大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成8年(ラ)1051号 決定 1997年2月21日

《住所略》

抗告人

株式会社岡田組

右代表者代表取締役

岡田英二郎

右代理人弁護士

中田祐児

《住所略》

相手方

中村勤

《住所略》

相手方

上田正行

《住所略》

相手方

山田勝男

《住所略》

相手方

宇田耕治

右4名代理人弁護士

島武男

畑良武

佐野正幸

堀井昌弘

上田憲

奥岡眞人

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

第一  抗告人の即時抗告の趣旨及び理由

抗告人の即時抗告の趣旨及び理由は、抗告人の別紙抗告状及び平成8年12月17日付け、平成9年2月12日付け各準備書面(各写し)記載のとおりである。

第二  相手方らの反論

相手方らの反論は、相手方らの別紙反論書(写し)記載のとおりである。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、抗告人に対し、原決定主文記載のとおり、担保の提供を命ずるのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり抗告人の主張に対する判断を付加するほか、原決定理由四 当裁判所の判断(原決定10頁6行目から同19頁4行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

二  抗告人は、本案訴訟の提起が、商法267条6項で準用する同法106条2項にいう「悪意に出た」ことの疎明がないと主張する。

しかし、前記認定の事実を総合考慮すると、抗告人は、本件会社の取締役である相手方らの責任を追及して、本件会社の損害を回復することによって、本件会社の株主全体の正当な利益を守るために、株主権を行使するというのではなく、むしろ、本件会社により、抗告人が本件工事の瑕疵についての責任を追及されて損害賠償の請求をされ、抗告人の系列会社が本件レストランの経営委託契約の更新を拒絶され、また、抗告人の代表取締役の甲野が本件ゴルフ場のキャプテンに再任されなかったことなど、抗告人と本件会社との一連の紛争を契機とした本件会社及びその経営者らに対する強い悪感情に基づき、専ら本件会社の取締役である相手方らを困惑させる目的で、本案訴訟を提起したことが推認できるのであって、このように、株主代表訴訟が、その本来の制度目的以外の目的のために濫用されたと認められる場合には、本案訴訟における抗告人の請求が明らかに理由がなく、抗告人がそのことを知って訴えを提起したものとまで認定できなくても、訴えの提起が右の「悪意に出た」というのに妨げがないというべきである。

三  よって、原決定は相当であって、抗告人の本件即時抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 奥田孝 裁判官 小野木等)

●抗告状(平成8年11月25日付)

抗告状

《住所略》

抗告人 株式会社岡田組

右代表者代表取締役 岡田英二郎

《住所略》

抗告人代理人弁護士 中田祐児

《住所略》

相手方 中村勤

《住所略》

相手方 上田正行

《住所略》

相手方 山田勝男

《住所略》

相手方 宇田耕治

担保提供申立認容決定に対する即時抗告申立事件

右当事者間の大阪地方裁判所平成7年(モ)第7125号担保提供命令申立事件(基本事件・同裁判所平成7年(ワ)第9084号株主代表訴訟事件)について、同裁判所が抗告人に対し平成8年11月15日に行なった相手方中村勤外2名に各1000万円、同宇田耕治に500万円の担保提供を行なうべき旨の決定(抗告人への送達日同年同月20日)には不服があるので、即時抗告を申し立てる。

抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、本件担保提供の申立を却下する。

旨の裁判を求める。

抗告の理由

一、32億円余の本件貸付金については、その大半が広島市可部町の土地を購入後の平成4年1月1日以降に出捐されたものであり、その使途が明らかでないものであるばかりか、貸付先である申立外中村企画には右の如き巨額の貸付金を返済できる見込みもなかったものであるのに、相手方らは担保も徴求しないで右貸付を行なっているのである。

のみならず、広島市可部町の土地には所有権取得できていない部分が数多く存在し、これが工業、物流団地等として造成できる見込みはなく、かつ、そのための開発許可等も得られていないのであるから、相手方らの主張する如き貸付金の返済ができるとも思われないのである。

そればかりか、申立外中村企画から同四国総合開発への利息の支払いもなく、かえって同中村企画の資金繰りが逼迫しているために、同四国総合開発からの貸付金が増大しているのが実情なのである。

二、徳島県名西郡神山町所在の山林については、申立外四国総合開発がその所有権を取得し、これに40億円もの巨費を投じてゴルフ場として造成したものであるのに、平成元年2月1日これをわずか4億8000万円という低額で申立外中村企画に譲渡したものである。

右土地を申立外中村企画に譲渡しなければならない理由は全くなく、また右譲渡後平成元年8月11日同社を債務者として同太陽神戸銀行(現さくら銀行)が20億円の根抵当権、平成4年7月30日同四国総合開発を債務者として9億円の根抵当権を各設定している事実からしても、4億8000万円という低額での譲渡に何らの合理性がないことは明らかである。

三、原決定は、前記一の貸付金及び前記二の低額譲渡のいずれについても、相手方らの忠実義務違反の認められる見込みが少ないものと判断して抗告人に対し合計3500万円もの担保提供を命じたものである。

しかしながら、右に述べた如く、前記巨額貸付金の使途が不明であること、これが一体何に使われたものであるか抗告人において再三釈明を求めたのに相手方らはこれに応じていないこと、申立外中村企画にはこれらを返済する見込みがないばかりか、同四国総合開発からの貸付金がその後も増大している事情があること、利息の支払いが一切ないこと、また、徳島県名西郡神山町所在の土地の譲渡については、これを譲渡しなければならない必要性がないこと、その価格が異常に低額であること等を考え合わせるならば、相手方らの忠実義務違反の事実は明らかであり、抗告人に勝訴の見込みが少ないとして担保提供を命じた原決定は判断を誤るものとして取消しを免れないものというべきであるので、本件即時抗告に及んだものである。

尚、抗告人の主張の詳細については、追って準備書面で明らかにする。

添付書類

一、訴訟委任状 1通

二、資格証明書 1通

平成8年11月25日

抗告人代理人弁護士 中田祐児

大阪高等裁判所

御中

●抗告人側準備書面(平成8年12月17日付)

