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大阪地方裁判所堺支部 平成9年(ワ)28号 判決 1999年9月10日

原告

濱本悟

原告

濱本幹子

右両名訴訟代理人弁護士

太田哲郎

被告

堺市

右代表者市長

幡谷豪男

右訴訟代理人弁護士

俵正市

苅野年彦

坂口行洋

寺内則雄

小川洋一

井川一裕

横山耕平

主文

一  被告は、原告濱本悟に対し、金二二六八万九六七六円、原告濱本幹子に対し、金二二六八万九六七六円、及び右各金員に対する平成八年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告濱本悟及び原告濱本幹子各自に対し、各金三八八五万二一〇二円及びこれに対する平成八年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告らが、被告の設置管理する小学校に在学していた原告らの子である亡濱本佐代子(以下「佐代子」という。)が、学校給食を喫食した結果、病原性大腸菌O一五七(以下「O一五七」という。)に感染して死亡したと主張して、被告に対し、製造物責任法三条、債務不履行責任、国家賠償法一条ないし憲法二九条三項の類推適用に基づく責任等を原因として、損害の賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  当事者等

(一) 佐代子は、昭和五九年四月七日、原告濱本悟(以下「原告悟」という。)及び原告濱本幹子(以下「原告幹子」という。)の子として出生した。

(二) 佐代子は、平成八年七月当時、堺市立三原台小学校の六年生であり、七月九日の学校給食を喫食していた。なお、三原台小学校は、堺市の学校給食の地区区分では南地区に属していた。

(三)(1) 被告は、地方自治法に基づいて三原台小学校を設置管理し、堺市の学校給食の実施管理の業務を行う地方公共団体である。

(2) 平成八年七月当時、宮崎猛(以下「宮崎」という。)は、堺市教育委員会教育長として、教育委員会の指揮監督の下に教育委員会の権限に属するすべての事務を司り(地方教育行政の組織及び運営に関する法律一七条一項)、教育委員会の職務としての学校給食に関することを管理、執行する(同法二三条一一号)など、学校給食に関する事務を司る者であり、山本善雄(以下「山本」という。)は、堺市教育委員会教育次長・財団法人堺市学校給食協会(以下「給食協会」という。)会長であり、教育次長として教育長を補佐し、その一つとして学校保健課の属する堺市教育委員会学校教育部の事務の掌理及び所属職員の指揮監督をする者であり、山尾正俊(以下「山尾」という。)は、堺市教育委員会学校教育部学校保健課長として、学校給食の指揮及び運営に関する事務を担当する者であり、押田訓英(以下「押田」という。)は、市民の保健衛生全般に関する業務を行う堺市環境保健局衛生部(以下「衛生部」という。)の理事として、所管事務の掌理及び所属職員の指揮監督をする者であり、いずれも被告の公務員であった。

学校給食に関する事務の執行は公権力の行使に当たる。

(3) 給食協会は、昭和二二年に設立された堺市学校給食組合を前身とし、堺市立学校の学校給食事業の充実発展とその運営の円滑適正を図ることを目的として、大阪府教育委員会と堺市の指揮の下に運営する財団法人である。

藤井泰夫(以下「藤井」という。)は(平成八年七月当時、給食協会の事務局長であり、給食協会の事務全般を取り扱っていた。

(四) 平成八年七月一二日の夜間から、堺市立の小学校の多数の児童が、下痢、血便を主症状として病院を受診するなど、集団食中毒が発生し(以下、これを「本件学童集団下痢症」という。)、有症者の便から腸管出血性大腸菌O一五七(O一五七)が検出された。

(五) 佐代子は、O一五七感染症に罹患し、これにより溶血性尿毒症症候群(以下「HUS」という。)に罹患し、平成八年八月一六日午前一一時一八分、大阪府吹田市<番地略>所在の大阪大学医学部附属病院(以下「阪大病院」という。)において、敗血症により死亡した。

2  当時の状況

(一) 平成八年五月下旬、岡山県邑久町の多数の小学校等において、学校給食が原因と疑われるO一五七による集団食中毒が発生し、四〇〇名を越える被害者が発症し、同年六月一日には、児童に死者が発生していた。

また、平成八年には全国的にO一五七による食中毒が発生し、学校給食が原因と考えられる集団食中毒の発生も報告されていた。

(二) そのため、平成八年六月以降、国や大阪府から、学校給食の安全性の確保等について、各種の通知通達類が出されていた。

三  原告らの主張

(なお、以下、特段の断りのない限り、平成八年のこととする。)

1  佐代子の死亡原因

佐代子は、O一五七に汚染された七月九日の学校給食を食べた結果、O一五七感染症に罹患し、これにより、HUSに罹患し、敗血症により死亡した。

2  原因食材等

O一五七に汚染されていた献立は、七月九日の学校給食のうちの冷やしうどんであり、そのなかでも、冷やしうどんに乗せられた貝割れ大根が汚染されていた。

すなわち、① 原因献立については、入院患者が全員出席した日が、北・東ブロック(二五校中一三校発生)が七月八日、中・南ブロック(三五校中三四校発生)が七月九日のみであること、② 児童・教職員の喫食調査の結果からも、北・東ブロックでは、七月八日の献立(とり肉とレタスの甘酢和え)、中・南ブロックが七月九日の献立(冷やしうどん)が疑われ、それらの共通の非加熱食材が特定の生産業者から購入された貝割れ大根のみであること、③ 実験により、貝割れ大根の生産過程におけるO一五七による汚染の可能性があること、保管過程における温度管理の不備により食品衛生上の問題が発生する可能性があることが示唆されたこと、④ 中・南ブロックと北・東ブロックの有症者の便から検出されたO一五七のDNAパターンが一致したこと、⑤ 本件と同時期に発生した集団事例において、七月七日及び七月九日に出荷された同一の特定の生産施設の貝割れ大根が献立に含まれており、かつ、有症者の便から検出されたO一五七のDNAパターンが本件のものと一致したことなどを総合すれば、本件学童集団下痢症の原因食材として、特定の生産施設から七月七日及び九日に出荷された貝割れ大根が最も可能性が高い。

3  被告の責任

(一) 製造物責任

(1) 被告は、堺市の学校給食の実施管理の業務を行う地方公共団体であり、業として反復継続して学校給食を製造加工し、学校教育の一環として、佐代子を含む児童らに対し、学校給食を提供し、引き渡していたものであるから、被告が佐代子を含む児童らに提供した学校給食には、製造物責任法が適用される。

(2) 七月九日に被告が製造加工した学校給食は、佐代子を含む児童らに提供された時点で、O一五七により汚染されており、欠陥が存在した。

すなわち、七月九日、佐代子が在学していた三原台小学校に午前五時半ころ、六号車により食材が搬入され、その段階で貝割れ大根がO一五七に汚染されていたのであるが、午前八時に調理担当者が来るまで室温で放置されたため、O一五七が増殖し、その後、水洗いが行われたものの、O一五七のすべてを除去するには至らず、さらに、その後、室温で八〇分ほど放置されたため、O一五七が増殖し、調理段階では、冷やしうどんの麺を茹でたが、これをいったん水道水で冷やした上で、貝割れ大根と和えたため、麺の余熱によりO一五七が殺菌されることもなく、O一五七に汚染された冷やしうどんを佐代子が喫食することとなったのである。

(3) 右欠陥により佐代子はO一五七感染症に罹患し、死亡するに至った。

(4) よって、被告は、製造物責任法三条により、原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 債務不履行ないし国家賠償法による損害賠償責任

(1)在学契約

佐代子と被告との間においては、原告らが佐代子の親権者として被告に対し、佐代子の三原台小学校への入学を申し込み、被告が承諾することによって、教育諸法上の在学契約が成立した。

被告は、右契約に基づき、佐代子に対し、右契約に付随する義務として、佐代子の教育活動中における生命身体の安全に配慮すべき義務を負っていた。

(2) 被告の注意義務違反

① 本件当時、宮崎は教育長として、堺市の学校給食の実施管理の業務に従事していた者であり、山本は教育次長・給食協会会長として、堺市の学校給食の実施管理の業務に従事していた者であり、山尾は学校保健課長として、堺市の学校給食の指導運営、給食協会の指導などの業務に従事していた者であり、被告の学校給食業務の履行補助者として、学校教育の一環として、児童に残さず食べることを強制している学校給食において、食中毒などが起こらないように細心の注意を払い、児童の生命身体が害されることを未然に防止するために万全の措置を講ずべき義務があった。

また、押田は、本件当時、堺市衛生部理事の職にあり、堺市の学校給食に関し、食品衛生の専門家として、教育委員会に対し、学校給食で食中毒などが起こらないよう、これにより、児童の生命身体が害されることを未然に防止できるよう、指導・助言を行う義務があった。

② 本件当時、堺市の学校給食は、堺市として食材の一括購入を行い、これを午前五時ころから午前八時ころにかけて、調理場である各学校へ保冷車ではない普通の二トントラックで配送し、各学校の給食調理場の保冷設備のない下処理室に置き、最長約二時間五〇分あまり、常温の場所に放置し、かつ、献立も加熱していないものを含むという状態で実施されていた。

そして、平成八年五月下旬に、岡山県邑久町の多数の小学校において、学校給食が原因と疑われるO一五七による集団食中毒が発生し、四〇〇名を越える被害者が発病し、六月一日には、児童に死者が発生していたため、同月六日には、厚生省生活衛生局食品保健課長から堺市衛生主管部局長あてに、「邑久町の被害報告、死者発生、例年になく細菌性食中毒多発、夏期に向けて食中毒多発が予想される。」という内容の通達があり、同月七日には、堺市衛生部長から堺市教育委員会教育長あてに同旨の通達があり、同月一一日には、大阪府教育委員会事務局保健体育課長から堺市学校給食主管課長あてに、「死者発生、格別の注意必要。感染防止策として、他の食品への二次感染防止、食品の十分な加熱」を指示する通達があり、同月一二日には、大阪府教育委員会から堺市教育長あてに、「1 食品の室温放置、保管温度不備状態での長時間保存が、最も食中毒菌の増殖要因。原材料の特性にあった温度管理をすること。原材料は、長時間室温に放置しないこと。2 食中毒菌の生存要因として、食品の加熱不十分が最も危険性が高い。」という内容の通達があり、同月一三日には、大阪府教育委員会教育長から、堺市教育委員会教育長あてに、「新鮮な原材料の確保。温度管理、加熱、殺菌。食材料は、衛生的な状態で(温度、通風)保管すること。加熱すべき食品は、十分加熱すること」を指示する通達があり、同月一七日には、厚生省から堺市衛生部あてに、「死者はすべて幼児及び小児。家畜あるいは糞便により汚染された食品や水の飲食による経口感染がほとんど。熱に弱く、加熱により死滅。どの消毒剤でも容易に死滅。保存、運搬にあたっては、衛生的に取り扱い、汚染が心配されるものについては、十分加熱を行って下さい。」という内容の通達があり、同月二〇日には、堺市衛生部から堺市教育委員会あてに同旨の通達があり、同月二〇日には、大阪府教育委員会保健体育課学校給食係から堺市学校給食主管及び学校給食担当係あてに同旨の通達があり、同月二六日には、大阪府教育委員会教育長から堺市教育委員会教育長あてに同旨の通達が出され、七月二日には、大阪府教育委員会が、被告を含む各市町村に「献立を加熱調理に変更したか」などというアンケートを実施するなどしていた。また、前記の岡山県邑久町の集団食中毒につき、新聞報道でも大きく取り上げられ、かつ、学校給食が原因であることは周知の事実であった。そして、感染の対策として、加熱調理が有効であることは、すでに六月六日の朝日新聞、六月八日の読売新聞等で大々的に報道され、また、六月二五日朝日新聞には、京都市が全面加熱調理に切り替えたことも報道されていた。さらに、七月一日には、岐阜県岐阜市で集団食中毒の原因がおかかサラダであることが発表され、汚染源が食肉等に限られないことが明らかとなっていた。

以上のような状況であったから、被告及び学校給食の実施管理に従事していた前記被告の職員らは、学校給食実施の責任者として、従来どおりのままの学校給食を実施すれば、不特定多数の小学校で、O一五七による集団食中毒が発生し、児童などに多数の死傷の結果が発生することを十分に予見できたのであるから、右各通達等の趣旨に従い、食材の一括購入を是正し、配送の際にもすべて保冷車で配送することとし、各学校にもすべて保冷設備を設置して食材が常温の場所に長時間放置されることのないようにし、食材の運送業者及び調理施設への受入れ時における衛生状態の点検を行い、食材の登録業者に対して、衛生管理のための定期的な自主検査結果の提出を求め、かつ、給食の献立もすべて加熱調理に切り替えるなどという措置をとるべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、漫然と従来どおりのまま、学校給食を実施し続けた過失がある。

③ 前記のような状況にあったのであるから、宮崎は、従来どおりのまま、学校給食を実施すれば、不特定多数の小学校でO一五七による集団食中毒が発生し、児童などに多数の死傷の結果が発生することを十分に予見することができた。しかるに、宮崎は、何らの対策もとらず、佐代子にO一五七に汚染された学校給食を提供し、死亡させた。

④ 前記のような状況にあったのであるから、押田は、学校給食のすべての食材がO一五七に汚染される危険性があると考えるべきであり、献立を当面、少なくとも食中毒の危険性の高い夏期だけでも加熱調理に切り替え、あるいは、生野菜については、消毒剤で消毒し、さらには、保存、運搬のための冷蔵設備を設置することなどを教育委員会に指導・助言すべきであったのに、これを怠った過失がある。

⑤ 前記のような状況にあったのであるから、山尾は、家畜、糞便のみならず、井戸水、さらには、これらにより汚染された食品がO一五七の感染源となることを十分認識できたのであるから、すべての食材がO一五七に汚染される危険性があると考え、かつ、O一五七が熱に弱く、消毒剤にも弱いことも認識していたのであるから、献立を当面加熱調理に切り替え、あるいは生野菜については、消毒剤で消毒し、さらには、保存、運搬のための冷蔵設備を設置すべきであったのに、上司と相談することもなく、漫然と従来の方策を踏襲し、これらの注意義務を怠った。

⑥ 給食協会事務局長であった藤井は、生野菜を提供している学校給食がO一五七により汚染される危険性があることを認識できたにもかかわらず、献立を加熱調理に変更せず、各学校への冷蔵庫の配備、保冷車での運搬への切替えも行わず、また、登録業者の食材の管理状況の点検もしなかった。藤井が、以上の措置、特に献立についての検討を行い、加熱調理への切替えを行い、各学校への冷蔵庫の配備、保冷車での運搬への切替えを行っていれば、佐代子に提供された学校給食が汚染されることはなかった。

⑦ 前記のような状況にあったにもかかわらず、山本は、これまでと同様の対策しかとらず、また、上級行政庁からの通達等を山尾の段階で処理し、教育長には伝達しないなど、多数の児童の生命の安全に関わる通達等の処理を教育委員会全体として強力に処理する体制をとっていなかった。

⑧ 以上からすれば、被告には、在学契約に基づく安全配慮義務違反ないし国家賠償法上の過失がある。

(三) 憲法二九条三項の類推適用による損失補償請求

被告は、児童に対し、学校給食を強制して教育目的の達成を図っていたが、この過程で佐代子を死亡させ、特別の犠牲を与えた。すなわち、被告は、公教育の実施という公益の実現のために、学校給食を佐代子に強制し、佐代子に対し、死亡という特別の犠牲を与えたものであるから、憲法二九条三項の類推適用により、佐代子に生じた損害(損失)を賠償すべき義務がある。

4  佐代子の傷害等

佐代子は、本件学童集団下痢症により、O一五七感染症に罹患し、これによってHUSに罹患して敗血症となり、七月一二日から八月一六日までの間に、三〇日間の入院治療及び実日数七日間の通院治療を受け、八月一六日午前一一時一八分、阪大病院において、死亡した。

5  損害

(一) 佐代子の損害

(1) 治療費 一万五八二〇円

被告が支払を拒否したおむつ代である。

(2) 付添看護費 三〇万三三四五円

七月一八日から八月一六日までの三〇日間、佐代子の意識不明の重体が続き、原告らが泊まり込みで看病したので一日当たり一万円(二人分)が相当である。また、看病で過労となった原告幹子の点滴費用が三三四五円である。

(3) 通院付添費 二万一〇〇〇円

通院中、原告らのどちらかが付き添っていた。

三〇〇〇円×七日=二万一〇〇〇円

(4) 入院雑費 三万九〇〇〇円

一三〇〇円×三〇日=三万九〇〇〇円

(5) 通院交通費 四万七九八〇円

(6) 傷害慰謝料 六七万二〇〇〇円

本件は、極めて甚大な負傷であり、右金額が相当である。

(7)葬儀関係費用

二八九万五七五七円

(8) 逸失利益

五五七〇万九三〇二円

佐代子は、死亡当時、小学校六年生(一二歳)であった。前記の経緯で死亡に至らなければ、佐代子の希望及び一人娘でぜひ大学まで進ませたいと考えていた原告らの意向どおり、少なくとも大学卒業後の満二二歳に達したときから、満六七歳に達するまでの間は、就労して収入を得ることができた(女子四年制大学卒平均で計算)。

