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大阪高等裁判所 平成4年(行コ)41号 判決 1995年7月26日

大阪市城東区鴫野東三丁目二九番五号

控訴人

濱田禮二郎

大阪市城東区中央二丁目一三番二三号

被控訴人

城東税務署長 北川啓三

右指定代理人

巖文隆

白木修三

松本正信

桑名義信

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

巖文隆

白木修三

松本正信

主文

一  本件控訴及び控訴人が当審で拡張した請求をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人城東税務署長が控訴人の相続税につき平成元年二月七日付でした更正処分のうち、控訴人の納付すべき相続税額を一〇〇二万四〇〇〇円として計算した額を超える部分を取り消す。

3  被控訴人国は控訴人に対し、金九四二万三四〇〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(金五〇四万〇三〇〇円とこれに対する附帯請求を超える部分は、当審において請求が拡張された。)

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

一  要旨

1  本件までの経緯(争いがない)

(一) 昭和六二年四月二〇日、訴外濱田彌一(以下「彌一」という。)が死亡した。

彌一の親族関係は、原判決添付別紙相続関係図のとおりであり、いずれも同人の子である控訴人、濱田愛子及び濱田仁三郎の三名(以下「相続人ら」という。)が、彌一の財産を相続した(以下「本件相続」という。)。相続人らの法定相続分は各三分の一である。

(二) 本件相続の相続税に関する申告、更正の請求、更正処分及び不服申立の経緯は原判決添付別表一(以下、原判決添付の別表は単に「別表一」のように表示する。)の記載のとおりである。

(三) 別表一の「更正(第二次)」欄記載の更正処分(以下「原処分」という。)によって、控訴人が納付すべきとされた相続税二七一四万九〇〇〇円は全部納付済みである。

2  本件の要点

本件は、控訴人が、原処分には相続財産の範囲及びその評価を誤った違法があり、本件相続について控訴人の納付すべき正当な相続税額は六〇万〇六〇〇円である、旨主張し、原処分のうち、控訴人の納付すべき税額が一〇〇二万四〇〇〇円(別表一「更正の請求(第二次)」欄記載の控訴人の更正請求税額)を超える部分の取り消しを求めるとともに、不当利得返還請求権に基づき、被控訴人国に対し、右税額一〇〇二万四〇〇〇円と控訴人の主張する相続税六〇万〇六〇〇円との差額九四二万三四〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている事案である。

二  被控訴人らの主張

被控訴人らの主張は、次のとおり付加、訂正及び削除するほか、原判決三枚目表六行目から同七枚目表三行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決三枚目表六、七行目の「被告城東税務署長」をいずれも「被控訴人ら」に改め、右引用にかかる部分中の「選定者」をすべて削除し、「原告ら」を「相続人ら」にすべて改め、同四枚目裏三行目の「家屋番号」の次に「天王田町二四三の」を加え、同五枚目表五行目の「一三〇万七八四一円」を「一三〇万七八一四円」と、同七枚目表三行目の「金額となる。」を「金額となり、控訴人の納付すべき相続税額は三〇六四万二一〇〇円となる。」と改める。

三  控訴人の主張

1  被控訴人らの主張に対する認否

(一) 被控訴人らの主張(一)(1)<1>(宅地等)のうち、別表四の順号(以下、別表四の順号を単に「順号」という。)7、9及び11以外の宅地等が本件相続にかかる相続財産(以下「本件相続財産」という。)の範囲に含まれること、16を除く部分の宅地等の利用状況が、別表四の「利用状況」欄記載のとおりであることは認めるが、その評価については争う。なお、同(一)(1)冒頭の評価方法も争う。

