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大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)1047号 判決 1959年5月30日

控訴人 明光証券株式会社

被控訴人 阪本俊雄 外三名

主文

(甲)、原判決を次のように変更する。

一、控訴会社は、

(一)  被控訴人阪本俊雄に対し

(1) 、(イ)、別紙<省略>第一目録記載の銘柄数量欄記載の(1) ないし(7) の株式を引渡し、

(ロ)、右株式を引渡すことができないときは、各一株につき右(1) の株式につき九十三円、(2) の株式につき三十八円、(3) の株式につき三十二円、(4) の株式につき六十九円、(5) の株式につき百六十二円、(6) の株式につき百四十八円、(7) の株式につき百六十八円の割合の金員を支払え、

(2) 、(イ)、五万二千四百円及び(ロ)一万九千七百五十円を支払え。

(二)  被控訴人阪本スエノに対し、

(1) 、(イ)、別紙第二目録記載の銘柄数量欄記載の株式を引渡し、

(ロ)、右株式を引渡すことができないときは、一株三十八円の割合の金員を支払え。

(2) 、(イ)、七千二百円及び(ロ)、六百円を支払え。

(三)  被控訴人阪本雄史に対し、

(1) 、(イ)、別紙第三目録記載の銘柄数量欄記載の株式を引渡し、

(ロ)、右株式を引渡すことができないときは、一株三十八円の割合の金員を支払え、

(2) 、(イ)、七千二百円及び(ロ)、六百円を支払え。

(四)  被控訴人阪本孝美に対し、

(1) 、(イ)、別紙第四目録記載の銘柄数量欄記載の株式を引渡し、

(ロ)、右株式を引渡すことができないときは、一株九十三円の割合の金員を支払え。

(2) 、(イ)、一万五千円及び(ロ)六千二百八円を支払え。

二、被控訴人等のその余の請求を棄却する。

(乙)、当審に於て拡張した請求につき、

一、控訴会社は、

(一)  被控訴人阪本俊雄に対し、

(1) 、控訴会社が別紙第一目録記載の銘柄数量欄記載の(3) の株式を引渡すことができないときは、一株十円の割合の金員を支払え。

(2) 、(イ)、七万六千五百八十円及び(ロ)二万四千三百九十六円を支払え。

(二)、被控訴人阪本スエノ、同阪本雄史に対し夫々

(イ)、二万八千八百円を支払え。

(三)、被控訴人阪本孝美に対し、

(イ)、一万五千四百円、及び(ロ)一万一千七百九十一円を支払え。

二、被控訴人等のその余の請求を棄却する。

(丙)、訴訟費用は第一、二審を通じ全部控訴会社の負担とする

(丁)、この判決は、被控訴人阪本俊雄が十二万円、同阪本スエノ、同阪本雄史が各一万五千円、同阪本孝美が二万二千円の担保を供するときは当該被控訴人に於て仮りに執行することができる。

事実

控訴会社訴訟代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴会社の負担とする。」との判決を求め、請求の趣旨を、「控訴会社は(一)被控訴人阪本俊雄に対し、(1) 、(イ)別紙第一目録記載の(1) ないし(7) の株式を引渡せ、(ロ)右株式を引渡すことができないときは右目録中該当株式の請求時価欄記載の金額の割合の金員を支払え。(2) 十三万三千六百二十円竝に(3) 四万九千八百二十一円を支払え。(二)被控訴人阪本スエノに対し、(1) 、(イ)別紙第二目録記載の株式を引渡せ。(ロ)右株式を引渡すことができないときは右目録中請求時価欄記載の金額の割合の金員を支払え。(2) 三万六千円並に(3) 六百円を支払え。(三)、被控訴人阪本雄史に対し(1) 、(イ)別紙第三目録記載の株式を引渡せ。(ロ)右株式を引渡すことができないときは右目録中請求時価欄記載の金額の割合の金員を支払え。(2) 、三万六千円竝に(3) 六百円を支払え。(四)、被控訴人阪本孝美に対し(1) 、(イ)別紙第四目録記載の株式を引渡せ。(ロ)右株式を引渡すことができないときは右目録中請求時価欄記載の金額の割合の金員を支払え。(2) 、三万二千八百円竝に(3) 一万九千三百四円を支払え。訴訟費用は第一、二審共控訴会社の負担とする。仮執行の宣言を求める。」と増資新株式の引渡を求める請求を全部取下げ、別紙請求の減縮竝に拡張一覧表記載のとおり一部減縮一部拡張した。(原判決の認容額を超える部分は被控訴人等に於て付帯控訴したものと認め、更にその内原審に於ける請求額を超える部分の請求は当審に於て新たに請求を拡張し、原判決の認容額に達しない部分及び原判決の認容額以上で原審請求額に達しない部分は請求を減縮したものである。)

当事者双方の事実上の主張は、

被控訴人等訴訟代理人が、

(一)  増資新株式の引渡請求はしない。

(二)  控訴会社は昭和三十年十二月二十四日朝田証券株式会社を吸収合併し、その権利義務を承継したものである。

(三)  朝田証券株式会社がビール三社の株式以外の株式を同会社に名義書換したのは昭和二十七年七月である。ビール三社の株式はいずれも被控訴人阪本俊雄名義のまゝであるから同被控訴人は配当金を受領している。従つて右三社の増資新株引受権侵害による損害の請求はしない。

(四)  被控訴人阪本俊雄が朝田証券株式会社から富士紡績株式会社株式五百株を昭和二十六年八月二十三日、日本エタニツトパイプ株式会社外五社の株式合計千四百株を昭和二十七年二月二十日、夫々引渡を受けたことは否認する。

