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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1146号 判決 1990年11月07日

控訴人 日本中央競馬会

右代表者理事長 澤邉守

右訴訟代理人弁護士 畠山保雄

同 田島孝

同 石橋博

同 松井秀樹

被控訴人 甲野太郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 釜田佳孝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者双方の申立

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張

次に付加する外は、原判決事実摘示のとおりである(但し、原判決二五枚目表初行の「(一二条)」を「(同法一二条)」と改める。)からこれを引用する。

(控訴人の主張)

1  原判決には、控訴人と勝馬投票券の購入者との間の法律関係の理解を誤った違法がある。

すなわち、原判決は、勝馬投票券の購入の申込みを契約の申込みと解し、控訴人がこれを受けて勝馬投票券を発行することをその承諾と解しているが、控訴人と勝馬投票券購入者との間の法律関係の実態は、勝馬投票券購入者が競馬関係法令により一律に規律された定形化された条件に従って控訴人が実施する勝馬投票制度を利用する関係に過ぎないのであって、そこに当事者の意思解釈という作業を容れる余地は全くないから、勝馬投票制度における控訴人と勝馬投票券購入者との関係を契約とみることはできないのであって、原判決が控訴人に対し、控訴人と勝馬投票券購入者である被控訴人らとの間に契約関係が存在することを前提として債務不履行責任を認めたのは法令の適用を誤ったものである。

2  仮に控訴人と勝馬投票券購入者との間の法律関係が契約関係であるとしても、原判決の債務の内容に関する解釈には誤りがある。

すなわち、本件競争においては、連勝複式投票の的中は控訴人が所定の手続に従って確定した④―⑤であって、その確定の過程に誤りがあったとしても右確定の効果に影響しないのであり、従って控訴人と勝馬投票券購入者間の法律関係を契約関係であるというのならば、控訴人が負担する契約上の債務の内容は④―⑤の的中者に対し法令の定める払戻金を支払う義務以外にはないのである。もちろん、控訴人が競馬施行者として出走馬の到達順位の判定を正しくなすべきは当然ではあるが、それは個々の勝馬投票券購入者に対する債務内容をなすものではないから、原判決が、控訴人の決勝審判委員は勝馬投票券購入者に対し私法上の義務として競馬法関係法規が定める到達順位判定基準に従って出走馬の到達順位を判定する義務を負うとするのは、関係法規についての解釈を誤ったものである。

3  原判決には、的中とされるべき勝馬投票券を所持しない被控訴人らについて、的中とされるべき勝馬投票の権利者としての地位を認めた違法がある。

すなわち、競馬法第一二条は、勝馬投票が無効となった場合において、当該勝馬投票券を所有する者は控訴人に対しその勝馬投票券と引換えに券面金額の返還を請求することができる旨規定している。この規定自体は、勝馬投票の無効による券面金額の返還という金銭の交付が一時大量に不特定多数を相手として、迅速かつ円滑に行われなければならない場合において、金銭の支払をめぐる法律関係の画一的処理の必要から、その支払が勝馬投票券との引換えで行われるべきことを定めた規定である。しかし、勝馬投票制度においては、一般に、何人がいかなる内容の投票をしたか、あるいは勝馬投票券購入者がその権利を譲渡したか否かの事実は勝馬投票券を離れては認識することが不可能であるのが実際であるため、右規定は、単に勝馬投票の無効による券面金額の返還の場合に限らず、広く勝馬投票制度における金銭の支払は勝馬投票券と引換えに行うとの総則的規定とみることができ、規程(日本中央競馬会施行規程)第一四〇条が的中による払戻金は勝馬投票券と引換えに交付するとしているのも、同様の趣旨によるものである。

ところで、本件で被控訴人が請求する損害金は勝馬投票の無効による券面金額の返還でも、的中による払戻金の交付でもないから、競馬法第一二条及び規程第一四〇条がそのまま適用されるものではないが、被控訴人らの請求する損害金も勝馬投票制度における金銭の支払に関するものである上、被控訴人らの請求する損害金は⑤―⑤が的中投票券とされた場合の払戻金相当額であって、実質的には的中勝馬投票券に対する払戻金の交付と異ならないのであるから、一時大量に不特定多数を相手として迅速かつ円滑な金銭の支払のために権利者の画一的確定を図るための右法条及び規程の趣旨を類推適用して、被控訴人らが本件損害金を請求するにも、的中とされるべきであった⑤―⑤の勝馬投票券を所持していなければならないとされるべきである。

