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大阪高等裁判所 平成4年(ラ)409号 決定 1993年3月15日

抗告人 甲野次郎

被相続人 甲野花子

主文

原審判を取り消す。

被相続人甲野花子の清算後残存すべき相続財産の全部を抗告人に分与する。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

別紙の即時抗告の申立記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  本件記録並びに神戸家庭裁判所尼崎支部平成元年(家)第××××号相続財産管理人選任事件及び同2年(家)第××××号相続人捜索公告事件の各記録によれば、被相続人(明治44年8月5日生)は、薬剤師の資格を得て、薬局を自営する等して働いて来たが、夫の太郎が昭和49年11月3日死亡後は身寄りもなく、西宮市内の居宅で暮らし(生活費は、亡夫の遺族年金や自己の国民年金等で購う。)、生まれつき足が不自由なため医療保護を受けていたこと、ところが、平成元年3月頃、被相続人は体の具合が悪くなって、西宮市内の○○病院に入院して、検査の結果初めて肺癌と分かり、同年4月23日容態が急変して死亡したが、その相続人はいないこと、抗告人は、その実父一郎が被相続人の従兄弟で、抗告人の家が本家、被相続人の家が分家の関係にあったため、被相続人とその若い時から親戚付き合いをして、「おばちゃん」、「次ちゃん」と呼び合う親しい間柄であって、互いに再々訪問し合い、被相続人は、盆、正月には本家の抗告人方に帰省して、親交を深め、夫死亡後は、本家の当主である抗告人を何かと頼りにして、体調の悪い折りや相談事がある時には必ず抗告人を自宅に呼び寄せ、その際、抗告人は労を厭わず被相続人方に駆けつけて、相談に乗る等して世話をし(そのような事が年に3、4回あった。)、被相続人は日頃抗告人に対し、「お墓も見て貰いたいし、財産は次ちゃんに任せるわ。」と口癖のように言っていたこと、被相続人は足が悪いため、その両親、娘、孫、夫の年忌法要は、抗告人に寺の手配、親戚への連絡、料理の手配等の準備をして貰って取り行っていたこと、昭和61年に被相続人の西宮市○○町の自宅が阪神電鉄から立ち退きを迫られた際にも、抗告人がその補償等の交渉に当たったりして尽力し、被相続人が前記入院した際にも、友人の乙山春子が被相続人の依頼で抗告人に連絡したところ、抗告人は即刻被相続人方に駆けつけ、抗告人方の近くの病院に入院するよう勧めたが、近所がいいとの被相続人の希望で取り敢えず前記○○病院に入院手続きを取って、入院させたこと、その際、抗告人は、被相続人から預金通帳等を預かり、手配して付添人を付け、当座の金を上記乙山に預けて、これで適宜必要な物を購入して貰ったこと、被相続人の葬儀は、その生前の意向を酌んで抗告人が喪主となって取り行い、甲野家の菩提寺である滋賀県の○○寺に、前記本家の墓と並んで被相続人の亡父の墓が立っているところ、被相続人は生前その墓で親族の法要を行って来たので、抗告人は、そこに被相続人の納骨をし、その後、同人やその親族の法要、供養や墓掃除等を行っており、今後もこれを怠りなく続ける意向で、そのためには相当多額の費用等を要すること、抗告人は、被相続人から預かっていた預金通帳等からその意向を酌んで、一部預金をおろし、これから上記葬儀等の祭祀のための費用、被相続人が支払うべき借地料、電気代及び電話代等の合計375万5833円を支払い、上記葬儀後、被相続人宅である後記相続財産の建物は空き家になっているところ、大雨で床上浸水があって、西宮市役所から抗告人にその旨の連絡があったため、抗告人は同家に駆けつけ、家財道具の整理等に当たってその保全に努めたこと、被相続人の相続財産は別紙目録記載のとおりであることが認められる。

二  上記認定事実によれば、被相続人は、その生前に抗告人と極めて親しく親戚付き合いをして、抗告人に何かと相談事等を持ち掛けて世話して貰い、殊にその夫死亡後は唯一の頼りになる身内として抗告人を頼って、諸々の相談事等を持ち掛け、その死亡後は抗告人にあとを託していたところ、抗告人は、これに誠意を持って応じて上記のとおり尽力し、被相続人の葬儀や同人及びその親族の法要等の祭祀を行って、墓守もし、今後もそれを怠りなく続けて行く意向であること、被相続人の上記相続財産を抗告人に分与することは被相続人の生前の意思にもそうものであることが充分推測できること等を考慮すると、抗告人は被相続人の特別縁故者に当たると認めるのが相当であり、上記認定の相続財産の内容、その他の諸般の事情を斟酌すると、被相続人の清算(相続財産管理人に対する報酬金の支払等)後残存すべき相続財産の全部を抗告人に分与すべきであるといわねばならない。

第三結論

よって、当裁判所の上記判断と異なる原審判は不当であって、本件抗告は理由があるから、原審判を取り消して、被相続人の清算後残存すべき相続財産の全部を抗告人に分与することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮地英雄 裁判官 山崎末記 富田守勝)

別紙 即時抗告の申立<省略>

(別紙)

目録

一 西宮市○○町×番地家屋番号×番木造瓦葺平家建居宅床面積××・××平方メートルの持分の2分の1(同建物の平成4年度の固定資産税評価額は6万0615円)(その敷地は借地)

二 株式会社○○銀行の市場金利連動型預金

口座番号   ×××××××

額面金額   1000万円

三 利付国庫債権

記号番号   ×××-××××

貯金記号番号 ×××-××××

額面金額   100万円

四 定額郵使貯金

1 記号番号  ×××-××××

額面金額   100万円

2 記号番号  ×××-××××

額面金額   100万円

3 記号番号  ×××-××××

額面金額   100万円

五 株式会社○○銀行(○○支店)普通預金

口座番号   ××××××

預金残高   46万7790円

六 現金24万4167円

七 電話加入権(電話番号××××-××-××××)

評価額は約5万円

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