(五)  福田正雄は朝田証券株式会社の専属外務員であつて、同社の業務に関し同社を代理する権限を有する包括代理人であるから、同人が同社の外務員としてなした行為は同社の行為である。そして証券業者が顧客より株式の名義書換手続の委託を受け株券を預りその手続をすることは、その本来の業務に付随した営業の範囲内の行為である。

(六)  仮りに右福田正雄が株式の名義書換手続の受託につき、右会社を代理する権限がなかつたとしても同人は外務員として株式売買の受託につき会社を代理する権限を有していたのであり、且被控訴人阪本俊雄は右福田正雄が株式の名義書替手続受託の代理権限を有するものと信じて本件各株式の名義書換手続を依頼したのであつて、右代理権を有すると信ずるにつき正当の事由があるから、朝田証券株式会社の義務を承継した控訴会社は民法第百十条によりその責任を免れえない。

(七)(1)  控訴会社主張の商慣習は否認する。控訴会社主張の預証は唯株式の寄託を証する証拠証券にすぎないものであつて、株式の寄託はこれのみを以つて証明しなければならないものでもなく、これを呈示しなければ業者は株式の引渡しに応じる義務のないものではない。仮りに控訴会社主張の商慣習があるとすれば、かゝる慣習は公序良俗に反するから当事者はこれに従うことを要しない。

(2)  尚仮りに控訴会社主張の商慣習があり且公序良俗に反しないとしても、右慣習は証券業者が顧客から株券を受取つた場合常に預証を発行する義務のあることを前提とするものであるところ、朝田証券株式会社の代理人である福田正雄は被控訴人阪本俊雄より株式の買付の委託を受け、且右買受株式竝に日本郵船株式会社の株式千株の名義書換手続の委託を受けてこれらの株券を預つたのであるから右会社はその預証を発行すべきであるのに、これを発行せず右福田正雄が甲第一、二号証の如き自己の名剌を利用した預証を発行したにすぎないのであるから、結局右会社は右慣習による正規の預証を発行していないのである。従つて被控訴人等は右会社が右慣習の前提である預証発行の義務をつくさない以上、右慣習に従う要はなく、右会社の義務を承継した控訴会社は右慣習をたてに本件株式の引渡を拒むことはできない。

(八)(1)  本件各株式の時価は別紙第一ないし第四目録中請求時価欄に記載の通りであるから、控訴会社に於て本件各株式の引渡ができないときは右時価相当額の損害金の支払を求めるものである。

(2)  各会社に於ては前記目録中増資欄記載のように夫々増資が行われたが、ビール三社の株式以外を擅に朝田証券株式会社が自己に名義書換をしたため被控訴人等は夫々右増資新株の引受をすることができなかつた。これは右会社の不法行為によつて被控訴人等が夫々増資新株引受権を侵害されたものであつて、これにより被控訴人等は夫々前記目録記載の払込金と時価との差額の損害を被つたものであるから、その賠償を求めるものである。

(3)  本件各株式に対しては前記目録配当欄記載のように利益配当が行われたが、朝田証券株式会社がビール三社の株式を除き擅に自己に名義書換をしたため被控訴人等は右各配当を受けることができず、右会社及び控訴会社がこれを取得しているから、右会社及び控訴会社は株主でないのに右配当を受け不当に利得し、これにより被控訴人等は夫々右配当金相当額の損害を被つているから、被控訴人等は夫々これを控訴会社に対し不当利得としてその返還を求める。仮りにこれを不当利得として返還を求めることが理由がないとすれば、右は控訴会社の被承継人朝田証券株式会社の債務不履行によつて被控訴人等は配当金相当額の損害を被つたわけであるから、その賠償を求める。

(九)  仮りに福田正雄が朝田証券株式会社の代理人でなく、また表見代理の主張が認められないとすれば、右福田正雄は右会社の使用人であつて、同人が同社の外務員として被控訴人等より本件各株式の各義書換手続の委託を受け、名義書換手続の完了した株式を保管中擅にこれを自己個人の株式のマーヂン取引の証拠金代用証券として朝田証券株式会社に差入損失を招いたためこれを同会社によつて処分されビール三社以外の株式を同会社に名義書換され、これがため被控訴人等は夫々前記各株式及び新株引受権を失い且配当金を受けることができず、株式の時価相当額、株式の時価と増資新株払込金との差額相当額、及び配当金相当額の各損害を被つたのであるから、右は福田正雄の被控訴人等に対する不法行為であつて、控訴会社は被承継人朝田証券株式会社の使用人福田正雄の右不法行為につき民法第七百十五条によつて右損害を賠償する義務があるから、被控訴人等はその賠償を求める。

(十)  控訴会社は被控訴人阪本孝美の二百株同阪本俊雄の三百株の各富士紡績株式会社の株式は昭和二十六年八月二十七日被控訴人阪本俊雄に代金引換に引渡し現在所持していないと主張するが、朝田証券株式会社は右株式五百株を昭和二十七年七月二十一日自己に名義書換をし、仮処分決定がなされているに拘らずこれに違反して昭和二十九年九月一日内四百株を遠藤保子に、同年十月二十四日内百株を福井常松に各名義書換をしているのである。

と述べ、

控訴会社訴訟代理人は、

(一)  控訴会社が被控訴人等主張日時朝田証券株式会社を吸収合併し、その権利義務を承継したことは争わない。

(二)  福田正雄は朝田証券株式会社の専属外務員ではあるが、同人は右会社の業務としてではなく個人の資格で被控訴人阪本俊雄より被控訴人等主張の株式の名義書換手続の依頼を受け株式を預つたものであつて、勿論右会社の代理人としてしたものでもない。

