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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)255号 判決 1999年9月30日

控訴人

信用組合大阪弘容

右代表者代表理事

石橋幸男

右訴訟代理人弁護士

宅島康二

被控訴人

日本火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

廣瀬淸

右訴訟代理人弁護士

岡村泰郎

濵岡峰也

堀内康徳

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、金二三六九万五〇〇〇円及びこれに対する平成八年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決の第一項1は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、三〇〇〇万円及びこれに対する平成八年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二 請求原因」から「第四 被告主張に対する原告の反論」までに記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決書三枚目表八行目の末尾に続けて「その当時の右建物(以下「本件建物」という。)の価額は保険金額以上であり、仮にそうでないとしても二三六九万五〇〇〇円を下回らない。」を、同枚目裏五行目の末尾に続けて「ただし、保険価額の点は争う。」を、同四枚目表一行目の末尾に続けて「亡甲野はジョセフが破産しても代表取締役の地位を失うものではない。」をそれぞれ加え、三行目の「保険契約」を「保険契約者」に改め、一〇行目の「亡甲野は」の次に「既にジョセフの取締役の地位を失っており」を加える。

第三  証拠関係

原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因一ないし四は当事者間に争いがなく、同五は甲四号証と弁論の全趣旨により認めることができる。同六及び七のうち保険価額を除く部分は当事者間に争いがない。同八のうち、控訴人が平成八年二月二八日被控訴人に対し質権に基づいて本件保険契約による保険金三〇〇〇万円を請求したことは当事者間に争いがなく、甲二号証の一・二、四号証、七号証と弁論の全趣旨によると、控訴人は当時ジョセフに対し四億〇七一六万四六一五円の貸金残元本債権を有していたことを認めることができる。また、亡甲野がジョセフの破産宣告前代表取締役であったことは当事者間に争いがない。そして、乙一号証及び四号証の一ないし一一と弁論の全趣旨によると、本件火災は亡甲野の放火によるものであること及び本件火災保険普通保険約款には、「保険契約者、被保険者またはこれらの者の法定代理人(保険契約者または被保険者が法人であるときは、その理事、取締役または法人の業務を執行するその他の機関)の故意もしくは重大な過失または法令違反」によって生じた損害に対しては、保険金等を支払わない旨の規定(二条(1)。以下「保険免責条項」という。)があることを認めることができる。

二  そうすると、本件火災保険契約は、有限会社であるジョセフがその所有する本件建物を保険の目的としてジョセフに対する破産宣告がされる前に締結したものであるところ、破産宣告後で破産手続終了前に、ジョセフの代表取締役であった亡甲野の放火により焼失したという関係になる。そして、被控訴人は、亡甲野はジョセフの取締役(代表取締役)であるから、本件免責条項により、保険金支払義務を負わないと主張する。

