大判例

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大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)2424号 判決 1980年4月30日

控訴人

井口良夫

外三名

右控訴人ら四名訴訟代理人

田宮敏元

被控訴人

株式会社大盛商事

右代表者

芳野隆二

右訴訟代理人

浜本恒哉

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は、控訴人井口良夫に対し金一三八万六、六六六円、控訴人井口寿也、同井口貴美子、同井口幸三に対し各金九二万円、及びそれぞれ右各金員に対する昭和四九年七月一八日から完済まで年五分の金員を支払え。

三  控訴人井口良夫のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  この判決は控訴人ら勝訴部分に限り仮りに執行できる。

事実《省略》

理由

第一当事者間に争いのない事実

昭和四八年一月九日、井口敏子は被控訴人から本件土地を買受け、同月一九日までにその代金四一六万円を支払い、本件土地につき所有権移転請求権保全の仮登記を了したこと、昭和四九年二月九日到達の書面をもつて井口敏子の相続人である控訴人らが被控訴人に対し、本件土地につき一週間以内に宅地造成工事を履行するよう催告し、その不履行を条件に予め本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたが、被控訴人は右工事をしなかつたことは当事者間に争いがない。

第二本件宅地造成契約成否の検討

一<証拠>を総合すると、

(一)  昭和四七年一二月中頃、藤川誠一は宅地分譲等の不動産業を営む被控訴人会社に入社し、その外務営業担当者として宅地、別荘地等分譲のセールスにあたつていた。

右藤川はその頃被控訴人の上司から、大盛パールランド第一〇期分譲地は雛壇を設け宅地なみに造成する旨の説明を受け、本件分譲地も宅地造成が行なわれるものと思い込み、顧客に対しその旨を伝えて分譲地のセールスを行なつていた。

(二)  その頃、右藤川は友人の野村英二に右分譲地の買入を勧誘し、現地案内をしたうえ雛壇風に宅地造成をする旨説明して現地で仮契約をし、数万円の金員を受領して同人との間に仮契約をした後、昭和四八年一月三日頃あらためて野村との間で不動産売買契約書を作成した。

(三)  昭和四八年一月六日、右藤川は控訴人ら宅を訪問し、井口敏子に対し、本件土地を宅地に造成し、かつ道路舗装、電気、水道、砂防工事をなす旨説明して本件土地購入を勧誘し、これに応じて買入れることを決意した同女から金五万円を受取り仮契約をした。

(四)  同月九日、井口敏子は被控訴人事務所を訪ね、現地を見ないまま、右藤川とその上司である営業部の課長水迫邦男に面談して本件土地につき売買契約を締結し、本件土地のうち一一九号地一番の土地を代金一〇四万円とし、手付金二〇万円及び残金八四万円を同月二九日に支払うものと定め、一二〇号地は代金三一二万円とし、手付金六〇万円を同年一月一〇日、残金二五二万円を同月二五日に支払う旨を約束した。

(五)  右契約に当り、被控訴人の従業員である水迫課長や一時顔を見せた棚橋弘営業部長は、井口敏子に対し、図面によつて道路巾とか、水道の設置位置を説明したのみで、大盛パールランド第一〇期分譲地のうちでも本件土地とその並びの一列の土地のみが宅地造成を行なわず自然林の生い茂つた原野のままで売却するものであることを十分明確に確認せず、井口敏子に手交した売買契約書や物件説明書も宅地造成を行なう土地の分と全く同じものを使用し、また物件説明書(2)―5にも「工事完了時の土地の形状―別紙添付図並びに図面の通り」との記載があり、本件土地が宅地として造成されることを前提としており、しかも宅地造成を行なう土地の場合と同様に、添付図ないし図面が存在しない。

(六)  同月一一日、前示藤川は知人の森本氏芳に本件土地と同じ列にある最上段の分譲地の購入を勧誘し、同日予め被控訴人の記名押印のある所定の契約書用紙を同人方に持参して被控訴人と同人との売買契約を締結した。なお、その際も本件土地と同様宅地造成をする旨説明し、契約書等の記載も前示(五)と同様であつた。

(七)  同年二月一二日、右藤川は友人の山本守哉に本件土地と同列の分譲地購入を勧誘し、本件土地の場合と同様の契約書、物件説明書を持参して、同人から手付金等五二万円を受取り、同人と被控訴人との間の売買契約を締結した。

その際、藤川は本件土地の場合と同じく宅地造成をなす旨の説明をした。

(八)  同月一六日、被控訴人は(権利者)井口敏子に対し、本件土地につき同月一日付の売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を了した。

(九)  同年六月二七日、被控訴人から井口敏子に対し分譲地の工事完成遅延を弁明し、中間報告をなす書面を郵送した。なお、この際も宅地造成を行なわないことを明記していなかつた。

(一〇)  同年七月一九日付で被控訴人は井口敏子に対し、同月三一日に本件土地を含む分譲地の工事が完工するので、現地の完成状態を確認して貰いたい旨の案内書を郵送した。

(一一)  同年一二月三〇日、井口敏子死亡。控訴人良夫は夫として、その余の控訴人三名は子として法定相続分に応じ同女を相続。

(一二)  昭和四九年一月中頃、控訴人良夫の義弟に当る井村幸裕が控訴人らの依頼を受け、本件土地の現地を見たうえ被控訴人事務所の二階の応接室で前示藤川、深沢光一と面談し、本件土地の宅地造成を要請したところ、四月末までに完成するという回答を得た。