(二) 同(一)(1)<2>(家屋)のうち、当該家屋が相続財産であることは認めるが、その評価は争う。

(三) 同(一)(1)<3>(有価証券)は争う。

(四) 同(一)(1)<4>(預貯金)は、三万七九〇六円の限度で認める。

(五) 同(一)(2)(債務等)は認める。

(六) 同(一)(3)(贈与加算)、同(一)(4)(課税価格)は争う。

2  控訴人の反論

(一) 反論の要点

宅地等のうち、順号7、9の宅地は被相続人の所有ではなく、順号11の土地につき被相続人は借地権を有していない。その余の宅地等の評価額は、本判決添付別表八記載のとおりであって、その合計は六四七五万六四六四円となり、そこから後記(三)(2)カ記載の必要経費を控除した四三六七万八二三四円がその余の宅地等の課税価額である。これに預金三万七九〇六円を加え、債務一三〇万七八一四円を控除した四二四〇万八三二六円が本件相続財産の総額である。

右の本件相続財産の総額に対する控訴人の納付すべき相続税額は、六〇万〇六〇〇円であり、その計算経過は本判決添付別表九記載のとおりである。

控訴人の右主張の詳細は、次項以下のとおりである。

(二) 宅地等の範囲

順号7、9及び11の宅地等が本件相続財産に帰属しない理由は、以下のとおりである。

(1) 順号9の宅地のうち、濱田きく名義の家屋(所在地鴫野東三丁目一六六番、家屋番号二九〇五番一。以下「きく家屋」という。)の敷地部分について

きく家屋の敷地部分は、相続開始前、きく家屋が新築された際に、彌一から濱田きく(以下「きく」という。)に贈与されているから、本件相続財産ではない。

(2) 順号7、9の宅地のうち、控訴人名義の家屋(所在地鴫野東三丁目一六六番、家屋番号二九〇五番。以下「控訴人家屋」という。)の敷地部分について

控訴人家屋の敷地部分は、昭和三八年ころ、彌一から控訴人に贈与されたものであり、本件相続財産ではない。

仮に、右贈与が認められないとしても、彌一は控訴人に対し、昭和三八年ころ、借地権を設定している(借地権の贈与)から、自用地でない。なお、それが使用借権の設定であったとしても、夫婦、親子間で土地の貸借が行われた場合は、当時の国税局の取扱いでは、借地権の贈与が行われたとみなして課税する取扱いであった。

(3) 順号11の借地権につき

順号11の土地は、井戸の埋立跡を庭地の一部として借りていたものであり、彌一に借地権はない。

(三) 宅地等の評価

(1) 控訴人主張の要点

控訴人の宅地等の評価に関する主張の要点は、本判決添付別表八に記載のとおりであって、順号5及び21の自用地のみ有額の評価を受け、その余の宅地等の評価額は零であり、結局、本件相続については、宅地等の相続税評価額は、四三六七万八二三四円と主張するものである。

(2) 個別的問題点

ア 評価の基準等について

およそ、通達は法規の性質をもたないし、評価基本通達及び評価基準が公平性、合理性を有するとは限らない。

そして、順号21を除く宅地等は、その面する道路の状況やその環境、特に鉄工所、紙函工場、餠付工場等が存在し、その騒音の激しい低級住宅地内に存すること等に照らせば、その路線価は、環境のはるかに良い城東区内の他の宅地の路線価と比較すると、均衡がとれていない。

通達に基づくところの路線価が時価よりも大幅に低いことは周知の事実であり、売買価格は常に路線価を大幅に上回るものである。したがって、個別的な取引事例が路線価を上回ったとしても、その評価が正当であったということにはならず、路線価による評価は、少なくとも同一都市間で、公平性、合理性を具有していることが必要であり、被控訴人らは、当該土地の具体的状況に応じた路線価の均衡性、整合性を売買実例をもって証明する義務がある。

イ 貸地の評価について

順号1ないし4、8、12、14、15及び17ないし20の宅地は、貸地であるところ、貸地の所有権は市場性及び換金性(処分性)に欠けており、賃貸借の終了も困難であり、また、地代は著しく低く、しかも、その改訂も困難であるから、これら貸地の価格を自用地の四割相当額と評価するのは不合理である。

