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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1859号 判決 1993年10月26日

大阪府守口市南寺方東通五丁目八八番地の二

控訴人

株式会社ザ鈴木

(旧商号 株式会社鈴木鉄工所)

右代表者代表取締役

鈴木允

右訴訟代理人弁護士

小林勤武

服部素明

三上孝孜

國本敏子

梅田章二

右梅田章二輔佐人弁理士

丸山敏之

広島市安芸区中野東七丁目二六番一九号

被控訴人

株式会社トーワテクノ

右代表者代表取締役

杉山肇

右訴訟代理人弁護士

林弘

中野建

松岡隆雄

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を次のとおり変更する。

二  被控訴人は控訴人に対し、金三八万五〇〇〇円とこれに対する平成五年二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じ、これを一〇分し、その九を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

五  この判決二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は控訴人に対し、金五〇〇万円とこれに対する昭和六〇年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

(なお、控訴人は、その請求〔原判決の事実及び理由「第一 請求の趣旨」参照〕中、原判決別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の海苔の取出装置の製造・販売禁止請求については当審においてこれを取下げ、また、金員請求についても、金四八〇〇万円につき不当利得返還請求権に基づきその支払を求めるとともに、うち六六〇万円については不法行為も成立するとして不法行為による損害賠償を選択的に求めていたのを、当審において、右選択的に求めていた不法行為による損害賠償請求を取り下げるとともに、不当利得返還を求める金員とこれに対する遅延損害金請求を、右2項のとおりに請求減縮した。)

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、原判決三頁末行から同七頁八行目までに記載のとおりの特許権(以下、原判決と同様「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」、その発明についての特許法五二条所定の権利を「本件仮保護の権利」という。)を有する控訴人が、同七頁九行目から同八頁三行目までに記載のとおり、昭和五一年から業として原判決別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の海苔の取出装置(以下、原判決と同様個別には「イ号物件」、「ロ号物件」と、両者を包括指称するときは「被告物件」という。)を製造、販売した被控訴人に対し、右被控訴人の製造、販売にかかる被告物件は本件発明の技術的範囲に属するものであり、被控訴人は、本件発明の出願公告日である昭和五四年三月二日から昭和六一年頃までの間に、控訴人の許諾を受けずに、被告物件を少なくとも二七台製造販売ないし販売して合計一二八七万七八六六円の利益を得、控訴人に同額の損害を及ぼしたと主張して、不当利得返還請求権に基づき、右の内金五〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和六〇年一一月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

第三  争点

一  争点1、2

原判決の争点1、2と同一であるから、同九頁四行目から同三一頁九行目までの記載を引用する(但し、右引用に際しては同一〇頁二行目の「19」を削除する。)。

二  争点3

被控訴人の行為が本件仮保護の権利ないし本件特許権を侵害する場合、被控訴人が控訴人に返還すべき不当利得額

1  控訴人の主張

(一) 原判決別紙被告物件販売一覧表分

被控訴人は、本件発明の出願公告日である昭和五四年三月二日から昭和六一年頃までの間に、控訴人の許諾を受けずに、原判決別紙被告物件販売一覧表の原告主張欄のうち、番号1、4、8、10、13、15、16、19、21、22、29、32に記載のイ号物件(同一覧表の機種欄のWがイ号物件に該当する機種である)一四台は確実にこれを製造販売ないし販売し、一台当たり四七万六九五八円、合計六六七万七四一二円の利益を得て、控訴人に同額の損害を与えた。

(二) 近澤鉄工所分

被控訴人は、控訴人の許諾を得ずに、左記のとおり、株式会社近澤鉄工所から、被告物件を一三台購入し、これをその頃更に他に販売しているところ、一台当たり一〇〇万円を下らない転売利益を得ていたことを窺わせる証拠(甲一七)もあり、右転売により前記と同様少なくとも一台当たり四七万六九五八円、合計六二〇万〇四五四円の利益を得て、控訴人に同額の損害を与えた。

<省略>

(三) 控訴人は、右(一)(二)の確実な被控訴人の不当利得額合計一二八七万七八六六円の内金として五〇〇万円の返還とこれに対する本訴状送達によりした請求の翌日である昭和六〇年一一月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被控訴人の主張

原判決別紙被告物件販売一覧表の被告主張欄記載のとおり、番号1及び番号32については、その主張の機種及び台数を販売したことは認めるが、その販売時期は、番号1については昭和五六年であり、番号32については、一台が昭和五六年一〇月末頃で、その余の二台は昭和五七年五月一二日である。

三  争点4

控訴人の被控訴人に対する不当利得返還請求権は時効により消滅したか。

1  被控訴人の時効援用

不当利得返還請求権の消滅時効期間は商行為によるものとして五年間と解すべきところ、前記二2で述べたとおり、被控訴人が最後に被告物件を販売したのは昭和五七年五月一二日であるから、その翌日から起算して既に五年の消滅時効期間が経過している。被控訴人は、右時効を援用する。

