大判例

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大阪高等裁判所 昭和42年(行コ)8号 判決 1968年8月29日

控訴人

柏原真次

ほか二名

右三名代理人

松川雄次

ほか四名

被控訴人

中島梭

ほか一名

右両名代理人

松尾利雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人等の負担とする。

事実

第一  控訴人等は、「原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等は、主文と同旨の判決を求めた。

第二  当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の提出援用認否は、被控訴人等において以下のように陳述し、証拠として、乙第三号証の一、二を提出したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、その記載をここに引用する。

一  本訴は、訴提起の方法を誤つた不適法なものであるから、却下されるべきである。その理由は、次のとおりである。

1  控訴人等に対する本件退職手当増額分の支給は、地方公共団体の特別職の職員に対する退職手当の支給(地方自治法第二〇四条第二項)としてなされたものであるが、右支給行為の性質は、同法第二〇六条第一項が「第二〇四条……の規定による給与その他の給付に関する処分」といい、これに対する不服は行政不服審査法に定める審査請求や異議申立てによるべき旨を定めていることからすると、行政処分であることは明瞭である。

2  同法第二四二条の二第一項は、住民訴訟の類型として四種類の請求を掲げているが、本件事案のような場合、住民は第二号の請求(取消または無効確認請求)と第四号の請求(不当利得返還請求)のいずれか一方を任意に選択して訴を提起しうるかが問題となる。右条文は、昭和三八年の地方自治法改正の際に新設されたものであるが、右改正前は住民訴訟についてわずか一項の規定しかなく(旧法第二四三条の二第四項)、しかも私法行為をも含めて広く取消、無効の監査請求ができることになつていたので、監査請求の段階を経た後どのような場合に私法行為の取消、無効の裁判の請求をなしうるのか明確性を欠き、この点をめぐつて学説上争いがあつたところから、その混乱を避けるため法条を整理して新規定を設け、私法行為については取消、無効の請求をすべて廃止する代りに、その結果のみを第四号の代位請求で争わせることにし、他方、行政処分の性質を持つ違法行為については、第二号の取消、無効確認請求で争わせ、この場合無効確認請求であつても、請求者がその処分に直接の利害関係を持たない一般住民であることに鑑み、一般の行政訴訟における無効確認請求の場合と異なり出訴期間を制限したほか、判決に対世的効力を認め、処分の有効無効についての法的安定性を図つたものと解されている。この意味で、住民訴訟で問題とされる無効は「公定力ある無効」と称され、その要件効果等につき行政処分の取消しの場合と同等に取扱われているのである。

右のように第二号の請求と第四号の請求とを明白に区別した立法趣旨から考えると、第四号私法行為についてのみ適用されるべきものであり、また住民訴訟という形で行政処分の効力が問題とされる場合には、当該処分に仮に無効原因があつても「公定力ある無効」としてその法的安定性が考慮されているのであるから、その有効無効は必ず第二号の請求によつて判決で対世的に確定されるべきであつて、単に第四号の請求による判決の理由中の判断で決せられるべきものではない。そうすると、本件事案においてはまさに行政処分の効力が問題にされているのであるから、被控訴人等は必ず第二号の請求によらなければならなかつたのである。

3  住民訴訟については、地方自治法第二四二条の二第六項により、行政事件訴訟法第四三条が適用されるから、右訴訟が取消を求めるものである場合には同条第一項により取消訴訟に関する規定が準用されるが、無効確認を求めるものである場合には、同条第二項により同法第三七条と第三八条のみが準用され、第三六条は準用されない。第三六条が準用を除外されているのは、住民訴訟による無効確認請求において問題となる無効は前記のように「公定力ある無効」であつて取消の場合と同等に取扱うのが相当であるからであり、従つて法も取消訴訟に関する規定の準用規定である第三八条を全面的に準用しているのである。取消訴訟については現在の法律関係に引直して訴を提起するこができないことは、公定力のある行政処分の性質上当然であるから、「公定力ある無効」の場合にも無効を前提とする現在の法律関係に引直して訴を提起することは許されないわけである。

二  本件退職手当増額分の支給については、予算議決のほかに単行議決を経る必要はない。その理由は、次のとおりである。

1  退職手当条例第六条の二は、地方自治法第二〇四条第三項が退職手当の額も条例で定めるべき旨を規定しているのを受けて、増額すべき退職手当の額の定めをその都度「市議会の議決」によるべきものとしたが、そのことから直ちに、退職手当増額分の定めと、その定めた結果必要とする予算上の措置とは、形式的ははもちろん実質的にも厳格に区別されるべき議決事件であるということにはならない。

