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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)1559号 判決 1994年6月29日

北海道河東郡音更町新通二〇丁目三番地

控訴人

よつ葉乳業株式会社

右代表者代表取締役

牧野靖平

右訴訟代理人弁護士

山本公定

武真琴

京都市伏見区深草大亀谷金森出雲町一番地の五二

被控訴人

株式会社 よつば

右代表者代表取締役

野口八郎

右訴訟代理人弁護士

谷口由記

右輔佐人弁理士

杉本丈夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  申立て

控訴人は、

「原判決を取り消す。

被控訴人は、その営業について「よつば」の表示を使用してはならない。

被控訴人は、和洋菓子の包装紙、化粧箱、しおりに「よつば」及び「四葉」並びに「花よつば」の各表示を付し、又は和洋菓子の包装紙、化粧箱、しおりにこれらの表示を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。

被控訴人は、京都地方法務局昭和六一年六月一九日付けをもってした被控訴人設立登記及び大津地方法務局彦根支局同年一〇月七日付けをもってした被控訴人支店設置登記のうち「株式会社よつば」の商号の抹消登記手続をせよ。

被控訴人は、滋賀県愛知郡愛知川町大字東円堂字土武五三三番地五所在の事務所、工場玄関の塀に掲示した「株式会社よつば」のプレートを撤去せよ。

被控訴人は控訴人に対し、八七〇万円及びこれに対する平成三年五月二四日から支払済みまで年五分の割合による金額を支払え。」

との判決並びに仮執行宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  主張

原判決中事実摘示の「第二 当事者の主張」に示されているとおりである。当審の補充主張を次に示す。

三  控訴人の補充主張

1  周知性

原判決は、被控訴人設立前に、「よつ葉」の標章が特定業者の製品のものであることが、近畿地方で周知であったとは認められないとした。しかしながら、控訴人は、昭和六一年初めころには、大阪、兵庫を中心とした近畿地方の消費者グループなど約二〇団体、三万世帯強、約一〇万人に「よつ葉」の商品を供給するなどしていたので、この認定は誤りである。仮に被控訴人設立以前の段階で周知でなかったとしても、遅くとも本訴の口頭弁論終結時には「よつ葉」の標章は周知となっていた。

2  商標の類似

(一)  称呼類似

被控訴人の「花よつば」という商標は、漢字一字の「花」と平仮名三文字の「よつば」という語を順に組み合わせた構成となっている。「花よつば」という語は既成の語でなく造語であり、二つの必然性を持たない語の寄せ集めである。この構成からは、「はなよつば」という称呼だけでなく、「よつば」との称呼が生じるとみるのが自然である。

原告商標の称呼は「よつば」であることからすると、被控訴人の商標が原告商標に類似することは明らかである。

(二)  観念類似

「花よつば」のうちの「花」は日常生活に頻出するが、「よつば」は、自然界に出現する頻度が極めて小さく、幸運を表すシンボルとされている植物を示す。したがって、「よつば」の語も、日常生活に使用される頻度は極めて小さい。そうすると、「花よつば」の語においては、一般人の観念からして「よつば」が強く認識され、「花」の語は無意味な接頭語か、「よつば」の語の観念を強調するための接頭語として働いている。

結局、「花よつば」の観念は、「よつば」と感得され、観念においても、被控訴人の商標は原告商標に類似する。

(三)  被控訴人の他の標章

被控訴人製造販売の和菓子には、原判決別紙被告営業表示等目録のCにある「四葉謹製」という表示が付されているほか、しおり等には、製造者の表示として、同目録のDのように、「株式会社よつば」という被控訴人の商号が小さく印刷されている。

このCの表示は原告商標と観念、称呼において同一であり、Dの表示も、原告商標と、外観、観念において同一である。したがって、C、Dの表示は原告商標権を侵害する。

3  控訴人の営業表示及び商品表示と被控訴人の標章の類似

右C、Dの表示を「花よつば」と併用することは、「花よつば」の「よつば」の部分を自然と強調するものであるし、被控訴人の製品のしおりの中には、他にも「花」という語が接頭語として使用されている商標の記載が存する。これらと「花よつば」を区別するのは、「よつば」にほかならない。この点からしても、被控訴人の「花よつば」の商標は、原告の営業表示及び商品表示である「よつ葉」に類似する。

4  被控訴人の善意性(否定)

被控訴人の代表者は、(株)タカラブネに長年在勤し、その代表者の地位まで務めた。同社は控訴人の「よつ葉」と表示された商品を仕入れ、原料として使用していた。したがって、同人は、控訴人の商品表示である「よつ葉」の存在を旧来から熟知していたはずである。

