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大阪高等裁判所 昭和44年(行コ)44号 判決 1970年2月23日

控訴人(被告) 兵庫県尼崎財務事務所長

被控訴人(原告) 三輪康治

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする、との判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述ならびに証拠の関係は、控訴代理人においてつぎのとおり陳述したほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴代理人の新たな陳述)

地方税法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは、私法上の不動産の取得を意味するものであり、これと別異に解すべき理由はない。これを本件においてみるに、なるほど民法上は、合意解除はもとの契約により生じた法律効果は、すべて遡及的に消滅すると解されている。しかし、そのことは、もとの売買契約により被控訴人から訴外三輪不動産株式会社に本件の不動産の所有権が有効に移転し、合意解除によりふたたび被控訴人が所有権を取得することを否定するものではない。つまり同会社の所有権取得の事実があり、ふたたび被控訴人に所有権取得の事実がある以上、被控訴人に対しても、その取得時において課税されてしかるべきである。

理由

一  被控訴人が訴外三輪不動産株式会社に本件土地を売り渡すこととして所有権移転登記をし、その後合意解除を原因として右移転登記の抹消手続をしたこと、被控訴人が同会社の代表取締役であることは、いずれも、当事者間に争いがない。

右争いのない各事実に、成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証および乙第四号証ならびに原審における証人竹内正夫の証言および被控訴本人の供述を総合すると、

(一)  被控訴人は、昭和四一年三月一日、自己が代表取締役をしている右会社との間で、本件土地を代金二二〇万円余で同会社に売り渡す旨の売買契約を締結し、同月一八日その旨の所有権移転登記を済ませたこと。

(二)  右売買は、借地人と明渡しの交渉をするための便宜も考えてしたものではあるが、単に名義だけを変えたのではなく、真実所有権を移転し代金を授受する意思のもとに締結したこと。

(三)  ところが、同会社は代金を支払える見込みがたたず、また借地人との交渉が進展しないこともあつて、被控訴人の土地返還の求めにより、昭和四二年八月一五日、両者の間で右売買契約を合意解除し、同月二四日前記移転登記の抹消手続をしたこと。

等の事実を認めることができる。右被控訴本人の供述中には、右(一)の売買は仮装のものであるという趣旨の部分があるけれども、これは、同じ被控訴本人の他の供述部分に照らし信用できず、ほかには右の各事実認定を動かすに足りる証拠はない。なお、右売買および合意解除は、いずれも、取締役・会社間の取引ではあるが、右認定のように所有権移転登記および抹消登記が経由されていることと、成立に争いのない甲第五号証および本件口頭弁論の全趣旨によると、右各取引については取締役会の承認もあつたものと推認することができる。

二  そこで、右認定の売買および合意解除が、地方税法第七三条の二第一項の「不動産の取得」という不動産取得税の課税原因にあたるかどうかを判断する。

(一)  まず売買についてみるに、その契約の効果として、本件土地所有権は、被控訴人から三輪不動産に移転したものというべきである。被控訴人は、代金未払を理由にこれを争うけれども、代金未払の一事をもつて所有権がまだ売主に留保されていると解することはできないのみならず、前記のように所有権移転登記まで済んでいる以上、所有権の移転はもはや確定的であるというほかはない。なお、成立に争いのない甲第六号証によると、西宮税務署長は、三輪不動産が支払つた不動産取得税は被控訴人のための立替金であるとの理由で法人税の更正決定をしたことが認められるけれども、それ自体、右に説示した所有権の移転を否定するものではないから、右の判断の妨げとはならない。

このように、右認定の売買によつて、本件土地の所有権が被控訴人から三輪不動権に移転したのであるから、地方税法の適用にあたつても、同会社は「不動産の取得」をしたものと解すべきである。

(二)  つぎに合意解除について考察するに、前記一の(三)で認定したところからすると、本件の合意解除は、民法第五四一条以下のいわゆる法定解除におけると同様、売買契約がはじめからなかつたのと同一の法律効果を生じさせようとする趣旨のものと解される。しかし、合意解除が契約の遡及的消滅を目的とするといつても、すべてが白紙にもどるわけではなく、すでに三輪不動産に本件土地所有権が移転し、不動産取得税の課税要件が充足されたという事態まで除去してしまうことはできない。また、右認定のように合意解除を原因として所有権移転登記が抹消されていても、それは、不実の登記を是正し真正な所有名義を回復するためのものではなく、合意解除という新たな法律要件の発生に伴うものと理解しなければならない。要するに、合意解除がその趣旨に従つて契約の遡及的消滅という効果をもつのは、契約の拘束力から解放されるための手段にすぎず、一方、不動産取得税の課税というのは契約の拘束力とはおよそ関係がない(契約の効力として課税されるのではない)のであるから、不動産取得税の課税という観点からするかぎり、いつたん買主に移転した所有権が売主のもとに再度移転するものと扱うのが相当である。これと反対の見解もないではないが、(甲第四号証参照)、契約を存続せしめつつ相手方の履行を期待して自己の権利の保護をはかることもできたはずであり、合意解除は当事者の自由な選択にもとづくものであるから、所有権の再移転と扱われてもやむをえないところである。

したがつて、本件の合意解除による土地所有権の被控訴人への復帰も、「不動産の取得」として、不動産取得税の課税要件を充足するものといわざるをえない。

三  以上のように、被控訴人は、昭和四二年八月一五日、本件土地を取得したものであるところ、控訴人が被控訴人に対し同年一一月一〇日付納税告知書によつて不動産取得税一二三、九九〇円の賦課処分をしたことは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない乙第五号証および第六号証によつて認められる本件土地の固定資産価格からすると、右税額の算定は適正なものということができる。

よつて、本件賦課処分にはなんら違法の点はないから、その違法を前提とする被控訴人の本訴請求は理由がなく、これを認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上喜夫 賀集唱 潮久郎)

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