大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成8年(行コ)45号 判決 1997年7月25日

浦和市常磐町二丁目七七番地

控訴人

(宗教法人)大観心道

右代表者代表役員

太田法龍

右訴訟代理人弁護士

竹田実

阿部篤

祖谷謙一

大阪市平野区平野西二丁目二番二号

被控訴人

東住吉税務署長 清水孝記

右指定代理人

関述之

高木良明

加藤英二郎

檜原一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴人の求めた裁判

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が、平成五年四月一五日付で控訴人の平成元年九月分及び平成三年一月から六月までの分の給与所得の源泉所得税についてなした納税告知及び重加算税の賦課決定の各処分のうち、国税不服審判所長が平成六年一二月六日付裁決書によりなした一部取消部分を除く、その余の全部を取り消す。

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」(原判決三頁五行目から七頁末行まで)の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決五頁八行目を「(以下右(一)ないし(三)の銀行取引を総称して『本件預金取引』といい、個別には『本件預金取引(一)』などという。)。」と改める。

二  当審における控訴人の主張

1  まず、控訴人名義の預金は控訴人大観心道の会員(信者)からの寄付金で形成されたもので、控訴人の代表者である法龍あるいは扶美が勝手に引き出すことは明らかに横領である。

また、本件預金取引(控訴人名義の口座から出金され、法龍名義の口座へ入金された)に関して、<1>法龍名義の口座を開設し、<2>控訴人名義の口座から出金し、<3>法龍名義の口座に入金した者は、すべて法龍の妻であった扶美であって、法龍は右各行為に関与しておらず、そのようなことがなされていることも知らなかった。また、本件土地建物の取得、本件融資申込み及び融資金の一部弁済などを実際に行ったのは扶美であり、かつこの行為は法龍の意思に基づくものではない。

2  実質所得者課税の原則についていえば、本件で実質的な所得者は扶美であり、扶美が自らの利益を求めて行動したが失敗したのである。法龍名義の本件土地建物は差し押さえられ、競売の申立てがされており、法龍に「実質的な所得」は何もない。

3  本件において重加算税を課すには控訴人が事実を隠蔽ないし仮装したことが必要であるところ、控訴人代表者法龍は本件預金取引を全く知らなかったのであるから、事実を隠蔽ないし仮装をしようにもできる筈がない。加えて、帳簿類も扶美が持ち出していたから、控訴人としては事情を全く把握できていなかった。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は控訴人の当審における主張について次のとおり付加するほかは原判決事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」(原判決八頁二行目から一五頁二行目まで)の説示のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人は、控訴人名義の預金は控訴人大観心道の会員(信者)からの寄付金で形成されたものであるから、法龍ないし扶美が勝手にそれを引き出すことは不法行為であり、本件預金取引は無効であるかのような主張をする。

しかしながら、その原因が私法上無効な行為による所得であっても、所得が現実に法龍に帰属している以上、その所得は課税の対象になるというべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。

2  次に、控訴人は、法龍名義の口座を開設し、控訴人名義の口座から出金して法龍名義の口座へ入金したのは扶美であり、控訴人代表者である法龍は扶美の行為を全く知らなかったと主張し、右主張を裏付ける証拠として、控訴人代表者の供述及び同人作成の陳述書(甲二)を援用する。

しかしながら、右のような個々の行為を実際に行ったのが誰であるかは問題ではなく、そのような行為が名義人の意思に基づいて行われたと言えるか否かが問題であって、たとえ法龍自身が銀行の担当者との間で右のような行為をしたのではなくても、そのことから直ちに本件預金取引が法龍の意思に基づかないものといえるものでないことはいうまでもない。

そして、本件土地建物は本件預金取引により預けられた定期預金を担保としてなされた本件融資によって法龍名義で取得されたものであり、本件土地の売買契約書、本件建物の建築工事請負契約書や本件土地の取得資金に充当する本件融資の申込書には法龍自身が署名しているなどの右引用の原判決の認定事実からすれば、本件土地建物の取得及びそのための本件預金取引は、法龍の意思に基づいてなされたものと推認することができるのであって、これに反する法龍の供述あるいは陳述書は信用できず、他に控訴人主張の事実にそう証拠はない。

3  実質所得者課税の原則に関する控訴人の主張には、法龍が単なる名義人にすぎないとする点において右説示のとおり既にその前提が誤っており、採用できない。

なお付言するに、控訴人は、法龍名義の本件土地建物は既に差し押さえられているから法龍に「実質的な所得はない」とも主張するが、本件土地建物が法龍の取得後に差し押さえられ、競売されて法龍の財産でなくなったとしても、差押え以前は所有者である法龍が自由に処分しあるいは使用収益できたのであるから、法龍に実質的な所得はないとの主張は採用できない。

4  重加算税に関する控訴人の主張についても、法龍が関与していないとする点において前判示のとおり既にその前提が誤っており、採用できない。

なお付言するに、仮に全ての行為は扶美が行ったもので、納税者である控訴人の代表者法龍自身は四二〇〇万円の支給につき隠蔽ないし仮装の事実を知らなかったとしても、国税通則法六八条の重加算税は刑罰ではなく税の一種であることからすれば、納税者と同一視し得るような関係者の行為も納税者本人の行為として重加算税賦課の対象になるというべきところ、控訴人の主張及び原審における控訴人代表者法龍の供述によれば、扶美は控訴人の代表者法龍の妻で、控訴人の責任役員でもあり、控訴人の代表者印を保有管理し、布教、儀式以外の、控訴人の経理一切や業務活動のほとんどを取り仕切っていたというのであるから、扶美のなした隠蔽ないし仮装につき控訴人に重加算税を課すことに違法な点はないというべきである。

二  よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岨野悌介 裁判官 古川行男 裁判官 杉本正樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例