仮りに右福田正雄が右会社の代理人として被控訴人等よりその主張の各株式を預つたとしても、右行為は権限ゆ越の行為であつて、被控訴人阪本俊雄が右福田に代理権限があると信じたとしても、同被控訴人は唯福田の言のみを信じ二回に亘り右福田に株式を預けながら、その間一度も会社に問合すことをせず、且一回目と二回目との間には相当長期の期間があつたのにその間福田に対して第一回目寄託の株式の返還を求めることをせずして第二回目の寄託をしているのであつて、このような事情のある以上同被控訴人が右福田正雄に代理権があると信じるにつき正当な事由があるとは言えない。それ故右福田正雄の行為につき控訴会社は責任がない。

(三)  大阪に於ては証券業者と顧客との株式売買委託取引に於て業者が顧客より株式の寄託を受けたときは、業者名義の預証を交付しなければならない。顧客は右預証によつて株式の預託を証明すべきで業者は右預証と引換でなければ株式の引渡に応ずる義務がないとする商慣習がある。そして証券業界に於ては右のことを日刊の大阪証券日報に随時掲載広告し且業者の店頭にも掲示して、右慣習の周知方法を構じているのであつて、右慣習は証券業者の取引上の危険の軽減と顧客の利益との考量の結果生れた極めて合理的な慣習であるから、仮りに被控訴人等からその主張の各株式を朝田証券株式会社が寄託を受けたとしても、その際双方に右慣習に従う意思がなかつたとする特段の事情がないからたとえ被控訴人等が右慣習を知らなくても、被控訴人等は右商慣習に従わねばならないものである。しかるに本件においては被控訴人等は前記の預証を呈示してその引換えに本件各株式の引渡を求めるのでないから、控訴会社は右引渡に応ずる義務はない。

(四)  各会社に於て被控訴人等主張のように増資の行われたこと、竝に昭和三十一年下期迄の分につき被控訴人等主張の通り利益配当の行われたことは認めるが、控訴会社は被控訴人等主張の日本郵船株式会社の株式千株を現在所持しこれに対する配当金を受領しているが、増資新株式は処分して現在所持しない。日本エタニツトパイプ株式会社株式百株と増資新株式二百二十株とは現在所持しこれらに対する配当金を受領している。帝国製鉄株式会社株式二百株は現在所持しこれに対する配当金は受領しているが、増資新株の引受けには応じなかつた、富士紡績株式会社株式五百株は昭和二十六年八月二十七日被控訴人阪本俊雄に引渡したから所持していない。

(五)  福田正雄が朝田証券株式会社の使用人として同社の事業の執行につき被控訴人等に被控訴人等主張の不法行為をなしたことは否認する。

と述べた他、原判決の事実摘示(但原判決四枚目裏七行目に「原告雄史」とあるは「原告俊雄」の誤記と認める。)と同一であるから、これを引用する。

証拠として、被控訴人等訴訟代理人は、甲第一ないし九号証の各一、二同第十ないし十四号証、同第十五号証の一ないし五、同第十六及び第十七号証の各一、二、同第十八号証を提出し、原審での証人福田正雄の証言の一部、同被控訴人阪本俊雄本人尋問(第一、二回)の結果を援用し、乙号各証の成立を認め乙第一号証を利益に援用し、控訴会社訴訟代理人は乙第一、二号証を提出し、原審での証人福田正雄、原審及び当審での証人野村義太郎の各証言、原審での控訴会社被承継人朝田証券株式会社代表者朝田卯一本人尋問の結果、当審での鑑定人芝久馬雄、同伊藤銀三の各鑑定の結果を援用し、甲第三ないし第九号証の各一、二はいずれも不知と述べ、その他の甲号各証の成立を認め甲第一、二号証の各一、二を利益に援用した。

理由

朝田証券株式会社が大阪証券取引所の取引員で、福田正雄が右会社の専属外務員であつたこと、控訴会社が昭和三十年十二月二十四日朝田証券株式会社を吸収合併して権利義務を承継したこと、被控訴人阪本俊雄が右朝田証券株式会社に昭和二十六年八、九月頃(控訴会社は八月二十三日と主張し、被控訴人等は九月二十日頃と主張するが、)富士紡績株式会社株式五百株を、同二十七年二月二十日頃日本エタニツトパイプ株式会社株式百株(控訴会社は二百株と主張し被控訴人等は百株と主張するから、少くとも百株については争のないこととなる。)帝国製鉄株式会社株式二百株、麒麟麦酒株式会社株式三百株日本麦酒株式会社株式四百株朝日麦酒株式会社株式三百株の買付の委託をして右各株式を買受けたことは当事者間に争がない。

