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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1925号 判決 1997年3月27日

控訴人

高垣厚夫

右訴訟代理人弁護士

岩崎英世

被控訴人

地方公務員災害補償基金

右代表者理事長

中島忠能

右訴訟代理人弁護士

川﨑祥記

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人に対し、四六六万六一〇七円及びこれに対する平成六年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は第一、第二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の、その一を被控訴人の各負担とする。

五  この判決主文第二項は仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張

以下に付加等するほかは、原判決事実欄第二及び第三に記載のとおりであるからこれを引用する。なお、以下においては、原判決中の「被告ら」とあるのは特に訂正しない限り「控訴人」と、「被告会社」は「日新火災海上」(原審共同被告日新火災海上保険株式会社のこと)と改め、訂正等により原判決の項番号の数字が順次訂正されるべき場合には、煩雑であるからこれを訂正しない。

一  原判決五丁裏八行目及び九行目の各「被告ら」をそれぞれ「控訴人及び日新火災海上」と改め、同六丁表末行冒頭から同裏三行目末尾まで及び同四行目「各」をいずれも削除する。

二  同一〇丁裏一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「6 また、日新火災海上は、控訴人の訴訟代理人である岩崎弁護士に委任して、本件事故に関する示談及び本件訴訟関係の費用を全額負担し、岩崎弁護士は、控訴人の知らぬ間に、日新火災海上及び控訴人の代理人として消滅時効援用の通知を出し、本件訴訟においても、控訴人とは訴訟委任状を郵送させたほかは当審における本人尋問の日まで何ら具体的接触、相談協議をすることもなく、本件訴訟手続を遂行しており、他方、控訴人には消滅時効を主張する意思もなく、訴訟関係の費用を支払ったこともない。しかも、控訴人が消滅時効を援用することによって損害賠償請求による出捐を免れるのは、専ら日新火災海上である。以上によれば、日新火災海上は、控訴人の訴訟当事者たる地位を専ら自己の利益を図るための手段ないし道具として利用しているものというべきであるから、控訴人の消滅時効の援用が許されるか否かを判断するにあたっては、本件に適用される保険契約が示談代行付であるか否かにかかわらず、日新火災海上自身の事由に基づいて判断するのが至当である。そして、日新火災海上が、前記のごとく、被控訴人との一連の示談交渉において被控訴人を充分信頼させて本件請求を猶予させておきながら、時間の経過を奇貨として突然手のひらを返して右請求を拒否するに至った一連の行為は、極めて背信的なものであることに照らすと、控訴人が消滅時効を援用することは信義則に違反し、許されないものというべきである。」

三  同一一丁表七行目「地方公務員災害補償組合という」を削除し、同行「組織の」の次に「法人であり、」を、同八行目「行うこと」の次に「について」をそれぞれ加え、同裏二行目「5」の次に「及び6」を、同三行目冒頭に「本件保険契約には示談代行の約定はなく、」を、同行「保険金支払」の次に「という自己の事務」を、同七行目冒頭に「原審及び当審」をそれぞれ加える。

理由

以下に付加等するほかは、原判決理由欄に記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決一一丁裏九行目冒頭から同一二丁裏四行目末尾までを削除し、同六行目「9」の次に「(ただし、手数料は控訴人が負担すべきであるとの点を除く。)」を加え、同九行目「一、二」を「一ないし三」と改め、同一三丁裏二行目「甲」の次に「一ないし六、」を、同行「よると、」の次に「被害者は昭和六一年四月一八日付で被控訴人に対し通勤災害認定申請を行い、」をそれぞれ加え、同行「昭和六一年」を「同年六月七日までに右認定を行ったうえ、同年」と改め、同七行目「原告は、」の次に「法五九条一項に基づいて、」を加え、同九行目「そして、」から同末行末尾までを次のとおりに改める。

