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大阪高等裁判所 平成4年(行コ)13号 判決 1993年4月27日

控訴人 金村勝弘こと金勝弘

被控訴人 右京税務署長

代理人 塚本伊平 金政真人 ほか二名

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対し、昭和五七年三月一〇日付けでした同人の昭和五三年分の所得税の重加算税賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額一四八〇万一七〇〇円を超える部分、昭和五四年分の同決定処分のうち、同相当額一九三六万七八〇〇円を超える部分及び昭和五五年分の同決定処分のうち、同相当額三四一〇万二一〇〇円を超える部分をそれぞれ取り消す。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

主文一、二項同旨

第二事実関係

次のとおり補正するほか、原判決の「事実」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  三頁五行目の「別表甲1記載のとおり」の次に「(ただし、昭和五三年分の同五七年三月八日付修正申告の総所得金額欄の数字を四二〇、〇六五、五二六に改め、また、同五五年分の同五七年三月八日付修正申告の納付すべき税額欄の数字を七三七、五三七、五〇〇に改める。以下同じ。)」を加える。

二  四頁六行目及び同九行目の「納税申告書」を「期限内確定申告書」に改める。

三  四頁末行と五頁一行目の間に次のとおり加える。

「(三) 控訴人が昭和五六年六、七月ころ被控訴人に提出した資料は、同年六月二三日付修正申告の裏付資料にも、また同年七月一三日付修正申告の裏付資料にもなり得ないものであり、右各修正申告に当り隠ぺい、仮装行為があったということはできない。

(四) 控訴人が昭和五七年一月一四日及び同年三月八日に各修正申告をした際には、いずれも隠ぺい、仮装の事実に基づいて右各申告をしたものではない。

四  六頁二行目と同三行目の間に「(四) 同(三)、(四)はいずれも争う。」を加え、同八行目の「必要がない」を「必要はなく、その後に右行為がなされ、これに基づき修正申告をした場合、当該修正申告につき重加算税の賦課要件を充足する」に改める。

五  一三頁三行目の末尾に「また、同人には会計帳簿類の提出義務はない。」を加え、一四頁一行目の「右条項」から一五頁三行目の「なお、」までを削る。

六  一六頁九行目と同一〇行目の間に「控訴人が昭和五六年六、七月ころ提出した資料は、被控訴人の判断によって修正申告額が決められた後、被控訴人から調査をした資料としてその数字に見合う書類の作成を要請され、控訴人がこれを作成して被控訴人に提出したものである。したがって、被控訴人がこの資料を隠ぺい、仮装のものと主張することは、正義、公平の原則に反し、権利の濫用になる。」を加える。

第三当裁判所の判断

一  請求原因1、2(一)ないし(三)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  重加算税の賦課要件

1  過少申告加算税と重加算税の関係については、原判決一八頁八行目から二〇頁一〇行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。

2(一)  重加算税は、納税者が隠ぺい、仮装という重大な不正手段を用いた場合に、これに特別に重い負担を課することによって、隠ぺい、仮装したところに基づく過少申告等による納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度の信用又は源泉徴収制度を維持し、徴税の実を挙げる趣旨にでた行政上の秩序罰であり、故意に納税義務違反を犯した者に対する制裁ではない。

(二)  重加算税を課すためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい、仮装し、右行為に基づいて過少申告の結果が発生することが必要であり、事実としての隠ぺい、仮装行為と過少の納税申告書の提出行為とは別々であることが必要であるとともに、右隠ぺい、仮装行為と過少申告行為が存在しているだけで重加算税の要件を充足するものではなく、右両者の間に因果関係が存在することが必要である。

被控訴人は、正しい総所得金額と申告者の申告額との間の較差が極めて大きく、「詐欺その他不正の行為」に該当して処罰されるほど可罰的違法性の大なるものであれば、「ことさらの過少申告」の行為として、隠ぺい、仮装行為に該当する主張する。しかしいわゆる「つまみ申告」の中でも、正しい総所得金額と申告者の申告額との較差がどの程度に大きい場合に可罰的違法性が大となるのかの基準は明らかではなく、また、重加算税賦課の主観的要件としては申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることは不要であり、申告書が錯誤等による書き誤りによって右較差が大きくなる場合もあり得るから、右較差のみによって「ことさらの過少申告」の行為に該当するということはできず、その他に申告者の過少申告に至った経緯等の事情を総合判断して、その該当性を判断すべきである。

