大判例

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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)907号 判決 1990年11月15日

控訴人

北明美

右訴訟代理人弁護士

高山利夫

村松いづみ

被控訴人

進学ゼミナール予備校こと

小原浩次

右訴訟代理人弁護士

村田敏行

青木一雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人と被控訴人との間に雇傭関係が存在することを確認する。

3  被控訴人は控訴人に対し、毎月末日限り、昭和六二年一月一日から同年九月末日まで原判決別紙一覧表(二)記載の金額、同年一〇月から平成元年一二月まで同別紙一覧表(一)の差額欄記載の金額、平成二年一月一日から同別紙一覧表(二)記載の金額並びにこれらに対する右各支払期の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  第3項につき仮執行の宣言

二  被控訴人

主文に同じ

第二  当事者の主張

原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり付加、訂正をする。

一  主張の訂正等

原判決七枚目表六行目の「一二月末支給予定」を「一二月末支給」と改め、同八枚目裏三行目の「同(三)の事実は」の次に「、被控訴人が本件雇傭契約の存在を争っていることは認め、その余は」を、同九枚目表四行目の「直前講習」の次に「(控訴人のいう「三学期」にあたる。)」を、それぞれ加え、同九枚目裏五行目の「定める契約」を「定めのある契約」と改める。

二  控訴人の当審での新たな主張

控訴人は、被控訴人経営の予備校で、授業のほか、その準備、試験の作成や採点、教材作成などの一連の業務を行っていたが、その業務は、決して臨時的なものではない。また、控訴人は、継続雇傭を期待し、被控訴人も、これを前提とする発言を繰り返していたし、事実本件雇傭契約は更新、継続された。

そうであるとすれば、たとえ、本件雇傭契約が期間の定めのある契約であったとしても、期間の定めのない契約と実質的な異ならない状態が成立していたか、少なくとも期間満了後も被控訴人が雇傭を継続すべきものと控訴人が期待することに合理性が認められるような状態が成立していたというべきであるから、本件雇傭契約の終了については、解雇の法理を類推適用すべきである。そうして、これを類推適用すると、本件雇止めは、控訴人の労働条件改善要求に対する報復行為として、解雇権の濫用あるいは不当労働行為に当たり、無効である。したがって、本件雇傭契約は、更新され存続している。

三  右主張に対する被控訴人の答弁

本件雇傭契約は、予備校の非常勤講師として働くことを目的とするものであって、期間の定めのある雇傭契約の典型的なものであり、これに解雇の法理を類推適用する余地はない。

第三  証拠<省略>

理由

一当裁判所の判断は、控訴人の当審での新たな主張に対するものを除き、原判決の理由一ないし三(原判決一六枚目表一〇行目から同二二枚目裏一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。但し、次の付加、訂正をする。

1  原判決一六枚目裏一〇行目の「成立に争いのない」の前に「前掲乙第三〇、三一号証、」を加え、同一七枚目表二行目の「第三〇」を「第三二」と、同表三行目の「前記乙第三三号証及びこれにより」を「弁論の全趣旨により」と、それぞれ改め、同表七行目の「第一二号証」の次に「第三七号証、」を加える。

2  同一八枚目表七行目の「冬季」及び九行目の「春季」の次にそれぞれ「講習」を加え、同枚目裏八行目の「春季講習」の次に「講師料」を加える。

3  同一九枚目表九行目の「昭和六〇年」から同表末行の「指名されるなど、」までを「昭和六〇、六一年度について設けられたクラス担任制度のクラス担任に昭和六〇年度においては指名されるなど、」と改める。

4  同一九枚目裏一〇行目の「立案され」の次に次のとおり加える。

「(但し、四月から一二月までの期間を基本的なカリキュラムの期間とし、一、二月にはアフターケア的な意味で希望者のみについて入試直前の講習を行う。この講習の講師は、基本的なカリキュラムの講師とは別に一部の講師のみについて指名される。また、これらとは別に夏季、冬季等に特別の講習を行う。)」

