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大阪高等裁判所 昭和40年(ラ)70号 決定 1968年8月28日

抗告人 梅沢ヒロ子(仮名)

相手方 大垣トシ子(仮名)

被相続人 亡梅沢松吉(仮名)

主文

原審判を次のとおり変更する。

被相続人梅沢松吉の遺産を次のとおり分割する。

1  別紙目録記載の不動産全部を抗告人の取得とする。

2  同目録記載の預金および株式全部を相手方の取得とする。

3  抗告人は相手方に対し、金三二六万四、三九三円およびこれに対する昭和四〇年四月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被相続人の住宅金融公庫に対する借受金(五七万円)残債務中、相手方が承継した二六万六、六〇〇円を抗告人に引受けさせる。

理由

第一、本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

第二、決定の理由

一、抗告理由第一点について

抗告人は、遺産分割の審判手続は、相続財産の範囲につき争いがある場合には、その争いが訴訟事項として判決手続等によつて確定されるまで、これを最終的に進めることができない旨主張する。しかしながら、遺産分割の審判手続においては、その前提となる相続財産の存否についても審理判断したうえで分割の処分を行うことができるものと解すべきである(最高裁大法廷昭和四一・三・二決定参照)から、抗告人の右主張は採用できない。

二、抗告理由第二点について

(一)、抗告人は、別紙目録記載三の土地は、抗告人が大野文二から代金一九万九、九〇〇円で買受けたもので、抗告人の固有財産であると主張する。乙一ないし四号証および抗告人の昭和三八年一一月二七日の供述によると、右土地は昭和二七年に大野文二から買受けたもので、その代金一九万九、九〇〇円は同年三月から翌二八年三月頃までの間に抗告人名義の預金および株式売却金をもつて分割支払われたことが認められる。しかしながら、反面、抗告人の右供述によると、抗告人と被相続人は、昭和二二年結婚当初共に無資産であり、共稼ぎしなければ生活も楽くでなかつたこと、抗告人の収入は夫の収入より遙に少なく、しかも夫の収入だけでは夫婦の生活費をまかないうる程度に過ぎなかつたことが認められるから、右土地の購入資金に抗告人の収入が充てられたとしても、その陰には、他の生活費はすべて夫の収入に依存したものと認められ、かくては、右土地取得の対価が実質的に抗告人のみのものであつたとはいえない。また、抗告人の右供述によると、右土地を購入した目的は、同地上に夫婦の居宅を建設するためであつたことが認められ、抗告人の特有財産とすべく購入する事情があつたとは認められないことを考え合せると、右土地は、原審判の説示するように、抗告人と被相続人の共有に属していたものと解するのが相当である。

(二)、抗告人は、前記目録四の1および3の各預金が抗告人の固有財産である旨主張する。しかしながら、抗告人挙示の乙一一ないし一三号証によつても、右1の普通預金の通帳には被相続人名義の株式の売却代金が預入されている事実が認められるのであつて、他に右1および3の各預金が抗告人の所有であると認めるに足る証拠はない。

(三)、次に、抗告人は、別紙目録記載五の株式が抗告人の固有財産であつて、このことは乙五ないし一三号証により明らかである旨主張する。

(1)、抗告人は、○○石油株式会社の株式のうち一五〇〇株は、もと抗告人が所有していた同会社の株式一〇〇〇株を昭和三一年一月(一二月の誤記かとも思われる)二三日頃松山茂に貸与したところ、同人はこれを他に譲渡し、新たに同会社の株式一〇〇〇株を取得したが、その増資新株五〇〇株に対し抗告人が払込をしたので、松山は計一五〇〇株を抗告人に返還すべきところを、誤つて被相続人名義に譲渡手続をしたものであると主張する。しかしながら、松山茂の供述と乙五号証の一ないし三、同六号証に○○信託銀行株式会社の昭和四〇年三月一六日受付報告書を総合すると、松山茂は昭和三一年一二月三〇日親友(師範学校同窓)である被相続人から、事業資金の一助に○○石油株式会社の株式を借受け、これを売却して資金を調達したが、その返済のため新たに同会社の株式を取得し、昭和三三年一〇月一五〇〇株を被相続人に譲渡して返済したこと、被相続人の死亡後である昭和三五年九月右一五〇〇株に対し、増資新株一五〇〇株が割当てられたので、抗告人においてその払込みをなし、右目録2の株式三〇〇〇株となつたものであることが認められ、これに反する抗告人主張事実を認めるに足る証拠はない。

(2)、抗告人は、○○瓦斯株式会社の株式のうち六〇〇株は自己の資金をもつて払込んだものであるから、抗告人の固有財産であると主張する。抗告人の昭和三七年二月二一日の供述と乙八ないし一〇号証、被相続人名義の○○銀行○○支店封緘保護預り一個に対する検証の結果によると、被相続人は従前○○瓦斯株式会社の株式一二〇〇株を所有していたところ、昭和三三年五月これに対して割当てられた増資新株六〇〇株を取得したが、その払込みは抗告人名義の銀行預金から充てられたことが認められる。けれども、反面、抗告人も右増資当時同会社の株式一八〇〇株を所有していて、これに対し新株九〇〇株を取得したことが認められることと、被相続人名義の右新株六〇〇株は被相続人所有の旧株に対するものであることを考え合せると、右新株六〇〇株は、その払込みに抗告人名義の預金が充てられたという一事だけでは、いまだ抗告人の所有に帰したものと認めるに足らず、却つて、名義人である被相続人の所有に属したものと認めるのが相当である。

