大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)254号 決定 1959年12月01日

抗告人(債務者) 東史郎

相手方(債権者) 浜坂土地株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告理由の要旨は抗告人は執行吏末吉孚が昭和三十三年八月二十三日本件劇場建物並にその敷地に対し為した明渡の強制執行に対し異議を申立てたところ原裁判所は右異議の申立は明渡の執行完了後に為された不適法のものであるとして却下せられた。しかしながら執行吏は本件劇場内より抗告人所有の物件(一)どんちよう一、横幕一、脇幕一、暗幕七、(二)電話器一台、(三)配電盤一式(四)座布団四十五枚(五)木炭八俵(六)約三畳の居室(七)皮製大型トランク一(但し(七)は井上寿子所有)を債務者に引渡さなかつたから本件執行は未だ完了していないのであり抗告人主張の異議申立は適法であるから原決定を取消して執行不許の裁判を求めるというのである。

不動産の明渡の執行は民事訴訟法第七三一条第一項第三項の手続の終了を以て完了するものといわなければならないが右第二項の取除くべき動産とはその所在の判明したものを以て足り隠秘な場所に存置されていた為執行吏が相当の注意を為すもこれが所在を発見し得なかつたものは後日発見の際これを債務者に引渡すの外なくこれを除いた他の動産を債務者に引渡した以上執行は完了したものと解するを相当とする。

抗告人主張の物件中(四)(五)及び(一)の内暗幕はいずれも執行の際これを取除かなかつたことは記録上明白であるが証人末吉孚の証言債権者代表者本人訊問並に検証の結果によれば(四)は本件劇場内階段下の押入内に(五)は劇場舞台の床下に(一)の暗幕は二階の暗い場所にいずれも隠秘な場所に存置されていたところ執行当時債務者は不在で債務者の雇人もその立会を拒んだ為債権者代表者も執行吏も右物件の所在に気付かず又その気付かなかつたことにつき故意過失があつたとは認められないからこれを引渡がなかつたからといつて執行が完了しないとは論ぜられない。

抗告人主張の物件中(一)のどんちよう並に横幕脇幕は証人坂本吉堯の証言並に債権者代表者本人訊問の結果によれば本件劇場に備付の品として本件劇場の所有者である債権者に寄贈せられたものであり(三)は債権者所有の映写器の附属品で映写器の所有者である債権者の所有に属し(六)の居室は検証の結果によれば本件劇場の建物と附加して一体となつているから仮に債務者がこれを建設したとしても附合により債権者の所有に属するからこれを取除かなかつたのは当然である。(二)の電話器についていえばその加入名義が債務者であつたことは記録上看取されるが右電話器具が債務者の所有に属したものと認むべき証拠はなく前記証拠によれば電話器の撤去は電話局の所管であるので執行吏はこれが撤去方を所轄電話局に依頼したことが明らかであり右執行吏の措置は相当であつて咎むべきところがない。(七)については当時本件劇場内にこれが存置されていたと認むべき証拠がない。

記録によれば叙上(一)乃至(七)の物件を除き債務者所有の動産は執行吏に於て殆んど全部これを取除きこれを債務者の雇人小谷多喜に引渡した上債務者の本件劇場並にその敷地の占有を解いて債権者代表者の占有に移したことを看取し得べく従つて本件不動産の明渡執行は完了したものといわなければならない。これと同じ見解で抗告人の異議を却下した原決定は相当であるので主文の通り決定する。

(裁判官 田中正雄 観田七郎 河野春吉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例