そこで検討するに、判例(最判昭和四三年三月一五日・民集二二巻三号六二五頁)に示された見解によると、会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従うべきところ、民法六五三条によれば、委任は委任者または受任者の破産によって終了するのであるから、取締役は会社の破産により当然取締役の地位を失うことになる。そして、本件免責条項の文言は前記のとおりであるから、このように取締役を退任した亡甲野は、形式的な意味で右約款の規定する取締役に該当しない。しかし、会社の破産によっても取締役は当然には退任しない、あるいは退任するとしても破産手続上あるいはそれに関連する商法等の規定により破産者または取締役がすべきものと定められている限られた事項(破産法一一二条、二三二条一項、二四一条一項、二九〇条、商法三八三条等)については、その限度で、従前の取締役が、改選されない限りそのまま会社の機関を構成し取締役としての地位を保持すると解する見解等も有力に表明されているところである。そして、本件の問題は、結局のところ、本件免責条項が破産宣告前の取締役の故意により生じた損害にも免責を認める趣旨のものであるかどうかというところにあり、必ずしも会社の破産と取締役の地位の消長に関する問題と完全に連動すべきものではなく、かえって、右約款の趣旨ないし右約款により保険契約を締結した当事者の意思解釈の問題でもある。そこで、このような観点から更に検討すると、本件免責条項は、商法六四一条の規定を補完する趣旨の規定と解されるところ、その実質的根拠は、保険契約者または被保険者あるいはこれらの者の法定代理人は、自らの意思で保険契約の締結、変更あるいは終了に関わり、または通常被保険物を所有管理し保険の利益を受ける立場にあるから、これらの者が自ら重く非難されるべき行為で保険事故を招致した場合にまで損害のてん補を認めると、保険契約当事者間の信義則あるいは公序良俗に反することになり、また、保険金目当ての事故を誘発するおそれがあって適当ではないということ等にあると考えられる。そして、保険契約者または被保険者が会社の場合には、取締役は会社の意思決定に自ら関わり、または業務執行に関わり、あるいは少なくともこれを監視し、更にはこれらを通じて保険の目的の維持管理(いわゆる危険管理を含む。)に関わり、通常は保険の利益を受けるとも考えられる点で、保険契約者、被保険者またはその法定代理人とほとんど同視できる立場にあるから、取締役が招致した損害について一定の限度で免責されるものとすることに合理的理由がないとはいえない。したがって、本件免責条項では、免責の対象となる損害を発生させた取締役が右のように保険契約関係に関わり得る者であり、あるいは保険の目的を維持管理すべき立場にあり、保険の利益を受ける者であることが基本的な前提とされていると解することができる。取締役が「法人の業務を執行する‥機関」の例示として規定されていることもこのことを裏付けるものである。ところが、会社は破産により解散し、その法人格は破産による清算の枠内で存続するに過ぎないことになるのであり、会社は本来の業務を遂行することができなくなる。また、会社財産は破産財団に組み込まれその管理処分権は破産管財人に専属することになる。したがって、従前の取締役は、会社の破産により当然退任すると解する場合はもとより、前記のような限られた限度で取締役の地位を保持すると解する場合にも、会社本来の業務の執行に関わり、あるいは会社財産の維持管理ないし処分に関わる余地はなくなる。本件保険のような場合の保険契約関係に容喙することもできない(破産法五九条により処理されることになり、破産管財人が解除を選択した場合には、保険者から支払われる清算金等は破産財産を構成する財産になるであろう。なお、本件保険契約は保険料が一括払いでしかも保険金債権に質権が設定されていたため解除されずに本件火災当時まで存続していたものと推認される。)。そうすると、従前の取締役は、会社の破産によっても当然にはその地位を失わないと解するとしても、本件免責条項が前提とする前記のような取締役とはその性格が著しく異なるものになるとともに、取締役という言葉で普通に理解される立場の者とも著しく異なるものになるのであるから、保険契約の当事者の意思は、このような従前の取締役は、本件免責条項に規定する取締役には該当しないとするところにあると認めるのが相当である。このように解しても本件免責条項の前記趣旨が没却されるものとはいえない。したがって、被控訴人の前記主張は採用することができない。もっとも、従前の取締役についても、破産債権者等にできるだけ多くの弁済をしたいと望む状況には変わりがないという面もあり、放火等の保険事故を誘発するおそれがあり、この点は被控訴人も強調するところである。しかし、保険契約関係に利害を持つ者がいる状況は右のような場合のほかにも様々に想定できるのであるから、本件免責条項の解釈について右のような観点を重視することは相当でない。また、被控訴人は、亡甲野は破産宣告後も本件建物を事実上管理していたという趣旨の主張をするが、その詳細を認めるに足りる証拠はないし、このような事実があったとしても前記認定判断を覆すことはできないというべきである。

三  甲一〇号証によると、大阪地方裁判所平成五年(ケ)第二〇八八号における評価人は、平成六年三月二六日の調査に基づき本件建物の価額を二三六九万五〇〇〇円と評価していることを認めることができる。被控訴人は、本件建物には他人所有の隣接建物がその一部となっていると主張するところ、乙四号証の六にはそのようにうかがえる記載もあるが、甲一〇号証によると前記評価は隣接建物を含まず本件建物だけについてされているものであることを認めることができるから、右主張は採用することはできない。したがって、本件火災当時の本件建物の価額は二三六九万五〇〇〇円と認めるのが相当である。なお、甲一〇号証によると、本件建物の二階には増築部分37.96平方メートルがあることを認めることができるが、右増築の経緯は明らかでなく、これが保険金支払義務に影響を与えるものであることについては主張立証されていない。

四  以上によると、控訴人の本訴請求は、保険金二三六九万五〇〇〇円及びこれに対する平成八年三月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきである。よって、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法六七条、六一条、六四条を、仮執行の宣言について同法三一〇条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤英継 裁判官 伊東正彦 裁判官 大塚正之)

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