433万6900円×(1−0.3)×18.3506=5570万9302円

(9) 死亡による慰謝料二四〇〇万円

佐代子が、被告の行為により死亡を余儀なくされたために被った精神的損害を慰謝するには二四〇〇万円が相当である。

(10) 小計 八三七〇万四二〇四円

(二) 原告らの損害

(1) 相続

原告らは、佐代子の右損害賠償請求権を、各自二分の一(四一八五万二一〇二円)ずつ相続した。

(2) 原告ら各自の慰謝料

各自四〇〇万円

原告らは、ただ一人の娘を学校給食により奪われ、その悲嘆は筆舌に尽くしがたい。かかる精神的苦痛を慰謝するには、それぞれ四〇〇万円が相当である。

(3) 損益相殺

右損害のうち、原告らは、共済給付金から、各自一〇五〇万円を受給することができるので、これを控除すると、原告ら各自の損害は、各三五三五万二一〇二円となる。

(4) 弁護士費用 各自三五〇万円

原告らは、本件訴訟の提起及び追行を弁護士に委任し、その報酬として、それぞれ三五〇万円を支払うことを約した。

(5) 以上から、原告ら各自の損害は、それぞれ三八八五万二一〇二円となる。

6  よって、原告ら各自は、被告に対し、製造物責任法三条、債務不履行責任、国家賠償法一条ないし憲法二九条三項の類推適用に基づき、各金三八八五万二一〇二円及びこれに対する佐代子の死亡の日である平成八年八月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  被告の主張

1  三原台小学校において佐代子が喫食したものを含む学校給食がO一五七に汚染されていた事実については、不知。なお、被告においても、右学校給食がO一五七に汚染されていた可能性は否定するものではない。しかしながら、本件学童集団下痢症については、その汚染食材、汚染源及び汚染経路について、何ら特定されておらず、原告らが主張する貝割れ大根が本件学童集団下痢症の原因食材であるという主張は、一つの仮定にすぎない。

2  被告は、その当時、受領した通知通達類をもとに、堺市立各小・養護学校長あてに、通知通達類を発信するなどして、当時相当な対策をとったものである。すなわち、右通知通達類において、加熱すべき食材はすべて加熱すること、生食野菜は流水で四回ていねいに所定の方法で洗浄すること、生食するものは喫食時間を踏まえて作業時間を遅らせることなどの食中毒防止に関する衛生上の注意事項を詳細に規定していたのであって、被告のとった措置に注意義務違反はない。

3  以下の(一)ないし(六)のとおり、被告において、当時の給食行政に関わる者として要求された知見によっては、原告らが原因食材と主張する貝割れ大根によって不特定多数の小学校においてO一五七による集団食中毒が発生し、児童などへの多数の死傷の結果が発生することを予見することはできなかったものといわざるを得ないのであり、被告に注意義務違反はない。

(一) 当時のO一五七感染防止の注意義務について

本件学童集団下痢症発生当時、原告らが主張するように貝割れ大根がO一五七に汚染されていることを予見し、学童の集団食中毒を防止するために貝割れ大根を含むすべての食材を加熱すべき義務があったということはできない。すなわち、国は、本件発生後の平成八年八月になって初めて生食していた野菜を熱処理した後に給食することを指導し、また、原材料の保管について、冷蔵・冷凍設備や保冷車の改善計画に努力するよう指導するに至ったのであって、国においてすら予見しえなかった右のごとき指導内容を被告が本件発生前に予見し、これを回避すべきであったということはできない。

(二) 当時の医学的知見から見たO一五七の予防対策について

生野菜からのO一五七の感染が医学的見地から指摘され始めたのは、本件学童集団下痢症の発生した平成八年七月から一年近くたって以降のことであり、本件学童集団下痢症発生時において、被告が貝割れ大根を含む生鮮野菜についてO一五七の感染の可能性を予見することは不可能であった。

(三) 堺市衛生部に過失がないことについて

本件当時の厚生省生活衛生局長からの通知通達類や知見によっても、原告らが主張するように貝割れ大根がO一五七に汚染されていることを予見し、給食の献立をすべて加熱調理に切り替えること、あるいは生食する野菜について殺菌を行うべきとすることは堺市衛生部に対して予見の範囲を超えた義務を課すものである。

(四) 堺市教育委員会に過失がないことについて

生野菜の消毒液による洗浄は禁止されており、そのなかで、できる限り、水で四回洗うなどという手段をとっていた。また、被告は、食材はできる限り新鮮なものを搬入するとともに、当日中に使用しきっていたのであって、当時、国、大阪府においても、食材について冷蔵庫の設置を義務づけていなかったのと同様に、被告においても、貝割れ大根に付着したO一五七の増殖を防ぐために、食材について冷蔵庫を設置してこれを保管する義務はなかった。

(五) 三五市町村の加熱調理への切替えについて

本件当時において、感染原因について、原告らが主張する貝割れ大根が指摘されていなかった時点で、これを対象にしてすべての献立を加熱調理に切り替えることは、学校給食が日常生活における食事について正しい理解と望ましい習慣を養うことなどの目的のために、一般の食生活の正しい理解を促すためのバランスのとれた望ましい献立とすることが求められていることからすれば、これを加熱調理にしなかったことをもって被告において学校給食実施上、過失があったということはできない。

(六) 給食協会に過失がないことについて

給食協会は、業者を指導し、食材についての衛生管理を十分に行っていた。すなわち、給食協会においては、食材納入について信用のおける業者に依頼するために一定の高い登録基準を設け、さらにそのなかから実際に納入する物品を確認して納入業者を決定していた。納入業者が納入する食材は、良質な物が納入されるよう規格が決められており、各納入業者は定まった食材を納入しなければならないとされていた。また、運送においては、品質・数量などをそれぞれ確認した上で、各学校へ搬入を行っていた。

原告らは、食剤の搬入について保冷車によって搬入すべきであったと主張するが、教育委員会の指導の下、食材の供給を行っていた給食協会においても、教育委員会と同様にO一五七の汚染について当時における知見をもとに注意義務を尽くして食材の搬入を行っていたのであり、当時保冷車による運搬を行っていないことが給食協会の注意義務違反となるものではない。

以上のとおり、被告においては、原告らが主張する貝割れ大根によるO一五七の食中毒発生を予見し、六つの具体的注意義務を尽くすべきであったにもかかわらず、これに違反したということはできない。

また、前記のとおり、宮崎、山本、山尾、押田及び藤井らには過失がなく、不法行為が成立しないのであるから、被告に国家賠償法上の責任はない。

4(一)  学校給食に製造物責任法が適用されることは、争う。

(二)  佐代子が喫食した学校給食がO一五七に汚染されており、欠陥が存在したという点は不知。

(三)  原告らが主張する貝割れ大根のO一五七汚染という欠陥は、当時、入手可能な世界最高水準の科学又は技術に関する知見によっても、これを認識することはできなかったのであるから、開発危険の抗弁が認められるべきである。

5  被告は学校給食を強制していたことはなく、特別の犠牲を与えたことはないこと、憲法二九条三項は私有財産を正当な補償のもとに公共のために用いることを規定しているのであって、身体・生命を正当な補償のもとに「公共のために用いる」ことはあり得ないことなどからすれば、被告において憲法二九条三項に基づく補償の義務はない。

五  争点

1  被告の責任原因の有無

2  原告らの損害額

第三  当裁判所の判断

一  前記争いのない事実等及び証拠(甲三ないし七、九ないし一八、二〇の1ないし4、二一、二六、二七、三一ないし四八、五七ないし六四、六五の1ないし4、六六ないし六八、六九の1ないし3、七〇の1、2、七一、乙一ないし一五、一六の1、2、一七、一八の1ないし6、一九、二〇の1ないし11、二一の1、2、二二、二三、二四の1ないし3、二五ないし二八、三二及び三三の各1ないし3、三四ないし三九、証人押田訓英、証人山尾正俊、証人藤井泰夫、証人高鳥毛俊雄)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  学校給食制度の概要

(一) 学校給食の実施目的

学校給食は、児童及び生徒の心身の健全な発達及び国民の食生活の改善に寄与することを目的とし(学校給食法一条)、① 日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと、② 学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと、③ 食生活の合理化、栄養の改善及び健康の増進を図ること、④ 食糧の生産、配分及び消費について、正しい理解に導くこと、の各目標を達成するために実施される(同法二条)。

また、小学校は、心身の発達に応じて、初等普通教育を施すことを目的とし(学校教育法一七条)、その目的を実現するために、日常生活に必要な衣、食、住、産業等について、基礎的な理解と技能を養うことや、健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を図るといった目標の達成に努めなければならないとされている(同法一八条)。

以上の学校給食法及び学校教育法の目的及び目標を達成するために、学校給食は、学校教育の一環として行われているということができる。

また、学校教育法を受けた学校教育法施行規則に基づく小学校学習指導要領において、学校給食は、特別活動のうちの学級活動として、日常の生活や学習への適応及び健康や安全に関することとして実施され、さらに、右学習指導要領を受けた小学校指導書特別活動編は、学校給食に関する指導は、主として給食の時間に指導されることになるが、特に指導を必要とする内容については、学級活動の時間に計画的に取り上げて指導することになると規定しており、その点からも、学校給食は、学校教育の一環として行われているということができる。

(二) 学校給食の実施

(1) 学校給食法に規定された学校給食の目的・目標を達成するため、義務教育諸学校の設置者は、当時義務教育諸学校において学校給食が実施されるように努めなければならず(同法四条)、国及び地方公共団体は、学校給食の普及と健全な発達を図るように努めなければならないとされている(同法五条)。

(2) 学校給食法の趣旨に則り、同法に定める学校給食の実施の適正を期するため、その実施基準が以下のように定められ、この基準に適合するように努めることとされている(学校給食実施基準 昭和二九年九月二八日文部省告示第九〇号)。

すなわち、学校給食は、当該学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものとし(同基準二条)、年間を通じ、原則として毎週五回以上、授業日の昼食時に実施されるものとされている(同基準三条)。

ところで、文部省は、学校給食については、全員一律の建前をとっており、堺市においても、アレルギーの児童等を除いては、在学する児童全員に学校給食を食べることを求め、また、各小学校を通じて、児童に対し、できるだけすべての学校給食を食べるように指導していた。

(3) 学校給食に供する食物の栄養内容は、児童又は生徒一人一回当たりの平均所要栄養量の基準により、各栄養素別及び年齢別にその必要量が定められ(同基準四条第一号表「児童又は生徒一人一回当たりの平均所要栄養量の基準」(以下「所要栄養量基準表」という。))、所要栄養量の基準を充足するために学校給食におけるパン・米飯、牛乳、おかずの具体的内容についての食品構成の標準(別表第二及び第三「学校給食の標準食品構成表」(以下「標準食品構成表」という。))の細目が年齢別に規定されている。ただし、所要栄養量の基準については、全国的な平均値を示したものであり、適用に当たっては、性別、年齢、個々の健康及び生活活動等の実態並びに地域の実情等に十分配慮し、弾力的に運用することとされ、また、標準食品構成表についても、所要栄養量の基準を充足するために必要な標準的な食品構成を示したものであり、適用に当たっては、性別、年齢、個々の健康及び生活活動等の実態並びに家庭における食生活や地域の実情等に十分配慮し、弾力的に運用することとされている。

2  堺市における学校給食の実施状況(本件学童集団下痢症以前)

(一) 堺市の本件当時の学校給食システムは、平成四年九月から開始されたものであり、堺市の学校給食は、小学校九〇校、養護学校及び養護学校分校各一校(対象児童数四万七七〇一人 平成八年五月一日現在)において、週五日制の完全給食(完全給食とは、給食内容がパン又は米飯、牛乳及びおかずである給食をいう。)を実施し、給食調理は、全校自校調理方式で実施されていた。

また、前記のとおり、堺市においても、学校給食を学校教育の一環として捉え、アレルギーの児童等を除いては、在学する児童全員に学校給食を食べることを求め、また、各小学校を通じて、児童に対し、できるだけすべての学校給食を食べるように指導していた。

(二) 学校給食業務に関する堺市教育委員会等の役割

堺市教育委員会は、学校給食に関する事務を管理し、執行する権限を有する(地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条一一号)。そして、堺市教育委員会は、同法一八条二項を受けて、堺市教育委員会事務局の組織及び分掌事務を定め、事務局内に学校教育部学校保健課給食係(平成八年六月当時)を設け、① 学校給食政府斡旋物資の取扱いに関すること、② 学校給食の指導及び運営に関すること、③ 給食協会の運営指導に関すること、を分掌していた(堺市教育委員会事務局事務分掌規則二条)。

堺市衛生部は、市民の保健衛生全般を扱う部門で、具体的には、母子保健、栄養改善、成人保健、精神保健福祉、予防接種、食品衛生、環境衛生、急病診療業務等を行っていた。そのうち、食品衛生業務は、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止するため、食品衛生法に基づき、食品及び食品添加物等の製造、販売等の許認可、関係施設や取扱に対する監視指導、食品及び食品添加物等の検査、食中毒等の発生予防の啓発指導などを行う業務である。学校給食施設への監視指導については、食品衛生法が営業者に対する規制に重点が置かれているため、学校給食施設に対する立入検査などは原則として含んでいないが、寄宿舎、学校、病院等へは立入り検査をすることができる(食品法二九条三項)。また、学校給食業務の企画調整に関する衛生部と教育委員会との関係は、最終責任は教育委員会にあるが、食品衛生に関しては、衛生部が専門であるため、その立場から指導・助言を行い、教育委員会がそれを受けて学校給食を運営することとなっていた。

(三) 給食協会の設立趣旨、目的及び業務内容委託の状況

(1) 給食協会は、昭和二二年に設立された堺市学校給食組合を前身とし、堺市立学校の学校給食事業の充実発展とその運営の円滑適正を図ることを目的として、大阪府教育委員会と堺市の指揮の下に運営する財団法人であり、右各目的を達成するため、① 学校給食用物資その他、所要品の調達配給及び調理に関すること、② 学校給食の衛生管理に関すること、③ 学校給食実施上必要な講習会・研究会等の開催、④ 学校給食の普及奨励に必要な事情、⑤ 前各号のほか、本会の目的達成に必要な事項、の各事業を行っており、そのため、堺市と業務委託契約を締結していた。

給食協会は、学校給食実施校の校長、関係行政機関の職員及び学識経験者で構成される理事会の下に、献立委員会、物資購入委員会及び学校給食物資納入業者選定委員会の各委員会が置かれ、運営されていた。

(2) 献立の作成

前記1(二)(3)の所要栄養量基準表及び標準食品構成表に基づいて、献立委員会の中に置かれた献立原案調整会(教育委員会職員、学校栄養職員らで構成される。)から提出された献立案を献立委員会において審議した上で、年約六回、二か月分の献立約三六種類を決定していた。平成八年七月の献立は、同年四月の右委員会において決定されていた。

献立の作成は、市内を北・東地区、中・南地区、堺・西地区の三ブロックに分け、できるだけ三ブロックの献立が重複しないように配分して作成されるが、実際には、献立が三ブロックとも異なる場合、二ブロックとも同じ場合、三ブロックとも同じ場合もあった。

なお、献立委員会の構成員は、校長二名、教育委員会事務局職員二名、学校給食主任(教諭)六名、学校栄養職員六名、技術職員(調理担当)六名からなり、構成員全員が堺市の職員であり、献立の作成には、堺市が責任を持つこととなっていた。そして、作成された献立表は、学校保健課、具体的には、学校保健課長が決裁することになっていた。また、学校給食の献立は、必要があれば、変更することは可能であった。

(3) 物資の調達

給食用物資は、① 小麦粉・米穀・牛乳などの政府物資、② 調味料などの財団法人大阪府スポーツ教育振興財団(以下「スポーツ財団」という。)の斡旋物資、③ その他の一般物資に分類される。

使用する食材については、パン、牛乳、米飯等については、スポーツ財団の指定業者から各々納入され、それ以外の食材については、給食協会の学校給食物資納入業者選定委員会が指定した登録業者から、物資購入委員会において選定し、給食協会が一括購入を行っていた。

登録業者の選定は、立地条件・衛生管理・生産能力・経営・社会的信用・学校給食への理解等の条件を具備した生産者・加工業者・卸業者又は業種別組合を学校給食物資納入業者選定委員会において、選定、登録しており、また、給食用物資は、良質・廉価・規格・衛生等に重点を置き、登録業者より提出された品を、物資購入委員会において選定し、一括購入していた。

献立が決定すると、献立にあわせて物資購入委員会が二か月分の食材を決定し、その段階で食材の選定と納入業者が決定されるが、実際の注文の方法としては、注文書の発行は、使用日の四日前(土・日・祝・休日を除く。)とされ、注文書を発行した後、仮に当日であっても、給食協会から数量の増減の連絡があれば、納入業者は直ちに対応することとされていた。

(四) 学校給食の調理過程

(1) 食材の配送方法

堺市の学校給食は自校調理方式をとっており、食材は、給食協会が登録業者(納入業者)に発注していた。登録業者は、生産業者から購入した食材を午前五時ころまでに、堺地区の運送業者に学校毎に梱包(段ボール箱、耐熱性スチロール箱等)して搬入し、当該運送業者が各学校に搬送していた。なお、牛乳については、牛乳製造業の二業者が直接各学校へ配送し、パンについては、パン製造業の七業者が各学校へ直接配送していた。米飯は、各学校で炊飯する場合を除き、委託米飯業者で炊飯した米飯をパン業者が各納入校へ配送していたが、パン製造業者のうち、一業者は米飯の配送をせず、他の業者が替わりに配送していた。

運送業者は搬入された食材は、配送表に従い、七つのルートで荷積みし、配送していた。なお、佐代子の在学していた三原台小学校は、六号車による配送であり、午前五時三〇分ころ納品されていた。

運送業者から学校の調理施設まで食材を搬送する配送車は保冷車でなく、鉄製の床にそのまま食材を積み、幌を張って、風雨・直射日光等を防ぐようになっているだけで、冷蔵、冷却システムはなかった。

(2) 食材の保管方法等

各学校の調理施設には、検食用の冷蔵庫及び牛乳用の冷蔵庫が設置されているのみであり、運送業者が配送した食材は、調理担当者が出勤する午前八時ころまで、下処理室又は早朝物資倉庫において、室温で保管されていた。また、配送時間が早朝のため、食材の運送業者及び調理施設への受入れ時における衛生状態の点検等の検収は行われておらず、また、給食協会は登録業者に対して衛生管理のための定期的な自主検査結果の提出も求めていなかった。