被控訴人等は右買受株式竝に日本郵船株式会社株式合計千株を株式の名義書換手続を依頼して控訴会社に預けたと主張するから検討する。

成立に争のない甲第一、二号証の各一、二、原審での証人福田正雄の証言、同被控訴人阪本俊雄本人尋問(第一、二回)の結果によると、被控訴人阪本俊雄が前認定のように朝田証券株式会社に会社の買付委託をして買受けたのは、いずれも右会社営業所に於て同社の専属外務員福田正雄に委託してしたものであり、前認定の富士紡績株式会社株式五百株の買付委託をしたのは昭和二十六年八月二十三日頃であつて、被控訴人阪本俊雄は同年九月二十七日頃右会社営業所で右福田正雄より右買受株式を受取つたが、即時同人に対して右株式の内三百株を自分名義に内二百株を被控訴人孝美を代理して同人名義に各名義書換手続を依頼してこれを右福田正雄に預けると共に、当時所有していた日本郵船株式会社株式四百株を自己名義に、同三百株を被控訴人阪本スエノを代理して同人名義に、同三百株を被控訴人阪本雄史を代理して同人名義に各名義書換手続を依頼してこれらの株式を福田正雄に預け、次いで前記日本エタニツトパイプ株式会社株式百株、帝国製鉄株式会社株式二百株、麒麟麦酒株式会社株式三百株、日本麦酒株式会社株式四百株、朝日麦酒株式会社株式三百株を昭和二十七年二月二十日頃前同様朝田証券株式会社の営業所に於て右福田正雄より受取り即時同人に右各株式を自己名義に名義書換手続を依頼して預けた、そして右福田正雄は被控訴人阪本俊雄より右各株式を預つた都度朝田証券株式会社名義の預証を交付しないで、唯自己の名刺の裏に右各株式を名義書換のため預つた旨を記載した預証を渡したに過ぎなかつたこと、そして被控訴人等が預けた右株式が夫々別紙第一ないし第四表記載通りの記号番号のものであることが認められる。

しかしその後被控訴人等の依頼した前記各株式が被控訴人等主張のように夫々被控訴人等に名義書換手続が完了して被控訴人等の名義となつたことは控訴会社の明かに争わないところであり、前記証人福田正雄の証言によると福田正雄は右名義書換を完了して自己の手許に戻つて来た右各株式をほしいまゝに恰かも顧客からの委託のあつたように装つて、他人名義を用いて自己のための株式のマーヂン取引の証拠金代用証券として朝田証券株式会社に差入れてしまつて、第一回目に依頼を受けた富士紡績株式会社株式五百株日本郵船株式会社株式千株につき被控訴人阪本俊雄より二回に亘つて返還請求を受けた際には名義書換手続未了とか他所の金庫に保管中で今直ちに出せないとかとその場を糊塗し、更に第二回目に依頼を受けた各株式についても返還請求を受けたときには名義書換手続未了と言つてその場を誤魔化していたことが認められる。

ところで控訴会社は顧客より株式の買付委託を受けると同時にその名義書換手続の依頼を受けることは証券業者としての朝田証券株式会社の営業に付帯した業務と言うことができるが、他店で買受けた株式やたとえ自己の店舗が買注文の委託を受け買付けた株式でもすでに注文主に引渡を了して一ケ月もしてから後にその株式の名義書換手続の依頼を受けることは証券業者の付帯した業務と言うことができないから、福田正雄が被控訴人等から前記株式の名義書換手続の依頼を受けこれを預つたことは朝田証券株式会社の業務とは関係なく個人としてしたものであつて、右会社の何等関知するところではない。仮りに福田正雄が右会社の代理人としてしたものであつたとしても、右は同会社の営業の範囲外の行為であるから、権限ゆ越の行為であつて、右会社には何等の責任はないと主張するが、原審及び当審での証人野村義太郎の証言によると、証券業者が顧客より株式の名義書換手続の依頼を受け株式を預り顧客のため株式の名義書換手続をすることは本来の業務ではないが、顧客えのサービスとして通常何れの業者もしていることが認められるから、右の行為は証券業者としてその営業に付帯した業務と言うことができ、しかも右株式名義書換手続をすることは業者が顧客に対するサービスとしてするものであることに鑑みれば、業者が委託を受けて買付けた株式に限り、しかも買付委託と同時に依頼を受けた場合のみでなければ付帯の業務でないと限定する合理的な根拠はないと言わねばならない。それ故朝田証券株式会社に於ても同会社が委託を受けて買付けた株式のみに限らず、また買委託と同時に依頼を受けたと否とに拘らず株式の名義書換手続の依頼を受けて株式を預り顧客に代つてその手続をすることは本来の業務に付帯した営業の範囲内の業務と言うことができる。この点に関する原審での朝田証券株式会社代表者朝田卯一本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しえない。しかして証券業者の専属外務員は当該業者のため一般に業者と顧客との取引については業者を代理する権限を有し、業者の代理人とするものと言うことができるから、福田正雄は前示株式名義書換についても、朝田証券株式会社を代理する権限を有するものと認むべく前認定のように被控訴人阪本俊雄が朝田証券株式会社の営業所に於て同会社の専属外務員福田正雄に株式の買入の委託をし、買入れた株式を同人より受取り、且同人に自ら或は他の被控訴人等を代理して株式の名義書換手続を依頼して本件各株式を預け、これを右福田正雄が受取つた以上、たとえ福田正雄がこれを朝田証券株式会社内に於ける正規の手続を履まず従つて同会社名義の株式預証を交付しないで唯自己個人の名刺の裏に株式を預つた旨を記載した預証を同被控訴人に交付したに過ぎなくとも、またその手数料を同被控訴人より徴したと否とに拘らず右株式名義書換手続は朝田証券株式会社が被控訴人等より夫々依頼を受けてこれを受託したものに外ならない。

また控訴会社は右は福田正雄が被控訴人阪本俊雄から本件各株式を日本証券金融株式会社の金庫に保管方の依頼を受けて預つたものであつて、かゝることは朝田証券株式会社の営業の付帯の業務でないと主張するが、福田正雄が本件各株式を預つたのは控訴会社主張のように特別の保管方の依頼を受けたものでないことは前に認定した通りであるから、控訴会社の右主張は採用し難いことは明かである。