右の観点からすると、およそ第三者が底地を購入する事例は少なく、貸地の評価は収益還元方式によらざるを得ず、この方式により貸地の価格を評価すれば、自用地の五パーセントをもって相当と評価される(収益還元方式による控訴人の主張の詳細は、原判決七枚目裏三行目から同一〇行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。)から、右の宅地等も自用地の五パーセント程度、せいぜい一〇パーセント程度のものと評価すべきである(なお、相続人らは、順号17、同20の土地を本件相続開始後、天理教網城分教会に相当の価格で譲渡しているが、それは、右教会は資金が豊富なうえ、宗教法人として無税であったという極めて例外的事情が存したためであり、これを一般化すべきものでない。)。

一方、借地権割合が三〇パーセント未満の借地権は、相続税または贈与税の課税価格に算入しないこととされている。

したがって、借地権価格が三〇パーセント以上のときにも、三〇パーセント相当額を基礎控除のうえ、その価格を評価すべきである。借地権のみならず、底地権(借地に対する底地割合)についても同様に三〇パーセント相当額を基礎控除すべきである。

そうすると、右の宅地等の評価額はすべて零である。

ウ 自用地の評価について

a 順号5の宅地については、城東区内の他の宅地に比し冒頭「ア」指摘のとおり地理的に少なくとも二〇パーセント以上の減価が必要な地帯にあるうえ、南側及び西側の道路の幅員が狭いことから、その相続税評価額は、本判決添付別表八順号5記載の価格五六九万一八四九円を超えることはない。

b 順号21の宅地については、下水処理施設に隣接する土地であって、付近住民に下水処理による悪臭と不快感を与えるため、その周辺の不動産の価値は著しく減殺され、その相続税評価額も同様に減殺されるべきであるから、その評価額は、本判決添付別表八順号21記載の価格五九〇六万四六一五円を超えることはない。

c なお、順号16の宅地は避難路であって、自用地でないから、その相続税評価額は、私道と同様に零である。

エ 借地の評価について

順号11の貸借土地については、借地権割合が三〇パーセント未満の借地権と同様に評価すべきところ、前記イ記載の基準にしたがうと、その相続税評価額は零である。

オ 贈与地の評価

順号7、9の宅地につき、彌一からきくや控訴人に対する贈与が認められないとしても、使用貸借契約は存在した。この契約に基づく使用借権は長期間安定した利用権であり、借地権とは特に大きな相違はなく、前記「イ」記載の基準に照らし、右の宅地の評価額は右契約の存在により大幅な減殺を受け、その相続税評価額は、零に近いものである。

カ 宅地評価における必要経費の考慮

相続財産の評価については、全ての対象財産について一律公平な取扱いを行うべきところ、預貯金の相続税評価においては、既経過利息にかかる源泉徴収税額を控除していること、一方、宅地等の時価とは不特定多数人間の自由市場における換金価値(処分価格)をいうことから、宅地等の評価においても、その売却した場合の必要経費である不動産取得費、譲渡所得税、同住民税及び仲介手数料相当額を控除して評価額を算定すべきである。本件においても、右の必要経費として自用地(順号5、21)の価格から相当額を控除すると、右自用地の合計価額六四七五万六四六四円の〇・六七四五倍に相当する四三六七万八二三四円をもって順号5、21の宅地の課税価格とすべきである。

キ 路線価について

順号7と12の両宅地に挟まれた道路(以下「本件道路」という。)は、特定少数の者にしか利用されない有効幅員一・九メートルに過ぎないもので、評価基本通達14の二項(3)にも該当せず、路線価を設定すべき道路に該当しないから、右両宅地の評価額には、側方路線影響加算(同通達16)をすべきではない。

