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大阪高等裁判所 昭和42年(う)2047号 判決 1968年10月09日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金三、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中、原審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

<前略>

検察官の控訴趣意について

論旨は、原判決は、旧免許証と引替えに新たな免許証を交付することをもつて、免許証の有効期間の更新(以下「免許証の更新」という)の効力発生要件と解し、本件において、被告人は、旧免許証の有効期間の満了する昭和四一年一〇月二日の前である同年九月三〇日に免許証更新の申請をして即日行なわれた適性検査に合格し、その際、新免許証の交付予定日である同年一〇月一四日まで旧免許証を携帯しておれば新免許証を携帯することなく、当該免許にかかる自動車を運転することができる旨の一種の行政処分を受けていたのであるが、右旧免許証の有効期間の満了の際に新免許証の交付を受けていないから、免許証の更新を受けなかつたことになり、道路交通法(以下「法」という)一〇五条によりそのときをもつて免許そのものが失効するものとし、右行政処分の失効後、新免許証の交付を受けることなく車両を運転したとき、無免許運転の罪とはなつても、免許証不携帯の罪とはならないとして、免許証不携帯の公訴事実につき無罪を言い渡したが、道路交通法施行規則(以下「施行規則」という)二九条三項にいう免許証の引替え交付は、法九二条に規定する免許の効力発生要件としての免許証の交付とは本質的に異なるものであり、新旧両免許証の二重使用防止のための政策的規定であつて、免許証の更新の効力発生要件を規定したものではなく、また、被告人は法定の更新期間中に公安委員会に対して免許証更新の申請をし、即日適性検査に合格したのであるから、法一〇一条二項により公安委員会は免許証の更新をしなければならないこととなり、被告人は新免許証の交付を受けると否とにかかわらず、この日をもつて従来と同一条件で免許証の更新を受けたものというべきであり、新免許証の交付予定日に公安委員会に出頭すれば新免許証の交付を受けることができたのに、交付を受けないで自動車を運転した行為は、免許証の不携帯罪をもつて問擬すべきであつて、原判決は法一〇一条、一〇五条および施行規則二九条三項の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。

