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大阪高等裁判所 平成5年(行コ)23号 判決 1994年6月28日

兵庫県尼崎市杭瀬北新町一丁目一番一二号

控訴人

佐伯正明

右訴訟代理人弁護士

豊島時夫

道下徹

兵庫県尼崎市西難波町一丁目八番一号

被控訴人

尼崎税務署長 林貞夫

右指定代理人

石田裕一

的場秀彦

佐藤晃男

川北孝

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成元年二月一五日付けでした同人の昭和六〇年分、同六一年分及び同六二年分の所得税の各重加算税の賦課決定処分のうち、同六〇年分につき一三〇万二五〇〇円、同六一年分につき六七八万三五〇〇円、同六二年分につき一八四三万円をそれぞれ超える部分を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

次のとおり原判決を訂正等し、控訴人の当審における主張を付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、それを引用する。

(原判決の訂正等)

1  原判決二枚目表八行目の「税額等」から同九行目の「いないから」までを「課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたものではないから、」に改め、同裏八行目の「九条」を削り、同九行目の「一項」の前に「九条」を加える。

2  同三枚目表一行目末尾の「同法」から同三行目の「一項」までを「所得税法施行令(昭和六〇年分及び昭和六一年分については、昭和六二年政令第三五六号による改正前のもの。昭和六二年分については、昭和六三年政令第三六二号による改正前のもの)二六条一項」に、同九行目の「同法施行令」を「所得税法施行令」に各改める。

3  同四枚目裏三行目の「平成三年四月一五日付け」を「平成三年三月二九日付け」に、同一〇行目の「確定申告書」を「納税申告書」に各改める。

4  同五枚目表一行目末尾に「。」を、同八行目の「課税標準の」の次に「計算の」を各加え、同裏一〇行目の「事業所得」を「所得」に改める。

5  同六枚目裏八行目及び九行目を次のとおり改める。

「2 本件において、控訴人が隠ぺい行為等に当たる行為をし、その行為に基づき納税申告書を提出したといえるかどうか。」

6  同六枚目裏末行の「本件係争各年分」を「本件各年分」に改め、同七枚目裏一行目の次に行をかえて次のとおり加える。

「控訴人に被控訴人主張の認識及び意思があったことは争わないが、そのことは重加算税の賦課要件には関係がない。

控訴人が被控訴人主張の資料の保存をせず、計算もしなかったことは争わないが、控訴人には右資料の保存義務はなく、取引先には資料が存在している。また、計算は誰にでもできることであるから、それをしないことは、隠ぺい行為等とは関係がない。

顧問税理士は控訴人の履行補助者であって、被控訴人の履行補助者ではないから、控訴人が同税理士に真実を告げなかったとしても、控訴人が被控訴人に対し、虚偽の答弁をしたことにはならない。」

7  原判決添付の申告及び賦課決定の内容一覧表中の昭和六〇年ないし同六二年分の各「雑所得の金額」欄の「賦課決定」の行の「28,912,466」、「108,687,920」及び「210,962,896」をそれぞれ「(28,912,466)」、「(108,687,920)」及び「(210,962,896)」に改める。

(控訴人の当審における主張)

1  法六八条一項の規定にいう「隠ぺいし、又は仮装し」とは、積極的に税務調査を困難にするような何らかの操作をすることを意味するところ、本件においては、株式等売買利益計算の基礎となるのは、その売買事実であるから、いわゆる隠ぺい、仮装がなされたというためには、売買名義、売買事実等について、隠ぺい、仮装がなされることを要する。しかるに、原判決は、何らこのような事実を認定することなく、控訴人の行為が隠ぺい行為等に当たると判断しており、これは、隠ぺい行為等に関する最高裁判所その他の裁判所の判断や学説等に反するものである。

2  被控訴人は、原審以来、租税を免れる目的で故意に虚偽の内容の申告書を提出する行為が、隠ぺい行為等に当たる旨を主張し、控訴人は、詳細な主張をしてこれを争っていたところ、原判決は、この争点については「判断するまでもなく」として、判断を遺脱している。

第三証拠

原審及び当審各訴訟記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、それを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は、いずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり原判決を訂正等し、控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」欄に記載の認定及び判断のとおりであるから、それを引用する。当審で新たに提出された各書証の記載中、右の認定・判断に沿わない部分は、後掲各証拠に対比して採用しない。その他の当審における証拠調べの結果は、右の認定・判断を左右するに足りるものではない。

