大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1986号 判決 1995年1月25日

控訴人(被告) 株式会社西天満総合開発

右代表者代表取締役 岩本欣也

控訴人(被告) 波多野商事こと 波多野栄一

右両名訴訟代理人弁護士 須田政勝

被控訴人(原告) 株式会社ビジネス・リサーチ

右代表者代表取締役 佐々木義次

右訴訟代理人弁護士 大江篤彌

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人ら

1. 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2. 被控訴人の請求を棄却する。

3. 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文同旨

第二、事案の概要

事案の概要は、原判決事実及び理由第二 事案の概要(原判決二枚目表九行目から同六枚目裏一一行目まで)のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目表九行目の「本件建物所有権」を「別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という。)の所有権」と改め、同五枚目表末行の「アルフこと」の次に「の」を加える。)。

第三、証拠関係<省略>

第四、争点に対する判断

一、被控訴人が本件建物につき所有権保存登記をするに至った経緯について

当裁判所の右の点についての認定は、原判決事実及び理由第三 争点に対する判断一(一)(原判決七枚目表四行目から同一三枚目裏一〇行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

二、被控訴人が本件建物につき取得した権利について

右認定事実によると、アルフは、平成四年一一月二四日作成の「譲渡担保契約書」及び平成五年二月一五日作成の「譲渡担保契約に関する追加契約書」に基づき、被控訴人との間で、アルフが、その被控訴人に対する借受金債務を担保する目的で、被控訴人に対し、本件土地建物の所有権を譲渡する旨合意し、本件土地については譲渡担保を原因とする所有権移転登記をし、本件建物についてはその完成と同時に直接被控訴人名義の所有権保存登記をしたものであること、アルフは、平成五年四月二日、被控訴人との間で、アルフが手形の不渡りを出したときには、アルフの被控訴人に対する借受金債務の履行期が到来すること(アルフは期限の利益を喪失すること)を前提として、その場合には、被控訴人が本件土地建物の所有権を自己に帰属させることとし、アルフは被控訴人に対して清算の請求をしないこととする旨合意したことを認めることができる。これによると、被控訴人は、本件土地建物につき、いわゆる帰属清算型の譲渡担保権を取得したものといえる。

三、明渡請求の当否について(その一)

1. 不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、目的不動産を処分する権能を取得し、この権能に基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で自己の所有に帰せしめること、又は相当の価格で第三者に売却等をすることによって、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもって自己の債権の弁済に充てることができるのであって、譲渡担保権者は、被担保債務が履行遅滞に陥った後においては、この目的不動産の処分権能の行使による譲渡担保権の実行の一環として、当該不動産を占有する債務者及び譲渡担保権者に対抗することのできる占有権原を有しない第三者に対し、当該不動産の明渡しを求めることができると解される。

もっとも、一般に、債権者と債務者が、譲渡担保契約を締結するに際し、非清算の合意をした場合であっても、債権者は、譲渡担保権を実行するに当たり、清算義務を免れず、帰属清算型の譲渡担保権者(債権者)は、譲渡担保の目的たる不動産の適正な評価額から債権額を差引いた残額を清算金として債務者に支払うことを要するのであって、債務者は、債権者が右清算金の支払又は提供をし、若しくは当該不動産の適正評価額が債務額を上回らない旨の通知をしない限り、受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるし、右不動産の明渡請求に対しては、特段の事情のある場合を除き、清算金の支払と引換えでなければ明渡しに応じない旨の抗弁を主張することができるというべきである。

2. 前記一の認定事実によると、アルフは平成五年四月下旬に第一回目の手形不渡りを出し、同年六月一〇日に二回目の手形不渡りを出したのであるから、遅くとも平成五年六月一〇日にはアルフの被控訴人に対する借受金債務は履行遅滞に陥ったといえる。また、証拠(乙二、三の一、二、矢田証言)によると、事案の概要三(二)1の事実を認めることができるが、前記一の認定事実によると、アルフは、被控訴人との間で、平成五年二月一五日、本件建物については、アルフ以外の者の占有使用は一切許されない旨の合意をし、同年四月二日、アルフが手形の不渡りを出したときには、本件建物を被控訴人に明け渡す旨の合意をしたことが認められるから、アルフが同月五日に控訴人会社に本件建物を賃貸した行為は、被控訴人との本件建物の譲渡担保契約における目的不動産の占有、使用に関する約定に反するもので、アルフが本件建物に関して有する権限外の行為であり、かつ、控訴人会社の賃借権の取得は、被控訴人の本件建物の所有権保存登記に遅れるものであるから、控訴人らは、これをもって、被控訴人に対抗することはできない。なお、控訴人らは、譲渡担保についても民法三九五条が類推適用されるべきであると主張する。しかし、債権者が、債権担保の手段として、抵当権を選択しないで譲渡担保を選択する理由の一つとしては、目的不動産の所有権を債権者に移転して、債務者による短期賃借権の設定を防止する狙いがあると考えられるところ、民法三九五条により保護される抵当権に遅れる短期賃借権についても詐害的なものが多く見られる現状のもとにおいて、右債権者の狙いは理由があるものとして尊重すべきであること、土地については債権者への所有権移転登記をすることにより、債務者による短期賃借権の設定を確実に防止することができるのに、賃借人が引渡しによって対抗力を取得する建物についてのみ短期賃借権の出現を認めるのは相当ではないことからして、譲渡担保については、民法三九五条が類推適用されないと解すべきである。