(四) 家屋(鴫野東三丁目一六六番、家屋番号天王田町二四三の一〇五番)の評価

右家屋は、明治時代に古材で建てた八・六坪の納屋で、雨漏りがし、また、モルタル壁も落ち、台風時に危険な状態であり、その相続税評価額は零である。

(五) 贈与加算の不当

彌一は、脳梗塞、脳委縮により晩年痴呆が進み、常に介護を要する状態であったため、愛子と控訴人が、順次勤めを辞めて、控訴人の妻とともにその介護に当たった。被控訴人らが愛子に対する贈与と主張する別表七記載の金員は、すべてその介護に当たった者の生活費に充当したものであり、愛子に贈与されたものではない。

第三当裁判所の判断

一  本件相続財産の範囲及びその評価(課税価格)

1  宅地等の本件相続財産となる範囲及びその利用状況

(一) 順号7、9及び11以外の宅地等が本件相続財産の範囲に含まれること、そのうち16を除く部分の宅地等の利用状況が、別表四の「利用状況」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

(二) 順号9の宅地のうち、きく家屋の敷地部分について(控訴人の反論(二)(1))

右の点についての認定判断は、原判決一五枚目表一行目から同一六枚目表二行目までに記載のとおりである(ただし、同一五枚目表一行目の「原告本人尋問の結果」の次に「、乙第四ないし第六号証の各二、第一〇号証」を加える。)から、これを引用する。

(三) 順号7、9の宅地のうち、控訴人家屋の敷地部分について(控訴人の反論(二)(2))

甲第三九号証、乙第四ないし第六号証の各二、第一〇号証、原審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、昭和三八年一〇月ころ、控訴人は順号9の宅地の一部に控訴人家屋を建築し、控訴人名義で建物表示登記を経由し、以来、家族とともに控訴人家屋に居住してきたこと、しかし、彌一は生前控訴人に控訴人家屋の敷地部分につき控訴人に対して贈与の意思表示をしたことはなかったし、また、その敷地部分が分筆されて控訴人に所有権移転登記がなされたことも、控訴人がその敷地部分につき贈与税の申告をなしたこともなかったこと、さらに、その敷地の利用につき彌一と控訴人間に何らの取り決めもなされておらず、地代の授受も一切行われていなかったことが認められる。

右認定事実によれば、順号9の宅地のうち控訴人家屋の敷地部分につき、彌一から控訴人への贈与あるいは借地権の設定の事実を認めることができず、せいぜい使用借権の成立が考えられるにとどまるというべきである。

なお、控訴人は、「夫婦、親子間で土地の貸借が行われた場合、当時の国税局の取扱いでは、借地権の贈与が行われたとみなして課税する取扱いであった。」と主張するが、評価基本通達及び弁論の全趣旨(乙第一号証など)によれば、使用借権は、そもそも権利性が弱く、相続財産の評価に当たっても、自用地の価格から使用借権の価格を控除した取扱いはされていないこと、大阪国税局の取扱いでは、昭和三九年末までの土地の使用借権につき、借地権相当額の贈与税は非課税とされ、その後に相続が開始された場合、当該地は自用地として評価されてきたことが認められるから、控訴人の右主張は採用できない。

次に、順号7の宅地については、控訴人主張の贈与あるいは借地権の設定の事実を認めるに足りる証拠はない。

(四) 以上の認定判断のとおりであって、別表四記載の宅地等は、順号11、16を除き、本件相続財産の範囲に含まれ、その利用状況は、順号9の土地は自用地(ないし使用貸地)、その余は別表四の利用状況欄記載のとおりと認められる。

2  宅地等の評価(課税価格)

(一) 評価の方法

相続税法における相続財産の価額は、同法二三条以下数条に規定する財産を除き、財産取得時における時価による(同法二二条)ものとされている。ところで、甲第七、第九号証、乙第二、第三号証、第四号証の一及び弁論の全趣旨によれば、相続財産評価については、国税庁長官が各国税局長あてに通達した評価基本通達及び毎年各国税局長が定めた評価基準が存し、評価基本通達においては、宅地の評価については一画地毎に路線価方式又は倍率方式によってこれを評価すべきものとされており、大阪国税局長は評価基本通達を受けて毎年評価基準を制定し、当該宅地が路線価方式と倍率方式のいずれの評価方法によるべきかを定め、かつ、路線価設定地域図をもってその路線価を定めていること、その路線価は、宅地の価格がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している道路ごとに一平方メートル当たりの宅地(標準画地)の価格を表示したものであり、毎年、売買実例価格、前年の路線価、接続地域との均衡、精通者の意見等を参酌して定められ、実勢価格をかなり正確に反映していることが認められる。