以上のように解さないと、過少申告加算税に加えて重加算税の制度を設けている趣旨が不明確になり、また、後者は、前者の額の基礎となるべき税額(申告不足税額等)に対して三五パーセント(本件各係争年度当時は、三〇パーセント)相当額という重い負担を課しているのであるから、その賦課要件も明確でなければならない。

三  控訴人の過少申告行為と加重事由

1  前記一のとおり、控訴人が、原判決添付別表甲1記載の本件各係争年度の期限内確定申告書を提出し、さらに同表記載の各修正申告書を提出したことは当事者間に争いがないが、<証拠略>を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(一) 控訴人は、本件各係争年度の営業につき正常な会計帳簿類を作成記載しており、その収益・資産を帳簿から除外したり、経費・負債を過大に計上したりすることはなく、取引記録、各期間の貸付金・利息の入手金を集計した記録はそろっていた。

(二) 被控訴人の職員は、昭和五六年六、七月ころ控訴人の兄である金勝男方を訪れ、同人及び控訴人に対する税務調査をした。被控訴人の担当職員は、控訴人の事業内容・規模につき質問し、控訴人らは、右職員の調査にごく普通に協力した。

(三) 控訴人は、被控訴人に対し、昭和五六年六、七月ころ、資料(<証拠略>、以下「本件資料」という。)を提出した。

(四) 被控訴人の担当職員は、本件資料に基づき、控訴人の収入・支出を検討したが、その収入については、貸付残高に対する利息収入の割合が妥当であると判断し、経費については、減価償却等に誤りがあると判断した。そして、被控訴人は、本件資料について反面調査をしたことはなく、控訴人は、被控訴人がしょうようした金額に基づいて修正申告をした。

(五) 控訴人のした昭和五三年分の確定申告、修正申告(昭和五四年六月二五日付)及び修正申告(昭和五六年七月七日付)の各総所得金額は相互に約三〇〇万円以上の差があり、昭和五四年分・同五五年分の各確定申告、修正申告(昭和五六年六月二三日付)及び修正申告(昭和五六年七月七日付)相互間についても同様である。

(六) 本件資料は、昭和五四年及び同五五年分の営業に関するものであり、昭和五三年分の資料は全くない。本件資料により昭和五四年分の所得金額を計算すると、六二二八万九二六一円の損失となり、これは、控訴人の昭和五六年六月二三日の修正申告における所得金額五七八八万円及び同年七月七日の修正申告における所得金額八三八九万八〇〇〇円とは直接の関連性がない。

(七) 控訴人は、所得税法違反事件で起訴され、国税局査察部は、控訴人の会計帳簿類のすべてを押収し、さらに検察庁でこれらを検討し、控訴人の取調べも行った。その後、右帳簿類は、控訴人に還付され、控訴人はこれを廃棄した。

2  過少申告があっても、これだけでは重加算税賦課の要件を充足しないことは前記二のとおりである。そして、右1の認定事実によれば、控訴人は、正常な会計帳簿を作成しており、控訴人が会計帳簿類を破棄したのは、被控訴人側において控訴人の本件各係争年度の収入・支出の数額を把握したと控訴人が推測できた後である。その他、右1認定の事実に後記3に指摘の点を併せ考慮すると、控訴人が、各確定申告及び各修正申告において過少な総所得金額(事業所得の金額)を申告した行為がことさらな過少申告であるということもできない。さらに右過少な申告が、隠ぺい、仮装の行為による不正な経理に基づくものと認めるに足りる証拠もない。

3  昭和五六年六、七月ころ控訴人が提出した本件資料等について

(一) 前記1(四)のとおり、控訴人は本件資料を提出したが、<証拠略>によれば、本件資料には真実よりも少ない店舗数(一〇店舗)が記載されていたことが認められる。(しかし、控訴人が昭和五六年六、七月ころの税務調査時に、虚偽の陳述をしたことを認めるに足りる証拠はない。)