(3) 食材の調理方法

給食協会などを通じて搬入された食材は、各学校において、堺市教育委員会の職員である各学校の調理担当によって調理されていた。各食材は、各学校の調理場において、堺市教育委員会の指導を受けて堺市初等教育研究会栄養部会が作成した調理マニュアル「調理の手引き」のとおり、各職員によって調理されていた。右調理の手引きは、毎年、全調理担当の受講が義務づけられている夏季研修会において、基本資料として講習がされており、また、その内容は、食材毎に、洗浄、加熱などの方法が細かく定められていた。たとえば、生食する野菜・果物については、① 土などをよく落とし、食品の食べられない部分を取り除く、② むだな廃棄を防ぐため、前日配送分は、箱のふたをあけておき、へた・芽はていねいにとる、③ 洗い方・消毒の仕方は、流水で四度洗いが望ましいとされ、その具体的な洗い方、シンクの使用例についても指示がされていた。

さらに、各学校での実際の調理に当たり、調理担当者が調理方法などについて参照するため、献立に従った調理方法が細かく記載された「学校給食献立表(調理用)」が各学校に配布されており、各調理担当においては、その手順に従って調理がされるよう指示されていた。

(4) 右各過程でのチェックシステム

搬送時、全食材は、前記の調達経路に応じて、出荷前に給食協会ないし取扱業者において、品質、種目、包装などの確認が行われていた。

調理時には、前記のマニュアルなどに従って調理が行われていたが、そのほか、衛生面のチェックのため、給食実施日毎に、各学校毎に学校給食自主管理点検表により、手洗い消毒、身だしなみの清潔さ、消毒液・石鹸液の用意、調理機械類・食器・食缶類の洗浄・消毒、使用材料の量及び品質表示のチェックないしまな板・包丁の上下区分及び肉・野菜・魚の区別など一九項目にわたって調理担当によるチェックが行われることとなっていた。

3  本件以前の学校給食の取扱い

(一) 学校給食については、平素から、「食中毒事故防止についての留意事項」に留意しながら、衛生管理に努めることとされていた。

食中毒事故防止についての留意事項の内容は、(1) 調理等管理運営の適正化として、① 清潔の原則(新鮮な原材料の確保、食品・器具・手指等の洗浄、消毒の励行、鼠族・昆虫等衛生害虫の駆除)、② 温度管理、加熱、殺菌、保存温度の適正な管理、③ 迅速な処理(計画的な作業管理による迅速な調理、加熱等)、(2) 関係者に対する衛生教育の周知徹底と健康管理の強化、(3) 検食及び保存食の励行(保存食は七二時間以上冷蔵保存が望ましい)、(4) 調理済食品の適正保管、(5) 自主管理運営要領による点検の徹底と記録の保管、等である。

(二) 厚生省が実施している夏期食品一斉取締りと時期を同じくして、例年七月が「学校給食における食中毒防止強化月間」に指定され、「学校給食における食中毒防止強化月間実施要綱」や、① 昭和四六年七月二日付け文体給第一九一号体育局長通知「学校給食における衛生管理の徹底について」、② 昭和五九年六月二六日付け文体給第一三三号体育局長通知「学校給食における衛生管理の強化について」、③ 平成四年六月三〇日付け文体学第一二九号体育局長通知「学校における食中毒防止強化月間の実施について」、④ 平成四年六月二三日付け文体学第一八七号体育局長事務代理通知「学校における環境衛生管理の徹底について」などによって、以下の点などについて、注意が喚起されていた。

(1) 学校給食従事者は、作業衣、マスク、髪覆いを清潔にし、作業前及び用便後の手洗い消毒、作業区分ごとの手洗いを行うこと。

(2) 調理室の温度・湿度は適切で、調理室内の調理用具、食器・食かんは十分な温度で洗浄し、適切な消毒を行うこと。また、原材料の鮮度を保つこと。

(3) 調理器具については、使用後、流水で十分洗浄し消毒を徹底するとともに、保管に当たっても衛生管理の徹底を図ること。

(4) パン、牛乳などの食材料等の搬入品については、異常の有無などをみるために検収・鑑別を適切に行うこと。また、食材料等は、清潔な場所に衛生的な状態(気温・温度、通風、直射日光など)で保管すること。また、加熱すべき食品は十分に加熱すること。

(5) 保存食は、適正な方法で、七二時間以上保存し、かつ記録すること。

(6) 調理に伴うごみや残菜等は、それぞれのごみに区分(厨芥、雑芥、ガラス、金属くず等及びリサイクル)し、衛生的に処理すること。

(7) 調理施設・設備については、害虫、動物の侵入・発生の防止及び駆除に努めること。

(三)(1) 堺市では、前記のとおり、衛生面のチェックのため、学校給食実施日毎に、各学校毎に、学校給食自主管理点検表により、手洗い消毒、身だしなみの清潔さ、消毒液・石鹸液の用意、調理機械類・食器・食缶類の洗浄・消毒、使用材料の量及び品質表示のチェックないしまな板・包丁の上下区分及び肉・野菜・魚の区別など一九項目にわたって調理担当によるチェックが行われることとなっていた。

また、学校給食実施日毎に、各学校毎に、献立記録表により、配缶時間や、味付けの変更の有無、残食量などをチェックするようになっていた。

(2) 学校給食物資の納入業者等に対しては、給食協会から、① 食品の品質と製造について(原材料の厳選と製品の品質管理、製造設備・器具の衛生管理、製造担当者の健康管理)、② 食品の保管について(容器・包装資材の入出庫時の衛生管理、保管庫(冷凍・冷蔵庫など)の定期点検と清掃)、③ 配送について(配送車の清掃と配送担当者の健康管理、出荷時の再点検)、などについて注意を喚起して衛生管理の徹底を求め、平成八年についても、五月二八日付けで、関係業者に前記内容の事務連絡を行った。

(四) ところで、従来、生で食用する野菜、くだものについては、十分に洗浄した後、沸騰湯に暫時浸すか、塩素消毒してから使用すること、中性洗剤で消毒する場合は、泡が切れるまで十分に水洗いすること、赤痢等の流行時には、なまものは避けるようにすること、などとされていたが(昭和四二年六月一三日付け文体給一七二号体育局長通知及び昭和四三年六月二〇日付け文体給一五七号体育局長通知)、平成四年六月三〇日付け文体学第一二九号文部省体育局長通知において、学校給食における食中毒防止、食品の安全衛生に万全を期す観点から、生で食用する野菜、くだものについては、流水で十分洗浄し、衛生的に処理すること、なお、高温多湿の時期はなまもの等の献立計画については、十分に配慮すること、というふうに改められた。

なお、従前から、生で食べる果物などを除くすべての食品、特に生鮮魚介類、食肉類及びその加工品、うどんなどについては、学校で完全に熱処理したものを給食することとされていた(昭和三七年六月三〇日文体給第一七八号)。

4 腸管出血性大腸菌O一五七:H七(Shiga toxin producing Escheri-chiacoli O157:H7)について

(一)定義

大腸菌は、健康な人や牛などの動物の腸管の中に常に存在している細菌であり、従来は、腸の中にいるかぎりは病気を起こすことはなく、いわゆる常在菌といわれ、無害な菌の一種であるとされていた。

しかし、近年、前記のように無害と考えられていた大腸菌の中に下痢や腹痛といった腸炎症状を起こす特殊な大腸菌が見い出されるようになった。

このような大腸菌は、病原性大腸菌と呼ばれているが、これらはさらに菌の性質や起こる症状から五種類のものに分類され、O一五七は、この中の腸管出血性大腸菌に分類されている。

(二) 発見・沿革等

昭和五七年(一九八二年)、アメリカのオレゴン州とミシガン州で、ハンバーガーを原因とする食中毒が起こり、このときの患者の症状がこれまでになく血便を見ることが多く、しかもほとんど血液ばかりの血便であったため、これまでと菌の性質が異なるのではないかと疑われるようになり、細菌学的な検査の結果、この菌は、O一五七:H七といういままで知られていなかった大腸菌であることが判明した。

大腸菌は、菌の菌体成分の免疫血清学的な反応により分類されるO型と、鞭毛成分の反応から分類するH型があり、その組み合わせで正確な分類が行われているが、その命名による名前がO一五七:H七ということになる。

この菌は、新種であったが、さらにベロ毒素という、赤痢菌が持つ毒素に似た二種の毒素を産出することが判明したため、ベロ毒素産出性大腸菌とも呼ばれる。

(三)性質等

(1) 食中毒を起こす代表的な大腸菌、サルモネラ菌が人体に感染するには、約一〇万個の菌量が体内に入らなければならないが、O一五七は千ないし一万個の菌量で感染する可能性が高いといわれるなど、通常の食中毒菌と比べ、少量の菌で経口感染することが知られている。

(2) また、乳幼児や免疫力の弱い老人などは、当該毒素に対する抵抗力が弱く、重症に至り、死亡に至る例もある。

(3) 症状は、潜伏期間の後、血便と激しい腹痛を伴う出血性腸炎を起こす。感染から発症までの潜伏期間は、三ないし四日が一般的といわれるが、短くて一日、長いときには八日に及ぶとされる。

O一五七感染症の症状は、一般的には、一週間程度で後遺症もなく直るが、約六%の患者が二ないし一四病日に溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な病気を併発することがある。ベロ毒素が腸管から体内に入り、血液を通じて腎臓や脳など体の随所の組織へ運ばれ、そこで毒素の作用が現れた結果、腎不全や中枢神経症状など致命的な病状を起こすとされている。現在のところ、この病状を有効におさえる治療法は見つかっていない。

(4) O一五七は、熱に弱く、また、いかなる消毒剤でも殺菌が可能であるとされる。

(5) 潜伏期間が長く、多くのケースで感染源、感染ルートを特定しにくいといわれている。

(四) 感染経路

感染源の多くが牛ひき肉であるといわれており、原因は、不十分な加熱調理によるとされている。O一五七は、牛の腸管の常在菌で、健康な牛の一%程度から検出されるとも報告されているが、野生の鹿の糞や羊からも検出されたとの報告もあり、牛をもともとのリザーバーとする説に疑問が呈されてきている。他に、アメリカでの集団食中毒の原因として、鶏肉、サラミソーセージ、殺菌していないアップルサイダー、ヨーグルト、チーズ、生野菜、殺菌していないミルク、牛糞を堆肥に使った家庭菜園の野菜、塩素殺菌をしていない水、便汚染された湖の水浴、人から人への二次感染などが報告されている。

(五) 予防対策

(1) O一五七については、我が国では、本件当時、正確な予防法や治療法に関する文献などはなく、併発するHUSについては、未知に近い疾病とされていた。また、感染の実態についても、明らかにされていないことが多いといわれていた。しかしながら、公衆衛生の専門家の間においては、O一五七にクロス感染を起こす性質があることから、すべての食材が汚染される可能性について、警戒感がもたれており、我が国を含め世界的にも、専門家の間では、ここ一〇年程度は、直接肉にかかわらず、牛糞やそれによって汚染された水などを媒介として野菜等に感染する可能性が認識されるようになってきていた。

(2) WHO(世界保健機関)は、平成六年(一九九四年)七月に、屠場や肉加工工場におけるHACCP(危害度分析重要管理点)方式の採用、汚染された家畜の同定、適切な管理運営が感染予防に不可欠であると報告した。

(3) アメリカ防疫センター(CDC)は、平成八年(一九九六年)七月、牛肉の生産段階や屠場・肉加工工場における汚染防止に加え、個人レベルの感染防止対策として、① ひき肉又はハンバーガーを十分に加熱し、肉汁が透明で内部までよく火が通っていることを確認すること、② レストランで加熱不十分なハンバーガーを出されたら、十分な加熱を再度依頼すること、③ 殺菌されていないミルクを飲むのは避けること、④ 感染者、とりわけ子供は、他者への二次感染防止のため、入念に石鹸を使用して頻回に手洗いすること、⑤ 適度な濃度の塩素で殺菌された水道水を飲むこと、などを勧告した。

(4) また、イギリスの政府機関であるPHLSは、平成七年(一九九五年)のレポートの中で予防対策として、① 屠場における汚染を最小限にすること、② 食品加工、販売業がHACCPを採用すること、③ 生ものから加熱食品へのクロス汚染があることに注意し防止すること、④ イングランド、ウェールズにおける殺菌されていないミルクの販売について再検討すること、⑤ ハンバーガーが肉汁が透明になるまで十分加熱されていること、七〇℃で二分間加熱する必要がある、などを勧告した。

5  本件以前のO一五七の発生状況等

(一) 我が国の平成八年以前の状況

(1) 昭和五八年に東大病院小児科において我が国における最初の症例が確認された。

(2) 平成二年九月に埼玉県浦和市の幼稚園において三一九名が発症。幼稚園児二名が死亡。初の集団発生事例である。

井戸水が原因とされる。

(3) 平成三年四月に大阪市大正区の保育園において一六一名が発症。

給食が原因とされる。

(4) 平成四年四月に佐賀県唐津市の保育所において一二名が発症。

給食が原因とされる。

(5) 平成五年六月に東京都世田谷区の小学校において一六五名が発症。

給食が原因とされる。

(6) 平成五年八月に東京都杉並区の保育園において四〇名が発症。

給食が原因とされる。

(7) 平成六年七月に広島県久井町で保育園児一名が死亡。

(8) 平成六年九月に奈良県三宅町の小学校において二五〇名が発症。

給食が原因とされる。

(9) 新聞報道(平成八年六月五日付け読売新聞夕刊)によれば、O一五七による食中毒は、平成二年以降、六都府県で八件発生しているが、感染原因が判明したのは、二件のみであるとされている。

(10) 国立予防衛生研究所の統計によると、平成三年から平成六年の四年間に便などから腸管出血性大腸菌を検出できたのは四三〇名で、そのうち、二ないし一五歳が三一九名(七四%)であったが、感染しながら、薬の服用で検出できなかった者は、この数倍以上あると考えられている。HUSまで進んだのは二九名(七%)で、検出された菌はすべてO一五七であった。

(二) 平成八年における流行

(1) 平成八年における我が国でのO一五七による一〇人以上の集団下痢症の発生状況は以下のとおりである。

① 五月に岡山県邑久町の小学校において四六八名が発症(死者二名)。

給食が原因とされる。

② 六月に岐阜県岐阜市の小学校において五三〇名が発症。

給食のうち、おかかサラダが原因とされる。なお、おかかサラダは、かつおぶし、たまねぎ、レタス、キュウリなどにサラダ油や砂糖などを混ぜたものであった。

③ 六月に広島県東城町の小学校において一八五名が発症。

給食が原因とされる。

④ 六月に愛知県春日井市の中学校において二一名が発症。

キャンプ場の水が原因とされる。

⑤ 六月に福岡県福岡市の保育園において四八名が発症。

⑥ 六月に岡山県新見市の小・中学校において三六四名が発症。

給食が原因とされる。

⑦ 六月に大阪府河内長野市の保育園において五〇名が発症。

給食が原因とされる。

⑧ 六月に東京都港区の事業所において一九一名が発症。

仕出し弁当が原因とされる。

⑨ 七月に群馬県堺町の小学校において一四四名が発症。

給食が原因とされる。

(2) 右集団発生以外にも、平成八年に入ってから、愛知県名古屋市、山形県米沢市、神奈川県三浦市、兵庫県神戸市などを始め全国各地でO一五七による食中毒が発生し、六月ないし七月には、連日のように、その発生が新聞紙上で報道されていた。

また、堺市においても六月下旬に一歳の男児及び三歳の女児からO一五七が検出されていた。

(3) 六月二九日付け読売新聞によると、平成八年のO一五七の全国的な発症状況は、二四都府県で一六五七人(六月二八日調べ)とされているが、いずれの自治体においても、その原因食材を特定することはできなかった。

(4) ところで、岡山県邑久町の集団食中毒に関しては、当時、感染源、感染経路について、「水からの感染例が多いことから、県や町は水質調査をして汚染源の特定を急ぐとともに、町内の学校給食を中止している」(六月一日付け読売新聞夕刊)、「給食原因か」、「地元の保健所は調理場を五日までの一週間、使用停止にして調べているが、感染経路は特定されていない」(六月二日付け朝日新聞)、「感染源と見られる水や給食の食材、食器などから依然、菌は検出されておらず、感染経路の手掛りはつかめていない」(六月三日付け朝日新聞)、「岡山県は対策本部を設置して給食関係を重点に調べているが、感染経路はまだ解明できていない」(六月五日付け朝日新聞)、「感染源は給食の食材か。加熱不十分だった可能性」(六月六日付け朝日新聞)、「県などの対策本部は、感染源の解明に全力をあげているが、町の共同給食調理場や学校から採取した水の三九検体と保存していた給食や食材からこれまでに同大腸菌は検出されておらず、発生源の特定はできないまま」(六月七日付け読売新聞)、「給食が原因と断定」(六月八日付け読売新聞)、「ハンバーグの約二〇%に加熱不良が見つかった」(六月一二日付け読売新聞)、「県は給食が感染源と断定。……給食食材の追跡調査をしているが、まだ未特定だ」(六月二九日付け読売新聞)などと報道されたように、感染源、感染経路については特定できなかった。