そうすると朝田証券株式会社の権利義務を承継した控訴会社は被控訴人等より夫々依頼された株式の名義書換が完了した以上、被控訴人等に夫々別紙第一ないし第四目録の「委託した株式の銘柄数量欄」に記載した株式を当該目録に記載した被控訴人に引渡さねばならないことは明かである。控訴会社は大阪市に於ける証券業界に於ては証券業者が顧客より株式を預つた場合には必ず業者名義の預証を交付しなければならず、預託者は右預証によつてのみ株式の預託を証明すべきであつて、業者は右預証の呈示を受けない限り株式の引渡に応ずる義務はないとする商慣習があると主張するが、当審での鑑定人芝久馬雄、同伊藤銀三の鑑定の結果によるも控訴会社主張の右商慣習が行われていることを認めることができない。右鑑定人等の各供述によると、大阪市に於ける証券業界に於ては従来外務員が顧客より株式を預つた際外務員が思い思いの預証を発行していて往々問題を起したことがあつたところから、昭和二十五年二月以降業者が顧客より株式の売買の委託を受け預つたときは必ず業者名義の預証を発行することにし、業者は右預証と引換でなければ株式の引渡に応じないようにすることとし、このことを証券取引所と証券業協会との連名で証券日報にその旨広告し又業者の店頭に掲示して顧客に周知をはかつていることが認められるが、右のような取扱が十分に励行されているものではなく、たとえ預証がなくとも調査の結果預つたこと竝に真実の預け主であることが判明すれば預証と引換でなくとも株式の引渡に応ずる場合のあることが認められるから、右のような業者の取扱方法は未だ証券業者及び顧客を拘束する商慣習に迄熟していないものと認められる。従つて控訴会社の右商慣習を前提とする主張は採用するに由がない。

そして成立に争のない甲第十八号証によると本件最終口頭弁論期日に最も近い昭和三十三年一月二十四日の大阪証券取引所に於ける本件各株式の終値は別紙第一ないし第四目録の「昭和三十三年一月二十四日終値」欄記載の通りであることが認められるから、控訴会社は各被控訴人に対し前記の各株式の引渡ができないときは右各株式の引渡に代る損害として、当該株式の右終値相当の金員(但朝日麦酒株式会社株式及び日本麦酒株式会社株式については被控訴人阪本俊雄の請求する夫々一株百六十二円、百四十八円の割合の金員)を支払う義務がある。

次に被控訴人等の増資新株式の引受けができなかつたことによる損害金竝に株式配当金相当額の損害金の請求について検討する。

前認定の被控訴人等所有の日本郵船株式会社株式千株、日本エタニツトパイプ株式会社株式百株、帝国製鉄株式会社株式二百株を昭和二十七年七月頃朝田証券株式会社が自己に名義書換をしたことは控訴会社の認めるところであり、成立に争のない甲第十七号証の一、二によると富士紡績株式会社株式五百株についても昭和二十七年七月二十七日朝田証券株式会社に名義書換がなされていることが認められ、朝田証券株式会社が右のように自己に名義書換をしたのは原審での証人福田正雄の証言及び同控訴会社の被承継人朝田証券株式会社代表者朝田卯一本人尋問の結果によると、前認定のように福田正雄が擅に朝田証券株式会社に自己の証拠金代用証券としてこれらの株式を差入れてした株式のマーヂン取引が福田の損失に帰したので、その事情を知らない朝田証券株式会社は右損失金に充てるため、これらの株式を自己に取得して右のように自己に名義を書換えたものであることが認められる。