不当利得返還請求権の消滅時効期間が一〇年であるとしても、被控訴人は、製造販売時期の翌日から起算して一〇年が経過した被告物件の製造販売による不当利得返還請求権について、右時効を援用する。

2  時効の中断

(控訴人の主張)

控訴人は、昭和六〇年一一月二日、被控訴人が昭和五一年頃から少なくとも一六〇台の被告物件を製造販売ないし販売したことによる四八〇〇万円の不当利得返還を求める訴を提起したから、これにより時効は中断した。

仮に被控訴人主張のとおり、控訴人が右訴を一旦取下げたとしても、控訴人は、平成元年二月二〇日、被控訴人が昭和五一年頃から少なくとも一六〇台の被告物件を製造販売ないし販売したことによる四八〇〇万円の不当利得返還を求める請求を追加する書面を裁判所に提出したから、遅くとも、これにより時効は中断した。

(被控訴人の主張)

控訴人は、昭和六三年一月二一日の原審第一五回口頭弁論期日において、請求の趣旨を交換的に変更して、訴状記載の不当利得返還請求を取下げ、被控訴人はこれに異議を述べなかったから、右取下げは効力を生じており、時効の中断は生じない。

四  争点5

近澤鉄工所分については、既に控訴人の損失は填補されているか。

1  被控訴人の主張

控訴人は、近澤鉄工所に対し、本件特許権等侵害を理由として、大阪地方裁判所に訴訟を提起した(同裁判所昭和六〇年(ワ)第八八九三号特許権侵害差止等請求事件)。

右訴訟において、控訴人は、近澤鉄工所に対し、本件特許権等の侵害に基づき、本件で主張の一三台も含めて損害賠償を請求し、同裁判所は、近澤鉄工所が製造販売した右一三台分についてもその違法性を認め、これにより控訴人が被った損害を支払うことを近澤鉄工所に命ずる判決をした。右判決は確定し、近澤鉄工所は、控訴人に対し右損害金を支払った。

従って、仮に近澤鉄工所分の一三台につき、これが本件特許権を侵害するものであったとしても、控訴人がこれにより被った損失は、控訴人が近澤鉄工所から前記損害金を受領したことにより既に補填されている。

2  控訴人の主張

被控訴人の近澤鉄工所から購入した一三台についての転売行為は、被控訴人独自の不当利得をなすものであって、右別件訴訟とは無関係のものであるから、それぞれ個別に判断されるべきである。

第四  争点に対する判断

一  争点1、2について

争点1(被告物件が本件発明の技術的範囲に属するか)及び争点2(控訴人が、損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を放棄したか。また、本訴請求が権利の濫用に該当するか)についての当裁判所の判断は、原判決の判断(原判決三六頁三行目から同四八頁八行目まで。但し、同四六頁九行目から同四七頁六行目までは除く。)と同一であるから、これを引用する(但し、同三七頁一〇行目の「~2欄6行」の次に「。但し、2欄1行の『2枚との間に』は『2枚目との間に』の誤記と認める。)。

二  争点3(返還すべき不当利得の額)について

1  被告物件の製造販売ないし販売数量

(一) 原判決別紙被告物件販売一覧表分

原判決別紙被告物件販売一覧表の番号1及び32記載のイ号物件四台については、本件発明の出願公告日である昭和五四年三月二日から昭和六一年頃までの間に被控訴人が製造販売したことは当事者間に争いがないし、右製造販売につき被控訴人が控訴人の許諾を得ていないことは弁論の全趣旨によって明らかである。

控訴人は、右の外、同一覧表の番号4、8、10、13、15、16、19、21、22、29のイ号物件一〇台についても、被控訴人において、本件発明の出願公告日である昭和五四年三月二日から昭和六一年頃までの間に、控訴人の許諾を受けずに製造販売したことは確実である旨主張し、控訴人の営業部長である中村忠男の陳述書(甲一三)及び右中村の当審における証言中にはいずれも右主張に沿うかのような部分がある。しかし、右陳述書及び証言によっても、控訴人において確認したというのは、中村忠男自身ないし他の控訴人社員らが前記同一覧表記載の各送り先に営業活動ないしアフターサービス等の際に立ち寄った際、たまたま、イ号物件を現認したという程度にとどまるものであって、それ以上にそれらがいつ購入されたものか、また、確実に被控訴人の製造販売にかかるものであるかまでを調査確認したものとは窺えず、右陳述書及び証言のみからは、右期間中にその主張のような製造販売の事実があったとはにわかに認めがたいし、その他これを裏付けるに足る客観的な証拠も何ら存しないところであってみれば、番号4、8、10、13、15、16、19、21、22、29のイ号物件一〇台についての右期間中における製造販売の事実はこれを認めるに足りない(なお、乙第九号証によれば、番号22に関しては、被控訴人がイ号物件一台を製造販売したことが認められるが、その販売時期は、本件発明の出願公告日である昭和五四年三月二日より前の昭和五一年六月というのであって、右出願公告日より後に製造販売されたものとは認められないから、右事実は前記認定を何ら左右するものではない。)というほかない。

