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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1583号 判決 1966年11月15日

理由

((省略))

次に被控訴人主張の保証債務(訴外会社の総債務額の六割に対するもの)に関し、昭和三三年八月二六日主債務者たる訴外会社に対して為されたとする免除の抗弁について考える。訴外会社の被控訴人に対する債務の六割に相当する金三、七四六、三四三円につき控訴人が連帯保証をしていたことは前認定のとおりであつて、そのうち訴外会社から前記昭和三三年四月二二日の債権者集会の際に承認された五割の分割払金(同年五月、七月九月、一一月、一二月の各一五日に一割宛支払)中弁済期の早く到来する順よりの三割五分に該当する金二、一八五、三六七円の弁済があつたことは当事者間に争なく、控訴人は、右残額は昭和三三年八月二六日の債権者集会で訴外会社において免除をうけた旨主張するところ、《証拠》をあわせると、前掲昭和三三年四月二二日の債権者集会において債権者株式会社上田正商店の代表取締役上田正信が債権者委員長に選ばれ、上記六割の債務弁済計画を実行すべく訴外会社代表取締役の控訴人その他の者とともにその整理を進めてきたが、結局右計画は実現困難であり三割五分以上の弁済は不可能ということになつたので、同年九月中頃開催の債権者会議で出席債権者に対し当初の弁済計画を変更し債務の六割五分を免除して貰いたい旨提案要請してその承認を得、被控訴人その他の各債権者に対しそれぞれその債権額の三割五分に相当する金員の支払を了したことが認められるけれども、前掲《証拠》中、右九月中頃の債権者会議に被控訴人代表者又はその代理人が出席して六割五分免除を承認したとの点は、原審における《証拠》と対比して容易に措信できず、成立に争のない乙第四号証も《証拠》に照らし、単に訴外会社の財産の換価処分ないしは整理案の作成を債権者委員長に一任する趣旨の委任状であつて、被控訴人など個々の権利者の債権の切捨猶予等の具体的な権利処分をすることまでを包含する趣旨のものとはにわかに解せられないから、この委任状だけから叙上六割五分免除に対する被控訴人の承認があつたものと認定することはできず、他に被控訴人が前記債権者会議の席上又はその前後において右免除を承認したことを認むべき証拠はない。よつて控訴人の免除の抗弁は理由がない。

次に控訴人の時効の抗弁につき判断する。控訴人は、前記五割の分割払金中、五分に相当する金三一二、二〇三円についてはその弁済期である昭和三三年一一月一五日、一割に相当する金六二四、三九〇円については弁済期の同年一二月一五日の各翌日以降二年の経過により時効消滅した旨主張し、被控訴人の訴外会社に対する債権が商品の売掛代金債権であることは被控訴人において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすところ、民法一七三条一項は商人間になされた商品売買代金にも適用があるから、上記債権の消滅時効期間は二年間といわねばならない。ところで被控訴人は、右債務は昭和三五年五月三一日の債務承認により時効中断し、時効は右翌日より改めて進行すべき旨主張するので按ずるに、訴外会社の債務中前記五割を含む六割の債務の分割払の約定は、債務整理のために定められたものであり、債務者の利益のために一定の債務につきその本来の弁済期を猶予すると共に、特に一部宛の分割払を認める趣旨のものであるから、このような分割払債務の一回分の支払額につき債務者が弁済その他の方法により債務の承認をしたときは、他に特段の事情の存しない限り、いまだ弁済のない他の部分の分割支払額についても、その債務を承認したものと解するを相当とするところ、《証拠》を総合すると、訴外会社は昭和三三年一一月一五日に支払うべき第四回分割金(一割)六二四、三九〇円につきその一部として、金額一五六、〇九〇円の小切手を振出交付したほか、昭和三四年八月三一日に訴外会社振出、株式会社神和布帛工業所引受の為替手形二通((イ)金額七六、〇九七円、支払期日昭和三五年三月三一日のもの、及び(ロ)金額八〇、〇〇〇円、支払期日同年五月三一日のもの)を被控訴人に交付し、右手形はいずれも所定支払期日に支払がなされたことが認められるから、右手形の交付、支払により、右第四回分割金の弁済期は黙示的に右各手形支払期日まで更に猶予されたと認むべきのみならず、右期日特に(ロ)の手形の支払がなされた昭和三五年五月三一日において、右第四回分割金全額については勿論、さらにその後に弁済期の到来すべき第五、六回分割金についても訴外会社においてその債務を承認したものと認むべきである。尤も《証拠》を綜合すると、訴外会社において前記の小切手及び手形二通を弁済のために被控訴人に交付したのは、昭和三三年九月中頃開催の債権者集会において変更された弁済計画による弁済額三割五分の最後の五分(内三割は右集会以前に弁済ずみ)に相当するものとして、即ち訴外会社としては残債務全部の弁済の趣旨で交付したものであつたが、被控訴人は前認定の通り右弁済計画の変更には関与せず、従つて右の五分相当の手形・小切手の授受が残債務の全部の弁済の趣旨であることは全く知るところがなく、右授受の際も、右の趣旨を何等告げられることがなかつた事実が認められるから、右の弁済は債務者たる訴外会社としては内心的には全部弁済の意思を以てしたとしても、その趣旨は債権者たる被控訴人には伝達、了解されるところなく、被控訴人としては、従前の分割払の一環としての前記第四回分割金(所定弁済期よりさらに遅滞したもの)の単なる一部弁済としてこれを受領したものであつて、この事実よりすれば、債権者たる被控訴人に対しては、前記の弁済は、むしろ当初の約定に従つて未払分割金の全部を弁済すべき意思を債務者において示すことによつて、今後の弁済をも当然に期待せしめる性質のものと解されるから、いわゆる債務の承認としての一部弁済に該当するものといわなければならない。そうすれば、右第四回分割金の残額及び第五回分割金債務は右承認により時効中断がなされたものであり、その後本訴提起時たる昭和三六年一〇月二四日(記録上明白)まで時効完成の余地なく、この点の控訴人の抗弁は理由がない。

そうすると控訴人は被控訴人に対し、(1)上記引受債務四割分の分割金二、〇八一、三〇二円(昭和三五年分ないし同三九年分)、(2)保証債務六割分中上記弁済分三割五分を除いた金一、五六〇、九七五円(第四回分割金昭和三三年一一月分五分及び第五回分割金一二月分一割合計金九三六、五八五円、並びに第六回分割金昭和三六年末分一割金六二四、三九〇円)の合計金三、六四二、二七七円、及びこれに対する遅延損害金として(1)のうち昭和三五年及び同三六年の分割金八三二、五二〇円と(2)のうち昭和三三年分金九三六、五八五円の合計金一、七六九、一〇五円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三六年一一月一一日から、(2)のうち昭和三六年分金六二四、三九〇円に対する昭和三七年一月一日から、(1)のうち昭和三七年分金四一六、二六〇円に対する昭和三七年五月一日から、同三八年分金四一六、二六〇円に対する昭和三八年五月一日から、同三九年分金四一六、二六〇円に対する昭和三九年五月一日から、各完済までそれぞれ商法所定の年六分の割合の金員を支払う義務があり、従つて被控訴人の本訴請求はすべて正当で本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴は理由がある…。

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