準備書面

抗告人 株式会社岡田組

相手方 中村勤 外3名

右当事者間の御庁平成8年(ラ)第1051号担保提供申立認容に対する即時抗告申立事件について、抗告人は次のとおり弁論を準備します。

平成8年12月17日

抗告人代理人

弁護士 中田祐児

大阪高等裁判所

御中

一、本件紛争の争点について

本件の本案訴訟(大阪地方裁判所平成7年(ワ)第9084号株主代表訴訟事件)は、

1、相手方らが共通して代表取締役、取締役を勤める申立外四国総合開発が、同中村企画に対し、使途も明らかではなく、かつ、担保も徴求せず、さらに返済される見込がないにもかかわらず、別紙一覧表(1)記載のとおり、平成3年6月3日から平成5年9月30日までの間に、32億3839万9159円もの巨額の貸付を行ない、このうち27億2239万9157円について利息も支払われず、回収の見込みもない状態にさせたこと、

2、申立外四国総合開発が所有していた徳島フォレストゴルフ倶楽部の敷地である別紙一覧表(2)記載の徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻24番6外61筆の土地について、これらが少なくとも33億8000万円の価値があるのに、平成元年2月1日わずか4億8000万円で同中村企画に譲渡し、29億円もの損害を与えたこと、

に関して相手方らが申立外四国総合開発の取締役として商法266条1項に違反することを理由として損害賠償請求を行なっているものである。

二、原決定の判断

ところが、原決定は

1、前記1の抗告人の主張について、

「本件会社(申立外四国総合開発)は、中村企画に対し、平成7年9月30日現在、31億円余の貸金債権を有していること、右貸付けについては、本件会社のための担保設定がないこと、中村企画は、第14期営業年度(平成6年4月1日から平成7年3月31日まで)において、経常損失1億7410万円余、当期損失1億7677万円余、当期未処理損失9億5524万円余を計上したことが認められる」

として一部抗告人の主張を認めながらも、他方、

「本件会社は、昭和63年9月19日、取締役会において、中村企画に対する貸付けについて、40億円を限度として承認する旨の決議をしたこと、中村企画は、広島市可部町所在の土地約25万坪(なお、抵当権その他の担保権は設定されていない)を所有し、右土地において製砂事業、工業及び物流系団地の開発事業等を実施の上、本件会社に対する右貸付金の返済を計画していること等本件疎明資料を総合して検討する限りにおいては、右の1主張は、いまだ認めるに至る見込みが小さいというべきである」

と判断し、

2、さらに、前記2の抗告人の主張については、

「本件会社は、徳島県名西郡神山町所在の山林約2100平方メートル、雑種地約40万平方メートル及び宅地約1600平方メートル(なお、右土地は、同社の昭和63年9月30日現在の貸借対照表の固定資産の部に、金額4億2936万8289円と記載されている)を所有していたこと、本件会社は、平成元年1月29日、取締役会において、中村企画に対して、本件土地を代金4億8000万円(右貸借対照表上の金額に、本件土地を取得する際の借入金に対する利息を加算した金額)で譲渡することを承認する旨の決議をしたこと、本件会社は中村企画に対し、同年2月1日、本件土地を代金4億8000万円で売ったこと、その際本件会社は、中村企画との間で、『本件土地は、本件会社名義で取得したものであるが、買取資金は、中村企画が融資を受けて調達をしたものであること』及び『代金額の決定に当っては、本件会社が本件土地を取得するに至った経緯、本件土地の時価などを考慮したこと』を確認することなどを内容とする覚書を交わしたことが一応認められ、右の事実と本件疎明資料を検討する限りにおいては、右2の主張は、いまだ認めるに至る見込みが小さいというべきである」

と判断していずれも抗告人の主張を排斥した。

しかしながら、以下に述べる事情を考えるならば、前記巨額の貸付及び徳島フォレストゴルフ倶楽部の土地を申立外中村企画に譲渡したことについて相手方らの商法266条1項違反の事実は明らかであり、本件について担保提供を命じた原決定は、とうてい維持されるべきではないのである。

三、本件貸付行為が違法であること(一項1の主張について)

1、本件貸付行為が商法254条の3(取締役の忠実義務)に違反し、同法266条1項5号に該当することについて

(一)、本件貸付金の使途が不明確であること

(1)、本件貸付は平成3年6月3日に始まり、平成5年9月30日までのわずか2年4月だけでその総額が32億3839万9157円もの巨額に及んでいる。(別紙一覧表(1))これだけの短期間のうちに、何故これだけ巨額の貸付が必要であったのか、その使途について大いに疑問がある。

相手方らは、これらの資金が申立外中村企画において広島市可部町のゴルフ場用地の買収資金として必要であったかの如き主張をするが(平成7年11月21日付補充書第二の三、四項)、とうてい信用することができない。

(2)、抗告人は、申立外中村企画が広島市可部町で取得したという土地(疎A8、9号証)の全部について登録事項証明書を取り付けてみた。(疎B20号証以下)これらの土地の所有権移転時期等をまとめたものが疎B19号証なのである。

これによると、平成4年1月1日以降に売買されたものは綾ケ谷字瀬戸1450番宅地181.81m2(疎B19号証の6頁)、同所字大平甲934番山林1061m2(7頁、但平成2年11月7日仮登記)、同所字石田1287番原野210m2、同1288番原野618m2、同1290番原野611m2、同所字大平966番山林433m2のわずか6筆にすぎないのである。

しかるに、別紙一覧表(1)から明らかな如く、申立外四国総合開発の同中村企画に対する貸付金はむしろ平成3年中はわずかであり、平成4年1月以降急増している事実が明らかであり、相手方らの主張が虚偽であることが明白である。

(3)、右土地の現況は現在もなお山林のままの状態であり(疎B15号証―平成7年5月6日撮影の航空写真である)、ゴルフ場の造成に費用がかかったとも思われないのである。

そうだとするならば、平成4年1月以降に貸付けられた巨額の金員は、広島市可部町におけるゴルフ場の造成以外の目的に使われたものと考えざるを得ないが、その使途について抗告人は再三にわたり相手方らに釈明を求めたが(答弁書求釈明二項1号、平成8年4月10日付準備書面五項2(一))、相手方らはこれに答えないまま今日に至っているものである。

