高価品の下限は一キログラム当り一万円ないし二万円程度あるいは国際海運法一三条一項の一包につき一〇万円を目安としている旨証言するが、右証言は合理的根拠を欠き採用することができない。

しかも、<証拠>によれば、荷送人は送り状(甲第二号証)に貨物の種類(品名)及び価額を明記しており、このことから、荷送人は運送委託に当たり海上運送人に対し貨物の種類及び価額を明告したことが推認される。

よって、抗弁1はいずれにしても理由がない。

九、抗弁2について

右約款一〇条にいう特別の注意、特別の取扱または法規上特別の取扱を要する品物とは、その運送手段において特別な注意、取扱を要する品物またはその運送手段が法規上定められている品物と解するのが相当であって、本件貨物が右のような注意、取扱を要する品物であるというべき事由が見出せない(当該貨物が海中転落の場合、使用不適とされることは法規上特別の取扱を要する事由とはならない。)し、そのうえ、当該貨物が医薬品(抗生物質)であることにつき荷送人から運送人に明告されたことは、成立に争いのない甲第三号証(船荷証券)により明らかであるから、いずれにしても右抗弁は理由がない。

一〇、抗弁3について

右約款二〇条一項は国際海運法三条、四条の規定に反する荷送人、荷受人又は船荷証券所持人に不利益な特約であるが、船荷証券(前掲甲第三号証)には右特約の記載がない以上、陸揚後の事故に基く本件損害について同法一五条四項により船荷証券所持人である住友化学に対抗することができないから、その余の点につき判断するまでもなく、右抗弁は理由がない。

一一、抗弁4について

本件貨物について運送品の種類及び価額が運送の委託の際荷送人により通告されたことは前記八のとおりであって、この場合国際海運法一三条二項により同条一項の適用がないものというべきである。けだし、運送人は貨物の価額の通告があれば、これが実価と著しく異なる場合を除き、これを船荷証券に通告どおり記載すべきところ、船荷証券発行者において故なくこれを記載しなかった場合、船荷証券の交付のない場合との均衡を考慮すれば、この場合でも同法一三条二項の適用があるというべきである。よって、右抗弁は理由がない。

一二、抗弁5(過失相殺)について

被控訴人ら主張のような本件事故の発生につき荷主側のトラック運転手等に過失があったことは、当裁判所が措信しない原審及び当審証人平野英夫の証言を除き、これを認めるに足りる証拠がないから、右抗弁はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

一三、被控訴人らの主張五について

本件貨物は、前記のとおり高価品や特別の注意、特別の取扱方または法規上特別の取扱を要する品物ではなく、本件損害は、民法四一六条二項にいう特別の事情により生じた損害ではないし、また、港湾運送業者にとって予見せず、かつ、予見しえない損害には当らないから、右主張は理由がない。

(結論)

一四、以上の次第で、被控訴人倉庫、同神戸上屋は参加人に対し連帯して前記損害賠償金二三四万七八二二円及びこれに対する損害発生後の前記保険金支払日である昭和四八年五月三〇日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、参加人の被控訴人倉庫、同神戸上屋に対する本訴請求は正当であるからこれを認容し、同神港企業に対する本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 高山晨 大出晃之)

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