2  地法自治法第九六条は、議会の議決すべき事項を、意思決定機関たる議会の権限という観点から、換言すれば地方公共団体内における執行機関との権限分配という観点から規定したものであつて、議決事項の種類性質を定めたものではない。このことは、同条第一項中にも第一四号のごとき包括規定を設け、更に第二項で広く任意的議決事項の規定を設けていることからも明らかである。従つて、同条第一項第二号と第二項との対比から単行議決を必要とする論旨を導き出すことはできない。

なお、同法第二二二条は、地方公共団体の執機関に対し、議決事項または執行機関の定める規制等につき予算上の措置を適確に講ずべきこととした規定であつて、単行議決を必要とする論旨とは何等関係のない規定である。

3  退職手当条例第六条の二は、単に議会の議決を要することを定めたに止まり、議決の種類、方法については何等規定していないから、どのような方法で議決すべきかは議会の自主的判断に委ねられていると解すべきである。

そもそも地方自治法第二〇四条第三項の規定を受けて右条例の規定が設けられたのは、従来慣行的に退職慰労金が支出されていたのを改めて、その支給の要否及び額について当該地方公共団体の意思決定機関たる議会の議決に委せようとしたものであるから、意思決定機関たる議会はみずから可とする方法をもつて議決すれば足り、必ずしも団体意思の確定を二重に分けてする必要はない。

4  日本国憲法は地方自治について特に一章を設け、第九二条は地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて法律でこれを定めるとしている。従つて、地方公共団体の運営に関する法律の解釈も、地方自治の尊重を指導原理としてなされなければならないし、まして地方自治体の自主法規たる条例の解釈については、当該自治体の判断を尊重しなければならないことは多言を要しない。そうすると、予算議決のほかに単行議決をするのが適当であるとしても、それは当不当の問題に過ぎず、違法の問題は生じないといわなければならず、これを違法の問題とすることは、憲法第九二条の精神に反するものというべきである。

なお、右のように予算議決のほかに単行議決をするかどうかは、自治体の判断に委ねられるべき問題で、当不当の問題であるから、三権分立制を定める現行憲法の下においては、裁判所は、当不当の問題については行政庁の判断を尊重しなければならず、これに司法審査を及ぼすことはできないものである。

5  単行議決についての実際上の運用を見ても、原審証人西村壮一の証言から明らかなように、大阪府においては予算措置を講ずることによつて単行議決を省略する例が多く、例えば非常に大きい予算についてその内容をめぐり討議があつた後、形式的な単行議決をせずに予算が通つたことをもつて単行議決の趣旨が達せられたとする運用、すなわち団体意思の確保を二重に分けてしなくてもよいという運用がなされていた。

結局単行議決をすることの当否は、事案の性質によるべく、例えば予算を伴う新規事業を行なうような場合は、予算議決のほかに単行議決をするのが適当であろうが、本件退職手当のような経常的支出については、実際上もこれを要しないと解すべきであろう。特に本件退職手当の支給については、予算案審議の際に退職手当増額分三五〇万円の内容が予算案の付記事項に明示され、またこれに先行して行なわれた各派幹事長会でも審議され、各議員熱知の下に討論された上で、予算の議決がなされたのであつて、形式的な単行議決がなされなくとも予算が通つたことをもつて団体意思が確保され、法律及び条例が議決を要求した趣旨は達せられたということができる。

三  退職手当条例第六条の二の趣旨が、予算科目中の執行科目である「目節」(議会の議決の対象とならず、予算説明書に記載されるに止まる。)に当る退職手当の増額分につき、特に議会意思に基づいてこれを決定し、もつて民主的統制を確保することにあるとすると、あるいは同条に定める議決は増額についての予算議決では足りず、本会議における単行議決でなければならない(各派幹事長会の申合せのみでも足りない。)という見解もありうるであろう。しかし、仮にこの見解に立つたとしても、予算書に款項のほか目節まで掲げられ、目節において退職手当増額分の額が明記され、かつ、款項と目節とが一括して審議されている本件においては、形式的には一個の議決しか存しないとしても、実質的には款項についての予算議決と目節についての単行議決とが同時に併存するものと解すべきである。けだし、予算議決とは款項についての議決をいい、目節についての予算議決なるものは観念上ありえないのであるが、しかるに目節についても議決がされたということは、その限りにおいて、予算議決とは異なる第六条の二の議決がなされたと解さざるを得ないからである。もつとも、予算書とは別に同条による議決事件であることを明示した議案を提出し、別に単行議決をするのが望ましいことはいうまでもないが、法律や条例に別段の定めがない限り、議案の形式や提出方法は長の裁量に量するから、当、不当の問題はあつても、違法の問題を生ずることはないというべきである。