平成5年9月30日までのことを考えても、わずか2年10月の間に32億円余りもの巨額の貸付が行なわれているのに、これが一体何に使われたのか説明もできないというのであるから、この一事を以てしても相手方らの忠実義務違反の事実は明らかであると確信する。

(二)、申立外中村企画には貸付金の返済能力がないことについて

(1)、申立外中村企画の第10期決算書(平成2年4月1日から平成3年3月31日まで―疎A15号証)によれば、同社の売上総利益1億2862万5156円に対し、販売費及び一般管理費が1億7038万3836円もかかっており、常時赤字の発生する会社体質となっている。その結果、当期損失1億4219万4045円が生じている。

別紙一覧表(3)によれば、申立外中村企画の未処理損失は、年々累積され第14期(平成6年4月1日から平成7年3月31日まで―疎A19号証)では9億5524万1146円に及んでいる。売上総利益よりも販売費一般管理費が常に多いのであるから、申立外中村企画の未処理損失が累積されるのも当然なのである。

(2)、また、別紙一覧表(3)の申立外中村企画の関連会社借入金、あるいは、同四国総合開発の関連会社貸付金(両者は同じものである)は年々増加している。

これは、申立外中村企画が、右に述べた如く、販売費、一般管理費が売上総利益を常時上廻っていることや、同社に毎年莫大な支払利息が生ずるため(金融機関に対するものと思われる)、同四国総合開発からの貸付なくして会社の運営が出来ないことを示しているのである。

しかも、右貸付金に対する利息は全く支払われていないので、申立外四国総合開発の未収利息は毎年増大し、第12期にはこの額が6億2645万8718円にも及んでいるのである。(疎B8号証の6)

さらに、申立外中村企画自身にも関連会社貸付金があり、これが毎年増大しているが一体何に使われているかも明らかでなく、これに伴う未収利息も年々増加し第14期には3億1980万4186円にもなっているが(疎A19号証)、このことは同社の関連会社もまた経営的に破綻していることを示している。

(3)、以上述べたとおり、もともと申立外中村企画は赤字会社であり、とうてい本件の如き巨額の貸付金の返済を行なうことのできる状態ではなかったにもかかわらず、相手方らは同社に対して平成5年9月30日までで32億3839万9157円もの天文学的な貸付を行なったものであり、しかも、これらの貸付について担保も徴していないのであり、右巨額の貸付金を回収不能ならしめたことは取締役として忠実義務に違反することは明白である。

抗告人は、とりあえず、前記株主代表訴訟において平成5年9月30日までの貸付の違法性を問題にしているが、その後提出された申立外中村企画の決算書及び同四国総合開発の決算書をみれば、同社から申立外中村企画に対する違法な貸付はその後も毎年2億円以上続けられており、これらも回収の見込みのない貸付であることは明らかであるから、前記株主代表訴訟の中で請求の趣旨を追加して相手方らの責任を追及する所存である。

(三)、貸付金が返済可能であるとの相手方らの主張に対する反論

(1)、相手方らは、広島市可部町におけるゴルフ場の開発は断念したものの、取得した25万坪の山林を開発し、製砂事業を行ない、跡地を物流、工業、住宅用地に造成して販売し、これらによって平成12年に元利25億円、平成16年に元利22億7000万円を返済することが可能であると主張する。(平成8年5月14日付準備書面二項)

また、原決定も、相手方らの右弁解を認めて申立外中村企画に返済能力があると判断している。

(2)、しかしながら、現時点でも右土地開発に必要な様々な許可が得られていないし、そもそも申立外中村企画は地元地権者の強硬な反対によって必要な山林の所有権取得を行ない得ていないのである。

すなわち、疎B17号証は、前記25万坪の土地の公図を抗告人において写して作成した図面であるが、この中で赤色表示された部分は申立外中村企画が現在でも所有権取得できていない土地なのである。しかもこれらの土地については将来にわたり所有権取得できる見込みがないのである。

このような状態では開発許可が得られず、そのことが原因でゴルフ場開発を断念しているのであるから、当然のことながら製砂業や物流、工業、住宅用地の開発をすることができるはずがない。

そればかりか、右土地は相当な山奥にあり、進入路も十分に確保されているようにも思えず(疎B15、16号証)、このような場所で山を1つ削り取るような大事業が許可されるとも思えないし、25万坪もの物流、工業、住宅用地を作ったとしてもこれが簡単に販売できるとも思えない。

何よりも、これから右の如き大事業を始めるとすれば、巨額の資金が必要になると思われるが、一体申立外中村企画は右の如き巨額の資金をどのようにして調達しようとするのであろうか、理解することができない。

要するに、相手方らの事業計画は、申立外中村企画に支払能力があることを強弁するためにデッチ上げられた実現性の全くないものであり、この計画の存在によって同社に支払能力あると判断した原決定は明らかに誤っている。

(四)、結論

(1)、右に述べた如く、申立外四国総合開発から同中村企画に貸付けられた32億3839万9157円の大半は広島市可部町におけるゴルフ場開発以外の目的に使われたものであることは明らかであり、しかも、貸付当時から同中村企画にはこれだけの巨額の貸付金を返済する能力がなかったのである。

それにもかかわらず、相手方らは申立外四国総合開発の取締役として右貸付を行なってこれを回収不能に陥れたばかりでなく、現在も毎年2億円を下らない巨額の資金を貸付け続けて同社の損害を拡大しているのであって、これが取締役としての忠実義務に違反することは明らかである。

(2)、原決定は、40億円を限度とする貸付につき取締役会が承認したこと、製砂事業を行なうことにより貸付金の返済が可能であるというが、そもそも申立外四国総合開発と同中村企画の代表取締役、取締役は共通であり、本件貸付行為が後に述べる自己取引に該当するものであること、本件の貸付の大半が右に述べた如く使途の不明なものであり、広島のゴルフ場の開発以外の目的に使われたと考えられること、取締役会が承認しようとも貸付それ自体が違法であれば忠実義務違反の責任が発生すること(商法266条2項)等の事情を考えるならば、本件の場合取締役会決議があるからといって本件貸付が適法になるものとも思われないし、本件貸付金の返済が製砂事業等によって可能になるとは考えられないことについても前述のとおりであって、原決定の判断は取消しを免れないものである。