そうすると、譲渡担保権者(債権者)である被控訴人は、アルフの被控訴人に対する借受金債務(被担保債務)が遅くとも平成五年六月一〇日に履行遅滞に陥ったのであるから、その有する譲渡担保権の実行の一環として、その目的不動産である本件建物の明渡しを、被控訴人に対抗しうる権原を有しないで占有する控訴人らに対して求めることができるといえる。

なお、本件では、控訴人らから、アルフに対する清算金支払との同時履行の抗弁の主張はなされていないし、被控訴人には清算金支払義務がないことは後記四のとおりである。

四、明渡請求の当否について(その二)

仮に、帰属清算型の譲渡担保権者(債権者)は、原則として、債務者に対し清算金の支払又は提供をし、若しくは目的不動産の適正評価額が債務額を上回らない旨の通知をした後でなければ、譲渡担保権の実行として、債務者及び第三者に対して、当該不動産の明渡しを求めることができないと解すべきであるとしても、本件の場合、譲渡担保権者(債権者)である被控訴人は、次のとおり、清算金の支払義務を負わない特別の事情があり、かつ、右通知なくして譲渡担保権の実行ができる場合に当たると認められるから、前記のとおり被控訴人に対抗する占有権原を有しないで本件建物を占有している控訴人らに対し、本件建物の明渡しを求めることができるといえる。

すなわち、平成五年当時、本件土地建物の評価額が本件譲渡担保の被担保債務の額を上回るものではなかったことは客観的にも明らかであったといえる〔そのようにいえる理由は、原判決のこの点についての説示(原判決一五枚目表七行目の「前記一」から同一六枚目表六行目の「言うべきである。」まで)のとおりであるから、これを引用する〕ところ、前記一の認定事実に証拠(甲一一、山本証言、矢田証言、弁論の全趣旨)を総合すると、被控訴人は、平成五年四月二日、アルフから従業員の給料支払のための資金の融資を要請された際、アルフがその経営に行き詰まり、早晩手形の不渡りを出すであろうことを予期し、かつ、アルフの被控訴人に対する借受金債務の額は本件土地建物の時価を上回ると認識していたため、アルフに対し、アルフが手形の不渡りを出した時には、譲渡担保権を実行して本件土地建物の所有権を被控訴人に帰属させるので、本件土地建物を明け渡すこと及びアルフは被控訴人に対し清算金の請求権を有しないことを確認するよう求めたこと、アルフもまた、その被控訴人に対する借受金債務の額は本件土地建物の時価を上回ると認識していたため、被控訴人の右要請に応じて、被控訴人に対し、アルフが手形の不渡りを出した時には、本件土地建物を明け渡すこと及びアルフは被控訴人に対し清算金の請求権を有しないことを確認したこと、アルフはその後間もない平成五年六月一〇日までに手形の不渡りを二回出し、履行遅滞に陥ったことを認めることができる。このように、本件では、債務者が早晩履行遅滞に陥ることが見込まれる時期に、譲渡担保権者(債権者)と債務者とが、債務者が履行遅滞に陥った時には、当然譲渡担保権の実行がなされるものとし、債務者は清算金の請求権を有しない旨合意し、かつ、譲渡担保の目的不動産の評価額がその被担保債務の額を上回るものでないことが客観的にも明らかであり、譲渡担保権者(債権者)と債務者も、そのことを認識した上右の合意をしたものであって、債務者がその後間もなく履行遅滞に陥ったという事情があるのであるから、このような事情は、譲渡担保権者(債権者)が債務者に対する清算金支払義務を負わない特別の事情がある場合に当たるというべきであり、また、譲渡担保権者(債権者)は、債務者が履行遅滞に陥った後に、改めて当該不動産の適正評価額が債務額を上回らない旨の通知をしなかったといっても、本件では、右不動産の評価額がその被担保債務の額を上回らないことが客観的にも明らかであり、かつ、債務者が履行遅滞に陥った際、譲渡担保権者(債権者)により譲渡担保権の実行がされたこと及びそれによる清算金がないことを十分承知していたのであるから、右通知がなされなかったことだけで、譲渡担保権の実行としての右不動産明渡請求ができないと解するのは相当でないというべきである。

五、賃料相当の損害金について

当裁判所の右の点についての認定、判断は、原判決事実及び理由第三争点に対する判断四(原判決一七枚目裏八行目から同一八枚目表末行まで)のとおりであるので、これを引用する(ただし、原判決一八枚目表七行目の「甲」の次に「一、」を加える。)。

六、結論

以上によると、被控訴人の請求は、控訴人ら各自に対し、本件建物の明渡し及び平成五年六月一一日以降右明渡しずみまで一か月二四三万五〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める限度で理由があるので、この限度で認容し、その余は失当として棄却すべきである。したがって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 林泰民 谷口幸博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例