「右損害賠償請求権の消滅時効については民法七二四条が適用されるから、右消滅時効の起算時は被害者が損害及び加害者を知った時となるところ、一般的には、本件事故のように一回的な不法行為により継続的に損害が発生する場合には、被害者が加害者を知った時点で予見できる範囲内の損害については右時点から一律に、右時点で予見できなかった後遺症の治療費などについては、その後遺症が発症したときから、それぞれその治療費相当の損害賠償請求権の消滅時効は進行するものというべきである(被控訴人は、右起算時を被害者の症状が固定した平成五年七月一四日とすべきであると主張するが、失当である。)。そこで本件について検討すると、昭和六一年四月一二日付の被害者宛の交通事故証明書(甲五、これに控訴人名が事故当事者として記載されている。)が存在するから、遅くとも右時点では被害者は加害者が控訴人であることを知ったものというべきである。加害者の治療が長期化したのは前記自律神経発作及び低血糖発作のためであると考えられ、右は本件事故の後遺症であり、これは被害者が加害者は控訴人であることを知った時点では予想することのできなかったものと考えられるものの、その発症時期がいつであるのかは証拠上不明であり、平成二年一〇月一二日受付の担当医師青山信房作成の照会回答書(甲一五、二三)によれば遅くとも右時点においては既に右後遺症が発症していたものと認められる。しかし、控訴人は、そもそも右のような時点を消滅時効の起算時としては主張してはおらず、被害者の通院治療費については当該治療日から、入院治療費については退院日から、または、遅くとも被控訴人が右治療費を医療機関に支払った日から進行する旨主張しているが、証拠上通院治療日、退院日の一部及び通院治療費、入院治療費のそれぞれの額が不明であって、截然と区別することは困難であるから、当該通院治療日や退院日を消滅時効の起算時として検討することはできない。したがって、結局、控訴人の主張する起算時のうちその日と額とが明確な、被控訴人が治療費を療養補償として各医療機関に支払った日を消滅時効の起算時として以下検討することとする(右時点は、前記本来の起算時よりも遅いものであるから、被控訴人に不利益はない。)。」

二  同一四丁表四行目「甲九、」を「甲九ないし」と改め、同行「二六」の次に「ないし二八、三三」を加え、同行「三」を「五、七」と改め、同六行目「証言」の次に「、控訴人の当審における本人尋問の結果」を、同行「弁論の全趣旨」の次に「とこれにより真正に成立したものと認められる乙一七、二一、二二、二五、二六」をそれぞれ加え、同七行目「昭和六三年一〇月」を「昭和六一年九月二七日」と改め、同一〇行目「甲」の次に「九、」を、同裏五行目「一月二九日」の次に「ころ」を、同七行目「書面」の次に「二通」を、同行「甲」の次に「一八、」を、同一五丁表四行目末尾に「被控訴人は、右(4)の話し合いの後は、被害者や担当医師に対し、定期的に治療状況、症状固定の予定時期、示談の見通し等を照会していたが、控訴人や日新火災海上に対する消滅時効中断措置をとってはいなかった。」をそれぞれ加え、同七行目「代理人は、」を「代理人である岩崎弁護士は、「日新火災海上保険(加害者高垣厚夫を含む)代理人」の肩書で、」を、同九行目「原告は、」の次に「これに対し、日新火災海上及び控訴人代理人岩崎弁護士に対し、従前の日新火災海上との協議経過や被害者が未だ治療を継続中であることからして右消滅時効の援用は不当であり、療養補償金の支払いを求める旨の内容証明郵便を送付したが、同弁護士が日新火災海上及び控訴人代理人の肩書を付した回答書により平成五年八月二五日ころこれを拒否する旨の回答をしたため、」をそれぞれ加え、同行「平成五年」を「同年」と改める。

三  同一五丁裏三行目冒頭から同一七丁裏九行目末尾までを次のとおりに改める。

「(10) また、本件保険契約の種類は一般の自動車保険(BAP)であり、これに適用される自動車保険普通保険約款(甲三三、乙一七、以下単に「約款」という。)には、保険会社が示談を被保険者に代行して行う旨の示談代行規定はない。控訴人は、本件事故の二、三日後に日新火災海上に本件保険契約の記名被保険者である竹谷と共に赴き、本件事故や被害者の状況を報告したのみで、本件事故に関する示談を書面あるいは明示の意思表示により日新火災海上に委託したことはなく、その後は、本件訴訟が提起され、控訴人代理人岩崎弁護士から訴訟委任状の用紙が郵送されてきたためこれに平成六年二月二四日と記入し署名押印して送り返しただけで、当審における控訴人本人尋問期日まで岩崎弁護士とも接触を持ったことは一切なかった。

