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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1116号 判決 1993年4月27日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加、削除、訂正するほかは、原判決三枚目表三行目の冒頭から同一三枚目表一〇行目の終わりまでの記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表八行目の「確認と」の次に「右権利に基づく」を付加し、同行の「(甲事件)」を削除する。

二  同九行目の「行つている」の次に「賃借権者である」を付加する。

三  同一〇行目の「借地権者」から同裏一行目の「主張している)と」までを「主位的に、囲繞地通行権、予備的に、使用貸借契約、又は慣習による通行権の各確認とこれらの権利に基づく」と改める。

四  同裏一行目の「事案である」の次に「(被控訴人千早赤阪村は、当審において、被控訴人大阪府の代位権者としての囲繞地通行権、権利の濫用を理由とする通行権、被控訴人大阪府の覚書による権利の援用を理由とする通行権の各確認とこれらの権利に基づく通行妨害禁止を求める請求の訴えを取り下げた。)」を付加する。

五  同六行目の「所有していた」の次に「(右の点は争いがない。)」を付加する。

六  同四枚目裏四行目の「所有している」の次に「(右の点は争いがない。)」を付加する。

七  同七行目の「なお、」を「また」と改め、同九行目の「(」の次に「被控訴人大阪府所有の大阪府南河内郡千早赤阪村大字千早一三一三番二山林二〇八九七平方メートルの一部」を付加し、同一〇行目の「許可を受け、」を「許可を受けて、右駅舎の建物所有を目的等として賃借し、」と改める。

八  同五枚目表一行目の「)。」の次に、「被控訴人千早赤阪村は右駅舎の建物につき保存登記をなしている(右の点は争いがない。)。」を付加し、同二行目の「第一図及び」を削除する。

九  同八行目の「である」の次に「(右の点は争いがない。)」を付加する。

一〇  同九行目の「使用契約の締結」を「使用の承諾」と改める。

一一  同裏一行目の「本件道路の使用契約を締結した」を「被控訴人千早赤阪村がこの約定で本件道路を使用することを承諾した」と改める。

一二  同六枚目表末行の「本件道路の使用契約を締結した」を「これにより、控訴人らは被控訴人大阪府がこの約定で本件道路を使用することを承諾した」と改める。

一三  同六枚目裏九行目の「通行をしていた」の次に「(右の点は争いがない。)」を付加する。

一四  同七枚目表四行目の「意思表示をした」の次に「(右の点は争いがない。)」を付加する。

一五  同六行目の「(甲事件)」を削除する。

一六  同裏六行目の「ついて、」の次に「被控訴人らの」を付加し、同行の「(甲、乙事件)」を削除する。

一七  同八枚目裏三行目の「明らかである。」の次に行を改めて次のとおり付加する。

「土地の一部の譲渡の結果公路に通じない土地が生じたと言えるかどうかは、当然のことながらその譲渡が行われた当時の譲渡された土地と残された土地の状況、譲渡を受けた土地を利用するために採用した通行方策を総合して判断すべきである。袋地であるかどうかの判断は単に形式的、物理的な判断ではなく、そこの土地の状況、その時代の交通の状況を踏まえた上ですぐれて社会的な判断であるべきである。またその判断はその後の社会状況の変化を考慮してはならず、袋地が生じた時点にて判断すべきである。これを本件について検討するに、被控訴人大阪府が府有地を控訴人尾花土地株式会社から買受けた昭和四四年当時被控訴人大阪府は府有地上に府民のための公共施設を建設して利用する目的を有していた。そしてその頃には既に被控訴人千早赤阪村が運営する金剛山ロープウエイが府有地に通じており、被控訴人大阪府は府有地への人の往来は全てこのロープウエイにて行うことを予定していた。また被控訴人大阪府は右ロープウエイで賄うことのできない物資の運搬は索道にて行うことにして控訴人尾花土地株式会社が府有地を右被控訴人に譲渡したあとの残余地を二分する形でわざわざ索道敷を取得したものである。そして当時は現在と異なり車が少なくまたその性能も悪く、およそ本件道路を車で通行するという観念はなかつた。

以上の次第で、被控訴人大阪府としては府有地を取得した当時、人間の通常の通行は被控訴人千早赤阪村の運営するロープウエイを、物資の搬入については本件索道を利用することとしており、府有地は右ロープウエイと索道にて公道と接続せられているのであるから、府有地は袋地ではない。