(二) 修正申告(昭和五六年七月七日付)が本件資料に基づいてなされた場合、本件資料は、虚偽の内容の記載が含まれる文書であるから、国税通則法六八条一項の「納税申告書」に右修正申告書も含まれると解すると、重加算税の賦課要件が充足される可能性はある。

(三) 前記1(六)のとおり、本件資料と右修正申告書の記載内容とは直接の関連性はなく、また、前記1(四)(五)のとおり、被控訴人の担当職員は、収入については本件資料上の控訴人の計算を妥当と判断していたにもかかわらず、各年度の確定申告書、各修正申告書の間には相互に約三〇〇万円以上の金額差があり、本件資料に基づいて提出したのが右各修正申告書のうちのいずれであるかは不明である。

右各修正申告書のいずれかの総所得額が本件資料に記載の総所得金額と一致する必然性はないが、被控訴人の担当職員による検討の結果、本件資料の収入、支出の扱いに不相当な点があれば、これを除外あるいは加算した金額と右各申告書のいずれかの総所得額とがつながりがあるはずであり、また、前記1(四)のとおり被控訴人が控訴人に修正申告を求めた金額がどのような計算過程を経て算出されたのか、右各点について被控訴人からの主張立証はなく、結局、本件資料に真実に反する記載があるとしても、控訴人がこれに基づいて修正申告書を提出したということはできない。

右の理由から本件資料の提出は、重加算税の賦課要件を充たすことにはならない。

(四) また重加算税の納税義務の成立時期は、法定申告期限の経過の時である(国税通則法一五条二項一五)から、隠ぺい、仮装行為は、この期限が到来する前の行為だけが加算税の対象になるのが原則である(修正申告書の提出が法律で義務付けられている場合のみ、右期限後の隠ぺい、仮装行為も重加算税賦課の要件を充たすことになると解する。)。したがって、隠ぺい、仮装行為の存否は、確定申告書提出時を中心に判断すべきであって、右期限後の隠ぺい、仮装行為は、法定申告時における隠ぺい、仮装行為の存否を推認させる一間接事実となりうるにすぎない。

そして、前記(一)の認定事実に関し、本件各係争年度の各確定申告時に、具体的な隠ぺい、仮装行為が存在し、これに基づいて右各確定申告がなされたことの主張立証はなく、右認定事実は、右各時点における具体的な隠ぺい、仮装行為の存在を認める間接事実ともならない。

右の理由からも本件資料の提出は、重加算税の賦課要件を充たすことにはならない。

4  被控訴人の主張2(四)のうち、重加算税及び過少申告加算税の計算の基礎となる税額の計算が原判決添付別表乙1ないし8のとおりであり、これが正確であることは計数上明らかであり、控訴人もこれを争っていない。

四  以上によれば、控訴人の請求は過少申告加算税相当分を超える部分につき理由があるから、主文のとおり判決する

(裁判官 中川敏男 渡辺貢 辻本利雄)

【参考】第一審(京都地裁 平成元年(行ウ)第九号 平成四年三月二三日判決)

主文

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 原告(請求の趣旨)

1 被告が原告に対し、昭和五七年三月一〇日付けでなした同人の同五三年分、同五四年分及び同五五年分の所得税の各重加算税賦課決定処分を取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二 被告(答弁)

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一 原告(請求要因)

1 原告は、サラリーマン金融業を営んでいた。昭和五三年分ないし同五五年分の所得税にかかる同人の確定申告、修正申告、重加算税賦課決定処分の経緯は別表甲1記載のとおりである(以下、右各確定申告、及び、右各修正申告にかかる各納税申告書のうち、昭和五六年六月二三日受付と同五七年三月八日受付の各修正申告分を除いたものをあわせて「本件各納税申告書」と、右各重加算税賦課決定処分を「本件各処分」という。)

2(一) 原告は、昭和五七年四月一日、本件各処分につき、被告に対して異議申立をした。

(二) 被告は、右異議申立についてなんらの決定をしない。そこで、昭和六二年一二月一八日、原告は、国税不服審判所長に対して審査請求をした。

(三) 国税不服審判所長は、平成元年一月三一日付けをもって原告の右審査請求を棄却する旨裁決した。

3 本件各処分には以下のような違法がある。

(一) 国税通則法六八条一項は、収入除外や必要経費の過大算入等の不正経理に基づいて納税申告書が提出された場合に適用されるものである。

(二) 原告は、会計帳簿を全て正常に記録し、その記録は本来あるべきところに保管していた。同人は、課税標準の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて本件各納税申告書を提出したわけではない。したがって、本件各処分は国税通則法六八条一項の要件を欠く。