これに反して、原判決のように的中とされるべき勝馬投票券を所持していない者でも的中とされるべき勝馬投票の権利者と認められるとするときは、右権利者であると主張する者が真実に的中とされるべき勝馬投票券を購入した者か否かの確認が必要となるばかりか、当該勝馬投票券を現に所持する者についても真実の権利者であるか否かの確認を必要とすることとなって、権利者の確定と払戻金の支払に非常な混乱が予想される。のみならず、控訴人は、被控訴人乙山が主張する勝馬投票券につき、本件競争の当日である昭和六一年五月三一日午後三時三〇分に右勝馬投票券と引換えに払戻相当額として二三四万三〇〇〇円を支払っているのであるが、このように既に的中とされるべき勝馬投票券と引換えに払戻をしても、原判決のように当該勝馬投票券を所持していない者でも的中とされるべき勝馬投票の権利者と認められるとするならば、控訴人はこのような場合でも免責されないことになって、著しく不当な結果になるのである。

以上を要するに、勝馬投票制度においては、控訴人は、的中した勝馬投票券の呈示があれば、その呈示者を正当な権利者と認めて払戻金を行う取扱いをすることによって免責されることが必要不可欠であるとともに、的中した勝馬投票券の呈示がない以上、真実はどうであれ、その者を権利者と認めなくてよいとされなければならないのであり、従って、的中とされるべき勝馬投票券を所持していない被控訴人らによる本件損害金請求は棄却されるべきである。

(被控訴人らの答弁)

控訴人の右主張はすべて争う。

三 証拠関係《省略》

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの第一次予備的請求はこれを認容すべきものと考える。その理由は、次に訂正・付加する外は、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

(原判決の訂正)

1  原判決理由説示中の「係員」をすべて「職員」と改める。

2  原判決三五枚目表三行目の「競馬法」の次に「(昭和二三年法律第一五八号。以下「法」ともいう。)を加え、同五行目の「争いがなく、」を「争いがない。」と改め、同行の「原告甲野」から同一〇行目末尾までを削除する。

3  原判決三六枚目表二行目の「丙川一夫」の次に「(以下「丙川」という。)」を加え、同三七枚目裏一〇行目から同一一行目にかけての「勤務先会社に行った」を「勤務に戻った」と、同末行の「戻り」を「行って」と、それぞれ改め、同三八枚目表九行目の「四つ折りにして」の次に「(但し、右折り方についての供述内容は後記のとおり必ずしも明瞭ではない。)」を、同裏三行目の「原告乙山は、」の次に「本件発売所と同じビル内にある居酒屋で、」を、それぞれ加え、同三九枚目表初行冒頭から同三行目末尾までを削除する。

4  原判決三九枚目表一二行目の「被告は」から同裏初行の「また、」まで、及び同四〇枚目表三行目の「なお、」から同八行目の「認められる。」までを削除し、同九行目の「一、二」を「一」と改め、同裏三行目の「認められるところ」から同六行目末尾までを「認められる。」と改めた上、改行して、「ところで、規程一二九条によると、控訴人が発売した勝馬投票券の控券(電話による勝馬投票に関する契約に基づき発売された勝馬投票券については、当該勝馬投票券)は一年以上保管するものとされており、かつ《証拠省略》を総合すれば、控訴人が発売した勝馬投票券の発売記録には発売の都度、その順序に従って発売場所、発売内容が記録されていることが認められるが、控訴人は、被控訴人らが購入したと供述する各ユニット馬券がその供述する発売時刻及び発売窓口と異なることについての反証を提出していない。」を加える。

5  原判決四〇枚目裏一一行目の「満尾ら被告の係員に対し」を「本件発売所の責任者である所長から右誤審に抗議する勝馬投票券の購入者との応対を指示された満尾ら控訴人の職員に対し」と改め、同四一枚目裏九行目の「証人佐藤武良の証言」の次に「及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第二号証」を加え、同四二枚目表三行目の「払戻金を支払う旨発表」を「払戻金相当額を支払う旨の発表(以下「本件誤審発表」という。)」と改める。

6  原判決四二枚目裏三行目の「多数である」から同七行目の「あり得る。)。」までを「多数となるのであり、」と改め、同四三枚目表初行冒頭から同五一枚目表九行目末尾までを次のとおり改める。

「(5) 以上(2)ないし(4)までに認定した事実及び原審証人丙川一夫、当審証人丁原松夫の各証言は、被控訴人甲野及び同乙山がそれぞれの主張するユニット馬券を購入したこと等を内容とする被控訴人らの前記各供述に符合し、これを裏付けているものといわなければならない。

