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大阪地方裁判所堺支部 平成3年(ワ)7号 中間判決 1991年10月24日

甲事件・乙事件原告(以下「原告」という)

堺市

右代表者市長

幡谷豪男

右訴訟代理人弁護士

俵正市

重宗次郎

苅野年彦

草野功一

坂口行洋

寺内則雄

小川洋一

甲事件被告

木谷又三郎

乙事件被告

寺岡不二雄

右両名訴訟代理人弁護士

植垣幸雄

久保慶治

原田裕

右植垣幸雄訴訟復代理人弁護士

渡部一郎

主文

一  本件各訴えは、いずれも適法である。

事実及び理由

第一請求

一甲事件被告は原告に対し、堺市<番地略>所在堺市営北鳳住宅第一九六五号(木造構造、面積38.08平方メートル)の住宅を明渡すとともに、平成二年三月一日から右明渡し済みに至るまで月額四万三四〇〇円の割合による金員を支払え。

二乙事件被告は原告に対し、堺市<番地略>所在堺市営北鳳住宅第二〇〇四号(木造構造、面積28.15平方メートル)の住宅を明渡すとともに、平成二年五月一日から右明渡し済みに至るまで月額四万一四〇〇円の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、公営住宅法に基づく公営住宅の入居者である被告両名に対し、いずれも同法施行令六条の三第一項規定の収入基準を超える高額収入になっているとして、同法二一条の三の各規定、堺市営住宅管理条例一一条の三第二項の規定に基づき(甲事件被告についてはさらに、他に土地建物を家族と共有して右住宅を長期にわたり放置したことが同法二二条一項四号の規定及び同条例一七条一項三号の規定に違反するとして同法二二条一項、同条例一七条二項の規定に基づき)、各市営住宅の明渡し及び明渡し済みまでの使用損害金の支払を求めた事案である。

一本件各訴え提起についての議会の議決

原告が、甲事件の訴えを提起するにつき平成二年九月二七日堺市議会の議決(同意)を得たことは<書証番号略>により、乙事件の訴えを提起するにつき平成二年一二月二五日堺市議会の議決(同意)を得たことは<書証番号略>により、それぞれ認めることができる。

二被告らの本案前の抗弁

原告は被告らが本件市営住宅に入居するに際して被告らに対し払下げを約束し、その後もその約束を確認し、かつ払下げを前提に行政を進めてきたのであるから、原告が本件住宅明渡しの訴えを提起しようとするのであれば、従前の同住宅払下げ約束の不履行の経緯を説明したうえで市議会の承認議決を得るべきであるのにもかかわらず、本件においてはこれを十分に説明することなく形式的に議決を得たにすぎないから、本件各訴えは、地方自治法九六条一二号の規定による議会の議決を得たとはいえず、不適法である。

三原告の答弁

地方自治法九六条一二号が訴え提起等につき議会の議決を必要としたのは議会が住民の代表により構成されているところから、公共団体の事務処理については、できるかぎり議会の意思に基づいて適正に行われるようにとの期待からであるといわれるところ、これを本件に則して言い換えると、訴えの目的(請求の趣旨)や理由(請求の原因)が明確にされたうえ、訴えの必要性(手段的相当性)があるか否かにつき議会が審議し、その意思を決定することができれば、右期待に沿うものであるといえる。

本件では議会において、①被告らが高額所得者であること、②これを理由として再三再四本件住宅明渡しを求めていること、③今後の住宅の適正な管理を確保するためと他の入居者に対する悪影響防止のため必要であることを説明したうえで議会の議決を得ているのであり、地方自治法九六条の規定の要請に必要にして十分応えているから、同条の議決を得たというに十分である。

被告ら主張の住宅払下げの経緯についての事情説明の点は、本件各訴え提起の議決を得るための法的手続上は必要のないものであり、仮に何らかの問題になるとしても、それは本案の問題である。

四本案前の争点

本件各訴えは、地方自治法九六条一二号にいう議決を得たものといえるか

第三争点に対する判断

一地方公共団体が訴えの提起をなすにつき必要な議会の議決を得たかどうかについては、議会の決議が一般に議会の内部規律の問題として議会の自治的措置に任されていることに鑑み、形式的に有効な議決がなされていることをもって足りるというべきである。したがって、当該訴えの被告といえどもその議決の有効性を争い、ひいて訴えの適法性を論難することはできないとするのが相当である。本件においては議会で、その議決の有効性が争われた形跡はなく、手続き上の瑕疵が存しないことは被告らにおいて認めているところであるから、裁判所としてはその議決を有効とみるしかない。

二仮に一歩譲って、裁判所において議決の有効性を論じる余地があるとしても、地方自治法九六条一二号が訴え提起等につき議会の議決を必要とした趣旨はおおむね原告答弁のとおりであるところ(従来は財政負担の観点から説明されることが多かったが、現在ではむしろ、広く地方公共団体が当事者となる争訟その他に関し、その結果が地方公共団体の利害及び権利義務関係について重大な影響を及ぼしかねないため、議会の議決を要することとしたものと解されている。)、右の趣旨からすれば、本件につき議会において原告答弁中の①②③の事情について説明されたこと<書証番号略>で同法条の議決を得る前提として必要かつ十分であり、払下げ約束不履行の事情が説明されなかったことは何ら議会の議決の有効性を左右するものではない。

三以上のとおりであって、被告らの主張は採用できず、本件訴えは適法である。

第四結語

本件において当事者双方の抗争態度をみると、本件各訴えが適法かどうかについて終局判決の理由中で判断するよりも、現段階で中間判決によりその判断を明らかにする方が訴訟の進行上相当であると認め、民事訴訟法一八四条により主文のとおり中間判決する。

(裁判官森野俊彦)

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