(二) 以上の事実に基づいて、まず、日新火災海上の被控訴人との交渉行為の法的意味を検討しておく。

(1)  被控訴人は、被害者に対して療養補償給付を行ったのであるから、法五九条一項により右療養補償費の限度で被害者の控訴人に対する損害賠償請求権を取得したことになるところ、約款第一章第四条には、同条①項に定める事項(判決の確定、裁判上の和解等による損害賠償額の確定等)に該当するときは、損害賠償請求権者は、当会社(日新火災海上)が被保険者に対しててん補責任を負う限度において、損害賠償額の支払いを請求することができる旨規定されているから、これにより被控訴人は、右事項に該当するときは日新火災海上に対して直接療養補償額の支払いを請求することができる地位にあることとなる。

(2)  したがって、被控訴人が、平成元年九月二七日ころ、平成二年一月二九日ころ及び同年六月二七日ころに、日新火災海上に対し療養補償金の支払請求をし、同社担当者が、示談が成立すれば療養補償金を支払うからそれまでは補償を先行させるように要請したという一連の交渉は、日新火災海上にとっては、まず第一に、右約款の規定に基づく直接請求に関する自己の事務としての交渉という意味を有するものであり、日新火災海上の担当者が被控訴人に対して被害者との示談が成立すれば保険金を支払う旨約したのは、当時未だ被害者の治療が継続中であり、また、事故態様からして過失相殺が考慮される可能性があったため損害賠償額が確定しておらず、右直接請求権の発生条件を満たしていなかったためにした、約款に定める要件に沿った回答であったこととなる。

(3)  また、法五九条一項により被害者に対して補償をした被控訴人の保険者日新火災海上に対する損害賠償請求権は、被害者の直接請求権、したがって、被害者の(許諾)被保険者控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の存在を前提としているから、日新火災海上は、前提である損害賠償請求権の時効消滅により、その義務を免れるという直接の利益を受ける者として、被害者の控訴人に対する損害賠償請求権の消滅時効を援用することができるものと解される。そして、先に1で述べたところからすれば、右消滅時効は被控訴人が各療養補償金を支払った日から、それぞれにつき消滅時効期間が進行することとなるから、被控訴人が最初に療養補償金を支払った昭和六一年九月三〇日から三年を経過する前の平成元年九月二七日ころ、更に、その後三年を経過する前の平成二年一月二九日及び同年六月二七日ころに前記交渉をしたことは、その内容からして、被控訴人が当時までに取得した控訴人に対する損害賠償請求権の消滅時効完成前の債務の承認をしたという法的意味を有するものというべきである。

(4)  しかし、その後控訴人及び日新火災海上に対する本件訴訟が提起された平成五年一二月二〇日までの間には、被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権についての消滅時効の中断事由があったことを認めるべき証拠はないから、平成二年一二月一九日までに被控訴人が取得した損害賠償請求権については、日新火災海上との間においても三年の消滅時効期間が経過したこととなる。

(5)  被控訴人は、日新火災海上が、控訴人の同意を得て、或いは表見法理の適用により日新火災海上の行為の効果が控訴人に帰属するというべき状況の下で、被控訴人に対し、被害者が治癒して示談が成立するまでは損害賠償金の支払を猶予してほしい旨の申し出をし、被害者の治癒と示談成立後は当該賠償請求に応じると確約したのであるから、被害者の治癒及び示談成立までは、当該損害賠償請求権の消滅時効期間は進行せず、かつ、その間は日新火災海上において消滅時効の援用はしない旨約したというべきであり、被害者の症状固定日は平成五年七月一四日であり、示談も成立していない以上、日新火災海上は消滅時効を援用することはできないと主張している。しかし、前記認定のとおり、本件保険契約では約款上被保険者のための示談代行規定がなく、控訴人の日新火災海上に対する明示の示談代行の委託も認められないうえ、黙示の委託があったと認めるに足りる事情も証拠上認めがたく、被控訴人の主張する表見法理の適用も困難であるから、日新火災海上の前記交渉行為の効果が控訴人に帰属するものと解することはできない。したがって、日新火災海上が右交渉をしたことにより、被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権の履行期について、示談が成立しまたは示談ができないことが確定するまでという不確定期限が定められたということにはならない。また、前記交渉の過程において日新火災海上が消滅時効を援用しないことまで約したとは証拠上は認めがたい。

