大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和26年(う)193号 判決 1951年9月05日

控訴人 被告人 参河重三 岩井政吉

弁護人 十川寛之助 河合与

検察官 舟田誠一郎 関与

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

当審において、国選弁護人中山福蔵に支給した費用は、被告人参河重三の負担とする。

理由

被告人岩井政吉の弁護人河合与、同十川寛之助の控訴趣意第一点について。

本件起訴状を調べてみると、その(三)罪名及び罰条の条において「贓物牙保」を「贓物故買」と訂正し、その上部欄外に「削一字加一字」と記載してあつて、加削字数とその加削の記載とが一致していないことは所論のとおりであるが、その記載自体からも右「削一字加一字」とあるのは「削二字加二字」の誤記であるを一見容易に知り得るばかりでなく、これを起訴状における公訴事実第二の内容と対比すれば、そのことが益々明らかであるから、右欄外の記載だけに拘つて罪名の記載が不明であると非難する論旨は採用し難い。

第二点について。

原判決によると、原判決が認定したのは、被告人参河重三及び原審相被告人加茂貞子に係る原判示第一と、被告人岩井政吉に係る同第二との二事実であり、その理由中に証拠として一、アーネスト、ダブリュー、リー作成に係る証明書並目録謄本一、証人近藤作太、加茂カヲル(カオルは誤記)の当公廷に於ける供述一、加茂カヲルに対する検察官の第一、二回供述調書一、被告人等の当公廷に於ける供述一、被告人等に対する検察官の第一、二回供述調書と各証拠の標目を一括して示していることは所論のとおりであつて、その標目だけからは、どの証拠によつてどの事実を認定したのかが判明しないけれども、記録について各証拠の内容を判示事実と対照検討すれば容易にこれを知ることができるのであつて、これは刑事訴訟法第三百三十五号に違反するものではないから(最高裁判所昭和二十五年九月十九日第三小法廷判決参照、この論旨は理由がない。

第三点は撤回。

第四点について。

原審第一回公判調書を調べてみると、検察官の起訴状の朗読に続いて裁判官は被告人等に刑事訴訟法第二百九十一条第二項刑事訴訟規則第百九十七条第一項所定の事項を告げ、次いで被告人及び弁護人及び弁護人は順次被告事件について陳述し、証拠調に入る直前において、検察官及び裁判官からそれぞれ被告人加茂貞子の供述を求めたこと、同被告人から本件犯行前における払下品の有無、本件毛布の外観等に関する供述をしたことが明らかであるが、審理のこの段階において、裁判官又は検察官が裁判官に告げて被告人に対しこの程度の供述を求めることは直ちに違法であるとは断定し得ないところであると解するのが相当であるから(最高裁判所昭和二十五年十二月二十日大法廷判決参照)、この論旨も理由がない。

第五点について。

しかし、裁判所法第七十四条は、訴訟関係人の訴訟に関して用いる用語、たとえば法廷における口頭陳述、訴訟関係において作成する書面等における用語についての規定であるが、日本語でない文字による文書を証拠とすること自体を制限する趣旨ではない。そして日本語でない文字による文書を証拠とするばあいには、その文書自体が証拠であつて、本件における所論謄本に添付された翻訳も、翻訳それ自体が証拠となるわけではない(原審において日本語の翻訳を朗読したのは証拠調実施の方法にすぎないのである)から、原審が所論アーネスト、ダブリュー、リー作成に係る証明書謄本を証拠として挙示し、その翻訳を証拠としなかつたのは当然であつて、この場合翻訳部分を挙示しない原判決は理由不備であるとする論旨も採用し難い。

第六点について。

論旨は、まず原審は証拠としてアーネスト、ダブリユー、リー作成に係る証明書並目録謄本を挙示しているが、同証明書謄本と目録謄本とは各独立した二個の書面であるところ原審公判調書中には後者について証拠調の請求と取調に関して何等記載が存しないと主張する。しかし、右証明書謄本をみると、原判決が目録謄本と表示した証Aを含むと記載してあり、証Aの謄本の記載内容がすべて右証明書謄本に引用されていて証Aの謄本を除外しては右証明書謄本の内容を明らかにすることができない関係にあるし、右証明書謄本には、原本作成者アーネスト、ダブリュー、リーの署名があるのに、右証Aの謄本には原本作成者の署名のないことからも、右証Aの謄本は右証明書謄本と本来一体の関係にあるものと解すべきである。原審公判調書に「証明書謄本(飜訳付)」とあるのは、もとより所論目録謄本をも含む趣旨であること疑ないところである。

次に論旨は、右証明書謄本は証拠物であるのに原審はこれを示さないで朗読の方法だけで証拠調をした違法があると主張する。

しかし右は一九五〇年四月中関目倉庫を調査した結果目録の一乃至十八の物品が紛失していることが判明した旨を証明したものの謄本であつて、本件贓物故買被告事件については刑事訴訟法第三百五条にいわゆる証拠書類にあたるものと解するを相当とする。

そうすると、原審が右謄本の証拠調をするについて単に朗読の方法によつただけでこれを示さなかつたのは当然であつて、法令違反の本論旨は理由がないというべきである。

第七点について。

しかし、原審第三回公判調書を調べてみると、弁護人の弁論終了後被告人等は最終陳述の機会を与えられ、それぞれ陳述したことが明らかであるから、その後に裁判官が被告人等に対して、各その家庭、収入、教育等情状についての供述を求めたからといつて、その後に更に最終陳述の機会を与えなければならないものではないから、この論旨も理由がない。

第八点、第九点及び被告人参河重三の控訴趣意について。

原判示事実中被告人等の知情の点は、原審挙示の証拠、就中被告人参河重三の検察官に対する第一、二回供述調書、被告人岩井政吉の検察官に対する第一回供述調書の各記載によつて、これを認めるに十分であつて、原審公判調書中被告人等のこの点に関する各供述記載は、右証拠に照して信用し難く、その他訴訟記録を精査してもこの点について原判決に事実の誤認を疑うに足るものはないから、この論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条に従い主文のとおり判決をする。

(裁判長判事 荻野益三郎 判事 佐藤重臣 判事 梶田幸治)

被告人岩井政吉の弁護人十川寛之助同河合与の控訴趣意第五点

原判決は証拠として、アーネスト、ダブリュー、リー作成に係る証明書並目録謄本を示している。原審第一回公判調書によると検察官は公訴事実立証の為めCIPアーネスト大佐作成の証明書謄本(翻訳付)一通を提出し、この書証を朗読したとの記載がある。裁判所では日本語を用いる(裁判所法第七四条)のであるから検察官が朗読したのは英文の右証明書謄本そのものではなく、その翻訳の部分であろう。しからばこの証明書謄本とその飜訳とは一体不可分となつているものであり、またこれを一体としてでなければ証拠とすることを得ないものである。すでに検察官はこの証明書謄本を飜訳付にて証拠として提出しこの飜訳の部分を朗読していること前記の如くであるに拘らず原審はこの不可分な翻訳の部分を除き去り単に右英文の証明書謄本のみを罪証に供したことは採証の法則に反する措置であり、この証拠を罪証に供したのは結局理由不備の違法となり刑訴法第三七八条四号に当ることに帰着する。この点からも破棄すべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例