そうすると、抗告人の右主張は理由がないが、被相続人は右株式合計一八〇〇株を死亡するまで保有していたことが認められる(前掲検証の結果による)から、相続財産に属する○○瓦斯株式会社の株式は原審判定の一五〇〇株ではなく、一八〇〇株であるといわねばならない。

三、抗告理由第三点について

原審判には、抗告人指摘の違算があること計数上明らかであるから、この点に違法がある。

四、抗告理由第四点について

(一)、抗告人の昭和三八年一一月二七日の供述と甲四号証の二と三、乙二四号証を総合すると、被相続人が、別紙目録記載二の家屋を建築する際、昭和二八年一〇月一八日住宅金融公庫から金五七万円を、支払期日昭和四六年七月二五日、利息年五分五厘とし、元金につき均等割賦償還により、昭和二九年一月から毎月二五日毎回二、七〇〇円(但し、最終回は三、〇〇〇円)宛返済する約定で借受けていたが、昭和三四年四月一七日死亡時に元金残額三九万九、九〇〇円が未払になつており、その後、抗告人において右割賦償還金を支払つて来ていることが認められる。

原審判は、抗告人の支払つた右割賦償還金を相続財産たる右家屋に関する費用と解して処理しているが、民法八八五条にいう右費用とは、相続財産の管理や清算に必要な費用をいうのであるから、右償還金がこれに当らないこと明らかである。被相続人死亡時における右借受金残額三九万九、九〇〇円は、同人の相続債務として、相続開始と同時に法定相続分に応じて抗告人が三分の一、相手方が三分の二の割合で分割承継し、右住宅金融公庫に対する関係では右割合による債務の承継がなされたこととなるのである。

しかしながら、本件においては、原審判説示の如く、右家屋その他の相続不動産全部を抗告人に帰属させるのを相当と解すべき事情(なお、甲四号証の二と三によると、右家屋および敷地に対し、右借受金のため抵当権設定登記がなされていることも認められる)が存するから、右借受金残債務三九万九、九〇〇円中相手方が承継した二六万六、六〇〇円を抗告人に引受させることとし、右二六万六、六〇〇円を本件分割に基づく抗告人の債務負担額から差引計算するのが相当であると考える。

(二)、乙二四号証ないし同三五号証と弁論の全趣旨によると、相続開始後、抗告人が相続不動産全部の固定資産税と家屋の火災保険料(住宅金融公庫からの前記借受契約上の義務となつているものと推認される)、通常の修繕費を支出していることが認められるが、他方、抗告人の昭和三七年一月一二日の供述によると、相続不動産はすべて抗告人において占有し、右家屋を住居として使用収益していることが認められるから、前記支出は必要な維持費として占有する抗告人が単独で負担すべきものと解するのが相当である。

五、抗告理由第五点について

原審判の理由中、抗告人指摘の説示部分は、その判文上、「株式および預金債権については、特に双方のどちらかの一方に保有させねばならない必然的な理由は見受けられないから、諸般の事情を考慮して、これらを申立人に帰属させることとするのが相当である。」という趣旨であることを窺うに十分であるから、何ら理由にくい違いはない。

六、以上に説示したほかは、職権をもつて精査するも、原審判の事実認定(但し、原審判別紙第一目録中、1、2の不動産価格を五六三万八、〇二〇円と記載してあるのは、鑑定人高橋徳治の鑑定の結果に照し、五三六万八、〇二〇円の誤記であると認められる)および分割方法等の判断をすべて是認することができるのである。

七、そこで、双方の相続分を算定し直してみるに、相続財産の総額は、不動産価額の半額六〇五万〇、〇一〇円、預金額一五万一、一三二円および株式の価額五〇万四、〇〇〇円の合計六七〇万五、一四二円となるから、これに相手方の特別受益額三七万六、五〇〇円を加算した額に対し、その三分の一である二三六万〇、五四七円が抗告人の相続分であり、三分の二である四七二万一、〇九四円から右特別受益額を控除した四三四万四、五九四円が相手方の相続分となるのである。

そして、抗告人は前記不動産価額の半額六〇五万〇、〇一〇円を取得し、自己の相続分を三六八万九、四六三円超過することとなり、相手方は前記預金および株式の合計六五万五、一三二円を取得し、自己の相続分に右抗告人の超過分と同額の不足を生ずることとなるから、抗告人をして相手方に対し、右同額の債務を負担させることによつて調整を図るべきである。ところで、相手方は抗告人に対し、前示住宅金融公庫からの借受金残債務中自己の法定相続分である二六万六、六〇〇円を支払うべきほか、抗告人が支出した原審判別紙第四目録記載の市民税一万九、〇八〇円、○○府教職員互助組合への弁済金一三万五、〇〇〇円、酒代・書籍代等八、六二五円(以上は相続債務である)および○○石油株式会社株式の払込金七万五、〇〇〇円(相続財産に関する費用と解する)以上合計二三万七、七〇五円の三分の二である一五万八、四七〇円を返還すべきであるから、結局、抗告人に対し前記債務負担額三六八万九、四六三円から右相手方の支払うべき合計四二万五、〇七〇円を差引いた三二六万四、三九三円の支払を命ずべきである。そして、右債務負担額の支払いについては、相続不動産の評価が昭和三九年一二月一〇日現在でなされていることとの権衡上、少くとも、原審判が抗告人に告知された日の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年四月一日から完済まで民法所定年五分の割合による金員を附して支払いさせるのが相当である。

八、よつて、以上と一部異なる原審判を変更することとし、なお、前示住宅金融公庫に対する借受金残債務中相手方の承継分を抗告人に引受けさせることを明確にしておくのを相当と考え、家事審判規則一九条二項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 前田覚郎 裁判官 新居康志)

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