右認定事実によれば、通達は法規の性質を持たないものの、評価基本通達ならびに評価基準による評価は、税務行政の適正、合理的処理、納税者間の公平性の観点からして、特別の事情(控訴人の反論等)のない限り、適正妥当なものというべきであって、かく解したところで何ら憲法八四条に違反するものではない(この点に関する控訴人の憲法八四条違反の主張は採用の限りでない。)。

そこで以下、評価基本通達、評価基準(以下、一括して「通達等」ともいう。)に基づき、本件の宅地等を評価する。

(二) 具体的評価

甲第五号証、乙第二、第三、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二、第七号証の一ないし五、第八号証の一ないし八、第九ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、本件の宅地等は路線価方式により評価すべき地域に存し、その路線価(順号18、19の宅地については、その面する私道(順号17)につき、状況が類似する付近の路線価に比準して付された仮路線価九万三〇〇〇円)を基準として、宅地等の具体的形状により奥行価格逓減、側方路線影響加算、二方路線影響加算、間口狭小補正、奥行短小補正等必要な補正をして自用地の価格を求め、さらに、通達等にしたがい、私道についてはその六割、貸宅地についてはその四割の各価格をもってその評価額とすると、順号9の宅地の価額は、路線価一三万六〇〇〇円を奥行価格逓減率〇・九九をもって補正した一平方メートル当たりの単価一三万四六四〇円に地積三六九・五六平方メートルを乗じた四九七五万七五五八円であり(乙第八号証の六参照。順号11の土地とは一括評価しない(二方路線影響加算をしない)価額)、その余の宅地等(但し、順号11、16の土地を除く。以下、本項において同じ。)の価額は別表四記載の価額のとおりであることが認められる。

右認定事実によると、右の宅地等の評価額は、合計二億七六四四万七六五六円となる。

なお、居住の用に供されている宅地の価格については、租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)六九条の三第一項三号により、二〇〇平方メートルまでの部分について一〇〇分の三〇が減額調整されるところ、順号9の宅地は、前記1(二)(三)説示のとおり居住の用に供されていた宅地であるから、右減額をすべき額は、右土地の一平方メートル当たりの単価一三万四六四〇円に二〇〇平方メートルを乗じた額の三〇パーセントである八〇七万八四〇〇円となる。なお、控訴人は、同措置法六九条の三第一項の規定が事業用地(四〇パーセント減額)と居住用地(三〇パーセント減額)との間に差を設けているのは憲法一四条に違反する、旨主張するが、措置法の右規定は、当該宅地の利用状況に着目して減額調整を図ったものと解され、それは立法府の合理的な裁量の範囲内の事項であって、これをもって直ちに憲法一四条に違反するということはできないから、控訴人の右主張は採用の限りではない。

したがって、本件の宅地等の評価額は、右二億七六四四万七六五六円から減額調整分八〇七万八四〇〇円を控除した二億六八三六万九二五六円となる。

(三) 控訴人の反論に対する検討

(1) 控訴人の反論(三)(2)ア(評価の基準等)について

前記認定のとおり、路線価は、毎年売買実例価格、前年の路線価、接続地域との均衡、精通者の意見等を参酌して定められるものであり、実勢価格をかなり正確に反映しているといえるところ、本件の宅地等に関連する路線価が、他の地域の路線価に比して、公平性がとれておらず、不合理であると認めるに足りる証拠はない。

したがって、控訴人の右反論は理由がない。

(2) 控訴人の反論(三)(2)イ(貸地の評価)について

右の点についての認定判断は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決九枚目表末行目から同一二枚目表二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決九枚目裏一二、一三行目の「認められる」の次に