ところで、《証拠省略》を総合すれば、被控訴人乙山が購入して投棄したと供述するユニット馬券については本件競走当日の午後三時三〇分ころ本件発売所五階払戻窓口で右ユニット馬券と引換えに⑤―⑤勝馬投票券が的中馬券とされた場合の払戻金に相当する金額二三四万三〇〇〇円の支払がなされていること、右ユニット馬券(乙第一号証)の裏面には、その長辺方向にほぼ平行に、割れに至らない程度の数本の薄い折り線状の痕跡のあることが認められるので、これら事実が被控訴人乙山の前記供述と矛盾するか否かについて検討する。

まず、被控訴人乙山が購入したと供述する右ユニット馬券について本件競走当日において既に⑤―⑤の勝馬投票券が的中馬券とされた場合の払戻金相当金額が支払われている点であるが、《証拠省略》によれば、前記のとおり本件競走の順位が確定してから三時間余り経った当日午後二時四〇分ころの本件誤審発表の直後から、本件発売所でも⑤―⑤の勝馬投票券を探してごみ箱等を探して拾い集める者があったことが認められる(《証拠判断省略》。)から、右ユニット馬券が本件誤審発表後に右のとおり払戻しされていることは、被控訴人乙山が購入後はずれ馬券として本件発売所のごみ箱に捨てたとの同被控訴人の前記供述と矛盾するものではない。

次に、右ユニット馬券の裏面の折り目状の痕跡であるが、《証拠省略》によれば、ユニット馬券はセルローズ繊維を主体とした紙の裏面に磁性材料を接着させたものでできていること、ユニット馬券三枚を重ねて、長辺と平行に二つ折りにし、その状態を三〇秒間保持した後、更に長辺と平行に二つ折りにする方法で四つ折りにした場合に、折り曲げたユニット馬券の裏面にどのような痕跡ができるかを確認するための実験の結果によると、二度目の二つ折り時の折り曲げ角度を九〇度まで緩くしても(九〇度より緩い角度で折り曲げたのでは、復元力によりユニット馬券は四つ折り状態にならない。)、いずれのユニット馬券の裏面にも必ず一か所以上、乙第一号証の裏面の折り目状の跡程度に止どまらない割れが生ずることが認められる。従って、被控訴人乙山の、同被控訴人が乙第一号証のユニット馬券を含む三枚のユニット馬券を重ねて、長辺と平行に四つ折りにしたとの前記供述が乙第一号証のユニット馬券を含む三枚のユニット馬券をその供述するような折り方で完全に四つ折り状態にしてから捨てたとの趣旨であるとすれば、乙第一号証のユニット馬券の裏面の痕跡(前認定のように、その裏面には右実験の結果にあるような割れは存在しない。)と食い違いがあることになる。しかし、被控訴人乙山は、購入したユニット馬券を本件発売所の地下一階のごみ箱に捨てた際の折り曲げ方について、前記のような供述をする一方、三枚のユニット馬券の折り目を手でしごいてはいないが、かといってどの程度の強さで折り曲げたかはっきり覚えていないし、折り目がついたかどうかも確認していないとの趣旨の供述もしているのであって、はずれ馬券をどのようにして捨てたかまでは正確に記憶していないのが通常と考えられることからすると、被控訴人乙山が、前記実験のような方法(特に、三枚のユニット馬券を二つ折りにした状態を三〇秒間保持した後に、更に四つ折りにするような方法)で前記ユニット馬券を捨てたと断定することはできないから、被控訴人乙山の供述を全体としてみれば、乙第一号証のユニット馬券の裏面の痕跡と矛盾するとまではいえない。

そして、他に、被控訴人らが、自らはその主張のような⑤―⑤の勝馬投票券を含むユニット馬券を購入していないのに、これを購入したとの虚偽の供述をしていることを窺わせる証拠はない。

従って、被控訴人らがそれぞれその主張のとおり⑤―⑤の勝馬投票券を含むユニット馬券を購入した旨の被控訴人らの前記(1)の供述は信用できるものというべきであり、これによって、右供述どおりの事実を認めることができる。」

