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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3353号 判決 1995年7月05日

控訴人

三洋住宅株式会社

右代表者代表取締役

鍋島重喜

右訴訟代理人弁護士

木原邦夫

木原康子

相川嘉良

右木原邦夫訴訟復代理人弁護士

山口忠文

被控訴人

インターナショナル・リース株式会社

右代表者代表取締役

木村嘉彦

右訴訟代理人弁護士

井上二郎

中島光孝

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、左記のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の付加、訂正、削除

1  原判決二枚目裏七行目「仮登記」の次に「(その余の登記の内容は別紙登記目録記載一のとおり)」を、八行目「設定登記」の次に「(同じく同目録記載二のとおり)」を、九行目「以下」の前に「同じく同目録記載三のとおり。」をそれぞれ加える。

2  同三枚目裏三行目及び八行目から九行目にかけての各「本件土地を担保として提供する旨の」をいずれも「本件各登記の内容に符合する」と改める。

3  同三枚目裏四行目「条件付」の次に「賃借権」を加える。

4  同四枚目表六行目「死亡後」の次に「の平成四年一二月二二日」を、七行目「により、」の次に「亡惠美子相続財産は被控訴人に対し、本件土地につき」をそれぞれ加える。

二  当審における主張

(控訴人)

1 新たな再々抗弁

茂は、控訴人に対し、昭和五六年二月ころ、本件建物と同時に根抵当権設定登記等がなされた建物の売却代金で本件貸金の弁済をすると述べて登記抹消用の一件書類を持ち去った。

右は、時効中断事由である債務の承認に該当する。

2 再々抗弁2の補足

債務者の債務承認による被担保債権の時効中断の効力は物上保証人に及ぶが、主債務者が、時効完成後に内入弁済をして時効援用権を喪失した場合も同様に解し、物上保証人もまた時効援用権を喪失すると解すべきである。

(被控訴人)

1 控訴人の新たな再々抗弁のうち、事実は知らない。中断事由である債務承認に該当するとの主張は争う。

2 控訴人の再々抗弁2の補足主張は争う。

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  本件土地の所有権の帰属について判断する。

1  抗弁1(本件土地の売買契約)について

前記当事者間に争いのない事実に証拠(甲一、二、乙一七、一九、二九、三〇)並びに弁論の全趣旨を総合すると、茂と惠美子は、昭和四六年当時夫婦であり、いずれもタキナカ商事株式会社の役員であったこと、被控訴人の代表者木村嘉彦が、茂夫婦に対し、タキナカ商事株式会社の金策のため惠美子名義で本件土地を買い受けることを勧めたところ、茂夫婦もこれを了解し、昭和四六年一二月二日、被控訴人から惠美子に対し、本件土地につき、同月一日売買を原因とする所有権移転登記がなされたこと、その直後、惠美子は、茂の了解を得て茂を借主名義人として、本件土地に根抵当権を設定した上農協から二五〇万円を借り入れ、これをタキナカ商事株式会社のために使用したこと、本件土地の売買代金は何回かに分けて惠美子が木村嘉彦に交付する方法で支払ったこと、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、茂も本件土地の売買契約に買主側として関与していたことが窺われるが、被控訴人が本件土地を売り渡した相手方は惠美子であり、本件売買契約は昭和四六年一二月一日成立したものと認められるから、抗弁1(二)は理由があり、同1(一)は理由がない。

2  再抗弁2(一)(通謀虚偽表示)について

再抗弁2(一)についての当裁判所の判断は、原判決の理由三、1の説示(原判決七枚目裏一行目から九行目まで)と同一であるから、これを引用する。

3  再抗弁2(二)(和解契約)について

惠美子と被控訴人との間で、本件売買契約の効力を巡って紛争があったが、惠美子死亡後の平成四年一二月二二日、本件和解により、亡惠美子相続財産は被控訴人に対し、本件土地につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をする、被控訴人は亡惠美子相続財産に対して解決金として七五万円を支払う旨約されたことは当事者間に争いがなく、乙二七によれば、右所有権移転登記手続をなす旨の和解条項は、前記二、1認定の被控訴人から惠美子に対する本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続に代える趣旨のものであることが認められる。

本件和解の条項上は本件土地の所有権の帰属に直接触れた部分はないが(甲二)、右事実に照らすと、本件和解に伴って、亡惠美子相続財産管理人と被控訴人との間で、本件土地が被控訴人に帰属することを確認する旨の私法上の合意(和解契約)がなされたものと認めるのが相当である。

したがって、右合意により、被控訴人は、亡惠美子相続財産から本件土地を承継取得したことになる。

以上によれば、被控訴人は、一旦は本件土地の所有権を喪失したが、後に再度これを取得して現在に至っていると認められる。

三  控訴人の登記保持権限について判断する。

1  抗弁2(一)(本件貸金)について

証拠(乙一、二五)によれば、控訴人は茂に対し、昭和五一年九月二一日、弁済期同年一二月一八日、遅延損害金日歩八銭二厘の約定で六〇〇万円を貸し渡したことが認められる。

2  抗弁2(二)(2)(本件各担保設定契約)について

前記認定事実によれば、惠美子は、昭和四六年一二月一日、本件土地の所有権を取得し、平成四年一二月二二日の本件和解の時までこれを保持していたことになる。

証拠(甲一、乙一、二五)並びに弁論の全趣旨によれば、惠美子は、控訴人との間で、惠美子が本件土地の所有権を有していた昭和五一年九月一六日、本件各担保設定契約を締結したものと認められる。