ある土地が袋地となるかどうかは社会的判断である以上本件においては次の諸事情がその判断のうえで考慮されなければならない。

被控訴人大阪府は、府下各所にその行政目的に応じて多くの用地を取得しており、その際には、丙一のような用意周到な契約書を用意して権利関係を明確にし、通行に関し後日に問題を残さないよう最大限の配慮をしている。その反面、右被控訴人は本件道路に関しては何らの契約書も作成していないから、右被控訴人としては当時本件道路の必要性は全く感じておらず、府有地を袋地と考えていなかつた。

後日、右被控訴人自身が作成した本件道路に関する本件府覚書は、本件道路通行の期間を五年と定めるなど、法定の囲繞地通行権を自ら否定する内容となつている。

前記のとおり袋地の判断は、府有地取得当時の対象土地の状況と社会状況を踏まえたうえでの判断であるから、「索道を敷設することにより物資の運搬は可能であるものの通常の交通手段による通行は不可能である。」として府有地を準袋地と認定するのは誤つた判断である。なるほど、本件策道敷の勾配では人の通行、車の通行は困難であろう。そのため被控訴人大阪府は本件索道敷上に索道を設置して物資の搬入を可能ならしめているのであり、一方人の通行はロープウエイにて行うこととしているのである。人又は物資の移動が困難な道路もそこに補助的設備を設置することによつてその移動が可能になれば、そこは立派な道路であることを見落してはならない(索道が公路に至る通路と言えるかどうかは索道敷を単に物理的な土地として見るのではなく、そこに設置された索道とともに評価されるべきである。)。

前記のとおり、被控訴人大阪府が府有地を取得した当時、被控訴人千早赤阪村の運営するロープウエイが存在し、そのロープウエイの線下の土地は右被控訴人の所有地及び借地であつて、麓の駅舎のある府道富田林五条線に通じているのであるから、ロープウエイとその線下の敷地は公路と評価すべきである。そうすると、府有地は袋地ではない。

なお、被控訴人大阪府は、囲繞地通行権の対象たる道路の範囲を特定しないで、右通行権の確認を請求している。原判決添付の別紙第二図においてその範囲を指示してはいるが、同図には起点及び終点の記載が不充分で判然としないし、道路幅について何らの記載もない。そうすると、右請求は権利の特定を欠くから違法である。さらに仮に右被控訴人主張の囲繞地通行権が認められるとしても、これは本件府覚書により、「通行目的制限」、「第三者の通行時の措置」、「使用方法の制限」等の制限事項が取決められているので、右通行権はこれらの制限を付した権利として認められるべきである。」

一八  同一〇枚目表八行目の「はずである。」の次に行を改めて次のとおり付加する。

「(3) 被控訴人大阪府の囲繞地通行権は、解約又は期間の満了により消滅したか。

(控訴人らの主張)

仮に被控訴人大阪府が本件道路につき囲繞地通行権を取得したことが認められたとしても、

右通行権についてはその当事者が合意により右権利を処分したり変更したりすることは自由であるところ、前記二2(二)記載のとおり、控訴人らと右被控訴人は、本件府覚書による合意をなして、これにより右囲繞地通行権の内容を右覚書の約定どおりに変更した。ところで、右被控訴人は、右約定による特約に反して、被控訴人千早赤阪村及び第三者に本件道路を通行させたから、控訴人らは、被控訴人大阪府に対し、平成二年九月三日、右囲繞地通行権を解約し、通行を認めない旨の意思表示をした。

また、右覚書の約定には囲繞地通行権につき存続期間を平成三年一一月二五日までと定めているところ、控訴人らは、右被控訴人に対し同年七月二九日その更新を拒絶する旨の意思表示をしたから、右囲繞地通行権は期間の満了により終了した。

以上の次第で、被控訴人大阪府の右囲繞地通行権は消滅した。

(被控訴人大阪府の主張)