四  仮に以上の主張がすべて理由がないとしても、昭和四二年三月三日に控訴人柏原は二〇〇万円、控訴人三島は五〇万円を、翌四日に控訴人金藤は一〇〇万円を寝屋川市に返還しており、なお控訴人等が利息や訴訟費用を負担すべきでないことは、次項に述べるとおりであるから、本訴請求は失当である。

控訴人等は、昭和四二年二月二七日大阪地方裁判所から、控訴人等は寝屋川市に対し退職手当増額とこれに対する年五分の割合による金員を支払うべき旨の判決書の送達を受けたが、折悪しく同年四月三〇日施行の市長選挙を控え、被控訴人等は控訴人柏原の対立候補として織田佐太郎を擁立し、市長等は裁判所の判決で支払いを命ぜられたのに退職金を返還しないと悪らつな宣伝を繰り広げたので、市政のため再度控訴人柏原が立候補すべきものと考えた控訴人等としては、金が惜しくて控訴しているのではないことを市民に明らかにして身の潔白を証するため、とりあえず原判決主文記載の元金を前記のように市に支払い、いずれも領収された。右金員の支払いは、控訴審係属後原判決主文に従つてしたのであるが、控訴人等勝訴のときはその還付を受け、被控訴人等の請求が確定判決で認容されたときはそのまま市が取得するとの意図で支払いをしたものであり、市当局も当然のことながら控訴人等の意図を了として領収したのである。なお、市の受入れは、「款諸収入」、「頂雑入」、「目雑入」、「節雑入」となつているが、これは、地方公共団体の財務についても国と同様に会計年度独立の原則がとられるとともに、一会計年度における一切の収入及び支出はすべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならないとされていること、歳入科目の中で他に適当な科目がないことによるものである。

右のように、控訴人等がした支払いは、控訴人等勝訴のときは市から還付を受けるが、被控訴人等の請求が確定判決で認容されたときは、支払金はそのまま市が取得するという法的性質のものであつて、これを典型契約や債務消滅原因の類型で把握することは困難である。けだし、退職金の支給自体が行政処分であつて契約に基づくものではないから、その返還も契約に基づく行為とはいえず、特に本件の場合は未確定の給付判決に従つた支払いであり、また支払いの相手方が地方公共団体であるため受領に法律による財務上の規制がある等の事情があるからである。あえて類型的にいうなら、控訴人等の勝訴の判決があつたときを返還時期とする消費寄託とでもいうほかない。

五  原判決は、控訴人等に対し本件訴状送達の日の翌日からの遅延利息の支払いを命じ、かつ訴訟費用の負担を命じているが、控訴人等は個人として退職手当の支給を受けたのであつて、支給手続上何等かの瑕疵があつたとしても、それは自体内部の問題に過ぎないから、個人たる相手方に支給金員の返還を命じる場合に利息と訴訟費用の負担をさせるのは、公平の原則に反する。控訴人等は善意無過失に本件金員を受領したのであり、前記のように一審判決後その命ずる元金をとりあえず市に支払つているのであるから、かかる事案にあつては、利息は本案判決確定後に発生するものとし、訴訟費用は被控訴人等において負担すべきである。

理由

第一まず本訴の適否について検討する。行政不服審査法及び地方自治法第二〇六条によれば、本訴においてその適法性が争われている市長、助役、収入役に対する退職手当の支給処分は、行政不服審査の対象となる行政庁の処分であり、従つてまた、行政事件訴訟中の抗告訴訟の対象ともなる行政庁の処分であることが明らかであるけれども、地方公共団体の住民が、右退職手当の支給が違法であることを理由として地方自治法第二四二条の二第一項の訴訟(住民訴訟)を提起する場合には、必ずしも同項第二号の請求(行政処分たる違法行為の取消し又は無効確認の請求)をすることを要せず、同項第四号の請求(代位による損害賠償、不当利得返還の請求等)をすることもできるものと解すべきである。

