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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)84号 決定 1958年3月29日

抗告人 工藤良香

右代理人弁護士 塩見利夫

相手方 日高良雄

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件申請を棄却する。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

抗告人は主文第一、二項と同旨の決定を求めた。その理由として主張するところは、別紙昭和三二年四月一九日付理由書、同年五月一日付抗告理由補足書、同月七日付抗告理由補足書(二)、同月二八日付抗告理由補足書(三)、同年六月二日付抗告理由補足書(四)記載のとおりである。

競売法三二条二項による競売法による競売、いわゆる任意競売にも準用せられる民訴法六八七条によると、競落人は競落代金を支払つた後債務者が引渡を拒むときは執行裁判所に対し引渡命令を求め、これによつて引渡を強制することができる。元来第三者に対しその占有する物件の引渡を強制するには判決手続に基く債務名義を必要とするのが原則であるのに、同条がその例外を定めたのは、強制執行手続や任意競売手続が、判決手続のように権利確定の手続でなく、確定せられた権利の実現を目的とする手続であるがために外ならない。強制執行手続や任意競売手続は権利実現の手続であるから、その手続を簡易にして迅速に行われるようにする必要があるが、他面右手続により第三者の利益が侵害されないように担保されなければならないし、更に関係人の利益保障のため設けられた制度が手続妨害の目的に濫用される危険のあることも考慮に入れなければならない。このように考えて来ると、強制執行において競売開始決定は差押の効力を有するから、開始決定後債務者から目的物件の占有を承継した者は引渡命令の対象となり、任意競売においても競売開始決定後物件所有者から目的物件の占有を承継した者は引渡命令の対象となるけれども、任意競売において競売開始決定前物件所有者から目的物件の占有を承継した者に対しては引渡命令を発することはできないと解するのを相当とする。何故ならば、申立抵当権設定登記後又は先順位抵当権ある場合は、その設定登記後目的物件について権利を取得した者は、特に法に定める場合を除いて競落人に対抗できないけれども、それだけで引渡命令の対象となるものということのできないことは、物件所有者に対抗できる権限なく従つて競落人にも対抗できる権限のない占有者が引渡命令の対象とすることができないのと同様である。また抵当権実行による任意競売においては競売開始決定により権利実現の手続が開始されるのであつて、前示抵当権設定登記と同時に権利実現の手続が始つたものでなく、右権利実現手続開始前既に目的物件の引渡を受けた者に対してまで判決手続に基くことなく簡易な引渡命令により引渡を強制し得ると解することは広きに失し、第三者の利益保護を欠く虞があるからである。自動車及び建設機械競売規則四条の二は、自動車等の競売手続をなるべく簡易とし自動車等の担保価値の増大をはかるため特に改正新設せられた規定であつて、同趣旨の規定の存しない競売法による競売の場合同様に論ずることは相当でない。

本件において、西尾健太郎は昭和二七年一二月二七日本件物件について一番抵当権設定登記をし、昭和二八年一月頃古田覚成にこれを売り渡し且つ引き渡したが所有権移転登記をせず、抗告人は古田の妾でその頃から本件物件を占有しておる。ところが二番抵当権者からの競売申立により昭和二九年三月一〇日競売開始決定がなされたことは原決定の認定したとおりである。そうすると抗告人が古田を経て西尾の占有を承継したのは、右抵当権設定登記後であるけれども、競売開始決定前であるから、抗告人に対し引渡命令を求めることはできないものといわなければならない。従つて抗告人に対する引渡命令を認容した原決定を取り消すこととし、民訴法四一四条三八六条九六条八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 坂速雄 岡野幸之助)

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