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大阪高等裁判所 昭和27年(う)1267号 判決 1952年10月31日

控訴人

被告人 金村勇 外二名

弁護人

山本治雄

権察官

泉政憲関与

主文

原判決を破棄する。

被告人金村勇を懲役一年に処する。

被告人畑中せつ子、同桐村正、同永尾誠之輔、同柄谷重治、同喜多享を各懲役八月に処する。

被告人豊田正義、同西川保、同西伸可、同仲江敏彰、同福田弘、同島千枝を各懲役六月に処する。

押収に係る「警官の友」一部(昭和二十六年原審裁領第五九一号)はこれを被告人柄谷重治から没収する。

原審の訴訟費用中証人天野岩雄、同村上兵作、同矢島可薫に支給した分は全部被告人桐村正、同畑中せつ子の連帯負担とし、証人蔦谷艶子、同井藤千鶴子、同宮本治三郎、同酒井邦夫に支給した分は全部被告人金村勇、同桐村正、同畑中せつ子の連帯負担とし、証人三谷公義、同岡本昇、同平井忠温に支給した分は全部被告桐谷重治の負担とし、その分及び当審に於ける訴訟費用は全部被告人全員の連帯負担とする。

理由

(前略)

本件控訴の理由は各被告人の控訴につき記録添附の弁護人山本治雄、被告人仲江敏彰名義の各控訴趣意書、原審検事の控訴につき、記録添附の大阪地方検察庁検事藤田太郎名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、それぞれこれを引用する。而してこれに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

弁護人の論旨第一点の一について。

所論の所謂レツドパージが不当のものであつたとしても、原判決第一の一事実として示す如く、被告人等が判示会社の承諾を得ないでその意に反し判示の如き実力行使の目的を以て同本社屋内に侵入した以上、これ故なく人の看守する建造物に侵入した者に該当し、被解雇者たる被告人豊田正義及び島千枝の所為は勿論その他の被告人の所為も建造物侵入罪を構成すること明らかで、正当行為としてこれを是認する理由はない。然らば原判決には法の解釈適用を誤つた不法はないから、本論旨は理由がない。

同論旨第一点の二について。

しかし原判決摘示第一の四の事実はその挙示する証拠によりてこれを認め得べく、前段説示のとおり、被告人等の所為が建造物侵入罪を構成する以上これを逮捕せんとした警察官の行為は正当なる職務執行行為であるから、これに対し暴行を加へ負傷せしめた被告人等の所為は公務執行妨害罪を傷害罪構成すること洵に明らかである。その他記録に徴するも原判決の事実認定特に被告人等の共謀の点に於て誤認ありと疑うべき資料はないから、本論旨も理由がない。

同論旨第一点の三について。

本論旨は被告人柄谷について原判決摘示事実第二の点は無罪又は免訴が相当であると謂うだけであつて、その具体的な理由の説明もなく、必要な疏明資料も保証書も添附していないのであるから、適法な控訴理由として採用する限りでない。

被告人仲江敏彰の論旨について。

しかし、同被告人に対する原判決摘示事実はその挙示する証拠によりて優にこれを認定することができ、記録に徴するも原判決に事実の誤認も擬律の錯誤もないから本論旨は理由がない。

検事藤田太郎の論旨について。

記録を精査し、所論を考慮しながら案ずるに、原判決の科刑が軽きに失する不当ありと論旨第一乃至第三に於て主張する事実は洵にその通りである。

即ち被告人等は被告人豊田正義、同島千枝に対する所謂レツドパージが仮りに不法なりとすれば、他に採るべき合法な手段が残されているに拘らず、これを選ばないで、敢て外部の者も加担して互いに通謀し、暴力を用いて不法行為を敢行し、経営者を威圧し我意を貫徹せんとするが如きは、法律の維持を強く要請せらるる法治国社会に於ては許されない悪質犯であり、且自己の非行は棚にあげ、逮捕に来た警察官に対し、足蹴にしたり、木片で殴りつけたり、殊に点火した花火を投げつけるに至つては時にその被害の大なることあるべく最も危険なる行為であつてその犯情の軽視できないものがある。又社内報導の中枢を為す電話室に到り無断にて虚偽の社内放送を為し多くの社員を欺罔して職務を抛棄せしむる行為、更に電話設備を破壊してその機能を麻痺せしむるが如き行為は、現代の文化的機械企業形態の総合活動を危殆に陥れるもので甚だ害毒多き所為と謂はなければならない。而かも以上の所為はそれぞれ通謀計画的になされ、犯行後も改悛の情の見るべきもののないこと、その他各般の情状を斟酌すれば、被告人等に対し刑の執行猶予の言渡をした原判決の科刑は甚だ失当なものと謂はなければならない。

依て検事控訴は理由があるから、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条により原判決を破棄する。(以下省略)

(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衛)

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