けだし、(イ)明文上、行政処分たる違法行為の結果のみを取り上げて第四号の請求をすることは何等禁じられていない。なお、現行法の下では、昭和三八年法律第九九号による改正前の同法第二四三条の二第四項の解釈上議論があつた私法行為の取消し又は無効確認請求が認められず、第四号の代位請求によつてその結果のみを争わせることとし、行政処分についてのみ第二号で取消し又は無効確認の請求が認められているのであるが、これをもつて、第四号の請求は私法行為についてのみ適用があるということはできない。

(ロ)住民訴訟で行政処分の無効確認請求をし、または行政処分たる違法行為の結果につき第四号の請求をする場合にも、共に出訴期間の定めがあり(同法第二四二条の二第二項)、またこれとの関連において判決の効力については取消判決の場合と同様(同条第六条、行政事件訴訟法第四三条第一項、第三二条)、対世的効力を認めるべきものと解され、両者間に何等差異はないのであるから、住民訴訟において争いとなる行政処分の効力の有無は必ず第二号の請求によつて確定すべきものということはできない。もつとも、第四号の請求に対する判決では、行政処分の効力の有無は単に理由中で判断されるに止まるが、これにより不都合を生ずることはなく、この点についても対世的効力を与えることを欲するなら、併せて無効確認の請求をすれば足りる。

(ハ)住民訴訟による行政処分無効確認請求訴訟について、行政事件訴訟法第三六条の準用が除外されている(同法第四三条第二項)のは、民衆訴訟が客観訴訟であつて、出訴者の範囲が別個に法定される(同法第四二条)関係上、無効確認訴訟一般についての原告適格についての規定を準用する必要がないことによるのであつて(取消訴訟につき同法第九条の準用がないのと規を一にする。)、控訴人等主張のように、行政処分たる違法行為については処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴は許されず、必ず無効確認請求によらなければならないとの趣旨を表わしたものではない。

(ニ)更に実質的に見ても、住民訴訟の原告は、当該場合について可能な請求の各類型の中から、地方自治法第二四二条の二第一項但し書のような明文の制約がある場合を除き、当該場合に最もふさわしい請求を自由に選択できると解するのが、地方公共の利益を守るために公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を図る訴訟の出訴権を住民に認めた制度の趣旨に合致する。行政処分の効力の有無が問題となる場合でも、第二号の請求だけで所期の目的を達する場合もあり得るし、第四号の請求で違法行為の結果を取り上げるのが直截的である場合もあり得るのであり、後者の場合でも、当該職員に請求するか相手方に請求するか、また請求の方法として損害賠償、不当利得等のいずれによるかは、各場合に応じて原告が自由に決することができる。

以上を要するに、市長等に対する退職手当の支給が違法であることを理由に、第四号により市長等に対し不当利得返還請求をしている本訴は、適法であり、この点に関する控訴人等の主張は理由がない。

第二次に、本案についての当裁判所の判断は、次のように付加するほか、原判決理由と同じであるから、その記載をここに引用する。

一  寝屋川市職員の退職手当に関する条例は、地方自治法第二〇四条第三項、地方公務員法第二四条第六項に従い制定されたものであるが、同条例第六条の二が「特別職の職員の退職手当については、市議会の議決を経て増額することができる。」と規定しているのは、特別職の職員についても同条例の適用があることを前提として、これに対しては、職務内容や任期の定めがあること等の特殊性に鑑み、同条例に定める額より増額することができるものとし、かつ、その額についても本来は条例で定めるべきところを、その都度市議会の議決で決定することにしたものと解される。従つて、この場合の市議会の議決は、条例の制定に代わるものとしての意味を有するのであり、その結果必要とされる予算の定めとは全く性格を異にするから、増額分につき単なる予算の議決をするだけでは足りず、増額の可否及びその金額につき別個の議決(単行議決)を必要とするものというべきであり、またこのように解することが、昭和三一年法律第一四七号により地方自治法第二〇四条の二が追加された趣旨にも適うものである。

控訴人等は、種々の理由をあげて予算議決のほかに単行議決を必要としない旨を強調するが、叙上の見地からすれば、右主張は到底採用しがたい。なお、原審証人西村壮一の証言によると、控訴人等主張のように大阪府議会では予算措置を講ずることによつて単行議決を省略する実例があることが窺われるが、同証言により明らかなように、かような実例は他の事案について存するのであつて、退職手当増額という事案に関する限りは、大阪府議会でも単行議決をしているのであるから、右の点は却つて控訴人等の主張が失当であることの一証左ということができる。