6  本件以前のO一五七の性質、感染対策等に関する新聞報道等

六月以降、主要な全国紙において、主なものだけでも、O一五七の性質、感染対策等に関し、以下のとおりの報道が繰り返されていた。

(一) 六月一日付け読売新聞夕刊

(1) 同大腸菌(O一五七)は腸内で出血、腹痛や下痢を起こすもので、乳幼児や小児がかかりやすく

(2) 水からの感染例が多い

(二) 六月二日付け朝日新聞

(O一五七は)食品や水、食器などで感染する。

(三) 六月三日付け朝日新聞

(1) 感染源と見られる水や給食の食材、食器などから依然、菌は検出されておらず、感染経路の手掛りはつかめていない。

(2) 「O一五七」はベロ毒素と呼ばれる出血毒をつくり、患者は血便を伴う激しい下痢をし、重症になると、HUSによる腎不全をおこす。

(3) 国内の食中毒検査は食材の検査が遅れて別の菌が繁殖し、原因菌を特定できない場合もある。

(四) 六月五日付け読売新聞夕刊

(1) 一九九〇年(平成二年)以降、六都府県で八件発生しているが、感染原因が判明したのは二件だけ

(2) 乳幼児や小児がかかりやすく

(五) 六月五日付け朝日新聞夕刊

(1) 例年、七月から九月の三か月間は、気温や湿度の関係で、菌の増殖力が強く食中毒が発生しやすい。

(2) 欧米では、肉類からの感染例が多いが、日本では報告がない。

(六) 六月六日付け朝日新聞

(1) 岡山の食中毒 感染源は給食の食材か 加熱不十分だった可能性

(2) 大腸菌は熱に弱い。食材に菌があったとしても、十分に加熱すれば集団食中毒は防げた。

(七) 六月七日付け読売新聞

(1) 「普通の食中毒は感染菌が百万個以上ないとかからないが、O一五七は百個くらいでかかってしまう」(甲斐明美・東京都立衛生研究所主任研究員)

(2) 発生源の特定はできないまま

(3) 「O一五七は潜伏期間が長いため少量の菌でも感染する。」(三輪谷俊夫・大阪大学名誉教授(医学細菌学))

(八) 六月七日付け毎日新聞

(1) 加熱処理さえすれば菌はなくなる。

(2) 経口でしか感染しない。

(九) 六月八日付け読売新聞

(1) 同菌(O一五七)が水からの感染例が多い

(2) 感染しやすいハンバーガーなど肉類

(3) (大腸菌のなかで)O一五七が最も毒性が強い。細菌性毒素としては最強レベル

(4) 食中毒を起こす代表的な大腸菌、サルモネラ菌が人体に感染するには約一〇万個の菌量が体内に入らなければならないが、O一五七は千ないし一万の菌量で感染する可能性が高い。子供はこの毒素に対する抵抗力が弱く、大人より発病しやすい(小林一寛・大阪府立公衆衛生研究所微生物課主任研究員)

(5) 潜伏期間が長く、多くのケースで感染源、感染ルートを特定しにくい。

(6) 牛や豚などの家畜の腸管から分離されることがあり、感染源は▽肉を使った食品▽家畜の世話や生肉の調理、盛り付けした人の素手から他の食品への感染が考えられる。

(7) 感染者や動物の汚物で汚染された生水をのむというルートも警戒が必要

(8) (腸管出血性大腸菌から身をまもるためには、)▽肉類とその加工食品は九〇度以上で一五分間は加熱する▽井戸水などの生水は飲まない▽外から帰ったら手を洗うなどの対策が必要。

(一〇) 六月一一日付け朝日新聞

(1) O一五七 ナゾ多い菌に後手

(2) 「O一五七」はどんな食物にひそんでいるか、よくわかっていない。

(3) 対策は熱湯消毒が一番 手洗いも有効

(4) 一般に大腸菌は熱に弱い。七五度で一分間加熱すると死滅する。食べものにはよく火を通し、ふきんやまな板は熱湯で消毒するのが効果的

(一一) 六月一三日付け毎日新聞

この菌は熱に弱いため、火の通った食べ物なら安全とされる。

(一二) 六月二二日付け朝日新聞

(1) 一五都府県に被害拡大

(2) 感染ルートは不明(ちづる保育園の集団食中毒に関し)

(3) 強力な感染力 国内でも定着か

(4) 手洗い・加熱など有効

(5) 「大腸菌の中でも特殊で、感染力がとても強い」(甲斐明美・東京都立衛生研究所主任研究員)

(6) 代表的な食中毒の黄色ブドウ球菌やサルモネラ菌などは、腸の中に百万個程度の菌が入らないと症状が出ない。O一五七は数百個程度でも増殖して症状がでる。感染力は数十個程度の菌で発症する赤痢菌に近いという。

(7) 米国やカナダではプールや湖で泳いで感染した例が報告されている。

(8) 「口から入る菌だから、食肉の加熱や食器の洗浄、手洗いなどをきちんとすれば、恐れることはない」(渡辺治雄・国立予防研究所細菌部長)

(9) 「食肉の無菌化は無理。加熱、殺菌といった基本に立ち返るしかない」(太田美智男・名古屋大学教授(細菌学))

(10) O一五七感染、全国規模か

(11) 菌そのものはすでに全国的な規模で広がっているのではないか

(12) 各地の自治体では緊急対策に乗り出す一方で、「加熱処理や手洗いの励行で防げる。いたずらに恐れる必要はない」と冷静な対応を求めている。

(一三) 六月二二日付け毎日新聞

(1) なぜ今年急に 感染源は……

(2) 集団食中毒が続発する理由はまだ不明のまま

(3) 気候に原因?「牛宿主」説も

(4) 海外の調査結果から宿主として牛が注目されており

(5) (集団中毒が増えた理由を)「共通の原因食品が見つからなければ、日本の自然界全体で、O一五七による汚染濃度が上がった可能性がある」、「牛が原因とすれば、牛の保菌率が上がった可能性もある」(伊藤武・都立衛生研究所微生物部長)

(6) O一五七は、国内で今回のように同時多発的に集団発生したのは初めて。被害拡大の一方、潜伏期間が長いため原因のほとんどは特定されておらず、自治体は対応に苦慮している。

(一四) 六月二九日付け読売新聞

(1) 「O一五七」空前の流行 二四都府県一六五七人

(2) 原因不明のまま 調査断念の県も

(3) 各自治体では、感染原因が特定できないため、「食物の十分な加熱」など基本的な注意以外に対策がなく、「地方単独では原因究明は困難」と国の早急な取り組みを求める声が高まってきた。

(4) (岡山県は)同様に集団発生の広島県や岐阜県と合同で共通の給食食材の追跡調査をしているが、まだ未特定だ。

(5) 多数の自治体では「疑わしい物が分からないと食品流通経路なども調べようがない」と調査を断念した県もある。

(6) 「食べ物に熱を十分加えるなど、ある程度自分で防御できる」(渡辺治雄・国立予防衛生研究所細菌部長)

(一五) 六月二九日付け朝日新聞夕刊

(1) 経口以外で感染せず

(2) 「経口以外で感染しないため、きちんと熱処理すれば予防できる。」(渡辺治雄・国立予防衛生研究所細菌部長)

(3) 「O一五七」予防六箇条

① たべものを調理するとき手を洗うなど清潔に。食肉や鮮魚は七五度以上の熱で一分間以上加熱する、② 調理の前に手や器具を減菌した水でよく洗う、③ 生水は避ける。井戸水や受水槽は要注意、④ 出血を伴う下痢をした時は、すぐにかかりつけの病院へ。乳幼児は特に注意、⑤ 患者の便を処理するとき、直接触れないようゴム手袋の着用を、⑥患者の衣服は家族と別に洗濯し、よく乾かす。

(一六) 七月一日付け毎日新聞夕刊

(1) 給食からO一五七初検出「おかかサラダ」に混入

(2) 他の食品から移る?

(3) 「かつおぶしも野菜も最初からO一五七がついていたとは考えにくい食品で、調理の過程で他の食品から菌が移った可能性が高い。疑わしいのは肉や冷凍肉を解凍した汁などだ。サラダから検出された菌がどこから来たのか調べる必要がある。」(島田俊雄・国立予防衛生研究所腸管系細菌室長)

7  行政の対応等

(一) 通知通達類

平成八年は、例年になく、O一五七が流行したため、国や大阪府などは、各種の通知通達類を出して、学校給食の衛生管理の徹底を求めていた。

当該年次の学校給食等に関する通知通達類の内容等は別紙通知通達類一覧記載のとおりである。

(二)(1) 大阪府教育委員会は、文部省からの依頼を受けて、七月二日、保健体育課長名で堺市を含む府下各市町村教育委員会学校給食主管課長及び関係府立学校長に対し、O一五七対策の実施状況の調査を依頼した。

調査内容は、① 何らかの対策を実施したか、② 給食施設の立入検査を実施したか、③ 保存食の保存期間を延長したか、④ 献立を加熱調理に変更したか、というものであった。

(2) これに対し、堺市は、①の問には「はい」と、②の問には「いいえ」、「ただし、一部学校長による立入検査を実施した」と、③の問には「いいえ」と、④の問には「いいえ」と回答した。

(3) 堺市を除く大阪府下の四三の市町村についていうと、すべての市町村において何らかの対策を実施しており、四〇の市町村で給食施設の立入検査を実施しており、三五の市町村で保存食の保存期間を延長し、大阪市を含む三五の市町村で献立を加熱調理に変更していた。

8  堺市の対応等

(一) 堺市衛生部は、厚生省から、平成八年六月六日付け衛食第一四六号、平成八年六月一二日付け衛食第一五一号、平成八年六月一七日付け衛食第一五五号の通知通達類をそれぞれ受信した。

平成八年六月六日付け衛食第一四六号を受けた衛生部は、独自に作成した食中毒予防についての文書、患者が発生した場合の措置等についての文書、また、当時の食中毒発生の新聞記事を添付した通達を関係部局あてに発信した(平成八年六月七日付け環衛第二五三号)。

その後、平成八年六月一七日付け衛食第一五五号を受けた衛生部は、市内の食品関係営業者向けに食中毒対策等をわかりやすくした文書を送付するとともに(平成八年六月一八日付け堺環衛第二八六号)、右文書と厚生省からの通達(衛食第一五五号)を添付した通達を関係部局あてに発信した(平成八年六月二〇日付け衛食第二九二号)。

また、衛生部は、万一、O一五七が発生した場合に備えて、六月二五日までに衛生研究所における検査態勢の確立、夜間休日等の職員の執務態様等の整備を行い、また、六月二六日には、食品関係団体に対してO一五七に関する講習会を実施し、さらに、七月一日付けの市の広報誌「広報さかい」にO一五七に対する食中毒の予防の広報を出した。それには、「食中毒にご注意を」との見出しのもと、O一五七への注意を喚起するとともに、「加熱・冷却=細菌は、煮たり焼いたりして加熱すれば死滅し、冷却すれば繁殖を抑えられるので、調理や保存方法を工夫する。」などの食中毒防止方法が記載されていた。

(二) 堺市教育委員会は、平成八年六月六日付け教保第二三八号を堺市立各小学校・養護学校長あてに発信した。

その後、六月一一日に堺市教育委員会は、堺市衛生部長発信の平成八年六月七日付け環衛第二五三号を受信し、また、同月一三日に大阪府教育委員会保健体育課長発信の平成八年六月一一日付け教委保第三六四号を受信した。

そして、堺市教育委員会は、平成八年六月一三日付け教保第二六五号を堺市立各小・養護学校長あてに発信した。

堺市教育委員会は、六月一八日に大阪府教育委員会教育長発信の平成八年六月一三日付け教委第三五七号を、六月二四日に堺市衛生部長発信の平成八年六月二〇日付け環衛第二九二号をそれぞれ受信し、右環衛第二九二号を受けて、平成八年六月二八日付け教保第三一八号を堺市立各小・養護学校長あてに発信した。

堺市教育委員会は、六月二五日に大阪府教育委員会保健体育課学校給食係発信の平成八年六月二〇日付け事務連絡を受信した。

堺市教育委員会は、七月二日に大阪府教育委員会教育長発信の平成八年六月二六日付け教委保第四二二号を受信した。

なお、堺市教育委員会においては、学校給食に関する通知通達類は、原則として、学校保健課長の山尾の段階で処理され、それに対する対策も、学校保健課が行っていた。

(三) 堺市児童福祉部長は、六月一九日、各保育園(所)長に対し、保護者への配布を依頼するための啓発文書を送付し、その文書には、O一五七に関し、感染経路として、「原因食品は、多種にわたりますが、汚染された食肉から他の食品への二次感染ならびに人から人への経口二次感染によっても感染する。」と記載され、食中毒予防の注意事項として、「① 清潔(菌をつけない)、② 迅速(菌を増やさない。)、③ 加熱または冷却(菌を殺してしまう、ふやさない。)、十分な加熱調理により菌を殺してしまう。冷蔵または冷凍により菌の増殖を抑える。」と記載されていた。

(四) 六月四日から七月一二日までの間に、堺市の三名の職員が小学校一八校に調理指導に赴き、調理業務上、特に注意すべき基本の内容(加熱調理の徹底、手洗いの励行、器具の消毒等)を確認し、指導した。

9  他市町村の対応

(一) 京都市教育委員会は、O一五七による集団食中毒が全国各地で続発していることから、六月二五日から一学期末までの間、市立小学校一八四校と養護学校三校につき、学校給食から生で食べる献立を外し、加熱した食品を使った献立などにすることを決定した。具体的には、トマトとキュウリのサラダをゆでキャベツとニンジンのサラダに、スイカをミカンゼリーに、冷やしそうめんをにゅうめんなどに差し替えることとした。

なお、右の京都市教育委員会の決定は、六月二五日付け全国紙に掲載された。

(二) 大阪府寝屋川市教育委員会も七月一日から当分の間、市立の小中学校や保育所での給食の献立から生ものを避けることを決定し、その旨の決定は、六月二九日付けの全国紙(夕刊)に掲載された。

(三) 七月五日の時点において、大阪府下の四四市町村のうち、大阪市を含む三五市町村が学校給食の献立を加熱調理のものに変更していた。

(四) なお、前記の京都市及び大阪市は、ともに、堺市と同様な給食協会を組織して、学校給食用物資の大規模な一括購入を行っており、また、大阪府下の四四市町村のうち、堺市と同様に給食協会を通じて食材を一括購入している市町村は三九に及んでいた。

10  本件学童集団下痢症の概要

(一) 本件学童集団下痢症の概要

(1) 七月一三日(土)午前一〇時ころ、市立堺病院から、「七月一二日の夜間診療で下痢、血便を主症状とする小学校の患者一〇名を診察した。」との通報が衛生部に寄せられた。また、同様の情報が他の医療機関からも寄せられたため、堺市当局は、学童の集団食中毒を疑って調査を始めたところ、七月一三日の時点で市内三三小学校二二五名の学童の下痢患者が受診していることが判明したため、七月一三日午後三時に環境保健局長を本部長とする堺市学童集団下痢症対策本部を設置し、情報収集、医療体制確保及び原因究明等の活動を開始した。

(2) その後、激しい腹痛、下痢、血便を訴える学童患者が急増し、七月一三日夜から一四日にかけて堺市内の急病診療センター、病院の救急外来に二千数百名が受診し、救急用ベッドが満床となったため、堺市医師会、大阪府医師会を始め市内外の医療機関に応援を要請して対応に当たり、七月一四日には、堺市衛生研究所において、有症者検便二六検体中一三検体から腸管出血性大腸菌O一五七(O一五七)が検出されたため、今回の学童集団下痢症の原因菌と断定した。その後も、患者数は、日を追って増加した。この間に厚生省、大阪府を始めとする原因究明、医療機関確保等の支援体制がもたれ、また、市民の不安解消を図るため七月一五日に医療相談ホットラインを二四時間体制で開設した。

七月一四日には、助役を対策本部長とし、さらに、七月一六日には市長を対策本部長として、全庁体制で対策に取り組んだ。

市議会も、八月二日の本会議で病原性大腸菌(O―一五七)対策特別委員会を設置した。

(3) 七月一七日ころからHUS発症患者の報告が各医療機関より寄せられた。血液透析等の高度医療を要するため転院の要請が相次ぐ一方で、HUS非発症の患者家族の不安も増大し、行政、医療機関ともに対応に苦慮する事態となった。そのため、大阪府救急医療情報センター等の全面的な協力を得て、約一〇〇名に上る重症患者の三次救急医療機関への転送を進めるとともに、夜間、休日の一次診療体制では、平常の医療体制に加え八ないし一〇病院で二四時間の診療体制を確立した。

(4) 七月二三日、HUSに罹患した一〇歳の女子児童が死亡し、また意識障害の認められる重体患者がいることが各医療機関より伝えられ、HUSの不安から血液検査、尿検査のために医療機関を受診する学童、家族が再び増大し、学童以外の感染者も出現した。

(5) 市民の不安が増大する中で二次感染防止の広報活動、公共施設の消毒、消毒液の配布、保健婦、教師による患者宅への訪問指導活動、飲用水の衛生確保の検査、無料検便等の対策を進め、一方で市内各団体によってO一五七対策啓発市民会議が設立され、安心できる市民生活を取り戻すための運動が推進された。七月二一日から開始した市民への無料検便での菌陽性者に対し、七月二七日から予防投薬等の指導を保健所で行い、七月末からは、小中学生、幼稚園児の一斉検便を実施し、菌陽性者への投薬、指導を各医療機関へ依頼し、二学期の授業再開へ向けて八月末までの全員検便と菌陽性者の陰性化に取り組んだ。

一方、治療に伴う医療費や生活費相談窓口を開設するとともに、食品産業界を中心とする経済面での深刻な影響に対し、緊急融資を始めとする対策を展開し、また、人権に対する問題が発生したため、人権問題対策プロジェクトチームを設置して正しい知識の普及に努めた。

(6) 八月六日には、腸管出血性大腸菌感染症が指定伝染病に指定され、人権上の配慮から伝染病予防法の一部の規定に限定して適用することになった。

(7) このような状況のなか、重症患者にもようやく回復の兆しがみえ、患者数も日を追って減少してきたが、八月一六日に重体であった一二歳の女子児童(佐代子)が死亡した。