よつて案ずるに、本件記録によると、原判決が、本件公訴事実のうち、「被告人は、普通自動車の運転免許を受けた者であるが、昭和四一年一〇月一五日午後二時頃京都市中京区御池通り堺町付近道路において、運転免許証を携帯しないで軽三輪自動車を運転した」との訴因および右日時場所における過失による免許証不携帯の予備的訴因について、被告人が昭和四一年一〇月一五日午後二時頃京都市中京区御池通り堺町付近道路において軽三輪自動車を運転した際、有効期間を昭和四一年一〇月二日までとする有効期間経過後の運転免許証を所持していたこと、被告人は、有効期間満了前の同年九月三〇日に京都府公安委員会に対し免許証の更新の申請をしたが、まだ新たな免許証の交付を受けていなかつたこと、被告人は右免許証の更新をした際当該公安委員会から本件違反前日の同年一〇月一四日まで旧免許証を携帯しておれば新たな免許証を携帯することなく、当該免許にかかる自動車を運転しても差支えない旨の一種の行政処分を受けていることの各事実を認定したうえ、施行規則二九条三項によつて、免許証の更新は、旧免許証と引替えに新免許証を交付することをもつて、その効力が発生するものとされているとし、これを根拠として、更新申請をした際の適性検査に合格し新免許証交付予定日まで旧免許証を携帯して車両を運転することができる処分を受けていても、右交付予定日までに新免許証の交付を受けないで旧免許証の有効期間を徒過するときは、法一〇五条にいう「免許証の更新を受けなかつたとき」に該当し、免許そのものが効力を失うから、右行政処分の失効後新免許証の交付を受けないで車両を運転するときは、無免許運転の罪に該当し、元来有効な免許証の交付があつたことを前提とする免許証不携帯の罪をもつて問擬すべきではないとし、無免許運転について過失を認定し、右過失による無免許運転を処罰する規定がないから、訴因変更の措置をとつて審理するまでもなく、免許証不携帯の点は予備的訴因を含めて犯罪の証明がないとし、被告人に無罪を言い渡したことは所論のとおりである。そして、当審における事実取調の結果によれば、昭和三五年一二月一五日付京都府公安委員会規則第一三号「京都府道路交通規則」一四条の三は、「運転免許証の更新の申請は、その申請者の住所地を管轄する警察署長を経由して公安委員会に申請しなければならない」旨規定し、昭和三四年三月二〇日付京都府公安委員会訓令第一号「京都府公安委員会事務専決規程」および同日付京都府警察本部訓令第一号「京都府警察事務専決規程」によつて運転免許証更新の事務が京都府公安委員会、京都府警察本部長から京都府警察本部交通局交通第二課長(昭和四二年四月一日以降運転免許課長と改称)に順次委譲され、昭和三六年一月二六日付右交通局交通第二課の6京交二第三〇号「運転免許事務の取扱いについて(例規)」および昭和三八年二月一九日丙交指発第一二号交通局長発通達「運転免許事務等の適正処理について」によつて、京都市内警察署にあつては、免許証の更新申請があれば、適性検査を行なつて合否を判定し、その結果を申請書に記入し、合格者に対して更新免許証の交付予定日を指定し、更新免許証の交付予定日までに有効期間の満了するものについては、旧免許証の備考欄に、「更新手続中」の旨を記入し、これに公安委員会印を押捺して交付予定日まで旧免許証を携帯することによつて車両を運転することができる措置をとり、適性検査合格者の名簿二部を作成して申請書、写真を添え、翌日交通第二課に送付し、同課において備えつけの台帳と照合のうえ、同課長が免許証更新の決裁をし、係員が新免許証を作成して交付予定日の前日までに所轄警察署に送付し、同警察署において各保管の台帳および索引を整理し交付予定日に旧免許証と引替えに更新免許証を交付し、旧免許証はその署において焼却処分に付していること、万一、警察署における適性検査の結果、不合格となつたり、更新につき条件の附加変更を必要とするような疑いのある者については、直ちに交通第二課におもむかせ、同課において直接さらに適性検査を実施して、即日、不合格と判定したり、必要な条件を付して合格と判定するなどして同課長の決裁を経ていること、ならびに本件において、被告人は、昭和四一年九月三〇日、京都市内の川端警察署にその所持する普通自動車の運転免許証の更新申請をしてその際行なわれた適性検査に合格し、新免許証の交付予定日を同年一〇月一四日と指定されたが、旧免許証の有効期間が同年一〇月二日に満了するので、右警察署において、旧免許証に更新手続中であることおよび新免許証の交付予定日として、同年一〇月一四日と記載し、これに公安委員会の印を押捺して公安委員会名義により右一〇月一四日まで旧免許証を携帯して当該免許にかかる車両を運転することができる旨の一種の行政処分をとつたうえ、申請書類等を交通第二課に送付し、同課係員について、備えつけの台帳と照合確認したのち、同年一〇月四日同課長が当日分の他の二五六名とともに一括して更新の決裁をし、同課において京都府公安委員会名義をもつて交付日を右更新申請をした同年九月三〇日、有効期限を昭和四四年九月二九日とする普通自動車の新免許証を作成し、これを指定した交付日の前日の同月一三日までに川端警察署に送付したが、被告人は右指定日を経過した同月二四日、右警察署において右新免許証の交付を受けたことが認められる。

