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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)476号 判決 1968年8月31日

主文

原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴人らは主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり付加するほか、いずれも原判決事実摘示のとおりである。

控訴人らは「本件においては自賠法三条但書のとおり、控訴会社及び控訴人が自動車の運行に関し注意を怠らずしかも被控訴人に過失があり、且つ自動車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたものである。」と述べ、当審における証人中店進、小南久雄の証言、控訴人黒田本人の供述を採用した。

被控訴人は右主張事実を否認し当審被控訴人本人の供述を援用した。

理由

原判決記載の第三争いのない事実を前提として、〔証拠略〕を総合して考察すると、次のとおりの認定及び判断をするのが相当であつて、右各証拠の内この認定に反する部分は信用できず、他に被控訴人に有利な認定をするに足る証拠はない。

一  被控訴人の酒量は平素一升五合位であるが事故の当夜は友人と二人でビール七本日本酒四本を飲み、自分としては酔つたつもりではなかつたが、事故のあと医院に担ぎ込まれた際医師看護婦に暴言を吐き、バーと間違えた言動さえあつたことから考えると、相当酔つていたものと見なければならない。しかも深夜幅員一六米の松屋町筋道路を横断するのに、横断歩道を迂回せず、見通しの悪く暗い個所を渡つたのである。

一方運転者である控訴人は前方約二〇米に控訴人の横断するのを認め、同人の酔つていることには気付かなかつたが、ブレーキベダルを踏み、約一〇粁に減速して近づいたのであつて、事故発生の原因は、大体道路を横断し終つた筈の被控訴人が一、二歩後退したことにあると見るべきである。

二  控訴会社においては、事故当時も整備係を置いて毎朝車の運行前に仕業点検をしており、事故現場において警察官が車両検査をしたところ制動装置その他に異状はなかつた。

三  右に認定したところから考えると、このような場合にたとい自己の勤務する会社の前の道路であるにせよ、横断歩道でもないところを歩行する者は当然相当の危険を冒すことを自覚して慎重に行動すべきであつて、被控訴人には飲酒後の行動の軽率であつたことを責めなければならない。一方運転者に対して、大体横断し終つた歩行者が再び後退する場合のあることまで考慮に入れた運転を求めるのは酷である。また控訴会社にもこの車の運行に関しとるべき措置において欠けるところは無かつたと見るべきである。

以上のとおり考えてみると、本件事故は専ら被控訴人の過失によつて発生したものと認めるべく、一方控訴人黒田和夫には過失は認められず、また控訴会社についても自賠法三条但書の例外事由をすべて充しており、いずれも賠償責任はないものと謂わなければならない。したがつて、その余の争点について判断をするまでもなく、原判決中被控訴人の請求を認容した部分は全部不当であるから、民訴法三八六条、八九条、九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 沢井種雄 田坂友男 村瀬泰三)

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