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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)2112号 判決 1993年3月24日

控訴人

水畑幸雄

右訴訟代理人弁護士

中安正

松下繁生

岸本康義

細見文博

被控訴人

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

山本恵三

山崎徹

岩崎博子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金二〇八万円及びこれに対する平成二年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

次に付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第二記載のとおりであるから、これを引用する。

一控訴人

1  最判昭和五七年二月二三日(民集三六巻二号一五四頁)は、執行裁判所の処分により自己の権利を害される者が、強制執行法上の手続による救済を求めることを怠り、このために損害を被ったときは、執行裁判所みずからその処分を是正すべき場合等特別の事情がある場合でない限り、その賠償を国に対して請求することはできない旨判示するが、右法理は本件のように控訴人が執行異議を申し立てることが期待できない場合には適用がないというべきである。

2  仮に本件のような場合にも右法理の適用があるとしても、本件では執行官において、みずから本件仮差押の執行に関する処分を是正すべき特別の事情がある。

二被控訴人

控訴人の主張は争う。

第三証拠関係<省略>

第四判断

一まず甲野執行官の本件仮差押の執行について、控訴人の主張する過失があるかどうかを検討する。

前記争いのない事実に、<書証番号略>、検証の結果、鑑定の結果、証人福田征男、同甲野太郎の各証言及び弁論の全趣旨によれば、本件仮差押の執行等について次の事実を認めることができる。

1  甲野執行官は、福田代理人とともに本件仮差押の執行のため、昭和六〇年一二月二七日午後一時に井戸方店舗に赴いた。

2  井戸方店舗は二階建の商店で、その一階部分のカウンターや陳列棚には壺や掛け軸、額などの他時計、指輪、ベルト等多数の商品が整然と並べてあり、当時店内には客もおり、甲野執行官は普通の商品を値引きして売っている店であるとの印象を持つとともに、特に倒産間近だとか営業不振であるとかの感じは持たなかった。

3  甲野執行官は井戸方店舗の一階部分で井戸に対し、動産仮差押の執行をする旨告げ、右仮差押の請求債権に見合う現金の提供を求めたが、井戸は現金は積めない旨述べた上、ここに五〇〇万円相当の壺があるから、これを差し押さえてもらいたいと言って、同執行官を本件飾り壺の置かれている棚のところに案内した。

4  本件飾り壺は有田焼で、原判決添付図面に表示されている形状で、獅子頭の蓋、桜・梅・菊等の多数の図柄入り本体(胴)及び台から成っており、当時井戸方店舗の道路側のガラス越しの陳列棚の上にあり、五〇〇万円の値札がついていた。甲野執行官は、本件飾り壺の裏底にある「白龍作」という銘を確認するとともに蓋をとって内部を検分するなどした上で右を定価の五四パーセントに当たる二七〇万円と評価して本件仮差押をなした。なお、甲野執行官も福田代理人も当時本件疵を確認しなかった。

5  その後昭和六三年九月二一日に安藤執行官が井戸方店舗において、本件飾り壺を八〇万円と評価して本差押をしたが、同執行官も本件疵を確認しなかった。そして平成元年七月一七日の本件飾り壺の第四回売却期日において初めて本件疵があることが判明した。

6  平成元年九月二一日に本件飾り壺の鑑定をした古美術商の田中温人は、(1)本件疵が生じた時期は不明である(2)本件飾り壺は比較的新しい品物で骨董的価値はなく、白龍も作家として無名に等しいので、高価な品物とは思われず、通常の売買価格は二五万円である(3)本件疵があることによる本件飾り壺の現在の評価額は三万円であるとの鑑定意見を述べている。

7  甲野執行官は壺等の美術品について評価する特別の能力を有しているわけではなかった。

右認定事実を基に控訴人が主張する甲野執行官の過失の有無を判断する。

控訴人は、本件仮差押当時、同執行官には本件疵を見落としていた過失があると主張するが、本件全証拠によるも本件仮差押当時本件飾り壺に本件疵が存在したことを認めることはできない。そしてかえって、本件疵の形状が前記認定のとおりであるにもかかわらず、甲野執行官も福田代理人も本件疵を確認しなかったことや本件疵が判明したのは平成元年七月一七日の第四回売却期日においてであったことなどの事実に照らすと、本件疵は少なくとも本件仮差押当時には生じていなかったものというべきである。したがって、控訴人の右主張はその前提を欠き、失当というほかない。

次に控訴人は、甲野執行官が本件飾り壺の価格を適正に評価する義務を怠ったと主張するので判断するに、たしかに同執行官は壺等の美術品について評価する特別の能力を有していたわけではないにもかかわらず、専門家に右評価について意見を求めることもせず、結果として鑑定人である田中温人の評価額(二五万円)の一一倍弱の評価をして本件仮差押をした点に問題があるとも考えられる。しかしながら、そもそも動産仮差押の場合にはその対象物件の選択及び評価については、執行官の合理的裁量に委ねられていると解せられる上、動産仮差押の場合には本差押と異なり直ちに換価手続に入ることが予定されていないから、執行官のなす評価は主に超過差押か否かを判断するためのものであるのであり(動産差押の場合に高価な動産について評価人の評価を必要的なものとし、また必要があると認めるときには評価人を選任して差押物の評価をすることができる旨の民事執行規則一一一条一、二項の規定が動産仮差押の場合に準用されていないのは両者について評価の持つ重要性が異なるからだというべきである。)、本件では前記認定のとおり甲野執行官は定価の五四パーセントとして本件飾り壺の評価をしたこと、同執行官は当時井戸方店舗が普通の商品を値引きして売っている店で、倒産間近だとか営業不振だという印象を持たなかったが、右印象を抱いた点について特に軽率であるとか、偏頗であるとか非難される点はうかがえないこと、本件飾り壺の値札について付け替えられた等の形跡は本件全証拠によるも認められないこと、本件仮差押に立ち会った福田代理人から本件飾り壺の評価について特段異議も出なかったこと(もっとも証人福田征男の証言によると、同人は甲野執行官に本件飾り壺以外に他の商品を差し押さえることが無理かどうか聞いたことがうかがえるが、これも本件飾り壺の評価について異議を述べたものとは認められない。)などの事実をも勘案すると、本件飾り壺のような汎用性のない商品について業者のつけた定価を基礎にした甲野執行官の評価には合理性があるということができ、同執行官には控訴人主張の過失は認められない。

二以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当で、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 松本哲泓 裁判官 竹中邦夫)

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