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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3289号 判決 1950年2月28日

被告人

玉山善三こと

金錫準

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

原審の未決勾留日数中八十日を右本刑に算入する。

但し参年間右刑の執行を猶予する。

理由

弁護人下瀨芳太郞の控訴趣意第一点について

(イ)  記録を調査すると被告人は昭和二十四年二月十一日頃から米軍第八部隊のモータープールに特殊自動車運転手として雇われていたことは所論の通りであるが、被告人は同部隊のダン軍曹にたのまれ同部隊所属の本件ガソリンを売却する目的で所持していたというのであるから、正当な業務行為とは認め得ないし、かような目的はその所持を不法ならしめるものであつて、違法な命令に服従すべき義務はないから、所論のようにダン軍曹の命令に従つたと云う理由でその責任を免れることはできない。このことは原判決においてもその判断を示しているから所論のような判断違脱の非難は当らない。

(ロ)  刑事訴訟法第三百十二条によれば、裁判所は検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない程度で、起訴状に記載された訴因、罰条の追加、撤囘、変更を許さなければならないし、裁判所は審理の経過に鑑み適当とみとめるときは、訴因、罰条の追加、変更を命じることができる(第一項、第二項)となつている。この規定の趣意にかんがみるときはそれまでに公判手続において取調べられた証拠はそのまま事実認定の資料となるものと解せられる。従つて更にあらためて、証拠調を必要とすると云う所論は採用することはできない。論旨は何れも理由がない。

(弁護人下瀨芳太郞の控訴趣意第一点)

(一)  本件は無罪の言渡あるべき事案であること被告人が昭和二十四年六月十二日頃と同月十七日頃の二囘奈良市尼ケ辻町在米軍第八部隊の特殊自動車運転手としてドラム罐入ガソリン三罐を二囘に右部隊のモータープールから奈良市時塚町、松田産業株式会社まで運搬した事実はあるが被告人は同部隊に運転手として雇われ同プールの全責任者であるダン軍曹の命令により独り本件の場合に限らず平素ドラム罐入ガソリンを部隊外に運び出し時には自動車修理用諸道具購入の費用に充てるため之を売却してその代金を同軍曹に渡していたことのあるのは記録に徴し明らかなところである。従つて被告人が判示日時にガソリンを搬出したからとて本人としては平素の行為を反覆した丈で特にその日に限り不法に所持する認識など毛頭ありません、即ちダン軍曹の命令で自己の当然の職務行為として搬出した丈であるから仮令ガソリンを売却したとて罪に問われる筋合のものではない。職務行為として見ても又犯意のない点から見ても本件は無罪たるべきものと信じています。

(二)  ダン軍曹はモータープールに於ける人事の実権把握者であり全責任者でもありこの人が門衞と連絡をとつた上ガソリンを搬出させたのであるから仮りに百歩を讓り本件が有罪としても被告人は平素から同種行為を反覆していたこと、軍曹の立場被告人が命令服従の関係にあつて軍曹の命令を拒否し得ぬ立場その他諸般の事情から見て斯様な場合被告人としてはその違法性を阻却するに足る正当な理由があると云わねばなりません、この点からも本件は無罪だと思います。

(三)  原判決には弁護人の違法でないとの主張に対する判断はしてあるが(尤も原審公判調書にはこの主張の記載はない)弁護人が原審公判廷でなした違法阻却の抗弁(原審公判調書に弁護人がこの主張をした旨の記載はある)に対する判断を遺脱してあります、これは明らかに判決に影響を及ぼす法令の違反と信じます。

(四)  本件は最初賍物牙保罪で起訴せられ後に連合軍物資不法所持罪が追加せられたことは記録上明らかであります。

この訴因追加請求のなされた公判調書を見ると追加せられた訴因の証拠調として前公判廷に提出せられた証拠を本訴因追加の証拠として全部援用したと述べてあるだけでその他に何等証拠調はしていない。

刑事訴訟法第三百十二条には同一性を害しない限り訴因の追加変更を許しているからこの場合前囘迄の証拠を援用し得る旨の特段の規定はない、従つてこの場合にも証拠に関する同法第三百十七条以下の規定に従い証拠調をする必要があつて援用というが如き瞹眛な方法は許さぬものと解すべきである。

此の点からも原判決は証拠調をしていない証拠を断罪の資料に供した違法があると思います。

(註、本件は量刑不当にて破棄自判)

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