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大阪高等裁判所 昭和53年(う)1116号 判決 1978年12月15日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人石丸鉄太郎作成の控訴趣意書記載のとおりである(なお、控訴趣意第一項は量刑不当を主張するものではないと釈明された)から、これを引用する。

論旨は、原判示第二の(二)に関する事実の誤認を主張し、(イ)原判決が車内で強盗についての事前の共謀があるとしている点は事実の誤認であり、(ロ)仮に被告人の所為が刑事上の責任を問われるとしても、それは強盗の幇助にすぎないから、被告人の所為は強盗致傷の幇助と傷害とすべきであるのに、原判決が被告人の所為を強盗の共同正犯にあたると認定している点も事実の誤認であり、右の各誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかしながら、記録を精査し、かつ、当審における事実調べの結果をも併せて検討すると、原判決挙示の証拠によれば、原判示の事実(第二の(二)の事実)は十分認めることができ、その理由も原判決説示のとおりである。

若干ふえんすると、原審相被告人藤岡泰幸が、同人らの同乗する自動車の後を本件被害者大植茂治が乗用車で追従してきたのを嫌がつて、車内にいた被告人らに対し、「あの車気分が悪いのお、しばいてしまおうか、金になるしのお」と言つたことは同乗していた福井清市郎がきいて知つていたと原審公判廷において供述しているところであつて、藤岡の右発言は同車に同乗していた被告人も当然きいて知つていたものと推認されること、藤岡の右発言は、要するに、同人運転の車に同乗していた被告人ら数人の者と一諸になつて右大植に暴力を加えたうえ金品を奪おうという趣旨であるから、本件のごとく深夜に通行人もいない暗い場所で数人がかりで一人に暴力を加えてその反抗を抑圧し金品を奪おうということは強盗以外のなにものでもなく、しかも、被告人は、その意図で車から降りた福井及び藤岡についで車から降りて、原判示のとおり、運転席でハンドルにつかまつて引きずり降ろされるのを拒んでいた大植を藤岡と共に強引に車外に引きずり降ろすなどの暴力を加えてその反抗を抑圧したうえ、福井が「金もつとるか」「時計ぐらいもつとるだろう」といつて大植から金品を取ろうとしていたのをそばで見ていたものであること、被告人は藤岡、福井とは原判示第二の(一)のとおり共に本件の八日前に遊興費ほしさに盗みをした仲間であることなどを考えると、被告人は車内において藤岡の前記発言をきいてこれに同調して本件犯行に加わつたものと認められ、強盗の犯意があつたと認めざるをえない。そしてその犯意のもとで大植を車外に引きずり降ろしたうえ、同人の顔面や胸部を各一回殴打したものである以上、被告人の右行為は強盗の実行行為にほかならず、到底強盗の幇助ということはできない。してみると、被告人につき藤岡及び福井との車内での事前共謀を認定し、かつ、被告人の行為を強盗の共同正犯者の行為と認定した原判決に所論のような誤認はない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入することとして、主文のとおり判決する。

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