そこで、まず、前記施行規則二九条三項の規定が免許証更新の効力発生要件を規定したものであるか、どうかについて考察するに、法九二条一項前段は、新規に運転免許を取得する場合につき、「免許は運転免許証を交付して行なう」旨規定し、免許が要式行為であつて、運転免許証の交付をもつてその効力発生の要件としていることは、原判決の説示するとおりである。しかし、運転免許証の更新は、運転免許証の有効期間の更新をいい、有効期間の満了に際し、適性検査を行なつた結果、これに合格した者に対し公安委員会が免許証の有効期間をさらに同期間延長する処分を行なうことをいうのであつて、新たな免許を与える処分をいうものではない。したがつて、免許証の更新の場合には、本来、新たに免許証を交付する必要はなく、単に現に所持する免許証に更新したことを明らかにする記入をするだけでも差支えはないのである。法九二条三項が免許証の有効期間を交付または更新を受けた日から起算して三年間とし、同法一〇一条が免許証の有効期間の更新を受けようとする者は、免許証の有効期間が満了する日の一月前から期間の満了する日までの更新期間中に公安委員会の行なう適性検査を受け、これに合格した者に対しては、公安委員会が免許証の更新をしなければならない旨規定したにとどまり、同法自体に、更新は新免許証を交付して行なう旨の規定を設けなかつたのも、右の更新の性質から理解されるのである。以上のところからみると、施行規則二九条三項の規定は、免許証の有効期間や、変更された住居等を書き改める必要と新写真を添付して免許所持者の人物確認を容易ならしめる必要などから新たな免許証を作成し、不必要となる旧免許証の悪用を防止する趣旨で新旧免許証の引替え手続を規定したものであつて、本法に定めていない免許証更新の効力発生要件を規則をもつて、規定したものではないと解するを相当とする。

そして、法一〇一条二項前段によれば、適性検査の結果、当該免許証の更新を受けようとする者が自動車等を運転することが支障がないと認めたとき、すなわち適性検査に合格したときは、当該公安委員会は免許証の更新をしなければならない義務を負うものとされているいるが、更新の義務を負つただけでは、直ちに更新の処分があつたということができないことはいうまでもないから、更新という行政処分のあつた日は、京都市内における免許証の更新の権限を持つ警察本部交通局交通第二課長が更新の決裁をしたときにあると解すべきである。本件において前記認定のように、同課長は昭和四一年一〇月四日に更新の決裁および免許台帳記入をしたのであるから、右日時をもつて更新という行政処分があつたものといわなければならない。ただ、このように解すると、旧免許証の有効期間の満了後、日を置いて更新が行なわれる場合があるため、免許証の有効期間が一時中断し、有効期間の延長という更新の性質とむじゆんする結果を生じるわけである。しかし、法一〇一条二項が適性検査に合格した者に対しては公安委員会が免許証の更新をしなければならないとして更新の義務を課しているところからみて、法は有効期間の満了に際し空白期間を置かないで更新が行なわれることを要求しているものと解しなければならない。そこで現実に生ずる空白期間を補うため、前記の「運転免許事務等の適正処理について」と題する通達に「新免許証は、旧免許証の有効期間内に交付すべきであるが、やむを得ず旧免許証の有効期間内に新免許証を交付できない場合は、便宜措置として旧免許証に『更新手続中』である旨を記載するなど引続き運転可能の措置をとること」と定める必要を生ずるわけであつて、本件でいえば、免許証の有効期間の満了する一〇月二日に引き続いて更新が行なわれなければならないのであるが、それが九月三〇日に適性検査を行ないながら、更新事務繁多のため一〇月四日に決裁して新免許証を作成し、同月一三日これを所轄警察署に送付し、同月一四日交付としたのは、事務処理上適切ではない。所論は、適性検査に合格したときに免許証の更新があつたというべきであるというが、右所論を採用すべきでないことは、前記説示により、明らかである。なお、新免許証には、更新申請をして適性検査に合格した日を更新日として記載しているが、前記のように更新の決裁ならびに免許台帳記入をした日が更新行為のあつた日と解すべきであるから、これを申請ならびに適性検査のあつた日にさかのぼらせることも妥当な措置とはいいがたい。しかし、適性検査に合格したときは公安委員会において更新の義務を負い、かつ申請者に対して合格の結果と新免許証交付の予定日が告知されているのであるから、権限の委譲を受けた交通第二課長の決裁による効果をさかのぼらせても、必ずしも違法とはいいがたいのみならず、そのいずれにしても、本件の免許証不携帯罪の成否に影響がない。