2、本件貸付が商法265条に違反し、同法266条1項4号に該当することについて

(一)、本件の場合、申立外四国総合開発と同中村企画の取締役、代表取締役は共通している。従って、申立外四国総合開発が同中村企画に対して貸付を行なう場合には商法265条の取締役と会社との利益相反の問題が発生する。

すなわち、本件の如き代表取締役、取締役が共通する会社同士の金銭貸借(いわゆる間接取引)が商法265条に該当することは今や定説になっているところであるから(新版注釈会社法(6)244頁以下)、本件でも同法266条1項4号違反の問題が生ずるのである。

(二)、商法266条1項4号の趣旨は、「取締役会の承認を受けて取引をなしたにかかわらず会社に損害を生じた場合に関し、しかも一種の結果責任を定めたもの」と考えられている。(大隅、今井、新版会社法論中巻Ⅰ234頁)

そうであるとするならば、本件の場合、平成5年9月30日までに限ってみても32億3839万9157円もの巨額の貸付をなし、27億2239万9157円について利息も支払われず、回収の見込みもない状態にさせているばかりか、右以降現在までも年間2億円を下らない貸付を継続し、6億2645万8718円もの未収利息を発生させ、これらについても回収不能に陥らせていることが、右の規定に反する違法な行為に該当することは明らかである。

(三)、相手方中村は、申立外四国総合開発及び同中村企画共通の代表取締役として右貸付行為を実行し、相手方上田、山田の両名は、同中村とともに昭和63年9月19日の取締役会決議を行なっているのである。(疎A6号証)

従って、相手方中村は商法266条1項4号に基づき、同上田、山田の両名は同法2項に基づく責任を免れることができないのである。

この場合、同人らの支払うべき損害額は、

(1)、前記回収不能額27億2239万9157円のほか

(2)、平成5年10月1日以降の申立外四国総合開発から同中村企画に対する

貸付金

(3)、申立外四国総合開発の未収利息6億2645万8718円

におよぶものと考えられる。

(四)、すなわち、相手方中村、上田、山田の3名については、取締役としての忠実義務違反のほか、申立外四国総合開発の取締役としての利益相反行為に加担したことによる損害賠償責任をも免れないものというべきである。

四、申立外四国総合開発の所有する土地売却に伴う相手方らの責任について

1、申立外四国総合開発が同中村企画に譲渡した徳島県名西郡神山町の山林は、別紙一覧表(2)記載のとおり62筆にものぼり、フォレストゴルフ倶楽部のゴルフコースの全部に及んでいる。

原決定は、右譲渡が申立外四国総合開発の取締役会の承認を得た上で行なわれていること、同社の貸借対照表の固定資産の部に記載された評価額に金利を上乗せして4億8000万円という売買価格を決定したことに不合理はないこと、本件各土地の買取資産は申立外中村企画が調達したものと考えられること等を理由として、右譲渡が違法であり、これによって申立外四国総合開発が損害を被っているとの抗告人の主張が認容される見込みに乏しいという。

2、しかしながら、右譲渡が商法265条に該当し、同法266条1項の責任が発生することは、貸付金の問題と同様であって、取締役会の承認あることが相手方中村、上田、山田の責任を免責する理由にはならないのである。

問題は、これによって申立外四国総合開発が損害を被ったことがないのかどうかであり、この点を厳しく吟味する必要がある。

ところで、申立外四国総合開発の昭和63年9月30日現在の貸借対照表固定資産の部に計上された4億2936万8289円という価格は、本件山林の取得原価にすぎないのである。申立外四国総合開発は、昭和61年7月1日抗告人との間で21億円の徳島フォレストゴルフ倶楽部コース建設請負契約を締結し(工期は昭和63年10月31日まで)、また、同山崎建設との間でも昭和61年7月1日20億7500万円にものぼる造成工事契約を締結し(工期は昭和63年4月末)、本件各土地の売買契約が締結された平成元年2月1日にはこれらの工事が全て完成し、既にゴルフ場としてオープンしていたものなのである。

3、右に伴って昭和63年8月3日申立外阿波銀行に10億円、同年12月13日同太陽神戸銀行に9億円の根抵当権が設定されていたとはいえ(疎B87号証)、右の如き巨額の資金を投じて完成されたゴルフ場の敷地全部を山林の取得原価で譲渡するということは考えられないところである。

それゆえ、抗告人は、相手方中村、上田、山田に対し、平成元年4月11日申立外太陽神戸銀行に4億8000万円、同年8月11日同行に20億円、平成4年7月30日徳島信用金庫に9億円の各根抵当権が設定されており(疎B87号証)これらの合計額33億8000万円と売買代金4億8000万円の差額29億円を右譲渡により申立外四国総合開発の被った損害と主張しているのである。

むろん銀行が極度額全部を融資するとは限らないが、少なくとも右極度額を設定したということは譲渡後において各銀行が本件土地を33億8000万円と評価したものというべきである。

のみならず、申立外四国総合開発の決算書を見る限り、同社は毎年相当な利益を挙げており、これらが全て本件ゴルフ場によってもたらされるものであること(会員権の販売、プレイフィー、食堂営業等)を考えるならば、本件土地の資産としての運用利廻りは高く、この点からしても本件土地の価格がわずか4億8000万円にとどまるということなどはとうてい考えられない。

ちなみに、本件各土地の買取資金を申立外中村企画が調達したとの原決定の認定は、前記阿波銀行及び同太陽神戸銀行の借主が申立外四国総合開発であることからしても間違っている。(疎B87号証)

4、以上要するに、本件土地を4億8000万円で譲渡したことは異常に安価な価格で処分したと言わざるを得ず、また、このような価格で申立外中村企画に譲渡しなければならない必然性がないことも考え合わせるならば、相手方中村、上田、山田において賠償責任を免れないものというべきである。

従って、この点においても原決定は取消を免れないものと言うべきである。

五、最後に

1、商法267条6項にいう「悪意」とは、「被告たる取締役を害することを知る意味」(大隅今井中巻Ⅰ250頁)、「悪意は取締役に対する悪意であって、会社に対する悪意ではない」(新版注釈会社法(6)372頁)といわれている。