(原判決の訂正等)

1  原判決七枚目裏八行目及び九行目を次のとおり改める。

「一 本件において、控訴人が隠ぺい行為等に当たる行為をし、その行為に基づき納税申告書を提出したといえるかどうか。」

2  同一〇行目の「証拠によれば、」を「弁論の全趣旨及び後掲各括弧内の証拠によれば、」に改める。

3  同八枚目表二行目の「通じて」を「精通して」に、同三行目から四行目へかけての「原告の顧問税理士」を「昭和四〇年ころ控訴人及びその経営する会社の顧問となった税理士」に、同六行目の「乙第四号証、第一一号証」を「乙第四ないし第七号証、第一一号証、第一三号証」に、同裏六行目から七行目へかけての「二〇〇回、四〇〇回、六〇〇回」を「一七一回、二五五回、三一二回」に、同行末尾の「一回」を「一日」に各改める。

4  同九枚目表一行目の「第一〇号証」を「第一〇号証、第一四号証」に、同裏一行目の「第一一号証」を「第一一号証、第一五号証」に各改める。

5  同一〇枚目表五行目の「かかわらず、」の次に「右課税要件を超えていることを十分認識しながら、右取引による売買益を所得計算から故意に除外する意思をもって、」を加える。

6  同一一枚目表二行目の「区別し、」の次に「中には過誤により口座の取違えがなかったわけではないものの、」を、同九行目冒頭の「九号証」の次に「、第一一ないし第一四号証」を、同行の次に行をかえて次のとおり各加える。

「以上のとおり認められ、項第三六号証、第四〇号証、第四二、第四三号証のうち、右認定に沿わない部分は、前掲各証拠に対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」

7  同一二枚目表七行目冒頭の「したがって」の前に「そして、法六八条一項は、右の措置を実効あらしめるため、納税者が同条項所定の行為をしていたときは、いわゆる重加算税を課することを定めたものである。」を加え、同裏四行目の「独自の考えから」を削り、同七行目の「隠し、」を「隠匿し、」に改める。

8  同一三枚目表一行目の「作成させ」を「作成させたうえこれを所轄税務署に提出し」に改め、同三行目の「納税者」の次に「の自主的な申告」を、同八行目の「隠ぺいし、」の前に「その」を、同末行の「本名で」の前に「(1)」を各加え、同裏二行目の「原告に」から同七行目末尾までを「(2)控訴人に申告すべき多額の株式等の売買益の認識及び脱税の意思があったことは、重加算税の賦課要件には関係がない、(3)控訴人には資料の保存義務はなく、取引先には資料が存在している、また、計算は誰にでもできることであるから、それをしないことは、隠ぺい行為等とは関係がない、(4)顧問税理士は控訴人の履行補助者であって、被控訴人の履行補助者ではないから、控訴人が同税理士に真実を告げなかったとしても、控訴人が被控訴人に対し、虚偽の答弁をしたことにはならない、などと主張する。」に、同九行目の「前述のとおり、それを」を「しかし、このことは控訴人において、法六八条一項所定の隠ぺい行為等をしたとするに必ずしも妨げとなるものではなく、また、前掲各証拠によれば、控訴人は、株式等売買益についての申告意思を有しなかったことから、本件の株式等の取引に関する証券会社からの売買報告書等の資料の保存を全くしていなかったことが明らかであるほか、前に認定、説示したところによれば、右の点を」に各改め、同一〇行目の次に行をかえて次のとおり加える。

「控訴人に申告すべき多額の株式等の売買益の認識及び脱税意思の存在したことが、隠ぺい行為等の成否に影響を及ぼすことは極めて当然というべきであるから、これが重加算税の賦課要件に関係がないということはできない。

自主的な申告納税方式をとる所得税法の趣旨に照らせば、別に述べた本件の事実関係・説示のもとにおいては、たとえ控訴人に資料の保存義務がなく、取引先に資料が存在し、あるいは、計算は誰にでもできることであるからといって、控訴人自身が資料を全く保存あるいは提出せず、計算もしなかったことを、隠ぺい行為等と関係のないこととみるわけにはいかない。」