四  被控訴人の補充主張

被控訴人は、「花よつば」の標章について、指定商品三〇類、菓子、パンとして平成元年一二月五日に商標登録出願をし、平成四年二月一二日に出願公告となり(平四-一三一二〇)、同年一〇月三〇日に商標登録第二四六二九七九号として登録された。特許庁の審査においても、「花よつば」の標章は、本件原告商標に類似しないものとされたことになる。

五  当裁判所の判断

1  前提事実

本件の前提事実は、原判決一〇枚目表三行目から一三枚目表七行目にかけて示されているとおりである。ただし、一〇枚目裏四行目の「込められた」を「込められたものとして」と改める。

2  「よつ葉」の商品名の周知性

甲第九号証、甲第二六、第二七号証、第二八号証~第四二号証の各一、二及び検乙第一号証によると、特に昭和六一年以降、「よつ葉牛乳」という商品名が、北海道産の高品質の牛乳として、「太陽」、「きょうの料理」など全国規模で発売されている様々な雑誌に紹介され、平成三年には大阪市中之島付近のビルの屋上に「よつ葉牛乳」の商品名を宣伝する広告塔が設置されるに至っていること、そして、ここ一、二年の間には、「よつ葉乳業」という会社の「よつ葉牛乳」、「よつ葉乳業」のチーズとして、同様の雑誌等に紹介されてきていることが認められる。

これらの事実によれば、「よつ葉」の名称は、少なくとも、原告が製造、販売する牛乳ないし乳製品の商品名として、当審口頭弁論終結時(平成六年四月二二日)においては、近畿地方においても一般消費者に周知のものとなっており、「よつ葉乳業」の営業表示も、同様周知となっているものと認めることができる。

3  混同のおそれの有無

しかしながら、控訴人が製造、販売する商品として周知のものとなっているのは、牛乳ないし乳製品であり、あるいはたかだか控訴人が製造、販売する周辺の商品であるゼリーなどのデザート類までなのに対して、被控訴人が「よつば」の文字を含む標章を付している商品は和菓子である(原判決一一枚目裏以降の「2」の項)。そして、「よつば」という語は、広辞苑、辞林21などの最新の代表的な国語辞典にも登載されていることからも明らかなように、「四枚ある葉」というようなほどの意味の普通名詞であることからすると、競業する分野に属さない製品の間で、それぞれ「よつば」の語を含む標章が使用されることのあるのは、、一般消費者としても理解できることというべきである。控訴人が「よつ葉」の標章を、「健康と幸福のシンボルという意味が込められたものとして」選択したことは前認定のとおりであるが(原判決一〇枚目裏四行目)、それは、控訴人の業態が北海道を基盤とした乳業であることから、「北海道」「乳牛牧場」から一般的にも連想しやすい「クローバー」における「幸福のシンボル」としての「四つ葉のクローバー」を通じて、「よつば(四つ葉)」に「健康と幸福のシンボル」としての意味合いを込めたものであって、右控訴人の業態を離れてみれば、もはや一般的に「よつば」の語意が、控訴人が「よつ葉」の標章に込めた意味にのみ通用するものでないことは明らかである。

控訴人が、乳製品を中心とする製品のみならず、和菓子の製造、販売部門にまで進出しているという誤解を一般消費者に与える事実が認められれば、別論であるが、控訴人の商号が「よつ葉乳業株式会社」となって、「乳業」と特定されており、前記のように、乳製品の製造、販売会社として周知となっていること(前記2の冒頭に掲げた証拠によると、控訴人は高品質の牛乳を製造する会社であることが、商品意識の高い消費者を中心として一般に広く知られていることが認められる)からすると、一般には乳製品を成分として含むものではなく、高品質の乳成分とは無縁のものと一般には認識されている和菓子の製造、販売にまで、控訴人が進出していると一般消費者が認識するものとは容易に認め難い。

しかも、控訴人の「よつ葉」という商品名は、日本字で表記する際には、一貫して「よつ」を平仮名、「葉」を漢字で表すという態様にあり、被控訴人が商品表示として付している「花よつば」とは、その表記方法で明らかに異なるものがある。最近では、控訴人の商品表示に「YOTSUBA」という表記もあることが、甲第三六、第三八号証の各二、二などから明らかであるが、この点は右の判断に影響しない。被控訴人の商品には、「四葉謹製」との表示も付され、また「株式会社よつば」との表示も商品に付されているが、この表記も、控訴人の商品表示ないし営業表示である「よつ葉乳業株式会社」中の「よつ葉」の表記とは、全文字が漢字で表記されるか(「四葉謹製」)、全文字が平仮名で表記される「よつば」を含むものとして(「株式会社よつば」)、表記方法において明らかに異なっている。

「よつば」は普通名詞にすぎず、また業種の相違があることを前提にした上で、右のような商品表示の態様の相違をみてみると、被控訴人の和菓子に付された「花よつば」などの商品表示(原判決別紙被告営業表示等目録のB、C、D)に、控訴人の「よつ葉」という商品表示との混同のおそれがあるものということはできない。