(一三)  年二月八日付内容証明郵便をもつて、控訴人らは被控訴人に対し造成工事を督促した。

(一四)  同月一四日付内容証明郵便をもつて、被控訴人は控訴人らに対し、造成工事完了の遅延につき既に了承を得ていること、右工事完了次第本件土地につき所有権移転登記をなすこと、本件造成工事には水道の配管を含むが浄化槽、砂防工事等を含まない旨を回答した。

(一五)  同年三月一八日、被控訴人は本件土地を含む分譲地につき電気引込工事、水道工事を完工した。

(一六)  同年四月八日、被控訴人は山本守哉、控訴人らの分譲地購入者に対し、給水工事、電気工事完了を報告し、管理契約の締結を勧誘した。しかし、本件土地については宅地造成工事をせず、自然林が群生した原野のままであつた。

(一七)  ところで、被控訴人は本件大盛パールランド第一〇期分譲地の造成販売に当り、地元の要請で自然を残すため、本件土地を含む最上段の一列の土地については樹木を残すことにしたものの、高台部分で眺望がよいので、宅地造成をする他の分譲地とほぼ同価額で売却することとしており、藤川以外の営業社員から、右最上段の土地につき一部を道路と同じ高さにし、裏面は山林のままで緑を残すという条件で買入れた者もある。

以上の各事実を認めることができ<る。>

二前認定の各事実を考え併せると、前示藤川誠一は、被控訴人の外務営業担当社員として本件分譲地勧誘販売に従事し、顧客から買入の申込があつたときは数万円の申込金を受領し、ときによつては予め被控訴人の記名押印をした所定売買契約書を持参し、その空欄に所要事項を記載したうえ、手付金を受領し分譲地売買契約を締結する権限を有していたが、それは被控訴人が定めた内容の契約を締結する権限であつて、本件大盛パールランド第一〇期分譲地のうち、最上段の本件土地を含む分譲地は宅地造成工事を行なわず自然林を残した原野のままで売買し、その余の下段の分譲地は、宅地造成を行なつて売買するというものであつたことが認められ、本件土地につき右藤川が宅地造成を行なう旨の契約を締結する代理権を有していたとする控訴人主張の事実は本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない。

三前認定一(三)(四)の事実に照らすと、右藤川は井口敏子に対し本件土地を宅地に造成する旨説明し、同女から申込金五万円を受取つて仮契約をし、ついで被控訴人事務所で契約書を作成し手付金を授受する際にも被控訴人側では藤川において右のような説明をしたことを知らず、とくに宅地造成を行なう旨の藤川の説明を撤回、変更することはなかつたことが認められる。

(一)  したがつて、本件土地につき造成工事をする旨の契約をなした右藤川の行為は、その代理権を越えた権限外の行為であるといわねばならない。

(二)  ところで、商法四三条所定の番頭手代その他の使用人とは、営業に関するある種類又は特定の事項に関し部分的包括代理権を有する地位にある使用人、即ち会社の部長、課長、主任、係長などを指すのであつて、右藤川がこのような部分的包括代理権を有する地位にある使用人であつたという控訴人ら主張の事実は本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

(三) 次に、井口敏子において、右藤川に民法一一〇条所定の代理権ありと信ずべき正当の理由があるか否かにつき検討するに、前認定の各事実、とくに一(一)(三)ないし(五)の事実を考え併せると、井口敏子は本件土地の買入れに当り右藤川から右一(一)(三)のような説明を受けたことから、右藤川に宅地造成契約をなす代理権限があると信じ本件土地につき宅地造成付売買契約を締結したものであり、かつ、藤川が本件第一〇期分譲地のうち本件土地を含む最上段の一列の土地を除き他の土地全部については宅地造成付売買契約をなす代理権限を有していたこと、本件土地の売買契約書に添付されている物件説明書には「工事完了時の土地の形状―別紙添付図並びに図面の通り」との記載があり、これは宅地造成を行なうことを窺わせるものといえることに照らし、同女において右藤川が造成契約を締結する代理権を有するものと信ずるにつき、善意、無過失であつて正当理由があるものということができ<る。>

したがつて、被控訴人は井口敏子に対し本件土地につき宅地造成付の売買契約が有効に成立したものとしてその契約上の責任を負うといわねばならない。

第三結論

一前示第一のとおり昭和四九年二月九日到達の書面をもつて、井口敏子の相続人である控訴人らが被控訴人に対し、一週間以内に本件土地の宅地造成工事を履行するよう催告し、その不履行を条件に予め本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたが、被控訴人が右造成工事をしなかつたこと、井口敏子が本件土地の売買代金として合計四一六万円を被控訴人に支払ずみであることについては当事者間に争いがないから、被控訴人は前認定第二の一(二)のとおり井口敏子の相続人である控訴人らに対し、本件土地の売買契約解除による原状回復義務として、右売買代金計四一六万円(但し、法定相続分に従い控訴人良夫についてはその三分の一にあたる金一三八万六、六六六円、その余の控訴人らについてはその各九分の二にあたる金額のうち請求額たる各金九二万円)、及びこれに対する本訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年七月一八日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金を支払うべき義務がある。

二したがつて、その余の判断をするまでもなく、被控訴人に対しその支払を求める本訴請求は右の限度で正当であるから、これを認容すべきであり、控訴人井口良夫につき法定相続分の三分の一を越える金員の支払を求める本訴請求部分を棄却すべきものである。よつて、これと異なる原判決を主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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