よって、本件各処分は違法であるから取消すべきである。

二 被告

1 請求原因に対する認否

(一) 請求原因一1及び2の各事実を認める。

(二) 同3(一)を争う。国税通則法六八条一項が定める場合のうち、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装する場合には、不正経理の存在が問題となる。しかし、ことさらな過少申告のように、税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装する場合には、不正経理の存在は問題とならない。

(三) 同(二)の事実を否認する。原告は、正常に記録していたとする会計帳簿を一切提出していない。また、後記2(二)(1)ロで述べるように極めて巨額の過少申告がなされていたのであるから、所得を偽るための不正な経理処理が推認される。

2 主張

(一) 隠ぺい、仮装行為の時期

重加算税制度の趣旨は、課税要件事実の隠ぺい又は仮装による過少申告を防止し、申告納税制度の信用を維持するというものである。この趣旨に照らせば、重加算税賦課の要件である「隠ぺい又は仮装」(国税通則法六八条一項)の行為は、法定申告期限前になされているものである必要がない。

(二) 原告によることさらな過少申告行為と重加算税賦課要件の充足

(1) 原告は、国税通則法六八条一項にいう「税額等」のうち当該所得にかかる「納付すべき税額」(同法一九条一項、二条六号ニ)の計算の基礎となるべき総所得金額(事業所得の金額)の大部分をことさらに過少に記載した。これにより、総所得金額の各増差部分の合計額を秘匿したいずれも内容虚偽の本件各納税申告書を提出した。すなわち、

イ 原告は、本件係争各年度において会計帳簿を正確に記載していたと主張する。しかし、仮にそうだとすれば、原告は会計帳簿を全く無視して本件各納税申告書を提出したのである。

ロ 原告の本件係争各年分の所得税についての、昭和五七年三月八日の修正申告書とそれ以前の本件各納税申告書との総所得金額との較差は、いずれも極めて大きい。

ハ 原告は、(三)(3)で述べるとおり、被告による税務調査において、会計帳簿の秘匿や虚偽答弁を行なった。

以上によれば、原告は、申告すべき所得金額がいくらであるかを把握していたにもかかわらず、事業の拡大を目的として、税金はできるだけ少なくしようと考え、把握している所得金額と大差のある確定申告書を提出していたことが明らかである。

(2) 原告による右ことさらな過少申告行為は、「税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し」た場合に該当し、国税通則法六八条一項の要件を充足する(最判昭和五二・一・二五税務訴訟資料九一号五四頁、同六三・一〇・二七税務訴訟資料一六六号三七〇頁)。なぜなら、ことさらな過少申告行為は、旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六九条一項にいう「詐欺その他不正の行為」に該当する(最判昭和四八・三・二〇刑集二七巻二号一三八頁)。そして、「詐欺その他不正の行為」の一態様として「隠ぺい又は仮装の行為」がある。ことさらな過少申告行為が「詐欺その他不正の行為」に該当し処罰されるほど可罰的違法性の大なるものであれば、同時に、「隠ぺい又は仮装」に該当して重加算税を課されても当然だからである。

なお、原告は、本件係争各年分について、所得税法違反で起訴され、実刑判決が確定している。

(3) 同条項にいう「基づき」との文言は、課税要件事実の隠ぺい又は仮装による過少申告を防止し申告納税制度の信用を維持せんとする重加算税制度の趣旨、目的に照らせば、納税者の当該年分の申告行為につき、「過少申告」という行為と、「隠ぺい又は仮装」という事実とが存在している場合には、重加算税を課することを意味する。

(三) 過少申告行為以外の隠ぺい又は仮装行為

仮に、過少な納税申告書の提出自体が国税通則法六八条一項に該当しないとしても、原告は、以下のとおり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装していた。