(8) 市民の不安を解消し、二学期の授業を落ち着いた状況で始めるために保護者に対する説明会を各小学校において開催し、本件学童集団下痢症の経緯の説明、学校内での二次感染防止対策、学校給食の改善策等を説明した。八月末には、学童の一斉検便もほぼ全員終了し、九月二日から通常通り二学期の授業が開始された。

(9) 市民生活も徐々に落ちつきを取り戻し、重症患者も九月末にはほとんど退院したことから、今回のO一五七による集団下痢症に関しては、二次感染の恐れも去ったと判断して、堺市は、一一月一日に安全宣言を行い、同日、原因究明の調査結果を発表した。

(10) 学校給食の再開については、学校給食検討委員会において検討し、九月二四日からは弁当持参とし、施設設備、食材、献立の当面の安全対策を行い、すべての食材を加熱調理する献立として、一一月一九日から再開したが、弁当の持参も容認していた。

(11) 補償については、一一月一四日に学童集団下痢症補償対策室を設置し、一二月から全庁体制で補償交渉に取り組んだ。

(12) 平成九年二月一日に、重体で入院中の七歳女児が死亡し、本件学童集団下痢症による死亡者は三名となった。

(13) 後遺症については、堺市医師会、関係各医療機関の協力を得て、平成九年二月から経過観察のための検診を開始している。

(二) 患者数等

学校給食によるO一五七の罹患が確実であると判断された患者の人数は、計九四九二名で、その内訳は、多発校学童・教職員七九三六名、多発校学童・教職員の家族一一八〇名、一般市民三七六名であった。

なお、患者数については、前記九四九二名以外に学童三名、教職員二七名、一般市民一名の市外居住者が存在し、これらを含めると患者総数は九五二三名となる。

上記のうち、菌陽性者は一八八九名、入院患者は七九一名(多発校児童・教職員六六八名、多発校児童・教職員の家族六〇名、一般市民六三名)であった。また、入院患者のうちHUS発症者は一二一名(多発校児童一〇六名(死者三名を含む。)、多発校学童家族八名、一般市民七名)であった(平成九年八月時点の調査 なお、多発校とは、各学校の学童患者数が、出席学童数の五%以上であった学校をいう。)。

11  本件学童集団下痢症の原因について

(一) 調査方法等

(1) 七月一三日の情報の入手後、堺市は、直ちに食品衛生監視員に召集をかけ、初動調査を開始した。まず、患者の症状、年齢層、地域分布等を調査する一方、原因究明のため、医療機関に吐物、便等の採取を指示した。

有症者がほとんど学童に集中していたことから、対策本部は、学校関係者から共通の行事、給食以外の共通の食品の提供、給水の状況、給食システム等について事情調査を行う一方、各種資料の提出を求め、検討を行った。また、七月一二日以前に、各発生校共通の行事や学校給食以外の共通の食品がないことから、学校給食か水による細菌性中毒の可能性が高いと判断し、原因究明のため調理場への立入禁止並びに保存食の採取の開始、翌一四日からは調理場のふき取り検査、使用水の水質検査等を実施していった。

(2) 原因食品を喫食した日の特定及び原因食品を推定するために、給食の保存食等の検査と並行して、喫食者全員について食中毒調査票に基づいて喫食調査が行われた。食中毒調査票による調査は、学校給食を喫食した児童、教職員・調理従事者等学校関係者、保護者を対象に実施された。

また、児童、教職員の検便も行われ、さらに、食材の流通状況等についても調査が行われた。

(二) 各種調査結果の概要

(なお、以下に出てくる数字等は、厚生省病原性大腸菌O―一五七対策本部が平成八年九月二六日に発表した「堺市学童集団下痢症の原因究明について(調査結果まとめ)」に依拠する。また、本項については、特段の断りのない限り、平成八年七月のこととする。)

(1) 地区別、学校別の発生状況

一六日までに報告された受診者及び入院者は学童及び教職員に限られており、一六日時点における堺市全域の学童の有症者数は六一七八名、受診者数は四六九八名、入院者数は四九七名で、中地区では一三校すべてで有症者及び入院者が発生し、平均発症率は18.3%(学校別では最小4.3%、最大29.3%)、南地区では一校を除き二一校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は27.0%(学校別では最小〇%、最大36.5%)、北地区では一六校中九校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は10.6%(学校別では最小〇%、最大36.7%)、東地区では九校中五校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は12.7%(学校別では最小〇%、最大30.8%)、堺地区では入院者はなく、一七校中五校で有症者が発生しているものの、平均発症率は0.2%(学校別では最小〇%、最大0.9%)、西地区でも入院者はなく、一四校中七校で有症者が発生しているものの、平均発症率は0.5%(学校別では最小〇%、最大2.0%)であった。

以上のとおり、中地区及び南地区では地区内のほとんどの学校で有症者及び入院者が発生し、北地区及び東地区では、有症者及び入院者の発生校及び非発生校が混在し、堺地区及び西地区では他の地区と比較して有症者が少なく、入院者もいなかった。

(2) 有症者について

① 学童の地区別の症状及び発症日

中・南地区及び北・東地区の症状は、堺・西地区の症状と比較すると頻回の下痢及び血便の発生が顕著であり、中・南地区及び北・東地区とも初発は一〇日ごろ、発生ピークは一二日であった。堺・西地区の発生ピークは明らかでなく、散発的な傾向を示した(なお、有症者とは、入院者を除き、調査対象期間に、腹痛、下痢、発熱、嘔気、嘔吐等の症状を有したものであり、医療機関の診断を受けていない者も含む。)。

② 教職員の地区別の症状及び発症日

教職員は堺市全体で九二名の有症者が発生していたが、堺・西地区は発生がなく、中・南地区及び北・東地区では、ほとんどが一二日から一五日の間に発生していた。また、中・南地区及び北・東地区のいずれにおいても、下痢、嘔吐の回数が学童より少なく、症状は学童に比較して全般に軽かった。

③ 有症者の学校別の出欠状況

原因食品の喫食日は有症者の多くが出席していると考えられるため、堺市教育委員会から提供があった学校の出席簿の写しに基づき、一六日現在で有症者が五〇人以上発生した学校のうち、有症者の多発した中・南地区(二七校)及び北・東地区(一二校)における一日から一〇日までの間の有症者の出欠状況を調査した結果は、次のとおりである。

有症者の欠席数は、一日平均、中・南地区で一一〇人、北・東地区で三二人であり、欠席した人数が比較的少ない日は、中・南地区では九日(一八名)、一〇日(三五名)であり、北・東地区では八日(一一名)、一〇日(一八名)であった。中・南地区の九日の欠席者一八名については、中地区の六名の欠席者はいずれも発症日が九日以前であり、南地区の欠席者一二名の内訳は、健康者五名、実際は出席していたとした者が二名、発症日が九日以前の者が四名、発熱のみの者が一名であった。北・東地区の八日の欠席者一一名については、北地区の三名の欠席者の内訳は健康者が一名、発症日が八日の者一名、実際は出席していた者が一名であった。東地区の八名の欠席者の内訳は健康者が一名、発症日が八日の者が一名、発症日が不明の腹痛の者が一名、他の五名は一二日以降に発症しており、その内訳は、水様便一回/日の者が一名、水様便三回/日の者が一名、腹痛下痢の者が一名、嘔吐発熱の者が一名、症状不明の者が一名であった。なお、このうち、医療機関で受診した者は水様便三回/日の者一名であった。

また、一部の学校において校外学習等の学校行事のために学校給食の喫食機会がなかった日は、六日(土)及び七日(日)を除くと、中・南地区では一日から七日までの五月間、北・東地区では八日以外の七日間である。したがって、中・南地区で全校で給食が行われているのは八日、九日及び一〇日、北・東地区では八日であった。

(3) 入院者について

入院者が発生した中・南地区及び北・東地区の食中毒調査票による調査結果は次のとおりであった。なお、堺・西地区では一六日まで入院患者はいない。

① 入院者の地区別の症状

入院者の主な症状は、いずれの地区でも同様の傾向を示しており、おおむね下痢、腹痛、発熱、嘔気、嘔吐の順であった。また、いずれの地区においても入院者の下痢便の症状は血便、水様便が多く、有症者の性状の分布と異なっていた。入院者のなかで下痢の回数が一二回/日以上であったのは、中・南地区では、44.6%、北・東地区では39.5%であった。

② 入院者の発症日分布

入院者の発生ピークは、有症者の発生ピークと類似し、中・南地区で一二日、北・東地区で一一日であった。中・南地区での発症日分布は一二日をピークに対称に近いが、北・東地区の発症日分布には右に裾を引いており、立ち上がりが急であった。また、両者の平均の差は、0.60日であった。

③ 入院者の欠食状況

入院者のほぼ全員がO一五七感染者とすると、原因食品の喫食日には入院者のほぼ全員が給食を喫食していると考えられるため、一日から一〇日までの間の入院者の給食の欠食状況を調査した結果は、以下のとおりであった。

中・南地区においては、九日のみ欠食者が〇名であり、北・東地区においては、八日のみ欠食者が〇名であった。入院者の一部が校外学習に参加して給食を喫食していない日は、中・南地区においては、一日、二日、三日、四日及び五日であり、北・東地区においては一日、二日、三日、四日、五日及び九日であった。

(4) 給食について

① 給食システム・輸送状況

堺市では、市内を堺地区、西地区、北地区、東地区、中地区、南地区の六地区に分割し、堺と西、北と東、中と南の地区では共通の献立で給食を提供していた。献立は、三か所とも異なる場合、二か所が同じ場合、三か所とも同じ場合があった。堺市の給食は自校調理方式をとっており、食材は給食協会が登録業者(納入業者)に発注していた。登録業者は購入した食材を堺地区の運送業者に学校毎に小分けにして搬入し、当該運送業者が各学校に搬送していた。なお、牛乳、パン、卵、委託米飯は、登録業者が直接学校に搬入していた(委託米飯についてはパンの搬入ルートによる。)。運送業者から学校の調理施設まで食材を搬送する際の冷蔵、冷却システムはなく、調理施設においても検食用の冷蔵庫及び牛乳用の冷蔵庫のみが設置されていた。また、食材の運送業者及び調理施設への受入れ時における衛生状態の点検等の検収は行われておらず、給食協会は登録業者に対して衛生管理のための定期的な自主検査結果の提出も求めていなかった。なお、教育委員会及び給食協会は六月二六日に食肉に係るO一五七の検査を実施したほか、夏期においては他の食中毒菌の検査を実施していた。

② 調理状況

発生校八校、非発生校五校を対象として行った調理状況の調査は以下のとおりであった。

七月一日から七月一〇日までの調理状況について調理従事者から聞き取り調査を行った結果、調理はほぼマニュアルどおりの方法で調理が行われていた。食肉は凍結前に予め細切りされて納入されており、別に設けられた下処理室で解凍を行っていた。調理従事者の業務交代の際は、手指の洗浄、消毒を行っているとのことであった。手洗いはトイレ、下処理室、調理室に設置されており、石鹸、爪ブラシ、消毒液が備えられていた。まな板は加熱調理用及び非加熱調理用に分けられていた。

調理従事者は三八二名であり、うち二六九名が調理師免許を取得していた。

堺市初等教育研究会栄養部会が作成した「調理の手引き」では食材の取扱いについては、詳細に記載があるものの、調理従事者の手指の洗浄消毒については、学級毎に小分けする配缶の部分に記載があるのみであり、個別の調理過程における記載はなかった。

研修については、新規採用者を対象に年一度、また調理従事者全員を対象として年一度実施されており、その際、食中毒防止の基本事項について周知を図っていた。

なお、平成八年度については、教育長から六月六日、一三日、一九日及び二八日付けで市立小・養護学校長あてに、衛生管理の徹底についての通知がされていた。

(5) 喫食状況について

① 地区別喫食状況

中・南地区、北・東地区及び堺・西地区の各地区の学童の食中毒調査票集計に基づく献立毎の欠食率及びカイ二乗検定の結果を健康者と有症者及び健康者と入院者(堺・西地区を除く。)で比較した結果は次のとおりであった(なお、カイ二乗検定とは、各メニュー毎に喫食した人と喫食していない人の発症率を比較し、両者の発症率に統計学的な有意差が認められるか否かを推定する検定方法であり、危険率は観測された差が偶然に起こる確率(この場合、原因食材であるという仮説が間違いである確率)のことであり、通常、危険率が五%以下ならば、統計学的に有意な差であるとされている。)。

ア 健康者と有症者の比較

中・南地区では、有症者の欠食率が低い献立は九日の冷やしうどん(1.6%、一〇二名)、牛乳(2.0%、一二七名)及びウインナーソテー(2.6%、一六四名)であった。カイ二乗検定においては、ほとんどの献立において危険率五%以下で有意差が認められた。

北・東地区では、有症者の欠食率が低い献立は九日のカレーシチュー(2.0%、三四名)、八日の牛乳(2.6%、四七名)及び八日のはるさめスープ(2.8%、五〇名)であった。カイ二乗検定においては、一日、八日、九日及び一〇日(すまし汁のみ)の献立において危険率五%以下で有意差が認められた。

堺・西地区では、有症者の欠食率の特に低い献立は認められなかった。カイ二乗検定においては、いずれの献立においても有意差は認められなかった。

イ 健康者と入院者の比較

中・南地区では、入院者の欠食率が低い献立は九日の牛乳(0.7%、二名)及び冷やしうどん(1.3%、四名)、並びに八日の牛乳(2.0%、六名)であった。カイ二乗検定においては、一日のカレーライス及び牛乳、四日の五目冷めん、九日の牛乳及び冷やしうどんにおいて危険率五%以下で有意差が認められた。

北・東地区では、入院者の欠食率が低い献立は八日の牛乳及びとり肉とレタスの甘酢和え(いずれも〇%、〇名)であった。カイ二乗検定においては、一日の牛乳及び肉じゃがにおいて危険率五%以下で有意差が認められた。

② 給食試食者の発症日、症状、喫食の状況

四日に南地区の原山台小学校及び福泉中央小学校並びに北地区の大泉小学校において、五日に北地区の百舌鳥小学校において保護者の給食の試食会が行われ、二〇〇名が喫食したが、原山台及び百舌鳥の両校において四日から二一日までの間に有症者が九名発生したが、その九名の検便結果は、いずれも、O一五七は陰性であった。なお、福泉中央小学校及び大泉小学校においては、有症者の発生はなかった。

(6) O一五七の検索について

堺市の学校給食の一日から一〇日までの献立にかかる食肉、野菜等を中心とした関係施設の食材等について、八月二八日までの間に一六二六検体を検査したが、O一五七は検出されなかった。

① 検食調査

各小学校に保存されていた七月八日から一二日までの間の検食一九〇食、うどん、枝豆等の単品二三検体、一〇日から一二日までの間の牛乳一三検体について検査を行った結果、O一五七は検出されなかった。

② 食材調査

一日から一〇日までの学校給食の献立において用いられた食材の流通経路に関し、一四日以降、市内分六五五検体及び市外分二九五検体について検査を行ったが、O一五七は検出されなかった。

③ 施設等検査

学校給食施設、食肉処理施設等の調理器具、使用水、排水等について市内分二七五検体、市外分四〇一検体について検査を行ったが、O一五七は検出されなかった。

④ 食品取扱者検便検査

調理従事者の検便検査の結果は、総数三八二名のうち九名がO一五七陽性であった。

(7) 関連事項

① 水道、受水槽関係

ア 堺市は大阪府営水道から三〇万トン/日の供給を受けており、枚方市の村野浄水場から市外の美陵ポンプ場を経由して泉北浄水池を経て岩室配水場、晴美台配水場、陶器配水場及び桃山台配水場を経由するルート(計約八〇%)と家原配水場及び浅香山配水場を経由するルート(計約二〇%)で供給されている。

イ 七月初旬ころに水道水の汚染につながる工事等は実施されていなかった。

ウ 受水槽の設置校七二校すべてにおいて、水道水中にO一五七は検出されなかった。また、直接給水二〇校のうち検査を実施した七校については、蛇口における残留塩素濃度は基準値以上であった。

② 気象調査

一日から一〇日までの大阪府堺地区の最高気温30.8℃(三日)、平均最高温度27.6℃、最低気温18.3℃(七日)、平均最低気温20.6℃であり、雨量は七日に三二㎜、八日に三一㎜であった。

(三) 発生の原因

(なお、発生の原因の分析については、入院者の調査結果を中心とする。)

(1) 発生の時期及び範囲

① 一二日夜半から多数の学童の下・痢等の有症者が医療機関で受診しているが、入院者の発症日については、九日以前の発症者が二名いるものの、明確な有症者の増加は一〇日以降であり、発生のピークは北・東地区で一一日、中・南地区ではそれより半日程度遅く、一二日である。

② 堺地区及び西地区は有症者数が他の四地区に比べて極端に少なく、下痢の性状、回数等の症状パターンもこれらの地区と異なり、西地区の一名を除いては一六日までにO一五七感染者は発見されておらず、他の四地区とは様相を異にしている(この学童一名は、七月一六日発症、一七日血便、一九日検便陽性であり、同小学校から他に発生のないことから二次感染を含む散発事例と考えられる。)。堺・西地区については、O一五七陽性者はこの学童一名であり、かつ、通常時においても年間を通じて学童の一ないし二%は何らかの症状を示していることなどから、堺地区(有症者一五名(0.1%、一校あたり0.88名))、西地区(有症者三七名(0.3%、一校当たり2.6名))は、本件学童集団下痢症の発生範囲に含めずに検討する。