本件府覚書は、これにより、右被控訴人が新たに本件道路につき使用権を取得したものであつて、囲繞地通行権につき約定したものではない。

また、控訴人ら主張の解約理由となる事実は存在しないので、右解約は無効である。」

一九  同末行の」「原告千早赤阪村は、」の次に「前記二1(五)の後段及び3記載のとおり、」を付加する。

二〇  同裏二行目の「受けている」から同五行目の「る。」までを次のとおり改める。

「受けて、右駅舎及びその付帯施設の敷地の土地につき対抗要件(右駅舎の建物の保存登記経由)を具備した賃借権(借地権)を有するので、前記袋地の一部の賃借人として本件道路につき固有の囲繞地通行権を取得した。前記二2(一)記載のとおり、控訴人らと被控訴人千早赤阪村との間で合意された本件村覚書により、控訴人らは右被控訴人が右囲繞地通行権をも有することを確認しているものである。

(控訴人らの主張)

右被控訴人主張の囲繞地通行権の対象たる道路の範囲が特定されていないことは、前記三2(一)の記載のとおりである。

二一  同七行目の「(乙事件)」を削除する。

二二  同一一枚目表一行目の「取得した。」の次に「前記二2(一)記載のとおり、控訴人らと被控訴人千早赤阪村との間で合意された本件村覚書により、控訴人らは右被控訴人が右使用賃借契約による通行権をも有することを確認しているものである。」を付加する。

二三  同三行目の「本件道路について」の次に「被控訴人千早赤阪村主張の右」を付加する。

二四  同六行目の冒頭から同裏一行目の終わりまでを削除し、同二行目の「(2)」を「(二)」と改める。

二五  同裏四行目の「原告千早赤阪村の本件村覚書による通行権の存続期間は、」を「仮に被控訴人千早赤阪村主張の右通行権が認められたとしても、控訴人らと右被控訴人は本件村覚書により右通行権の内容について約定したところ、右約定による右通行権の存続期間は、」と改める。

二六  同八行目から同九行目にかけての「本来囲繞地通行権の確認の意味で作成されたものであり、」を「囲繞地通行権の確認の意味をも合わせ持つものであるから、右通行権につきそもそも」と改める。

二七  同末行の冒頭から同一三枚目表四行目の終わりまでを削除する。

二八  同五行目の「(乙事件)」を削除する。

第三  争点に対する判断

当裁判所の争点に対する判断は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決一四枚目表五行目の冒頭から同二六枚目裏二行目の終わりまでの記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一四枚目裏二行目の「地積測量図(甲五)及び土地所有区分図(甲一一)によれば、」を「府有地やその周辺の状況等は原判決添付の別紙第一、第二図記載のとおりであり、」と改める。

二  同一五枚目表一行目の「甲一一」を「甲五、一一、丙一」と改め、同六行目の「甲一一」の次に「、証人大向」を付加する。

三  同裏六行目の「解されるが、」を「認められるが、」と、同一〇行目の「そして、」を「控訴人らは、被控訴人千早赤阪村設置の金剛山ロープウエイ及びその下の右被控訴人所有又は借受土地を利用すれば、府有地は公路に接続していることになるので、袋地ではない旨主張するが、右ロープウエイは空中をケーブルカーによつて移動する設備であつて、人が何時でも歩行もしくは車両による交通手段で通行して移動できる設備ではないから、土地に施設された道路でないことは勿論、これと同等の便宜や機能を認め得るものではなく、また仮にその下の土地が被控訴人千早赤阪村の所有又は借受土地であることが認められたとしても、右土地は歩行又は通常の車両による交通手段では通行不可能であることが認められる(甲一〇、一一、弁論の全趣旨)から、控訴人らの右主張は採用できず、さらに控訴人らにおいて、」とそれぞれ改める。

四  同一六枚目表一行目の「少なくとも、本件道路を歩行により」を「本件道路」と改める。

五  同二行目の「べきである。」の次に行を改めて次のとおり付加する。

「控訴人らは、土地の一部の譲渡の結果公路に通じない土地を生じたと言えるかどうかは、その譲渡が行われた当時における譲渡された土地と残された土地の状況等を考慮して判断されるべきである旨主張する。確かに、土地の一部の譲渡の結果公路に通じない土地を生じたと言えるかどうかは、その譲渡された当時における譲渡された土地と残された土地の形状等により判断すべきではあるが、その結果、袋地になつた土地の所有者等につき残された土地の何処をどのように通行させるべきかは、右譲渡された当時及びその後の状況等を斟酌して判断すべきであると解するのが相当であるから、右の見地に基づいて前記のとおり判断したものである。