9  同一四枚目裏八行目の「原告の」から同九行目の「当たるから、」までを「本件において、控訴人は、法六八条一項の隠ぺい行為等に当たる行為をし、その行為に基づき納税申告書を提出していたものというべきであるから、」に改める。

(控訴人の当審における主張に対する判断)

1  控訴人は、本件において、いわゆる「隠ぺい、仮装し」とは積極的に税務調査を困難にするような何らかの操作をすることを意味し、それらがなされたというためには、株式等の売買名義、売買事実等について、隠ぺい、仮装がなされることを要する旨主張する。法六八条一項の規定にいう事実の「隠ぺい」とは、納税者がその意思に基づいて、特定の事実を隠匿しあるいは脱漏することを、事実の「仮装」とは、納税者がその意思に基づいて、特定の所得、財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいうものと解すべきであるが、必ずしも控訴人主張のような「操作」をすることを必要としないものと解するのが相当である。これを本件についてみると、前認定の事実関係から明らかなとおり、控訴人は、確定的な脱税の意思に基づいて、自己の株式等の売買により所得があったことを隠匿し、その所得部分を脱漏させて、ことさらに所得金額を過少にし、内容虚偽の記載をした確定申告書を顧問税理士に作成させて提出していたのであるから、控訴人において右条項にいう隠ぺい行為等をした(少なくとも同条項の規定にいう事実の「隠ぺい」をした)うえ、それに基づく納税申告書を提出していたものと認めるに妨げない。したがって、右事実を認定したうえ、控訴人の行為が隠ぺい行為等に当たる旨を判示した原判決には、控訴人主張の違法はなく、控訴人の引用する各裁判例も、以上の当裁判所の説示と異なる判示をしているものではない(なお、控訴人が項第一九号証、第二〇号証として提出する大阪高等裁判所平成四年(行4)第一二、第一三号各所得税重加算税賦課決定処分取消請求控訴事件の判決は、いずれも納税者が各係争年度の営業につき正常な会計帳簿類を作成記載しており、その収益・資産を帳簿から除外したり、経費・負債を過大に計上したりすることはなく、取引記録、各期間の貸付金・利息の入出金を集計した記録はそろっていた事案に関し、納税者の過少な申告が、隠ぺい、仮装の行為による不正な経理に基づくものと認めるに足りる証拠はないとして、税務署長のした処分を取り消したものであって、本件とは事案を異にし、本件に適切ではない。)。控訴人の主張は採用することができない。

2  控訴人は、原判決は、租税を免れる目的で故意に虚偽の内容の申告書を提出する行為が、隠ぺい行為等に当たるかどうかについて、判断を遺脱している旨主張する。しかし、本判決が訂正等のうえ引用する原判決の判示によれば、原判決は、控訴人が、本件各年分の株式等の売買による所得を申告しなければならないことを熟知しているにもかかわらず、確定的な脱税の意思に基づいて、右の取引資料を全く保存せず、確定申告書作成のために自ら依頼した税理士に対しても課税要件を充足する株式等の売買による所得があったことを隠匿し、右税理士から所得に関する資料の提出を求められたのに対し、自己の他の種類の所得についての資料を提出しながらも、株式等の取引に関する資料を提出せず、その所得部分を脱漏させて、ことさら所得金額を過少にした内容が虚偽の申告書を右税理士に作成させたことが、法六八条一項にいう隠ぺい行為等に当たる旨を判示したうえ、この内容虚偽の確定申告書を提出することが、同条項の「その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当する旨を逐次判示しているのであるから、原判決は、同条項が定める重加算税賦課のために必要な要件たる事実関係につき、これを過不足なく認定、判示しているものということができる。したがって、原判決に控訴人主張の不備、違法はない。控訴人の右主張は採用することができない。

第五結論

よって、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 竹原俊一 裁判官 渡邊壯)

更正決定

控訴人 佐伯正明

被控訴人 尼崎税務署長

右当事者間の当庁平成五年行コ第二三号所得税の重加算税賦課決定処分取消事件につき、当裁判所が平成六年六月二八日になした判決中に明白な誤謬があるので、職権により、主文のとおり決定する。

主文

右判決中、第二 事案の概要 7の三行目に「28,912,466」、同四行目に「(28,912,466)」とあるのを、それぞれ「26,912,466」、「(26,912,466)」と更正する。

平成六年八月二二日

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 仙田富士夫

裁判官 竹原俊一

裁判官 渡邊壯

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