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大阪家庭裁判所 昭和49年(家)1265号 審判 1974年8月17日

申立人 小林陽子(仮名) 昭四八・一・八生

法定代理人親権者母 下川孝子(仮名)

相手方 小林進(仮名)

主文

相手方は申立人に対し金三一、四五一円を直ちに、昭和四九年八月一日以降申立人が成人に達するまで一月金一五、〇〇〇円の割合による金員を毎月末日限り支払え。

理由

1  本件申立の趣旨は「相手方は申立人に対して扶養料として毎月一五、〇〇〇円を申立人が成人に達するまで支払え。」というものである。

2  本件調査の結果および昭和四九年(家イ)第一〇七五号夫婦関係調整調停事件の経緯を総合すると次の事実を認めることができる。

(1)  相手方(昭和一八年三月一三日生)と申立人の母下川孝子(昭和二二年一一月九日生)とは昭和四六年一一月二九日婚姻し、その間に申立人をもうけた。

昭和四九年四月三日相手方は上記夫婦関係調整調停事件を当庁に申立て、同年五月二九日申立人の親権者を母である下川孝子と定めて両者は調停離婚した。

(2)  当事者の生活状態について。

(ア)  申立人はその母と共に母の実家(八畳、六畳、四畳半二間、台所)に居住しており、同居家族としてはほかに曾祖父(八四歳、無職)、祖父(四八歳、トラック運転手)、母の養母(五三歳、無職)、母の義妹(二一歳、事務員)がいる。申立人の母は昭和四八年五月頃から会社の事務員として勤務し、現在手取りで月五二、〇〇〇円ないし五三、〇〇〇円の給与と、年間に給与の四ないし五ヶ月分の賞与を得、月平均にすると約七二、三〇〇円の手取り収入を得ていることになる。

(イ)  相手方は一人で借家(六畳二間、台所。家賃一八、〇〇〇円)住いをしており、昭和四六年七月から日給労務者として木材を扱う会社へ勤務し、月に税込みで一〇五、〇〇〇円の収入を得ている。府、市民税の年額は七、六六〇円、国民健康保険料の月額は二、一四〇円で月平均の手取り額は約一〇〇、〇〇〇円とみるのが相当である。

3  相手方が未成年の子である申立人のため、同人が相手方の収入に応じた相当の生活程度を期待しうるようそれに要する生活費を負担すべきことは明らかであるから、どの程度これを負担するかについて、以上の事実に基づき申立人の母の負担能力を考慮しながら生活保護基準および労研方式により次に算定する。

(1)  生活保護基準(第三〇次改定)によれば、申立人の母が一人で生活する場合のその世帯の生活保護費は三四、〇二〇円(勤労控除加算ずみ、住宅扶助加算せず。)、相手方の生活保護費は四九、二五〇円(勤労控除および住宅扶助の特別基準の最高額を各加算ずみ)となり、申立人の母と相手方の収入はそれぞれ最低生活を送つてなおゆとりがあるので、各そのゆとりの程度に応じ申立人を扶養すべきである。

(2)  未成熟の子に対しては自己と同じ程度の生活をさせなければならないのであるから、申立人がその母あるいは相手方と共同生活をした場合の生活費を比較し、その高い方を申立人の生活費と定めるべきであるところ、申立人がその母と共同生活をした場合の申立人の生活費を労研方式の消費単位により計算すること

72,300円×(40/90+40) = 22,246円

となり、申立人が相手方と共同生活をした場合の申立人の生活費を同様に計算すると

100,000円×(40/105+40) = 27,586円

となるので、申立人の生活費を二七、五八六円と定めることとする。

(3)  次にこの二七、五八六円を申立人の母と相手方が分担する割合については、各人の生活のゆとり、すなわちその収入から生活保護基準による生活保護費を控除した残額に比例して配分することとすると、申立人の母のゆとりは三八、二八〇円、相手方のそれは五〇、七五〇円と認められるから、各人の負担額は

申立人の母27,586×(38,280/38,280+50,750) = 11,861

相手方27,586×(50,750/38,280+50,750) = 15,724

となる。

(4)  以上の計算を基礎として、申立人の母が住居等につきその親族の援助を受けているけれども、住居が手狭で別居の希望を持つていること、一歳の幼児を育てつつ稼働する不利益ならびに相手方について生活保護基準を算定するにあたり住宅扶助の最高額(一一、五〇〇円)を加算したとはいえ相手方が実際に一八、〇〇〇円の家賃を支払つていることなどを考慮し、相手方の負担すべき扶養料を一ヶ月一五、〇〇〇円とするのが相当であると判断する。

4  ところで相手方は、(1)申立人の出産については相手方と申立人の母との間に意見の不一致があり、申立人の母の父母らが相手方や相手方の父母らに対し、申立人をその母方の父母らで育てる旨話したこと(2)相手方が相手方の両親に対する扶養料として月額二〇、〇〇〇円の金員を送金していることを理由に、これらが扶養料の算定についてそれぞれ斟酌されるべきであるというのでこの点について付言する。

(1)  上記調停事件の経緯に照らせば、申立人の出生前申立人の母に軽度ではあるが遺伝性の疾患のあることが発見され、相手方は申立人の出産に反対したが、申立人の母は医師の意見を考慮したうえ結局申立人を出産することにしたため、相手方と申立人の母との間に溝が生じ、その溝を埋める努力を双方とも怠つた結果相手方と申立人の母が離婚するに至つたことが看取され、申立人の出生前にこれに反対する相手方の父母らに対し申立人の母の父母らが相手方の主張するような趣旨の話をしたことは認められるけれども、これが仮に申立人の養育費につき将来なんらの請求をしない趣旨のものであるにしても、申立人の扶養を受ける権利は放棄することができないのであるから、これを理由に相手方がその義務を免れることはできない。相手方は申立人の出産についてのその両親の意見の不一致はもとより、申立人の扶養請求権を処分するような約定も何ら相手方の扶養の義務に影響を及ぼさぬことを銘記すべきである。

(2)  本件調査の結果によれば相手方の父は就労できない状態であることが認められるが、他方同人は労働者災害補償保険法に基づき療養の給付のほか年額八二八、五八六円の長期傷病補償給付を受給しておること、相手方本人審問の結果によつても相手方の母は病院に勤務して五〇、〇〇〇円ないし六〇、〇〇〇円の収入があることおよび相手方と申立人の母が同居していた期間中相手方は上記相手方の父母に対する送金は特別していなかつたことがそれぞれ認められ、このような事情に照らせば相手方の両親が要扶養状態にあるとは認められないから、相手方がその両親に送金している事実を相手方の申立人に対する扶養義務を軽からしめるような事情として斟酌することはできない。

5  以上の次第であるから、相手方に対し、申立人の扶養料として相手方が申立人の母と離婚した昭和四九年五月二九日から同年七月末日までの分三一、四五一円(五月分は月額の三一分の三の割合)の即時払いならびに同年八月一日以降申立人が成人に達するまで事情の変更がない限り毎月末日限り一五、〇〇〇円の支払を命じることを相当と認めて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 前川鉄郎)

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