二  控訴人等は、本件においては退職手当増額に関する予算議決中に、実質的に単行議決が併存していた旨主張する。しかし、原本の存在と<証拠>によれば、寝屋川市議会定例会に提出された議案第八八号昭和三八年度寝屋川市歳入歳出追加更正予算の歳出の部には、款項・役所費、市役所職員費、目・諸手当として七四三万三、〇〇〇円を計上し、各目明細の節・職員手当七四二万三、〇〇〇円中に附記として「慰労金三五〇万円、特別慰労金三五〇万円追加」と記載されているに過ぎないこと、右議案は会期第一日目の昭和三八年一二年一六日に他の議案と一括して議題とされたのであるが、理事者側の説明としては、助役の控訴人金藤から、市役所職員費として七四三万三、〇〇〇円を計上したが、これは職員の期末手当と特別慰労金である旨の説明をしただけであること、次いで同月二四日の継続会では、財政総務常任委員会委員長から、少数意見の留保があつたが同委員会では原案どおり可決した旨の審査報告があり、質疑に入つて一議員から、特別慰労金の性質、支給の必要性、支給の根拠について質したのに対し、市長の控訴人柏原は、支給についての法的根拠はなく、慣例に従つたものに過ぎないこと(この答弁が誤りであることは原判示のとおりである。)、三五〇万円という額は市の財政能力からいつて過当とはいえないこと等を答弁し、更に討論に入り、一議員から特別慰労金三五〇万円の支出に反対である旨の意見が述べられたが、結局採決に入り、起立者多数をもつて委員長報告どおり可決されたものであることが認められる。

右認定の経過からすると予算議決の際には特別慰労金、即ち本件退職手当増額分の総額が三五〇万円であることは審議の対象となつたということができるが、その支給を受くべき市長、助役、収入役に対し個別的にそれぞれ幾許の金額を増額分として支給するのかが審議された形跡は全く存しないのであつて、かかる審議に基づいてなされた予算議決をもつて、前叙のような退職手当条例第六条の二に定める増額についての市議会の議決があつたものとは到底認められないから、この点に関する控訴人等の主張は理由がない。

三  しかして、市議会の議決を経ずしてなされた本件退職手当増額分の支給は、同条例第六条の二に反する違法な支給であることはいうまでもなく(これをもつて当否の問題に過ぎないとする控訴人等の主張は失当である。)、支給についての法律上の原因を欠くから、寝屋川市は遅くとも本件訴状の送達により受益につき悪意となつたものと認められる控訴人等に対し、不当利得金とこれに対する訴状送達の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による利息金の返還請求権を有するといわなければならない。

四  昭和四二年三月三日に控訴人柏原が二〇〇万円、控訴人三島が五〇万円を、翌四日に控訴人金藤が一〇〇万円を寝屋川市に支払い、市はこれを領収したこと、右金員の支払いは、本件訴訟が控訴審に係属後、控訴人等主張のような四囲の政治的情勢に従い、原判決主文の命ずる元金の支払いであるとしてなされたものであるが、控訴人等としては、控訴人等勝訴のときは市から還付を受け、被控訴人等の本訴請求が確定判決で認容されたときは市が取得すべきものとの意図で支払つたもので、市当局も控訴人等の意図を了としてこれを領収したこと、受入れの手続としては、款・諸収入、項・雑入、目・雑入、節・雑入として処理されていること、以上の事実は被控訴人等において明らかに争わないと認められるので、被控訴人等は右事実を自白したものとみなすべきである。

右事実によれば、右金員の支払いは、被控訴人等勝訴の判決が確定したときに初めて本件不当利得金の元金の返還としての性質を具備するに至るものと解されるから、控訴審の口頭弁論終結時の段階において、これを右元金の返済として評価することができないのは当然であり、右元金の支払義務がない旨の控訴人等の主張は、それ自体失当といわなければならない。

第三そうすると、地方自治法第二四二条の二第一項第四号に基づき、寝屋川市に代位してする被控訴人等の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であるから、本件控訴は失当として棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用した上(なお、控訴人等の本件退職手当増額分の受給が善意無過失であつたとしても、本訴においてその返還義務を争つた以上は、訴訟費用は敗訴者が負担すべきことは当然である。)、主文のとおり判決する。(岩口守夫 松浦豊久 青木敏行)

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