「(同通達)」を加え、同一一枚目表四行目の「ところで」を「すると、右価格は順号17、20の各宅地の前記評価額(合計七一六万八三一〇円)に比し遙かに高額である。しかも、」と改め、同一二行目の次に行をかえて「 控訴人は、貸地の所有権は市場性及び換金性(処分性)に欠けており、賃貸借の終了も困難であり、また、地代は著しく低く、しかもその改訂も困難であること、また、天理教網城分教会への譲渡は、右教会が資金が豊富なうえ、宗教法人として無税であったという極めて例外的事情が存したためでありこれを一般化すべきでないことを主張するところ、なるほど貸地については自用地に比して市場性が劣り、処分がしにくいうえ、賃貸借の終了や地代の改定が困難な一面も存するものの、全くその譲渡が不可能なものではなく、現に、いわゆる収益物件として借地権付の土地取引がなされている事例も少なくないことは、巷間の新聞等の広告ないし当裁判所の取扱事例に照らして明らかであり、また、天理教網城分教会への譲渡については、その個別的、具体的付帯事情が存するものの、類例が全くあり得ないともいいがたく、前認定の価額による譲渡がなされたことは、借地権の負担割合の認定につき参考となる一徴表であるということができるから、控訴人の右主張は採用の限りでない。」を、同枚目裏一二行目の次に行をかえて「また、控訴人は、借地権及び底地権については三〇パーセントの額を基礎控除して評価すべきである、と主張しているが、その主張自体合理性がなく、前段所述のところに反した独自の見解として、控訴人の右主張は採用できない。」を加え、同一二枚目表一、二行目全部を「の四〇パーセントとした前記評価を不合理とすることはできない。」と改める。

(3) 控訴人の反論(三)(2)ウ(自用地の評価)について

右の点についての認定判断は、原判決一二枚目表四行目から同一三枚目裏五行目までの記載と同一である(ただし、同一二枚目表七、八行目の「一般に、」の次に「同一地域内における当該宅地周辺の地理的条件の劣悪性、側道の不整形ないし狭隘性あるいは」を、同一一行目の次に行をかえて「実際、乙第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二、第八号証の一ないし五並びに弁論の全趣旨によれば、順号5の自用地の評価に当たってはその地理的条件や側道事情等を勘案して決定されたことが認められる。」を加え、同一二行目の「そして、現に」を「また」と改め、同枚目裏一行目の「地点の方が、」の次に「西方の鴫野駅、東方の放出駅の影響を捨象して考えてもなお、」を、同七行目冒頭に「一九、第」を加え、同一三枚目表一〇行目の「切捨て」を「四捨五入」と、同一二行目の「三三万三〇〇〇円」を「二九万八〇〇〇円」と改める。)から、これを引用する。

(4) 控訴人の反論(三)(2)オ(贈与地の評価)について

順号9の宅地のうち、彌一と妻・きく、子・控訴人との間に使用貸借が存すると考える余地のあることは前記認定のとおりである。

しかし、使用貸借契約に基づくいわゆる使用借権は、前判示のとおり、一般的にいって、賃貸借契約に基づく権利に比し、権利性が極めて低いうえ、本件にあっては、前記認定のとおり夫妻間あるいは父子間で締結されたもので、親族間の情誼や信頼関係に基づく土地の無償使用関係であり、その使用権につき独立した経済的価値を認めることはできないし、また、土地の時価(交換価値)に影響を与えるということもできないので、前判示のように、これを自用地として評価し、減額調整しなかったことは、なんら不合理ということはできない。

(5) 控訴人の反論(三)(2)カ(必要経費の控除)について

控訴人は、宅地等の評価は、その売却した場合の必要経費である譲渡所得税等を控除すべきである、と主張するが、相続税の対象となる相続財産の評価は、その取得した財産の客観的価値を掌握算定するに尽き、何らの経済的取引を伴うものではないから、控訴人の右主張は、合理性を欠く独自の見解であって採用することができない。