③ 堺・西地区以外の地域でも有症者及び入院者の発生がない南地区の一校、北地区の七校、東地区の四校は非発生校として取り扱う。また、北地区の大泉小学校においては、有症者二名(0.5%)であり、また、入院者は発生していないことから、②と同様の理由で本校も非発生校として取り扱う。

(2) 発生原因の推定

本件学童集団下痢症は、堺市の三分の二の地域において発生し、有症者の多くが学童であったことなど、発生の態様からすれば、直接的な原因として、水道、学校給食が考えられる。

しかし、水道については、府営水道が府下の他市と同様に市の全域に供給されていること、受水槽の設置の有無にかかわらず、発生校が分布していること、七月初旬に大規模な水道工事が行われていないこと、残留塩素濃度の調査結果に問題が無いことなどからすれば、水道が本件学童集団下痢症の原因であったとは考えがたい。

一方、有症者、受診者及び入院者の発生状況、発症日が中・南地区、北・東地区、堺・西地区とそれぞれ学校給食が共通の献立となっている地域毎に特徴があることからすれば、本件学童集団下痢症の原因は、学校給食に起因するものと考えるのが相当である。

さらに、中・南地区と北・東地区の食中毒の原因については、両地区の有症者の検便から検出されたO一五七のDNAパターンから、感染源が同じである可能性が高い。

(3) 原因献立の推定

① 入院者の出欠状況から原因食喫食日の推定

中・南地区においては一日から八日に校外学習(給食なし)を実施しており、校外学習に参加した学童にも入院者がいることからすれば、これらの日の給食が原因である可能性は低い。また、一日から一〇日までの欠席状況についてみるに、入院者の全員が出席した日は、中・南地区においては九日であり、有症者についても、九日の欠席者数が最も少なく、これらの欠席者については、発症日、症状等からO一五七感染者である可能性は低い。したがって、中・南地区においては九日が原因食を喫食した日である可能性が極めて高い。

北・東地区においては八日以外の日に校外学習を実施しており、校外学習に参加した学童も発症し、入院者もいることから、これらの日の給食が原因である可能性は低い。また、一日から一〇日までの欠席状況についてみるに、入院者の全員が出席した日は、北・東地区においては八日であり、有症者についても、八日が欠席者が最も少なく、これらの欠席者については発症日、症状等からO一五七感染者である可能性は低い。したがって、北・東地区においては八日が原因食の喫食日である可能性が極めて高い。

② 喫食調査からの原因献立の推定

健康者と入院者の比較からは中・南地区では、八日及び九日の牛乳並びに九日の冷やしうどんのほか、一日の牛乳及びカレーライス並びに四日の五目冷めんが疑われる。また、北・東地区では、八日の牛乳及びとり肉とレタスの甘酢和えは入院者全員が喫食していることからこれらが強く疑われる。なお、健康者と有症者の比較からも、中・南地区での入院者との比較と同様に、九日の冷やしうどん及び牛乳が疑われたが、北・東地区では入院者との比較からとは異なり八日の牛乳及びはるさめスープ並びに九日のカレーシチューが疑われた。

③ 以上①及び②等からすれば、最も疑われる献立は、中・南地区では九日の牛乳及び冷やしうどん、北・東地区では八日の牛乳及びとり肉とレタスの甘酢和えである。

(4) 汚染の可能性

① 食材の生産・加工・流通過程

食肉及び生野菜(湯通し、水洗い等の処理で喫食する野菜)について、市外も含め関係施設に立ち入り、関係食材の検査を行った結果、O一五七は検出されなかった。なお、給食協会が納入業者から衛生管理に係る自主検査結果の提出を求めておらず、検収もしていなかったので食材の衛生状態は確認できなかった。

② 食材の搬送等

運送業者から学校へ搬送する業者の所有する食材運搬車からはO一五七は検出されなかった。また、運送業者から学校調理施設までの流通経路については、給食提供までの間、牛乳を除く食品の冷蔵、冷凍設備がないため、O一五七がその間にも増殖している可能性がある。

③ 調理過程

調理過程については、いずれの施設においても食材の取扱に大きな問題は認められず、食肉類は他の食材とは別に処理が行われており、発生各校で同時に調理施設において食肉類から他の食材が汚染される可能性は低いと考えられる。また、加熱処理については調査対象全校において、調理マニュアルで加熱が指示されているものについては、加熱が実施されており、調理の過程における加熱処理の不備の可能性は低いと考えられる。なお、調理従事者の検便検査において九名(八校)の保菌者が発見されたが、自校調理方式にもかかわらず発生校が広範囲に分布していること、調理従事者も給食を喫食しているため原因となった給食から感染している可能性があること、保菌者が在職している学校以外でも発生していることを考慮すれば、調理従事者による汚染が本件の直接の原因とは考えられない。いずれにしても自校調理方式にもかかわらず発生校が広範囲に分布していることも考慮すると、発生各校の調理施設内に原因があるとは考えにくい。

(5) 原因食材の検討

① 中・南地区の九日の献立は、パン、牛乳、冷やしうどん及びウインナーソテーであり、冷やしうどん(食材は、干しうどん、鶏卵、塩、油、焼き蒲鉾、にんじん、きゅうり、貝割れ大根、砂糖、ほんみりん、醤油、削り節、だし昆布、もみのり)に含まれていた非加熱食材は、焼き蒲鉾、きゅうり、貝割れ大根であった。

② 北・東地区の八日の献立は、パン、牛乳、とり肉とレタスの甘酢和え及びはるさめスープであり、とり肉とレタスの甘酢和え(食材は、冷皮びきかしわ、醤油、料理酒、小麦粉、片栗粉、油、白ねぎ、土しょうが、酢、砂糖、ゴマ油、レタス、貝割れ大根)に含まれていた非加熱食材はレタス及び貝割れ大根であった。

③ したがって、牛乳のほか、最も疑われる献立に含まれていた共通の非加熱食材は、貝割れ大根となる。牛乳については、殺菌処理がされていたこと、複数の施設から納入され、発生校、非発生校の分布と納入元の分布が合致しないことから、原因食材とは考え難い。

④ 貝割れ大根については、同一生産施設で生産されたものが八日、九日及び一〇日に納入されている。その内訳は、北・東地区の八日の給食には五日及び七日に出荷されたもの、中・南地区の九日の給食には八日及び九日に出荷されたもの、中・南地区の一〇日の給食には九日及び一〇日に出荷されたものが使用されていた。

(6) 特定の生産施設の貝割れ大根のO一五七汚染の可能性

① 特定の生産施設の調査

八日に北・東地区へ、九日及び一〇日に中・南地区へ貝割れ大根を納入した生産施設に関して、施設内の汚染源を確認するため、大阪府が施設内の井戸水、排水、種子、種子の培養液、貝割れ大根等について七月二四日に一四検体、八月八日に従事者の検便を加え六四検体、合計七八検体について検査を行った結果、O一五七は検出されなかった。また、当該生産施設外の周辺の環境からの汚染の有無の可能性を確認するため、河川水、水路水等について、八月一二日に五六検体、一三日に二検体、一四日に三検体、一五日に二一検体、一六日に三検体のほか、河川流域の飼養牛の糞便一一七検体、畜産農家等の畜舎排水一二検体、合計二一四検体についても検査を行った結果、O一五七は検出されなかった。

② 貝割れ大根の種子の検査

貝割れ大根がO一五七に汚染されていたと仮定した場合、その汚染源について、生産施設及びその周辺環境以外に考えられるものとして、種子が疑われる。当該貝割れ大根生産施設において平成八年七月上旬に使用された種子は、平成七年北米で生産され、平成八年一月に輸入され、当該施設に六月下旬に納入されたものであった。当該施設で七月上旬に使用された種子と同時に輸入された同一の生産農場の種子二件及び同時に輸入された生産農場の異なる種子五件について検査を行った結果、O一五七は検出されなかった。また、同じ頃に北米から輸入された他の生産農場の種子についても検査を行った結果、六件中一件から大腸菌は検出されたものの、全検体からO一五七は検出されなかった。

③ 貝割れ大根のO一五七汚染メカニズム及び保管条件の影響

ア 貝割れ大根のO一五七汚染メカニズム

貝割れ大根について、生産過程においてO一五七に汚染されるメカニズムに係る実験を三機関(国立衛生試験所、国立予防衛生研究所、女子栄養大学)で行ったところ、根部にO一五七菌液が接触することにより、上部に汚染が拡大することが確認され、栽培水が汚染されていれば、O一五七に汚染される可能性が認められた。

イ 貝割れ大根の保管条件の影響

O一五七に汚染された貝割れ大根が温度管理をされずに長時間放置された場合、食品衛生上の問題が発生する可能性があることが認められた。

(7) 中・南地区及び北・東地区の発生差等の原因の検討

本件学童集団下痢症においては、中・南地区では一校を除き、全校が発生校となっていたのに対し、北・東地区では二五校中一四校が発生校となっていたこと、北・東地区の発生校である金岡南小学校で調理したとり肉とレタスの甘酢和えの配送先の大泉小学校が非発生校となっていたことなどの特徴が見られるが、これらの原因は以下のとおり推認することができる。

① 中・南地区及び北・東地区の発生差の検討

ア 北・東地区で八日に喫食された貝割れ大根は特定の生産施設から五日及び七日に出荷されたものであり、五日出荷分は卸業者の冷蔵庫で保管され、七日夜に出荷されたものとともに同一納入業者から八日の早朝に運送業者に納入された。堺市の学校給食に納入された五日出荷分と七日出荷分の構成比は不明であるが、後述の関連事例に関係した貝割れ大根の出荷日が七日であることを勘案すると、五日の出荷分の貝割れ大根がO一五七に汚染していなかったとすれば、北・東地区に発生校と非発生校が混在する原因のひとつと考えられる。

イ 調理状況結果を分析すると、北・東地区の八日の献立がとり肉とレタスの甘酢和えであり、とり肉の唐揚げ、加熱したたれ、レタス及び貝割れ大根を和える調理工程において、とり肉の唐揚げ及びたれの放冷時間並びにこれらと貝割れ大根及びレタスを和える順番が各校ごとに異なっていた。唐揚げ又は加熱したたれを加熱後間もなく貝割れ大根と和えた学校においては、余熱によりO一五七が減少し、このような調理方法の違いが北・東地区の発生校の分布及び発症者率に影響している可能性がある。なお、中・南地区の九日の献立は、冷やしうどんであり、ゆでためんは水道水で冷却していることから調理による影響は考えにくい。

② 発生校で調理された献立を喫食した他の学校において発生が見られなかった原因の検討

金岡南小学校の調理施設においては、調理施設が工事中である大泉小学校の給食も調理していたが、大泉小学校では有症者が発生せず、金岡南小学校では有症者が発生した。金岡南小学校では唐揚げを先に調理するとともに、二校分のたれを調理して、大泉小学校分については、先に配送するため、たれを調理した一五ないし二〇分後に貝割れ大根及びレタスを加え、唐揚げを和えていた。このため、貝割れ大根がO一五七に汚染していたとしても、たれの温度により殺菌されていた可能性がある。一方、自校分については、約八〇分後、たれが冷めたのち、貝割れ大根及びレタス、唐揚げを和えたため、O一五七は殺菌されなかった可能性がある。

③ 晴美台東小学校が中・南地区で唯一の非発生校である原因の検討

中・南地区で唯一の非発生校である晴美台東小学校においては、貝割れ大根を調理後三時間水道水に浸漬していたとのことであった。貝割れ大根を三時間水道水に浸漬したものと室温で放置したものについて、生菌数を比較したところ、水道水に浸漬した場合、生菌数の減少効果が見られた。水道水による生菌数の減少効果がO一五七の最小発症菌量のレベルにおいても生じるとすれば非発生の理由のひとつと考えられる。

④ 中・南地区の入院者が九日の冷やしうどんを喫食せずに発症した理由の検討

中・南地区の入院者のうち、九日の冷やしうどんを喫食していない四人が九日及び一〇日に出荷された特定の生産施設の貝割れ大根が使用されていた一〇日のとり肉とレタスの甘酢和えを喫食していたか否かを調査したところ、喫食した者二名、甘酢和えのレタスを喫食した者一名、不明一名であった。

(四) 関連事例の調査結果

(1) 本件学童集団下痢症の発生と同時期に発生した大阪府下の老人ホームのO一五七食中毒事例で七月九日の昼食の献立に堺市の事例と同じ特定の生産施設から七月七日に出荷された貝割れ大根が含まれていた。

また、右事例の有症者から検出されたO一五七のDNAパターンは、堺市の小学校の有症者から検出されたO一五七のDNAパターンと一致した。

(2) 七月一八日に京都市内の事業所で集団給食施設において発生したO一五七感染事例で七月一一日の昼の献立に堺市の事例と同じ特定の生産施設から七月九日に出荷された貝割れ大根が含まれていた。

また、右事例の有症者から検出されたO一五七のDNAパターンは、堺市の小学校の有症者から検出されたO一五七のDNAパターンと一致した。

(3) その他、大阪市内の病院及び事業所のO一五七感染事例において、堺の事例と同一の生産施設が七月八日に出荷した貝割れ大根を喫食した有症者から検出されたO一五七のDNAパターンが堺市の小学校の有症者から検出されたO一五七のDNAパターンと一致した。

(4) 堺市の事例の生産施設からの貝割れ大根の出荷状況

① 当該生産施設では、七月一日から一五日までの間に計24.6トンの貝割れ大根を二四か所の一次卸業者に出荷し、最終的に納入された販売施設は九六七か所(二府五県)あることが確認された。

② これらの販売施設のうち九五八施設について販売実績及び散発事例の調査を行ったところ、このうち一〇施設について一三名のO一五七陽性者が購入した施設であることが確認された。

(五) 結論

(1) 以上からすれば、本件学童集団下痢症の原因は、中・南地区では九日の学校給食、その中でも冷やしうどん、北・東地区では八日の学校給食、その中でもとり肉とレタスの甘酢和えであると認めるのが相当である。

(2) 以上の調査結果からすれば、いかなる汚染源から、いかなる汚染経路を経て汚染されたのかについて特定するに足りる明確な証拠はないが、①入院者が全員出席した日が中・南地区で九日、北・東地区で八日のみであること、② 喫食調査の結果からも八日及び九日の両日の献立が疑われ、共通の非加熱食材が特定の生産施設の貝割れ大根のみであること、③ 実験により貝割れ大根の生産過程におけるO一五七による汚染の可能性があること及び保管の過程における温度管理の不備により食品衛生上の問題が発生する可能性が示唆されたこと、④ 中・南地区及び北・東地区の有症者のO一五七のDNAパターンが一致したことなどを総合的に判断すれば、本件学童集団下痢症の原因食材としては、特定の生産施設から七月七日、八日及び九日に出荷された貝割れ大根が最も可能性が高いということができる。

12  厚生省、大阪府及び堺市等の調査結果

(一) 厚生省、大阪府及び堺市は、八月七日、本件学童集団下痢症に関する中間報告において、「特定の生産施設の貝割れ大根について、原因食材としての可能性も否定できないと思料される。」旨発表した。

(二) 厚生省病原性大腸菌O―一五七対策本部は、九月二六日、「堺市学童集団下痢症の原因究明について(調査結果まとめ)」と題する調査結果を発表し、本件学童集団下痢症の原因として、「汚染源、汚染経路の特定はできなかったが、① 入院者が全員出席した日が中・南地区で九日、北・東地区で八日のみであること、② 喫食調査の結果からも八日及び九日の両日の献立が疑われ、共通の非加熱食材が特定の生産施設の貝割れ大根のみであること、③ 実験により貝割れ大根の生産過程におけるO一五七による汚染の可能性があること及び保管の過程における温度管理の不備により食品衛生上の問題が発生する可能性が示唆されたこと、④ 中・南地区及び北・東地区の有症者のO一五七のDNAパターンが一致したこと、⑤ 同時期に発生した集団事例において、七月七日及び九日に出荷された特定の生産施設の貝割れ大根が献立に含まれており、かつ、有症者から検出されたO一五七のDNAパターンが堺市のものと一致したこと、その他の分析結果を含め、総合的に判断すると、本件学童集団下痢症の原因食材としては、特定の生産施設から七月七日、八日及び九日に出荷された貝割れ大根が最も可能性が高いということができる。」旨、結論づけた。

(三) 堺市学童集団下痢症対策本部は、一一月一日、「堺市学童集団下痢症の原因究明について」と題する調査結果を発表し、本件学童集団下痢症の原因として、「①原因献立については、入院患者が全員出席した日が北・東ブロックが八日、中・南ブロックが九日のみであること、② 喫食調査の結果からも八日及び九日の両日の献立が疑われ、それらの共通の非加熱食材が特定の生産施設の貝割れ大根のみであること、③ 中・南地区ブロック及び北・東ブロックの有症者の便から検出されたO一五七のDNAパターンが一致したことを確認した。ただ原因究明プロジェクトによる各種調査及び検査の結果を検討したが、すべての検体から原因菌が検出されなかったため原因食材の断定にはいたらなかった。」旨、結論づけた。

なお、後述の「堺市学童集団下痢症に関する臨床医学・疫学調査研究会」は、「堺市学童集団下痢症報告書(腸管出血性大腸菌O一五七による集団食中毒の概要)」と題する報告書の第四部「臨床医学・疫学調査研究会の報告」において、疫学的な調査の結果、本件学童集団下痢症の原因としては、北・東地区では、七月八日の学校給食、中・南地区では七月九日の学校給食であると考えて矛盾はない旨結論付けた(なお、右研究会は、それ以上に、原因食材についての調査はしていない。)。

13  その後の経緯及び堺市の対策等

(一) 本件以後、堺市は、学校給食の衛生管理を徹底し、その安全性を早急に確立する方策について検討するために、PTA、学校医、学校薬剤師、保健所、衛生研究所等の専門職員、小学校職員及び教育委員会学校給食関係職員で構成する「堺市学校給食検討委貝会」を設置した。そして、右委員会は、審議の結果、九月一九日、安全な献立作成、食材の購入、配送、保管、調理設備、調理方法その他学校給食の安全確保に関し、「当面の安全対策について」と題する提言を教育長あてに提出した。