本件において相手方らの主張する事実は、いずれも右の意味における取締役に対する「悪意」の主張ではないのであるから、その主張自体失当なものと言わなければならない。

2、そればかりか、東京地裁平成6年7月22日決定(蛇ノ目ミシン事件)が、「代表訴訟を提起する株主には、純粋に株主としての利害意識や愛社精神だけではない、なにらかの個人的な意図、目的、感情が働いている場合が少なくないであろう。株主は純粋に会社のために訴えを提起すべきであり、それ以外の動機、目的があれば、常に不当な目的があるものとして担保提供命令の対象となるとするのは、代表訴訟によって株主の会社運営に対する監督是正機能が発揮されることを期待するという見地からは、いささか非現実的な嫌いがある考えのように思われる。

また、他の動機、目的があったとしても、取締役等の責任が明らかにされ会社の被った損害の回復が図られるのであれば、代表訴訟の狙いとするところは達せられるという面もある。

こうした点を考慮すると、担保提供の命令による抑制の対象とすべきなのは、前述のように、代表訴訟を手段として不法不当な利益を得る目的を有する場合等、正当な株主権の行使と相容れない目的に基づく場合に限るべきであって、右対象を訴えの提起に個人的な意図、目的、感情が伴っている場合一般に拡大するのは相当ではない。」

と述べているように、相手方らの主張している事情はせいぜい右に述べられた「個人的な意図、目的、感情」の類いであって、商法267条6項のいう「悪意」とは言い難いものである。

3、右の点からしても、本件において抗告人に「悪意」はなく、本件担保提供命令は取消しを免れないものというべきである。

以上

別紙一覧表(1) 《略》

別紙一覧表(2) 《略》

別紙一覧表(3) 《略》

●抗告人側準備書面(平成9年2月12日付)

準備書面

抗告人 株式会社岡田組

相手方 中村勤 外3名

右当事者間の御庁平成8年(ラ)第1051号担保提供命令に対する即時抗告事件について、抗告人は次のとおり弁論を準備します。

平成9年2月12日

抗告人代理人

弁護士 中田祐児

大阪高等裁判所

御中

一、株主代表訴訟の提起とこれに対抗する取締役の防禦手段としての担保提供を考える際の基本的視点について

1、わが国社会の成熟化に伴って真の意味での個人の尊重とこれを実現するための権利主張が社会のあらゆる局面において頻繁にまた時として厳しく行なわれるようになっている。

株主代表訴訟の提起が増加していることも、平成5年の商法改正で提訴手数料が訴額にかかわらず8200円に定められたことを1つの契機にはしているものの、右に述べたような大きな社会の流れと無関係ではないと思われる。

また、このことはそれぞれの地域で住民訴訟が頻繁に提起されるようになったことと一脈相通ずるものがある。

しかし、株主代表訴訟の場合には、住民訴訟の場合と異なり、被告となった取締役から原告株主に対して担保提供を求める制度が認められており、最近ではほとんどの場合訴訟提起の初期の段階で担保提供の申立がなされ、これをめぐる攻防が株主代表訴訟の最初の大きな争点を構成し、多額の担保提供が命ぜられた場合にはこれが提供できないために訴の却下によって株主代表訴訟そのものも終了するという例がしばしば見受けられるようになっている。

もとより被告となるものの経済的、精神的な負担は大きいものがあり、濫訴が許されるべきではないが、しかし、基本的には訴訟の提起の自由は憲法に定められた基本人権の1つであり、例えば住民訴訟などと比較すると、株主代表訴訟においては担保提供制度が右自由の大きな阻害理由となっており、濫訴の防止と株主としての権利主張をどのようにして調和させるかは株主代表訴訟における現在および将来の大きな課題である。

2、最近出版された株主代表訴訟大系(小林秀之、近藤光男編弘文堂―疎B第88号証)の中でもそのことが論ぜられている。すなわち、

(一)、株主代表訴訟における担保提供制度は、制度として昭和26年から存在しながらも、平成5年の商法改正で株主代表訴訟の提訴手数料が8200円に引下げられるまで、全く裁判例が存在しない状況にあった。いわば、完全に「さびついた」制度であったにもかかわらず、提訴手数料の引下げにより堤の決壊が起ったごとく、株主代表訴訟の洪水の波が押し寄せてくると、被告取締役側のほぼ唯一の防衛策としてにわかに脚光を浴びるようになった。

このように、担保提供がにわかにライトに照らされるようになった最大の理由は、提訴手数料が安くなったために急増した株主代表訴訟において、原告の濫訴を防ぐため被告取締役が取り得る唯一の対抗策が、担保提供であったからである。

(二)、しかし、安易に多額の担保提供を裁判所が命じるならば、一方で提訴手数料を軽減したことにより株主代表訴訟提起の障害を取り除きながら、他方で新たな障害を作り出して立法の効果を減殺してしまうことになり、平成5年の商法改正の意義そのものを殺すことになりかねない。

しかも、訴訟の早期の段階で担保提供の申立てがなされ、原告株主側は取締役が保有している資料や証拠へのアクセスで不利があることを考えると、随時提出主義や証拠の構造的偏在から、訴え提起の段階の訴訟資料だけで要件である原告の「悪意」の疎明を認定することには、慎重にならなければならない。

(三)、担保提供申立てに対しては、株主の代表訴訟提起の権利と濫訴からの取締役の適切な保護という2つの要請を適切に調整する安全弁として、重要な役割を果すべく「熱い」期待が寄せられている。

しかし、株主代表訴訟の担保提供申立ては、現行民訴法107条以下の担保提供制度とリンクする被告側の損害賠償請求権の担保のための制度にすぎず、この担保提供申立てに濫訴抑制と本案の内容の適切さのチェックのすべてを要求することは、そもそも無理がある。

また、訴訟開始の段階で原告にそこまで全部きちんと果たさせることは、訴訟資料を訴訟の進行に従い順次ないし適時に提出すればよいとする訴訟原則に適合せず、手続的に困難があると同時に、「悪意」の内容に種々の複合的なものを取り込むことになる。

