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大阪高等裁判所 昭和33年(ウ)115号 決定 1958年3月29日

申立人 株式会社下村商店

訴訟代理人 久保泉

相手方 国

主文

本件申立を棄却する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人代理人は、申立人と相手方間の大阪高等裁判所昭和三一年(ネ)第一九四号損害賠償請求控訴事件の判決につき、同裁判所書記官丸本米二が付与した執行文に基く執行はこれを許さないとの決定を求め、その理由は、「相手方は、昭和三三年三月一〇日右判決につき執行文付与申請をし、同日同裁判所書記官丸本米二は執行文を付与した。しかし、申立人に対する右給付判決に対しては、仮執行の宣言は付されておらず、又申立人は、同月一一日右判決に対し適法に上告を提起したから、右判決はまだ確定していない。およそ判決の執行力は、原則としてその判決が形式的に確定したとき、または仮執行の宣言が付されたときに発生するもので、例外として、仮差押及び仮処分を命ずる判決は成立と同時に即時執行力を生ずるとするのが、民事訴訟法の原則である。この例外の場合に即時執行力があるとするのは、同法第七四九条第二、三項及び第七五六条の特別規定があるからである。同法第一九八条第二項により仮執行に基き既にした給付の返還を命ずる判決につき、即時執行力が発生する旨の特別規定はないから、右判決は、右原則に従うものと解さなければならない。しかるに、右判決は前記のようにまだ確定しておらず、又仮執行の宣言も付されていないから、右原則によりまだ執行力を生じていない。従つて、まだ執行力の発生していない前記判決に執行文を付与したことは違法である。」というのである。

申立人と相手方間の当裁判所昭和三一年(ネ)第一九四号損害賠償請求控訴事件記録によると、相手方が、昭和三三年三月一〇日申立人に対する同事件の給付判決に対し執行文付与申請をなし、当裁判所書記官丸本米二が、同日相手方に執行文を付与したこと、右給付判決には仮執行の宣言が付されておらないこと、申立人が、同月一一日右判決に対し上告の申立をしたことがいずれも明らかである。およそ給付判決の執行力は、原則としてその判決が形式的に確定したとき、または仮執行の宣言が付されたときに発生し、この場合に限り執行文を付与すべきものである(民訴法第五一八条第一項)。しかし、仮差押及び仮処分命令は、その性質上迅速に執行されることを要し、かつ迅速に執行されなければその目的を達することができないものであるから、たとえ判決の形式でなされた場合でも仮執行の宣言を付することを要しないで、法律上当然即時に執行力を生ずるのであつて、申立人主張の民訴法第七四九条第二、三項第七五六条の規定のあるがために即時に執行力を生ずるのではないと解すべきである。そこで、民訴法第一九八条第二項の規定により被告が仮執行の宣言に基いて給付したものの返還及びこれによりまたはこれを免れるため被告が受けた損害の賠償を原告に命じた趣旨を考えてみよう。判決は、元来確定して始めてこれを利用し、殊に強制執行によりその内容に対応する状態を実現できる効力を生ずるのが原則である。しかし、この原則を貫くと敗訴者の上訴により判決の確定が遅延され、勝訴者の権利の満足が遅らされることとなるので、判決に仮執行の宣言を付することにより、判決の確定前に判決の内容に対応する状態の実現を生ぜしめ得ることとしたのである。しかしながら、仮執行は基本の判決がそのまま維持されることを条件として勝訴者の利益のためにその内容の実現を許すのであるから、その判決が確定するに至らないで取り消されまたは変更されると、その限度で仮執行の宣言はその効力を失うようになるが(民訴法第一九八条第一項)、仮執行により既になされた執行行為はそのため当然には無効とはならない。しかし当事者間においては、仮執行が行われなかつた状態に速やかに復元することが公平の原則に合する。そこで、同条第二項は、上訴裁判所が本案判決を変更する場合には被告(仮執行に基き給付した当事者)の申立によりその判決において仮執行の宣言に基き被告の給付したものの返還及び仮執行によりまたはこれを免れるため被告の受けた損害の賠償を原告(仮執行を利用した当事者)に命ずべきものと規定し、独立の訴を提起して不当利得による返還または不法行為に基く損害の賠償を求めることを要しないで簡易迅速な手続と方法により仮執行の宣言に基き給付した当事者(被告)の保護を図つているのである。民訴法が、右のような規定を設けて、仮執行の宣言に基いて給付した当事者に簡易迅速な手続と方法とにより既に給付したものの返還と仮執行に基因する損害の賠償とを求めることを得せしめていることから考えると、仮執行の宣言に基いて給付を受けた当事者(原告)に、民訴法第一九八条第二項の規定により給付を受けたものの返還及び損害賠償を命ずる判決は、その性質上仮執行の宣言がなくても、その判決の言渡により当然即時に執行力を生ずるものと解するのを相当とする。それではこの場合執行文の付与を必要とするであろうか。元来執行力ある正本は、原則としてすべての債務名義について執行文の附記が必要なのであつて、例外として執行文を要しないのは、(1) 仮執行宣言附の支払命令及び仮差押仮処分命令のように成立後直ちに執行をする必要のあるもの。(但し表示された債権者又は債務者に承継があつた場合に限り執行文の附記を要する。)(民訴法第五六一条第一項、第七四九条第一項、第七五六条)(2) 検察官の執行命令のように直接執行力ある債務名義と同一の効力を有するもの。(民訴法第五六一条ノ二、形訴第四九〇条、非訟事件手続法第二〇八条)(3) 債権差押命令に基く債権証書の取上の執行(民訴法第六〇六条)、競落不動産引渡命令の執行(民訴法第六八七条第三項)などのように執行手続中なされる裁判に基く附随的執行の場合である。従つて執行文を要するのは確定の給付判決ばかりでなく、仮執行宣言附判決、執行判決、執行証書のように執行できる旨の宣言の記載ある場合でも同様である。このように考えて来ると、判決において民訴法第一九八条第二項により給付したものの返還と損害賠償を命じた場合も右原則に従い執行文を要するものと解するのを相当とする。本件につきこれをみるに、申立人が第一審判決の仮執行の宣言に基き、昭和三一年二月二三日相手方から現金一、八一一、二六三円の給付を受けたところ、相手方は、右判決に対し当裁判所に控訴の申立をするとともに、民訴法第一九八条第二項の規定により右給付した金員の返還及び給付の日の翌日から返還ずみに至るまでの損害金の支払を求め、当裁判所は、審理の結果、右第一審判決中相手方に関する部分を失当として取り消し、申立人の相手方に対する請求を棄却し、かつ申立人に対し、右仮執行宣言に基き相手方の給付した前記金員及びこれに対する損害金の返還を命じたことは、当裁判所に顕著な事実である。そうすると、前記理由により右判決は、その言渡と同時に即時に執行力を生じ、かつ直ちにこれに対し執行文を付与することができるものというべきであるから、当裁判所書記官丸本米二が、右判決に対し執行文を付与したのは相当であつて、申立人主張のような違法な点はない。その他記録を調べてみても、右執行文付与を取り消すべき瑕疵はなく、本件異議の申立はその理由がないから、これを棄却すべきものとし、申立費用の負担につき民訴法第九五条第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長判事 熊野啓五郎 判事 坂速雄 判事 岡野幸之助)

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