(1) 原告は、正常に記録していたとする会計帳簿を、一切提出していない。また、前記2(二)(1)ロで述べたように極めて巨額の過少申告がなされていた。このことから、所得を偽るために不正の経理処理がなされていたことが推認される。

(2) 原告は、全国に存在する賃借店舗において同人が経営するアポログループ一二店舗の一部について、貸金業の届出名義、店舗の賃借名義及び銀行取引名義を、同人名義ではなく、義弟の西川元春名義にしていた。

(3) 原告は、昭和五六年七月七日付け修正申告にかかる被告の税務調査において、昭和五四年分及び同五五年分の、一〇店舗の経費明細書を提出しただけで、その余の会計帳簿を秘匿して提出しなかった。また、本件係争各年分の利息収入につき、事実は、昭和五三年分については七億四、六一三万八、一九六円、同五四年分については一〇億〇、二〇二万九、五七九円、同五五年分については一六億四、八九一万五、〇〇三円であった。それにもかかわらず、昭和五四年分の利息収入が三億四、五三六万七、〇〇〇円、同五五年分の利息収入が四億七、三八一万四、〇〇〇円であるとした明細書を提出し、同五三年分については全く明らかにしなかった。このように、原告は、真実の所得の確認を妨げる行為を行なっている。

(四) 本件係争各年分の重加算税額の計算の基礎となる税額の計算は、別表乙1ないし8のとおりであり、重加算税の割合は、三〇パーセントである。

よって、本件各処分は、右により計算される額の重加算税を賦課するものであるから、いずれも適法である。

三 原告

1 被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張二2(一)を争う。本件のように期限内申告書が提出されている事案では、隠ぺい、仮装の行為が期限内申告書提出前になされていることが必要と解すべきである。

(二) 被告の主張二2(二)(1)の事実を否認し、同(2)、(3)をいずれも争う。

(三) 被告の主張二2(三)(1)ないし(3)の各事実を否認する。すなわち、

(1) 同(1)については、会計帳簿類を法廷に提出しないのは、これらの書類が所得税法違反被疑事件で検察庁に押収されており、還付を受けた時点で、いやな思い出を消すため全部廃棄処分にしたことによるものである。原告が所得を偽るため不正の経理処理をしていたものではない。

(2) 同(3)については、原告は、被告の部下職員から資料提出を要求された場合に、要求された資料は全部提出した。その余の会計帳簿は、提出の要求がなかったので提出しなかったまでで、これらを秘匿したものではない。また、原告は、過少に記載した利息収入の明細書を提出していない。

(四) 被告の主張二2(四)を争う。

2 反論

(一) 過少申告行為は、国税通則法六八条一項に定める重加算税賦課要件を充足しえないものというべきである。すなわち、

(1) 右条項は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)四三条の二(昭和三七年法律第六七号による削除前のもの)が、「課税標準若しくは欠損金額又は法人税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し」と定めていたことに由来する。そして、右「法人税額の計算の基礎となるべき事実」とは、各税の税額控除額、重要物産の免税額、同族会社の加算税額の異動等による法人税額減少の基礎となる事実のことであると解されていた。

したがって、国税通則法六八条一項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実」は、配当控除、住宅取得(等)特別控除、災害減免額、外国税額控除、源泉徴収税額の税額控除項目を指す。

とすれば、総所得金額を過少に記載した納税申告書を提出する行為は、税額控除項目を偽るわけでない。だから、右条項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」た場合に該当しない。

なお、被告が援用する昭和五二年の最高裁判決の事案は、原始記録等の関係書類の備え付けがなく、かつ、虚偽の申告書が提出されている。しかも、納税者において税務調査に非協力的であったなど、積極的な所得隠ぺい行為があったと解することができる事案である。また、同じく被告が援用する昭和六三年の最高裁判決の事案は、納税者において、譲渡益を生じた建物等の売買の事実を隠ぺいしていた事案である。したがって、右両判決が、虚偽の過少申告行為自体をとらえて「隠ぺい又は仮装の行為」に該当するとしたものと断定することはできない。

(2) また、過少申告行為は、国税通則法六八条一項にいう課税標準等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい、仮装の行為にもあたらない。すなわち、各納税申告者の事業所得の所得金額欄に所得金額のみを記載すること自体は、たとえその所得金額が過少なものであっても、課税標準の数字を記載しただけである。課税標準の計算の基礎となるべき事実を記載した場合とは到底いえない。

