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大阪家庭裁判所 昭和40年(家)3585号 審判 1965年7月09日

申立人 内田松吉(仮名)

相手方 林幸子(仮名) 外三名

主文

相手方幸子は申立人に対し、昭和四〇年七月から申立人の生存中、毎年七月および一二月の各末日限り金二万円ずつを持参または送金すること。

相手方京子は、申立人に対し、昭和四〇年七月から申立人の生存中、毎月末日限り金千円ずつを持参または送金すること。

相手方勇同友子に対する申立はこれを却下する。

理由

本件は、申立人が病気のため、また相手方らはいずれも遠隔地に居住しているため、それぞれ当庁へ出頭できないのと、申立人と相手方幸子同京子との間ではもつと話し合うことによつて実質的に合意がととのい自主的な解決を期待できないではないが、申立人と相手方友子同勇との間では調停成立の見込みがないので、やむを得ず昭和四〇年七月七日調停不調として審判に移行させたものである。

そこで調査の結果によるとつぎの実情が認められる。

申立人側の事情

(一)  申立人松吉は先妻亡さく(昭和一八年死亡)との間に相手方らをもうけたが、その後昭和三二年頃山口しず子と再婚し(婚姻届出は同三七年六月二〇日)、同女との間に同三三年七月九日双生の二児をもうけた。

(二)  申立人は、同三四年頃来阪しベーカリの電気係として勤め、その翌年門真市大字○番○○○番地に住居として木造瓦葺平家建(八坪五四)を買い求め同所で妻子とともに生活してきたが、その後妻しず子がノイローゼ気味となつて二児の養育監護にも困るようになつたため、児童相談所を経て二児を施設に預けた(二児は現在○○学園に在園中)。

(三)  妻しず子は、同三八年三月精神衰弱症で○○医科大学精神科へ入院し同年五月二〇日軽快していつたん退院したが、再発し翌三九年六月一日○○病院へ入院して療養中である。

(四)  申立人は、同三六年暮れ以来肺結核症等のため休職し、同三八年一〇月二三日○○医科大学病院へ入院し、治療を受けてきたが、病状は必ずしも好転せず、引きつづき在院して療養中であつて、目下のところ退院の見通しも立たない。

(五)  申立人としず子の入院治療費はほぼ全額健康保険によつてまかなわれており、上記二児の学園における費用一切は全額免除となつているので、現在のところ、申立人は、生活費医療費等について直ちに扶助を必要としないが、収入がないため日常の小づかいに困窮している。

(六)  申立人は、若い妻しず子の将来を考慮して、上記(二)に記載の家屋をしず子名義で所有権保存登記(昭和三五年二月一八日)をしており、また、かねて所有していた高槻市大字○○一七三番地の二六山林一畝歩をしず子に贈与し同三七年五月二八日付で贈与により所有権移転登記を了えている。

相手方側の事情

(一)  相手方幸子は、夫(会社員)との間に高校中学に在学中の二男児があり、夫の収入(相手方自身は家庭の主婦として家事を担当しており金銭収入はない)によつて家族四名の生計を維持しているが、このほか、夫の母へ相当額の仕送りをしており、その家計には、夫の社会的地位相応の生活を送つて、格別の余裕がない。

しかし、幸子は、昭和三五年頃申立人を三箇月ばかり引き取つたこともあるし、また、その後申立人の生活の窮迫に同情し数年前から年に二回に分けて一万円程度の仕送りをつづけ、さらに申立人からの送金の依頼にたいし、やや余裕のあつた昨三九年の前期ボーナス時には五万円、後期には二万円を送金している。今後も父の生存中毎年七月と一二月に各二万円送金する旨を述べている。

(二)  相手方勇は、国鉄職員であるが、昭和三二年列車事故により右足大腿骨折等の重傷を受けて以来休職療養中であり、その収入も、休職のため数年前と大差なく月額二万二、〇〇〇円程度であつて、家族四人(妻と中学小学に在学中の二男児)の暮しを支えるにも、妻の実方から有形無形の援助を受けている状況であり、その家計には全く余裕がない。

(三)  相手方京子は、夫(住宅公団職員)との間に中学一年を筆頭に五児があり、夫の収入(月額約四万数千円、なお京子自身は家庭の主婦として家事を担当するだけであつて金銭収入はない)によつて一家の生計を維持しているが、その家計には、夫の社会的地位相応の生活を送つて、格別の余裕がない。

しかし、京子は、申立人からの扶養の求めに応じ乏しい家計のなかから捻出して、これまでに四、五回一、〇〇〇円宛程度を送金してきたし、同女の夫邦男も、扶養義務の履行というよりも父に小遣銭を贈るという意味であれば月額一、〇〇〇円乃至一、五〇〇円程度なら送金することも可能である、と述べている。

(四)  相手方友子は、夫(生命保険会社員)との間に高校生以下の六児がいるほか夫の母と同居し九人家族であつて、主として夫の収入(夫には不動産があるが収益を挙げうる事情にはない)によつて一家の生計を維持しているが、夫の収入家族数・生活状況にてらし家計には余裕がない。

(五)  相手方らは、申立人と相手方勇との間に争いのあつた高槻の土地(相手方らによると、約一〇〇坪乃至一五〇坪とのことであるが、登記簿上は山林一畝歩)を申立人の老後のために申立人に帰属させたものであるから、父が生活に困窮すればそれを売却することによつて老後の生活を維持することは充分に可能である、と考えている。

上記認定の実情その他本件に現れた一切の事情によつて本件申立について判断する。

申立人は、その年齢病状生活の状況からみて、通常の場合であれば全面的に扶養を必要とする状態にあるが、幸い現在のところ健康保険によつて入院療養費をほぼ保障されているため、さしあたつては日常の小遣銭につき扶助を必要とする状況にあること明らかである(相手方らは、申立人には妻に贈与した不動産があり、これを売却すればその売得金によつて老後の生活の維持は可能であるから扶助を要しない、と述べる。なるほど、上記不動産は妻に贈与したものであり、申立人と同女とはいまも婚姻中であるから、その贈与を取消し他に売却し得ないではないし、また、売却によつて譲渡所得が入れば小遣銭に不自由することなく扶助を要しないことも明らかであるが、申立人の生活の現況およびその妻子生活状況からみていま直ちに該不動産の売却を期待することは事実上困難であるしまた適切でもない。不動産の処分については、申立人が退院後さらに生活に困窮するような事態に立ち至つたとき、その生計維持のため考慮させるのが相当であろう。したがつて、本件の場合、妻に贈与した不動産が存在するからといつて、申立人が当面している扶助を要する状態がなくなるものとはとうてい解せられない)。

そこですすんで扶養義務者である相手方らに扶養義務を負担させるべきか、また、その程度方法について考察するに、上記認定の申立人および相手方らの生活状況全般と本件扶養が一般親族間の扶養に関するものであることからみて、相手方の勇同友子については、ことにその扶養余力のないことにてらし、現実に扶養義務を負わせることは相当でなく、相手方幸子同京子については、ことにその家計の状況および上記両名(京子についてはその夫邦男)の意向にてらし、主文に掲記の金額を分担させるのが相当である。

よつて本件申立は、相手方幸子同京子について主文の限度で相当として認容し、相手方勇同友子についてはこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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