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大阪高等裁判所 平成8年(う)715号 判決 1997年3月26日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四年に処する。

原審における未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

被告人から金三二〇万円を追徴する。

理由

本件各控訴の趣意は、検察官佐々木茂夫作成の控訴趣意書及び弁護人森岡一郎作成の控訴趣意書に、検察官の控訴趣意に対する答弁は、弁護人作成の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。検察官の控訴趣意は、本件各営利目的による覚せい剤譲渡及び大麻譲渡の各幇助罪の不法収益につき追徴の言渡しをしなかった原判決の法令適用の誤りの主張であり、弁護人の控訴趣意は、原判決の量刑不当の主張である。

一  検察官の控訴趣意について

論旨は、要するに、原判決は、(罪となるべき事実)の第一において、被告人は、甲野太郎が営利目的で乙川こと乙山松夫に対し覚せい剤約一キログラムを代金二一〇万円で譲渡した際、甲野のため右取引の相手方として乙山を引き合わせるなどして、甲野の右犯行を幇助し、同第二において、右甲野が営利目的で右乙山に対し大麻約一キログラムを代金一一〇万円で譲渡した際、その場で甲野のため右取引の相手方として乙山を引き合わせるなどして、甲野の右犯行を幇助したものであるとの事実を認定している。そして、右譲渡代金合計三二〇万円は、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「麻薬特例法」という。)二条三項所定の不法収益に当たり、同法一四条一項により、これを没収すべきものであるところ、本件では譲渡人甲野の所在が判明せず、又、右現金は押収されておらず、その転換財産の現存も確認できないから、不法収益又は不法収益に由来する財産を没収できない場合に該当するので、麻薬特例法一七条一項により、犯人からその価額を追徴すべきものであり、且つ、右追徴すべき「犯人」には、薬物犯罪に及んだ者が不法収益等の所有権を取得し、又は現にその利得を得たか否かにかかわらず、あらゆる共犯形式の犯人全員を含む趣旨であるから、本件の幇助犯である被告人から右譲渡代金の価額合計三二〇万円を追徴すべきである。従って、原判決には、右の必要的追徴を遺脱した点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、所論及び答弁にかんがみ、記録を調査して検討するに、原判決挙示の各証拠によると、

1  原判決が(罪となるべき事実)において判示するとおり、被告人は、甲野太郎が営利の目的で平成六年一〇月三日乙川こと乙山松夫に対し覚せい剤約一キログラムを代金二一〇万円で譲渡した際、甲野のため右取引の相手方として乙山を引き合わせ、自らも右覚せい剤及び代金授受の現場に同席するなどして、甲野の右犯行を幇助し(原判示第一)、甲野太郎が営利の目的で平成七年二月一〇日右乙山に対し大麻約一キログラムを代金一一〇万円で譲渡した際、甲野のため右取引の相手方として乙山を引き合わせ、前回同様に自らも右大麻及び代金授受の現場に同席するなどして、甲野の右犯行を幇助した(原判示第二)こと、

2  甲野太郎の所在は不明であり、その実像は明らかでない(被告人は甲野太郎について、パチンコ店で知り合った人物であるなどとしている。)。譲渡代金合計三二〇万円は押収されておらず、その転換財産の現存が確認できないこと、

3  各譲渡代金は、甲野太郎が覚せい剤及び大麻の受け渡し現場からその都度持ち去り、被告人は甲野太郎から引合わせの報酬も、利益の分配も受けていないこと

が認められる。

右事実によると、甲野太郎が乙山松夫から受領した前記譲渡代金合計三二〇万円は、営利目的による覚せい剤譲渡及び大麻譲渡という麻薬特例法二条二項五号、三号所定の薬物犯罪の犯罪行為によって得た財産で、同条三項の不法収益に当たるから、同法一四条一項一号によりこれを没収すべきであるところ、本件では不法収益又は不法財産に由来する財産を没収することができない場合に該当する。

そこで、麻薬特例法一七条一項により被告人から本件譲渡代金の価額合計三二〇万円を追徴すべきかどうかを判断するに、本件事実関係の下では、同法の制定の経緯、同法の定める没収・追徴の目的、趣旨に照らし、本件における不法収益と認定できる右譲渡代金の価額合計三二〇万円について、その全額を、本件薬物譲渡の犯罪行為の実現に加担し、不法収益の分配にあずかり得る地位にある者全員から追徴すべきものであって、同条一項所定の追徴すべき「犯人」には幇助犯として加担した被告人も含まれ、被告人が現に利益の分配を受けたか否かによって、この結論は左右されないと解すべきである。そうすると、原判決が被告人に対し本件譲渡代金の価額合計三二〇万円につき没収に代わる追徴の言渡しをしなかったのは、麻薬特例法二条三項、一四条一項一号、一七条一項の解釈適用を誤ったものであり、右誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

二  よって、弁護人の量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に次のとおり判決する。

原判決が認定した(罪となるべき事実)第一及び第二の各事実に、原判決の挙示する処断刑を導くまでの各法条を適用し、その処断刑期の範囲内で、被告人を懲役四年に処し、平成七年法律第九一号による改正前の刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中九〇日を右刑に算入し、原判示の譲渡代金合計三二〇万円は、判示各薬物犯罪の犯罪行為により得た不法収益であって、その全額を没収することができないから、麻薬特例法一四条一項一号、一七条一項により被告人からその価額合計三二〇万円を追徴することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田崎文夫 裁判官 久米喜三郎 裁判官 小倉正三)

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