また、控訴人らは、右囲繞地通行権の対象である本件道路は、その起点や終点が明示されておらず、幅員も記載されていないので、特定されていない旨主張するが、本件道路は原判決添付の別紙物件目録記載の土地のうちの約一三六八平方メートルの土地部分で、その位置は同添付の別紙第二図の赤色で図示した道路部分である旨特定されているところ、右図面によりその位置、起点及び終点が明らかであり、幅員の記載はないけれど、道路の形状をなしている土地部分であることを示していて、証拠(検甲一七ないし一八、弁論の全趣旨)によれば、本件道路は道路の形状をなしていてこれにより現場において特定できることが認められるから、控訴人らの右主張は失当である。」

六  同一〇行目の「(一)」の次に「被控訴人らの囲繞地通行権の確認及びこれによる通行妨害禁止の請求は、歩行による通行は勿論、車両による通行を前提にして右請求をなしているものと解されるから、右争点についても判断するのが相当であるところ、」を付加する。

七  同裏九行目の「数千人が」を「数千人の」、同一九枚目裏四行目の「締結するする」を「締結する」とそれぞれ改める。

八  同二五枚目裏四行目の「なお、」から同二六枚目表三行目の終わりまでを次のとおり改める。

「控訴人らは、被控訴人大阪府の有する本件道路についての囲繞地通行権は、本件府覚書によりその内容等(存続期間、解約の定め等)が約定され、右期間の満了又は解約により消滅した旨主張するが、前記認定のとおり、本件府覚書はこれにより、被控訴人大阪府に対し新たに本件道路についての使用権(無償)の取得を認めたものであつて、法律で定められた物件である本件囲繞地通行権につきその内容等を規制することを約定したものであると認めることは困難である。したがつて、仮に控訴人ら主張のとおり、本件府覚書による被控訴人大阪府の本件道路についての使用権が期間の満了又は解約により消滅したことが認められたとしても、これに伴い本件囲繞地通行権が消滅することにはならないといわねばならない。すると、控訴人らの右主張は採用できない。

なお、被控訴人大阪府の本件道路についての囲繞地通行権に基づく歩行又は車両の交通手段による通行に対して妨害に当たらない程度の控訴人らの本件道路についての措置(不特定多数者の進入を防止するために遮断機等を設置し、右遮断機の鍵を囲繞地通行権者には交付しておく等)は許されるというべきであるが、これは右囲繞地通行権の行使に対する妨害に当たるか否かの問題であつて、右通行権を右措置のとおり制限できるというものではない。控訴人らは、右囲繞地通行権は本件府覚書によりその内容が定められている旨主張するが、本件府覚書による約定の趣旨等については前記説示のとおりであつて、右囲繞地通行権について約定したものであると認めることは困難であるから、控訴人らの右主張は採用できない。」

九  同二六枚目表九行目の「運営して」から同裏二行目の「できる。」までを「運営して、右駅舎の建物につき保存登記をなしているものである。そうすると、被控訴人千早赤阪村は府有地の一部につき対抗要件を具備した賃借権(借地権)を有するところ、右府有地は準袋地であつて、本件道路を通行して公路へ出ざるを得ない等の前記認定の諸般の事情等があるものである。してみれば、被控訴人千早赤阪村にも本件道路につき固有の囲繞地通行権(歩行又は車両による)を認めることができる(なお、本件道路が特定されていることは前記二1(四)において説示のとおりである。)。」と改める。

第四  結論

よつて、その余の争点につき検討を加えるまでもなく、被控訴人らの控訴人らに対する本件道路についての囲繞地通行権の確認及びその妨害の禁止を求める各請求はいずれも理由があるから、これらを認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮地英雄 裁判官 山崎末記 裁判官 富田守勝)

《当事者》

控訴人 尾花土地株式会社

右代表者代表取締役 尾花俊彦 <ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 松川雅典

被控訴人 大阪府

右代表者知事 中川和雄

右訴訟代理人弁護士 苅野年彦 同 寺内則雄

右指定代理人 津田二郎 <ほか一名>

被控訴人 千早赤阪村

右代表者村長 大向 保

右訴訟代理人弁護士 苅野年彦 同 寺内則雄

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