(6) 控訴人の反論(三)(2)キ(路線価)について

a 右の点に関する認定判断は、原判決一三枚目裏七行目から同一四枚目裏一二行目までの記載と同一である(ただし、同一四枚目表九行目、一二行目の「14」をいずれも「14の二項」と、同枚目裏三行目の「同条」を「同通達14の二項」と改める。)から、これを引用する。

b なお、控訴人は、順号18、19の各宅地は行き止まりの私道(順号17の宅地)にしか面していないので、右の私道に仮路線価を付すべきこと、また、右私道は、一般宅地となる可能性がなく、その評価額が零であるが、そうでなくても、右仮路線価を基準に評価をすべきこと、をも主張しているようである。

しかし、順号18、19の両宅地は、前記認定のとおり両宅地が面する順号17の私道につき仮路線価を付して評価されているし、前記認定の順号17の私道の仮路線価九万三〇〇〇円を不合理とする事情も見当たらない。また、私道は、多数者による通行を受忍すべく、その使用収益にある程度の制約が存するものの、私人の所有である以上、所有者に管理及び処分権が存することは当然であるし、現に、前記(2)認定のとおり控訴人らは右私道持分の一部を譲渡していることに照らせば、順号17の私道の価格を自用地の六〇パーセントとしたことに特段不合理な点は存しない(なお、順号17の私道を右の仮路線価そのもので評価すれば、奥行価格逓減、間口狭小補正、奥行短小補正等の補正が行われないため、かえって、前記認定の順号17の評価額一四〇万八三一〇円(別表四参照)よりも上回る結果となる。)。

いずれにしろ、順号17ないし19の土地に関する前記評価は適法であり、これを不合理とする事情は存しないから、控訴人の右主張は採用しない。

(7) 結び

以上のとおりであって、他に、評価基本通達、評価基準による本件宅地等に関する前記評価を不相当とする事実を認めるに足りる主張立証はない。

3  有価証券

乙第二三ないし第二五号証によれば、本件相続財産として、別表五記載の有価証券が存在し、その本件相続開始時の価額は同表記載のとおり合計三三六万七一〇四円であることが認められる。

4  預貯金

当事者間に争いがない事実と乙第二六、第二七号証によれば、本件相続財産として別表六記載のとおり合計四万六四四四円の預貯金が存したことが認められる。

5  債務等

相続財産の価格から控除すべき債務等の額が、葬儀費用一三〇万七八一四円であることは当事者間に争いがない。

6  課税価格及び課税額

以上の認定判断に基づき、本件相続税に関する課税価格、相続税の総額、控訴人の納付すべき税額を計算すれば、少なくとも本判決添付別表一〇記載のとおりであり、控訴人の納付すべき税額は二九四九万五五〇〇円を下廻らない(相続人が三名であることは前記のとおりであり、弁論の全趣旨によれば相続人らの間に遺産分割協議が未了であることが認められる。)。

二  控訴人の本訴請求の当否

そうすると、その余の点(順号11、16の宅地等の評価、本件相続財産のうち家屋の評価、贈与加算の各点)を判断するまでもなく、右認定の相続税額の範囲内でなされた原処分は適法であり、これの取消を求める被控訴人城東税務署長に対する請求は理由がない。また、不当利得返還請求権に基づき、納付済の相続税の一部返還を求める被控訴人国に対する請求も、当審で拡張された請求を含め(行政処分の公定力等の問題を検討するまでもなく)、理由がない。

第四結論

以上の次第で、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴人が当審で拡張した請求は理由がないから、これを棄却し、控訴費用は控訴人の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 砂山一郎 裁判官 東畑良雄 裁判官 塚本伊平)

別表八

宅地等の評価明細(主張分)

<省略>

(別表九)

相続税の計算(控訴人主張)

<省略>

(別表一〇)

相続税の計算(当裁判所の認定)

<省略>

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