そこで先ず増資新株式の引受のできなかつたことによる損害金の請求についてみるのに、前記各会社に於てはその後被控訴人等主張のように(別紙第一ないし第四目録の各増資欄記載通り)株主に対する割当増資の行われたことは当事者間に争がなく、右各増資は株主に対する割当増資であるから、すでに朝田証券株式会社に名義書換の行われた後の被控訴人等にはその増資の割当が行われずこれがため被控訴人等が夫々増資新株の引受けをなしえなかつたことは明かであつて、しかももし被控訴人等に右増資新株の割当がなされても当時被控訴人等がこれに応じて増資新株の引受をしなかつたこと、或は増資当時すでに被控訴人等が前認定の旧株式を他に譲渡していたであらうことを認むべき特段の事情の認められない本件では、被控訴人等は現在右増資新株式の引受ができなかつたことにより、少くとも被控訴人等の主張する右各増資株式の価格と増資払込金との差額の損害を被つているものと言うことができる。しかし右損害は朝田証券株式会社が被控訴人等に名義書換の完了した前記各株式を被控訴人等に返還することを遅滞したことによつて被控訴人等が被つたものとみるべきではなく、また朝田証券株式会社の代表者の故意過失による被控訴人等に対する不法行為に因るものと認めうる資料もないのであつて、むしろ前認定の事実からすると朝田証券株式会社の使用人福田正雄が被控訴人等所有の前記各株式を保管中擅に自己のマージン取引の証拠金代用証券として朝田証券株式会社に差入れ、損失金に充てるため朝田証券株式会社に名義書換されたがためであるから、これはひつきよう右福田正雄が朝田証券株式会社の使用人としてその業務の執行に際し被控訴人等に加えた不法行為に因るものとみるべきである。それ故右損害は朝田証券株式会社の権利義務を承継した控訴会社に於て被控訴人等に対し民法第七百十五条によつて賠償すべきものである。そこでその損害額を算定するのに、右損害額は被控訴人等が各増資新株式を増資後処分したであろう特段の事情の主張も立証もない本件に於ては、増資時の該株式の時価と増資払込金額の差額によつて算定すべきところ、右差額は(一)被控訴人阪本俊雄、同阪本孝美の富士紡績株式会社株式の別紙第一及び第四目録記載の各(1) 昭和二十九年二月増資分については成立に争のない甲第十号証によると、昭和二十九年十二月八日の大阪証券取引所に於ける右株式の終値が一株百円であることが認められ、増資当日の時価を認めうる資料のない本件に於ては右十二月八日の右取引所に於ける価格を以つて増資当時の時価とみるの他なく右増資は一株二十五円払込であるから、これと右時価との差額一株七十五円の割合の金額であり、前同(ロ)の昭和三十一年十月増資分については、成立に争のない甲第十三号証によると昭和三十一年十二月一日の前同取引所に於ける右株式の仲値が一株百二十六円であることが認められ、他に増資当日の時価を認めうる資料がないから、右価格を以つて右増資当時の右株式の時価とみるべく、且一株三十五円の払込であるが、被控訴人等は右時価を一株百十二円と主張するから、右百十二円と払込金三十五円との差額一株七十七円の割合の金額であり、(二)被控訴人阪本俊雄、同阪本スエノ、同阪本雄史の日本郵船株式会社株式の別紙第一、第二、第三目録記載の各(イ)昭和二十八年六月増資分については前記甲第十号証によると、昭和二十九年十二月八日の前同所に於ける右株式の終値が一株八十五円であることが認められるから前同様右価格を以つて増資当日の時価とみるべく且一株四十円の払込であるが、同被控訴人等は時価を一株六十四円と主張するから、右六十四円と払込金四十円との差額一株二十四円の割合の金額であり、前同各(ロ)の昭和三十年四月増資分については前記甲第十三号証によると、昭和三十一年十二月一日の前同取引所に於ける右株式の仲値は一株七十一円であることが認められるから、前同様右価格を以つて増資当時の時価とみるべく且一株三十五円の払込であるが、同被控訴人等は時価を一株六十四円と主張するから、右六十四円と払込金三十五円との差額一株二十九円の割合の金額であり、前同(ハ)の昭和三十二年一月増資分については成立に争のない甲第十四号証によると昭和三十二年四月三日の前同取引所に於ける右株式の終値は一株六十四円であることが認められるから、前同様右価格を以つて右株式の増資当時の時価とみるべく、一株四十五円の払込であるから、その差額一株十九円の割合の金額であり、(三)被控訴人阪本俊雄の帝国製鉄株式会社株式の別紙第一目録記載の昭和三十二年一月増資分については前記甲第十四号証によると、昭和三十二年四月三日の前同取引所に於ける右株式の終値は一株八十九円であることが認められるから前同様右価格を以つて増資当時の右株式の時価とみるべく一株四十円払込であるから、その差額一株四十九円の割合の金額であり、(四)被控訴人阪本俊雄の日本エタニツトパイプ株式会社株式の別紙第一目録記載(イ)の昭和二十七年八月増資分同(ロ)の昭和二十八年六月増資分、同(ハ)の昭和二十九年八月増資分については前記甲第十号証によると、いずれも昭和二十九年十二月八日の前同取引所に於ける右株式の終値は一株八十一円であることが認められるから、前同様右価格を以つて夫々右増資当時の時価とみるの他ないが、同被控訴人は時価を一株七十九円と主張し、右増資はいずれも一株五十円の払込であるから、右七十九円と五十円との差額一株二十九円の割合の金額であり、同(二)の昭和三十年二月増資分については前記甲第十三号証によると、昭和三十一年十二月一日の前同取引所に於ける右株式の仲値は一株六十六円であることが認められるから前同様右価格を以つて増資当時の時価とみるべく右増資は無償増資であるから一株六十六円の割合の金額となる。そこで以上認定の一株当の金額に各増資株数を乗じた額が各被控訴人の被つた損害額となるのであつて、これを前認定の当事者間に争のない別紙第一ないし第四目録増資欄記載の増資株数によつて計算すると、被控訴人阪本俊雄は(1) 富士紡績株式会社株式につき(イ)の分二万二千五百円、(ロ)の分二万三千百円、(2) 日本郵船株式会社株式につき(イ)の分九千六百円、(ロ)の分二万三千二百円、(ハ)の分一万五千二百円、(3) 帝国製鉄株式会社株式につき九千八百円、(4) 日本エタニツトパイプ株式会社株式につき、(イ)、(ロ)、(ハ)の分合計二万三百円、(ニ)の分五千二百八十円、以上合計十二万八千九百八十円となり、被控訴人阪本スエノ、同阪本雄史は夫々日本郵船株式会社株式につき(イ)の分七千二百円、(ロ)の分一万七千四百円、(ハ)の分一万一千四百円、以上各合計三万六千円となり、被控訴人阪本孝美は富士紡績株式会社株式につき(イ)の分一万五千円、(ロ)の分一万五千四百円、以上合計三万四百円となる。

次に配当金相当額の請求についてみるのに、麦酒会社三社を除く以外の株式について、増資新株式に対する分をも含めて昭和二十七年下期以降昭和三十二年下期迄夫々被控訴人等の主張する通り(別紙第一ないし第四目録配当欄記載の通り)利益配当の行われたことは、昭和三十一年下期迄の分については当事者間に争はなく、それ以後の分については控訴会社の明かに争わないところである。