和菓子以外に、控訴人の商品表示と混同のおそれがある表示がされることについての具体的な主張、立証はないが、被控訴人の商号が「株式会社よつば」であることからすると、和菓子以外の被控訴人が製造、販売する商品にこの商号が付されて、商品表示とされることは推測されるところである。そして、控訴人は、被控訴人の商号登記自体にも、控訴人の営業表示と混同のおそれがあるとし、被控訴人が「株式会社よつば」のプレートを掲げる営業表示についても混同のおそれを主張している。しかし、右にみたような表記態様の相違からすると、被控訴人の商号使用に、「よつ葉」ないし「よつ葉乳業」という控訴人の商品表示、営業表示との混同のおそれはないものといわなければならない。

4  不正競争行為を前提とする請求についての結論

以上のところからすると、控訴人主張に係る被控訴人の商号・営業表示及び商品表示が、控訴人のそれらと混同を生じさせるものとは認められないと判断すべきである。これを前提とする不正競争防止法及び民法七〇九条に基づく控訴人の請求は、その余を判断するまでもなく理由がない。

5  商標の類否と商標権に基づく請求

(一)  控訴人が原告商標権(原判決四枚目裏の「5(一)」の項)を有していることは当事者間に争いがなく、被控訴人が、原判決別紙被告営業表示等目録のBの態様の標章(「花よつば」)を付した和菓子を製造、販売していることは、前記引用の原判決が示しているとおりである。そして、被控訴人の商品は、原告商標権の指定商品である「菓子、パン」に属する。

しかしながら、原告商標権に係る商標(本件商標)は、「よつば」という文字を片仮名と平仮名で表記したものであるところ、「よつば」という言葉は普通名詞であり、その構成中に特に注意をひく部分はないので、その全体が本件商品の要部である。他方、被控訴人の「花よつば」の標章は、「花」という漢字と「よつば」という平仮名を組み合わせたもので、その両方ともが普通名詞であり、この二つを分解して個々にみるときには、特徴となる点を認めることができない。したがって、被控訴人の右標章の要部も、全体としての「花よつば」が要部となる。

これを前提にしてみるのに、本件商標は、「よつば」と称呼され、被控訴人の標章は「はなよつば」と称呼されるのであって、その間に類似するところはないというべきであるし(同一の「よつば」の称呼部分は普通名詞としての称呼なので、類否を検討する際には、その同一性は無視すべきである)、観念上も、「花」の観念が被控訴人の標章に付加されることにより、その類似性は否定されるものというべきである。「花」が付加されることにより、外観上も両者の類似性は否定される。

したがって、「花よつば」の標章が、本件商標と類似するものとは認められない。

(二)  「四葉謹製」との表示(原判決別紙被告営業表示等目録のC)は、その観念からすると、「四葉」という業者が謹んで製造したという意味であり、「四葉」が商品名というようには観念されないので、本件商標と観念が類似するものでないことは明らかである。また、「四葉」の部分が商品名とは観念されないところからすると、これを商標とみた場合、その称呼は「よつばきんせい」となるものと認められるし、片仮名と平仮名各三文字で表記された本件商標と、漢字四文字の組合せに成る「四葉謹製」との外観の相違は明らかである。

結局、「四葉謹製」の表示も、本件商標に類似するものとは認められない。

(三)  「株式会社よつば」との表示(原判決別紙被告営業表示等目録のD)は、その隣に被控訴人の事業所の住所を付記したものであって製造者の表示であることが明らかである。したがってこれが、商標法にいう「商品又は商品の包装に標章を付する行為」といえるか疑問の余地があるが、仮にこれを肯定するとしても、住所を付記した表示態様からすると、一般消費者はこの表示をもって、「よつば」という商品名のものとは理解せず、「株式会社よつば」が製造したものという意味(観念)でこの表示を認識するものと認められる。このような観念を生じさせる表示については、称呼及び外観の類否を検討するまでもなく、「よつば」という観念のみを生じさせる本件商標と類似するものではない。

(四)  結局、控訴人主張の被控訴人の標章は本件商標に類似するものということはできず、商標法に基づく控訴人の請求も理由がない。

なお、控訴人は他の商標権の存在も主張するが(「YOTSUBA」、「よつ葉」という登録商標。控訴人平成五年一二月一六日付け準備書面)、これは、本件商標と被控訴人の標章とが類似することについての事情を述べているにとどまり、右各登録商標の商標権に基づく新たな請求を追加しているわけではないので、これらの登録商標と被控訴人の標章との類否については判断の限りではない。

六  結論

控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山﨑杲 裁判官 塩月秀平)

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