(二) 近澤鉄工所分

証拠(甲一六の1、2、乙八)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、近澤鉄工所の製造にかかるイ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置を左記<1>~<5>、<7><8>のとおり一二台、同鉄工所の製造にかかるロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置を左記<6>のとおり一台、各購入し、それらをその頃控訴人の許諾を得ることなく更に他に販売したことが認められ、これに反する証拠はない。

<省略>

2  返還すべき不当利得額について

控訴人は、被控訴人は、右被告物件の製造販売ないし販売により、少なくとも一台当たり四七万六九五八円の利益を得、控訴人はそれと同額の損失を被った旨主張するが、右被控訴人の利益額を認めるに足りる確たる証拠はない(甲第九号証、第一〇号証の1~3、第一一号証、第一三~第一五号証及び当審証人中村忠男の証言中には、イ号物件〔W型〕一台当たりの販売利益は四七万六九五八円、ロ号物件〔S型〕一台当たりの販売利益は二九万〇七〇一円となる旨の部分があるが、これは、控訴人が製造販売する海苔自動供給機についての販売価格、製造原価、利益を計算したものであるから、これが仮に正しいとしても、直ちに右金額が被控訴人の製造販売ないし販売した被告物件についての利益額であるとは認められないし、他に右利益額を認めるに足りる証拠はない。)し、被控訴人の右被告物件の製造販売ないし販売によって控訴人が同額の損失を被ったことを認めさせるに足りる証拠もない。

しかし、他人が仮保護の権利ないし特許権を有する発明を実施するには相当の実施料を支払わなければならないことは明らかであり、仮保護の権利ないし特許権の侵害者はこれを支払わずに実施して、支払わなければならない実施料を支払わず、同額の利得を得たと認められ、他方、仮保護の権利ないし特許権を有する者は、実施料の支払を受けることができず、これと同額の損失を受けたものということができる。したがって、仮保護の権利ないし特許権の侵害があれば、特段の事由のない限り、常に侵害者に実施料相当額の不当利得が生じるということができるから、被控訴人は控訴人に対し、前記製造販売したことに争いがないイ号物件四台(原判決別紙被告物件販売一覧表の番号1及び32の分)及び近澤鉄工所から購入して更に他に販売したと認められる、イ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置一二台、ロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置一台につき、その実施料相当額を不当利得として支払わなければならない。

そこで、右実施料相当額について検討するに、証拠(甲九、一〇の1~3、一一、一五)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が製造販売していた本件発明を実施した海苔の取出装置を具備した海苔の自動供給機の昭和五六、七年以降の販売価格は、海苔の取出装置が二基で構成されているW型(被告物件ではイ号物件がこれに対応する)で一台約一〇〇万円ないし一二〇万円、海苔の取出装置が一基で構成されているS型(被告物件ではロ号物件がこれに対応する)で一台約八〇万円ないし九〇万円であったこと、被控訴人が近澤鉄工所から購入して更に他に販売した海苔の取出装置及び供給装置についての右販売価格は不明であるが、被控訴人の購入価格は、前記認定のとおりイ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置は一台九〇万円もしくは九三万円、ロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置は一台七九万円であったこと、本件発明の内容並びに弁論の全趣旨を総合考慮すると、本件発明の実施料相当額は、前記イ号物件四台の製造販売については一台につき六万円、近澤鉄工所から購入したイ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置一二台の他への転売については一台につき三万円、同鉄工所から購入したロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置一台の他への転売については一台につき二万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

したがって、被控訴人が返還すべき不当利得額は前記イ号物件四台については二四万円(六万円×四)となり、近澤鉄工所から購入した一三台については三八万五〇〇〇円(三万円×一二+二万五〇〇〇円)となる。

四  争点4(時効)について

被控訴人は、本件不当利得返還請求権についての消滅時効の期間は五年と解すべきであると主張するが、その時効期間は民法一六七条により一〇年と解するのが相当であり、被控訴人の右主張は採用の限りでない。

そして、前記認定のとおり、近澤鉄工所から購入した海苔取出及び供給装置の他への転売は、いずれも昭和六〇年六月二六日以降であり、いまだ一〇年の時効期間は経過していないことが明らかであるし、前記イ号物件四台(原判決別紙被告物件販売一覧表の番号1及び32の分)についての不当利得返還請求権については、その販売の日が、番号1は昭和五六年一〇月であることに争いがなく、番号32については、控訴人の主張では昭和五九年以降であり、被控訴人の主張によっても一台は昭和五六年一〇月末頃、その余の二台は昭和五七年五月一二日であることからして、そのいずれとしても、控訴人が、時効期間の一〇年が経過する前である平成二年二月二〇日に、請求の趣旨に不当利得返還請求権に基づく金員請求を追加する書面を原審裁判所に提出したこと(記録上明らか)により時効は中断したと認められるから、いずれについても時効消滅はしていない。