というのである。

3、そして、特に重要なことが「悪意」を理由とする担保提供制度を適用して防止すべき濫訴について、不当訴訟との関連性を指摘している点である。すなわち、

(一)、最高裁昭和63年1月26日判決は、「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」としており、裁判を受ける権利とのバランスからきわめて限定的な場合にしか賠償を認めていない。

(二)、担保提供では、疎明で足りるという面など要件が軽くなるという意味で、若干の違いはあるとしても、基本的には「悪意」を認定して担保提供を命ずるのは慎重であるべきだろう。

また、担保提供は、将来仮に被告取締役が勝訴した場合の原告の無資力のリスクヘッジであり、証明と疎明の要件の差や、実際の裁判例では不当訴訟以外の他の要素も総合的に考慮して担保提供を命じている面があることから、担保提供が命じられたからといって不当訴訟の損害賠償が認められることにはならないことはもちろんである。

というのである。

二、「悪意」の判断基準と判例の動向について

1、「悪意」の判断基準について

(一)、先に述べたように、株主代表訴訟に伴い現実に担保提供が申立てられるようになったのは、平成5年の商法改正以降のことであり、判例としても東海銀行担保提供申立事件の名古屋地裁平成6年1月26日決定(判時1492号139頁以下)をその嚆矢として、ここ2年半の間に20件あまりの裁判例が登場しているにすぎず、判例の考え方もなお流動的である。

(二)、どのような場合に「悪意」ありとすべきかの判断に当っては、「不当訴訟がどのような場合についての最判昭和63年1月26日との関連性を重視し、原告は株主代表訴訟で勝訴したからといって特に固有の利益があるわけではなく、敗訴すれば、全費用を自ら負担しなければならない代表訴訟の構造を考えると違法性が特に強い場合のみ代表訴訟の提起が不当訴訟になる」との考え方(疎B88号証165頁)が尊重されなければならない。

(三)、そうであるとするならば、前記最高裁判決のいう、ます「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くもの」であるかどうか、次に「提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起した」かどうかが「悪意」の有無の判断基準になるはずである。

担保提供の本質が、「将来仮に被告取締役が勝訴した場合の原告の無資力のリスクヘッジ」にあり、しかも、勝訴取締役は株主代表訴訟に勝訴しただけでは直ちに担保提供金を取り崩して弁護士費用等自らの被った損害金を填補することができず、改めて株主代表訴訟が不当訴訟であったことを理由として敗訴株主を被告として訴訟提起し、同訴訟に勝訴してはじめて右損害の填補が可能になることからも右の事情が裏付けられる。

また、このように考えることによってのみ、「株主の代表訴訟提起の権利と濫訴からの取締役の保護という二つの要請を適切に調整する」ことが可能となると思われ、逆に右以外の要素を加えることになれば、右のいずれかが不当に侵害される結果になるものと考えられる。

(四)、この場合、取締役の違法を裏付ける資料は、提訴株主はほとんど所持せず、主として会社ないし取締役が保有しており、提訴株主にとってはこれらの資料にアクセスすることは困難である(特に訴訟の初期の段階では)事情を考慮するならば、「訴え提起の段階に提出されている資料だけに基づいて、原告の請求が認容されない可能性が高いとの理由で『悪意』を設定し、高額な担保提供を命ずるのは、本案訴訟の拒否を意味し、随時提出主義にも反する」と言われている。(疎B88号証165頁)

2、判例の動向について

(一)、右にも述べたように、株主代表訴訟に伴う担保提供の問題は、最初の判例が出されて間もないこともあり、判例の数も少ないことからまだまだ流動的であると言わざるを得ないが、これまで出されている判例を詳細に検討してみると、実質的には前記の基準で「悪意」の有無が判断され、担保提供申立の適否が決せられている。

(二)、例えば、蛇の目ミシン担保提供事件の東京地裁平成6年7月22日決定(判時1504号121頁以下)は、「担保提供制度が取締役らの損害賠償請求権の実現を担保するためのものであることから考えれば、『悪意』を不当訴訟の成立要件と関連する認識、意思として捉えることが自然であり、通常訴訟の初期の段階で疎明に基づいて命じられることを考慮すると提訴にかかる請求が理由のないことを認識していることの疎明は必ずしも要求すべきではなく、具体的には、請求原因の重要な部分に主張自体失当の点があって、主張を大幅に補充あるいは変更しない限り請求が認容される可能性がない場合、請求原因事実の立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由がある場合、あるいは被告の抗弁が成立して請求が棄却される蓋然性が高い場合等に、そうした事情を認識しつつ訴えを提起したものと認められるときは、『悪意』に基づく提訴として担保提供を命じうる」と判断している。

(三)、そして、東京地裁平成6年10月12日決定(三愛担保提供申立事件)、同庁同年11月30日決定(三井物産担保提供申立事件)、同庁平成7年2月21日決定(中村屋担保提供申立事件)、名古屋地裁同年2月28日決定(中部電力担保提供申立事件)、名古屋高裁同年3月8日(東海銀行担保提供申立事件)など、判例集に登載されているもののうち、担保提供を命じたものは、株主代表訴訟が、総会屋等の特殊株主によるもの(東海銀行事件)、株主代表訴訟に名を借りて単なる個人的な主義主張を行なうもの(中部電力事件)のほか、請求原因の立証の見込みが低いもの(三愛事件)、提訴株主の独自の見解を主張するもの(三井物産事件)など、「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くもの」ばかりなのである。

三、本件担保提供事件について

1、本案訴訟は、

(一)、相手方らが共通して代表取締役、取締役を勤める申立外四国総合開発が、同中村企画に対し、使途も明らかではなく、かつ、担保も徴求せず、返済の見込みがないにもかかわらず、平成3年6月3日から平成5年9月30日までの間に、32億3839万9159円もの巨額の貸付を行ない、このうち27億2239万9157円について利息も支払われず、回収の見込みもない状態にさせたこと

(二)、申立外四国総合開発が所有していた徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻24番6他61筆の土地(徳島フォレストゴルフ倶楽部のゴルフコース)について、これらが少なくとも33億8000万円の価値があるのに、特にその必要性が認められないにもかかわらず、平成元年2月1日わずか4億8000万円で同中村企画に譲渡し、29億円もの損害を与えたこと