(6)  しかしながら、日新火災海上は、被控訴人に対し、少なくとも三回にわたり、被害者の症状が固定せず、過失相殺割合も未定であるからとして、被害者との示談が成立するまでは療養補償を先行するように要請しただけでなく、被控訴人の要求に応じて、被控訴人からの当該補償先行額については、被控訴人からの請求に基づき支払うことを確約する旨の確約書(甲一八、一九)をも提出している。右確約書には控訴人の署名押印欄には記載がなく、また、前記のとおり本件保険契約には示談代行規定はないけれども、控訴人本人も、特に示談代行を依頼したわけでもないのに、当審において、保険会社が入っているのだから保険会社に任せておけばよいと思っていたと述べているところにもあらわれているように、交通事故における損害賠償額の確定や賠償金の支払等に関する示談を含む交渉事務は、事故車両にかかる任意保険契約の保険者である保険会社が行うのが一般であると受け取られており、また、本件において、控訴人の日新火災海上に対する示談代行のための代理権授与の有無が明示的に争われるに至ったのは平成六年一二月一二日の原審第七回口頭弁論期日からであるが、控訴人(その訴訟代理人は日新火災海上の訴訟代理人でもあった岩崎弁護士である。)は、平成八年一〇月四日の当審第六回口頭弁論期日において初めて、本件保険契約が示談代行付ではないと主張するに至ったものであり、このことは、日新火災海上自身、示談代行の実務において、保険契約が示談代行付であるか否かによって特に差等があるものとは意識していないことを示すものであると思われる。そして、日新火災海上と被控訴人との交渉も日新火災海上によって被害者との示談交渉がなされていることが当然の前提となっていたとしか考えられないような形で行われていること、日新火災海上の代理人である岩崎弁護士が控訴人の委任を受けていない時点で控訴人の代理人として行動したことなどからすると、日新火災海上においても控訴人のために示談代行を事実上行う意思はあったことが伺えるのであり、そうすると、被控訴人において、日新火災海上が正当な権限により控訴人の利益をも代表して交渉しているものと考えたとしても無理からぬところがある。また、日新火災海上は、保険業法の適用を受ける相当大きな規模の会社であり、その業務は営利を目的とするとはいえ、交通事故被害者の実質的救済を実現するという役割をも担っており、社会的にも自らの言動には相応の責任を持って対応をするものと一般に受け止められているものと考えられるのであるから、そのような日新火災海上と交渉を持った者は、同社が前記のごとき内容の交渉をし確約書まで提出しておきながら、被害者の症状固定の診断もなされていないのに、何らの予告や示唆もなく、右交渉後一年三ケ月弱を経過した平成三年九月には時効完成とする内部処理を行い、更に期間をおいて平成五年四月に消滅時効の援用の通知をするというような行動をとるとは考えないのが通常であるといえる。以上の事情からすれば、被控訴人が、法により設立され、相応の人的物的組織を備えた全国的規模の法人であるのに、日新火災海上の言動を軽信して控訴人に対する損害賠償請求権についての消滅時効の中断措置をとらなかった点には過失があるとしても、客観的に見て、被控訴人の右過失の主たる原因は日新火災海上の前記言動を信頼したことによるものというべきである。これに加え、日新火災海上が消滅時効の援用を被控訴人に表明した時点では、まだ被害者の症状固定の診断はなされていなかったこと、被控訴人は、日新火災海上の確約を前提として、被害者の病状や症状固定の予定などを照会するなど請求の準備をしており、その態度は権利の上に眠っていたものとは評価しがたいこと、被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権の存在することは明白であり、これを日新火災海上が本来受忍すべき出捐を免れることにより実質的に喪失させるという結果自体妥当なものではないことなどの諸般の事情を勘案すれば、日新火災海上が、前記言動をとりながら、その後の期間の経過を理由として、被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権の消滅時効を援用することは、信義則に反し、権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。

(三) そこで、次に、控訴人の消滅時効の援用について検討する。

(1)  前記認定のとおり、被控訴人は、控訴人に対しては昭和六一年九月二九日ころに催告をしたにとどまり、その後は平成五年一二月二〇日に本件訴訟を提起するまで何らの時効中断措置もとっていないから、平成二年一二月一九日までに被控訴人が取得した損害賠償請求権については、三年の消滅時効期間が経過したこととなる。そして、もとより控訴人と日新火災海上とは別個の権利主体であり、また、日新火災海上には控訴人のためにする代理権はなかったのであるから、形式的にいえば、日新火災海上の時効援用権の有無にかかわらず、控訴人は自ら被控訴人に対する損害賠償債務の消滅時効を援用することができるようにも思われる。