ところで、法一〇五条は「免許は、免許を受けた者が免許証の更新を受けなかつたときは、その効力を失う」旨規定し、更新期間中に更新の申請をしなかつた者および更新の申請をして適性検査に合格しなかつた者は右の規定に該当し、免許証の有効期間の満了とともに免許そのものの効力を失うものと解せられるのであるが、本件のように更新期間中に更新の申請をして適性検査に合格したにもかかわらず、公安委員会の更新決定があるまでに免許証の有効期間が満了したときは、右法一〇五条にいう「免許証の更新を受けなかつたとき」に該当して免許そのものの効力を失うかどうについて検討するに、もしも、右規定に該当するとするならば、有効期間の満了によつて一旦失効した免許が、その後何らの試験を受けることもなく、更新決定によつて復活するという理解しがたい結果を招くのみならず、法九九条一項四号、二項、同法施行令三六条一項三号、二項、三七条五号には、海外旅行、災害その他法定のやむを得ない理由または上記以外の理由で更新期間中に更新申請をすることができなかつたために運転免許資格を失つた者のうち一定の者に対して試験の一部免除を認める規定があるのに、右の場合よりも宥恕すべき理由のある本件のような場合に、法および施行令に何ら試験の一部または、全部を免除する旨の規定がないため、新規の免許試験を受けなければならないという不合理な結果を招くことになることを考えると、本件のような場合には、法は前記一〇五条による免許の失効を予想していないものというほかはなく、したがつて、右規定の適用はないと解すべきである。そうすると、免許証の有効期間の満了により免許そのものは効力を失わないけれども、免許証は失効するため、一時的に免許があつて免許証が存在しないという事態を招き、法九五条が運転免許を受けた者に免許証の携帯義務を課した法意に反することとなるので、公安委員会名義で旧免許証によつて車両を運転することができるという行政処分がなされているのであるが、右の処分は法一〇九条二項により法九五条の適用については免許証とみなされる保管証の場合と異なり、法に何らその根拠が規定されていないところであつて、法の不備といわなければならないけれども、新免許証作成の都合上、運転免許所持者の利益のためにとられた処分として是認しなければならない。

そうすると、免許証の更新申請をして適性検査に合格し、旧免許証の有効期間経過後は旧免許証を携帯することによつて新免許証の交付予定日と指定された日まで車両を運転することができるという行政処分がとられていて、右行政処分の満了日でもある右指定日に所轄警察署に出頭すれば、新免許証の交付を受けてこれを携帯することができるのに、これを怠つて右指定日の翌日以降に当該免許にかかる自動車を運転したときは、免許証不携帯の罪が成立するものというべきである。本件についてこれをみるに、原審で取り調べたすべての証拠および当審における事実取調の結果によれば、被告人は、新免許証の交付予定日として指定された昭和四一年一〇月一四日に所轄の川端警察署に出頭すれば、新免許証の交付を受けてこれを携帯することができたのに、同日中に交付を受けに行かず、翌一五日(土曜日)の朝、交付を受けに行かなければならないと思いながらも、その際は出頭せず、同日午後二時頃、京都市中京区御池通り堺町付近道路において軽三輪自動車を運転したことが認められるのであつて、右事実によれば、被告人は免許証不携帯の罪の責を免れることはできない。

以上の次第であるから、原判決には、法一〇一条、一〇五条および施行規則二九条三項の解釈を誤つた結果、法九五条一項、一二一条一項一〇号を適用しなかつた違法があり、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるところ、右免許証不携帯の罪と原判示の指定通行帯通行義務違反の罪とは併合罪の関係にあり一個の刑をもつて処断すべきものであるから、原判決は全部破棄を免れない。論旨は理由がある。<後略>(山崎薫 尾鼻輝次 大政正一)

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