そのなかで、献立については、すべての食材を加熱調理する献立にすることが提言された。

(二) 一〇月、堺市医師会や大阪大学医学部公衆衛生学教室を始めとする専門家の参加を得て、「堺市学童集団下痢症に関する臨床医学・疫学調査研究会」を設置した。

そして、堺市学童集団下痢症対策本部は、平成九年八月、「堺市学童集団下痢症報告書(腸管出血性大腸菌O一五七による集団食中毒の概要)」と題する報告書を発表した。

(三) 大阪府教育委員会は、平成九年六月、公立小中学校の給食の在り方について、弁当持参との選択制も視野に入れて検討する懇話会を作る方針を固め、堺市も、同様の懇話会を平成九年七月中に発足させることを決定した。

(四) 堺市衛生部は、平成九年八月、大規模集団食中毒、感染症等の未然防止、拡大防止及び医療確保等のための職務上の管理方法として「食中毒及び感染症等対策基本指針」を作成した。

14  本件以後の堺市の学校給食に関する主な安全対策実施状況

本件以後、堺市は、学校給食に関し、以下の各点について改善を行った。

(一) 本件事故後、平成八年一一月一九日の学校給食再開に向けての改善点

(1) 食材・献立関係

① 従来の三ブロックから六ブロックの献立への変更、② 食材の分割発注及び細菌等検査の徹底、③ 食品専用車による配送、④ 食材の前日午後納入、⑤ 衛生管理マニュアルの徹底(下処理室と調理室の調理器具の区別、食材の加熱調理、熱湯、アルコール消毒、保存食の保管)

(2) 施設・設備関係

① 冷凍・冷蔵庫設置、② 保存食用の冷凍庫設置、③ 包丁・まな板殺菌庫の設置、④ 中心温度計の配備、⑤ 消毒器具・薬品の配備、⑥ 調理用器具類の増配備、⑦手洗い設備の改善

(3) 安全管理体制関係

① 献立責任は学校保健課(新たに保護者参加)、② 物資購入委員会に新たに衛生部・保護者参加、③ 調理担当者による立会検収の徹底、④ 調理担当者及び学校栄養職員研修会の開催、⑤ 「堺市学校給食検討委員会」の設置及び審議、⑥ 「堺市学校給食管理委員会」の設置及び審議

(二) 学校給食再開後(平成九年一月から平成九年三月)の改善点

(1) 食材・献立関係

① 給食協会委託配送車による一括配送(常温品のみ)、② 給食内容の改善(ジャム等添加物提供、副食・汁類の増加)

(2) 施設・設備関係

① 最高最低温度計の配備、② 消毒効果を維持しながら消毒液使用量の抑制

(3) 安全管理体制関係

① 調理担当短期臨時職員の増員配置、② 学校栄養職員未配置校への巡回指導、③ 学校保健課に非常勤栄養職員の配置

(三) 平成九年度の改善点

(1) 食材・献立関係

① 休み明け軟弱野菜の当日配送(四月から)、② 献立ブロックの細分化(六から七ブロック 九月から)、③ 米飯給食実施(月一回ないし二回・委託 平成一〇年一月から)

(2) 施設・設備関係

① 食缶、器具消毒保管庫の設置(七月ないし九月)、② 消毒剤噴霧器配置(九月)、③ 二重保温大食缶の改善(九月)

(3) 安全管理体制関係

① 保健給食課に課名変更、及び管理栄養士の増員(衛生管理体制強化)、② 調理担当者の研修充実、③ 「堺市学校給食検討委員会の専門部会」の設置及び審議

(四) 平成一〇年度の改善点

(1) 食材・献立関係

① すべての野菜類の当日配送(四月から)、② 給食内容の改善(再加熱しないパン添加物・ふりかけ及びデザート類の提供(四月から)、米飯給食増(月一回・自校炊飯)、紙パック牛乳に変更(六月から))

(2) 施設・設備関係

一重小食缶から二重保温小食缶に改善(六月)

(3) 安全管理体制関係

① 調理担当者による衛生管理の明確化(日常点検票の改善)、② 調理担当短期臨時職員の増員配置

(五) 堺市教育委員会からの依頼を受けた堺市学校給食懇話会は、平成一〇年八月、「二一世紀を展望するこれからの堺市学校給食のあり方について(中間まとめ)」を発表した。

15  本件以後の国等の対応等

(一) 本件以後、文部省は、学校給食における食中毒を予防し、学校給食の安全な実施に資するため、「学校給食における衛生管理の改善に関する調査研究協力者会議」を設けた。そして、同会議は、当面緊急に対応する措置として衛生管理の点検項目の検討を行い、その結果、「衛生管理チェックリスト」をとりまとめた。

右衛生管理チェックリストには、生食の取扱いとして、「生食する野菜については、原則として、流水で十分洗浄すればよいが、必要に応じて殺菌する場合には、① 五ないし一〇%次亜塩素酸ナトリウムの二五〇ないし五〇〇倍溶液に五分以上浸漬する、② 流水で塩素臭がしなくなるまでよくすすぐ。」などと記載されている。

(二) 平成八年八月一二日、東京医科歯科大学において、食中毒防止に関する都道府県・指定都市教育委員会学校保健・学校給食主管等緊急対策会議が開催された。

そこで配布された「調理の在り方等について」と題する資料には、「二学期以降の学校給食における食中毒防止に万全を期す観点から、二次感染の可能性を考慮し、従来なまで食べていた野菜については、当分の間、完全に熱処理したのち給食することとする。」、「野菜などを加熱調理することにより、ビタミン不足や栄養の過剰摂取などが生じないように配慮することが必要である。そのため、標準食品構成表を踏まえて、従来使用されている食材の種類や量を減らすことのないように食材を組み合わせたり、調理方法の工夫をする。それを通じて、学校給食の平均所要栄養量の基準が充たされ、バランスのとれた給食とする。」、「調理法が偏らないように、揚げる・焼く・煮る・蒸す・茹でる・炒める等の調理方法を組み合わせ、多様な食事内容になるように工夫する。」などと記載されている。

(三) 厚生省生活衛生局長は、平成八年八月一六日付けで衛食第二一九号「学校給食施設における衛生管理について」と題する通達を出し、そのなかで、「O一五七による食中毒を防止するためには、危害分析・重要管理点の概念に基づき、給食の原料購入から配送・保管までの全過程を通じた病原細菌の増殖抑制、汚染防止及び死滅のための衛生管理が必要である」とし、早急に指導すべき事項として、「原材料の納入に際しては学校関係者が必ず立合い、検収簿に基づき、品質、鮮度、品温、異物の混入等につき、点検を行うこと。」、「野菜及び果物を生で供する場合には、十分洗浄し、必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム(生食用野菜にあっては亜塩素酸ナトリウムも使用可)の二〇〇mg/lの溶液に五分間(一〇〇mg/lの溶液の場合は一〇分間)又はこれと同様の効果を有するもの(食品添加物として使用できる有機酸等)で殺菌を行った後、十分な流水ですすぎ洗いを行うこと。ただし、加熱調理を行う場合は、この限りではない。」などとされ、また、原材料・製品等の保存基準で保存温度が決められ、生鮮果実・野菜については、一〇℃前後で保存することとされた。

16  貝割れ大根の種子についての厚生省の発表

平成九年三月に関東地方と東海地方の一都七県で起こったO一五七の集団食中毒について、厚生省は平成一〇年三月三〇日、神奈川県内の生産業者が欧米から輸入した貝割れ大根の種子が汚染原である旨発表したが、これに対し、農林水産省及び米国は、菌が検出されていないとして、右発表に疑問を呈したが、農林水産省は、今後、貝割れ大根の種子の殺菌処理を義務づけることにした。

17  本件以後のO一五七に対する対策等

(一) 本件以後、平成九年(一九九七年)六月に行われたシガ毒素を産出する大腸菌の感染症に関する国際会議において、O一五七の予防対策として、生野菜も警戒すべき感染経路である旨報告された。

(二) 平成九年(一九九七年)五月に開かれたWHOの「病原性大腸菌の予防と抑制に関する協議」において、食品安全の専門家は、生鮮野菜が感染原因となることが多くなっており、生鮮野菜への対策強化の必要性がある旨指摘した。

18  補償

堺市は、平成八年一一月二七日、「堺市学童集団下痢症に係る補償基準」を制定し、本件学童集団下痢症に罹患した者に対し、以下の基準により、補償金又は見舞金を支給することを決定した。

(一) 補償対象者

① 学校給食により本件学童集団下痢症に罹患し、医療機関において治療を受けた者

② ①の者と同一世帯等の相当因果関係のある二次感染者で、医療機関において治療を受けた者

③ ①②以外に、学校給食に起因すると認められるO一五七の無症状菌陽性者

(二) 補償金又は見舞金基準

上記①②の該当者には、入院・通院の別、入院日数もしくは通院日数及びHUS併発の有無に応じて支給額を決定し、補償金として支給する。

③の該当者には、見舞金として、一定額を支給する。

なお、死亡者、後遺障害が生じた者等については、別途検討して補償する。

19  佐代子の死亡

佐代子は、七月一二日、39.1℃の熱を発し、翌一三日には、下痢を発症し、同月一五日からは、血便を認めるようになった。近くの能田胃腸科外科で点滴等の治療を受けていたが、同月一七日には、全身倦怠感が出現・増強するようになったため、同月一八日、検査の結果、HUSと診断され、阪大病院に転院した。

佐代子は、七月一九日に脳内出血を合併し、以後、人工呼吸器による管理下に置かれたが、八月一六日、死亡した。

直接の死亡原因は、敗血症、その原因としてはHUS、その原因としては、病原性大腸菌O一五七感染症と診断されている。

二  争点に対する判断

1  争点1(被告の責任原因の有無)について

(一) 本件学童集団下痢症の原因及び佐代子の死亡原因

(1) 前記認定のとおり、本件学童集団下痢症は、堺市の三分の二の地域において発生し、有症者・入院者の多くが学童や教職員であったこと、水道については、府営水道が府下の他市と同様に市の全域に供給されているにもかかわらず、有症者が学童及び教職員に集中し、また、受水槽の設置の有無にかかわらず、発生校が分布していること、七月初旬に大規模な水道工事が行われていないこと、残留塩素濃度の調査結果に問題が無いことなどから、水道が本件学童集団下痢症の原因であったとは考えがたいこと、一方、有症者、受診者及び入院者の発生状況、発症日が中・南地区、北・東地区、堺・西地区とそれぞれ学校給食が共通の献立となっている地域毎に特徴があることなどからすれば、本件学童集団下痢症の原因は、学校給食に起因するものと考えるのが相当である。

(2) そして、前記認定のとおり、中・南地区においては七月一日から同月八日に校外学習(給食なし)を実施しており、校外学習に参加した学童にも入院者がいること、入院者の全員が出席した日は、中・南地区においては七月九日であり、有症者についても、七月九日の欠席者数が最も少ないこと、北・東地区においては七月八日以外の日に校外学習を実施しており、校外学習に参加した学童も発症し、入院者もいること、入院者の全員が出席した日は、北・東地区においては七月八日であり、有症者についても、七月八日が欠席者が最も少ないこと、などからすれば、中・南地区においては七月九日が原因食を喫食した日であり、北・東地区においては七月八日が原因食を喫食した日であると推認することができる。

そして、喫食調査の健康者と入院者の比較から、中・南地区では、七月八日及び同月九日の牛乳並びに七月九日の冷やしうどんのほか、七月一日の牛乳及びカレーライス並びに七月四日の五目冷めんが疑われること、北・東地区では、七月八日の牛乳及びとり肉とレタスの甘酢和えは入院者全員が喫食していること、健康者と有症者の比較からは、中・南地区での入院者との比較と同様に、七月九日の冷やしうどん及び牛乳が疑われること、北・東地区では入院者との比較からとは異なり七月八日の牛乳及びはるさめスープ並びに七月九日のカレーシチューが疑われること、ただし、いずれの地区についても、牛乳については、殺菌処理がされており、また、複数の施設から納入され、発生校、非発生校の分布と納入元の分布が合致しないこと、などを総合考慮すれば、最も疑われる献立は、中・南地区では七月九日の冷やしうどん、北・東地区では七月八日のとり肉とレタスの甘酢和えであると認めるのが相当である。

(3) そして、前記のとおり、有症者の検便からO一五七が検出されていることからすれば、中・南地区においては、七月九日の学校給食、そのなかでも冷やしうどんがO一五七に汚染されていたということができる。

(4) 前記のとおり、佐代子は南地区の三原台小学校に在学し、七月九日の学校給食を喫食したこと、O一五七感染症は、感染から発症までの潜伏期間は三ないし四日が一般的であること、佐代子は、喫食日の三日後である七月一二日から症状(発熱)が出始めたこと、O一五七感染症は、発症から二ないし一四日病日後に約六%の患者がHUSを併発すること、佐代子は七月一二日に発症後、七月一八日に容態が急変し、七月一九日にHUSによる脳内出血により意識不明となり、八月一六日に死亡したことなどからすれば、佐代子は、O一五七に汚染された七月九日の学校給食を喫食した結果、O一五七感染症に罹患し、さらにHUSに罹患して死亡したものということができる。

(二)  学校給食の特徴と過失の推定

(1)  前記認定のとおり、学校給食は、学校給食法及び学校教育法で定められた目的及び目標を達成するために、学校教育の一環として行われるものであり、当該学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものと規定され、文部省も、学校給食については、全員一律の建前をとっており、堺市においても、アレルギーの児童等を除いては、在学する児童全員に給食を食べることを指導し、また、各小学校を通じて、児童に対し、できるだけすべての給食を食べるように指導していたことなどからすれば、児童としては、昼食として学校給食を喫食する以外に選択の余地は事実上なく(原告らは、これを「強制」と表現する。)、学校から提供された給食を昼食として、その安全性に何らの疑問を抱くことなく喫食していたものということができる。

(2)  右のとおり、学校教育の一環として行われ、児童側にこれを食べない自由が事実上なく、献立についても選択の余地はなく、調理も学校側に全面的に委ねているという学校給食の特徴や、学校給食が直接体内に摂取するものであり、何らかの瑕疵等があれば直ちに生命・身体へ影響を与える可能性があること、また、学校給食を喫食する児童が、抵抗力の弱い若年者であることなどからすれば、学校給食について、児童が何らかの危険の発生を甘受すべきとする余地はなく、学校給食には、極めて高度な安全性が求められているというべきであって、万一、学校給食の安全性の瑕疵によって、食中毒を始めとする事故が起きれば、結果的に、給食提供者の過失が強く推定されるというべきである。

とすれば、前記のとおり、被告が佐代子に提供した七月九日の学校給食は、佐代子に提供された時点においてO一五七に汚染されており、その安全性に瑕疵があり、それを喫食したことによって、佐代子は死亡したいということができるのであるから、学校給食の提供者である被告には、過失が推定されるというべきである。

(三) ところで、前記認定の事実によれば、被告、とりわけ、学校給食に最終的な責任を負っていた堺市教育委員会は、平成八年六月ころからの全国的なO一五七の流行に対し、国や大阪府からの通知通達類を受け、学校給食の衛生管理に関し、平成八年六月六日付け教保大腸菌二三八号、平成八年六月一三日付け教保大腸菌二六五号、平成八年六月二八日付け教保大腸菌三一八号を、堺市教育委員会教育長名で、堺市立各小・養護学校長あてに通知し、その内容を調理担当者へ周知徹底することを依頼したことが認められる。そして、右通知通達類の内容は、学校給食の衛生管理を徹底すること、特に、保存食を七二時間冷蔵庫で保管すること、常に清潔な手指、または器具で食品を取り扱うこと、獣鳥肉類、魚介類、卵を取り扱う時は、加熱を十分にすること、食缶、調理器具等については、熱湯消毒を行うこと、生食する野菜・果物の洗浄については、流水で四回ていねいに水洗いすること、生食するものは喫食時間を踏まえて作業時間・配缶時間を遅らせること、などであり、要するに、これまでの学校給食における衛生管理を徹底することを求めるものであった。

(四) そして、被告は、その当時、国や大阪府などから受領した通知通達類をもとに、相当な対策、すなわち、加熱すべき食材はすべて加熱すること(なお、堺市教育委員会から堺市立各小・養護学校長あての前記三通の通知通達類において、加熱処理について具体的に触れているのは、獣鳥肉類、魚介類、卵についてのみであるから、被告の主張する加熱すべき食材とは、主に、獣鳥肉類、魚介類、卵等をいうものと解される。)、生食野菜は流水で四回ていねいに所定の方法で洗浄すること、生食するものは喫食時間を踏まえて作業時間・配缶時間を遅らせることなどを指示しており、被告のとった措置に注意義務違反はないと主張する。すなわち、本件当時の給食行政に関わる者として要求される知見によっても、原告らが原因食材と主張する貝割れ大根によって不特定多数の小学校においてO一五七による集団食中毒が発生し、児童などへの多数の死傷の結果が発生することを予見することはできなかったのであるから、それを予見して、児童の集団食中毒を防止するために貝割れ大根を含むすべての食材を加熱すべき義務があったということはできないこと、当時、生野菜の消毒液による洗浄は禁止されており、そのなかで、できる限り、水で四回洗うなどという手段をとっていたこと、食材はできる限り新鮮なものを搬入するとともに、当日中に使用しきっており、当時、国、大阪府においても食材について冷蔵庫の設置を義務づけていなかったのであるから、被告においても、貝割れ大根を始めとする生野菜に付着したO一五七の増殖を防ぐために、食材について冷蔵庫を設置してこれを保管する義務はなかったこと、原告らが主張する貝割れ大根が感染原因として指摘されていなかった時点で、すべての食材を加熱調理に切り替えることは、学校給食が日常生活における食事について正しい理解と望ましい習慣を養うことなどの目的のために、一般の食生活の正しい理解を促すためのバランスのとれた望ましい献立とすることが求められていることから、これを加熱調理に切り替える義務があったということができないこと、給食協会としても、業者を指導し、食材についての衛生管理を十分に行っていたこと、などからすれば、被告としても、その当時、加熱すべき食材はすべて加熱すること、生食野菜は流水で四回ていねいに所定の方法で洗浄すること、生食するものは喫食時間を踏まえて作業時間・配缶時間を遅らせることなどの指示していたのであるから、被告に過失はない旨主張する。