7  原判決五一枚目裏五行目冒頭から同五二枚目裏初行末尾までを次のとおり改める。

「控訴人が法によって行うことの認められている競馬における勝馬投票制度については、法、競馬法施行令(昭和二三年政令第二四二号)及び規則(以下、一括して『競馬法関係法規』という。)が勝馬投票法の種別、勝馬の決定方法、勝馬投票法の実施方法、勝馬投票券の発売方法、勝馬投票の的中者に対する払戻金の金額とその交付方法及び投票無効の事由とその場合の措置等、勝馬投票制度の実施方法に関する規定を置いているところ、控訴人の規程(これには、日本中央競馬会法(昭和二九年法律第二〇五号)及び競馬法施行令によって規約で定めることとされている『競馬の施行に関する規約』も含まれている。以下、競馬法関係法規とこの規程とを一括して『競馬法関係法規等』という。)が競馬法関係法規を受けて勝馬投票制度につきその全般にわたって具体的かつ詳細に規定しているため、勝馬投票をしようとする者は競馬法関係法規等の定めるところに従って勝馬投票をするか否かの自由を有するに過ぎず、いったん勝馬投票をしようとする者が控訴人に対して勝馬投票券の購入を申込み、控訴人がこれに応じて競馬法関係法規等の定めるところに従って勝馬投票券を発売した場合に成立する勝馬投票券購入者と控訴人との間の法律関係の内容は、競馬法関係法規等の規定により画一的・定形的のものとされていて、そこには勝馬投票券購入者の個別的な意思が問題とされる余地はほとんど存在しない(勝馬投票券購入者の個別的な意思が働く場面として考えうるのは、わずかに勝馬投票の的中者が払戻金を請求するか否か、その請求する場合の請求の時期及び場所の選択についてであろうか。)。しかし、私法上の契約関係であることの明らかな各種の保険契約、運送契約などのように大量の画一定形化された取引の反復が予定される分野においては、将来成立するであろう法律関係の内容がその当事者の一方によって予め画一的・定形的に定められていて、そのような法律関係の他方当事者となろうするものには、右画一的・定形的な内容の法律関係に入るか否かの選択の自由しか事実上残されていないということは決して少なくないのであるから、法所定の勝馬投票制度における勝馬投票券購入者と控訴人とに成立する法律関係が画一化・定形化されているからといって、その法律関係が私法上の契約関係でなく、その法律関係に私法法規の適用がないといえないことは明らかであるところ、法所定の勝馬投票制度は、財政上の理由から特別法によって設立された控訴人及び地方公共団体のみが実施を許されてその主催者となっている競馬に関する制度であるが、競走馬の偶然の勝敗によって金銭の得喪をもたらすものであるから、一般に禁止されている賄博あるいはこれに類するもの(刑法第二三章参照)であり、その実質は私法上の射倖契約の一種であって、ただ右のように一般には禁じられている類いのものであること及び財政収入確保の見地から、その実施方法について厳格な規律に服させる必要があるため、競馬法関係法規によってこれを規制する一方、勝馬投票が不特定多数の公衆によってなされ、その性質上多量の投票と的中者に対する払戻金の交付等を迅速かつ公平・適確に処理する必要があるため、競馬法関係法規等によって、その法律関係の定型化・画一化を図っているものと解される。

従って、控訴人が実施する勝馬投票制度においては、勝馬投票をしようとする者が競馬法関係法規等に従って控訴人に対して勝馬投票券の購入を申込み、控訴人がこれを承諾して勝馬投票券を発売することにより、当該勝馬投票券購入者による勝馬投票が成立し、それが的中した場合には、控訴人に対し競馬法関係法規等所定の払戻金を請求できる法的地位を有するに至り、他方控訴人は勝馬投票の的中者に対し右払戻金を支払うべき法的義務を負うという競馬法関係法規等所定の法律関係が成立するのであるが、その法律関係は右のとおり競馬関係法規等によって定型的かつ画一的に定まっているのであるけれども、その実質に照らして契約法の適用のある(その適用の範囲は競馬法関係法規等の規律の範囲が全般的かつ具体的である関係ですこぶる狭いものとはいえようが)私法上の契約関係であるということを妨げず、これと異なる控訴人の主張は採用できない。」

8  原判決五三枚目表八行目の「認定」を削除し、同五五枚目裏五行目の最初の「決勝審判委員」から同六行目の「配置したうえ」までを「後記のとおり決勝審判委員三名を配置したうえ」と、同一一行目から同一二行目にかけての「権限を有するのであるから」を「権限を有するものとされているのであるから」とそれぞれ改める。