(3) さらに、国税通則法六八条一項は、「隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」と定める。「基づき」との文言が用いられている以上、過少に記載した納税申告書の提出のみをもって隠ぺい又は仮装の行為と解することはできない。

(二) 以上によれば、原告による本件各納税申告書提出行為は、国税通則法六八条一項の定める要件を充足せず、したがって、本件各処分は違法であり取消されるべきである。

四 被告

原告の反論三2を全て争う。

第三証拠<略>

理由

一 請求原因一1、2(一)ないし(四)の各事実は、当事者間に争いがない。

二 過少申告行為と重加算税の賦課要件

1 当事者の主張

原告は、請求原因一3(一)、(二)において、単なる過少申告行為のみでは重加算税賦課要件を充足しない、と主張する。

被告は、その主張二2(二)において、同要件を充足すると主張する。原告は総所得金額をことさらに過少に記載した本件各納税申告書を提出したこと自体から、既に国税通則法六八条一項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当する、というのである。

2 検討

(一) 重加算税と過少申告加算税の関係

国税通則法六五条の過少申告加算税と同法六八条一項の重加算税とは、いずれも、申告納税方式による国税について過少な申告を行なった納税者に対する行政上の制裁として賦課されるものである。したがって、同一の期限内申告とこれについての修正申告又は更正にかかるものである限り、両者は、その賦課及び税額計算の基礎を同じくする。ただ、重加算税は、過少申告加算税の賦課要件に該当することに加えて、当該納税者がその国税の賦課標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書(期限内申告書を指す―同法六五条一項、六八条一項)を提出するという不正手段を用いたとの特別の事由が存在することが必要である。この場合に、当該基礎となる税額に対し、過少申告加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課すことにしたのが重加算税である。要するに、重加算税の賦課要件は、過少申告加算税の賦課要件の他に、右の加重事由としての特別の事由があることが必要である(最判昭和五八・一〇・二七民集三七巻八号一一九六頁参照)。

(二) 重加算税の加重事由

重加算税の加重事由として、同法六八条一項は、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」と規定する。ここにいう「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」は、各税法の申告規定との対比によって明らかにされる。所得税に関しては、所得税法二二条、一二〇条一項にいう課税標準である総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の計算の基礎となった各種所得の金額、所得控除額並びに税額控除額等、同法二一条所定の所得税額の計算の基礎となる事実を指す(同法一二〇条一項五号、九号、一一号参照)。

これに対し、原告は、その反論三2(一)(1)において、右条項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実」とは、同条項の沿革から、税額控除項目のみを指す、と主張する。なるほど、同条項は、前示旧法人税法四三条の二等の各税法に個別に規定された重加算税を統合して規定された、という沿革はある。しかし、旧法と文言を異にする。しかも、前示のとおり、その性質を過少申告加算税とは別個の独立処分とはせず、これに加重事由がある場合の同一処分であるとしている。国税通則法六八条一項は、このように従前の重加算税とは異質のものとした新規定である。だから、同条項を、旧法と全く同一に解釈すべきではない。

三 原告の過少申告行為

1 当事者間に争いがない請求原因一1の各事実、<証拠略>によれば、以下の各事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠がない。

(一) 原告は、本件係争各年分の確定申告において、総所得金額の基礎となる営業所得金額を、故意に、順次前年の過少申告額を基準にして若干の率の増額をするという方法で計画的に計算して、過少に記載した確定申告書を提出した(<証拠略>―特に問五の問答及び同証拠添付の各確定申告書、<証拠略>)。

(二) 原告による本件係争各年分の総所得金額に関する最終修正申告(昭和五三年分及び同五四年分は第三次修正申告、同五五年分は第四次修正申告)と他の納税申告との間の較差は、次のとおりである。