五  争点5(近澤鉄工所分については既にその損失は補填済みであるか)について

証拠(乙八、当審証人中村)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、近澤鉄工所に対し、シート状の取出装置についての本件特許権及びシート状物の供給装置についての登録番号第一〇五〇九八八号の特許権(以下両者を包括して「本件特許権等」という。)の侵害を理由として、大阪地方裁判所に訴訟を提起し(同裁判所昭和六〇年(ワ)第八八九三号特許権侵害差止等請求事件)、同裁判所は、平成三年一〇月三〇日、右事件につき判決を言い渡したが、その中で、被控訴人が近澤鉄工所から購入して更に他に販売した前記イ号物件の海苔取出装置を具備した海苔取出及び供給装置一二台及びロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔取出及び供給装置一台につき、近澤鉄工所が、被控訴人に対し、前記二1(二)で認定のとおり製造販売し控訴人の有する本件特許権等を侵害したこと、右製造販売により近澤鉄工所の得た利益はイ号物件の海苔取出装置を具備した海苔取出及び供給装置については一台当たり平均二〇万円、ロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔取出及び供給装置については一台当たり平均一五万円と認めるのが相当であり、結局、近澤鉄工所は右製造販売により二五五万円(二〇万円×一二+一五万円)の利益を得たと認められるから、特許法一〇二条一項により右近澤鉄工所の得た利益額二五五万円が控訴人の受けた損害と推定されると認定し、本件特許権等の侵害についての不法行為による損害賠償として右二五五万円とこれに対する平成二年一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を命じたこと、右判決は確定し、近澤鉄工所は右判決で支払を命じられた金員を控訴人に対し既に支払済みであることが認められる。

被控訴人は、右金員の支払を控訴人が受けたことにより、既にその損失は補填されていると主張するのであるが、右にみたとおり、前記別件判決が認容し、控訴人が近澤鉄工所からその支払を受けた損害賠償金の額は、近澤鉄工所が、控訴人の有する本件特許権等を侵害して、前記イ号ないしロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔取出及び供給装置合計一三台を製造し、これを被控訴人に販売したことによって近澤鉄工所が得た利益の額をもって、控訴人が被った損害と推定された(特許法一〇二条一項)ものであって、これを購入した被控訴人が更にこれを他に販売したこと(これも又別途に控訴人の有する本件特許権を侵害する行為であるから、特許法一〇二条一項又は二項により、控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人の販売行為による利益額又は販売行為についての実施料相当額を主張立証して不法行為による損害賠償を求め、又はその被った損失の不当利得返還請求をすることができるものであり、現に本訴は、その不当利得返還を求めるものである。)による控訴人の損害ないし損失をも含めた損害賠償を命じたものではないことが明らかであるから、控訴人が既に近澤鉄工所から別件判決による損害賠償金の支払を受けているからといって、控訴人が、被控訴人の本件特許権を侵害する販売行為によって被った損害ないし損失についてまで、右支払によって補填されたものとは認められないし、他にこれを認めるに足りる証拠もない。被控訴人のこの点の主張は採用できない。

第五  結論

以上のとおりで、控訴人の請求は、原判決が認容した原判決別紙被告販売一覧表番号1及び32に記載のイ号物件四台の製造販売についての本件特許権の実施料相当額の不当利得金二四万円とこれに対する本件訴状送達による履行の請求があった日の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年一一月八日から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払の外に、近澤鉄工所から購入したイ号ないロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔の取出及び供給装置一三台を更に被控訴人が他に販売したことについての本件特許権の実施料相当額の不当利得金三八万五〇〇〇円とこれに対する履行の請求があった日(控訴人は、原審において包括的に、被控訴人において、原判決別紙被告物件一覧表記載分も含め少なくとも一六〇台の被告物件を製造販売ないし販売したとしてこれによる不当利得金と遅延損害金の支払を求めていたものであり、その中には明示されてはいなかったとしても、右近澤鉄工所分もその中に含まれていたものとは解されるが、これにつき明示的に特定して履行の請求があったのは、平成五年二月二三日の当審における第三回口頭弁論期日においてであるから〔記録上明らか〕、近澤鉄工所分については二の日に履行の請求があったと認めるのが相当である。)の翌日である平成五年二月二四日から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は棄却すべきである。

よって、原判決中、控訴人敗訴部分を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山﨑杲 裁判官 上田昭典)

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