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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1085号 判決 1963年6月21日

判   決

大阪市南区安堂寺橋通一丁目二八番地

控訴人

小川化工株式会社

右代表者代表取締役

小川亀吉

右訴訟代理人弁護士

塩見利夫

大阪市東区瓦町三丁目一六番地

被控訴人

株式会社緑商会

右代表者代表取締役

奥政助

右訴訟代理人弁護士

酒見哲郎

右当事者間の昭和三七年(ネ)第一、〇八五号損害賠償請求控訴事件について当裁判所は昭和三八年五月一三日終結した口頭弁論に基き次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決主文第一項、第三項を除いた部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴代理人は請求の原因として、

原判決添付目録記載の動産(以下本件物件という)は被控訴人の所有であるが、被控訴人はこれを訴外東洋化繊株式会社に、同会社との間の右京簡易裁判所昭和三二年(イ)第三六号和解調書により、無償で使用させていたところ、控訴人は右会社との間の大阪簡易裁判所昭和三四年(イ)第一、四四四号和解調書の執行力ある正本に基き右会社に対する強制執行として、昭和三五年一月八日本件物件を、他の物件数点と共に、差押え、同年四月二八日代金一二〇万円(内本件物件の分八六万円)で競売し、その代金の内七一五、四九〇円の配当を受けた。ために、被控訴人は控訴人の右執行に因り本件物件の価格に相当する金一〇〇万円の損害を受け、控訴人は法律上の原因なくして右競売により控訴人が前記配当を受けた金員中本件物件とその余の物件との各競売代金額に按分した金五一二、七六八円を利得したものである。よつて控訴人に対し右利得及びこれに対する右利得の返還を請求した昭和三七年六月一一日付予備的請求の趣旨追加申立書送達の日の翌日である同月一六日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

控訴代理人は答弁として、

控訴人が訴外東洋化繊株式会社に対する被控訴人主張の債務名義に基く強制執行として、被控訴人主張のとおり本件物件に対し差押をなし、これを競売したことは認めるが、本件物件が被控訴人の所有であつたことは知らない。仮に本件物件が被控訴人の所有であつたとしても、民事訴訟法第五七九条は「執行吏売得金を領収したるときは債務者より支払を為したるものと看做す」と規定しており、その競売物件の所有権がいずれにあるかを問わず、執行債権者が配当を受けたときは、その限度において執行債権者の債権は弁済に因り消滅するから、控訴人は法律上の原因なくして利得をしたものとは謂いえない。このことは、「有効なる弁済は債権者が給付の目的たる権利を債務者より移転せられて取得した場合に成立するのみならず、独立の原因(例えば即時時効若は混和等)により権利を取得したる場合に於ても亦成立する」ものとする大審院の判例によつても明かである(大正一一年一一月一四日大審院判決民集第一巻八五一ページ、昭和一三年一一月一二日同判決、民集第一七巻二、二〇五ページ)即ち、債務者が第三者の所有金員を弁済として債権者に交付し、債権者がこの金銭を即時取得したとき、弁済は完全に有効であり、債権は消滅するものである。このことは、民法第四七七条の法意から見ても当然であり、執行吏が債権者である控訴人に配当をなし、控訴人は弁済として受けたものを善意で消費してしまつた今日、、物件所有者であつた被控訴人を保護し、善意の弁済受領者である控訴人に対し返還を命ずることは衡平の理念に反し、取引の安全を害するものというべきである。

と述べた。

≪証拠―省略≫

理由

控訴人が訴外東洋化繊株式会社に対する大阪簡易裁判所昭和三四年(イ)第一、四四四号和解調書の執行力ある正本に基く強制執行として昭和三五年一月八日本件を差押え、同年四月二八日これを競売したことは当事者間に争いがなく、本件物件が被控訴人の所有であることについての当裁判所の判断は原判決理由記載の原審裁判所の判断(原判決第四枚目裏四行目から五枚目一〇行目まで)と同一であるからこれを引用する。しかして成立に争いのない乙第一号証の一、二、甲第二、三号証を綜合すると、控訴人は右強制執行として本件物件の外アンダヂツカー外数点をも共に差押えて競売し、被外垣内輝臣において本件物件を代金八六万円で、その余の物件を代金計三四万円で競落し、控訴人はその債権の弁済として右競落代金合計一二〇万円から金七一五、四九〇円の配当を受けたことが認められ、これに反する証拠はないから、これを本件物件とその余の物件との前記金額により按分した金五一二、七六八円は控訴人が本件物件を競売したことにより取得したものであることが認められる。ところで、債権者が債務者に対して強制執行をなすに当り第三者所有の動産を競売しその代金を弁済として受領しても、その弁済は無効であり、第三者との関係において不当利得を構成する。けだし執行吏が第三者所有の差押動産を債務者の所有として競売し、その売得金を領収しても、その売得金は第三者の所有であることには変わりはないが、差押債権者が執行吏からその売得金の交付を受けたときは、反対の事情なき限り、民法第一九二条により債権者はその金銭の所有権を取得することとなる。しかしながら、この場合執行吏は執行機関として売得金を債権者に交付するに過ぎず債務者の代理人として債務の弁済をなすものではなく、たゞ、民事訴訟法第五七九条により執行吏が売得金を領収したとき債務者から支払をなしたものと看做されるに過ぎないのである。しかもこの規定は売得金が債務者の所有に属する場合の危険負担の関係を顧慮して設けられているのであつて、第三者所有の差押動産の競売による売得金の領収までも債務者の支払と看做す趣旨を規定するものではない。(昭和七年一〇月二四日大審院判決民集第一一巻二一八七ページ参照)してみると、債権者は第三者より弁済を受くべき法律上の関係はないから、売得金を受領して即時取得しても、弁済の効力を生ずるに由なく、従つて債権者の債権は消滅せず、その受領金は法律上の原因なくして債権者において利得したものというべき筋合であるからである。控訴代理人援用の大正一一年の判例は債務者の財産が弁済として債権者に交付せられた場合に関するものであり、また、昭和一三年の判例は保証人又は債務者の代理人が弁済した事例に関するものであつて、いずれも本件には適切ではない。更に民法第四七七条は債権者が債務者その他の者から弁済として第三者の物を受領し、善意でこれを消費し又は譲渡した場合に、債務者と債権者の関係において右弁済を有効として簡易に決済せんとする趣旨の規定であり、もとよりその物の所有者の地位に影響を与えるものではなく、従つて所有者たる第三者がその所有権を失つた場合債権者に対し不当利得の請求をなしうることは同条但書により明かであるから控訴人の主張は採用できない。

してみると、控訴人が本件物件の売得金の所有権を取得したことは弁論の全趣旨によつて明かであるから、控訴人は以上説示のとおり被控訴人に対し本件物件の売得金として受領した前記の五一二、七六八円及びこれに対する被控訴人より控訴人に対し右利得の返還を請求した、昭和三七年六月一一日付予備的請求の趣旨追加申立書が控訴人に送達せられた日の翌日であること記録により明かな同月一六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、その支払を命じた原判決は正当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 柴 山 利 彦

裁判官 下 出 義 明

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