しかして被控訴人等が当初名義書換のため預けた日本郵船株式会社株式千株、日本エタニツトパイプ株式会社株式百株とその後の増資株式二百二十株、竝に帝国製鉄株式会社株式二百株に対する前認定の配当金を控訴会社竝に控訴会社の被承継人朝田証券株式会社が受領していることは控訴会社の認めるところであるが、富士紡績株式会社株式五百株とこれに対する割当増資新株式、日本エタニツト株式会社のその余の増資新株式、帝国製鉄株式会社の増資新株式に対する前認定の配当金を控訴会社が受領したことを認めるに足る何等の証拠はなく、却つて原審での被控訴人阪本俊雄(第二回)の尋問の結果により成立を認める甲第四号証の二、前記甲第十七号証の一、二、同第十八号証によると、右富士紡績株式会社株式五百株は昭和二十七年九月一日四百株を、同年十月二十四日百株を夫々朝田証券株式会社より他人に名義変更されていること、富士紡績株式会社の決算期が毎年四月二十五日と十月二十五日であることが明かであるから、控訴会社竝に朝田証券株式会社は右富士紡績株式会社株式五百株とこれに対する増資新株式に対する配当金を一回も受領していないものと認められる。そして右認定の事実と原審での被控訴人本人阪本俊雄(第二回)の尋問の結果によると被控訴人等は前認定の各配当を一つも受けていないことは明らかであるから、被控訴人等は右受け得なかつた右配当金相当額(但、後記認定の新株の配当金に対する控除額を差引いた残額)の損害を被つているわけであり、そのうち控訴会社竝に朝田証券株式会社の受領した配当金額については、もともと右会社等が右配当金を受領したのは前認定の事実に徴すれば右会社等が被控訴人等から正当に各株式を取得したものでないのに、それらの株式の名義が朝田証券株式会社に書換えられていたからであつて、これはひつきよう控訴会社竝に朝田証券株式会社は法律上の原因なくして配当金相当額を利得したことによつて被控訴人等が夫々右配当金相当額(但前同)の損害を被つたわけであるから、この分は控訴会社は不当利得として被控訴人等に返還すべきであるが、控訴会社竝に朝田証券株式会社が現実に配当を受領していない前認定の分については控訴会社は不当利得として返還する義務はなく、またこの部分の被控訴人等の損害は前認定のように朝田証券株式会社がこれらの株式が一度被控訴人等の名義に書換られたのを被控訴人に返還することを遅滞したがために生じたものではなく、使用人福田正雄の前記認定の不法行為によつて右各株式がその後朝田証券株式会社に名義書換されたため被控訴人等が配当を受けることができず且増資割当が受けえられず勢い増資新株に対する配当をも受けえなかつたことに因るものであるから、朝田証券株式会社の債務不履行を理由とするものではなく右福田正雄の不法行為による被控訴人等の得べかりし利益の喪失による損害であつて、控訴会社は民法第七百十五条により被控訴人等に対してこれを賠償すべきものである。

そこで被控訴人等が控訴会社に対して前記不当利得及び損害賠償として請求しうべき金額を算定する。先ず当初被控訴人等が朝田証券株式会社に対し名義書替のため預けた別紙第一ないし第四目録の委託した株式の銘柄数量欄に記載の株式に対してなされた前認定の配当金額はその額がそのまゝ被控訴人等が夫々控訴会社より返還及び賠償を受くべき金額と言うことができるが、その後右各株式に対し割当増資された増資新株に対する配当金額については、その金額を以つて損害額と言うことをえない。けだし被控訴人等が増資新株式の配当を受けるには新株の引受竝に株金の払込をしなければならないわけであるのに被控訴人等は右各払込をしていないのであるから、被控訴人等が増資新株式の配当を受けえなかつたことによつて被つた損害額は配当金額より被控訴人等が払込をまぬがれこれを他に利用して取得したであろう金額を控除したものと言うべきであつて、その控除すべき金額は各払込金額に対する払込期日から各最終配当の行われた決算期日迄の間の年五分の割合による金額である。そこで右各控除額を各増資新株式についてみるのに、先ず(一)富士紡績株式会社の株式の分についてみると(イ)昭和二十九年二月増資分については、前示甲第四号証の二によると払込期日は同月五日であるが、(ロ)昭和三十一年十月増資分については払込期日を明かにする資料がないから同月一日を払込期日として計算することとし、右会社の決算期は前段に認定した通り毎年四月二十五日と十月二十五日であるから、前認定の最終配当のなされた決算期日は昭和三十二年十月二十五日であり、従つて右(イ)の払込金一株二十五円に対する昭和二十九年二月五日から昭和三十二年十月二十五日迄(ロ)の払込金一株三十五円に対する昭和三十一年十月一日から同三十二年十月二十五日迄夫々年五分の割合を以つて算出した割合の金額であり、(二)日本郵船株式会社の株式については増資新株に対しての配当が行われていないから前記のような控除すべきものはなく、(三)帝国製鉄株式会社株式の分についてみると、昭和三十二年一月増資分は払込期日を明かにしうる資料がないから同月一日を払込期日として計算することとし、成立に争のない甲第十六号証の一によると右会社の決算期日は毎年三月末日と九月末日であるから前認定の最終配当の行われた決算期日は昭和三十二年九月末日であり、従つて払込金一株四十円に対する昭和三十二年一月一日から同年九月三十日迄の年五分の割合を以つて算出した割合の金額となり、(四)、日本エタニツトパイプ株式会社株式の分についてみると、(イ)昭和二十七年八月増資分、(ロ)昭和二十八年六月増資分、(ハ)昭和二十九年八月増資分は原審での被控訴人阪本俊雄(第二回)の尋問の結果により成立を認めうる甲第六号証の二によると、夫々払込期日は(イ)昭和二十七年八月一日、(ロ)昭和二十八年六月一日、(ハ)昭和二十九年八月一日であり且前記甲第十六号証の一によると右会社の決算期日は毎年五月末日と十一月末日であるから前認定の最終配当の行われた決算期日は昭和三十二年十一月三十日であつて、尚同社は前認定の別紙第一目録の配当欄記載のように昭和三十年度及び昭和三十一年度には配当をしていない。従つて(イ)の払込金一株五十円に対する昭和二十七年八月一日から昭和二十九年十一月三十日迄及び昭和三十一年十二月一日から昭和三十二年十一月末日迄(ロ)の払込金一株五十円に対する昭和二十八年六月一日から昭和二十九年十一月三十日迄及び昭和三十一年十二月一日から三十二年十一月三十日迄、(ハ)の払込金一株五十円に対する昭和二十九年八月一日から昭和二十九年十一月三十日迄及び昭和三十一年十二月一日から昭和三十二年十一月三十日迄の各年五分の割合を以つて算出した割合の金額となり、(ニ)昭和三十年二月増資分は無償増資で払込を要しないのであるから、この分については前記のような控除すべきものはない。次にこれを各被控訴人につき別紙第一ないし第四目録の増資欄記載に従い前記計算方法を以つて算出すると、被控訴人阪本俊雄については(一)富士紡績株式会社株式の(イ)につき千三百九十六円(円未満は一円に切上げて計算する、以下同じ)(ロ)につき五百六十一円、(ニ)帝国製鉄株式会社株式につき三百円、(三)日本エタニツトパイプ株式会社株式の(イ)につき八百三十四円、(ロ)につき千二百五十円、(ハ)につき千三百三十四円、以上合計五千六百七十五円となり、被控訴人阪本孝美については富士紡績株式会社株式の(イ)につき九百三十一円、(ロ)につき三百七十四円以上合計千三百五円となる。