(五) そこで、検討するに、

(1) O一五七は、経口でしか感染せず、また、熱に弱く、加熱により容易に死滅する性質であることからすれば、仮に、何らかの食材がO一五七に汚染されていたとしても、献立を加熱調理に切り替え、その加熱調理が適切に行われる限り、学校給食が児童に提供される前に、O一五七が除菌できた蓋然性が極めて高いということができること、

(2) たしかに、被告が主張するように、新聞報道や国や大阪府からの通知通達類によれば、O一五七のそもそもの汚染源が家畜、食肉類である旨の記載が見受けられるが、一方で、二次感染の恐れや水の汚染が指摘されていたのであるから、それを通じて食肉類以外の食品が汚染される可能性が十分に考えられたこと、実際に、平成八年五月ころから全国的に蔓延し始めたO一五七による食中毒についてもその感染源もしくは感染食品はほとんど明らかになっておらず、また、新聞報道においても、「水からの感染例が多い」、「食品や水、食器などで感染する」、「感染経路の手掛かりはつかめていない」、「同菌は水からの感染例が多い」、「O一五七はどんな食物に潜んでいるかよく分かっていない」、「米国やカナダではプールや湖で泳いで感染した例が報告されている」、「原因不明のまま」、「感染原因が特定できない」、「他の食品から移る?」などと報じられたように、どの食品がO一五七によって汚染されているのか分からない状況であり、そして、「欧米では、肉類からの感染例が多いが、日本では報告がない。」と報道されていたのであるから、食肉類さえ注意していればよいというような状況ではなかったこと、まして、岐阜県岐阜市での集団食中毒の原因がおかかサラダである旨報道されており、食肉類以外の食材の汚染の可能性が現実化していたこと、その当時すでに、公衆衛生の専門家の間においては、O一五七にクロス感染を起こす性質があることから、すべての食材が汚染される可能性がある点について、警戒感がもたれており、我が国を含め世界的にも、専門家の間では、ここ一〇年程度は、直接肉にかかわらず、牛糞やそれによって汚染された水などを媒介として野菜等に感染する可能性が認識されるようになってきていたことなどからすれば、食肉類のみを警戒すればよいというような状況ではなかったし、被告の所部職員はそのように認識すべきであったこと、

(3) なるほど、国や大阪府からの通知通達類では、すべての献立を加熱調理に切り替えるようにとの明確な指示はないものの、各種通知通達類のうち、① 厚生省から堺市衛生部への通知通達類によれば、感染防止策として、「汚染された食肉等から他の食品への二次汚染防止、並びに人から人への経口二次汚染防止」と並んで「食品の十分な加熱」と記載され(平成八年六月一二日付け衛食第一五一号)、「本菌を含む家畜あるいは感染者の糞便等により汚染された食品や水(井戸水等)の飲食による経口感染がほとんどですが、この菌は、他の食中毒菌と同様熱に弱く、加熱により死滅します。また、どの消毒剤でも容易に死滅します」、「本菌による汚染が心配されるものについては、十分な加熱を行ってください」(平成八年六月一七日付け衛食第一五五号。なお、当該文書は、平成八年六月二〇日付け環衛第二九二号に添付されて堺市教育委員会に発信されている。)とされており、また、② 大阪府から堺市教育委員会への通知通達類等によれば、感染防止策として、「汚染された食肉等からの他の食品への二次汚染防止」と並んで、「食品の十分な加熱(食品の中心温度を七五℃以上、一分以上)」と記載され(平成八年六月一一日付け教委保第三四六号・平成八年六月五日付け八体学第四〇号)、「食中毒菌の生存要因として、食品の加熱不十分が最も危険性が高い。食品の大量処理に際しては、内部が十分な温度になるまで加熱すること」、「温度管理、加熱」、「加熱すべき食品は十分に加熱すること」(平成八年六月一三日付け教委保第三五七号・平成七年六月一六日付け文体学第一二九号・平成八年六月一二日付け食第二二四号)、「本菌を含む家畜あるいは感染者の糞便等により汚染された食品や水(井戸水等)の飲食による経口感染がほとんどですが、この菌は、他の食中毒菌と同様熱に弱く、加熱により死滅します。また、どの消毒剤でも容易に死滅します」、「本菌による汚染が心配されるものについては、十分な加熱を行ってください」(平成八年六月二〇日付け事務連絡、平成八年六月二六日付け教委保第四二二号・平成八年六月一九日付け国体学第三五号・平成八年六月一七日付け衛食第一五六号)、「献立を加熱調理に変更したか」(平成八年七月二日付け教委保第四四四号)などと記載されており、加熱処理の有効性・必要性を、食肉類等に限定してはおらず、ましてや、食肉類さえ加熱処理すれば安全であるなどというような指示がされていたわけではないこと、また、新聞報道でも、「大腸菌は熱に弱い。食材に菌があったとしても、十分に加熱すれば集団食中毒は防げた」、「加熱処理さえすれば菌はなくなる」、「経口でしか感染しない」、「対策は熱湯消毒が一番」、「一般に大腸菌は熱に弱い。七五度で一分間加熱すると死滅する。食べ物にはよく火を通し、ふきんやまな板は熱湯で消毒するのが効果的」、「手洗い・加熱など有効」、「加熱処理や手洗いの励行で防げる。」、「食べ物に熱を十分加えるなど、ある程度自分で防御できる。」、「経口以外で感染しないため、きちんと熱処理すれば、予防できる」等と報道されるなど、食肉類に限らず、すべての食材に関し、加熱処理の有効性・必要性が繰り返し報道されていたこと、

(4) 七月二日に大阪府教育委員会が、文部省からの依頼を受けて、O一五七対策の実施状況を調査した際に、① 何らかの対策を実施したか、② 給食施設の立入検査を実施したか、③ 保存食の保存期間を延長したか、④ 献立を加熱調理に変更したか、という設問をしているが、これら設問は、当時の有効なO一五七による食中毒対策を具体的に挙げて、右各方策が重要であることを指摘していたものということができ、暗に献立を加熱調理に切り替えることを奨励していたともいえること、

(5) 堺市の中でも、教育委員会が衛生部から受けたのと同様の通達を受けていた児童福祉部などは、保護者への配布文書において、「原因食品は、多種にわたりますが、汚染された食肉から他の食品への二次感染ならびに人から人への経口二次感染によっても感染する。」と記載して、汚染される可能性のある食材を食肉類に限定しておらず、また、食中毒予防の注意事項として、「十分な加熱調理により菌を殺してしまう。」と記載して、食肉類のみならず、すべての食材について注意を喚起するなどしたり、また、衛生部が、七月一日付けの市の広報誌「広報さかい」に掲載した、O一五七に対する食中毒の予防の広報でも、「加熱・冷却=細菌は、煮たり焼いたりして加熱すれば死滅し、冷却すれば繁殖を抑えられるので、調理や保存方法を工夫する。」などと記載されており、加熱調理を食肉類のみに限定していなかったこと、

(6) 新聞報道等によって、O一五七が、通常の食中毒菌とは異なり、極めて少量の菌量で発症しやすいことが明らかにされていたのであるから、通常の食中毒菌の除菌には有効である流水による水洗いによっても、O一五七のすべてを除菌できない可能性があり、その除菌しきれなかった菌量でも、場合によっては、感染の危険性があること、まして、堺市においては、早朝に搬入された食材を検収もしないで常温のまま長時間放置していた実情にあったのであるから、その間にO一五七が増殖して、水洗いのみでは、すべてを除菌できない可能性があること、そのことは、給食行政に関わる所部職員としては、当然考慮すべきことであり、消毒薬の使用が事実上禁止されていたのならば、それ以外の有効な対策(加熱処理等)を考慮すべきであったこと、

(7) 当時、他の多くの市町村は、献立を加熱調理に切り替えており、被告よりも遥かに規模が大きいと考えられる大阪市や京都市ですらも献立を加熱調理に切り替えていたことや、被告においても、本件以後、献立を加熱調理に切り替えたことからすれば、本件当時、被告において、献立を加熱調理に切り替えることについて、特段の支障があったとは認められないこと、

(8) 平成四年六月三〇日付け文体学第一二九号文部省体育局長通知において、生食野菜等の取扱が、消毒剤の使用から流水での水洗いに変更された際に、「高温多湿の時期はなまもの等の献立計画については、十分に配慮すること」と指示されており、文部省も時期によっては、献立から生ものを外すこと、すなわち、加熱調理に切り替えることも念頭においていたと解されること、また、高温多湿の時期に限定して加熱調理に切り替えても、夏休みを考慮すると短期間のことであるから、献立の工夫によって、所要栄養量基準表及び標準食品構成表所定の基準を満たすことは十分可能であるとともに、そもそも、所要栄養量基準表及び標準食品構成表とは、全国的な平均値や標準的な食品構成を示したものであり、適用に当たっては、性別、年齢、個々の健康及び生活活動等の実態並びに地域の実情等に十分配慮し、弾力的に運用することとされていること、右栄養基準等を満たすために、学校給食に対する万全な安全対策を怠ることは、本末転倒であること、

(9) 食材の運搬に保冷車が使われず、また、搬入後の食材が長時間常温で保管されていたという堺市の学校給食の当時の状況からすれば、原材料の食中毒菌による汚染があれば、それが増殖する可能性があったこと、また、配送時間が早朝のため、食材の運送業者及び調理施設への受入れ時における衛生状態の点検等の検収は行われておらず、また、給食協会は登録業者に対して衛生管理のための定期的な自主検査結果の提出も、立入検査も行っていなかったのであるから、それらを踏まえてより厳重な対策をとるべきであったこと、

(10) そもそも、感染源や感染経路が判明しているときにそれに対する対策をとることは当然であって、感染源や感染経路が判明していない場合に、どのような対策をとるかが問題であり、学校給食は、抵抗力の弱い児童を対象として行われるものであり、食品の特徴として、人体に直接摂取するものであり、極めて高度な安全性が求められているのであるから、学校給食の実施に当たっては、最新の医学情報、食中毒事故情報などについての収集を常時行うなど、最大限の注意義務が課せられており、まして、通知通達類や新聞報道によって、平成八年は、例年になく食中毒による死者数が多く、O一五七が全国的に流行し、その感染源が不明であること、O一五七が他の食中毒菌に比べて菌数が極端に少なくても発症させ、小児が罹患しやすく、場合によっては死に至ることがあること、現時点ではHUSについては治療法がないことなどが指摘されていたことからすれば、本件当時、学校給食については、特に厳重な注意が必要であり、幾ら注意してもしすぎるということはなかったといえること、

(11) 仮に個人レベル・家庭レベルにおける予防対策として、食肉類等のみの加熱処理で十分であったとしても、多数の児童の命を預かる学校給食においては、個人レベル・家庭レベル以上の厳重な注意が必要であること(なお、前記認定のCDCの感染防止策は、個人レベルのものであり、また、平成八年六月一七日付け衛食第一五五号添付の別紙「病原性大腸菌の予防対策等について」も国民に対して分かりやすく説明するためのものである。)、

などを総合すれば、被告の主張・立証するところによっても、到底、過失の推定は覆らないというべきであり、他に過失の推定を覆すに足りる証拠はない。

(六)  そして、前記のとおり、O一五七が経口でしか感染せず、熱に弱く、加熱により容易に死滅する性質であり、仮に、何らかの食材がO一五七に汚染されていたとしても、献立を加熱調理に切り替え、その加熱調理が適切に行われる限り、学校給食が児童に提供される前に、O一五七が除菌できた蓋然性が極めて高いということができることからすれば、仮に、本件学童集団下痢症の原因食材の特定、感染ルートの特定ができなかったとしても、右の理は、何ら変わるものではない。

(七)  以上の次第で、被告及び学校給食の実施管理に従事していた被告の所部職員には、不法行為(国家賠償法)における過失があるものといわざるを得ない。

よって、被告は、原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

2  争点2(原告らの損害額)について

(一) 佐代子の損害について

(1) 入院付添費 一六万五〇〇〇円

佐代子が、本件学童集団下痢症によって、平成八年七月一八日から同年八月一六日までの三〇日間阪大病院に入院していたことは、当事者間に争いがなく、右病院が完全看護制度をとっていたとしても、佐代子の傷害の程度、年齢に照らし、付添が必要であると認められる。付添費は一日五五〇〇円が相当であるから、入院期間中の付添費用は次のとおり、一六万五〇〇〇円となる。

なお、原告らは、付添で過労となった原告幹子の点滴費用も請求するが、これについては、右付添費に含めて評価しているというべきであるから、独立の損害としてこれを認めることはできない。

五五〇〇円×三〇日=一六万五〇〇〇円

(2) 通院付添費 二万一〇〇〇円

佐代子が、本件学童集団下痢症によって、七日間通院したことは、当事者間に争いがなく、佐代子の傷害の程度、年齢に照らし、通院に付添が必要であると認められる。通院付添費は一日三〇〇〇円が相当であるから、通院期間中の付添費は、次のとおり、二万一〇〇〇円となる。

三〇〇〇円×七日=二万一〇〇〇円

(3) 入院雑費 三万九〇〇〇円

佐代子が、本件学童集団下痢症によって、三〇日間入院したことは、当事者間に争いがなく、一日一三〇〇円の入院雑費を要することは明らかであるから、入院期間中の雑費は次のとおり、三万九五〇〇〇円となる。

なお、原告らは、おむつ代を治療費として請求するが、おむつ代は、入院雑費に含めて評価しているというべきであるから、独立の損害としてこれを認めることはできない。

一三〇〇円×三〇日=三万九〇〇〇円

(4) 交通費 四万七九八〇円

証拠(甲二四の1ないし10、七一、原告濱本悟本人)及び弁論の全趣旨によれば、入通院の交通費(介護のための原告らの交通費を含む。)として、四万七九八〇円を認めることができる。

(5) 逸失利益三〇九〇万六三七二円

佐代子は、死亡当時、一二歳であり、平成八年の賃金センサス・産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の一八歳ないし一九歳の平均賃金は二一〇万八七〇〇円である。したがって、就労可能な期間を一八歳から六七歳までの四九年間として、新ホフマン方式を用いて中間利息を控除し、生活費控除を三〇%として、死亡時の現価を求めると、佐代子の逸失利益は、次のとおりとなる。

210万8700円×20.938×(1−0.3)=3090万6372円(一円未満切捨て)

なお、原告らは、佐代子及び原告らの希望で、佐代子を大学に進学させたいと考えていたから、女子四年制大学卒業平均賃金を基準に逸失利益の計算を行うべきであると主張するが、逸失利益の計算において、初任給(一八歳ないし一九歳の平均賃金)を基準にすることが特段不合理であるとはいえず、原告らが主張するところは、未だ当裁判所の採用するところではないが、佐代子及び原告らの慰謝料算定の際に考慮することとする。

(6) 葬儀関係費用 一二〇万円

本件における相当な葬儀費用としては、一二〇万円が相当である。

(7) 慰謝料 二四〇〇万円

本来、安全であるべき学校給食を何の疑問を抱かずに喫食した結果、死亡し、一人の少女の人生が奪われたこと、佐代子が抱いていた様々な将来の夢や希望も叶わなくなってしまったこと、HUSに罹患し、苦しみながら死んでいったこと、学校給食における被告の責任の重大さ、その他本件に現れた一切の事情を斟酌すると、本件における、佐代子の慰謝料としては、二四〇〇万円を相当とする。

(8) 右合計 五六三七万九三五二円

(二) 原告らの損害

(1) 相続

原告らは、佐代子の両親として、佐代子の死亡に伴い、各自、右損害賠償請求権の二分の一(二八一八万九六七六円)ずつを相続により承継した。

(2) 原告らの慰謝料

原告らは、一人娘であった佐代子を一二年間にわたって愛情を持って養育し、佐代子をみずからの生き甲斐とし、佐代子の将来について、多くの希望を持って生活していたところ、本来安全であるべき学校給食を喫食した結果、愛する娘を亡くしたその無念さは計り知れないこと、学校給食における被告の責任の重大さ、その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、本件における、原告らの慰謝料は、各自三〇〇万円を相当とする。

(3) 右合計額

各自三一一八万九六七六円

(4) なお、原告らは、それぞれ、共済給付金から一〇五〇万円を受給することができるとして、右金額を控除した上で、本件請求をしているので、右合計額から、それぞれ一〇五〇万円を控除する。

(5) よって、原告らの損害は、それぞれ、二〇六八万九六七六円となる。

(6) 弁護士費用

本件事案の性質、審理経過、認容額などを考慮すれば、本件と相当因果関係を有する損害としての弁護士費用は、原告らにつき、それぞれ、二〇〇万円が相当である。

(6) よって、原告らの損害は、それぞれ二二六八万九六七六円となる。

三  以上の次第で、原告らの請求は、原告ら各自に対し、各金二二六八万九六七六円及びこれに対する平成八年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において理由があるから、右の限度において認容することとし、その余の請求は理由がないので、棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邊雅文 裁判官阿部静枝 裁判官川上宏)

別紙通知通達類一覧<省略>

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