について、相手方らの右行為が商法266条1項に反することを理由として損害賠償を行なっているのである。

2、そして、抗告人は、平成8年12月17日付準備書面のほか原審準備書面において、広島の土地の膨大な登録事項証明書を証拠として引用し、土地の購入時期よりも後に多額の貸付が発生していることから、右の貸付金の使途が不明確であること、申立外中村企画や同四国総合開発の決算書を引用しながら、同中村企画が慢性的な赤字会社であり、右の如き膨大な貸付金を返済できる資力がないばかりか、現在でも同社の経営を維持するために、同四国総合開発から毎年2億円以上の貸付がなされていること、さらに広島の土地の公図や登録事項証明書から未買収地が多数存在し、とうてい相手方らの主張するような開発行為が不可能であること、これには新たに資金を投入する必要があるが、申立外中村企画の前述の経営状態、資産状況からしてとうてい困難であること、また、徳島県名西郡神山町阿野字歯ノ辻24番6外61筆の土地は、40億円を超える膨大な資金を投じてゴルフコースとして造成された土地であり、申立外四国総合開発はその運営によって毎年相当の利益を挙げているのに、右造成完了後に造成前の取得原価に金利を加えたわずか4億8000万円で譲渡していることなど、現時点で抗告人の入手し得る限りの証拠資料で、相手方らの行為が商法266条1項に該当する事実を指摘したのである。

ちなみに、申立外四国総合開発の決算書は、本件訴訟提起前に抗告人代理人が同社との交渉により、同中村企画の決算書は、訴訟提起後に同社代理人から証拠として提出されたものであり、これらのわずかの証拠によっても、同社への貸付の違法性が浮き彫りにされたものであり、本件訴訟を継続することによって、例えば本件貸付金の使途についてなど、適切な証拠を入手することができれば、さらにその裏付けが可能になるはずである。

3、そして、抗告人は、本件担保提供申立事件の中でも、

(一)、申立外四国総合開発から同中村企画への前記巨額の貸付金の発生時期、内訳、使途。

(二)、右貸付金の利率、利息の支払状況、担保設定の有無。

(三)、可部町の土地について開発のために必要な諸手続が行なわれているのかどうか。

(四)、右土地で計画されているという製砂事業、工業団地および宅地造成販売事業について、計画の詳細、進捗状況。

(五)、申立外中村企画の第10期貸借対照表に計上された19億7980万円の借入金について、借入先、借入時期及び使途。

(六)、右同第14期貸借対照表に計上された貸付金6億3127万8684円、関連会社貸付金6億1345万5979円の貸付先、使途、担保の有無。

(七)、申立外四国総合開発の貸借対照表中、第11期は第10期と比較して8000万円、第12期は第11期と比較して2億8000万円の関連会社貸付金が増加している理由。

(八)、可部町の土地の取得価格及び平成4年1月1日以降に取得したものの地番と取得価格。

等について釈明を求めたが(平成8年8月12日準備書面)、相手方らからは全く明らかにされなかったものである。

これらの事項は相手方らの本件貸付行為の妥当性を判断する上で極めて重要な間接事実であると思われるが、相手方らのみが知っていて抗告人においては知り得ない事情であり、本案訴訟を継続する中で明らかにされる必要があるものと思われる。

4、しかしながら、現時点でも、抗告人において、前述したように相手方らの行為の違法性が推測される重要な間接事実が指摘されているのであり、もし相手方らにおいて違法性がないというのであれば、抗告人指摘の事実に理由のないことを積極的に主張、立証すべきであると考える。

殊に、「悪意」の有無を判断する基準の一つが、前述したように、「提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くもの」かどうかである以上、相手方らは、まずこれらの事実関係について、積極的に抗告人の主張に対する反論、立証に対する反証を行なうことによって、右の基準に照らして抗告人の主張に理由がないことを明らかにすべきなのである。

しかるに、相手方らは本件担保提供事件の全過程を通じ、また、今回の反論書の中でも右の点についての事実関係の主張を全く行なっておらず、レストラン委託契約をめぐる確執、コース改造計画の際の工事施行の瑕疵、申立外甲野太郎のキャプテン解任のいきさつ等従前の主張をくり返すにとどまっているのである。

しかし、これらは、抗告人と申立外四国総合開発の問題であって、抗告人の相手方らの「悪意」を裏付ける事情ではなく、また、これらの事情は「提訴者に純粋に株主としての利害意識や愛社精神だけでない、何らかの個人的な意図、目的、感情があったとしても、代表訴訟の持つ会社運営の監督是正等の見地からは、直ちに担保提供命令の対象となると解するのは相当ではない」(前記中村屋事件)と考えられる類いのものなのである。

四、結論

1、原決定が本件訴訟が提起されたばかりの現段階において、抗告人が入手し得る限りの証拠資料を以て相手方らの行為の違法性を指摘し、なお、相手方らに対して同人らの違法性の有無を判断する上で重要な事実につき釈明を求めたにもかかわらずその釈明にも応じさせないで、本案訴訟の勝訴の見込みが薄いことを理由として担保提供を命じたことは全く不当という他はない。

2、判例を詳細に分析してみても、本件の如くその請求に「事実的、法律的根拠のある」事案について、担保提供を命じたものはなく、このような事案についてすら担保提供を命じ得るものとするならば、およそ株主代表訴訟の案件には全て担保提供をしなければならなくなるはずである。

かくては、株主の提訴権が不当に侵害される結果とならざるを得ないことになってしまう。そのような悪しき先例にならないようにするためにも、原審決定を取り消し、本申立を却下されるよう求めるものである。

以上

●相手方ら反論書(平成9年2月3日付)

平成8年(ラ)第1051号担保提供命令申立即時抗告事件

抗告人 株式会社岡田組

相手方 中村勤

外3名

平成9年2月3日

右相手方ら代理人

弁護士 島武男

大阪高等裁判所

第9民事部 御中

反論書

一、担保提供命令申立事件における審理

1 抗告人の平成8年12月17日付け準備書面記載の抗告理由は、専ら基本事件の請求原因事実に関する主張であり、本件担保提供命令申立事件の要件事実とは異なる次元のものである。