以上によつて被控訴人等の控訴会社から不当利得として返還及び損害賠償として受くべき額を計算すると、被控訴人阪本俊雄は別紙第一目録配当欄記載の配当額総額四万九千八百二十一円より前記控除額五千六百七十五円を差引いた四万四千百四十六円であり、被控訴人阪本スエノ、同阪本雄史は別紙第二、第三目録の配当欄記載の配当額各六百円であり、被控訴人阪本孝美は別紙第四目録配当欄記載の配当総額一万九千三百四円より前記控除額千三百五円を差引いた一万七千九百九十九円となる。

次に控訴会社は過失相殺を主張するけれども、叙上認定の事実からすれば被控訴人等に前認定の損害発生について過失があつたと認めることをえないから、控訴会社の右主張は採用しえない。

以上の通りであるから、控訴会社は、一、被控訴人阪本俊雄に対し、(一)(イ)別紙第一目録の銘柄数量欄に記載の(1) ないし(7) の株式を引渡し、(ロ)右株式を引渡すことができないときはこれに代る損害として右株式の前示認定の時価である各一株(1) の株式につき九十三円、(2) の株式につき三十八円、(3) の株式につき四十二円、(4) の株式につき六十九円、(5) の株式につき百六十二円、(6) の株式につき百四十八円、(7) の株式につき百六十八円の割合の金員を支払い、(二)増資新株引受権侵害による損害金十二万八千九百八十円(別紙請求の減縮竝に拡張一覧表中の一、の(2) の当審認容欄記載の金額)及び(三)配当金を受けえなかつたことによる合計四万四千百四十六円(前同一覧表中一、の(3) の当審認容欄記載の金額より控除額を差引いた額)を不当利得の返還及び損害賠償として支払い、二、被控訴人阪本スエノ、同阪本雄史に対し、夫々、(一)、(イ)阪本スエノには別紙第二目録、阪本雄史には同第三目録の各銘柄数量欄に記載の各株式を引渡し、(ロ)右株式を引渡すことができないときは、これに代る損害として右株式の前認定の時価である一株三十八円の割合の金員を支払い、(二)増資新株引受権侵害による損害金三万六千円(別紙請求の減縮竝に拡張一覧表中の二、三の各(2) の当審認容欄記載の金額)及び配当金相当額六百円(前同一覧表中の二、三の各(3) の当審認容欄記載の金額)を不当利得返還として支払い、三、被控訴人阪本孝美に対し、(一)、(イ)別紙第四目録の銘柄数量欄記載の株式を引渡し、(ロ)右株式を引渡すことができないときは、これに代る損害として右株式の前示認定の時価である一株九十三円の割合の金員を支払い、(二)増資新株引受権侵害による損害金三万四百円(別紙請求の減縮竝に拡張一覧表中の四の(2) の当審認容欄記載の金額)、及び(三)配当金を受けえなかつたことによる合計一万七千九百九十九円前同一覧表中四の(3) の当審認容欄記載の金額より前記控除額を差引いた額を損害賠償として支払わねばならないことは明かである。

それ故当審において請求を拡張した部分を除く請求部分については、別紙請求の減縮竝に拡張一覧表記載に明かなように主文(甲)、一、記載の範囲に於て被控訴人等の請求を認容すべきであるが、その余は理由がなく棄却すべきであるから、原判決を右のように変更し、当審に於て請求を拡張した部分については主文(乙)記載の範囲に於て認容すべきであるが、その余は理由がなく棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条第九十六条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 大野美稲 石井末一 喜多勝)

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