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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)1784号 判決 1969年6月26日

控訴人 嶽山男三武

右訴訟代理人弁護士 森茂

被控訴人 家辺市太郎

右訴訟代理人弁護士 山崎一雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、原判決添付目録記載の不動産につき、昭和三九年一一月一六日の売買を原因としてその所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人提出の答弁書は、主文同旨の判決を求めるというにある。

当事者双方の主張、証拠関係は、控訴人が次の主張を付加したほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

大審院従前の判例は、不動産が甲、乙、丙と順次売買され、中間者乙の同意があれば、乙への登記を省略して甲から丙へ所有権移転登記をなし得ることを明らかにしていたが、最高裁昭和三〇年七月五日と同三四年二月一二日の各判例は、当事者間の合意の有無を問わず、実体上の所有権者は、登記簿上の所有名義人に対し、その所有権移転登記を求め得ることを認めるに至った。控訴人は、右の理により本件不動産の実体上の所有権に基づき被控訴人に対し、直接本登記手続を求める。

本件の中間者矢部照子は、登記簿上の所有名義人である被控訴人に対する本件各物件の所有権移転請求権の順位を控訴人に譲渡したのであり、このことは右照子は、後日控訴人が本件各物件の所有権を取得したときは照子への登記を省略して、被控訴人から直接控訴人に所有権移転登記をなすことを予め合意していたものと認められなければならない。

以上の理由により控訴人の本訴請求は至当である。

理由

控訴人の請求原因に対する当裁判所の判断は、原判決による原審の判断と同一であるから、それをここに引用し、次の説明を付加する。

控訴人は、最高裁判所の各判例を引用し、当事者間の合意の有無を問わず、実体上の所有権者は、登記簿上の所有名義人に対し所有権移転登記を請求できると主張しているが、控訴人指摘の各判例は、不動産の所有権が甲乙丙と順次移転されたのでなくして実体上の所有権者と登記簿上の所有名義人が一致しない場合に、実体上の所有権者は、登記名義人に対し抹消登記でなくして、所有権移転登記を求め得るとしたに過ぎず、本件のごとく、物件の所有権が甲乙丙と順次移転した場合に、乙の承諾の有無を問わず、甲から丙へ直接所有権移転登記ができるとした判例ではなく、かつ乙という中間者がある場合、その中間者の同意なくして甲から丙へ直接所有権移転登記をなし得るとせば、中間者乙の有する登記請求権を不当に排斥し損害を与える虞があるので、控訴人のこの主張は採用できない。

次に、控訴人は、中間者照子が被控訴人に対する本件各物件の所有権移転請求権の順位を控訴人に譲渡したことは、中間省略の登記をなすことに同意を与えていたものであるという趣旨の主張をしているが、≪証拠省略≫によれば、照子が控訴人に譲渡したのは、所有権移転請求権保全の仮登記であって、多少研究の余地のある、いわゆる物権保全の仮登記を指すものと解される所有権移転の請求権ではないことが認められるのと、所有権移転請求権保全の仮登記を譲渡することは、当裁判所の引用する原判決が説明しているように、仮登記を本登記になし得る地位を譲渡したのであるから、控訴人が被控訴人に対し直接物件の所有権を取得した場合ならそれでよいが、然らざる本件の場合を中間登記の省略に同意したものと解することはできないので、控訴人のこの見解も採用できない。

されば、原審の判断は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないので、これを棄却し、控訴費用の負担につき、民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 宮本勝美 菊地博)

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