(1) 昭和五三年分の較差

イ 本件確定申告  四億〇、六五〇万四、六九〇円

ロ 第一次修正申告 四億〇、三五三万一、七九三円

ハ 第二次修正申告 三億七、八一一万七、七九三円

(2) 昭和五四年分の較差

イ 本件確定申告  五億五、八三九万〇、七一一円

ロ 第一次修正申告 五億一、八三六万七、〇一一円

ハ 第二次修正申告 四億九、二三四万九、〇一一円

(3) 昭和五五年分の較差

イ 本件確定申告  九億六、九三九万三、〇一六円

ロ 第一次修正申告 九億〇、九三九万三、〇一六円

ハ 第二次修正申告 八億八、五二八万八、〇一六円

ニ 第三次修正申告 七億五、一九五万四、〇一六円

(4) 最終修正申告の確定申告に対する倍率

イ 昭和五三年分 約三一倍

ロ 昭和五四年分 約三二倍

ハ 昭和五五年分 約二九倍

(三) 原告は、昭和五六年七月七日付け修正申告にかかる被告の部下職員による税務調査において、同人から申告の基になる帳簿書類の提出を求められた。それにもかかわらず、昭和五四年分及び同五五年分の一〇店舗の経費明細書、昭和五四年分及び同五五年分の利息収入明細書のみを提出した。この他にも会計帳簿類があるのに、これを秘匿して提出しなかった。しかも、右各利息収入明細書は、過少に記載されていたのである。

(四) 原告は、本件係争各年分の所得税について各確定申告書を提出したが、その一部を隠ぺいし、又はその計算の基礎事実である会計帳簿書類、営業店舗数等の営業規模の一部を隠ぺいし、これに基づき確定申告書(期限内申告書)を提出していたことを認めることができる。即ち、前認定1(一)の事実によれば、右営業所得金額の一部を隠ぺいして確定申告書を提出したことは明らかである。同(二)ないし(五)の各事実によると、原告は計画的な意図の下に、総所得金額を過少にした本件各確定申告を行なったものであって、その後の最終修正申告との較差が極めて大きい。確定申告後の調査において会計帳簿類の一部を秘匿して提出せず、提出した利息収入明細書は、その収入の一部を隠ぺいし過少に記載されていた。以上の事実が認められる。これらの事実及び弁論の全趣旨を併せ考えると、原告は本件各確定申告書の提出前に会計帳簿書類等に工作を加える等して課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺいし、これに基づき過少な本件各確定申告書を提出した事実を推認することができる。他にこれを覆すに足る証拠がない。

したがって、原告は、国税通則法六八条一項所定の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき」本件各確定申告書を提出していたものというべきである。

四 被告の主張二(四)の計算が正確であることは計数上明らかであり、原告もこれを争っていない。これによれば、本件各処分は、右各事実により計算される金額の重加算税を賦課するものであるから、いずれも適法であって、これに違法の点はない。

五 結論

原告の請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却する。訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用する。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春 菅英昇 佐藤洋幸)

別表乙1ないし8<略>

別表 甲1

昭和53年分 (単位 円)

区分

確定申告

修正申告

修正申告

修正申告

年月日

昭54.3.12

昭54.6.25

昭56.7.7

昭57.3.8

総所得金額

13,560,838

16,533,735

41,947,735

420,065,528

納付すべき税額

3,283,700

4,641,700

18,862,000

299,318,500

重加算税の賦課決定年月日

昭57.3.10

昭57.3.10

昭57.3.10

重加算税の額

407,400

4,266,000

84,136,800

昭和54年分 (単位 円)

区分

確定申告

修正申告

修正申告

修正申告

年月日

昭55.3.12

昭56.6.23

昭56.7.7

昭57.3.8

総所得金額

17,856,300

57,880,000

83,898,000

576,247,011

納付すべき税額

5,161,000

29,046,900

47,143,000

416,434,000

重加算税の賦課決定年月日

昭57.3.10

昭57.3.10

重加算税の額

5,428,800

110,778,300

昭和55年分 (単位 円)

区分

確定申告

修正申告

修正申告

修正申告

修正申告

年月日

昭56.3.9

昭56.6.23

昭56.7.7

昭57.1.14

昭57.3.8

総所得金額

35,000,000

95,000,000

119,105,000

252,439,000

1,004,393,016

納付すべき税額

14,532,400

55,475,500

73,554,200

173,554,700

563,982,800

重加算税の賦課決定年月日

昭57.3.10

昭57.3.10

昭57.3.10

重加算税の額

5,423,400

30,000,000

169,189,500

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