(2) 控訴人は、本件保険契約の許諾被保険者であり、保険者である日新火災海上から、控訴人が被控訴人に損害賠償責任を負担することによる損害のてん補を受けうるのであるから、控訴人の消滅時効の援用により実質的な利益を得るのは、専ら保険者である日新火災海上であるということになるが、それは、保険というものの性質上、通常、是認されるところである。しかしながら、本件の場合、控訴人の消滅時効の援用により実質的な利益を得るのは、自らは右消滅時効の援用権者でありながら、既に述べた事情で信義則上右消滅時効の援用をなしえない日新火災海上にほかならず(ちなみに、被控訴人は、控訴人及び日新火災海上を共同被告として本件訴訟を提起したものであり、原判決は、被控訴人の日新火災海上に対する請求に関しては、控訴人に対する請求の一部認容の判決の確定を条件として、控訴人に対する認容額と同額の金員の支払を命ずる旨の一部認容の判決をしたところ、日新火災海上は、いったん提起した控訴を後日取り下げて、これを確定させている。)、そのような結果を認めることは、前記事情に照らし相当ではないこと、控訴人は、被害者の治療費や生活費については保険会社が入っているのだから保険会社に任せておけばいいという気持ちであったと当審において述べていること、控訴人代理人岩崎弁護士は、もともと日新火災海上の代理人であり、控訴人から委任を受けていない平成五年四月及び同年八月の時点で、日新火災海上のほか控訴人の代理人として通知書や回答書を被控訴人に送付し、また、同弁護士は当審における控訴人本人尋問の時点まで、控訴人から訴訟委任状の送付を受けたほかは全く控訴人との接触がなかったことなどの事情を総合して判断すれば、日新火災海上が弁護士費用を負担していることは約款第一章第八条(4)に定められていることから異とするに足りないにしても、控訴人の消滅時効の援用行為は、実質的には日新火災海上が控訴人をいわば手段ないし道具として行っているものにほかならず、これを是認することは、日新火災海上がそれまでの言動に反して自己の利益を図ることを認める不当な結果となるから、このような事情にある控訴人の消滅時効の援用は、信義則に反する権利濫用の行為としてこれを許すことはできないものというべきである(そして、このように解しても、後日控訴人が日新火災海上から損害賠償その他の請求をされるなどの不利益を受けることはないものと考えられる。)。

以上の次第で、控訴人の消滅時効の抗弁は失当である。」

四  同一八丁表四行目「ではあるが、」から同一〇行目「なお、」までを「であるところ、」と、同末行「1項の認定事実によると、」を「これを認めるに足りる証拠は全くなく、かえって前掲甲二、五によれば、」と、同裏二行目「であって、右主張は採用できない。」を「であることが認められるうえ、右証拠によれば被害者はブレーキをかけるいとまもなく加害車に衝突したことがうかがわれなくもなく、控訴人の発進直前の措置、発進速度、被害者が加害車を発見した位置とその時の進行速度その他の衝突時の状況は証拠上不明であるから、このような場合に、一般的に用いられている過失相殺割合の基準に基づいて過失相殺の処理を行うことは許されないものというべきである。」と、同四行目及び六行目の各「求償権」を「損害賠償請求権」と、同七行目「たが、」から同一九丁表九行目末尾までを「たことになる。」とそれぞれ改める。

五  同裏一行目「及び同被告の保険者である被告会社」を削除し、同三行目「ことから、」の次に「被控訴人は、」を加え、同四行目「損害を被った」を「支払を余儀なくされた」と改め、同五行目末尾に「しかしながら、右被控訴人の弁護士費用は、控訴人と被控訴人との間の債務の存否についての紛争により発生したものであり、本件事故と相当因果関係のある損害であるということはできないものというべきである。」を加え、同六行目冒頭から同二〇丁表二行目末尾まで及び同五行目冒頭の「1」を削除し、同行「四四三万二八〇一円」を「四六六万六一〇七円」と改め、同七行目末尾に「求める限度で理由がある。」を加え、同八行目冒頭以下全部を削除する。

以上によれば、被控訴人の請求は、四六六万六一〇七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成六年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり、その余は失当であるから、原判決を右のとおり変更することとし、民訴法九六条、八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富澤達 裁判官 古川正孝 裁判官 塩川茂)

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