5  同二一枚目表八行目の「原告は、」の次に「前記のような意味あいで」を加える。

6  同二一枚目裏一行目の「いうべきである」の次に次のとおり加える。

「(前記のとおり、被控訴人経営の予備校の本来のカリキュラムの期間は一二月までであって、このことは、控訴人に対しても、被控訴人がその採用時に説明しており、一、二月の入試直前講習の講師は別に指名されていたから、本件雇傭契約は、昭和六二年の三月ではなく、昭和六一年一二月をもって終了したものというべきである。)」

7  同二二枚目表二行目の「述べた」を「告げられた」と改め、同表五行目の次に次項を挿入する。

「なお、被控訴人が控訴人に対して右のように告げたことをもって、昭和五九年四月から一二月までの期間が、本件雇傭契約の第一回目の存続期間ではなくいわゆる試用期間であると解することは無理である。すなわち、右告知は、被控訴人が控訴人に対し、なるべく長く勤務してほしいとの願望を述べたにすぎない。」

二控訴人の当審での新たな主張について

1  控訴人は、本件雇傭契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で成立していたか、少なくとも期間満了後も雇傭が継続するものと控訴人が期待することに合理性が認められるような状態が成立していたと主張する。

2 臨時従業員(臨時工)の期間満了による雇止めの効力の判断にあたっては、当該臨時従業員の従事する仕事の種類、内容、勤務の形態、採用に際しての雇傭契約の期間等についての雇主側の説明、契約更新等の新契約締結の形式的手続の有無、契約更新の回数、同様の地位にある他の労働者の継続雇傭の有無等に鑑み、期間の定めのある雇傭契約があたかも期間の定めのない雇傭契約と実質的に異ならない状態で存在しており、あるいは、そのように認めうるほどの事情はないとしても、少なくとも労働者が期間満了後の雇傭の継続を期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解するのが相当である。(最判昭和四九年七月二二日民集二八巻五号九二七頁、最判昭和六一年一二月四日裁判集一四九号二〇九頁参照)。

臨時従業員(臨時工)に関する以上の法理は、予備校のいわゆる非常勤講師的な形態で勤務する控訴人が被控訴人と締結した本件雇傭契約にも原則として当てはまることはいうまでもない。

そこで、以下、この視点に立って判断を進めることにする。

3 前記認定の事実(引用した原判決理由の認定事実)に前掲の各証拠によって認められる事実を併せると、控訴人の主張に沿う事実として以下のことが認められる。そして、これらの事実をもってしても、本件雇傭契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で成立していたものとみることはできないものの、少なくとも、これらの事実は、本件雇傭契約が継続することを控訴人が期待することに合理性があると推認させる事情であるとはいえないことはない。

ア 本件雇傭契約の期間については、契約の当初に被控訴人から控訴人に対して、必ずしも明確な説明がされておらず(但し、基本的な授業の期間は、二学期の終わりである一二月までで終了するとの説明はあった。)、期間を明確にした契約書も作成されていない。また、一、二月の直前講習や夏季、冬季の特別講習についても、そのつど契約書が作成されるようなことはなく、口頭で契約(講師の申込みとこれに対する指名)が行われていた。

イ 控訴人、被控訴人間の雇傭契約は、基本的な雇傭の期間である四月から一二月までについてみると二回にわたり更新され、控訴人は、昭和六一年一二月に被控訴人から雇止めの意思表示がされるまで、二年八か月にわたり非常勤講師として勤務した。

ウ 控訴人は、授業に熱心であり、また副教材の作成等のために、授業時間外にもかなり時間をその準備のために費やしていた。

エ 被控訴人は、少なくとも、昭和六一年の初めころに控訴人らから労働条件の改善等についての要求がされるまでの間は、控訴人の勤務態度に満足していた。そして、被控訴人は、控訴人が勤務を始めて間もない昭和五九年の六、七月ころ、控訴人に対し、専任講師(被控訴人の予備校に毎日、午前午後を通じて勤務するとの趣旨)としてずっと勤務してはどうかとの申入れをしたこともあった。