3  再抗弁3(一)(時効消滅)について

再抗弁3(一)のうち、(1)(弁済期から五年の経過)、(3)(元本確定請求)及び(4)(確定請求から二週間経過)の各事実は当事者間に争いがなく、(2)(時効の援用)の事実は記録上顕著である。

なお、本件貸金債権は五年の商事時効にかかるものと解すべきである。その理由は、原判決八枚目表一〇行目「当事者間に争いがない事実」から同枚目裏一行目末尾までと同一であるから、これを引用する(ただし、原判決八枚目表一一行目から末行にかけての「行為であると認められ」を「行為であるから」と改める。)。

4  当審で追加された新たな再々抗弁(債務承認による時効中断)について乙一五によれば、本件各登記がなされたのと同日に惠美子所有名義の建物に設定された控訴人を権利者とする所有権移転請求権仮登記、根抵当権設定登記(債務者は茂)及び停止条件付賃借権設定仮登記が、いずれも昭和五六年二月六日、同日放棄を原因として抹消されたことが認められるが、右事実のみから、右抹消登記手続に関連して、茂が控訴人に対して本件貸金債務を承認したと認めることはできず、他に右債務承認の事実を認めるべき証拠はない。

5  再々抗弁1、2(被控訴人の時効援用権喪失)について

証拠(乙四、八、二二ないし二五)によれば、茂は控訴人に対し、本件貸金の一部弁済として、昭和六二年一〇月二九日七万円、平成二年一一月六日二万三〇〇〇円を返済したことが認められる。

右認定事実によれば、茂は本件貸金債務の消滅時効完成後に一部弁済したのであるから、信義則上、消滅時効を援用することはできない。

しかし、このような時効完成後の弁済等による時効援用権喪失の効果は相対的であり、本件のように、債務者が被担保債権の消滅時効の援用権を喪失しても、その効果は物上保証人や物上保証の目的物件の第三取得者には及ばないと解すべきである。したがって、本件貸金債務の物上保証人である惠美子の死亡後、亡惠美子相続財産から物上保証の目的物件である本件土地を取得した被控訴人は、茂の消滅時効援用権喪失の効果を及ぼされることはない。

控訴人は、茂と惠美子の関係、惠美子が本件貸金の連帯保証人であること等の事情によれば、茂と共に惠美子も右消滅時効の援用権を喪失した旨主張するが、控訴人の主張するような諸事情があったとしても、惠美子が信義則上時効援用権を喪失したと解することはできない(仮に、惠美子が時効援用権を喪失したとしても、被控訴人が当然に時効援用権を取得できないとはいえない。)。さらに、被控訴人自身において、控訴人との関係で、信義則上右消滅時効の援用権を喪失したと見るべき事情を認めるべき証拠もない。

控訴人は、当審において、債務者の債務承認による被担保債権の時効中断の効力は物上保証人に及ぶが、時効完成後の債務者の時効援用権の喪失についても同様に解すべきである旨主張する。しかし、時効完成前における被担保債権の時効中断と時効援用権の喪失とを直ちに同列に論ずることはできない。すなわち、本件のような場合でいえば、被担保債権の債権者・債務者間に生じた中断事由による中断の効力が物上保証人にいかなる影響を及ぼすかが問題となるが、この場面では、物上保証人は時効により消滅すべき権利関係の当事者ではなく、その行為が消滅時効の完成又は阻止に影響を与えることもなく、ただ、将来時効が完成すれば時効利益を得られるといういわば受働的地位にあるにすぎない。これに対し、消滅時効が完成すると、物上保証人は、実体法上時効により消滅する権利関係の当事者でないことは時効完成前と同様であるが、固有の時効援用権を取得し、自らの主体的行為によって時効利益を享受し得るようになる点で時効完成前と異質な法的地位に立つ。したがって、時効中断効の人的範囲の論理を時効援用権の喪失にそのまま及ぼすことは相当とはいえない。むしろ、時効援用権喪失の根拠が信義則にあることからすれば、被担保債権の債務者がその個別的事情により時効援用権を喪失したとしても、そのことは物上保証人及びその者から物上保証の目的物件を取得した第三者の固有の時効援用権の存続、取得に何ら影響を与えることはないと解すべきである(大審院大正一三年一二月二五日判決・民集三巻五七六頁、最高裁判所昭和四二年一〇月二七日判決・民集二一巻八号二一一〇頁参照)。

したがって、控訴人の再々抗弁2の主張は採用できない。

そして、本件の根抵当権の元本確定時に本件貸金以外の被担保債権が存在したことを認めるべき証拠はないから、右債権が時効消滅する結果、根抵当権も消滅する。

6  本件の代物弁済予約及び停止条件付賃借権の存否について

これについての当裁判所の判断は、原判決九枚目表九行目から同枚目裏五行目までと同一であるから、これを引用する。

7  小括

以上によれば、控訴人は、本件各登記の登記保持権限を有しない。

四  結論

以上の次第で、被控訴人の本訴請求は理由があるから認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 河田貢 裁判官 佐藤明)

別紙登記目録

一 順位番号  甲区六番

原因    昭和五一年九月一六日代物弁済予約

権利者   控訴人

二 順位番号  乙区三番

原因    昭和五一年九月一六日設定

極度額   六〇〇万円

債権の範囲 金銭消費貸借取引、

手形貸付取引、

手形割引取引、

手形債権、小切手債権

債務者   中田茂

根抵当権者 控訴人

三 順位番号  乙区四番

原因    昭和五一年九月一六日停止条件付設定契約

条件    三番根抵当権確定債権の債務不履行

借賃    一ケ月一〇〇〇円

支払期   毎月末日

存続期間  効力発生の日より満二〇ケ年

特約    譲渡転貸ができる

権利者   控訴人

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