2 本件担保提供命令申立事件における審理は、『担保提供の必要性すなわち原告(本件抗告人)の悪意の有無』について行なわれているのであり、基本事件における請求原因事実の存否についての審理は行なわれていないのである。従って、相手方ら基本事件の審理に入るか否かの前提問題として抗告人の悪意を主張し、本件担保提供命令の申立を行なったのである。

3 そのため、相手方らは基本事件において主張される請求原因事実の存否に関しては、未だ具体的反論の必要はないものと考え、具体的反論及び反証は行なっていない。

4 抗告人が抗告の理由として主張する『基本事件にかかる損害賠償請求の存否』については、本訴事件たる基本事件において審理されるべき事柄であり、担保提供命令申立事件における審理の対象ではなく、相手方らは、これらの主張については基本事件において具体的に反論及び反証をする予定である。

二、抗告人の悪意と担保提供について、

1 『抗告人の悪意』については、原決定に詳細に設定されているとおりであり、原決定が抗告人に担保提供を命じられた判断は正当である。

2 抗告人の悪意について

(一) 抗告人の悪意については、原審において主張したところであるが、要点のみを整理して主張すると次のとおりである。

(二) 「徳島フォレストゴルフ倶楽部」の事業開始と実質的経営者

(1) 抗告人が高額の土木・建設工事を受注するため、「徳島フォレストゴルフ倶楽部」の開発及び事業遂行を申立外株式会社中村企画に依頼してきたのは、そもそも抗告人なのである。

(2) 申立外中村企画は、抗告人の懇請を受け、高額の資金手当をなし、「徳島フォレストゴルフ倶楽部」のゴルフ場用地を取得し、同事業を軌道に乗せたのである。

「徳島フォレストゴルフ倶楽部」の実質的経営者及び実質的所有者は、申立外中村企画なのである。

(3) 「徳島フォレストゴルフ倶楽部」の運営の主体は、同ゴルフ倶楽部経営のため設立された申立外四国総合開発株式会社であるが、いわゆるオーナー会社である実質的な経営主体は、申立外中村企画である。

(4) この事実は、本件事業計画を申立外中村企画に持込み、同事業の遂行を懇請し、申立外中村企画の代表取締役である相手方中村勤から用地買収に関連して高額の利得をし、ゴルフ場の開発造成工事及び建設工事を受注し、高額の利益を獲得した抗告人の熟知するところである。

(三) 抗告人は、申立外四国総合開発株式会社の実質的な株主ではない。

(1) 相手方中村勤は、抗告人を被告として、大阪地方裁判所に対し、株主権確認等請求事件を提起(大阪地方裁判所第7民事部係属、平成8年(ワ)第5235号)している(疎A第30号証)。

(2) 抗告人は、申立外四国総合開発の株主名簿に株主として登録されているが、いわゆる名義株主であり、同株式の払込をしたのは相手方中村勤である。

相手方中村勤は、「徳島フォレストゴルフ倶楽部」が徳島にあり、同地の土地柄もあり、かつ、用地買収を抗告人の推薦する人物に任せたこと及びゴルフ場の開発造成工事及び建設工事を抗告人にいわゆる特注(競争入札等を行なわず、抗告人に受注させた。)により受注させたという関係もあり、同ゴルフ場事業が軌道に乗るまでは株主として処遇することとし、名義を借りたに過ぎないのである。

(3) 従って、抗告人には、そもそも株主代表訴訟を提起し得る資格はないのである。

(四) 本件株主代表訴訟が提起されるに至った背景

(1) 本件株主代表訴訟が提起されたのは、抗告人の度重なる問題の発生に対し、申立外四国総合開発(代表取締役相手方中村勤)が攻勢に出、直前には、抗告人が施工した工事の著しい手抜き工事及び工事の瑕疵等についての責任を追及し、高額の損害賠償を請求されるようになり、この具体的かつ現実的危険を回避せんとして提起されたのである。

(2) 背景となる事実経緯については、原審において詳細に主張したとおりであるが、重ねて要点を主張しておく。

(イ) 平成4年9月26日、抗告人が経営するレストランについての不満が続出するも改善されず。

(ロ) 平成4年11月頃、コース改造計画のため本件工事の現状を調査したところ、抗告人施工工事について欠陥工事、工事の瑕疵が発見される。抗告人は平成5年になって一部補修工事はしたものの抜本的補修工事は先送りされ、現在に至るも実行されず放置。

(ハ) 平成5年9月6日、「徳島フォレストゴルフ倶楽部」の名誉あるキャプテンを解任(手続上は重任せず)される。

(ニ) 平成5年10月、そもそも抗告人が本件ゴルフ場の事業及び開発を申立外中村企画に持込むに際し、仲介の労を取られたいわば抗告人の恩人ともいえる乙山一夫氏の調停役を蹴る。

(ホ) 平成5年12月24日、抗告人の関連会社である株式会社阿波観光ホテルに対し、レストランの経営委託契約を更新しない旨(実質的契約解除)を通知する。

平成6年11月22日、レストラン経営委託契約を合意解約し、阿波観光ホテルは撤退する。

(ヘ) 平成7年5月15日、申立外四国総合開発から抗告人に対し、欠陥工事、工事の瑕疵につき、建設省建設工事紛争審査会に調停申立てすることを通知する。

平成7年8月1日、建設省建設工事紛争審査会に調停申立をする。

(3) 右欠陥工事(重大な手抜き工事)及び工事の瑕疵による損害は、著しいものがあり、完全な補修工事を行なうには膨大な費用を要するものである。

この事実は土木・建築の専門業者として抗告人のよく知るところであり、自己の責任及び莫大な費用負担をしなければならないことが明らかであるため、これらの責任を回避し、費用負担を免れようと画策して提起されたのが本件株主代表訴訟である。

三、以上の次第であり、抗告人が『真に申立外四国総合開発の財務内容を憂い、この改善を図りたい。』と申立外四国総合開発のためを考えているのであれば、原審で決定された担保を提供して1日も早い基本事件についての実質的審理に入られるべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例