4 しかし、他方前記認定の事実(引用した原判決理由中の認定事実)に前掲の各証拠によって認められる事実を併せると、本件雇傭契約について、前記の推認を妨げる以下の事情が認められるのである。

ア 控訴人の勤務形態は、一定時間の授業を週一定のコマ数(昭和五九年度から昭和六一年度までは、各六、七、五コマ)担当するというもので、必ずしも毎日勤務するわけではない。そのうえ、出勤する日も、原則として授業時間にだけ拘束された。そして、その準備等を行う時間や準備の程度は、各講師の自由に委ねられていた。すなわち、控訴人の勤務形態は、いわゆる非常勤の形態であった。

イ  前記二、3、エに認定した被控訴人からの申入れを控訴人は断った。

ウ 被控訴人の予備校は、比較的小規模の予備校としての性格上、年度により生徒数の変動が大きく、また生徒の希望等の変化がある関係上、年度ごとに各教科の時間数が変動した。そこで、必要な講師の数も、必然的に変動せざるをえない状況にあった。

エ 講師の方も、大学院に通学し、あるいは他の塾や予備校にも勤めるなど、かけもちで勤務する者が多かった。そこで、各教科の時間割も、被控訴人側の必要とこうした各講師側の都合との調整によって決定された。

オ 被控訴人の予備校の講師には、かなり長期間にわたり雇傭されている者より、一年ないし三年程度で退職している者の方が多く、また、再雇傭が当然といった状態にはなかった。すなわち、一年目から二年目に移る者のうち契約を更新されない者も多く、三年目以降の者も、講師側に希望があれば更新する場合が多いが、これも必ずしも確実ではなかった(契約の更新が不確実であり、かつそれが四月の直前まで明らかにならないことについて講師らが不満を持っていたことは、<証拠>によって明らかであって、これに反する同結果は採用できない。)。

カ 被控訴人の予備校を含め、大学受験予備校の教育は、その性格上、本来の教育というよりむしろ大学合格のための準備という性格が強く、その意味で私立の大学、高等学校に比してより企業としての要素が大きい。そこで、京都市では、大手の、あるいは中小規模の予備校が乱立してしのぎを削る状況であった。

5 まとめ

4で認定したような事情は、大学受験のための小規模予備校という被控訴人の業態の性格からいわば構造的、必然的に導き出されるものであり、こうした観点からみると、控訴人の勤務について、その勤務形態からみて、本工とほとんど同一の形態で勤務する製造業における臨時工の勤務と同一視できないことはもちろんである。そして、控訴人の勤務は、長期間勤務することを期待して行われる私立大学等の常勤の講師の場合よりも継続性、反面からいえば拘束性の弱いものであり、どちらかといえば、私立大学等の非常勤講師のそれに近いと考えるべきである。とはいっても、控訴人の勤務の拘束性を考えた場合、大学受験のための予備校という被控訴人の業態に考慮が払われるべきであり、このことが、控訴人の勤務が、その拘束性という点からみても、いわゆる臨時工のそれに当てはまらない理由でもある。

以上の次第で、3に掲げたような事実から、直ちに控訴人が本件雇傭契約が継続すべきものと期待することに合理性がある事情にあったと推認することはできない。そうすると、控訴人の主張は、理由がないことに帰着する。

三本件雇傭契約に、解雇の法理が類推適用されたとき、はじめて解雇権の濫用、信義則違反、不当労働行為などに該当して解雇が無効とされるかどうかの判断を必要とする。しかし、前に説示したとおり、解雇の法理が類推適用されないのであるから、控訴人主張の解雇権の濫用や不当労働行為の再抗弁(再抗弁(二))は、判断の限りではない。

四控訴人の本件請求は、いずれも理由がないから、これを棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がない。そこで、本件控訴を棄却することとし、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官古嵜慶長 裁判官上野利隆 裁判官瀬木比呂志)

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