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大阪地方裁判所堺支部 昭和36年(タ)9号 判決 1962年10月30日

原告 田島直吉(仮名)

被告 禁治産者 田島フサコ(仮名)後見監督人 松井正義(仮名)

主文

一、原告と本籍愛媛県東宇和郡○○町大字○○二番耕地○○○番地、住所堺市○○町三○○○番地○脳病院内、田島フサコとを離婚する。

二、原告は右田島フサコに対し、この判決確定の月の末日から田島フサコが生活保護法による保護を受けることになるまでの間、毎月末日限り金一〇、〇〇〇円宛を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事  実<省略>

理由

公文書であることからいずれも真正に成立したものと認められる甲第一ないし第四号証によれば、原告と本籍愛媛県東宇和郡○○町大字○○二番耕地○○○番地田島フサコは昭和一六年九月二九日婚姻届出をした夫婦であること、フサコが心神喪失の常況にあるとして、昭和三六年八月二五日大阪家庭裁判所堺支部においてフサコを禁治産者とする旨の審判がなされ、右審判し確定し、次いで、同年一一月二九日被告がフサコの後見監督人に選任されたこと、が認められるから、後見監督人を被告として提起された本訴は適法である。

そこで原告主張の離婚原因の存否につき判断する。

いずれも公文書であることから真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし五、証人美吉伊八郎の証言、原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告とフサコは昭和一三年三月一〇日結婚式を挙げ、以来昭和一六年六月から昭和一九年一二月まで原告の応召中を除き、夫婦として同居生活を送つていたこと、その間、昭和二一年秋頃原告はフサコは常軌を逸した行動が伴うことに気付いたこと、フサコは、昭和二六、七年頃から時々異常行動をするようになり、昭和二九年以来その激しさを加え、昭和三〇年九月七日堺悩病院で精神分裂病と診断され、同日から現在まで引き続いて同病院に入院中であること、入院直後、電気ショック療法、インシュリンショック療法等の治療を受けたが、病状は改善されず、現在、精神分裂病の荒廃期にあり、高度に人格が障害され、感情の荒廃状態にあつて、社会適応は全く困難であるばかりでなく、今後、右状態は継続悪化の途をたどり改善の見込が全くないこと、が認められるから、フサコは、民法第七七〇条第一項第四号の「強度の精神病にかかり、回復の見込がないとき」に該当するものと認めるべきである。

そこで同条第二項の婚姻の継続を相当と認むべき事情があるかどうかにつき判断する。

前記各証拠によれば、フサコは今後その一生を病院で送らなければならない状態で、もち論自活の能力はなく、フサコを引き取つてその生活をみてやれるだけの資力のある扶養義務者も見当らない状態であること、一方、原告は、従来平凡な会社員として真面目に夫婦共同生活をして来たもので、フサコの発病の原因をつくつたわけでもなく、フサコの入院以来すでに七年余の間、フサコのため入院費、医療費を確実に支払い、その額は、毎月最低金一〇、〇〇〇円から一六、〇〇〇円に達すること、現在、原告は電気工事下請会社に勤務して月収金三〇、〇〇〇円余を得るほか、特別の資産を有しないこと、がいずれも認められる。

右事実により考えるに、本件離婚を認容することは、直ちにフサコに対する原告からの生活援助の打切を意味することとなり、しかもほかに資力のある扶養義務者のいない以上、フサコが引き続き入院療養を続けるためには生活保護法による保護等の社会保障に期待する以外にはないわけである。しかし、一方原告に対し、これ以上フサコとの婚姻関係の継続を強制し、その精神的苦悩並びにフサコに対する入院費、医療費等の負担による経済的重圧をこれからの一生の間忍受させることも、原告の従来のフサコに対する生活態度、現在の状態から見て、到底忍び得ないところであり、原告がフサコとの離婚を決意したことは誠にやむを得ないものがあるといわなければならない、これらの事情と、元来、フサコの今後の生活援助、医療援助は社会保障の問題であり、原告自身、フサコが生活保護法による扶助を受けられるよう努力することを誓い、その扶助を得るまでの間、従来どおりフサコに対する入院費、医療費の支払を続けることを誓約する態度、その他一切の事情を考慮すれば、前記離婚事由を排斥してなお婚姻を継続するのが相当であるとは認められないから、原告の離婚の請求を正当としてこれを認容すべきものである。

被告は、財産分与の申立をするところ、以上の諸事情を考え合わせると、離婚後の扶養の意味における財産分与として、原告をして、フサコが離婚により直ちに路頭に迷うことのないよう、少なくともフサコが生活保護法による扶助を受けることのできるまでの間、フサコの入院費、医療費を負担させるのが相当であり、その額は、右費用の額、原告の資産状態に照らし、毎月金一〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。よつて、財産分与の方法及び限度として、原告はフサコに対し、本離婚判決確定の月の末日からフサコが生活保護法による扶助を受け得るに至るまで、毎月末日限り金一〇、〇〇〇円宛を支払うよう命ずることとする。

以上の理由によつて、民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 松田延雄)

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