9  原判決五八枚目表八行目から同九行目の「競馬法、競馬法施行令、規則、規程等の関係法規」を「競馬法関係法規等」と改め、同一二行目の「そして、」から同末行の「対して」までを「そして、控訴人の実施する勝馬投票制度は、その制度内容よりして、勝馬の判定が公正になされることを前提とし、かつ勝馬投票券を購入して勝馬投票しようとする者もその判定の公正であることを信頼して競馬投票をするのであるから、控訴人は勝馬投票券の購入者に対し、その勝馬投票が的中した場合には競馬法関係法規等に従って払戻金を支払うという基本的な義務(これも前記私法上の契約関係に基づく義務の一内容である)を負う外に、前記私法上の契約関係に基づく付随的な義務として」と、同五九枚目表三行目から同四行目にかけての「認定(当事者間に争いがない)のように」を「のとおり」と、同六二枚目表二行目の「過失」を「重大な過失」と、それぞれ改める。

10  原判決六三枚目表四行目から同五行目にかけての「とるべき義務について判断する。」を「採った措置についてみることとする。」と改め、同六四枚目表二行目から六五枚目裏一〇行目までを削除する。

11  原判決六六枚目裏初行の「以上のとおり」から同七行目の「のように」までを「そして、前記一4のとおり」と改める。

(当審の付加部分)

控訴人は、競馬法第一二条が勝馬投票が無効となった場合の券面金額の返還に関し、規程第一四〇条が勝馬投票の的中者に対する払戻に関し、いずれも当該勝馬投票券と引換えに金員を交付することとしていることを根拠に、被控訴人らが⑤―⑤の勝馬投票券の権利者として控訴人に対して払戻金相当額の損害金を請求するには右勝馬投票券を所持していなければならないと主張する。

しかしながら、被控訴人らの本件請求は控訴人の債務不履行によって被った勝馬投票の的中者に支払われるべき払戻金の支払を受けられなかったことによる払戻金相当額についての損害賠償金の支払を求めるものであって、控訴人も自認するように競馬法第一二条又は規程第一四〇条に基づく金員の請求ではないから、右各規程が適用される場合に当たらないことは明らかである。のみならず、右各規定に基づく金員の請求権は競馬法関係法規等に基づき当該勝馬投票券に化体した権利ということができるのに対し、被控訴人らの訴求にかかる右損害賠償請求権は、⑤―⑤の勝馬投票券を購入したことによって控訴人との間に成立した法律関係を基礎として(より具体的には、被控訴人らが⑤―⑤の勝馬投票券の購入により控訴人に対して取得した勝馬投票が的中した場合に払戻金の支払を受ける権利を基礎として)発生したものではあるが、そもそも競馬法関係法規等の予想していない請求権であって、右勝馬投票券に化体されているものとは到底解されないから、被控訴人らが右損害賠償請求を行使するについて右勝馬投票券を所持していなければならない(更には、右勝馬投票券と引換えでなければ右損害賠償請求をすることができない)ということはできない。

従って、被控訴人らは右損害賠償請求権を行使するには、被控訴人らが右勝馬投票券を購入したものであることを主張立証しなければならず、その立証は右勝馬投票券を実際に所持していることによって最も容易になされるのであるが、その立証方法はこれに限られるわけではなく、被控訴人らが本件訴訟において右立証に(及び被控訴人らが右勝馬投票券に化体された権利を譲渡等により喪失したことのないことの立証にも)成功していることは引用にかかる原判決の理由に説示するとおりである。

そして、以上のように被控訴人らの右各損害賠償債権が⑤―⑤の勝馬投票券に化体されている権利ではなく、その行使のためにはこれを所持していることを要しないとすれば、場合によっては、控訴人の主張するように右損害賠償債務の二重払を強いられることとなる虞れがないわけではないが、本来、控訴人において出走馬の到達順位の判定に細心の注意を用いればかかる事態は生じないのであり、右損害賠償債権と右勝馬投票券との法律関係が右のようなものであると解される以上、稀にそのような結果が生ずることもやむを得ないものというべきである。

なお、控訴人は、前認定のとおり、被控訴人乙山が購入した⑤―⑤の勝馬投票券に関しては既に払戻金相当額を右勝馬投票券と引換えに払い戻しているのであるが、その払戻を受けたのは右被控訴人以外の第三者であり、しかも、《証拠省略》を総合すれば、右払戻は控訴人が前記着順判定の誤審に伴う特別の措置として採った、⑤―⑤の勝馬投票券との引換えを条件とする金員(《証拠省略》によれば、控訴人からの見舞金)の支払であって、被控訴人らが訴求する損害賠償に対する支払としてなされたものでないことが認められるから、いずれにせよそのために被控訴人乙山の前記損害賠償請求権に消長を及ぼすものではない。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川臣朗 裁判官 長門栄吉 裁判官緒賀恒雄は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 中川臣朗)

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